● 混沌組曲は序、破、そして急と奏で続けた。 『楽団』は指揮者――ケイオス・“コンダクター”・カントーリオと木管パートのリーダーであるモーゼス・“インスティゲーター”・マカライネンを失った。 『第一バイオリン』バレット・“パフォーマー”・バレンティーノと『歌姫』シアー・“シンガー”・シカリーの二人は生存していたが、多数の楽団員を失った『楽団』が壊滅状況であることには違いない。 アークが奏でた演奏――生命の合唱――はバレットにアークとの再戦の意思を燃え上がらせた。シアーは『ケイオスが望んだ楽譜』を夢見て、バレット共にアークへの再戦を決めていた。 その動機はバラバラであるが、楽団員は指揮者がおらずとも、即興演奏は止まる事が無い。 彼等にとっての戦力は、素材は『死者』である。『急』で失われた戦力は膨大であれど、日本中に蔓延っていた恐怖と社会不安がより強い『楽団勢力圏』である近畿、中国、四国、沖縄での増強に謀った。 同時に、アークに対して一曲奏でるのだ。指揮者の死亡で半ばに終わった混沌組曲の終幕を。 さあ、指揮者不在のアンコールを始めようではないか! ● 次第に暖かくなってきた4月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、『楽団』の追討だ。ご存じの通り、敗走した楽団員はゲリラ的に活動を続けている。その新しい情報が入った」 守生が端末を操作すると、モニターに表示されたのは老人の姿だった。中には見覚えがある者もいた。チェレステと名乗る楽団員だ。幾度かアークと交戦している。 「この爺さんが広島県で発見された。現在、廃ビルに潜伏して、夜になったら街中に死体を嗾けるつもりらしい。そうなる前に止めてくれ」 三高平の戦闘で既に『楽団』の兵力は多くが失われている。しかし、ネクロマンシーにとって兵力の補充はそれ程難しいものではない。命を奪えば奪った分だけ、兵隊は手に入るのだ。 「幸い、こいつが使っていた隠蔽魔術は解析済みで、これ以上の戦力が無いことも分かっている。後は倒すだけだ」 最後の足掻きであると同時に、放置すれば再び大惨事を引き起こす。つくづくその厄介さを感じざるを得ない。だからこそ、ここで指揮者不在のアンコールを終わらせなくては。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達が終わらせてきてくれ、そして、無事に帰って来てくれよな」 ● 無数の死者に囲まれた部屋で、老人は死体に対して癒しの術を用いている老人がいた。 彼の名はチェレステ。 先日、日本中を恐怖の底に陥れたフィクサード組織『楽団』の一員である。ケイオスという指揮者を失ったものの、そもそも『楽団』は少数精鋭。戦力は死人を集めるだけで補充できるのだ。それ故に、最悪1人でも生き残れば軍隊を再編できる恐ろしさがあり、多くの楽団員は「アンコール」を目論んだ。 「さて、私はどうしたものでしょうか」 施術の最中に誰にともなく問いかけるチェレステ。 先の戦いで、チェレステが永遠と信じた主――ケイオス・“コンダクター”・カントーリオは死んだ。当初は後を追おうとも考えたが、他の楽団員と合流する内に、有耶無耶になってしまった。今、死体の「手入れ」を行っているのもそれが理由だ。 チェレステが得意とするのは「楽器の手入れ」。それは表世界においてはピアノの調律などを指しているが、『楽団』の内部においては死体の修復能力を指す。演奏の腕前も並みよりは上であるが、他の楽団員のように一流のものではない。 そんな自分が分を弁えない振る舞いをしたために、主は「あり得ない敗北」を喫した。 チェレステはそのように感じていた。 「つくづく理解できません、『白の鎧盾』の方々は、何故全てを失ってまで戦うことが出来たのやら」 最後の施術を終えて道具を仕舞い込むチェレステ。このような感想を抱くのは、得意とした能力の都合上、『白の鎧盾』のリベリスタを扱う機会が多かったからだ。 忠誠を捧げる主を失った時点で、チェレステは戦う理由を失った。ならば、いっそ泉下に一刻も早く旅立ち、主の元へと向かうべきではないかと考えてしまうのだ。 そこで、現在『楽団』を率いている2人の幹部のことを思い出す。アンコールを決めた2人の心中は如何なるものであろうか。 『歌姫』シアー、『第一バイオリン』バレット。そして、多くの楽団員。 彼らには望みがあるのだろう。 シアーは言わずもがな、バレットは自らの曲を奏でるため。比較的常人の感性を持つチェレステに彼らの考えは及びもつかないが、大方間違ってはいないと思われる。 ならば、自分の望みは……。 『あぁ、爺さん。もう1曲聴かせてやろーぜ』 その時、ふとチェレステの脳裏にバレットとの会話が蘇った。 撤退後、合流した直後のものだ。思えば、あの一言でこの数日を生きていたようなものである。 「なるほど、我ながら愚かなものです。既に出ていた答えを探しあぐねていたとは」 老人は立ち上がると、替えに用意した汚れのない燕尾服を取り出す。コンサートにはそれが必要だ。 そう、まだ混沌組曲は終わっていない。 だから、自分は幹部に従って戦うことを選んだ。 「混沌組曲は残っております。ならば、その演奏を日本中(コンサートホール)に響かせるのが私どもの使命」 続けよう。そして、死者の軍勢を進ませよう。 いずれは自分もその軍勢の中に組み込まれようと、歩みの途絶えるその瞬間まで。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月24日(水)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「ふむ……おそらくはアークでしょうか」 チェレステはビルの屋上でため息をつく。 定時連絡で同じく「アンコール」に動いていた楽団員達との連絡がつかなくなっている。連絡がつかなくなったということは、おそらく敗北したのだろう。戦略的に見て当然の結果かも知れない。あの戦力で攻勢を仕掛けて敗北を喫したのだ。それ以下の戦力で勝利出来る可能性は低いだろう。不意打ちでならいくらでも工夫しようがある。しかし、アークには『万華鏡』があるのだ。 その時、ビルの下から戦闘音が聞こえてくる。 神秘に生きる者なら何事が起きているのか、理解は難しくない。リベリスタ達が来たのだろう。いつも通りに隠蔽術式も施していた訳だが、既に『万華鏡』の前には役に立たないようだ。 「良いでしょう、いつかは戦わなくてはいけない。であれば、それが早くなっただけの話です」 チェレステは「安寧の館」を手に取る。 生者(アーク)と死者(ケイオス)の奏でる最後の曲。 アンコールの幕を開けよう。 ● これは既にリベリスタ達にとっては、ある種の「手慣れた作業」に変わりつつあった。 相手が動かなくなるまで、とりあえず殴り続ける。 アークのリベリスタで「今までに破壊した人の形の何か」の数を正確に覚えているものは、最早それほど多くは無いのかも知れない。それでも、ここでそれを止めるわけには行かない。 失われた命のために! 楽団の悪事を止めるために! 「ふぉおお……来いっ!」 「浄化の炎を……!」 『魔獣咆哮』滝沢・美虎(BNE003973)は腕を大きく振り回すと、死者の群れの中に突っ込んでいく。正直こいつらとの戦いはお腹いっぱいだ。これ以上、こいつらを暴れさせてやるわけには行かない。 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は破邪の詠唱を詠み上げ、浄化の炎を戦場へと呼び込む。その瞳に宿るのは怒りでも憎しみでも無く、ただ哀しみのみ。だから、終わらせるために戦う。 「今こそ、戦いの時です」 長い金髪を風に揺らし、凛とした表情で『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は宣言をする。すると、にわかに光がリベリスタ達の身体を包んだような気がした。 それはまさしく、敵を殲滅するために与えられる神の加護。 傷ついてもなお戦い続ける勇者たちに与えられる祝福だ。 日本を襲った未曾有の危機、楽団襲来。それに最後を告げるために、これ程ふさわしい力はあるまい。 「作戦の為とはいえ、両手に花って奴だねえ。いやー、おじさん頑張っちゃうよ?」 「ほらほら、そんなこと言っている暇があったらどんどん攻撃していくよ!」 「あいよ!」 光の中、叱責の言葉を飛ばす『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)。すると、いつものようにへらへら笑いながら、緩い物腰で『道化師』斎藤・和人(BNE004070)は銃を抜き放ち、屍人の頭を撃ち貫く。その際に、脇にいるニニギアとルナを庇うことも忘れてはいない。片方は彼の倍ほど生きた「少女」であるわけだが。 楽団員の1人、チェレステが潜む廃ビルの前で戦闘は始まった。 敵方は準備が整えば、近くの街へと侵攻を開始して、「兵力」の補充に努めるのだろう。それはさせてはならない――これ以上やらせるわけには行かない作戦だ。 しぶとい相手で今までにも逃亡を許している。だからこそ、ここで確実に倒さなくてはいけない。 そこで、ルナは建物の周辺に「陣地」を展開させる。このボトムチャンネルに降り立って身に付けた技術だ。並みの相手であれば、逃亡を行うことは出来なくなる。 加えて、 「全部まるっとお見通しだぜ! ラヴィアン・アイ!」 『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)の太陽のように明るい瞳がキュピーンと輝きを見せる。彼女の視界の中で、ビルの壁1枚が消えて行く。中のルートは想定通り。加えて、逃走経路と思しき道も、丸見えだ。これで屋上にいるフィクサードの逃げ場は何処にも無い。 「みんな、後は屋上の奴をぶっ飛ばすだけだぜ!」 「あぁ、奴の匂いは覚えている。絶対に逃がすもんかよ!」 ラヴィアンの言葉を受けて、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が強気に微笑む。その胸で鎧に刻まれた紋章が燦然と輝く。先の戦いで、「白の鎧盾」への手向けとして刻んだもの。 あの時はケイオスを倒してみせると言う誓い。 そして、今この場においては、この悲しい戦いを終わらせるという誓いだ。 以前、刃は届かなかった。しかし、今度こそ届かせてみせると言う誓いと共に、ツァインは刃を振るう。 「そらそらそらそらぁ!」 屍人の群れの中、『合縁奇縁』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)は荒れ狂う竜巻のように戦っていた。その姿はまさしく、破壊の怪物(フリークス)の称号にふさわしい。 圧倒的な勢いを前に、屍人共は纏めて吹き飛ばされてしまう。 しかし、その戦いぶりとは裏腹に、竜一の心の中は哀惜の念で満たされていた。 (こいつらも普通な誰かの命があったんだろうが……。いや、そういう思索は、戦いを終えてからにすべきだね) 迷いを振り切るかのように、一層速度を上げていく竜一。 その時、壁のようにリベリスタ達の侵攻を邪魔していた屍人達の一角が崩れた。 そこへ『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は迷わず飛び込んでいく。 背中の青い翼に背負っているのは、単にリベリスタとしての使命感だけではない。 死者の解放とこれ以上犠牲者を出さない為、何より「白の鎧盾」のリベリスタ達やチェレステと戦ったリベリスタ達の想いが込められているのだ。 「逃げるなよ、チェレステ。この望まぬアンコールを、そして混沌組曲を終曲させに行きますから!」 ● 「……見つけました。今度こそ……終わりにしましょう、死霊術士チェレステ。先に逝った方々の後を追わせて差し上げます」 「いらっしゃいましたか、エーレンフェルト様」 ユーディスが屋上へと繋がる扉を破壊すると、はたしてチェレステはそこにいた。 心の剣も折れたのなら、見ていなさい。私達は……この悪夢を、振り払ってみせる あの日、その言葉を誓った男(フィクサード)はもういない。彼の亡骸は三高平に葬られている。しかし、今こそ誓いを果たす時がやって来たのだ。 「ケイオスを倒して日本を守った。だけど、まだ終わりじゃねー」 ラヴィアンが拳を鳴らしながら姿を現わす。その幼い瞳には悪に対する純粋な怒りが燃えていた。身勝手な芸術家の気まぐれで、どれだけの犠牲が出ただろうか。それはもはや計測することすら虚しい。だからこそ、失われた魂のためにもここで終わらせるのだ。 しかし、当の芸術家に仕えた老人に終わらせるつもりは毛頭ない。 「如何にも、これより終わらない夜は始まるのです。永遠なる『混沌組曲』が」 「違う!」 ラヴィアンが叫ぶ。胸の怒りを、悪を討つ力へと変えて。 「楽団がまだ暴れるっつーなら、最後の一人までぶっ潰す! 指揮者不在のアンコールなんざ認めねーよ。さっさと地獄へ落ちな!」 「その子の言う通りよ、チェレステ」 哀しみを湛えた瞳をチェレステへと向けるニニギア。 瞳に込められた感情の色は違えど、願う結末は同じ。 「左様でございますか、ドオレ様。しかし、我が魂はケイオス様と共に在り。あの方が用意した譜面を実現することが、私共の使命なのです」 「チェレステ、指揮者を失ってなおも止まらないのね」 老人の意志は変わらない。如何なる言葉を尽くしても、無理なのだろう。 これ以上、死を見たくはない。 わずかな可能性であれ、仲間が死地に身を置くような真似も避けたかった。 しかし、ここまで来ては止めることは出来ない。 だから、胸のブレスレットへと手を当てて、覚悟を決める。この戦いを終わらせるための覚悟を。 「死者への冒涜も、生ける者への脅威も、ここで私たちが何としても止めるわ」 哀惜を胸に覚悟を決めると、ニニギアはキッとチェレステを睨む。 すると、老人はヴァイオリンを構えて、自らの前に屍人を配置する。 「まさかここまで拗れるとはねぇ……。ったく、イヤんなる程しぶといじーさんだな」 そして、ニニギアを庇うように和人はすっと前に立つ。 相手の能力を考えれば、持久戦が発生するのは明白だ。だったら、回復役を最後まで立たせた方が勝つ。そして決着を着けるため、今日はそれを自分へと課したのだ。 「褒め言葉と受け取っておきましょうか、斉藤様」 「なるほど、たしかに厄介な相手っぽいな」 チェレステと初対面の竜一が苦笑を浮かべると、和人も肩を竦める。 この老人が得意とするのは、その回復力を頼みとした持久戦だ。加えて、厄介なことにその中で勝機を探し、必要とあれば引き上げる老獪さも備えていた。 和人もそれは十分承知している。だからこそ、だ。 「まー、三度目の正直って奴だ。今度こそ仕舞いにさせてもらうぜ」 「かくして老兵は去り、俺らのような若兵は歩み続ける。俺もいつか舞台の上で死ぬまで、ね」 そして、場に一触即発の空気が高まって行く。 リベリスタ達はいつでも攻撃を仕掛けることは出来るし、チェレステも屍人を動かすことが出来る。ただ、互いにそのきっかけを探している。確実に相手に機先を制するチャンスを狙っている。 4月にしては冷たい風が、両者の間を駆け抜けた時だった。 チェレステはふと、ツァインの盾に刻まれた紋章に目を止める。 「ウォーレス様、何故あなたはその紋章を? あなたと『白の鎧盾』の間に関連は無かったと思いますが」 この場においては隙にしかならない疑問。しかし、チェレステは思う所もあったからか、つい質問してしまう。 対して、ツァインも無視すること無く答えた。 「ユゼフさんも死んだ。この格好をする意味はないのかもしれない。でも、俺の中ではまだケリがついてないからな」 「彼らの代わりに、ということですか……何故、あなた方はそこまで戦い続けるのでしょうか。戦い続けても、何も還ってこないというのに。その先に何も無いというのに」 チェレステの言葉に、ツァインの中にあった感情が弾ける。 「分からねぇか、敵がお前等だったからだよ」 この老人は、生粋の死霊術師なのだろう。なまじっか死に親しんでいるせいで、生きるということを忘れている。だったら、言ってやろう。この男に分かるはずは無い。だけど、言ってやる。 自分は『白の鎧盾』ではない。だけど、その魂は同じところにあると信じているから。 意地なんて言葉で説明つくような安っぽい感情じゃない。もっと強い想いがあったはずだと信じている。 「仲間の体弄ばれたまま退きたくなかったんだ! そんな人達ばっかりだったんだろうよ……でも、それは、弱さなんかじゃ決してない」 「お互い生き抜いても、得て失ったものは違ったみたいですね」 冷静に告げる亘。 目の前の老人は、死から何も汲み取ろうとしなかった。 ただただ、主を失って、道を見失っただけだ。 だが、亘は違う。 楽団と戦って何度絶望したことか。何度、力の無さを悔しく思ったか。 しかし、それとは裏腹に仲間達と自分自身の命の重さを、これ程尊く感じたことは無かった。 今なら、胸を張って生き抜く覚悟を持って戦うことが出来る。 「なぁ、大人しく国に帰らないか? 貴方にも家族とか、いないのか? 国に帰って静かに暮らすなら、逃げてもいいんだよ? どうして……どうして負けが分かっているのにまだ戦うの?」 美虎もまた、楽団と戦う中でわずかに命を奪い合うことに疲れていた。だからだろうか、意外にもそんな言葉が出てしまう。 こんな問答は今更かも知れない。この老人は既に立ち止まれなくなっているのかも知れない。 そして、そんな少女に老人はわずかばかり悲しげな表情を浮かべて応えた。 「私は……年を取り過ぎたのでしょう。それなりに力を身に付けたつもりでしたが……そう、あなた方のような強さはもう無いのかも知れません。故に……戦うしかないのです」 その時、階下から屍人が歩む音が聞こえてきた。 下に残してきた戦力が這い上がって来たのだ。 もはやこれ以上、時間は無い。 「分かった、どうしても死に場所が欲しいのなら……殺してあげる」 美虎は構えを取ると、咆哮と共に飛び立った。 ● 次第に消えゆくように。 チェレステの演奏を評するのなら、そういうことになる。 最初は全戦力をぶつけることが出来るために、派手にクライマックスは始まった。しかし、見る見る内に兵力は減って行く。 屍人はリベリスタ達に飛び掛かりその血肉を貪ろうとする。 しかし、『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が張り巡らせた力場が攻撃を阻み、通った攻撃もニニギアが癒してしまう。 「彼らをやらせはしないよ」 「言ったはずよ、何としても止めるって」 ラヴィアンの操る黒鎖が葬送曲を奏でる。屍人達、そしてチェレステも絡め取り、動きを封じて行く。そして、そこを美虎が駆け巡る。 「これが俺の演奏だ! ブラックチェイン・ストリーム!」 「折って丸めてゴミ箱行きだっ! とらぁ……でぃすとらくちょん!」 次々に破壊されていく屍人達。 その間隙を縫って、白い光が戦場を突き抜ける。 「アンコールの強制観賞など観客の誰も、貴方の兵隊達も望んでいない。求めるのは閉幕のみ」 ユーディスがチェレステへと肉薄した。 彼から受け継いだものを、次へと繋ぐために。 「無念の内に散った人々に代わり、私達が……終わらせます」 ユーディスのランスが、声なき人々の無念を背負って清冽に輝く。 その輝きはチェレステの肉体を支える魂の加護を打ち砕く。その加護無くしては、如何な死霊術師と言えど、不死性を発揮することは叶わない。 老人は身を捩って、鎖から脱しようとする。 しかし、その時銃声が鳴り響く。 「ほーんと手こずらせてくれたぜ、じーさん。同じ様な演目じゃ客も飽き飽きするだろーし、そろそろ終幕と行こうぜ?」 和人の銃が狙ったのはチェレステの破界器「安寧の館」。これが破壊されては、彼の戦闘力はほぼ奪われたも同然だ。 バキッと派手な音を立てて、破界器が砕ける。 チェレステが鎖から脱したのは、その数瞬後。 ほぼ全ての戦闘力は奪った。しかし、リベリスタ達はチェレステを無力な老人とは見ない。最悪、この状況からでも、逃がせば戦力を構築し得るのが楽団員だ。 「幕だ。じいさん、あんたの夢は此処で終わりさ」 「これ以上負けられません。もう一度、生き抜く覚悟と共に自分は貴方の命を貫き絶ちます!」 立ち上がる可能性すら許さない苛烈な斬撃。 守りの誓いを乗せた重たい一撃。 何よりも速く逃げ場を与えない刺突。 リベリスタ達の持つ最高の攻撃がチェレステを襲った。不死性を奪われれば並みの肉体しか持たないネクロマンサーに耐える術は無い。 「我が魂は……」 圧倒的な攻撃力を前に、逃げようとするチェレステ。 しかし、この屋上から逃げ場は完全に奪い去られていた。 そして、最後の一撃を受けて、廃ビルの屋上から身を躍らせる。 「我が魂は……ケイオス様と、共に……在り……」 それがチェレステの最後に口にした言葉だった。 「あばよ楽団、アンタの公演、これにて終幕だ」 ツァインが大地に倒れて動かなくなったチェレステを確認して呟く。 もう、ヴァイオリンの音色が聞えることは無かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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