● 空に世界の穴が開いた。 降り立ったのは、異界の少女。首や手足に機械が混じった姿を見れば、人でないのは明らかだった。 「……少し息苦しいですが、随分と美しい世界ですね」 「風景を眺めテル余裕ガ、キミにアルと思うのカイ」 風に舞い散る桜の花びらに目を奪われる少女の背後から、無機質な声。 振り向けば、少女の顔から血の気は引いた。 「そんな……こんな所まで……」 「ソリャそうさ。ボクはキミを――罪人を殺すのが役割とプログラムされテいるカラね」 無機質な声の主も、人ではなかった。少女以上に機械に近い――機械でない部位が見当たらない。 「どうせアッチにも帰れナイだろ、罪人……ダカラ此処で執行スル」 人型機械の腕に装着されたドリルがギュィィィンッと激しい回転音を立てる。 (私は世界を追われた身。これも報いですか……) 少女は諦めの色を浮かべ、自分に迫るドリルを見つめるばかり。だが。 「我が主はやらせん!」 響いたのは3番目の声。そして、少女の顔を貫く筈だったドリルが食い止められた。 ● 「Dホールの発生、及びアザーバイドの出現を察知した」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、リベリスタ達に簡潔に告げる。 「アザーバイドは全部で3体」 ブリーフィングルームのモニターに体の所々に機械が混ざった少女の姿が映し出される。 「まず一人目。識別名、『半機械姫』。見ての通り、メタルフレームに似てる。でも機械化部位はもっと多い」 モニターが切り替わる。続いて映ったのは、なんかロボっぽい外見。 ひと目でわかる金属ボディにあちこちに露出した機械。片腕はドリル。極めつけは、円盤状のノコギリが付いた3本目の腕。 「識別名は『執行機人』としたよ。見ての通りロボ。正確には、完全機械生命体、みたい」 再びモニターが切り替わる。次に映ったのも、ロボのようだが外見は先の執行機人とは随分異なる。 基本的な姿形は人に近いが、全身に鎧のような重厚な装甲。2本の腕には硬そうな盾が装着されている。 「こちらは識別名『守護機人』。執行機人の同類と思われる」 三度切り替わるモニター。 順番に映し出されたアザーバイド達が纏めて映っていた。 「状況は、単純じゃない。まず半機械姫が現れた。次に執行機人。目的は半機械姫を殺す事。更に守護機人が現れて、半機械姫を守る為に執行機人と交戦に突入する」 異世界で姫を巡って争う2人のアザーバイド。まるで物語。 「執行機人と守護機人の実力は拮抗してる。と言うより、戦闘能力の相性の問題でどちらの攻撃も相手に決定打にならない」 モニターに、それぞれの能力が表示された。 執行機人は回避性能と連続攻撃に特化した能力を持つ。守護機人では、彼の動きを捉える事は出来ない。 守護機人は守備力と特定対象の警護に特化した能力を持つ。執行機人は、彼の防御を崩す事は出来ない。 「2人が交戦開始した時点でDホールはまだ開いてるわ。でも、2分後に閉じる。放っておいたら決着が着くのは確実にDホールが閉じた後になる」 2分が過ぎてDホールが閉じてしまえば、姫を含めた3人を元の世界に返す事は不可能になる。そうなれば――。 「崩界促進の可能性は無視できない。方法は、皆に任せる」 ● これは、部屋を出ようとしたリベリスタにイヴが語ってみせた続きの話だ。 「我が主はやらせん!」 硬い盾が、ドリルを阻んでいた。凄まじい速度で回転するドリルだが、盾は貫かれず耐えている。 「どうして……あなたまで。新しい主を見つけなさいと!」 驚く少女が上げた声に僅かに混ざる非難。どうして来たの? 来てしまったの? 「我が主よ。貴女を守れず、別の主を探すなど……プログラムされても出来ぬ事でした」 「邪魔するンダネ? 邪魔するモノはゼンブ壊シテ、罪人も殺ス!」 「させぬと言った。――我が主よ。この体朽ちるまで、あらゆる物からお守り致します」 少女は涙を浮かべ、2人の機人は凶気と忠誠を見せる。彼らが見せた感情こそが、彼らが心まで機械ではないという証明だ。 そして、ドリルと盾が再びぶつかった。 「守護機人だけは、フェイトを得てるの」 イヴは最後にそう言った。 だが、それは彼一人。彼が朽ちるまで守ると誓った主は、運命に選ばれなかったのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諏月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月18日(木)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●介入 ドリルと盾がぶつかり合い、盾の小さな一欠片が落ちるも貫くには程遠い。 2体の機人、両者の間が離れた瞬間。 「――遅いッ!」 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)の声が響いて、彼は迷わず2体の間に飛び込んだ。遮る事はおろか、機人に反応すらさせない速さ。神速の異名は伊達ではない。 次いで、光の飛沫が輝いて執行機人が飛び退く。繰り出した刺突の連撃が繰り出されるが、浅い。 パンッ。 乾いた銃声が響いて、執行機人の体が仰け反る。 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の抜き手も見せない早撃ち。 「やぁ、オレSHOGO! キミのささくれがちな日常をフンワカさせに来たよ!」 「は、はぁ。フンワカ……ですか?」 執行機人が飛び退いたその隙に、『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)が半機械姫を庇えるよう、彼女の元に駆け寄る。 涙を浮かべていた半機械姫が目を丸くして驚いたのは、突然の乱入かSHOGOのノリか。 「この世界の者か。我が主から離ろ。さもなくば」 「少し下がって、僕らは敵じゃないから。お姫様に危害を加える気は今はない」 突然の自体に目を白黒させる半機械姫。姫に駆け寄る翔護を警戒する盾持つ機人の言葉を遮り、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004) がその横に立つ。 「悪いが、この世界に来たならば、俺たちのやり方でさせて貰う」 「騎士様、姫様! お守りいたしますわ! 下がってください!」 『red fang』レン・カークランド(BNE002194) が意志を持つ影を纏いながら間に立ちはだかり、更にその前では『粉砕者』有栖川 氷花(BNE004287) が執行機人を遠ざけんと、エネルギーを集中させたギロチンの様な分厚い刃の両手斧を振るい叩き付ける。 しかし、執行機人は氷花の一撃に合わせ自ら後ろに跳んで勢いを逃がす。 「こノ世界の人間カ? どけヨ。ボクはあの罪人を殺スんだカラ」 「させねぇよ」 声は再び間近から聞こえた。執行機人の視界に映ったものは『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455) の蒼い髪。 と思った次の瞬間には、地に叩きつけられていた。執行機人が跳ね起きるが、猛は間合いの外に居る。 「とりあえず、すぐに殴りかかるつもりはわたしにもない」 中折れの単発銃に弾丸を込め直しながら、それだけ言って涼子は狙撃に適した位置へと足を進める。 「……信じよう」 守護機人の盾が下がる。行動は時に言葉よりも雄弁に立場を語る。リベリスタ達の行動の意味を、この異界の守護者は正しく受け取ったようだ。 「話が早いじゃねぇか。ま、ゆっくり話してる時間もねぇんだが、先に言っとくぜ」 『眼鏡置き』小崎・史(BNE004227) がにやりと笑みを浮かべ、歩み寄る。 「その通ってきた穴、あとちょっとで閉じるぜ。何にしてもそのことは忘れんな」 「この世界モ人間が機械の、ボクの邪魔をスルのか。だったらお前ラもゼンブ壊シテやる!」 とにかく時間が限られている事を史が伝えると時を同じく、執行機人は、別の意味と立場でリベリスタ達の意図を察していた。機械の体に殺意が満ちる。 「邪魔するものを全て壊す。そんな思考パターンを持つものに居場所を与えられるほど、この世界は広くない」 執行機人のドリルが甲高い回転音が響かせるその前に、立ち塞がる鷲祐。 「その前提、貴様ごと全て破るッ! 今から俺達が張る命は、対話への前払いだ――!」 当たれば肉を抉る処刑道具をギリギリで避けて、鷲祐は強く言い放った。 ●真相 腕のドリルと背中から伸びた鉄の尻尾のノコギリ。時間差で繰り出された2つの凶器。 鷲祐はドリルをギリギリで回避し、ノコギリは尻尾部分を蹴り上げて軌道を逸らす。 「ちょこまかしぶとい人間だナ! 早く死ねヨ!」 「ふん、それはこっちのセリフだッ!」 執行機人に手数で負けても、身体のギアを上げて反応速度を高めた鷲祐ならば、致命傷を避けるくらいの対応は充分可能だ。 「相思相愛のお二人の邪魔はさせません! 乙女の矜持ですわ!」 氷花が再びエネルギーを込めて斧を振るう。一呼吸置いて集中を重ねて放った一撃は執行機人の回避性能を僅かに上回り、機械の体を今度こそ吹き飛ばす。 「司馬さん! 氷花ちん!」 後ろから響く夏栖斗の声。それだけで2人は意図を察して、左右に飛び退く。開いた空間を夏栖斗の目にも止まらぬ武技が飛翔し、虚ろを駆け抜け執行機人の胴体を貫いて、薄い装甲の一部を吹き飛ばす。 直後、猛が間合いを選ばぬ武技が、執行機人を地に叩きつける。2人の闘士の技は、近距離の武装しか持たぬ執行機人を間合いの外から攻め立てる。 「この世界の人間が、これほど強いとは」 リベリスタの戦いぶりに、守護機人が驚嘆の声を漏らす。同時に彼は気づいていた。戦いになれば、自分ではリベリスタ達に敵わないだろうと。 「……お話は判りました」 執行機人との戦いが続く一方、史が半機械姫にこの世界の事情を話していた。別の世界の者は居るだけでこの世界に崩界と言う、致命的な影響を与えると。 「残念ながらこっちでは物理的に世界に反する存在なんでな。どうするって余地もねぇやな。だが、此方としても其方と殺し合いなんざしたくねぇんだ。お引き取り願えないかね?」 「……」 「あんたは、罪人だそうだが……聞いての通り、この世界に安息の場はねえよ。出来るんなら、元の世界に戻ってくれりゃ助かるんだが」 史の言葉に沈黙で返す半機械姫に、猛も元の世界に戻れと言葉をかける。 「残念だけど、この世界はキミに味方してくれないんだ。キミはもうしばらくあのイケメンと2人で旅を続ける必要がある。せめてそのとっかかりだけでも助けたくて、オレ達はここに来た」 翔護は帰るや戻ると言う言葉ではなく『旅』と言った。2人の道行きは、姫と異世界まで守りに来た機械の従者との、旅だと。 「意に適わない結婚でも強要されましたの? この世界では、貴方達は暮らせません。ご自身の世界で支え合って、生きて下さい」 更に戦いながら、氷花も声をかける。 「結婚……と言うものが何なのかわかりませんが。優しいのですね、貴方がたは」 重ねられた言葉に、半機械姫は淡い笑みを浮かべたものの、動く素振りを見せない。 半機械姫は動く素振りを見せない。 「お姫様、君は君の世界から罪をもって逃げてきてんだろ? この世界に留まるなら僕達が君を始末することになる。見も知らぬこの世界で命を落としていいのかよ」 「良いのです。そうなるのが、私がすべき償いなのでしょう」 夏栖斗が向けた言葉に返す半機械姫の声に、諦めの色が混ざる。 始末することになる、と夏栖斗が言った所で守護機人が動きかけたが、それは半機械姫が自ら手で制した。 「この世界を害する気はありません。どうぞ、貴方がたの世界を」 「逃げてきたっての、違うな。……自分の意志じゃく、流されたんだな?」 リベリスタに討たれる事を望むかの様な半機械姫の言葉を遮ったのは、レンだ。 「……何故、それを」 半機械姫の驚く顔が、レンの言葉が事実に近い事を証明していた。 「俺はこう言う物から記憶を読み取れる」 レンは手を開いて中に握っていた物を見せた。守護機人の盾の欠片。 「お前がこう言ってたのが見えた。『何故我が主が流されるのだ』ってな」 無機物より記憶を読み取る神秘の力で見た記憶と、これまでのやり取り。そこからレンが類推した2人の事情。 「その通りだ。我が主は処罰として、この世界に流された。我はそれを追ってきたまで」 かつてこの国にも島流しという刑罰があった。 海どころか世界を超えて流す罰を受けてこの世界に、追放された姫。それでも守ろうと追ってきた者。そして。 「ボクは罪人を殺ス為の存在だ。だから、ボクがあの罪人も邪魔スルお前ラも殺スんだ!」 ただ只管、己に課された狂気のプログラムに従って殺そうとする者。 それが、彼らの真相。 「良いのです。最後に、この世界の美しい景色を見れましたし」 半機械姫は償いとして死を受け入れようとしていた。 ●償いのカタチ 「ドケよドケよドケよ殺さセロ!」 狂った様な音声を上げて、執行機人が凶器を振り回す。回転する刃が、氷花の白い肌を裂き赤く染める。血に塗れても怯まず、次を確実に当てる為に意識を集中する。 「少し黙ってろ」 涼子の狙いすました早撃ちが執行機人を射抜いても、その動きは止まらない。 「ある意味同族なんでな。触らせはしないッ!」 ずっと執行機人の進路を阻み続けた鷲祐も、さすがにあちこちに傷を負って血塗れになっていた。 「司馬さん、交代! こっからは僕が抑える!」 それでも鷲祐は立つ事をやめようとしなかったが、傷の具合を見た夏栖斗から交代の合図がかかる。 「潮時か……任せるぞッ!」 「任された! 喰らえ!」 ファイアパターンを施した獲物に燃え盛る本当の炎を纏わせて、夏栖斗が執行機人に叩きつける。燃え移った炎が薄い装甲を溶かす。 執行機人側の戦い進む一方、Dホールが閉じる時間は、刻一刻と迫っている。 (俺達にも、俺達の事情がある。一線は決して揺らがねえ。どうしても残ると言うなら) このまま帰らなければ、猛の覚悟が現実のものになるのは時間の問題。 だが、リベリスタ達にはまだ彼らに向ける言葉が残っている。 かける言葉がないのなら、問答無用で倒す事を選ばなかったのだ。 「駄目だ」 道化のカードを執行機人に向けて放ちながら、レンが静かに、しかしきっぱりと告げる。 「元の世界でどうなるかは俺たちにはわからない。でも、ここで逃げているのは、罪を認めたことにはならない」 「罪を……認めたことにならない?」 レンの言葉を繰り返す半機械姫の表情にあるのは驚き。 彼女は罪を認めたつもりだった。だから、死を受け入れようとしていた。 「罪を認めるのも、受け入れるのも、とても勇気がいることだけど。償うと決めたのなら、その罪と向き合うべきだ。 それはここではない。ここで受け入れるより、自分たちの生まれた世界で、生きていく世界で向き合うべきものだ」 だがレンの言葉は、罪を受け入れ、認めたつもりになっていた半機械姫の意志を、確かに揺らがせた。異世界で死ぬことが、償いではないのだと。 「そう、ですね……私の罪はこの世界には関りのないもの」 「綺麗事かも知れないが、罪は償える。命あっての物種って言葉もあるしな」 「追放された世界でも、でしょうか」 猛の言葉にまだ悩むような言葉を返す半機械姫。 「あのなぁ。一人でもよぉ味方になってくれる奴がいるってんなら、それは世界に追われたんじゃねぇだろうよ。いるじゃねえかそこに」 軽く呆れた様に史が指差したのは勿論、守護機人だ。 「騎士君、守れよ! お姫様を守りたいんだろ? お姫様が自分の世界なんだろ? 鉄にだってプログラムを超えた心が在ることくらい知ってるんだ」 炎と氷の拳を使い分け、執行機人を阻みながら、夏栖斗も守護機人へと叫ぶ。 「帰っても、ハッピーエンドにならない物語かもしれない。だけどな、ここでバッドエンドになんかしたくねぇだろ。ここは僕達が何とかしてやんよ。だから2人で帰れ!」 それは彼自身の望みでもあるだろう。気分屋な運命の見せるバッドエンドになんかしたくないと。 「どうにもならない世界だけど、選ぶのは貴方次第。選んでくれればいい。この世界で、わたしたちと戦うか。元の世界の敵すべてと戦うか」 涼子は告げる。選んでくれていいのだと。まだ、選べるのだと。 「どっちにしたって、たぶん最期まで守り守られることはできる」 「多分ではない。我に心があるとしたら、お前達の言う通りなのだろう。我は、我が主に生きて欲しいのだ」 視線を守護機人に向けた涼子の言葉を、守護機人自信が否定した。 「その意志、違えることはないと、姫の前で誓えるか」 斬られた額の血を拭って、鷲祐が守護機人に覚悟を問う。 「この先、何が起きるか俺達には想像も出来ん。だが、違えることなき意志があるのなら、越えられないモノなど何もない。――それは俺達が証明してきた道だからだ」 アークのリベリスタとして、不可能と思われる任務を幾度も越えてきた。だから、そう言える。 「誓おう。我が主を、この体朽ちるまで、あらゆる物から守ると」 鷲祐の言葉に、守護機人が示した覚悟。 半機械姫が、その言葉を聞くのは2度目だ。 1度目はリベリスタ達が現れる直前に。その時、彼女の目に涙が浮かんでいたのは、嬉しいと感じたからだ。 それでも、世界に受け入れられなかったと言う事実が罪の意識を強くさせ、死を受け入れかけた。だが、そこから彼女を立ち直らせたのも、またリベリスタ達の言葉だ。 「言っただろ。キミはもうしばらくあのイケメンと2人で旅を続ける必要があるって。行きなよ。2人で」 翔護は、半機械姫の同意を得た後、彼女に守護機人の帰還を命じて貰う事を考えていたが、この様子ではその必要はなさそうだ。こうなっては、もう2人を見送ればそれでいい。 「正直な所、あの世界でどう償えるか判りませんが」 「逃げても隠れても、身分を落としても、生きる術を探すことができるかもしれませんの。姫様には、騎士様がいらっしゃるのですから。ご自身の世界へ帰り、逃げ延びて下さいまし」 「お前たち二人なら、大丈夫だと思う。きっと、向き合えるはずだ。それだけ強い意思を感じたからだ」 まだ少し不安げな様子の半機械姫だが、氷花とレンが背中を押す。 「おい、姫様もナイト様も。のんびり迷ってる時間はねぇんだぞ。さっさと2人で帰れ!」 猛がDホールを指差し、2人を急かす。 確かな答えが出たわけではないだろう。 それでも、2人は一度リベリスタ達に向かって頷いてからDホールへと向かった。 ●決着 「行くナヨ、罪人ガ! ボクに殺されロ!」 残された執行機人が強引に突破しようとする。 しかし、2人の説得が成った今、リベリスタは全力で執行機人を相手に出来る。1対8で、突破を許す筈がない。 猛が前に出て、夏栖斗と同じ位置に並ぶ。1体を阻めば良いのなら、前衛は多い方がいい。雷を手足に纏い執行機人に叩き込まれる。 後ろから響く銃声。涼子の早撃ちが肩を貫く。 「キャッシュからのパニッシュ☆ これは、キミ達をイイ感じにするおまじないさ。じゃ、またね」 この世界を去ろうとする2人に見せる翔護のお馴染みのポーズから構えを変え、放つ精密射撃。 身をよじって避けようとした執行機人が足を縺れさせた。レンの道化のカードが導いた不運。銃弾が、執行機人の頭を貫く。 「これは……執行機関が消えてますわ! 皆様、自爆に警戒を!」 自身の放った真空刃が大きな傷を付けるのを見て、氷花が優れた観察眼で敵の限界が近い事に気づいた。 「させるかよぉ!」 だが、史がこのタイミングを狙っていた。 時間がないからと焦らず、闇雲に撃つこともせず。姫たちと話す横で、執行機人の動きをじっと観察し、集中を重ねた。 長い詠唱は技術で縮める。かなり年季の入った奇書のページが独りでにパラパラ動き出し、放つは黒色の葬送曲。史の血液が黒い鎖の姿を取り、執行機人の動きを完全に呪縛する。 「ナん……動けナイ」 「オレがただ話してるだけだと思ったか? 自爆なんかさせてやんねぇよ」 執行機人が自爆をする前に彼が動けたのは僥倖ではあったが、回避性能を支えていた機関が消失した執行機人に、集中を幾度も重ねた一撃を避けられる道理がない。 この時点で勝負は決した様なものだ。 高く跳んだ鷲祐が執行機人の頭上を取った。 「終わりだッ!」 神速斬断。 今の執行機人に、それを避けられる速さはない。 ――カラン。 乾いた音を立てて、執行機人だった物の残骸が地に落ちたのは、その数秒後の事だった。 「なんとか丸く収まったな」 猛の表情に安堵の色が浮かぶ。Dホールは既にブレイクゲートで破壊した。2人の姿は、もうこの世界のどこにもない。 「……良かったのかな。帰ったって、ろくなことなさそうだけど」 涼子も空中を見つめていた。どうにもならない事は、いつもある。リベリスタ達の選択は、果たして彼らにとっても正解になったのか。 「大丈夫だろ? きっと向こうにだっているさ、オレ達みたいなイケメンが」 翔護が思い浮かべるのは、乗り物や動物の姿から掛け声一つで変形するイケメンロボット達。そんな味方が彼らにいる根拠はなくとも、翔護は大丈夫だと信じる。 「騎士様と姫様には、幸せになって頂きたいですわ」 氷花の言葉は、恐らく全員同じ思いであっただろう。 だからこそ、彼らは運命に選ばれなかった異世界の姫の命を諦めなかった。 そして、この世界で出来る事を成し遂げたのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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