●冒険者 小高い丘から見降ろすそれは、作りかけの高速道路。まるで宙を駆けるかのように緩く湾曲しながらはるか先まで伸びている。それを見ながら、初老の男性は1冊の本を開いた。つばの広い帽子と、大きなバックパック、不精髭を伸ばした冒険者然とした男性である。 ボロボロになった本には、白黒の写真が載っている。その写真の景色は、今、男のいる丘から見ている景色と一致していた。ただ、宙を走る高速道路だけがその写真には無い。 「想像を絶するような、言葉を失うほど美しい光……と、あるが」 写真には、それらしい光は映っていない。今見える風景にしても、そんな光はない。 「やっとのことで辿り着いて、見つけたというのに……」 男は長い年月、旅をしてきた。自分の世界にはないその写真の景色を見つける為に、世界まで渡って。アザ―バイド(ジョッキー)というのが、彼の名前である。 「とりあえず、あの橋を渡ってみるとしようか……」 そう呟いて、ジョッキーは丘を降りていく。途中に止めていた、バイクに似た乗り物に跨って発進。その乗り物にはタイヤが付いていなかった。僅かに数十センチ、地上から浮いて移動するのである。 ジョッキーが高速道路に乗った、その時……。 彼の背後で、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた。 ●逃走劇 「アザ―バイド(ジョッキー)は、冒険者かなにかのようね。彼の世界にあった本を頼りに、この場所へ来たみたい」 その為に、長い年月旅を続けて来たのだろう。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、その途方もない年月と執念を思って、はぁ、と溜め息を零す。 「そうしてやっと辿り着いてみたら、写真とは風景が変わっていたわけだけど」 それでもジョッキーは諦めることができなかったようだ。長年愛用してきたバイクを駆って、写真には載っていなかった物、つまり高速道路に乗ってみたわけだが……。 そこで彼は、追いつかれた。 「ジョッキーを追っているのは、同じくアザ―バイドである(バット&クロウ)という男たち。盗賊かなにかのようね。ジョッキーの探しているものを、宝かなにかと勘違いして、追ってきたみたい」 ジョッキーが探しているものの正体は、何か分からない。宝である可能性も、捨てきれないのである。ちなみに、バット&クロウもジョッキー同様、バイクに似た乗り物に乗っている。 速度自体は、通常のバイクと同じく数十キロ程度しか出ないようだが地形の影響を受けないようだ。 「まずは追いつく必要があるから。希望があれば、アークからトラック2台と運転手が派遣される。それから、今彼らが走っている場所は作りかけで誰もいないけど、数キロ先で道が分岐。場合によっては稼働している高速道路に合流する」 そうなってしまえば、色々と面倒が増える。できればその前に、追いついてしまいたい。 「ジョッキーには運を引き寄せる能力があるみたい。傍に居るだけで、運が良くなる。一方、バットとクロウには運を悪くする能力がある。傍にいると、運が悪くなるから」 位置取りによって、こちらの行動にいささか影響が出る事に注意したい。 「バットは体を無数の蝙蝠に変える能力を、クロウは体を鴉に変える能力をそれぞれ持っている。動きが速いから、気をつけて」 今回の依頼の目的としては、ジョッキー、バット&クロウの3人を送還、ないし討伐することである。その過程で、一般人に被害者や目撃者を極力出さないようにしてもらいたい。 ジョッキーからしてみれば、リベリスタ達もバット&クロウも変わらない。自らの目的を邪魔する相手でしかないのである。その点にも注意が必要となるだろう。 「誰1人、逃がさないようにしてね。D・ホールは丘の上に開いたままだから、それも破壊してくるように。それじゃあ、行ってらっしゃい」 相手はバイクで移動している。 まずは追いついて、動きを止めよう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月18日(木)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●美しい光を求めて…… ヘルメット越しに風の音が唸る。外の音なんてほとんど聞こえない。後ろを見返す余裕もない。所々舗装すらされていない作りかけの高速道路を、バイクに似た乗り物で高速移動しながら、異世界から来た冒険者(ジョッキー)は、ただただ前だけを見ていた。長い年月、旅してきたのだ。1冊の本だけを頼りに「美しい光」を探して来た。そしてやっと辿り着いたのが、この世界の、この場所だ。 なのに……。 「此処に来て、盗賊どもに狙われるなんて……」 不運を運ぶ2人組みの盗賊。アザ―バイド(バット)&(クロウ)に、ジョッキーは追われているのだ。捕まってしまえば、本は奪われ、彼は殺されてしまうだろう。 だからジョッキーは、ただただ前に、逃げ続ける。 前だけを見ていたから、彼は気付かない。彼らの後ろから迫る、1台のトラックと2台のバイクの存在に。 ●高速戦闘狂騒曲 「バイク一つで世界を渡り巡るって生き方は素直に憧れと共感を抱くが、さて……」 愛車のアクセルを開けてさらに加速。『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)と、バット&クロウとの距離が縮まる。ランディから僅かに遅れて『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)もバイクを駆ってそれに続く。琥珀の操るバイクの後ろには『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が乗っていた。 「後方にいる盗賊2人を抜ける! しっかり捕まってろよ!」 琥珀は、後ろに乗っている行方にそう声をかけた。両手に巨大な肉切り包丁を持ったまま、行方は器用に琥珀の腰にしがみつく。 「なんだこいつら? 何者だ?」 「何者でも構わねぇよ! ぶっ飛ばせ!」 強引にバットとクロウの間に割り込む琥珀。困惑するバットと、憤りも顕わに叫び出すクロウ。クロウの放った影の鴉が、琥珀に迫る。 「大人しく帰ってもらうとするデス」 肉切り包丁を一閃。行方が鴉を切り飛ばす。影の鴉は擦れて消えた。防がれるとは思っていなかったのだろう。クロウは僅かに目を見開く。その隙に、ランディが2人の間を駆け抜け、ジョッキーを追って行ってしまった。 ランディが安全圏まで先行したのを確認し、琥珀もその場を離脱する。バットとクロウは、一体何が起きているのか理解できないまま、ジョッキーや3人を追うべく、バイクの速度を上げるのだった……。 「……さぁ、終幕をはじめようか」 顔の半分だけを覆う道化師の仮面を付けながら『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)がそう呟いた。場所はトラックの荷台である。同じく荷台にはランディ、琥珀、行方の3人を除く他の仲間もスタンバイしている。ジョッキー、そしてバット&クロウが目の前を通過したのを確認し、5人を乗せたトラックはインターチェンジから高速道路へ入る。舗装されていない部分に乗り上げる度に、車体が大きく揺れるが『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)の翼の加護により、落下は免れている。 「言葉を失うほど美しい光、とやらが何なのか、ネットでは見つけられなかったけど」 なんだろうね? なんて、寿々貴は言う。それに答えるものはいなかった。運が良ければ、ジョッキー達を追う中で見つけることもできるだろう。 「なるべく交戦は避けたいですが」 刀を構えて、生多米 生佐目(BNE004013)がバットとクロウに視線を向けた。2人共、背後からトラックが迫っていることに気付いたようだ。鬱陶しげな視線をこちらへ向ける。 「なに追ってきてんだお前ら!!」 クロウが叫ぶ。風の音に半ば掻き消されながらも、辛うじてその声はリベリスタ達の耳に届く。好戦的な雰囲気がひしひしと伝わってくる。 「随分と判り易い2人だねぇ」 苦笑いを浮かべる『眼鏡置き』小崎・史(BNE004227)。眼鏡が落ちないように指で押さえつつトラックの荷台から身を乗り出す。そんな史目がけて、1羽の蝙蝠が撃ち出された。弾丸のような勢いで飛ぶそれを、史はギリギリのところで回避。頬が切れ、血が垂れる。 「……はっ、ほんとに判り易いねぇ」 「おい! 冷静に考えろ、2対8だぜ。それでも突っ込んでくるのがお前達の得策なのか?」 自動小銃片手に『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)が叫び返す。次々と撃ち込まれる蝙蝠と影鴉を迎撃しながら、2人を追いかける。 一歩間違えば大事故へと繋がりかねない、命賭けの追走劇が幕を上げたのだった。 トラック班が2人を抑えている間に、ランディたち3人は順調にジョッキーとの距離を詰めていく。ジョッキーの後方から彼を追走するランディ。いざと言う時に、すぐにでもジョッキーを庇えるような位置取りである。一方、琥珀は更にスピードを上げて、ジョッキーの真横へ移動。追走しつつ、声をかける。 「ボトムの世界へようこそ! 所で、丘へ戻る気はない?」 このまま高速道路を進むと、稼働中の道路へと合流してしまうのだ。そうでなくとも、移動すればするほどに、他者を巻き込む確立が上がってくる。 「何者だ? 君達は? 私になにかようなのか?」 ヘルメットのせいで、こちらの声がよく聞こえていないようだ。或いは、聞こえていてわざと聞こえないフリをしているのかもしれない。疑り深い眼差しが琥珀達へと突き刺さる。 「物見遊山もいいデスガ、無理な事は無理なのデス。探し物を見つけたらすぐ帰るといいうのなら構わないデスガ」 その探し物が何なのか、ジョッキー自身にも判っていないのが現状である。ましてやそれが見つかる保障もない。今のジョッキーは、盗賊達に追われてただ無為に逃げ回っているだけ、という状況なのだ。 「いつまで付いてくるつもりなのだ……」 ジョッキーは3人を引き離すべく、更にバイクの速度を上げる。琥珀やランディのそれと違って、ジョッキーのバイクは浮いているので地形の影響を受けることはない。舗装されていない、ガタガタの道路でも自在に走行でいるのである。ジョッキーはハンドルを引き上げ、車体を上向きに。道路に止められていたロードローラーに乗り上げ、そのまま宙を舞った。 「アンタの求める景色を一緒に見てみてぇんだがな」 唸るようにそう言って、ランディは加速。ジョッキーの進路を塞ぐべく、バイクを走らせる。それを見て、琥珀もまたランディとは反対側からジョッキーに迫る。バイクの後部で、行方がそっと立ち上がった。両手に包丁、足はしっかりとバイクの後部に張り付いている。ハイバランサーと面接着による足場やバランスを気にしない戦闘スタイルだ。もっとも運転する琥珀からしてみればそうも言っていられないようで、僅かにバイクはよろけている。それでも転倒しないのは、ジョッキーの近くにいるおかげで、彼の持つ幸運の影響を幾分か受けているからだろう……。 「足止めするのデス」 瞳に怪しい光を宿し、行方はそう言って笑うのだった。 「悪いが、止まる気がないのなら容赦はできない」 漆黒のオーラが大鎌を覆う。宗二郎がそれを振るうと、オーラはどろりとした闇と化して盗賊達へと迫る。闇がクロウのバイクを捕らえた。 と、そう思った、その瞬間。 クロウは一瞬で巨大な鴉へと姿を変える。足でバイクのハンドルを掴み、それを持ったまま上昇。闇を追い払い、再び人型へ戻ってバイクに跨る。一瞬の出来事だった。素早い動作でもって、クロウは宗二郎の常闇を回避してみせたのだ。 「足を止めて、殺し合いなりする方が性に合うね」 道化師の仮面を一撫でして、宗二郎はそう呟いた。その声がクロウ達にも届いたのだろう。 「やってやらぁ!」 クロウが影の鴉を弾丸のように撃ち出した。空気を切り裂き、トラックへ迫る鴉。狙いは、トラックのタイヤか、或いは燃料タンクだろう。低い位置を舞う鴉を、木蓮の撃った弾丸が撃ち抜く。針穴通し。正確無比な1撃が、トラックを守る。そのまま銃口を盗賊達へ。だが、今度はバットの蝙蝠が飛んできて、バイクに狙いが定まらない。 「ちっ……。2人はなるべく生け捕りたいんだがな」 交互に攻撃してくる盗賊達のコンビネーションに翻弄されて、思うように攻勢に出られないでいるのがリベリスタ達の現状である。 「無理に殺す事はないけど、きっちりお帰りいただこう」 先ほどから、仲間の影に隠れている寿々貴。彼女の役割は仲間の支援である。敵の動きや攻撃を見て、それをトラックの運転手や仲間達へと伝達するのだ。攻撃、防御の両方に関し彼女は冷静な判断を下す事が出来る。瞬間記憶によるものか。彼女の指示は正確だ。 「言って聞く訳はないだろうし少し痛い目見て貰わんとだな」 片手で本を開く史。どろり、と本に血が滲む。滲んだ血は一瞬で大量の黒鎖に変わり、濁流となって盗賊達を飲み込みにかかる。作りかけの路面が、一瞬で真っ黒に染まった。それはすべて、鎖である。それを見て、バットが顔色を変えた。 「何者だよ、あいつらは……」 「何者でも構うもんかよ!」 クロウの姿が巨大な鴉へと変わる。一方で、バットの姿もまた大量の蝙蝠へ。バイクを乗り捨てクロウはトラックへと迫ってくる。乗り捨てられたバイクを無数の蝙蝠が包み込む。 黒鎖の濁流を突き破り、クロウがトラックへ急接近。体中から血を流しながらも、翼を広げてトラックの荷台へ。風に乗った勢いのまま、生佐目の肩と首筋に鋭い爪を突き立てた。 「う……っぐ!?」 血液が飛び散る。降り注ぐ鮮血を浴びながら、クロウは旋回。翼で生佐目の頭部を打つ。生佐目の体が、トラックの荷台から飛び出した。吹き飛ばされる彼女へ、史が手を伸ばすが間に合わない。 ゴロゴロと道路を転がっていく生佐目。それを追って、クロウが飛ぶ。 「うぅ……。話を聞きいれて貰えないのなら、交渉は終わりですか」 刀を地面に突き立てて、生佐目が起き上がる。肩と首から血を流し、今にも倒れてしまいそうだ。刀を構えた生佐目と、クロウの体が交差した。 パン、と空気の弾ける音がする。次の瞬間、トラックが傾き甲高い音が響く。どうやらタイヤの1つがパンクし、車体を道路に擦りつけたようだ。次いで、衝撃。ガードレールにぶつかって、トラックが止まる。 「やられた……。バットだね」 頭をぶつけたのだろう。額から血を流しながら、寿々貴が唸る。と、次の瞬間、宗二郎が寿々貴の体を突き飛ばした。よろけて後じ去る寿々貴。宗二郎の脇腹を、1羽の蝙蝠が撃ち抜いていく。タイヤを撃ち抜き、そのまま貫通してきたバットの攻撃だ。 「くっ。大人しく帰るか、ここで物言わぬ死体となるか選ぶがいい」 腹を抑えて宗二郎が呻く。その視線の先には停車したバイクが1台。急旋回したバットが、トラックの真横を通り過ぎていく。進路の先には、クロウと生佐目の姿がある。2人の体が交差した。 静寂。後に、倒れたのは生佐目だった。割り込んだバットによって生佐目の攻撃は防がれ、クロウの1撃を受けて戦闘不能。その場に倒れ伏したのである。 「おお、わりぃなバット」 「構わない。追いかけよう」 人型に戻るバットとクロウ。トラックはパンクさせた。後はこの場を離脱するだけだ。バイクに跨る2人。リベリスタ達が、トラックの荷台から降りて来る前に発進しようと、アクセルを開ける。バイクが浮いて、発進。 しかし……。 「な、なんだ!?」 ガクン、とバイクが何かに引き止められる。ふと後ろを見ると、満身創痍の生佐目がバイクにしがみついていた。彼女の体が地面を引き摺られ、路面に真っ赤な血の跡が付く。 「ぅ……。皆さん、頼みます」 囁くように、生佐目はそう告げる。マスターテレパス。彼女の声は、仲間に届いた。舌打ちを1つ、バットの手が生佐目の眉間に押しあてられる。至近距離から、蝙蝠を放つつもりだ。 その瞬間、パン、と火薬の爆ぜる音が鳴り響く。一瞬遅れて、バットの胸から血が弾けた。 「悪いが、本人を攻撃させてもらうぜ」 バットの胸を撃ち抜いたのは木蓮だ。硝煙の立ち昇る自動小銃を手に、少しだけ、寂しげな顔をする。バットは、大量の血を吐いて道路に倒れた。 「ば、バット!?」 「いけ……。先に行け、クロウ。手に入れろ……光を」 血塗れの手で生佐目をバイクから引き剥がし、バットは言う。クロウは、大きく1つ頷くとそのままバイクを急発進。全速力で、走っていく。 「命までは取らない。降伏しろ!」 黒鎖がクロウの乗ったバイクへ迫る。濁流がバイクを飲み込む寸前、間に大量の蝙蝠が割り込み、鎖を阻む。その隙に、クロウは射程外へ走り去っていった。間に割り込んだ蝙蝠は、バットだ。鎖による攻撃を全身で受け止め、彼はその場に倒れ伏した。血を吐いて、全身ボロボロになりながら、バットは息絶える。 彼の口元には、満足げな笑みが浮かんでいた……。 ●光 「1人で見る景色ってのは寂しいモンだぜ」 インターチェンジで道が別れる。右が作りかけの高速道路、左が稼働中の高速道路へ続いている。間違っても稼働中の道路へ侵入させないように、ランディは左からジョッキーに接近し、道を塞いだ。 「やめろ! 寄ってくるんじゃない!」 長年の冒険の中で、何度も人に騙されて来たのだろう。ジョッキーはすっかり疑り深くなている。片足を伸ばしランディーを蹴り飛ばすジョッキー。そのままランディから離れ作りかけの道路を進んで行った。 「これ以上逃げられても厄介デス。乗り物、破壊させてもらうのデス」 琥珀の操るバイクの後部に立つ行方の、肉切り包丁がオーラで輝く。それを見て、ジョッキーの表情が青ざめた。左にはランディ、右前方には琥珀のバイク。回避できない。 「あ、ぁァァぁあ!!」 大きく身を乗り出す行方。振り抜いた包丁が、バイク前面を捕らえる。装甲が砕け、バイクに刃が食い込んだ。バイクは、まるでこんにゃくでも切るみたいに、綺麗に切れた。地面にぶつかり、火花を上げる。投げ出されたジョッキーの体を、空中で琥珀がキャッチする。 「じゃあ何か? 君達は、私の邪魔をする気はないというのか? ただ私を送還しに来ただけだと?」 周りを3人に囲まれて観念した様子でジョッキーは地面に座っている。とはいえ、その眼光は死んでいない。隙さえあれば出しぬいて、逃げ出そうという算段を巡らせているようだ。 もうじき、日が暮れる。夜になったら、ジョッキーの探している宝を見つけるのも大変になるだろう。 「どうするデス?」 首を傾げ、行方が問いかける。探すのを手伝うか、送還するか、ということだ。 と、その時。 「何か来たな」 高速道路をこちらに向かって走ってくるバイクが1台。乗っているのは、クロウだ。 「あいつ、まだ追ってくる気か!!」 散々な目にあったのだろう。半ば悲鳴に近い叫び声をジョッキーはあげた。 「宝はここにはない! 止まってくれなきゃ手厚い歓迎しちゃうぜ?」 クロウに向けて声をかける琥珀。だが、クロウはこちらの話など聞いてはいないようだ。血だらけの体、血走った目。正気のそれとは思えない。 「ちっ……」 琥珀の全身から赤いオーラが溢れだす。不吉なオーラが赤い月を浮かび上がらせた。オーラがクロウへと這い寄っていく。バイクを旋回、回避しようとするが叶わない。赤い月に囚われてクロウのバイクがその機能を停止させた。 地面を転がり、壊れるバイク。しかしクロウは巨大な鴉に体を変えて、バイクを乗り捨て飛び上がる。 「不運と踊らすのがアナタの力。ならばアナタは都市伝説と血風に踊るがお似合いデスヨ」 アハハハ! なんて笑いながら行方が飛び出す。道路を駆け抜け、両手の包丁を振りあげる。クロウに向かって飛びかかる行方。包丁とクロウの爪が交差した。行方の体が地面を転がる。コンクリートに血が広がった。 「……冒険者さんの幸運をちょいと借りるとしますか!」 大斧を振りあげるランディ。斧の先に、オーラが集まる。作られたのは巨大なエネルギー弾だ。ランディが斧を振り下ろすと、唸り声に似た風切り音が鳴り響く。解き放たれたエネルギー弾がクロウに迫る。 急旋回しそれを回避しようとするクロウ。 「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉお!!」 間に合わない。回避しようとした方向にはガードレールがある。次の瞬間、悲鳴を上げるクロウの体が、エネルギー弾に飲み込まれた。 バットとクロウの亡骸が並んで横たわっている。2人に対して軽く手を合わせ、ジョッキーはDホールに向かって歩き出した。 「元気でやりなよ」 ランディがそう、声をかける。ジョッキーは、無言。 彼が長年探し求めた、美しい光、はすでに失われていた。本に乗っていた風景の場所から見えた光は夕陽だけだった。しかし、高速道路やビルが建設されたことにより、夕陽はもはや、ほとんど見る事はできなかった。 そのことに気付き、ジョッキーはひどくショックを受けたようだ。意気消沈する彼をこの場所まで連れてきて、元の世界へ送り返す。 「それでも、この景色は瞬間記憶で大切に記憶しておくよ」 ホールに消えていくジョッキーの背に、寿々貴はそう告げる。 辺りはすっかり、暗くなっていた……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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