●山菜、桜、そして 「今日もいい天気だべー」 一人の老人が、ゆっくりと山道を登る。山主の好意で、小さな笊一つぐらいならばただで誰でも山菜を取ることが可能なその山は、今の時期の村人たちの楽しみである。 「桜も綺麗に咲いたべな……ん、おぉ、ふきのとうが顔だしとる」 ゆっくりと景色を楽しみ、山菜を採り。切り株でゆっくりと休んでから、そろそろいいかと顔をあげれば、がさっと音が聞こえた。 この山には鹿とかも居る……それだろうか、と思えば顔を出したのは犬だった。 「……ん?」 野良犬が居るなんて聞いていないし、はてさて、誰か捨てたのか、と思った所……それらはがさがさと音をたて数匹現れた。 「……、……?!」 異様にぎらぎらした瞳、そして狼のようにでかい犬。なんだ、これは?! と思う間もなく……喉元を食い破られ、絶命したのだった。 ●退治したその後は! 「山菜採りに行きませんか? ちなみに今ならば山桜も咲いててお得ですよ!」 少女がそう言って、ほらほら、ここの村~と地図を指さした。だがしかし、勿論それだけではない。 「問題は、この山に犬のE・ビーストが出るんです。数は総勢15匹。1匹リーダー格の狼ぐらいの大きさの犬がフェーズ2、それ以外はもう少し小さくてフェーズ1です。連携とか小難しいのは取らないですけど、怪我してる人を優先で狙ったり、一人に集中攻撃かけてきたりぐらいはします」 一体どこにでるんだ? と集まったリベリスタが聞けば、それはですねと声をあげた。 「ここの……木を倒してできた日辺りの場所に現れます、ただですね……切り株が大量にありまして、足場はいいとは言えないんです」 地図を示し、ここですよ~と伝える。ただ、と明るい声をだした。 「犬たちは、集団で行動してて好戦的です、最後の一匹になっても逃げずに襲いかかってきます。なので現れさえすれば逃走の恐れはありません!」 そこの所は安心していいだろうと力強く頷く。 「で、倒し終えたらせっかくですからお花見しつつ山菜採りは如何でしょう? この笊一つ分ならお持ち帰り可能です! 来年も、楽しむために、根こそぎ採るのはやめてくださいね? せっかくの山主のご好意なんですから!」 笊とこれは私から……と写真付きの山菜の本を渡し、節度を持って、山菜狩りも楽しみましょう、と言葉を紡いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:如月修羅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月26日(金)22:54 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●桜咲く咲く 山桜がとても綺麗だった。ぽつぽつと咲く桜が、ひらりひらりとその花弁を舞い散らせる。 山のあちこちにあるそれは、自然と笑みを浮かべたくなるぐらいとても綺麗だった。 そんな中……桜ではなくカレーに思いを馳せる人が一人。『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)だ。 (桜といてば春、春と言えば私。山菜が採れるお山らしいですし、カレーに入れると美味しいかも……山菜カレー) じゅるりと音が聞こえそうだ。さりげなく持った調理道具がかちゃかちゃとなる。勿論、まずはE・ビーストを倒してからである。 音を極力立てないように道を歩くすがら、小声で話すのはE・ビーストについて。 「なぜこんな所にE・ビーストが生まれたのか……。捨てられた犬か、それとも縄張りを持つ犬だったのか? ……まぁ私には関係ありませんね。特に恨みはないですが……山菜を採るためには覚悟をしてもらうまでです……」 『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)呟く。山菜にも心が少し行っているのはしょうがないだろう。背負ったチェロのケースが影を作った。『旋律の魔女』宮代・紅葉(BNE002726)も声を上げる。 「本当、何でこんな山奥でこんなにE・ビーストが出てきたんでしょうか……? まあ、良いです。やる事は一緒……春の味覚を楽しみにしている村人さん達の為にも、ここで倒れてもらいますよ」 凛とした声をあげて、その黒い瞳がきっと前を見据えた。その隣で、銀の髪を揺らし歩く『ガンスリングフュリエ』ミストラル・リム・セルフィーナ(BNE004328)。 「ふむ……こやつ等も何か氏らの原因で化け物になってしまったのかのう。保健所のケルベロスみたいな裏話があったら手出ししにくくなるのじゃが……。何の罪のない花見を楽しむ人間を襲うと分かっておるからやるしかないのじゃがな」 ミストラルがドヤ顔で言っていますが、ちょっと心の声をここで聞いてみましょう。 (仕事したくないのぅ……血なまぐさいのはいやだなぁ……) まぁその気持ち分かります。その隣では、『白銀の防壁』リリウム ヘリックス(BNE004137)が決意を秘めた瞳で先を見ていた。 (私は未だ未熟……。まずはできることをやるのみ。皆様の足を引っ張らないようにしましょう) それに、と小さく呟いた。 「山菜採りも楽しみですし」 首を傾げていた『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)が小さく唸る。山菜、という単語がどうしても気になる。 「山菜につられてきた……ってわけじゃないよね?」 はてさてどうなのだろうか? そんな考えはなかったと皆がちょっと悩んでしまった。 「ともかく、もう一つの目的のためにも油断せずしっかりと戦わないとだね!」 そんな皆を先導するのは二人だ。植物と意志疎通しながら『エクスィスの魔』シャルティア・メディスクス(BNE004378)と『自爆娘』シィン・アーパーウィル(BNE004479)がE・ビーストの場所を探そうと動く。 「不意打ちにも、けいかいしないとですね」 シャルティアが青いウェーブの髪を揺らし、きっと前を見据える。不意打ちを食らったら今この状況では大変なことになる。常に警戒は怠らない。 「気を引き締めて行かないとですよ!」 ぐっと拳を握ったのはシィンだ。ピンクのあほ毛がぴんと揺れた。 カンや超直観などを使うが、あまりにもあやふやでやはり分かりにくい。こうなったら一度、言われた通りの場所に行ったほうがいいのかもしれない。 木のカブが大量にあるエリアはすぐに見つかった。これならばまず最初に、結界を張り、強化もできるだろう。 皆で頷きあい、ささっと状況を整える。 開いている所さえでれば、あとは敵がやってくるのを待つだけだ。 「不意打ちは、だいじょうぶそうですね……」 開けた場所である。逃げも隠れも出来はしない。逆を言えば、自分たちも同じ立場なのだが。 だがしかし……ここに集まった8人のリベリスタ達が負けるとは到底思えない。 「さ、行こう!」 ●出会ったのは…… はらはらと桜が舞う中、足場が悪い所を皆注意しながら歩く。一固まりだ。皆左右を見て周りを警戒する。 飛んだり、優れた平衡感覚でものすごいバランス勘で歩いていく。そういうのがない人達は、足元を見たりして、危なっかしいが歩くことが出来た。足場の対処もしていたためそこまで不利に進むこともないだろう。 やがて、がさりと音が聞こえた。一匹の犬が顔を出す。皆が武器を構えた。 「来ましたね……!」 それに合わせるように14匹が出てくる。お互い見つめあうこと数秒。力量を測るかのようにその場を微動だにしない。 最初に本格的に動いたのは紅葉だった。歌声が響き渡る! 「さあ、わたくしの歌を聞きなさい!」 自らの血液を黒鎖として実体化させ犬達を巻き込む。濁流のように犬達を呑み込んで行き、溺れさせた。犬達は完全にきょをつかれ、態勢が乱れる。だがしかし、リーダーは素早い。 ワォン!! すぐに吠えて犬達を落ち着かせるが、その時すでに前衛陣が近くに居る犬達に挑みかかる! (ここから先は行かせない……) リンシードが決意を固める。言葉で挑発し、犬達の注目を自分に集める。それは精神への打撃も伴うのだ。その隙を見逃すリベリスタではない。 「妾の銃弾で踊り散るがよい」 ミストラルから放たれた舞い踊る氷精と化したフィアキィが周辺の冷気を集め、犬達を凍らせる! リリウムがそのうちの一体を捉えた。 「参りましょう」 リリウムが全身の膂力を爆発させ犬を弾き飛ばす! 弾き飛ばされた犬は、他の犬にぶつかってその身を止まらせた。きゃん!! 犬達の悲鳴が上がる。 「……楽しむためにも、村のためにも絶対まけられませんね」 仲間を巻き来ないように注意しながら、舞い踊る氷精と化したフィアキィが犬達を再び凍らせるシャルティア。負けられない、その意志は力となり犬達を叩きのめす! 「お茶に和菓子、みんなで遊ぶためのトランプも用意はばっちりです!」 舞い踊る氷精と化したフィアキィが再び踊り犬達を凍らせる。シィンがぴっと犬達に指先をつきつける! 「楽しむためにも、頑張りましょうなのですよー!」 それに合わせてフィアキィが舞い踊った。流石にこうなんども凍らせられれば逃げ打つ体も動きが鈍くなる。 「こないだの日本最強フィクサードと比べたらかわいいもんだ」 そう言いながら小梢が動く。かみかみされてもその身を包む防御の壁は、ちょっとやそっとじゃ壊れない。 「わんちゃんはですねぇ、こうやって喉の辺りをゴロゴロしてやると喜ぶんですよ」 そんな犬達を全身の膂力を爆発させ叩き込みながらもわしゃわしゃしようとする小梢。いわゆるあれである、ムツ●ロウさんである。わしゃわしゃもしゃーっ。ちょっと触りにくい気がしないでもない。 「回復あんまり必要なさげなの……? でも、EP供給だよ!」 とアーリィが攻撃の手を緩め、EP供給をするためにリリウムと意識を同調し、自分の力をわけ与える。 舞い踊るフィアキィ、犬達の注目はリンシードのものである。そんな中、濁流が凍りついた犬達を押し流した。その濁流がなくなれば……立っているのはリーダーのみ。周りに屍が倒れる。 そんな状況ですら、リーダーは逃げようとしなかった。ただ、静かに怒りに満ちた瞳で見つめる。 「もう少しです!」 アーリィから受け取った力を使い、今一度全身の膂力を爆発させリーダーを弾き飛ばす! 魔法陣が展開し、そのまま弾き飛ばされたリーダーの身にと魔法弾が吸い込まれていく。悲鳴を上げず、ぐるると唸るその姿はリーダーとしての誇りがあった。 「いくよ!」 貫通力の高い極細の気糸が正確無比に一射線上を走り、額を打ち抜いた。 それでもまだ血に塗れながらも動きを止めないリーダー。犬歯を出し睨みつける。 「これで……どうですか?」 決して止まらないかのような澱みなき連続攻撃でリーダーを追いつめる! 追いつめられたリーダーは、一瞬だけ視線を彷徨わせた。 「隙あり!」 全身の膂力を爆発させ、リーダーに叩きつければ、やがてそのままその場に倒れた。 ほんの一瞬、静かな時間が流れる。数を数えおえたアーリィが、15匹全部だよ、と伝えた。 「お墓を作ってやりたいのぅ……」 その言葉に否を唱える者は居なかったので、皆で簡素ながらもお墓を作る。 桜がその上にはらはらと舞う。祈り終え、皆の瞳が輝いた。 「楽しみですね♪」 心なしか、声も上ずる。 「さ、沢山……はダメなんでしたっけ、マナーを守りながら採りましょう」 すくっと立ち上がった紅葉。くすくすと微笑む。 「楽しみー!」 アーリィが声をあげた。 ●山菜狩りです! 山にぽつぽつとあるのは山菜である。木の根元に、木の枝に春の味覚が連なる。 貰った笊を片手に皆が山菜狩りを始める。 三人で仲良く採るのは、リンシード、紅葉、アーリィだ。 「アーリィと紅葉さんも手伝ってください……お姉様の手料理が食べれるチャンスなんですからね……!」 「きっと喜んでくれますね」 ふわりと笑う紅葉にリンシードが嬉しそうに微笑んだ。 「えぇ!」 お土産にしようと大切に一つ一つ採っていく。紅葉がふと見たことある山菜に声をあげる。 「それはノビルですね、美味しいですよ」 勿論、自分も妹や親友へお土産にする。 (今夜は山菜の天ぷらとか良いかな……) 「事前に調べてきたよ!」 むんっと気合を入れて一緒になって採る。ぷちぷちと採取しながら、手にとったそれがなんなのか紅葉も分からない。 「私も分からないですね……」 二人で顔を見合わせた後、アーリィにと聞く。 「じゃぁ……これはなんですか? なんたって、プロフェッサー……ですからね。何でも知ってますよね……本とか見なくても……」 「あはは……プロフェッサーは関係ないけどね。ちなみに、それはヤブカンゾウ」 フキノトウや土筆、タラの芽にヤブカンゾウ。ちょっと変わった所ではジャムに使えるヘビイチゴ。気がついたら一杯になっていて。 「お土産で来れなかった皆にも食べさせてあげようね」 (一つだけ気になることと言えば…小梢さんはやっぱりカレーに山菜入れるのかな……?) その小梢と言えば、カレーに入れる分の山菜を採っていた。やっぱりカレーに入れます。 「山菜カレーにしよう、うんそうしよう。さっき運動したから程よくお腹が減ってるんだ」 ぐううう……っとお腹がなった。その手に採るはクレソンとノビル。タラの芽も天ぷらにしてカレーの具材にしたら面白いかもしれない。 (これを持ち帰って姉様に何か作って差し上げましょう。うふふ、楽しみです) 姉様を思い浮かべて微笑みを浮かべながら土筆を採るリリウムの指先に桜が舞い落ちた。ふっと視線を上げれば、とても綺麗な山桜が目の前に。 「綺麗……」 (姉様にも見せたかったですね……) さて、そんな姉様のために、今少し……と本をぱらぱらめくり、それが山菜かどうかを見極めながら採っていく。よく似た物には注意だ。はらはらと舞う桜が笊の中を彩った。 そんな桜を見ながらシャルティアも山菜採り。 「せっかく、戦場に切り株がおおいのですから……おべんとうでも用意できたら素敵ですね」 ぷちりと根っ子は残し、または2~3個きちんと残しながら呟く。こんなあたたかな日に、皆でお弁当を食べれたら、とても素敵だろう。ほぅっとその時を想像し、小さく微笑む。それは楽しい思い出の一ページになるだろう。 「こんど、やってみたいですね」 お弁当はともかく、さてさて、これだけじゃなくお花見もあるよ! 今はまず、この一瞬を楽しまないと。シャルティアは再び本にと目を落とした。 「これ、なんだろう……? 食べれるのかな??」 じぃっと手に取ったギシギシを見つめ呟くのはシィン。ぶっちゃけただの草に見えるが立派な山菜である。おひたしや味噌和えなんかに丁度いいものだ。ぱらぱらとめくった山菜の本で見つけて、ふむふむと頷く。 「へぇ……面白い、これも食べれるんだ……」 今度はよく見かける物が目に入った。コゴミである。くるんと巻いた姿は、よく見かけるものだ。ぱぁっと笑顔になりそれを採る。勿論採りすぎないように注意だ。 ミストラルも本を片手に採ってみる。折角来たのだ、採ってみないと損であろう。 「やはりオーソドックスにヨモギもいいかのぅ……」 若いのを摘みながらぱらぱら見てみる。他の場所を探せばシドケが見つかる。どれにしようか、そんな風に思いを巡らすのも楽しい。 どれにも、きちんと名前があって食べれるのである。こうしてみると、山というのは宝箱みたいなものなのかもしれない。そうして、皆の笊の中に山菜と言う宝石が収まったのであった。 ●お花見日和 山菜狩りを楽しんだ後は、軽くお花見をしてから帰ることに。 ちゃちゃっとカレーを作ったのは小梢だ。ふんわりとかおる、カレーと山菜のいい香り! 木のかぶならば大量にある、皆近くに座って和気あいあいと過ごすその場所に桜の花びらが舞い、地面にと落ちた。 「日本の伝統行事であるお花見に合わせて、和菓子とお茶を用意してきたですよ!」 その言葉にきらーんとしたのはミストラルだ。 「花見じゃな!」 (キット何かしらできるのじゃ。山菜……美味しいのかのぅ?) じゅるりとなったが、あいにく山菜を使った料理をしているのは一人のみだった。お茶請けにお饅頭も用意していたのはリリウムだ。他には伝えたシィンである。 ミストラルがお菓子を貰ってにこっと笑った。 「美味しいのじゃ♪」 もぐもぐ食べながら、桜を見上げる。軽い運動をして、こうやって皆と楽しみながら食べる……この時間は、なんという楽しい時間だろう。はらはらと舞う桜と、空を飾り立てるような桜がその瞳を楽しませた。 「こうやってのんびり過ごすのはいいものじゃな」 「本当、すてきですね。今度は皆様といっしょにお弁当を食べてみたいです」 シャルティアがほわんと笑い頷く。それに賛同する皆。今日のもいい思い出になったのだから、きっとそれも楽しい思い出になるだろう。山菜採りもいい運動だったのだろう、うっすらかけた汗も引いて清々しい気分である。 「これ、美味しいですね」 リリウムの楽しげな声にこたえたのはシィンだ。 「こちらのも美味しいのですよ~」 そんな中小梢がカレーを完食し終えた。 「ごちそうさまでした!」 からんと置いたスプーンが音を立てる。やがてシィンが持ってきたトランプを使い何をしようかと話題になる。 「人数がそれなりにありますしね」 紅葉が首を傾げて、アーリィとリンシードが首を傾げる。なにがいいだろう? と皆で頭を悩ました所で、持ってきたシィンが声をあげた。 「大富豪やババ抜きはどうでしょう!」 それがいいね、と笑いあい、楽しく過ごした後は、お片付けをして今一度桜を見上げる。 はらはらと舞う桜が、春もそろそろ終わり季節が移り変わることを告げていた……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|