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もし高校野球の女子マネージャーがドラゴンを自称するフィクサードだったら


 田舎町だけど、それはそれで過ごしやすい町。
 野球部に入ったのは、ただちょっといい感じの男の子がいたからなんだけどさ。
 
 けどこの学校、合併されて、潰れちゃうんだってさ。
 今年で最後なんだって。

 あたしこの学校、結構好きだったのにさ。
 合併先の学校に野球部はないし。アイツも、野球諦めちゃうんだって。
 だから、せめてさ。
 引退試合、最後の試合だけでも、成績残せたらなーって。
 そう、思ってたんだ。


「キュートな小悪魔は明日の歌を歌う。それが世界からのギフトだとは知らずにね」
 リベリスタたちに『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、例によって謎めいた事を言う。
 ぱしん、と指で弾いた書類には、ひとりの少女の姿が写っていた。
「藤原 竜子。最近革醒したばかりだが、運命は既に彼女を選んでる。
 できたらこのおてんばなレディを失礼のないように、アークにエスコートしてきてほしい。
 ついでに彼女を革醒させたE・ゴーレムの破壊も頼む。
 ……とはいえ、いつものようにはいかないかもしれないな」
 疑問の表情を浮かべたリベリスタたちを見回す伸暁。
 彼はウインクしながら自分の胸を親指でとん、と示して見せる。
「フォーゲット・ミー・ノット。フォーチュナだって革醒してるってこと、忘れないでくれよ。
 それに――たとえ不完全でも、未来を知るってのはとんでもないギフトだってことさ」


 最近あたしは、よくわからないものがよくわかる。
 明日の天気とか、百発百中ってかんじだし。テストのヤマカンもかんぺき。
 でも結局傘を忘れたり、教科書ひらかなかったりしてるわけで、だからどーしたって世界なんだけどさ。
 それと、急に強くなった。
 ――うん、どう説明したらいいのかわかんないけど、強くなったんだ。ほんとに。
 100メートル走るのも、気を抜かないとほんとあっというまだし。
 こないだ試しにやってみたら、りんご握りつぶせた。もう本当びっくりした。
 まあ、ジャージ着てる時だけなんだけどね?
 魔法少女のコスチュームみたいなものなんだろうか。もっとかわいいのが良かった。
 だけどもうね。これはね。
 あたしがついに、何かすっごい力に目覚めたに違いないよね。
 もうラノベだよね。
 だから、あたしはこの力を、おもいっきり自分の為に使うことにしたんだ。
 うは。ラノベだったらあたしの方がきっとワルモノだよねこれ。
 ワルモノか。女のワルいキャラって言ったら、何だろ。悪女? 悪女か――


「手始めにこの迷い子猫がやることは、ハニートラップ、色仕掛けだ。
 ターゲットは練習試合の敵エース、栄 君輝。手を抜いてくれるよう頼むつもりだったのかな。
 ただそこに、彼女がまだ知らないいくつかのハプニングが起きる。
 俺には――君輝が強引なことをしようとして、怯えた彼女が金属バットを振り上げるのが見えた。
 まったく、自業自得だとは思うけど」
 レディーファーストもできないようじゃね、と肩をすくめて見せる伸暁。
 何かが間違っているような気はしたが、突っ込むのも面倒なので受け流すリベリスタたち。
 とにかく、放っておけば竜子が殺してしまうことになるらしい。
「だけどこのじゃじゃ馬娘は自分あての来客を予知しているから、警戒するだろうね。
 最悪の場合は――E・ゴーレムの回収だけでもいい。だが、スタッフロールにはまだ早いだろ?
 誰も求めていない結末に、NGを出してきてくれ。できるさ、アークのリベリスタならね」
 そう言って人差し指で銃を作り、ばん、と何かを撃つ真似をする伸暁。
 もう慣れてきたリベリスタたちはツッコミをいれない。


「うッ」
 何かに撃ち真似をされた気がして、条件反射的に胸を抑え、倒れるふりをする。
 それからあれ? と思って周りを見回したけど、誰もいな――あ。今何か見えた。
 誰かが来る――あたしのところに。明日かな。明日っぽいな。
 ワルモノを成敗しにくる、正義の味方ってやつかな? そんなのが本当にいるなんてびっくりだけど。
 あ、でもそういうこと言うなら、あたしにこんな力があるってことがまずびっくりだもんね。
 びっくりの上にびっくりがあるとか、世界って何でもありだね。
 あたしは自慢のポニーテールを――そうそう、急に髪の色、水色になったんだよ。びっくりだよね。あわてて黒に染めたんだけどさ。ぎゅっと結んで、用意してた服に着替える。
 上から下までまっ黄色、学校指定のだっさいジャージ。
 さてさてこれに、取り出しましたは黒色ガムテ~♪
 ぴぴーっと貼って、よし、できた。

「さあ来い、正義の味方!
 あたしは今日から、ドラゴンだー!」

 おもいっきり、がおーって吠えてみた。
 竜子だからドラゴン。ワルモノらしくていい感じじゃない?


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月07日(木)22:05
出オチって言わないで。ももんがです。
アプローチはいろいろあるかと思いますが――どうなるのかは皆様次第。
竜子以外のNPCは、場合によっては会うこともないかもしれません。

●『アイツ』園田 航史(そのだ こうじ)
よくみると格好いいけども、どこか純朴そうな男の子。野球部2年、バッター。
補欠に回せるような人数もいないためベンチ入りしている。
退部届を鞄の中に忍ばせています。

●『被害者(予定)』栄 君輝(さかえ きみてる)
豪速球のストレートが売りの、練習試合の対戦校エース。
プロ球団がスカウトする為のチェックリストに入れている、という噂。
女の子が大好きです。ものすごく。

●『ドラゴン(自称)』藤原 竜子(ふじわら たつこ)
野球部マネージャー。2年生。
頭のネジの程度はオープニングを参照してください。
練習試合直前に君輝を、交際申し込みのふりをして校舎裏に呼び出します。
せめて1勝、のために手段を選ばなすぎておかしなことになっています。
また、彼女は誰かが自分を止めに来ることになんとなく気がついています。
ただし予知の精度が低いため、あまり詳しいことは把握できていません。

●E・ゴーレム
実は竜子のジャージがE・ゴーレムです。フェイズ1。
竜子はこれのおかげで強くなっているのだと思っていますが、実際は筋肉に無理な負担を強いており、一般人であれば自分の筋肉の動きに耐えられないでしょう。
本来は着たものを衰弱させてから取り込んで、配下を増やすはずでした。
革醒したばかりでもあり、フェイズはまだ当分進みそうにありません。
もしリベリスタが着た場合、着用中はフィジカルが強化されます。
着用した場合、後日襲ってくるとんでもない筋肉痛からは逃げられません。

●注意事項
オープニング翌日の朝から行動開始できますが、竜子は日中は学校に行き、部活をこなしています。
14時には授業が終了し、16時半には練習試合が開始されます。
竜子と君輝に16時まで一切干渉しない場合、彼女は君輝を殺してしまいます。

●成功条件
E・ジャージを破壊したうえで、以下のどちらかをクリアしてください。
・アークに藤原 竜子を本人納得の上で連れて来ること。
もしくは
・『ドラゴン(自称)』が殺人を起こさないこと
 ※こちらの条件の達成は竜子を殺害することでも可能とします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
四鏡 ケイ(BNE000068)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
クロスイージス
白石 明奈(BNE000717)
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
プロアデプト
遠野 うさ子(BNE000863)
クロスイージス
中村 夢乃(BNE001189)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
デュランダル
降魔 刃紅郎(BNE002093)

●10時
 がらり、教室の扉を開け放った見知らぬ男に教室は静まり返る。
 ダークグレーのスーツを着て眼鏡をかけてはいるが、肉食系な雰囲気と威圧感を放つ、精悍な体つきの男である。
 教室全員の目を受け、しかし一切揺らぐことなくその男は言い放った。
「産休の鈴木先生に代わり本日この2年B組で特別授業を行う特別講師の降魔刃八(ごうま じんぱち)だ。
 気さくに『王様先生』と呼ぶがいい」
 ざわつく教室。教壇でそれを睥睨するは『2年×組 王様先生』降魔 刃紅郎(BNE002093)であった。
「せ……先生?」
 恐る恐る挙手した航史に、王様先生は鋭い眼光と共にチョークを向ける。
「園田だったな。何だ」
「鈴木先生は、男なんですが……」
「小さい事は気にするな」

(ドラゴンは制服の下にジャージ……いわゆるハニワなのだよ。
 日中ジャージでいるとは思えなかったのだけど)
 竜子のいる、A組――刃紅郎が潜入(?)したのは隣のB組である――の授業風景をのぞき込んだ『カチカチ山の誘毒少女』遠野 うさ子(BNE000863)は、暑くないのだろうか、などと思いつつ廊下を離れ――授業のために無人となった職員室に置いてあるパソコンを見て、うさ子はにっと笑う。
 廃校予定とはいえ、近代の学校。
 パソコンで処理されている情報があれば、それはうさ子の味方だ。

「いいか、まずは密集陣形だ!」
 グラウンドでは王様先生が怒号を飛ばす。
 今って数学の授業じゃなかったっけなどと言うツッコミ、彼には聞こえない。
「基本の陣形は8人、情報がないなら相手を観察して――そこ!
 私語は慎め。一瞬の気の緩みが即、死に繋がることもある。
 ――みっちりと、貴様達学徒へ戦の心得を教育してやろう」

「栄さんのデータはすぐに手に入ったの。
 結構実力派らしくて、高校野球マニアには知られてるみたいなの」
 無人の職員室でうさ子を待っていたのは『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)である。
「ストレートもだけど、カーブも得意みたいなの」
 隠れ野球ファンとしては実力派高校球児の情報は気になるらしく、ルーメリアは栄の情報を集めていた。
 うさ子はそれを聞きながら、対戦校の情報を調べてみる。
「ふむ。……対戦校は学力的な意味での名門校でもあるのだね」
 竜子がせめて一勝と思ったのは、消え行くモノの意地やプライドもあるのかもしれなかった。
 窓の外を見ると、そこには王様先生にしごかれる2年B組の姿が見えた。
 男子学生の中から、航史を探すうさ子。
 王様先生の指示する、通常の体育ではありえないちょっと無茶な行動を、航史は失敗しては悔しそうな表情を浮かべ、もう一度挑戦する。
 悔しがり。意地っ張り。そんな性格は見て取れる。
 ――彼が野球を続けたいなら、後押しはしてあげたいけど、それは私の役目じゃない。
 後のことは刃紅郎に任せよう。

●12時
 きーんこーんかーんこーん……
「あ~! 超お腹減ったしっ♪」
 弁当を持って屋上に出る竜子。遠くまで見渡せる屋上は、竜子のお気に入りポイントなのだ。
 そこに、先客がいた。
「ここでは青空がおかずね」
 この高校の制服を着て、意味不明なことを言ってのけた長い黒髪は『ドラム缶型偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)である。夢乃はゆらりと竜子の側まで歩み寄ると、すれ違いざまに囁く。
「だめよ、せっかくの力を――ドラゴン。あなたを止めに来たの」
「――!?」
 竜子は驚きに振り返り、悠々と自分の前から去っていく揺れる黒髪を見て、小さく呟いた。
「ほんとに、止めに来た!」
 目を輝かせ、頬を紅潮させ、口元が緩む。
 その表情は警戒というよりも、興奮。

「園田」
 ようやく解放されたと思ったとたんに王様先生に声をかけられ、野球少年はビクリと肩を跳ね上げる。
「は、はい!?」
「野球部は今日、練習試合があると聞いている。栄は剛速の直球が有名という話だったか?」
 僅かに目を伏せ、航史は「はい」と肯定した。
 己の実力では栄には太刀打ちができないと、そう思っているようだった。
「負けたいとは思わぬのだろう?
 ――悔いの無いよう、貴様の思いを込め『まっすぐに』振りぬくことだ」

●14時
「藤原さんって、いる?」
 そんな時間にA組に飛び込んだ『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)の服装は、いつものブレザーでもこの学校の制服でもない。
「あれ? その制服って――あ、今日の練習試合のこと?」
 教室にいた竜子が、一瞬疑問符を浮かべた後に納得した表情を浮かべる。
 明奈の制服は、練習試合の対戦校の制服だった。
「そうそう。今日の練習試合について打ち合わせたいんだ」

 授業終了のチャイムが響き、三々五々帰路に着く生徒や部活に精を出す生徒の姿が見える。
『蒼鱗小龍』四鏡 ケイ(BNE000068)はやはりこの学校の制服で、グラウンドの端で野球部の様子をスケッチしている。
(友人になれたらいいんですけどねぇ)
 じっとスケッチを繰り返すケイに、黒ずくめの服装に野球帽をかぶり、カメラを首に提げた『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が近づいてきた。どうやらスポーツカメラマンになりすます作戦らしい。
「どうだ? 調子は」
「……どうやら、竜子さんはまだ来てないみたいですね。
 部活がまだ開始してないから、遅れてるのか用事があるのかわからないみたいです」
「てことは、うまく接触できたってことか? ……よし、オレも行ってくる!」

「待って、白石……さん、だっけ? そっちは校舎裏だよ!」
「あっれー? また間違えたか!」
 わざと先に先に進み、明奈は校舎裏へと向かう。
「やっと見つけたよ!」
 そこに妙に朗らかな声をかけたのは、竜一である。明奈とさっとアイコンタクトを交わし、ひとつ頷く。
「栄を取材に来たんだが、今日、練習試合なんだよね?」
 咄嗟に竜子の前に立って拳を腰に当てる明奈。
「またあんたか! 取材だったら、突撃じゃなくて学校通せって言ってるだろ!」
「まあそう言わずに。学校通すとどうしてもね。
 栄に隠れてるだけの原石がいないとも限らないだろ?
 他にいい選手とかいるのならば、チェックは欠かせないよね。誰か居るかい?」
 ずずい、とビデオカメラを突き出す竜一の顔を見て、思わず竜子が声を上げる。
「え、記者さんなの? 随分と若く見えるけど……」
「いやあ、童顔だってよく言われるんだ。まだ駆け出しでね。
 そういえば、君は、とてもチャーミングだね? どうだい、君の事も取材させておくれ。
 ここで出会ったのも何かの縁ってね」
 言いながらもぱしゃり、ぱしゃりとカメラのシャッターを切る。
 それ以上疑問を挟めないような強引さで、ナンパじみた取材もどきを続ける竜一。
「……若いのに、がんばってらっしゃるんですね」
 スタイリッシュなイケメンフェイスに、ちょっとぽ~っとなる竜子。
 普段の残念さを封印した竜一は、普通に格好良かった。

●15時
「私が色仕掛けとか、世も末だね」
 ジャージに、幻視を使い黒髪に見せかけたポニーテール。後ろから見たらドラゴン竜子とよく似た姿の『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)は独りごちる。
「あ、栄さんが来たの! ここはルメのびぼーを有効活用すべき所なの!」
 小梢の後ろで、チア服(竜一所蔵)着用のルーメリアが声を上げた。そちらを見れば呼び出されたのだろう君輝がふらふらと歩いて来るのが見える――奥の角を曲がれば校舎裏だ。辿り着かせるわけにはいかない。
 行く手を遮るように飛び出したルーメリアが、魅了の力を君輝に向けて放ちつつ行く手を塞ぐ。
「こんにちわっ 私、栄さんの大ファンなの!」
「ん? あ、ああ、光栄だけど――」
「栄さん、得意の剛速球はもちろんのことあの落差のあるカーブもとっても素晴らしいの!
 そして、なにより…その、栄さんの甘いマスクに一目ぼれなの」
 上目遣いで一気に畳み掛けるルーメリアに、左胸を押えて君輝が呻く。
「ど、どうしたんだ俺の心臓……!
 お嬢ちゃん、いいかい、そういう事を言うのはせめて12歳になってからだ……!
 ほら、飴ちゃんあげるから!」
 君輝はポケットをあさり、出てきたイチゴ味の飴をルーメリアに渡す。それからどこか慌てたように周囲を見まわし、小梢の姿を見つけてぎょっとしたようなほっとしたような、奇妙な表情を浮かべた。
「ああ、藤原さん! いや、俺は何もしてない、何もしてないんだけど!」
「え?」
「あれ? ……違う人?」
 自分を指差す小梢。君輝は小梢の様子を見て、似ているが他人であることに気が付いたらしい。
 その後ろで、ルーメリアが君輝にそっと耳打ちする。
「もし、カッコよく勝てたら……ルメ達がイイコトしてあげるの」
 小梢を見ながら、急に顔を真赤にして背筋が伸びる君輝。
「それじゃあ、こんな所にいないで準備運動しにいかないと!」
 チア服の少女に背中を押され「おう!」と意気込んでグラウンドへ戻って行く君輝。
「……奇特な」
「……ポニテ萌え?」
 あまりによく効いたテンプテーションの効果に、少し呆然と見送る二人。
 ともあれ、これで最悪の事態は避けられたに違いなかった。

●15時半
「あ? わかった」
 竜一は携帯で君輝撃退(?)の報告を受けると、明奈と目を合わせる。
 今度は明奈がひとつ頷き、人払いの結界を発動させてくるりと竜子に向き直る。
 急に黙った二人を前に、竜子はきょとんとした表情で首をかしげた。
「さて……ちょっと聞いてくれるかな?
 ワタシたちはアークという組織にいて……まあ正義の味方っぽい事をしてるんだよ。
 そこにいる、君と同じ予知能力者が、君がハプニングで栄を殺しちゃう未来を見たから、止めに来たんだ」
「え? ……え!」
 少し考え込んだ後、意味がようやくわかったらしく竜子は目を丸くする。
「あたしが、殺しちゃうって、え? どういうこと?」
「栄さんを校舎裏に呼び出しましたよね?
 女の子好きな方と、人気のない場所で二人っきりになるのは、あまりオススメできませんよ?」
 夢乃が顔を出し、言い聞かせるような口調で何が起きると予知されたのかを伝える。
「未来は、ないなら作ればいい。野球部だって、一から頑張ってみてもいいと思う。
 ドラゴンらしく、彼らを信じてどっしり構えたら?」
 もう一度部を作れば良いと、そう言いながらやってきたのは、うさ子。
「男の勝負には無粋な邪魔は無用。試合に水を差さぬのが良いだろう」
 未だスーツ姿の刃紅郎やルーメリア、小梢が姿を表す。
 ――最後にやってきたケイは、竜子を見て何故かテンションが上がっていた。
「ど、ドラゴン……か……カッコいい……! 着たい……けど……!?」
「あのジャージ、着たいの?」
「あ!」
 ケイに声をかける小梢の、自分と同じ水色のポニーテールを指さして竜子は驚きの声を上げる。
「ボクたちも竜子さんと一緒ですよ……エリューション化というやつです」
 そう言って自分の右頬の碧い鱗を指すケイ。
「……世界って、びっくりだね」
 驚きっぱなしの竜子が、難しい顔をしてうんうんと頷く。
「アークの仕事は君やワタシたちみたいな能力者の保護とか、能力を悪用する奴を懲らしめたりとかだね。
 ドラゴン。暴れ足りないってんなら……いっぺん、殴り合ってみるかい?
 負けたら、一緒にアークに来てもらうからな。正義の味方は強いぜ?」
 にっと笑う明奈。
「……のぞむところっ!」
 どこかうずうずした顔で、ジャージの腕をまくる竜子。

「フォーチュナの戦闘力ってどの位なんだろ……ってまぁジャージが危険な訳なんですが……」
 前に立ち、麻痺を狙うケイがふと首を傾げる。
「ジャージ? ……っと!」
 きょとんとした顔を浮かべる竜子を、明奈の拳が狙う。
 リベリスタたちの狙いは殆どジャージに終始しており、竜子自身は「ものすごい避けてる! ひょっとしてあたし強くない?」とか思い始めていたところだった。
 そこにケイの、ジャージではなく竜子自身を狙った気糸が、ドラゴン(自称)の身体の自由を奪う。
「あれ、え?」
 困惑を浮かべる竜子に迫る魔の手。
「運が悪かったな。常に、いろんな服を脱がす脳内シミュレーションをしている俺に隙はない。
 ……そのジャージ、俺がいただく!」
 おもいっきり裾から引っ張り上げられ、ばんざーい、という感じでジャージの上を奪われる竜子。
「きゃ、きゃあああああ!?」
 ランニングは奪われなかったものの、咄嗟のことに悲鳴をあげる彼女の全身から急に力が抜けていく。
 ――勝負あり。

「自分の為に力を使う、いいじゃないですか。でもどうせなら喜ばれる使い方はどうですか?」
「いきなり人間離れした力を手に入れて、好きな風に使いたいってのは分かる。
 だけど、そいつを使って人助けができるんならさ。そういうのって、ちょっとカッコいいだろ?
 折角の能力なんだ、正義のために使おうぜ!」
「まあ……負けちゃったしね、仕方ない!」
 夢乃と明奈の呼びかけに、竜子は口を尖らせてから笑った。
「正直、将来のプロ選手は気になるけど…… 栄さんに見つかったら厄介極りないの」
「じゃあ私も帰ろうかな。今日は何カレーにしよう……。
 あれ、……待てよ? 黄色いつなぎに黒い線て、死亡遊(以下略)」
 ルーメリアと小梢が先んじて撤収し、それに続いてリベリスタたちも戻り始める。
「今日生まれたドラマ、その真の輝きが貴様にも見えただろう?
 運命は曲げるのではない、正すのだ。竜とは必ずしも邪悪の存在とは限らぬ。
 時には英雄を導く、高貴な存在でもある。……さあ、試合に行くぞ」
 うさ子に渡された換えのジャージに腕を通す竜子に、刃紅郎が声をかける。
「え? あ、うん」
 こくこくと頷く竜子。それをまたぱしゃりとカメラにおさめる竜一。
「人間だれしも、自分で道を決めるもんだ。園田とかいうのも、例外じゃねえ。
 そいつのために何かしたいなら、そいつにまずぶち当たるのが筋ってーもんだろうが!
 ドラゴンの称号は俺のものだ!ホァタァーーーーー!」
 にっと笑って派手なポーズを決める竜一に、竜子は笑う。
「いい笑顔するじゃないか。ほれ、早く行かないとマネージャー不在のまま試合が始まっちまうぞ」
 慌ててグラウンドへと走っていく竜子を見送り、刃紅郎と竜一がグラウンドへと足を向けた。

「ほう、世辞かと思えば、なかなかにいい写真ではないか」
「世辞とか言うかよ。この写真は……よし、ドラゴンに渡した後で地方新聞に投稿するか」

 グラウンドからは、遅いぞ、どこ行ってた等の声の他に、白球を打つ音が響いてくる。
 もうすぐ試合が始まる、その直前まで練習をしようというのだろう。
 目を凝らせば、真剣にバットを振るのは航史のようである。

「ああ、今日授業を受けた学徒達の今後も楽しみだな……」
 王様先生は、夏目前の眩しい光に目を細めた。

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
成功です、お疲れさまでした。
予想以上に爽やかな話になったことに、ももんがは驚いています。

余談ですが、ジャージの筋肉痛効果によりドラゴン(自称)はこの翌日から3日間ぶっ倒れることになります。
もう悪さはしない、と湿布まみれで泣きながら誓ったとか。