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TALPAROID 人工生霊のラブレター

●精霊学者、八幡縊吊
 高等精霊学。
 この世界に人類と呼べるものが存在した時点から、それは身近な学問であったはずだと、初老の研究者は語った。
 彼の名を八幡・縊吊(やわた・くびつり)という。
「人間は体、霊、魂の三層で構成されておる。『体』とは人間がこれまで起こしてきた確定的事象の物理集合体じゃ。人間の体を調べればそれまでどう生きてきたか分かるというじゃろう。どころか、やろうと思えば過去何億年までさかのぼって記録を見ることも可能じゃ。対して『魂』は未確定事象の精神集合体じゃ。噛み砕いて言えば、その人間が未来に何をするべきか、何をしようとしているのか、誰になろうとしているのかを示す運命の設計図とも言うべきものじゃな。もちろんこれらは時間軸にそって変動を続け、一定の状態を保つことは少ない。その間に挟まれているのが『霊』。人間が時間軸状で総合的にお越し得る確定的事象と未確定事象の二つをそれぞれ記録、演算したものだと考えることが出来る。幽体離脱の理屈もこれで説明がつく。過去の物理集合である体と未来の精神集合である魂の間に大きな乖離が起きたとき、中間にあるべき現在の霊が肉体から引き離されるんじゃ。わかるか?」
「いいえ、全く分かりませんわ、八幡ハカセ」
 金髪の女性がくるりと振り返った。
 実り豊かな体つきをした、二十代前後の女である。
 しかし顔つきや肌の色はいかなる国籍の人間ともとれず、どころか肉体は微弱に透過していた。
 幽霊や精霊という呼び方が、この場合は適切だろうか。
 体は地面から僅かに浮き上がり、風もないのに髪がふわふわと靡いている。
 それをして、女の美しさたるやは筆舌に尽くしがたく、この情景だけを切り取り、いつまでも眺めていたくなるような有様であったが……しかし。
「この、化け物めが……」
 刀を握ったフィクサードらしき男が、片膝をついて呟いた。
 周囲には、彼の他に十数人の死体が転がっている。
 死体、である。
 フィクサードの死体と、リベリスタの死体である。
 つい数十分前までは互いの確執だか何だかでリベリスタとフィクサードによる戦闘が行なわれていた筈だった。
 そこへ突如、この女が天空から舞い降りたのだ。
 敵か味方かもわからぬまま、両者に対し平等に攻撃を始めた彼女にほぼなすすべ無く惨敗。残るは彼一人となってしまった。
 立ち上がり、刀を振りかざす男。
「こうなれば、差し違えてでも……!」
 突きの姿勢で飛びかかり、女の腹へと刀を突き出す。
 その時だ。
 ぐにゃりと女の腹部に渦巻きが生じた。まるで上昇気流に穿たれた雲のように、ぽっかりと穴が生まれ、刀がその穴を通過。何の手応えもなくおとこは女の胸に顔を埋めることになった。
 左手を後頭部に添えられ、ぴたりと固定される。
 まるで抱かれているかのようだが、違うのだ。
 女の右手が突如巨大なオオカミの顎と化し、男の頭部を食いちぎる。
 首から下だけになった男が、その場に崩れ落ちた。
 ふむ、とそれを見ていた初老の男が顎を撫でた。
「運用実験のつもりじゃったが、こうも圧勝するとのう……選ぶ相手を間違えたか?」
「もう少し、お強い方を用意しますか?」
「そうじゃなあ……この前日本に来たバロックナイツ辺りが迷惑かからなそうで手頃そうじゃったんだが……いつの間にか潰れたのう。どこがやったんじゃったか、ええと……」
「『アーク』」
 女の唇が動いた。
 おおと唸る男。
「それじゃ、そいつらに頼もう」

●タルパロイド第十三試験体、チョクスム
「招待状が届きました。ご覧になりますか?」
 眼鏡をかけた男性フォーチュナが、抑揚の乏しい声で言った。
 無言で受け取ってみると『親愛なるリベリスタ大組織、アークの皆様方へ』という書き出しの後、このように続いていた。

 『お見知りの無い身でありながら、突然のお手紙をお許し下さい。
 わたくしは人工精霊生物顕現実験第十三試験体、チョクスムと申します。
 身の上をお話することはいささか迂遠になりますでしょうし、アークの皆様におかれましては『お察し頂く』ことに遠慮はいらないものと伺っております。
 それゆえ、単刀直入に申し上げますことをご了承くださいまし』

「…………」
 やけに丁寧な文章である。文字もどこか丸みがあって、しかし筆圧の穏やかさから淑やかな女性を連想させる。
 便せんがなぜか厚手の和紙であることを覗けば、ラブレターのようにも受け取れた。
 続きを読んでみる。

 『このようなことを初対面でお願いすることもぶしつけではございますが、
 どうか皆様と戦闘をさせては頂けませんでしょうか。
 バロックナイツを打ち破る現代のリベリスタ組織、アーク。
 死体をほぼ無尽蔵に繰り出すカントーリオの圧制をはねのけるそのタフネス。
 皆様のご活躍は聞き呼んでおります。
 そんな皆様と比較して、わたくしがどれだけの戦闘能力を発揮できるかどうか。
 それを見極めさせていただきたい、という申し出でございます。
 たいへん稚拙な物言いではありますが、仮にお断わりを頂きますならば、別の脆弱な組織を標的にすることとなってしまいます。
 わたくしとしましては、死体を多く積み上げること忍びなく、どうか敵をして「殺しても死なない」と言わしめる皆様のお力を借りること、御許容いただけませんでしょうか』

 最後に、『ご都合がつきましたら印旛沼までお越しくださいませ』と手書きらしい地図と日時が書き添えられている。
 フォーチュナは返された手紙を受け取って、小さく頷いた。
「非常に丁寧で遠回しではありますが、『戦ってくれなければその辺の弱い奴で試すぞ』という意味にもとれます。悪意があるかは不明ですか、危険人物には違いないでしょう。これを放置することはこちらとしても許容しかねますので、現地に赴いて殲滅してください」
「殲滅って……」
「殺してください」
 眼鏡のフォーチュナは全く抑揚の無い声で言った。
「安心して下さい。どうやら『あれ』は、八幡博士という人間によって制作されたアーティファクトですから」
「アーティファクト……」
「タルパロイド・シード。一定量のエリューションフォースを収集、結合し、疑似人格を持った精霊体を顕現させるというものです。体を自在に変容・変形することが可能で、戦闘力は……そうですね、今回八名ほど送るとして、互角になる程度でしょうか」
「しかし、殺すっていうのは……」
 怪訝顔をするリベリスタに、フォーチュナは首をかしげた。
「表現が気に入りませんか? 破壊や削除でも構いませんよ。現地には八幡博士とやらも見物に来るようですが、戦闘終了後に彼もついでに殺害し、アーティファクトを強奪しても構いません」
 手紙をコピーしたと思しきものを差し出すフォーチュナ。
「後はお任せします。以上です」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年04月24日(水)23:17
八重紅友禅でございます。
補足をちょこちょこ書きます。

●チョクスム
 アーティファクトによって顕現した人型のなにかです。
 美しい女性の姿を基本として、あらゆる形に変容ができ、それをそのまま攻撃や防御に転じることができます。
 とはいえEフォースと理屈は同じなので、リベリスタの攻撃は普通に通りますし、戦闘に特別配慮をしなければならないということもありません。
 一応パッシブ機能としてチャージとリジェ、そして行動開始前の自動BS回復(50%)、及び疑似飛行能力がついています。一対多の戦闘や連戦を想定した設計なのかな、と思います。

 相手の意志にそって考えるならば、赴いたリベリスタが自分らしい戦い方をそのまま見せてやれば満足すると思います。戦闘不能になるとシード状態に戻って休眠しますので。安心して全力ぶち込んでかまいません。
 判断や対応は皆さんにお任せします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
プロアデプト
プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)
覇界闘士
ミリー・ゴールド(BNE003737)
ソードミラージュ
鹿毛・E・ロウ(BNE004035)
デュランダル
芝谷 佳乃(BNE004299)
ソードミラージュ
蜂須賀 朔(BNE004313)
マグメイガス
フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)

●タルパロイド『チョクスム』について。
 印旛沼へと走る移動車の中。『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)は今回自分たちを『誘った』相手の資料をぱらぱらとめくっていた。
「タルパロイドか。厄介な研究のようだ。挑発にのるわけでもないが、被害の拡大は防ぎたい。話に乗っておくとしようか?」
「え、そういう話でしたっけ? 実体化した脳内嫁の性能テストに付き合うって話では?」
 かくんと首を傾げる『残念な』山田・珍粘(BNE002078)。
「そうなのか?」
「判断基準が『迷惑かからなそう』ですし、私たちじゃなければケイオスの楽団相手に無双するつもりだったみたいですから、むしろ被害が縮小する勢いかと」
「よくわからないが……とりあえず撃破すればいいんだな?」
「然様で」
 一応の納得、である。
「それにしても、やっぱり人工精霊と聞けば女性の姿になるべきですよね。いい趣味してます」
「いい趣味ねえ……ま、無差別殺人じゃないだけまだ親切かな。親切なマッドサイエンティスト」
 携帯電話をぽちぽちといじりながら呟く『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)。
 同じく携帯電話をいじっていた『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)がなんだかワクワクした表情で顔を上げた。
「開発者は八幡縊吊……研究者としてはむしろ尊敬するぜ」
「私はなんでも構わん。強敵と戦える場が整っていることのほうが重要だ」
 膝の上に刀を置いて、仏頂面で窓の外をみやる『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)。
 そんな彼女を見て、『天邪鬼』芝谷 佳乃(BNE004299)は頬に手を当てた。
「あらあら、気が合いそうですわね。私も、事情や都合で無理矢理戦わされるのは嫌ですもの。心ゆくまで、身体が満たされるまで……ふふ」
「いや、私はそこまで考えていないが……」
「相手はちょー強いんでしょ? むしろこっちからお願いして戦いたいくらいだわ。お手合わせよろしくお願いしますってのよ!」
 新しいオモチャでも見つけたような顔で、『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)は資料の写真を掲げた。
 金髪の美しい女性である。観賞物としても高い品質をもち、高度な戦闘力や丁寧なコミュニケーションを実現する……ここまで都合の良い存在もなかなかない。
 調べによると、『チョクスム』という名前にはそもそも『十三番』という意味があるらしい。なら『サーティン』とかでもよかったのではと思わないでも無い。
「ですが、一番の決め手はそこじゃありません」
 『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)は写真を手に自らの顎を撫でた。
「僕、おっぱい大きい人のいうことなら大抵きけるんですよ」

●ラブレターと待ち合わせ
 小さなワゴン車の上に、金髪の美女が腰掛けている。実り豊かな身体はうっすらと透過し、肌色や骨格はどの国籍ともつかぬものだった。
 彼女は風も無いのになびく髪を、片手でそっと押さえつつ、近くへ停車した車へと振り返った。
 それはさながら、恋文をあてた相手を待っているそれに似ていたように思う。
「お待たせしました。こちらアークのリベリスタ八名。実力はまちまちですが、いずれも一定水準以上です」
「ふむ、確かに。測定のためにエネミースキャンをしても?」
「おう。こっちもスキャンするけど、いいか?」
 お互いに頷き合い、軽い握手を交わす八幡縊吊と影継。
 二人が綿密なスキャンをかけあっている間、ショクスムたちは軽く戦闘における取り決めを定めていた。といっても、無関係な通行人に被害を及ぼさないとか、破壊が直接被害になるような場所への飛び出しを行なわないとか、およそ戦いに支障の無い程度のものである。
「以上です。準備はよろしいですか?」
 胸に手を当て、首を傾げるチョクスム。
「ああ、こちらの準備もできている」
 こきりと首を鳴らすフェリス。
 一定の距離をとりあい、戦闘陣形を組む。
「話し合いは終わりか? 待ちくたびれたぞ」
 刀を抜く朔。
「正直暇でしたね」
 弓の弦をぴんと弾く珍粘。
 同じく手持ちぶさたで柔軟体操をしていたミリーが、ぐっと身構えた。
「それじゃあ早速、はじめましょ!」

 ゴングというものはない。
 およそあらゆる戦闘においては『戦おう』と決めた時が開始時刻であり、ある意味ではこの地に到着する前から戦いは始まっていたともいえるだろう。
 宙を滑るように飛び込んでくるチョクスム。
 対して珍粘は弓を限界まで引っ張り、闇の塊を投射。漆黒の矢は彼女の右目に突き刺さらんとしたが、接触の直前でチョクスムは眼孔から背中までのトンネルを形成。矢が当たること無く通り過ぎる……かと思いきや。
「だけじゃあ、ないですよ」
 ぱちんと指を鳴らす珍粘。すると彼女の周囲に『スケフィントンの娘』が展開。緊急防御をかけるチョクスム。直撃をさけつつ、繭にくるまった虫のように霧を突っ切る。すぐそばを掠めるチョクスムを横っ飛びで回避する珍粘。
「でっかい的だわ!」
 横合いから飛びかかるミリー。繭に向かって炎の蹴りを繰り出した。
 蹴りは確かに繭の外側を打った……が、内側から出現したのは大量のトゲだった。
 言ってれば、巨大な剣山か何かに足を叩き付けたようなものである。
「い――イィ!?」
 これには流石に血の気が引いた。
 トゲが足に突き刺さった次の瞬間、チョクスムはすぐさま人間型に変形。ミリーの足を掴んだまま勢いよく放り投げた。
「おっと、ナイスキャッチ俺!」
 それを空中に飛び上がって受け止める影継。ミリーを抱えたまま着地。
「見た目で判断すんな。相手は基本スペックだけでもそこそこ高いが、能力の応用がうまい。正直スキャンしただけじゃ分からん強さだ」
 などと言いつつ、影継は興奮気味に笑っていた。
「ものの強さってのは二種類ある。一つが数字で分かる強度。挑んだら大変なことになると一目で分かる強さだ。そういうのは綿密に情報を分析すればなんとかならんこともない。相手にしないって選択肢もできる。ただ恐いのは数字にならない強さだ。やってみなきゃ分からん。分かったときには大体手遅れってケースだ。変形能力だけだと思って甘く見ると一方的に潰されるぞ!」
「望むところだ。『閃刃斬魔』、推して参る!」
 入れ違いに突撃する朔。高速で繰り出した刀が空気を切り裂き、光を超えた速さでチョクスムの胴体を一発でぶった切った。
 いかなる人間であろうとも、身体を腰で分断されては生きていられない。だがチョクスムは違った。分断した上半身を宙に浮かせ、両腕をサソリのハサミに変えて朔の両肩を固定。下半身をまるごと巨大なサソリの尾へと変え、腹へずぶりと突き刺した。
 歯を食いしばる朔。と、そのすぐ背後に巨大な魔方陣が出現。
「四大元素よ、今ここにその力を重ね、立ち塞がる敵をうち払え」
 マジックビームを連続発射。朔の身体だけを上手に湾曲してよけ、チョクスムの肩や下半身(サソリの尾)に大きな穴を立て続けに開けた。
 すぐさま離脱するチョクスム。
「ふん……」
 手を翳して目を細めるフェリス。
 そんな彼女をロウが弾丸のように追いかける。
「参りましょう、僕らしく」
 鞘に収まった刀を掴み、チョクスムの手刀を鞘ごと防御。
 そのまま刀を引っこ抜き、身体のスピンによってチョクスムの腕をぶった切った。
 くるくると回って飛ぶ腕。
 上半身だけになったチョクスムは一度くるんと卵の形に自らを丸めると、砕けた殻から青い鳥となって飛び出した。ロウの肩をかすめるようにして突っ切ろうとするが。
「逃がしませんとも」
 振り向きざまに刀を突き出し、鳥の身体を貫通。
「さ、今です」
「どーも」
 指をピストルの形にしたプレインフェザーがピンポイント・スペシャリティを連射。鳥は木っ端みじんになって砕け散った……と見せかけて。
 地面に散らばった鳥の肉片と羽毛は、突如として大量のカッターナイフに変形。
 周囲へと散らばり、ロウたちの身体を細かくひっかいた。
 なんという荒唐無稽さ。とはいえ舞い散るカッターナイフの中に飛び込む人間などいない。
 プレインフェザーとフェリスがいっそのこと射撃で薙ぎ払ってしまうかと構えたその時。
「よき戦いをたのしみましょう、さあ!」
 目をギラギラと輝かせた佳乃が、あろうことか荒れ狂うナイフの群れへと飛び込んでいったのだった。
 むりにそんなことをしたのだ。着物は無残に引き裂かれ、血や小さな肉片が飛び散る。太い血管をやられたのか血しぶきがパッと散った。
「いいですわ、これです、これ……」
 佳乃は官能的に微笑むと、自らの血で染まった上唇を舐めた。
 そして、握った刀でもって大回転斬り。直接的な打撃はもとより、彼女の風圧と、同時に纏わせていた紫電によってナイフの群れは一斉に打ち払われた。
 ……が、チョクスムが死んだわけではない。払われたナイフの群れは一箇所にあつまり、女性のボディを形成。すべてが形作られるのを待つこと無く、天から降ってきた自らの腕をキャッチ。二本の腕を組み合わせカマキリの腕とすると佳乃を袈裟斬りにした。
 それをあえて避けること無くうけとめ、刀を突き刺す佳乃。
 『ンッ……!』という嗚咽のような声がチョクスムから漏れ、またも佳乃は官能的に笑った。
「貴女、いいですわよ、とても」
「おっと、独り占めはよくありませんね」
 突風。
 ではない。
 ロウと朔が凄まじいスピードで接近し、刀を繰り出してきたのだ。
 佳乃からすぐさま飛び退き、チョクスムは両腕を所定の位置に装着。腕そのものをクワガタムシの角へと変えると、繰り出された斬撃を受け止めた。
 が、ここは速度型の二人である。初撃のような『一発斬ってはいおしまい』では断じてない。
 二人はチョクスムの周りを非人間的な速さで回ると、これまた目にもとまらぬスピードで連続斬撃を繰り出した。それを虫の角で打ち払っていくチョクスム。
 その様子を眺めるフェリス。
「まるで腕が何十本もあるかのような角さばきだな。奴はそこまで素早いのか?」
「いや……」
 影継は口元をおさえて目を細めた。
「『あるかのような』じゃない。腕が十本に増えてるんだ」
 途端、チョクスムの足下に巨大な花が咲いた。否、それは口をあけた食虫植物であった。
 バクンと閉じる口。
 閉じ込められるロウと朔。
「よくもまあ色々と変じるものだ」
 フェリスは口の中で小さく詠唱。魔曲・四重奏を連続発射して食虫植物へと浴びせかけた。
 無数の穴が空く。それがじんわりと広がった一瞬の隙をつき、ロウたちは植物を内側から切り裂き、離脱。
「一度距離を稼いでくれ、できるか」
「ま、いけるんじゃね?」
 プレインフェザーは助走をつけてジャンプ。チョクスムにタックルをしかけると同時にJ・エクスプロージョンを発動。思い切り彼女を吹き飛ばした。
 爆風で酷いことになったのか。チョクスムは頭と右腕だけの状態で空中を浮遊する。
 が、飛び散った破片もまたチョクスムの一部。それらは突如としてコオロギの群れへと変じ、黒い渦となってとびかかってきた。
 そこへ、あえて飛び込んでいく佳乃と珍粘。
 佳乃はともかく(本当にともかく)珍粘にまで被嗜虐趣味があったのか?
 そうではない。
 身体に蓄積した膨大なダメージを、漆黒の渦へと変えて取り出したのだ。
「どうぞ、痛みを返す呪いです。うふふふふ」
「痛み返しだなんて、なんだかうらやましい。うふふ」
 二人は怪しく笑うと、ペインキラーとメガクラッシュを背中合わせに繰り出した。
 はじけ飛ぶコオロギの群れ。
 再び一箇所に集まり、ゾウガメの甲羅へと変身。
 そこへミリーが今度こそとばかりに飛びかかった。
「休ませてなんて、あげないってのよ!」
 焔腕の拳をきっかけに、膝蹴り肘打ち手刀に掌底、ハイキックにドロップキックと多彩な打撃を叩き込み、最後には……。
「おまけよ!」
 ゲヘナの火を発射。チョクスムを炎に包んだ。
 焦げ付いた身体のまま人間型へと変身するチョクスム。
 そこへ、全力ダッシュした影継が突っ込んでいった。
「最後は俺だ、斜堂流を見せてやるぜ!」
 飛び込むというのは、それそのまま『飛び込む』である。
 真っ向から受け止めるチョクスム。しかし彼女の腹は獅子の顎と変じ、影継の腹を思い切り食いちぎった。
 にやりと笑う影継。
「チョクスムの容貌が美しいのも、丁寧な手紙が書けるのも、人工精霊が戦闘のみの存在ではないことの証明だ。不確定な身体がもつ霊魂ってやつを、俺は知りたい!」
 まるで抱き返すように腕を回すと、影継は爆発した。
 血を吹き上げつつ落下する影継。
 対してチョクスムは、それまでの身体を維持できずに消失。どこかで流動し続けていたと思しき核だけを残して消えたのだった。
 くるくると回って落下する核、タルパロイドシードをキャッチする珍粘。
「んー。シード、ゲット」
「あちゃあ、耐久限界を超えたか!」
 ワゴン車横で観測していた八幡ハカセは、額を手のひらでぺちんと叩いた。
 なにやら熱心にノートへペンを走らせたり、視点同期型のカメラの倍率をいじったりとなんだか忙しそうだった。
 武器を手に振り返るフェリス。
「次はあいつか。戦闘に流れ込むようならそれ相応の対応をとらせてもらおう」
「いや、あいつはどう見ても戦わないだろ」
 この後『よくもわしのちょくすむをー』と言って押っ取り刀で襲いかかってきたら、色々と台無しである。何のためにやってるんだという話でもある。
 頬に手を当てて何かの余韻にひたる佳乃。
「戦わない相手を殺すのは美学に反しますゆえ、私はこれにて」
「そうか。ならばやることは無い。伏兵を警戒しておくことにしよう」
「そうしてくれ」
 なんだかぼろぼろになった影継が無表情で頷いた。
 さておき。
「これがシードですか。なんだか白くてつやつやしてますね。この中に美しい女性が入っていると? 燃えるじゃないですか。持ち帰って存分に愛でることにしましょう」
「いや別に入っとらん」
「入ってないんですか」
 じゃあいりませんよとばかりに放り投げる珍粘。
 慌ててキャッチしたミリーが、そのまま八幡博士へと放った。
「それは返す。今度はもっとうまく戦いたいのだわ。というか、こういうスパークリングアイテムをアークにも欲しいくらい」
「ふむ。まあ努力はしよう」
 まあ没収はされるだろうなと思っていたのか、八幡博士は咳払いしつつそう言った。
「返して貰えるならそれに越したことは無いが、別に持って行っても構わんのだぞ。よほど鍛錬を重ねんことには暴走は必至じゃが」
「暴走……と?」
 不穏な響きに腕組みするロウ。
「アークならこのアーティファクトの性質はしっておるじゃろう。その辺の思念を収集、合成、顕現する核じゃ。素人が扱えばどんな人格破綻者が生まれるか分かったもんじゃない。容姿も酷いことになるじゃろうしな」
「その人格破綻者が人に及ぼす被害とは?」
「家の内装を全てビビットピンクに統一されたりする」
「それは嫌ですね」
 何だろうその、リアルな人格破綻者は。
 シードをじっと見つめるミリー。
「そもそもなんでコレ作ったの?」
「そりゃあ理想の嫁を作るために決まっとるじゃろうが。と言いたいが、本来は知的好奇心じゃな。『実在するタルパ』が今の研究テーマじゃ」
 余談になるが、タルパという技術は割とリアルに存在している。
 乱暴に説明すると、自己暗示によって作った脳内嫁の幻覚を自律行動させるスキルのことだ。
 ……などと。
 そろそろ話をまとめねばなるまい。
 ロウは刀を納めて言った。
「お望みならアークがいつでも相手をします……と思いますよ」
「だな。アークは強い奴沢山居るし。なんか最近もう一段階人外化しだしたし」
 うんうんと頷くプレインフェザー。
「というか、アークの効力者にならねえの?」
「ううむ。アークは大組織じゃが、最大組織とは言えんからのう。変に阿ねって敵を増やすのは困る」
「何でもいい。だが次に来るときはデータの収集など忘れて、戦いだけをしにこい」
「厳しいのう」
「それ以外は贅肉だ」
 ばっさりと言い切って目を瞑る朔。
「男はその贅肉にときめくモンじゃが。のう掃除屋の」
「ああ、おっぱいのことですか? おおむね同意見です」
「貴様らは……」
 朔はこめかみに指をあてて息をついた。
 それ以上の議論など、もはや必要は無い。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 八幡博士とはそこそこ友好な関係を築き、今回は終了となります。