●蠢動の夜 湿気を含む、もわりとした空気が揺蕩う夜だった。 提灯がともる桜の並木を過ぎ、鬱蒼と茂った木々でトンネルのように暗い坂道へと差しかかる。 いくつかのカーブを曲がった後、少女は車のヘッドライトに照らされる道路の先に、何か白いものが落ちているのを見つけた。一抱えはありそうな、白い楕円形のもの……酒に酔った輩が捨てたゴミだろうか――いや、動いている? 「おじい様、前!」 「むう!?」 少女が運転席の祖父に声をかけると、車は急ブレーキをかけて停車する。 ブチュッ!! 何かに乗り上げ、轢いてしまった感触。 老人がすぐに車から降り、様子を見に行く。突然のことに少女の足は震えた。まさか、犬か猫を轢いてしまったのだろうか?――そのとき。 ぼと。 車の天井に、何か大きなものが落ちる音がした。 思わず身を縮こめて天井を見上げると、 「出てきちゃならん! 車のドアを閉めろ!! ――ああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 祖父の悲鳴。目を向ければ、点いたままのヘッドライトに照らされて、道路の脇に倒れる祖父……その体にたかるように蠢く、白い巨大な、幼虫のようなもの。 「ぁ……あ……!」 車のドアに手を伸ばそうとするが、体が震えて思うように動かない。 ぼと。 ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと。 雨ではないものが降る音。 落ちてきた虫の白い体で、フロントガラスが埋まる。見ればリアガラスにも、ドアが開いたままの運転席の傍にも、虫、虫、虫、虫、虫。もぞもぞと、体をくねらせ、他の虫の体の上を這いずりながら、少女のほうへ少しずつ近付いてくる。 ぼと。ぼと。尚も天井は揺れる……祖父の呻き声はどんどん弱々しくなっていく。 開いた運転席から見える暗い茂みの中に人影を見た気がして、少女は声を振り絞って叫ぶ。 「そこに誰かいるの? お願い、おじい様を助けて!! 誰か!!」 少女の腕に、足首に、他の虫を踏み台にして車に乗り込んだ虫たちが一斉ににじり寄った。柔らかな皮膚を食い破り、何かが吸い付く気色の悪い感覚。 恐怖で喉が詰まる。吐き気がする。人の気配に、霞む目を向ける――闇の中、ぬらりと光るのは刃物か。 「…………どう、して? や……いや……いやあああああああ!!!」 ●緊急招集 「急にお呼び立てしてすみません。……時間がないんです」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、緊急招集に応じたリベリスタたちに、自分が視た光景を手短に説明した。 突如現れた幼虫のE・ビーストは、フェーズ2。大きさは中型犬ほどもあり、ヴァンパイアの吸血に似た能力を持つものの、動きが遅く1匹1匹はさほど強くないという。 だが……その数およそ70匹。 顔をやや青白めさせた和泉は、睫毛を伏せる。 「私が視たのは、少しだけ――ほんの少しだけ未来の出来事なんです。エリューション事件はたった今、現在進行形で起こっています。万華鏡が映した、女性とお年寄りは、もう……」 一般人二人の血を吸いつくした後、E・ビーストは更なる血を求め、桜並木を目指すことが予測される。一般人の車が襲撃された坂道からほど近く、桜の木が立ち並ぶ公園があり、深夜でありながらも、名残の花を楽しむ多くの一般人がそこで酒宴を設けているのだ。 そこへE・ビーストが到達すれば、花見客はパニック状態となり、また多くの犠牲者が出るだろう。 ――それを、止めて欲しい。そう言って和泉はリベリスタたちをまっすぐに見つめる。 「万華鏡では、第3の人物が何者だったのかまでは掴めませんでした。何か――そう、カメラが少し、視えたんですが……なんだか嫌な感じがするんです。どうか皆さん、お気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳥栖 京子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月26日(金)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ひとひらの花弁が、風に運ばれてふわりと舞った。 提灯の明かりと談笑の声に彩られた公園の傍を、夜闇に紛れて駆けぬける。向かう先、エリューション事件が今まさに起こっている現場の坂道は、空を覆わんばかりの大木が深い闇をなし、弱々しい街灯の光も物寂しい。 『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)が先陣を切り、坂道を疾走する。 前方に見えてくる、白く蠢く虫の姿。ルアは背後の公園に集うたくさんの命と、坂道の上で既に失われた2つの命を思う。 「これ以上殺させない。私が護られていたように――普通である幸せを護ってみせる!!」 凄まじい速度から生み出された残像が、十数匹の蟲を切り刻む。 『狂奔する黒き風車は標となりて』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)がルアに続き前衛に立つと、見える限りの蟲を暗黒の瘴気で呑み込んだ。 「うわあ……やだなー、虫の大群。まあ、始末しないと犠牲が出るわけだし、やるしかないか!」 フォーチュナからもたらされた情報によれば、坂道を降りてくる蟲は約50匹。しかし這いずる蟲の歩みは遅く、また坂道もカーブの先が見通せないことから、幸か不幸か、視認できる距離にいる蟲は十数匹にとどまる。 「こやつらを73匹も相手にするとなると、怖気が走るが……そうも言ってはおれんな」 蟲を灼き払う雷光の衝撃に深紅のドレスをはためかせ、『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)が呟く。 あまたの戦場で凄惨な光景を目にしてきた『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)も、中型犬ほどもある蟲が蜂の襲撃の如き銃撃を受け、白い体液をまき散らす様には不快感を覚えずにはいられない。 「……これが一般人の目に触れればどうなるか、容易に想像がつく。そうなる前にしっかりと掃除をせねば」 リベリスタたちは坂道の下に位置しており、アスファルトの地面にへばりつく背の低い蟲の姿は、特に前衛の近くにいるものが後衛からは認識しにくい。 「さあさあ春めいて地より虫が這い出る時期デスガ。血より這い出る虫は迷惑極まりないのデス」 フィリスと龍治の攻撃を逃れた前方の蟲を、『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が2丁の肉切り包丁で吹っ飛ばす。 「まとめてさっくり駆除して刻んで撒き散らすデスヨ、アハ」 『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)が放った聖なる光が蟲たちの一部を灼き、『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が破壊力を高めた黒き瘴気で戦場を包むと、視界に入る十数匹の蟲の殆どがようやく消滅した。 大きく傷を負いながらもなお生き残る蟲の1匹が、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の巨銃に打ち抜かれ動かなくなる。 「73体も、よくも今まで表沙汰にならなかったものですね。ごく最近別のチャンネルから引っ越してきたんでしょうか?」 少しずつ増えた――あるいはどこかから移動してきたのであれば、他にも被害を出し、一般人が騒ぎを起こしていても不思議ではない。“突如出現した”としか言いようのない状況に、あばたは何か不穏なものを感じる。 「……とは言え、調査している暇は無いようですからね」 先手をリベリスタに譲った蟲たちが、反撃とばかりに蠢き出す。 ● 最前線にいたルアに、負傷してぴくぴく奇妙な動きをしながらも、4匹の蟲がにじり寄る。 少女の白く滑らかな肌に、むさぼりつく巨大な虫。脚から次々に血を吸われ、その感触に、至近距離で見る蟲の姿に、背筋も凍る。 「――……っ!」 少女は思う。リベリスタになったばかりの頃ならば、こんな状況に、きっと泣いて震えていただろう。 「(けど、いっぱいの戦いを経験したから――“人”を殺しさえしたから、立ち止まれない。私は、走り続けなきゃいけないの!)」 大切な人から贈られた2本のナイフをぎゅっと握り、前を見据えるルア。 カーブの陰から新たに十数匹の蟲が姿を現したのを見るや、行方と祥子は自らの身体に傷をつけた。これ以上、ルア一人に攻撃を集中させるのはまずいと判断してのことである。滴る鮮血の甘い香りに惹きつけられるかのように、蟲たちはルア・行方・祥子の3人に向かって毒霧を吐き出す。 「思ったとおり、出血した相手にたかってくるみたいデスネ」 「これはあれね、ジャングルに行ったら美味しいから食べてみろって、現地の人に勧められちゃう系のいもむしね……こんなのに喰われるなんて、冗談じゃないわ」 蟲の攻撃をなんとか凌ぎきると、ルアは一旦後退し、風を纏うように更に速度を高める。Wアクションで残像と共に地を蹴り、再度敵の渦中へ飛び込んだ。 「たとえ血だらけになっても……負けない!」 龍治が片膝をついて視線を低くし、倒し損なった蟲と新手の蟲の双方を蜂の巣にすると、潰れた死骸の体液で白く染まった地面を、行方が肉包丁を両手に駆ける。 「わらわらと数だけ豊富な虫デスネ! きな臭い虫はさっさと駆除してしまうのが良いことデス!」 数名の前衛だけを突出させる訳にもいかず、岬も中央に眼のついた禍々しいハルバードを構え、坂を駆け上がった。 「長坂橋じゃねーけど1匹も通すわけにゃいかねーかんな! まとめて空間にばら撒いてやっぞー、アンタレス!!」 自らの生命力を犠牲に生み出された残酷なまでに強力な瘴気が、蟲たちに襲いかかる。 新手の蟲をより多く視認できる位置へと移動しながら、フランシスカは坂の上を見上げた。 こうして戦場に立ち、戦場を立体で捉えると――虫は地面の低いところをのたのたと這うばかりで、“上”は完全にがら空きだ。彼女の翼があれば、わざわざ道に沿って進む必要もなく、地形も敵も全て飛び越えて、一般人の車のところまで到達できたかもしれない。先刻行方と祥子が使った方法をとれば、血も枯れ果てた遺体から蟲を引き離すこともできただろう。 ……だが、戦力の分散というリスクを冒しても、命が救える訳ではないならば、そんな行動に意味はあるのか。――答えは人によって様々であろうが。 「(犠牲になった二人には悪いけど)」 既に失われた命より、今息づいている命を守る。それが、今回選択されたリベリスタの総意なのだ。フランシスカが巨鉈を薙ぐと、見える限りの蟲が漆黒の渦に巻き込まれ、約半数が消滅した。 「わらわら来る相手と戦うのは得意なのよ! なんぼでもかかってきなさいっての!」 仲間に押し出されて道から転げ落ちた蟲に、あばたの防御力を無視した連撃がとどめを刺す。もはや瀕死の数匹を、フィリスの放つ雷撃が一掃する。 祥子がただ一人の癒やし手として戦線を支えているものの、少し傷が癒えたかと思えば、死に損なった数匹が前衛に喰らいつき、カーブの死角から現れた無傷の虫が毒霧を吐く。 集中攻撃を受けた仲間の傷は未だ深く、前衛に負傷が蓄積してはいたが――ほぼ確実に先手が取れる敵相手に、リベリスタたちはじりじりと防衛ラインを押し上げている。 更に前へと道を切り拓くべく、ルアは白金と翠石榴石のナイフを手に駆け出した。 ● 「魔力よ――荒れ狂う稲妻となりて、我らの行く道に立ち塞がりし敵を焼き払え!」 フィリスの魔術が闇を切り裂くと、数匹の虫が黒焦げになり、行進から脱落する。 「虫の幼虫ってなんでこんな生理的にキモいんだろー」 血と虫の体液で粘つく自らの脚と、もぞもぞと向かってくる蟲とをうんざりと眺め、岬は瘴気を纏ったアンタレスで一気に薙ぎ払う。 耳をぴんと立てて辺りの音を拾っていた龍治が側溝に落ちていた1匹を目にもとまらぬ速さで打ち抜くと、虫はぱんと弾けた。 現れ続けていた蟲の姿が途絶え、龍治は改めて辺りを見回す。腹から白い液体を垂れ流しながら動かなくなったもの、ばらばらに千切れ飛んだもの、潰れてアスファルトにこびり付くもの……リベリスタたちが進んできた道路は、虫の死骸で溢れ、異様な様相を呈している。 「壮観だな。……花見客が帰路につくまでに、綺麗になっていれば良いのだが」 目前に迫った4つ目のカーブを曲がったとき、赤いハザードランプの点滅が彼らの視界に入った。 「これであと20匹ということですね。――さて、駆除を再開しましょう」 あばたが得物を構え、彼女に気付いてボンネットの上から転がり落ちた蟲に銃弾を見舞う。 車の周囲にわらわらと集まっていた虫たちが、新鮮な血と肉の匂いに刺激されたかの如く一斉に動き出す。赤いランプが一定間隔で闇と白い幼虫の体を照らす、不吉なほど不気味な光景。 車を半包囲するように展開すると、龍治が音を、フィリスが熱反応を探り、祥子がその驚異的な観察眼で周囲を眺め回す。 フォーチュナが見た第三の人物の潜伏や奇襲を警戒してのことだったが――蠢く虫とリベリスタたちの他に、生き物の存在は感知されなかった。そして死者の姿は、ヘッドライトに照らされた道の端にある。 「これではもう、囮にすらならないデスネ」 事も無げに行方が呟く。 老人の遺体は、服だけが真新しく見えて違和感を覚えるほど、骨と皮だけの姿に乾涸らび果てていた。眼窩と口が洞のようにぽっかりと開いて、恐怖に叫ぶかの如く見える。――とても、少し前まで生きていた人間とは思えない。貪欲なまでに血を啜る虫たちも、骨と皮には食欲を刺激されぬようで、遺体は既に虫にたかられることもなく、路上に打ち棄てられている。 「出来るなら、綺麗なまま家族の元へ帰してやりたかったが……すまない」 形の良い桜桃の唇を噛みしめ、魔術書を持つ手に力を込めるフィリス。 彼女の足下に這い寄っていた蟲を、フランシスカのアヴァラブレイカーが串刺しにした。 「とにかくこいつらを片付けるのが先決! 行くよ、まとめてぶっ飛ばす!!」 車の屋根から、中から、茶色い虫の頭が覗き、リベリスタに向かってにじり寄る。 ドアの開いた運転席の奥に、傾いで座る少女の遺体の――祖父と同じくミイラ化した姿を見つけて、ルアはきっと鋭い視線を蟲たちに向けた。二人の亡骸を傷つけぬように、残像と共にE・ビーストを切り刻む。 「――そこか」 龍治の放った銃弾が防御力を無視して虫を貫き、春驟雨のように降りそそぐと、木の枝に引っかかっていた数匹がぼとぼとと地面に落ちる。 「車の下にもいるわ、気をつけて!」 祥子が仲間の傷を癒やしながら隠れた敵の所在を伝えれば、 「害虫は土に還るがいいのデス! アハハハハ!!」 行方が、負傷の少ないその蟲を肉包丁でぶった切る。 前衛に蓄積した傷は深く、特にルアは満身創痍といってもいいほどだが……これまでに約50匹を片付けてきたリベリスタたちは、既に相手の体力や行動パターンを把握していた。 飛びついてくる虫を巨鉈で振り払いながら、フランシスカが己の生命力を瘴気に変えて放つ。苦しげにのたうつ虫の動きが鈍る――もう一押しだ。 「その場からすぐに離れるがよい! でなければその体、全て雷光にて焼き払ってくれる!!」 もはや枯れ果てた血でも吸いたいと思ったか、少女の亡骸に近付く蟲をフィリスの雷撃が打ちすえる。 「もいっちょ行くぞーアンタレス! こいつらまとめて巻き込んでやんよー」 岬の生じさせた暗黒の瘴気に殆どの蟲がだらりと体を弛緩させ動かなくなると、しぶとくもぴくぴく動く1匹に、あばたの銃の連撃が永遠の眠りを与える。 「――駆除完了、です」 ● 件のカメラは、後部座席の一般人の荷物の傍らに、無造作に置かれていた。 リベリスタたちは、万華鏡で確認された少女のデジタルカメラを、中身を確認後、回収することに決めている。 「残しておいて無関係な人に見られたら神秘の存在が広まってしまうデスシ、アークで処分が適当デスネ」 ボクは中身に興味ないデス、そう言って行方は、花見客が接近してこないかどうか警戒するためにその場を離れた。 「第3の人物の手がかりは、これしかないからね。持って帰ったらアークで中の画像を解析してもらおう」 フランシスカが手を伸ばしカメラを取ると、超直観をもつ祥子に手渡す。 「……こんな酷いことする人の、手がかりや思考が見えるかもしれない」 どんな内容が写っていようと目を背けずに直視しようと、ルアは唇を引き結ぶ。 仲間たちに囲まれ、祥子がデジタルカメラのプレビューボタンを押した。 最初に現れたのは、ぶれてぼやけた少女の顔の写真だった。十字ボタンを押し、1枚1枚、画像を確認していく。 近付きすぎていたり、ピントが合わないままシャッターが押されていたり……じっと視ていると目眩を感じるような、滅茶苦茶な写真が続く中――ほぼはっきりと写っている1枚を見つけ、祥子の手が止まる。 「これって……」 眠っているかのような……おそらく命を奪われてすぐの頃の、少女の顔。今は骨と皮だけの死体となり、助手席に座っている彼女の、既に見る影もない瑞々しさに満ちたその顔が、刃物で深く傷つけられている。 「ためらいなくざっくりいってんなー。これやったの、だいぶ危ない趣味のやつだよー」 岬が辟易したように言う。 「何かの記号……か?」 龍治は傷をじっと観察した。どちらの向きから見るのが正しいか定かでないが、額側を上、顎側を下とするならば、直線を組み合わせた記号……『甘』という字の、3本並んだ横線のうち、真ん中の1本を消したような形に、傷は刻まれているようだ。 その後も全ての写真を確認したが、まともに写った画像の方が少なく、撮影者の手がかりになるようなものが写り込んではいなかった。今夜撮影されたものの他には、所有者である少女が撮ったらしき、平凡な日常を写した写真が数枚あるだけである。 「……とりあえず、わかったのは第3の人物がろくにカメラも使えないか、使ったことがないかってことくらいね」 こんなことをする何者かの存在に、粘つくような悪意に、何とも言えない嫌悪を感じながら祥子は息を吐く。 「それで、死骸の始末はどうします? やるならわたしも手伝いますよ。……今月厳しいので」 “掃除屋”を先祖代々生業とするあばたが差し迫った問題を口にすると、リベリスタたちは、ある者は眉をしかめ、ある者は淡々と――蟲の死骸が残る坂道の各所へと散らばっていった。 月明かりも通さぬ、鬱蒼と茂る木々が作り上げた黒き天蓋の下。 「ふざけた真似をしてくれる……第3の人物とやら、また別の事件で出会うかもしれんな」 独りごちたフィリスの言葉が、闇に溶け予言じみて響く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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