●まあ大体そうなる 春の日差しが徐々に周囲を照らしだし、草花も芽吹く時期である。 同時に、やはり雑草というのは増えるもので、この時期に増えるのが草刈り関連の業務やボランティア、なのであるが……其処に生えていたのは、一本の、草。 草。 「クサ扱いすんなイクサじゃオラァ!」 ボランティアのおじさんは胴を貫かれてオタッシャしました。 ●大体そうする 「ですから、彼らの動機としては」 『イクサじゃオラァ!』 モニタを死んだ魚のような目で見るリベリスタの前で、例の未来がリピートされる。言葉だけ。 「……なので、それに則って僕らも」 『イクサじゃオラァ!』 リピート。言葉だけ。 「すればいいんです。相乗効果で二倍、更に増えるんで倍で」 『イクイクイクイクイクサイクイクサじゃオラァ!』 「何故そんなにリピートした」 「状況判断です」 何のだ。 「というわけで、時村傘下の建設会社で除草作業は落札。リベリスタの皆さんに草刈りを……ということになったんですが。このエリューション、既に相当数に増えております」 「まとめて刈り取ればいいんじゃねえの? っていうか今の説明じゃわかんねえよ」 「それが、どうやらこの草……菖蒲なのですが、『尋常な勝負』を挑んで勝利しないと認めないらしいです。でないと刈っても増えるそうです。それと、余りに勝負に値しない言説を繰り返すと怒りの余りリミッターが外れるとかなんとか……」 「草のくせにな」 「ええ、草のくせに『イクサジャオラァ!』」 気付いたら、その手にはサウンドエッグのようなもの。 「欲し『イクサじゃオラァ!』」 やめろ。 「武器は?」 「刃物が望ましいのですが、無いのであれば貸し出すこともできます。まあ、気長にやることになるでしょうけれど」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月28日(日)21:58 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● もうイクサってなんだろうとまおは思いました。 まるでこの間の楽団の死体様みたいに…… 「はっ……」 『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)は悟りに至ろうとしていた。 延々と目の前の草と菖蒲――言うまでもなくエリューションである――と退治し続けてはや○時間。そろそろ忍耐力に限界が来てもおかしくないタイミングである。 それでも、目を濁らせず次へ向かっていく彼女は本当に心根が強いのだろう。そうに違いない。 ……数時間前! 小春日和とは、冬間に訪れる少し暖かめな日を指す。 春先の陽気にその言葉は似合わないとしても、しかしこうも晴天だと春というより、もはや夏。 一足早い熱気に僅かに顔を顰め、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)はブロードソードを構えた。 足元には草、それに混じって革醒していた菖蒲の束。 すでに暫くの時間が経過したのか、うっすらと頬を伝う汗からも感じられた。 「なんかすげぇボランティアだな」 全くである。 「口上は戦場の華なり! 名乗りを上げい!」 「「「イクサじゃオラァ!!」」」 「……元気だなあ」 そんな翔太でも、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の勢いには流石に称賛を送らずにはいられない。まあ、面倒なんだけど。 あと、あの女何か名乗り口上滅茶苦茶凝ってるんだけど。大体祖父のせい。 ……まあ、説明とかあんまり要らないと思いますけど念のため。 「翔太は途中でへばるでないぞ!」 「お、おう……(どんだけ本気なんだあいつ……)」 翔太に意地を見せろと息を巻くのは誰あろう『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)。軍手に草刈鎌、長靴、麦わら帽子にタオル……いや待て、待て。 確かに「それなりに」と包帯は言ったかもしれない。軍隊用語に等しい「それなり」とか「適当」をこのタイミングではっきするのか? そうなのか優希!? 兎も角彼は、本気らしい。ワースゴーイ! 「我こそはアークの戦闘員、富永喜平! 世界の為、そして志半ばで散ったボランティアおじさんの無念を晴らす為!」 まて、ボランティアのおじさんは未遂だ。オラァされる前に時村が落札したんだ。 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)の意気やよしと言いたいが早まるな。うん、説明が足りなかったってことだなチクショウ! 「いざ、いざ尋常にしょぉおぉぶぅぅぅう!!!」 「「「ッダッテメコラー!!」」」 ああ、うん。菖蒲達楽しそうね。 ここまで気合入った挑戦者が来たらさも楽しいだろうね。いいね。 でも喜平の装備って『打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」』ですよね? 銃ですよね?! 「本気だからこそのチョイスだよ」 すごい。なんか大見得きったままにリアル本気チョイスきた。これは何か痺れる。ちょっとどうかと思うけど。 「菖蒲とか端午の節句にはまだ早えーんだけどなー」 言うな。『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は、頼むからそれを言わないでくれ。メタメタしい話になると来月が待ってるんだ。 そしてその、振り上げたハルバード、『アンタレス』と銘打たれたそれの禍々しさは、眼前の菖蒲達をしてビビらせるに値する迫力と言えるだろう。 「一振り一殺ならだいたい何千振りくらいかなー? つまりは日課の素振りとたいして変わんない量だよねー」 えっちょっと待って、岬さんどれだけ鍛錬してるんですか、日課ってどういうことですか、その、ねえ。 「一騎打ちでも纏めてでも構わねーぜ、お望み通り尋常な勝負で挑んでやるっ!」 そんな狂気が蔓延しつつ、しかし鷲峰 クロト(BNE004319)の勢いは衰えない。 滾らせる気配はすでに一線級のそれだが、相手が「イクサじゃオラァ!」であるからして、色々と残念なのである。……残念なのである。 両手に構えたナイフを握り直した彼に、しかし憂いはない。 色々と方向性の面で既にコケている気がしないでもないが、それは言わないお約束だ。覚悟はできている と思う。 (ミミミルノもひとりでもちゃんとできるよっ……!) 『こぶしけい、ですっ』テテロ ミミミルノ(BNE004222)、姉達に静かに誓いつつ拳を固めた。 でもちょっと待って欲しい。刃物だっつってんのにこの子はなんでグローブなんだろうか。 拳系と言いつつも趣旨とかは理解できてるんだろうか。刃物の貸出申請をアークは受け付けていない。 つまりは? うん、まあそういう扱いされることぐらい覚悟して来てんだろ。少なくともそういう扱いだ。 「こぶしひとつでぶんぶんてきさんのまんなかにとつげきできるくらいになるまでっがんばりますっ!」 救いは、救いはないんですか!? ないね(断言) ● 「えっと、じんじょーに勝負してください」 「オウトモよオラァ!」 会話が成り立っているのかどうなのか。律儀に頭を下げたまおへ攻撃するシツレイを菖蒲は犯さない。 ブラックコードを引き、次の瞬間にその間合いから連続して攻撃を繰り出した彼女に、しかし菖蒲は為す術もなく切り飛ばされた。 結局のところ、礼儀さえ守れば一介のエリューションを遥かに下回るのである。 「ありがとうございました。次も頑張ります」 なんということだろう。まお、すげぇ輝いてる礼儀正しさ。 「戦か、フ、面白い。束となってかかってこようと構いはせん。いざ尋常に、勝負!」 「イクサじゃオラァ!」 優希は優希で、手鎌を構え踏み込む。……いや待て優希。その鎌ってあの、普通のやつじゃないだろ。 ってか小鎌みじかっ! もうちょっとこう、弧を描くようなあるだろ、その、アレだよ! 百歩譲っても草削りとか考えなかったのかよ! お前の「フ」が舐めプとか書いて悪かったよ! 本気すぎて効率悪いから初心者向けの鎌を 「この一時を、俺と貴様の戦いに身を捧げる――!」 どぉん。 「え、何が起こったのあれ」 動揺するのは翔太である。完全なまでに、今の優希が放ったのは覇界闘士の奥義に近しいレベルのアレである。 得物はアレじゃないの、小鎌じゃないの? という質問が絶対あると思うので言っておくとその、魔力手甲が全部悪い。 もうちょっと分かりやすく言うと、魔力手甲がスキルを打ち出す砲塔で小鎌が砲弾でええい面倒臭い。 こまけぇことはいいんだよ(至言)! 「イ――」 「通常攻撃とか舐めてんのかってー? そっちこそ舐めてんじゃねーよ」 ぶうん、と大きく振りぬかれたアンタレスが、一本菖蒲の中心を綺麗に真っ二つにする。 一瞬、そうされたことを気付かないほどに「当たり前」にアンタレスは通り抜けて切り裂いた。 恐らくは、それを極みのひとつと呼ぶには玄人目には程遠いのだろう。軸心がぶれ、確実性が低いというのかもわからない。 だが、それは素人目に見れば完璧に近かったろう。そういう練度だ。 何百何千、或いは万を基礎単位とする彼女の斬撃は「そういうもの」として確立されているのだ。 「面白ェぞオラァ!」 「いざ尋常に、勝負ー!」 燦々たる太陽の下、岬の声が朗々と響き渡った。 「フフ、それじゃ行くよ、此れが華麗にして絢爛な……」 ショットガンを使ったまったくあたらしいくさかりだぁぁぁぁ!! とショットガンを振り上げる喜平の目は輝いていた。すごい輝いていた。 刈り取るような軌道で、しかし根っこに向けて散弾をばら撒く彼の動きはある意味的を射たイクサだったように思う。 抉り取られた地面は、一本菖蒲を除く草の根をも削り取っていた。 あとから土を戻せばたしかにそれはそれで効率的なのかもしれない。こいつある意味すげーな。 「ヤダー穴も掘れるなんて俺の相棒って万能!!」 近接的効率行動(ボールドコンバット)ってすげえな。万能だわ。 「次、そこの草も本気でかかってきな。尋常に勝負だ」 他の面子に気圧されてばかりでは翔太も立つ瀬が無い。幻影を纏うブロードソードは、一本一本を確実に切り裂いていく。 遠くを見据えた場合はといえば、高速移動からの一撃が確実に彼をその射程へと誘い込む。 ……最も。叢での戦いは決して楽ではないので、通常以上に疲労感を覚えても間違いないだろう。 だが、彼の表情にそのような憂いは無い。むしろ楽しそうですらある。何故か? 友人と競い合う感覚が、彼を高みへ押し上げているからだ。 単純な一撃の連続はたしかに、彼らにとって冗長な戦いなのだろう。間違いない。 だが、それが知らず自らを押し上げる糧となっていることを彼らは知る由もない。 戦いの蓄積というのはそういうものだ。気付いたら「そうなっている」ものなのだ。 「我こそは座布投七本槍と謳われし勇将――」 カット、カットォォォォ! そういうメタな発言はやめろっつってんだろこのマグロヘッズ! そんなにお前はマグロ真実に近づきたいのか!? やめろよ! 未だに思い出して震えが止まらない俺の気持ちも考えろよ!(割と実話) (貴殿らもサムライと見込んだ! その心意気、天晴れなり……!) (イク……さファッ!?) ほら見ろ! 菖蒲になんて感情抱かせてんだよ! 動揺してる間に太刀を杖にしてどっかりと座るんじゃねえよ! そういう戦人めいた笑みはやめろよ! 「かかって参れ! こちらからも存分に参るぞ!」 「イッ……クサじゃオラァ!」 舞姫の堂々たる姿に混乱した菖蒲も、これが彼女なりの誠意とわかれば容赦ない。一撃を振るおうとして……しかし、断ち切られていたり、するのだ。 「雑魚扱いが嫌な様だから、最近のアザーバイドや楽団に使った俺の基本戦法で攻めてやるぜ」 ザン、と振り抜いた一撃が、「基本戦法」通りに霜を散らせ凍らせていくのをクロトは冷静な目で眺めていた。 動きを止めてから確実にとどめを刺す。確実に一体一体を仕留める。それは彼の「誠意」である。雑草とは呼ぶまい、弱敵と侮りもすまい。 ただ淡々と、誠意を叩き付ける刃で見せることを義としたのだ。 ナイフをクロスさせ、次の相手を見据える彼に油断は一切ない。次を倒す、それだけを見据えた歯車なのだ、彼は。 通り道にそれに及ばぬ雑草があれば? ……無論、切り裂いて進むだろう。そういう戦い方だ。 「かってもまけてもうらみっこなし、ですっ!」 「イクサじゃオr……オ、オウ」 ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちっ。 ミミミルノ、果敢に殴りかかる。だが斬撃に係るわけでもなく、喜平のようなトリッキーさがあるわけでもなく、ただ打撃である。打撃で草を刈ろうと、いや、うん。 「ナメッテメコラー!」 「あうっ」 ……尋常に勝負してるつもりだからその、厳しくしないたげて。一発受けてよろめいて倒れた彼女の表情に漂う悲壮感半端ないから勘弁したげて。割とマジで。 「…………オ」 「ひっさつのらいおんあたっく、ですっ!!」 おおっと不意打ちだー! 気遣いすらチャンスに変えるとはスゴイ・シツレイ! だがそれが、良くないよ!? 「もっと糸をシュッと動かしたらべちべちしても切れるのでしょうか……」 悟った顔で、まおが前進する。その顎はマスクに隠れて見えないが、その瞳だけは純朴な喜びに満ちている。なんだこれ。ある種の狂気すら感じるぞ。 「ちゃんと同じ事は繰り返します。でも、やりかたを変えます」 ぎらりと光る少女の目は、何か新しいことに踏み込んだそれの気配がした。 ● 「ああ、つまらぬ! 草風情に剣を振るうなど、我が武名の恥よ! 貴様らなど、除草剤で枯れ落ちるのが似合いよ」 「「「ナッテメッコラー!?」」」 舞姫、相手に敬意をはらうでもなく座り込んだ。胡座だ。クッソ行儀悪い高校生、何とかならないんですか!? しかし、まあ。怒りの余りその先端をゆらゆらと揺らし始めた菖蒲を前に、彼女の目は死んでいない。もとよりそれを狙ったとしか思えない、狩人の視線だ。 完全にやる気だ。 「パニッシュメントだオラァ!」 「秘剣・一本葦草、見切ったり!」 ガキィッ、と剣戟音が響き、状況は一瞬にして転じていた。 大紬を構え、『一本葦草』を誘った彼女は僅かに軌道を逸らすことで自らの推進力と変え、一気に間合いを詰めていたのだ。なんという業前。なんという覚悟か。 「さあ、今一度、一手立ち会いを所望致す!」 「……ッオラァ!」 その真意は何よりも明瞭に伝わるものだ。舞姫は、その一合で周囲の菖蒲に自らを認めさせたのだ。やるなあ。 「有難う爺様、あの夏の日の教え……役に立ってるよ!!」 ドヤ顔(攻勢に出るための策略)を魅せ、除草作業に勤しむ喜平の喜びようと言ったらどうか。素晴らしく輝いている。こいつ……。 泥まみれになりつつもなんかすげえ格好いいなオイ! 「それじゃあ、いざ尋常に、ニ千本目くらい、勝負ー!」 既に数などどうでもいいと言わんばかりに、岬はアンタレスを揮う。 日課と思えば容易い。それだけの研鑽を積んだのならばどうでもいい作業に等しく、しかし一つとて「どうでもいい」動作がない。洗練と言う名が似合う。 「ハッ、大した防御力であるな。もっと、もっとだ……!」 「オッ……!?」 がしぃ、と菖蒲の上部を掴んだ優希の目は既に何か変なもので満たされていた。 凄い。何か凄い気迫が感じられる。やばい。何かわからないけどがっしがっしと小鎌叩き付ける様には狂気すら漂う。 こいつをここまで駆り立てるのはなんなんだ。対抗心では片付かないぞ。 「そーいやこれって薬草になるんだったけか?」 ナリマスネー。 日本人の知恵ってすごいよねえ。 クロトがどんどん回収しているあたり、何か包帯がほくそ笑んでそうですねこの展開。 回収業務ええぞ! ええぞ! 「皆大丈夫かー? 特にテテロー?」 「だ、だいじょうぶ、ですっ」 大丈夫らしかった。 何かよく分からないけど翔太のリーダーシップがすごく頼もしい。 むしろミミミルノがきになるんですね。すげえ分かる。大変だよね。 ……とまあ。 そんなこんなで数時間後。 一部ぐったり、一部すっきりした感じで帰ろうとしているリベリスタたちに通信が入る。 『あー、すいません。その菖蒲ちょっと持って帰ってきてもらえません? 普通に菖蒲湯にしていいものかわからないので』 何人の心を折るつもりだ、おまえ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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