●とある地方都市、ロータリーのある駅前 24時間営業を掲げるファストフードチェーン店は便利だと、安い割に味の整ったコーヒーを含みながら思う。そろそろ街が目覚めようとしているのか、2階席から見下ろした駅前はたまにタクシーが流れていく程度には交通がうまれていた。 夜中から徘徊を続けて、朝日が昇る前にこの街へ辿り着いた。我ながら無茶な距離を歩いたものだと苦笑が漏れる。そろそろ底が見えそうなコーヒーをちびちびすすれば、時節柄まだ冷える夜間を歩き通した身にはその暖かさがありがたい。どうせならケチらずもうワンサイズ上のものを頼めばよかったと僅かな後悔。 コトンと紙コップを机に置く。 ちらりと時計を見れば、そろそろ始発電車が来ようかという時刻。 「……さて、今日はどうしようかな」 頬杖を突いて、だだっ広いロータリーを眺める。 コーヒー程度では満たされない空腹が酷く腹を苛んでくる。 ああ、そうだ。 ……せっかくのお披露目なんだ、やはりドラマチックにね。 まだ見ぬターゲットに思いを馳せて、私は残ったコーヒーを一気に飲み下した。 ●払暁の殺人者 フィクサードによる大量殺人事件の発生。 集められたリベリスタたちは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げた端的な情報に戦いた。予測される被害は、始発電車を利用しようと駅構内にいた乗客、および駅員、売店員などを含めおよそ30名。それを切っ掛けにして発生する電車の遅延、事故による二次被害はさらに多数。 「『万華鏡』の予知が見通した被害は非常に甚大。これをただ1人のフィクサードが引き起こす」 オッドアイがリベリスタを見回し、言葉を続ける。 「フィクサードの名は『殺戮遊戯』朝比奈・流(あさひな・ながれ)よ。実名ではないと思うけど、少なくともそう名乗っている」 イヴの操作でディスプレイに映像が映る。表示されるのは、まだティーンエイジャーと思われる外見の女。僅かに覗いた鋼の色で種族は見て知れた。片手には革製の旅行鞄。腰にはガンベルト。利便性が高そうなポケットの多いコート。 「得物は銃。接近戦では銃の柄による打撃や取り回しの良いナイフでの攻撃も行う」 得物となる自動拳銃とやや大振りなナイフの画像が表示される。 「特に注意すべき点として、彼女の持つ破界器の存在がある」 画像の表示が切り替わる。映るのは怜悧な白銀と装飾としての蒼を帯びたリボルバー拳銃。仮名称「ビーストシューター」という表示が遅れて加わった。 「『万華鏡』による予測能力は強力なホーミング能力、および『弾丸それそのものが射出後急速にエリューション化し、E・ゴーレムと化す』ことの2点。おそらくホーミング能力はエリューション化の副産物」 画面が二分されて、エリューション化した弾丸……意志を持ち被害者の喉笛を狙う、ハイエナのような姿の金属生命体が表示される。 「さらに、この破界器の持ち主は強い飢餓に苛まれることになる。その飢餓の対象は人間の屍肉。何を食べても何を飲んでも、一度でもこの銃を使用した者は屍肉を食べなければ癒されることのない、まるで飢えた獣のような飢餓に苛まれる。飢餓が進行すれば最終的に正気を失うとの予知もある」 おそらく今回、多数の殺戮を行うのは、それが楽しいだけでなく食料を得るための理由でもある、と付け加えた。 「相手についての情報は以上」 「……相手の脅威は理解した。なら、今回の目的はなんだ?」 一度締めくくったイヴにリベリスタが問う。 「仮名『ビーストシューター』の破壊、及び殺戮の未然阻止。フィクサードについては可能なら撃破が望ましいが、殺戮阻止と並列した場合、逃亡を許す可能性が高い」 「それは何故?」 「接触には、駅前ロータリーで待ち受けるか、あるいは駅構内へと侵入したフィクサードの後を追うかの2通りがある。前者であれば殺戮の阻止は容易、ただ戦場的に逃しやすい。後者であれば数名の犠牲は覚悟すべき、ただ追い詰めるのは難しくない。どちらにせよ任務失敗条件を満たす可能性はある」 それが万華鏡の示した未来なのだろう。リベリスタの顔が苦く歪む。 「どちらにせよ『ビーストシューター』は被害を振りまく呪われたアイテム。これの破壊を主眼として欲しい」 もちろん、人死にが出ないに越したことはないけれど、と僅かに表情を変化させながら、イヴは締めくくった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月18日(木)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●飢えとの対峙 集められた8人のリベリスタは、事前の打ち合わせ通りロータリー口と、その反対に位置する出入り口の双方向から4人ずつの小グループに分かれて駅構内へと侵入した。事前準備はフィクサード朝比奈・流が構内に侵入するのに合わせて既に完了済み。身体能力の強化を終えたリベリスタたちが、次々とその歩みを駅構内へと向けていく。 流が駅構内に侵入してから数十秒、後を追うようにロータリー口の階段を駆け上る『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の目にはそろそろ階段を上り終えようとするフィクサードの姿が映った。片手には革のトランクケースを振り回し、片手には白銀のリボルバーを持った流は、食餌にありつけるという興奮からかまるで警戒心を感じさせない。 気分上々とスキップでもしかねない流を見ながら、今なら一般人避難も行えるのではないかと『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)は先を行く葬識と、横に並んだ『無銘』阿久津 甚内(BNE003567)に目配せ。今にもぽろんと零れそうな胸を揺らしながら階段を駆け上がってくるキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)にもちらりと目線を投げて、壱也は心中を吐露するように言葉を投げる。 「阿久津さん、熾喜多さん……よろしくね。奪っちゃだめだよ。助けるんだよ」 「はーいよ♪ 壱也ちゃんが助けたいって言うなら、手伝っちゃうよ俺様ちゃん」 「ウチ等のアイドルが言うならやらせてもらうよぉ★」 3人の声に流がくるりと振り返り「なんだ、まだ生きてる肉か。でも美味そうだな」と呟いて階段を上り終えた。 「キミらが誰だか知らないけどぉ――ははっ、そこいらのパンピー食べるよりゃあ骨があって美味そうだなぁ!」 流が数歩、後ろに歩む。階段を上るリベリスタたちの目からその下半身が隠れ、同時にゴトリと重い音。一瞬遅れてカツンカツンと鍵の外れる音が響いて、瞬きひとつもする間に流の左右に白銀の獣が顕現していた。 「わたしもだけどコイツらも腹減ってるんだ、相手してもらうよ!」 「はっ、自己顕示に殺人チョイスしちゃうってーのは、ダサダサよー?」 階段をいくつか飛ばすようにして駆け上った甚内が流と交錯するようにしながら自身の能力を発揮。左義腕に仕込まれた端末が展開し、まるで目に見えぬ妖精がその手を振るったように駅構内の電子機器を次々とシャットダウン。コンビニの自動ドアや自動販売機の類が一斉に動作を停止した。 「美味そうとはこりゃどうも、やっぱり一瞬で死んじゃう相手よりしぶとく生きてる敵と戦う方が面白いって思うの? 都会のガンマンカッコイイね☆」 甚内の横に並んだ葬識が挑発しつつ己の身体を闇に包む。スタンドポジションはさりげなく流の退路を塞ぐ方向で、殺人鬼としての技巧が確かに垣間見える。 ほぼ同時に辿り着いた壱也は周囲に一般人の影が無いことを確認、後に続くキンバレイに、停止した自動ドアを塞ぐように手で合図する。 「キンバレイ、お金稼がなきゃなのです! お家のおとーさんのためにも、お金稼いで帰らないとなのです!」 小さな声で、どちらかというと自分に言い聞かせるように呟きながら、キンバレイはリベリスタならではの膂力でそこいらのベンチや看板を寄せ集め、コンビニの自動ドア前に簡易バリケードを設置。内部、カウンターに居た店員はようやく駅構内で開始された戦闘に気付いたのか、頭を抱えながらカウンターの下に隠れた。 「おまえら、わたしを相手に余裕だなぁ……ああ?」 す、と腕を伸ばして流が銃を構える。先ほどまでトランクを持っていた手は懐に伸びて得物を探り、両脇に控えた銀の獣は今まさにその牙を剥こうと身構えた。が。 「余裕の答えはキミの背後☆」 「は?」 甚内の言葉に流が疑問詞を発するのと同時。 「さて、開演のベルだ」 火災報知器が鳴り響き、織り編まれた気糸が流の背後を狙った。 ●屍食鬼を囲む陣 流の目の前に布陣するのはキンバレイ、壱也、甚内、葬識の4名。階段と構内の境目で、全員の立ち位置が絶妙にロータリーへの逃走を防ぐ位置だ。 そして今まさに火災報知器を鳴らした『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)をはじめとした残り4名のリベリスタが、逆側の入り口から侵入し、流を挟み撃った。 動きを縛る気糸を放出したのは『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)だ。流の持つアーティファクト「ビーストシューター」を奪うべく、彼女が銃を持つ右手を重点的に縛り付けようとする。 「あァ!? 挟み撃ちとはやってくれるじゃぁないか!」 縛られかけた右腕を強引にふりほどきつつ、流が半身になる。手にはいつの間にか自動拳銃。両側、8名のリベリスタたちに狙いを付ける動作。 「任務を開始する」 狙い定めてくる銃口に臆することなく、防御のオーラを纏い突撃するのは『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)。グローブで己の急所を庇いつつ、繰り出される斬撃は破邪の一撃。 「はン、甘いねぇ!」 繰り出された斬撃を器用に自動拳銃の銃身でいなし、それに返すように白銀のリボルバーがウラジミールの眼前に差し出される。 「お返しだ、持って行きなァっ! 後ろの奴らもだっ!」 鳴り響く銃声は合わせて9。一際重いリボルバーの弾丸は射出直後に白銀の獣と化しそのままウラジミールの腕へとかぶりつき、自動拳銃から放たれた弾丸は流の踊るようなステップとともにリベリスタへ一発ずつ送り出された。 「穿たれて屍肉になりなぁ! 心配すんな、死んだら全部食べてやっからよぉ」 げらげらと笑う流。自動拳銃の弾を撃ちきったのか、器用にマガジンを地面に落とすと流れるような動作でベルトにつられたマガジンを装填。扱い慣れているのか、その動作を片手でこなして大した隙を見せることもない。 「良い趣味ね、殺したいくらいに」 路傍の石を眺めるような目付きでじっと流を見詰める『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)。ちらりと目線を駅員の居る改札にやると、彼女は一瞬で駅員の精神を把握。すぐさま逃げるよう催眠暗示を掛けた後、また流へと向き直る。見透かすような目線は何を見たのか。 「ああ、訂正するわ。無様ね。食べてるんじゃなくて、食べさせられているのねぇ、貴女」 嘲笑しながらゆるりと動けば、まるで其処が本来の居場所であるかのように真名の身体が流の逃走を防ぐ位置に動く。彼女の力で催眠下にある駅員が、周囲の状況に恐慌状態を起こすこともなくふらふらと駅の外へと逃げ出していくが、真名の身体が巧みに流の射線を遮っている。 「食べさせられてる? 何のことだか。それより、アンタがジャマで餌が1人逃げちまったじゃないかぁぁぁぁ!」 地団駄を踏む流。それに応えるように3体に増えた白銀の獣が一斉に吠え声を上げる。 「煩い犬には……黙って貰うっ!」 吠え声に呼応する鷲祐。機を狙い、いつでも全速で動けるよう全身を撓めて待機していた彼の高速の一撃が瞬時に獣の一匹を斬首しにかかる。が、速度による上乗せが為されたまさに一撃必殺の攻撃でも、硬質な金属を主体とした獣を即殺することができない。 「あはは、こいつらはめっちゃ硬いんだ! 数を減らしたければもっとマシな攻撃を持ってくるんだねぇ!」 傷つきながらもリベリスタの喉笛を噛みちぎらんと跳躍する獣たち。狙われるは最前線に出たウラジミールと鷲祐。残る一匹はロータリー側へと駆け、リベリスタと流の間で壁と成るように四肢を据えて唸る。 がちんっ、と只の獣より硬質な牙鳴りと共に獰猛な噛み付きが2人の肉を噛みちぎり、咀嚼する。牙によって刮ぎ取られた部分から、ぱたた、と血が漏れ出す。 「飼い犬のかみ癖くらいしっかり躾けて……お腹が空いたなら、大人しくファストフードでも食べてなさいよっ!」 壱也は刃を勢いよく振るって、速度によって生み出された鎌鼬を流の右腕にさし向ける。流は鬱陶しいとでもいうように右腕で身体を庇い、甘んじて直撃を受けた。コートが破られ、生身の腕が露出し傷から一筋の流血。 「かみ癖? エサに噛み付いて何が悪いのさ」 流は笑いながら返答。朱い舌が傷跡から流れる血をぺろりと舐め取った。 「はっ、君はねぇ、身の丈にあわねー不相応な物持って-、奪らなくて良い命を奪ってるー」 壱也に続いて矛を突き出しながら前に出るのは甚内。銀の猟犬に見向きもせず、彼は突撃し矛を流に突き立てる。 「ウチ等のアイドルは、そー言ってんのよー? 学が無くても解るでしょ-? わんちゃーん★」 「弱い奴らを喰らうのが悪いとでも? だとしたらお前等はトンだ楽天家だなぁ! 弱者を喰らい強者が腹を満たす! そこの何処に問題がある?」 腹部に矛を受け、流れ出た血を吸い取られながら流が言う。こぼれ落ちた血が誰の物でも構わないのかじゅるりと唾液をすすりながら返す言葉は既に狂気を宿していた。 「強者? 今狩られる方なのはそっちでしょー? 狩る方から狩られる方になるのってどういう気持ち? 可愛いわんわん引き連れてトップブリーダーって感じでさぁ」 後方から言葉を投げ、それとともに闇を投げる葬識。銀の猟犬と流がまとめて闇に呑まれ、瘴気でその身を蝕んでいく。 葬識や甚内に庇われるようにしながら、キンバレイは全力を持って天使の歌を歌い上げる。メロディに含まれた癒しのエネルギーが、穿たれた銃創を、あるいは食いちぎられた傷跡を確かに癒していく。 真名の暗示やリベリスタたちの陣形は巧みに一般人への被害を無くし、少なくとも何名かの一般人を既に避難させている。猟犬を従えてもなかなか目の前にある新鮮な肉へと手が届かない苛立ちに、流は鼻息荒く銃を構え直す。 「あー、もう、腹減ったって言ってるだろぉ! とっとと飯になれよお前等ぁ!」 叫び声と共に、戦局はまた移り変わる。 ●その銃を砕け 流が鼻息荒く自動拳銃を振り回すと、またしても8連の銃撃がリベリスタを襲う。とはいえ全リベリスタへの射線が開けているわけでもなく、連射された弾丸のうち、1発は当てもなく駅のアスファルトを削った。 銃撃から逃れたのは後方から回復支援をするキンバレイ。残るリベリスタたちへは容赦なく弾丸が襲いかかり、なんとか回避行動を取れたのは葬識のみ。他の者は肩へ、腕へ、あるいは致命傷と成りかねない首筋へと弾丸が食らいついていく。 「ぁー、いまので倒れないのか、ならもう一匹追加だなぁ!」 自慢の速射で倒れぬリベリスタに機嫌を悪くしたのか、再度リボルバー拳銃を構える流。だが、彼女の指が引き金を引くよりも一瞬早く、その連撃を妨害するようにレイチェルの気糸が伸び、腕を拘束した。 「……これ以上は、何もさせません」 「なにをォ?」 レイチェルの肩口には銃創。漏れる血液の量から、弾丸の抜けきっていない盲管銃創であることが知れて、その状態で気糸による拘束を行うのはさすがといったところか。気糸を振りほどこうと流が身体をよじるが、脂汗を流しながらもレイチェルは気糸を緩めない。 「さっきみたいにふりほどけるとは――思わないでくださいっ!」 「そう、それ以上はやらせはせんよ」 銃撃をグローブでなんとか食い止めたウラジミールが、好機を得てそのまま流へと突進。絡め取られた右腕へと鋭い斬撃を放つ。 「なんだジジィ! くっ、放せ、よぉ!」 ぐいぐいと気糸ごとレイチェルを引きずろうと右腕を振り回し、なんとかウラジミールの斬撃を回避しようとする流。だが、回避させることこそがウラジミールの、引いてはリベリスタたちの一種の策略。 「本命は――そちらだ!」 気糸による拘束。無秩序な振り回し。そして、ウラジミールの斬撃。吸い込まれるように流の手先、リボルバーの銃身を狙い捌いたのは普段の鍛錬が為せる技。 ガキィン、と甲高く、しかし重い音を立てて、流の手から白銀のリボルバーが弾き飛ばされた。 宙を舞い、落下軌道に入るリボルバーを見やり、流が叫ぶ。 「チィッ――猟犬、回収しろぉっ!」 「そうは、させるかっ!」 猟犬とかち合うように跳躍し、鷲祐自慢の蹴りが猟犬より一瞬早くリボルバーへと届く。 「一度アンタの前で言ってみたかったんだ――任務を遂行するっ!」 リボルバーを仲間のほうへと蹴り飛ばしながらしてやったりの笑み。振り抜いたナイフを油断なく構え直しながら、ウラジミールも意を得たりと頷き返した。 「ナイスパース☆」 鷲祐が蹴り飛ばしたリボルバーを葬識がダイビングキャッチ。そのまま後方、ひとまず流の射線から逃れているキンバレイへと投げ渡す。 「あー、くそっ! せっかくのアーティファクトなのにっ! 貴様らぁー!」 「負け犬は良く吼えるものですわね」 ゆらり。まさに幽鬼の如く動いた真名の一撃が、言葉と共に流を張り飛ばす。ゆるやかな、決して速くないその一撃はまるでそうあることが当然であるように流の急所を抉った。 「けふっ!?」 「で-? どーする気なのー? そんなんでー」 身体を折るように息を吐き張り飛ばされた流の身体に、再度矛を突き立てる甚内。 「悪いけど逃がす気は更々ないのよねーん、このままお縄頂戴するよー」 「はん、腹空かしたまま捕まって堪るかよぉ……! 猟犬ゥゥゥ!」 矛を突き立てられ気糸で縛られ、なおかつアーティファクトを失ってもなおその気勢は削がれないのか。叫び声で猟犬を呼べば、猟犬たちがレイチェルへと殺到した。 「レイチェルさん!?」 目前を駆けていく1匹の猟犬をなんとか足止めしつつ壱也が叫ぶ。振りかぶった一撃は確かに、強かに猟犬を叩いたが大したダメージは与えられず、それでも何とか注意を引きつけて。 それでもレイチェルに駆ける猟犬の数は2。片方は鷲祐の一撃で首が落ちかけているが、それでもまだ動いている。 がちん、がちんっ! と硬質な牙鳴りが二度。キンバレイの癒しも間一髪届かず、レイチェルの両腕に噛み付いた猟犬が、そのまま肉をむしるように咬合。 「――がっ!?」 腕を引きちぎらんばかりのその噛み付きにレイチェルの意識が遠のく。 「……はっ、まずは1人だ、この調子で喰らい尽くさせて貰うぜっ! さぁ、わたしの飢えを満たせ!」 だが、皮肉にも流の声がレイチェルこ此岸へと引き戻す。まだ世界に徒なす者を倒せては居ないという運命の囁きがレイチェルの両足に力を呼び戻した。 「ちっ、奇跡の復活ってか――分が悪いねぇっ! ほんっとーに!」 流が舌打ちを1つ。自身の分の悪さを自覚してか、その目に明かな焦りが映った。 ●狩猟終演 アーティファクトを確保した時点で、リベリスタの目標は半ば達せられている。ならば後は努力目標だ、と鷲祐は今まで機をうかがっていた己の速度を万全なものとして、一瞬で先手を取った。 「――神速っ、斬っ、断ッ!」 猟犬には目もくれず、狙うはフィクサード、朝比奈・流の首。事前に命までは、という壱也の願いを聞いてはいても、今鷲祐は流の命を奪うつもりで脚を振りかぶった。 質量は速度により増す。音速に迫り、むしろその壁を越えようかという勢いで放たれた蹴りが、流の身体を勢いよく吹き飛ばした。 両腕をクロスさせるように防御した流の身体が、そのまま宙を舞い、コンクリートの床へと叩きつけられようとし、執念が為せる技か、なんとか受け身を取ったその身体が改札口へと転がる。 「ちっ、猟犬も産めず、しかも致命傷でも倒れない? なんとまぁ正義のヒーローなこった! ここは退かせて貰うよ――っ!?」 立ち上がった流は捨て台詞とともに牽制の速射。近寄ろうとした他のリベリスタに二の足を踏ませる。だが、弾丸をもろともせず前に出る者も1人。 「――あの銃が無くても、人を喰うのかね?」 「なぁに言ってるんだよ、ジジィ! 人を殺してなおかつ喰える! なんともまぁお誂え向きじゃないか、殺人愉しんでメシになるんだからさぁ!」 「なるほど、容赦の必要がないと言うことだな」 「ぬかせっ!」 空いた片手にナイフを抜きつつ、流がウラジミールに応えた。ウラジミールの歩みは止まらない。 「――それに、そう簡単に逃げ切れるとは思わないことだっ!」 すっ、とウラジミールの腰が落ちる。直後、強烈なタックルが流の視界外から、彼女の意識を刈りとっていた。 早朝、駅のロータリーには救急車が数台。 命令を発していた流が気絶したからか、猟犬は動作を停止。アーティファクトの破壊と猟犬の破壊を手早く済ましたリベリスタたちが、今回は負傷者も多いため呼んだのだ。そんな大げさな、と思いながらも担架に乗せられ、救急車に乗せられるレイチェル。両腕が千切れかけている程の手傷は治療にしばらくを要するかも知れない。 「後仕事何回したら、おとーさんSSR、だっけ? 引けるのかな?」 救護係に混じってキンバレイは仲間を癒し、そうしながらも呟くのは家の父親のこと。仲間が心配そうにキンバレイを見るが、その視線の意味はまだ、彼女には解らない。 救急車の中にはアーク謹製の護送車も一台。気絶した流が拘束衣に包まれて運び込まれ、そして静かにアーク本部、三高平へと車が動き出した。 「任務完了だ」 「ええ、何とか命を奪わずに済みました」 ウラジミールが頷き、それに同意するように壱也も言葉を返す。 ――屍食の殺人者は死せず、しかし只1人の死者も出さず、早朝の闘いは終わりを告げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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