● 真っ白な白紙のページがふわりと宙を舞い、ひらひらと踊りながらパサリと大地に落ちる。 何かのノートや書物のようなものから切り離されたのか、側辺の1つに破れたような痕があるページ。 「……なんだろう、これ?」 拾い上げた少年は、ゲームの世界にあるような勇者に憧れを抱いていた。 もしもこの世界に魔王がいたなら。 そしてもし、自分がその魔王を倒す勇者だったなら。 少年は常日頃から、物語の主人公でありたいという夢を持っていた。 そのページには魔力がある。 手にした者の夢を叶える力だ。 ただし、その願いや夢を叶えるのは現実の世界ではない。 白紙のページに現われたのは『勇者』となった少年が『魔王』と対峙する絵。 「おお、俺、勇者になってる!?」 少年の前に立ちはだかるのは魔王の尖兵達と、それらをすべる魔王。 彼は知らない。 これが神秘世界の出来事である事を。 彼は知らない。 魔王を倒さなければ、現実世界には戻れない事を。 「よっしゃ、魔王を倒してやるぜ! 俺が――勇者だ!」 剣を振るい、尖兵達を薙ぎ倒す姿を見れば、少年は確かに勇者だった。 だが、彼は未だ気付いていない。 尖兵を倒す事が容易であっても、魔王を倒す事は彼には不可能だと言う事を。 ページの作り上げた夢の世界で、彼は戦う。 そこが夢の世界だとは感じていても、叶った願いへの歓喜の心の方が彼にとっては強いからだ。 そのページは夢を叶える。 代わりに、そのままでは出られない試練の牢獄に少年を閉じ込めて――。 ● 「……ある意味でちょっと触ってみたいわね、コレ。和菓子食べ放題とか――コホンコホン」 小さな夢を叶えるページの存在に、自身の望む『夢』を叶えてみたいと桜花 美咲 (nBNE000239)は考えているようだ。 確かに『ページ』が与える『夢』に対しての『試練』さえクリアできれば、一時ではあっても己の願いが叶うのだから、当然ではあるか。 「ただし、1度クリアすると夢を叶える効果を失くすのよね。書物の断片だから、大量に存在はするのだろうけど……」 少し残念そうな美咲の説明によれば、このアーティファクトが効果を発動するのは1度きり。 夢を1度だけ叶える代わりに試練を与える存在であり、元が書物であるだけにどれほどのページ数があるのかは今のところわかってはいないらしい。 その試練は実力のある者ならば1人でもクリア出来る試練ではあるが、覚醒していない一般人にはクリアは難しいようだ。 しかも試練の難易度は夢の内容によって変化し、難しくもなれば易しくなる場合もあると美咲は言う。 「とりあえず、この子は一般人だから雑魚相手なら大丈夫なんだけど、魔王を相手にするにはかなり無理があるみたい」 そこで、リベリスタの出番が訪れる。 夢を叶え、試練を与える最中のページに触れた者は、最初に夢を願った者をサポートする存在としてページの世界に入り込む事が出来る。 だがあくまでもサポートであり、試練をクリアするためには最後のトドメを刺すのは夢を願った者――即ち、最初にページの世界に入った存在である必要がある。 「ページの世界で、夢の世界だからね。神秘秘匿とかは『夢だから』で全部済ませることが出来るわ。魔王を倒すサポート、お願いするわね」 与えられた試練を、見事少年がクリアする事。 それが今回のリベリスタ達が受領するミッションだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月22日(月)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●頑張る勇者君 眼前に聳え立つ魔王の城は、どす黒いオーラを纏っているようにも見え、入るだけでも躊躇しそうな存在だ。 中に入れば、尖兵達が一斉に襲い掛かってくる事だろう。 「これを倒せば、俺も世界の英雄だ……!」 だが、中に突入しようとする勇者はまだ、1人だけ――。 「勇者さーん!」 ハァ、ハァと息を切らせ、突入する直前の勇者に声をかけたのは『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)だ。 どうやら彼女は勇者に憧れて後を追ってきた僧侶見習いらしく、そのサポートをしようと告げる。 「……見習いで大丈夫なの?」 「見習いでも、頑張りますから!」 一人前ではない見習いという前置きに怪訝そうな顔を向ける勇者だが、実際のところは勇者の数十倍はアーリィの方が強い。 そんな事はもちろん勇者が知る由もないが、 「仲間は多いに越した事はないでしょう。さぁ勇者よ、共に旅立つのですよ」 全身タイツ+法衣と少し過激にも見える、レトロゲーム風僧侶の衣装に身を包んだ『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が言うように、仲間が多くて困る事もないだろう。 「わ、わかったよ。それにしても目のやり場に困るね」 (……この格好は結構、際どいのでしょうかね) 少しだけ顔を赤くした少年勇者の反応を受け、自身の格好はやはり際どいのかと思う凛子の顔に苦い笑みが浮かぶ。 それはさておき、勇者の脇を固める仲間はこれで2人。 さぁ、今度こそ突入だ! 「勇者殿っ!」 「今度は何!?」 勢いよく突入しようとした矢先に声をかけられ勇者が転ぶが、気にしてはいけない。 「オレは弓使いの狩猟者(ハンター)、ヘンリエッタと言うよ。世界に平和を取り戻す為、キミの力になりたいと思って来たんだ」 声をかけた主である『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)はそんな勇者の様子など気にも留めず、連れて行ってくれと言った。 「良かったら露払いをさせて貰えないかな。足手纏いにはならないよ」 「うん、わかったよ。仲間が多いに越した事は無い――だよね?」 先程の言葉の確認を取るかのように、同行を願うヘンリエッタと凛子を交互に見、勇者は問う。 「そうですね。それに……まだ希望者はいるみたいですよ」 当の凛子は別方向からやってきた人影を指差し、まだ仲間となる存在がいるのだと彼に知らせる。 「私の名は、“紅蓮姫”フィリス・エウレア・ドラクリア。勇者よ、魔王を討つというのであれば私の力を貸そう」 「ま、またお姉さんだっ!?」 やってきた『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)までが仲間になれば、仲間はもう4人。 しかも全員が女性という事で、少年勇者は嬉しいと思いつつも『格好良いところを見せなければ』と変なベクトルで燃えてもいるらしい。 「こ、これ以上は来ないよね?」 いい加減、突入したいとうずうずしながら前へ進もうとする少年勇者だが、2度ある事は3度ある。 「えっと、君は……?」 「忘れたの? 幼馴染で恋人だったのにー」 思い切り棒読みではあるが、問われた『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)は勇者の幼馴染兼恋人という設定で参戦するつもりのようだ。 『え、そうだっけ?』 等といった考えを持たせる前に魔眼をもって彼を信じさせた恵梨香は、『両親の仇の魔王を討つ事』を勇者に願う。 「ま、まぁ、うん。わかったよ、頑張るさ!」 今度こそ、突入前にパーティに入るメンバーはいない。 気合を入れた勇者はついに、魔王の城の扉を開く。 『勇者、イジメル!』 『オー!』 『勇者、泣カセル!』 『オー!』 扉の向こうでは、200にも及ぶ魔王の尖兵が勇者を倒そうと声を上げている真っ最中。 「勇者様! 敵がたくさん来ちゃったよ! 纏めて倒せるかなぁ……?」 サポートに徹する構えのアーリィが、勇者の頑張りを期待して応援の言葉をかける。 「はは、ははは……やってみせるさ!」 ここで格好悪いところは見せられないと奮い立つ少年勇者だが、 (……多すぎだろっ!!) 内心では200という数にかなりビビっていたらしい。 魔導書の断片は、夢を叶える代わりに試練を与える。 果たして少年は、魔導書の試練を無事に突破する事が出来るだろうか――? ●尖兵の壁 「に……200とかいてもなんとかなるさ! いっくぞぉ!」 手にした剣を高々と構え、勇者が進む……が、 「待ってください。ここは一端先ほどの通路まで戻って、順番に倒しましょう」 あまりに多い数を一度に相手にするのは無理だと、翼の加護を全員に授けた凛子の注意が飛ぶ。 別段そこまで警戒するような相手でもないが、念には念を入れて臨もう――といったところか。 「それがいい、少し下がろう」 「有利に戦いを運ぶ事も、大事だぞ」 ヘンリエッタとフィリスもどうやら同じ考えであるらしく、勇者に一度下がることを促した。 「わかった、これは逃げるんじゃないからな!」 勇者は逃げてはならない。そんな事を少年は考えていたのだろう。 だからこそ、『これは逃走にあらず』と口にする事でその考えを折らないようにしたのだ。 タッタッタ……。 軽快な足音と共に、勇者達が有利な戦場を求めて引いていく。 『逃ゲルナ!』 『追エ、追エー!』 尖兵達も逃がさないと、200体全てが一斉に後を追う。 「きゃー」 ふと、棒読みの声と共に恵梨香が少しわざとらしくこけた。 眼前にはもう、尖兵の幾つかが迫っている。 「ちくしょ、間に合……えっ?」 咄嗟に踵を返して恵梨香を救おうと勇者が動いた時、聞こえてきたのは斬撃の音と、炸裂した魔炎の轟音。 「魔法少女マジカル☆ふたば参上! 私は天の遣わした正義の魔法少女 天に代わって勇者様のお手伝いに来たよ!」 その魔炎を放った『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)がきらりーんとポーズを決める! 照れずに堂々としようと考え動く双葉ではあるが、 (少し照れが入ってるなぁ……) 勇者によれば、やはりどうしても隠し切れないものは隠し切れなかったらしい。 「えぇと……キミは?」 そして勇者はもう1人の斬撃の主に問う。 「あの時負けたばかりか、見逃して貰って命まで助けられた……。その強さと優しさに心惹かれたの。最後の戦い、お役に立たせて!」 過去、勇者と戦い敗北し、彼に命を救われたアサシン――というのが、『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)の持ってきた設定だ。 (多分知らない間にやってたんだろうなぁ……) 何時、倒した? そんな事、知らない。 なら、考えるのをやめよう。そういう話なのだと理解した方が、面倒はない。 「わかった! 頼むよ!」 最早勇者は、自分の知らない相手が『そうだ!』『こうだ!』と言ってきても深く考えない事にしていた。 だって夢の中だもの。 ……適応力は意外と高いのかもしれない。 だって夢の中だもの。←意外と重要。 「じゃあ、今度こそ……いっくぞぉ!」 仲間も増えた。ある程度有利な地形に敵もおびき寄せた。 ならば、もうここからは攻撃あるのみ! 剣を構え勇者が突っ込めば、 「魔力よ、荒れ狂う稲妻となりて、我らの行く道に立ち塞がりし敵を焼き払え!」 勇者が切り込む前に近場の尖兵が、フィリスの奔らせた雷によって派手にぶっ飛んでいく。 「え、俺の敵……」 格好よく決める前に敵がぶっ飛んで呆気に取られる勇者を尻目に、別方向から氷精と化したフィアキィがさらに尖兵を氷漬けにしてその数を減らす。 「やっほー、勇者ちゃん。私はエルフの森の賢者、ルナ・グランツ。世界の呼び声に従い、魔王を倒す為に立ち上がった勇者ちゃんの手伝いに来たの」 最後の増援、『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)はそのまま有無を言わさず勇者達に合流し、更なる攻勢を尖兵達にかける。 「この炎を以って浄化せん。紅蓮の華よ、咲き誇れ!」 耳を劈くような轟音と共に、尖兵達を焼き尽くす双葉の魔炎が、 「勇者殿の道は我々が切り開く! いくぞ!」 ヘンリエッタの放った矢が、いかにも硬そうな(しかし実際はダンボールのような)尖兵の鎧の隙間に直撃し、尖兵を痛みで呻き転がらせていった。 残る尖兵は150といったところか。 「勇者様、あちらからも敵が!」 「よし、今度こそ俺が!」 もう敵を目の前で掻っ攫われたくは無い。 アーリィの指差した方向を見れば、ヘンリエッタが敵の波に飲み込まれる直前だ。 「仲間をやらせるかぁっ!」 勢いよく飛び込んだ勇者の剣が一閃! 「……有難う、勇者。助かったよ」 「これも勇者の役目さ。出番があって良かったぜ」 何とか美味しい所を手にした勇者は、ぐっと親指を立ててヘンリエッタを尖兵から守る盾となる。 「もう駄目。助けて」 否、向こうではさらに恵梨香が助けを求めている! 棒読みだけど気にしちゃいけない! 「行かなきゃならないよな、それが勇者だっ!」 全力で走る勇者が、恵梨香を襲う敵に斬り込む間にも、 「よし、今の内にどんどんやってしまおう」 「準備もしっかり整えておかないとね」 フィリスの雷が敵を減らし、凛子はやるなら今だと出来うる限りの補助を仲間達に施しにかかっていた。 うおー、とか、おりゃー、とか声をあげながら援護を求めるヘンリエッタと恵梨香の間で勇者が行ったり来たりと頑張る今が、魔王戦の準備を整えるチャンスだと彼女達は考えたのだろう。 勇者は気付いていない。 「うおー……あれ?」 あ、気付いた。 自分が行ったり来たりしてる間に、敵の数が一気に減っていた事を。 「やるじゃん、カッコイイよ! 勇者さま、何てお呼びすればイイかな?」 ほとんど勝利を目前にした尖兵戦の終盤、そう問うたのは真独楽だ。 「んー……俺の名前がコータだから、コータでいいよ?」 彼女と背中を合わせ、後ろをしっかりと守る勇者の名はどうやらコータと言うらしい。 「わかったよコータ。後ろは任せたよ!」 そして勇者の背を守り、真独楽は近付いてくる尖兵を幾重にも気糸で絡め取り、戦う。 (あぁ、そうだよ、これが勇者だよなぁ……!) ピンチの仲間を救い、そして信頼できる仲間とは背中を合わせて。これこそが勇者だと、コータ少年はしみじみと感じていた。 「お願い、フィアキィ!」 「このまま押し切るぞ」 フィアキィと共に尖兵達を殲滅していくルナや、激しい雷を放つフィリスは確かに強いが、背中を守るには強すぎたのだ。 男1人、女8人。 勇者にとっては正しくハーレムのようなパーティだが、それも仲間達があまりに強すぎれば、 (このお姉さん達、怒らせたら怖そうだ……!) と胸のうちで少年をビビらせる結果を生じさせてしまうのだ。 尖兵達は、数だけはとても多かった。 しかし多いだけで、その全てはハリボテといっても過言ではない強さしか持ってはいなかった。 「よっし、全滅させたぞ!」 ぜはー、ぜはーと息を荒げ、勇者の剣が床に突き立つ。 「やっぱり貴方こそ本当の勇者。魔王を倒せるのは貴方しかいないわ」 「流石勇者様だね! あっという間に倒しきっちゃった……勇者様無双だね!」 実質はリベリスタ達が殆どをぶちのめしていたのだが、棒読みで褒め称える恵梨香と、ピョンピョンと飛び跳ねるアーリィは敢えてそこには触れない。 触れれば、勇者が凹む事は間違いないからだ。 「……まぁ、いいか」 終わりよければ全て良し。 過程がどうあれ全滅の結果は変わらないのだから、ここはその褒め言葉に酔いしれよう。 勇者コータも、敢えてそこに触れようとはしないのだった――。 ●魔王の試練 「勇者ちゃんに一つ覚えておいて欲しい事があるの」 魔王の間へ続く扉を開く直前、口を開いたのはルナだ。 「例えどんな事があったとしても、君が諦めない限り私たちは何度でも君の下に駆けつける」 この先の戦いに負けても、私達は共に戦うと。 「だから、諦めないで。最後まで諦めない限り、希望はあるのだから」 故に、勇者らしくあれ――と。 「あぁ……わかった」 コータは気付いていた。 多分、いや確実に自分より仲間達のほうが圧倒的に強い事を。 だがそれでも構わない。 「勇者は強いものではなく、勇気あるものです」 そう凛子が言うように、負けても立ち向かう勇気があるから勇者なのだ。 故に少年は諦めようとは思わない。 この先にどんな魔王がいようとも、頑張って勝ってみせようと……。 「スンマセンスンマセン、俺が悪かったっす!」 「はやっ!?」 だが扉を開いた瞬間、勇者はいきなり勇者ではなくなった! バタンと勢いよく扉を閉めたコータは、肌で感じた恐ろしい空気に滅茶苦茶ビビってしまったようだ。 ルナの言葉に威勢良く頷いた姿はどこへやら、ここに来てへたれてしまうのは本来は普通の少年故か。 「勇者よ、お前が魔王を倒さない限りこの物語は終わる事は無い……。君は、延々と奴と戦い続ける事になる」 とはいえ、このまま手をこまねくわけにもいかないと語りかけるフィリス。 「だがしかし、忘れるな。勇者とはどの様な境地に置いても、僅かな希望を見い出せる者の事を言うのだ」 どれほど敵が強大で恐ろしくとも、逃げるなと。 いや、マジで逃げないで。 周囲に立つ仲間達がいれば、勝てるんだから! 「頑張って、勇者様!」 「お、おおおっし、やってやるぜ!」 応援するアーリィの言葉に、勇者コータ復活。 気を取り直して、魔王の間へ続く扉が再び開く――。 『……逃げたかと思ったぞ。マジで心配した』 魔王様も勇者が逃げたのではないのかと心配する中、 「いーや、もう大丈夫! ここから俺様ショウタイム!」 勢いがありそうに見えた勇者の声は、怖い気持ちをひた隠しにした心の現われ。 それでも、彼は逃げずに試練に立ち向かう気概を見せる。 『ならば始めよう、勇者と魔王の戦い……をぉっ!?』 気を取り直して戦おうと告げる魔王のローブが、肉が、一閃した刃によって引き裂かれたのは、その直後の出来事だった。 「先手必勝ってやつだよ! さぁ、始めようか!」 軽いステップを踏んで魔王の攻撃に備える真独楽の手に装着されたクローから、魔王の血がポタリポタリと滴り落ちていく。 先に攻め立てて仕留めてしまおうという彼女の考えは、コータの状況を見れば正しいものだと言えるだろう。 「魔を以って法と成し、描く陣にて敵を打ち倒さん……本気でいくよっ!」 続いた双葉の放つ魔炎の威力を見れば、コータの『俺様ショウタイム』が始まる前に終わるかもしれない。 しかしそこは、戦い慣れたリベリスタ達。 「まだまだ余力はありそうだね……油断しないで、勇者ちゃん!」 魔王のセリフや傷の具合から、ルナはおおよその魔王の体力を予想しようと、その様子、セリフの一字一句すらも聞き逃そうとしてはいない。 「勇者様の援護は任せて」 「わかった、頼んだよ」 一方で真っ先にコータが倒されるケースを防ぐべく、庇う姿勢を見せたアーリィに頷き、放たれたのはヘンリエッタの急所を狙う矢。 『ぐおお、どうやら相当に強いお供を連れているようだな……!』 流石の魔王も、コータの周囲に立つ彼女達がコータとは桁違いの強さを持っている事を感じたのだろうか。 狼狽するようなセリフからは、明らかな焦りが見て取れる。 「世界に存在する、四大元素よ……! 今、此処にその力を重ね我が目の前に立ち塞がる敵を討ち払え!」 『グワァッ、ソレ、強すぎるぞ!』 否、フィリスの攻撃で一気にボロボロになった姿を見れば、狼狽どころか本当に倒れそうなのか。 『おのれ、勇者を倒せば終わりだっ!』 「させないよっ!」 何とか試練を失敗に持ち込もうと放たれた魔法も、アーリィに阻まれて勇者までは届かず。 「アタシはもうダメ。必ず魔王を倒して」 最後まで棒読みのままに倒れるフリをする恵梨香の言葉が、勇者の背中をトンと押した。 「勇者様! 勇者様! 今がチャンスです! 止めは勇者様の力が居るんです!」 アーリィがそう告げるように、魔王は何時倒れてもおかしくない程度にボロボロだ。 「これで終わりにしましょう……」 トドメを刺す事が仕事だと、凛子が優しい笑みを向ける。 「魔王を倒すのは勇者の誉れ。さぁ、今度は君の力を魅せる時だよ?」 「君が奴を倒せ! ……勇者なのだろう? 格好良い所を見せてくれ」 そしてルナとフィリスは勇者の活躍を期待し、彼の進むべき道へと指を差す。 「皆がやった方が早そうだけどな」 ポリポリと頬をかいた勇者は自分の実力不足を痛感してはいるようだが、トドメを刺すのが彼でなければ、この試練は終わらない。 「まぁ……いいさ、ショウタイムどころじゃなかったけどな!」 タッと地面を蹴り、飛んだ勇者の剣が、魔王の脳天へと振り下ろされ――。 一瞬の閃光は、試練の終わりを告げる光。 「ごめんなさい。恋人だとか色々言ったけど、これは夢でそういう『設定』なの。起きたら全部忘れて、普通の日常生活に戻って頂戴」 虚像の世界から現実へ戻るこの僅かな時間に、全ては設定だったのだと恵梨香が突きつける厳しい(?)現実。 彼がその言葉を聞いていたかどうかは、わからない。 全ては夢の世界での出来事なのだから。 ふわりと、勇者と魔王が対峙するイラストが描かれたページが大地に落ちる。 試練を終えたページは単なるページとなり、その力を発揮する事はない――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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