● 「さぁて……どうしたもんかな?」 京都府舞鶴市。 クライヴ・アヴァロンは舞鶴港から日本を出るべく、この地を訪れていた。 何もせずに離れてしまっても構わない。 指揮者である ケイオス・“コンダクター”・カントーリオの死亡により、彼は既に糸の切れた凧。 何時でも、どこでも、好きな時に『救済』を人々に与えれば良いと考えるほどに彼は自由だ。 『船……乗るの?』 本来なら、ここで追従者であるパトリシア・リルバーンが抑揚無く、これからどうするのかを尋ねてきた事だろう。 そしてそれにイラつき、ストレス発散と言わんばかりに殴りつけていた事だろう。 「うーむ。やっぱ人形は生きてないと面白くないよな」 軽く欠伸した彼の傍らにあるのは、死者と化しながらも無言のまま、操られるがままに追従するパトリシア。 既に京都三条通の戦いから使っていたリベリスタ集団『剣狼』や、道中で得た死体は廃棄したのか、クライヴの率いる死体はこの少女の死体ヒトツのみ。 「コイツは魚の餌にでもするとして……新しい人形でも探しておくか」 敗走した楽団員が、それぞれアンコールを奏している事は既に耳に入っている。 何もせずに日本を離れても構わないのだが、この流れに乗るのも悪くは無い。それまでパトリシアを使い、潰してしまうのも一興だ。 ついでにパトリシアに代わる新しい人形でも確保出来れば、暇な時間も多くはなくなるはずだ。 「どれ……やるか」 コキコキと首を鳴らし、彼は昼下がりの舞鶴港を歩く。 道すがら出会う人間を片っ端から『救済』し、兵とし、混乱の中で人形となる存在を探す。 「――ん? おー、面白いのがいるじゃないか」 ふと彼の視線に止まったのは死体の群れに臆す事無く、逃げ出しもせずに周囲の一般人を逃がす3人のリベリスタだった。 「1人は男――却下。もう2人は女か。まぁどっちか1人で良いか」 最初に目に映った男は、人形とする気にもならない。 残る女2人の片方は高校生くらいだろうか。真面目そうな雰囲気で剣を振るう姿を見れば、心を砕いて人形にする過程は面白そうだとクライヴは考える。 そして最後の1人は、パトリシアと同じ年頃――小学生くらいか。最も御しやすそうな存在に、クライヴはパトリシアの代わりにするならばこの少女かとも思っていた。 「よぉ、クソリベリスタの諸君。『救済』してやらない代わりに、俺の人形にしてやるよ」 とんでもない殺し文句を持って、クライヴは2人の少女を新しい人形として狙う――。 ● 「傍迷惑なアンコールね。しかも敗北を感じたら逃げる可能性が高いわ」 今回のクライヴは戦いに本腰を入れてはいない。故に敗戦を感じれば逃走すると桜花 美咲 (nBNE000239)は言う。 彼にとって、人形を得る事は『最後の一暴れ』のついでに過ぎないからだ。 「まずは舞鶴での被害をこれ以上出さない事が重要ね。リベリスタ3人を守る事もそうだけど、混乱を最小限に抑えるためにはクライヴを倒す事は考えない方が良いかもしれない」 出会う人間、目に付いた人間を片っ端から『救済』するクライヴ・アヴァロン。 最初から従えていた死体は『incensatrice』パトリシア・リルバーンの死体だけだが、今は20体程の死体を従え、それなりの戦力は有している。 混乱を巻き起こし、思うが侭に『救済』し、余裕があればリベリスタの少女2人のどちらかを新たな『追従者』とするのが、今回の彼の目的だ。 そうなれば、まずは一般人をクライヴによる『救済』から救う事が第一だという美咲の意見は正しい。 3人のリベリスタは戦う力があるため、的確な援護が出来れば倒される可能性も少ないだろう。 「クライヴは今回、本腰を入れてないから作戦だとかは考えてないみたいよ。でも状況次第では何らかの手を打ってくる可能性も高いから、そこだけは気をつけてね」 過去2回、重要な局面で手痛い敗戦を喫した相手。 であるが故に、余計な事をさせずに対処する事が重要となる事は間違いない。 果たして『救済者』の奏でるアンコールの行方は――? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月17日(水)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●狂詩曲 指揮者ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが存在しない今、クライヴ・アヴァロンは自由に己の曲を奏でる存在となっていた。 彼の奏でる音色は『救済』と称した死の事実を、人々に突きつけていく。 老若男女問わず、目に付いた生者を片っ端から思うが侭に殺戮する様は、狂詩曲のそれに近い。 しかも今回は、誰かの命で動いているわけではないのだ。気の向くままに殺し、何か問題が発生すれば逃げる。 「ハハハハ……あぁいや、楽しいもんだ」 久方振りの自由に、体が驚くほどに軽いと感じるクライヴ。 「ちくしょう、何なんだアイツは! 何が目的なんだ!」 「そんな事より、止めるわよ。少しでも皆を逃がさないと」 彼の凶行を止めるために戦う勇人の疑問を遮り、真希が死体の1つを炎に包む。 「でも、相当硬いよ……どうしよう……」 しかしその炎も、続けて美希が放った神気閃光の光も、死体を倒すまでには至らない。 圧倒的に不足する火力の中、3人の兄妹達は自身の後ろにだけは決して進ませまいと、己が身を盾とする。 高山三兄妹にとっては、あまりにも絶望的な戦場だった――今までは。 「助力する!」 「……え?」 かかった声に勇人が疑問の声を上げるよりも先に、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が迫り来る死体の横っ面を殴り飛ばし、3人の前へと躍り出る。 あまりの殴打に死体の首が360度ほど回転したが、それでも死体はまだ動きを止めようとはしない。 「誰も望まないアンコールなんて、止めてやるんだから」 その死体を、手にしたリボルバーとオートマチックで穿った『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が視線をクライヴへと移せば、 「クライヴと決着を着けたいところですが……。まずは一般人の避難が優先です」 やるべき事は、『今は』そうではないという『魔術師』風見 七花(BNE003013)の言葉に、虎美は頷いて返す。 今はまだ早いのだ。 確かにクライヴを討てれば戦果は最高となるだろうが、目の前の惨劇を食い止めなければ話にならない。 「奴は貴様の妹を狙っている、孤立せぬよう徹底し無理をさせるな。死せば奴の死体兵として手駒とされる。無茶は愚策。勇人も心得てくれ」 「――わかった!」 端的にではあるがクライヴの目的を説明した優希に理解を示し、アークのリベリスタと離れないようにと妹達に指示を出す勇人。 (……そうだ、それでいい。お前達は欠かすこと無く守りきるぞ) そんな3人を見やり、優希はこの3人も死なせはしないという決意を胸に、前へと視線を向けた。 「あっちは合流したようだな。楽団か……これで最後にして欲しいもんだな」 彼等とは逆の方向からクライヴへの挟撃を計った『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)は、もうこれで終わりにしたいと切に願う。 クライヴの日本での戦いは、恐らくはこれが一旦の最後だ。 逃がせば日本の被害は無くなるが、世界で再び被害が出る事は間違いない。 「逃げ帰るところを後ろから襲ってもリベンジといった感じはしないが、まあ勝てば問題あるまい」 今、クライヴ・アヴァロンは組織としては敗走している存在ではある。前回の敗戦を取り返すには少々物足りないが、今回は勝てるだろうと『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は判断する。 「まったく、精神の浪費ほど無駄なものはない」 一方で『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)はクライヴのみならず、楽団員全てへの怒りが既に限界を突破しかけているようだ。 今回の戦いにおいて、どう善戦しても一般人は少しずつではあるが被害が出るだろう。 だがそれを仕方ない事、重要ではない過程だという考えが脳裏を過ぎるほどに、シェリーはクライヴを討つ事だけに念頭を置いていた。 「前から後ろから、今回もご苦労な事だな」 そんなリベリスタ達の挟撃を前にしながらも、やはりクライヴ・アヴァロンは余裕の笑みを崩さない。 「お久しぶり、パトリシアは見ない間に顔色悪くなったね。……悪いけど止めるよ」 「あぁ、まぁ勝手にやってくれ。適当に遊んだら俺も帰るからよ」 虎美の言葉にそう返し、クライヴは僅かに海の方へと動く。 顔色が悪くなったパトリシアの魂は既にこの世にはなく、そのクライヴを守るための盾として再び使い潰される構えのようだ。 「替えが効くからっちゅうて、使い捨てたんはやっぱどうかと思うぜよ。いつか誰からも見放されて死んでまうと思うで」 そんなクライヴに、『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)がそんな言葉を投げる。 「俺は俺だけが大事なんだよ、わかるか? 俺は俺の思うが侭の道を進むだけさ」 当の仁太にとってはそれはどうでも良い事だったが、死ぬまでクライヴは己の道を進むと返した。 それがクライヴ・アヴァロンという男の生き様なのだろう。 「しかし新たな人形どころじゃねーな……。魚の餌より、こいつ等の餌にするか」 その道が極めんとするのは、己の快楽のみ。 自身を過去の戦いで勝利に導いた存在ですらも、彼にとっては使い捨ての駒。 「生トイウ救済ヲ出来ナカッタ、私カラノセメテモノ償イダ――手前ヲ救ウ」 その気になれば救えたはずだった存在、パトリシアの死に悔しさを残す『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は、クライヴよりもパトリシアを呪縛から解き放つ、ただそのためだけにこの場にいる。 (アノ時私ガモット強ケレバ――) 自我を失ったままの幸薄い人生に幕を閉じながらも、死者として動き続ける少女を想い、ミラージュエッジを握るリュミエールの手に力が篭る。 これ以上の被害は抑えられるのか? 高山三兄妹は無事に戦いを切り抜けられるのか? そして、クライヴ・アヴァロンを討ち果たせるのか――? 混沌組曲・追、開演。 ●救済者 「さぁて……どうしたもんかな?」 クライヴは前と後ろを交互に見やり、その後に海の方を見る。 既に気侭な救済という目的は果たしたも同然。 「離れるなよ、孤立したら危険だ」 優希に伴われて一般人の避難を援護する高山三兄妹の真希と美希、どちらかを手中に収められれば最高の結果ではあるが、戦線を維持出来るだけの戦力もなければ、布陣も敷いていない。 「とにかく、敵がばらけると面倒だ。さっさと数を減らしにかかるか」 と鉅が不幸を運ぶ月を作り上げ言うものの、死体は混乱を巻き起こすべく幅広く展開しているためにあちこちで生者の姿を探している。 「うわぁぁ、助けてくれっ!?」 「早く、逃げてください」 丁度逃げ遅れた男性を襲いにかかった死体の攻撃を身を挺して受け止め、七花は最初に重要な事である一般人の避難に従事し、 「援護するよ、突出しないでね?」 その避難を援護しようと動いた虎美の放つ光柱が、近くにいた死体すらも巻き込んで鋭く撃ち貫いていく。 「アーク……流石だな、見習わないといけない」 「そうね、私達もベストを尽くしましょう」 付き従うように動く高山三兄妹が決して突出せず、彼等と共にいる内はクライヴとて早々に手は出せない。 「同じリベリスタだ、狙われてるから撤退しろなんて言わないぜ。共に戦い、楽団を沈めよう」 勇人に対してそう言った俊介は、楽団との戦いにおいて妹を失っている。 だからこそ、そんな思いを誰かにしてほしくはない。 (人形? させてたまるか!) ましてクライヴは、2人の妹の内のどちらかを人形として得ようとしているのだ。 そうなれば、彼の近くでリベリスタ達を迎撃するパトリシアのような末路を辿る事は必然だろう。 「まずは逃げてる人を逃がすで! クライヴだのはそれからや!」 彼等高山三兄妹を守る事も大切だが、逃げ惑う人々を安全に逃がす事も大事だという仁太の言葉に頷き、俊介は戦場を走る。 これ以上の被害を出さず、3人の兄妹も、守ってみせる。 戦うリベリスタ達の思いは、この点において誰もが同じなのだ。 「……あぁ、色々やる事が多いんだな。これなら撤退はやりやすそう……ん?」 それでもリベリスタ達の動きを見れば、成すべき事が多く自分にまで到達するまではまだ時間がかかるだろうとクライヴが思いかける中、 「戦力を纏めることを勧めるぞ。別れた所を狙うのは定石だろう?」 怒りのオーラが目に見えそうなくらいの憤怒に燃える、シェリーの言葉が飛ぶ。 余裕の笑みを見せてはいるが、放つ殺気を感じられないようなクライヴでもない。 「ハハハ、どうやら相当恨まれてるみたいだな!」 下手をすると一気に本丸まで攻めて来るような気迫に、無理に攻め立てる局面ではないと彼は感じたようだ。 退路を確保し、素早く逃げる。 周囲のリベリスタの動きを見、シェリーの警告をブラフだと判断した後、彼はさらに海の方へと歩を進める。 「助けに来たで、こっちや!」 そんな中、仁太も一般人を先に避難させようと動いた事が、クライヴにその判断が正しかったと思わせる材料ともなっていた。 「固めれば雑魚が逃げる時間が稼げる――か。なるほど、そこは良い判断だ。俺が相手でなければな!」 「そう言ってもらえるのは嬉しいものじゃが、貴様を逃がす気もないのじゃ!」 逃走を既に考えるクライヴを逃がすまいと、シェリーが僅かに前へとにじり寄る。 「あの時、私を見逃した事を後悔させてやります」 七花もそれに続かんと、周囲に逃がすべき相手がいない事を確認して続く。 この場に立つリベリスタの大半は、過去の戦いにおいてクライヴに敗戦を喫した者達。 当時はクライヴが『救済』よりも『目的達成』を重要視したがために命を失わずに済んだが、それが今、クライヴを追撃する事に繋がっているのは事実だ。 「海とは逆の方向に逃げてくれよ!」 そしてクライヴが海の方へと逃げる事はリベリスタ達の作戦の内であり、俊介はそれを機に一般人を逆方向へと逃がしにかかる。 最初に一般人を逃がし、高山三兄妹を保護しながら戦う。 挟撃しながら、クライヴを海の方へと押しやる。 可能ならば、そのままクライヴを討つ。 ここまでの僅かな時間の戦いで、リベリスタ達は組み立てた作戦の中でクライヴを海の方へと押しやる事までは成功していた。 「余裕があれば、一気に押し込めたいものだが……やはり厄介な存在だな」 が、ここで鉅の足がそれ以上前に進む事をやめる。 死んでいても、ビーターを叩く動作は生前より僅かに緩慢になっただけのパトリシアの存在が、リベリスタとクライヴを阻む壁となったのだ。 「――パトリシア、最後マデ人形ノママカ。ダガ……解放ハシテヤル!」 リュミエールはそのパトリシアを操る糸を断ち切るべく、走る。クライヴですらも捉えるのがやっとな速度を持って、パトリシアに刃を突き立てていく。 「……」 「――時ヨ、世界ヨ、魂ヨ加速シロ、私ハ誰ヨリモ、速イノダカラ。加速デ螺子曲ガレ世界ヨ、私ハ此処ニイル」 無言のままのパトリシアと、刃を振るうリュミエールの視線が交錯し、直後にパトリシアの胸へと突き立つミラージュエッジ。 凄まじい速さにどうやら死体であるパトリシアは付いていけず、ビーターを叩いて抵抗するのが精一杯らしい。 「あぁ、ありゃもうダメだな。壁にすらならんか」 その戦いの様子を眺めるクライヴにとって、最早パトリシアは『役立たず』の存在となった。 「パトリシアは大丈夫そうだ。……そっちは?」 『こっちも大丈夫。死体は少しずつだけど確実に減ってるよ』 アクセスファンタズムを通して状況を伝えた鉅は、応答した虎美から得た情報に戦況の有利を確信する。 「なら、このままヤツまで倒したいところだが……目標は達成出来そうではあるんだよな」 果たして、ここでクライヴまで強引に倒すべきか否か。既に一般人の殆どが逃げ延びた今、クライヴを討つには確かに好機だ。 「その先を目指すのは悪くないと思うぞ? 元より妾はヤツも倒すつもりじゃ!」 楽団に対しての怒りが凄まじいシェリーは、その機を逃すつもりもない。 放った虚無の手がクライヴの近くにいた死体を粉々に砕いた事からも、その怒りの具合は凄まじい。 「そのまま海に沈むか、妾の手にかかるか、選ぶと良いのじゃ」 じわじわとではあるが、展開した死体を蹴散らしていく周囲のリベリスタ達もクライヴの包囲を考える状況には至っている。 こうなってしまえば、確かにシェリーの提示した選択が2つに絞られた事も理にはかなっている。 「負けっぱなしっちゅうんはあんまり好きやないんでな。今回は勝たせてもらうで」 激しく火を吹いたハニーコムガトリングを大地に突き立て、仁太は何時でも狙いにいける態勢だ。 前にはリベリスタ。後ろには海。 (あぁ、こういうのは状況としては最悪――なのか? 普通ならな) が、ふっと笑うクライヴは別にここで命をかけるつもりなど毛頭ない。 「年貢の納め時ですね、クライヴ・アヴァロン」 七花がクライヴの周囲に立つ残りの死体の幾つかを纏めて焼き、言う。 お前はここで終わるのだと。 「ソロソロ……眠レ。悪イ夢ヲ見ルノハヤメニシロ。元凶ハ断ットイテヤル」 彼の操り糸を断ち切りパトリシアを真なる眠りにつかせたリュミエールは、少女の見開かれた目をそっと手で閉じ、クライヴを次の標的と補足する。 「おい、クライヴ、一つ問う。投降する気は?」 決して逃がすまいと陣地の作成を開始した俊介は、敢えてクライヴに投降の是非を問う。 『Yes』 そんな答が返ってくるとは思ってもいなかったが、それでも殺すよりは生きて償う道を彼は残した。 下がるクライヴ、追い詰めるリベリスタ。 距離は20m~30mをいったりきたり――といったところか。 「やるなら援護に回らせてもらおうか。こいつの言うところの救済など、趣味でもないしな」 別段クライヴの殺害を絶対に狙っていない鉅が、散発的に襲い来る死体を気糸で絡め取り、仲間達への道を作る。 「ふ……」 その様子を一瞥した後、再び笑うクライヴ。 「何が可笑しい?」 既に高山三兄妹の命が狙われる事はないと判断した優希が、その笑みに怪訝な表情を浮かべ、言った。 「逃げられると思ってるの?」 ズシリとした重厚感のあるガトリングを手に、虎美は何時でもクライヴを射程に収められるようにと動き、 「ここで潔く終わったらどうじゃ!」 威嚇する意味を込めたシェリーの虚無の手が、彼の近くの建物を激しく砕いていく。 俊介の陣地が完成するまでの時間が稼げたならば、ここでクライヴ・アヴァロンは終わっていただろう。 「あー、あー……敢えて言うぜ?」 そんな動きにまるでマイクのテストでもするかのような声を上げた後、クライヴはその言葉とともにくるりと踵を返した。 「悪いな、ハナからお前達とまともにやりあうつもりはねーんだ。今回はな!」 追い詰めるように動いてくれば下がっていた以上、クライヴとリベリスタの距離はあまり変化を見せてはいない。 加えて、彼は『暴れる』という目的は既に達成していたのだ。 「ハハハハ、また会おうぜ!」 一目散に海へと走り出し、クライヴはそそくさと戦場を後にしていく。 「お、泳いでいくじゃとっ……!」 「水泳は得意だ!」 海へとダイブし、泳いで海外脱出を図るクライヴ・アヴァロンの姿に、流石のシェリーも驚きの色を隠せなかったようだ。 「死体が、倒れて……!」 「終わったみたいぜよ」 そして七花の、仁太の眼前で、残る死体は意図が切れたように崩れ落ちていく。 彼の音色の効果が及ばなくなれば、操られる死体は元に戻るのだ。 水音を立てて全力で泳ぐクライヴの背が小さく豆粒のように見えた時、リベリスタ達は『撃退』という勝利を手にする――。 ●終幕 確実な被害は出てしまったが、それ以上を防いだリベリスタ達。 「いや、助かったよ……ありがとう」 「私達だけだったら、止めきれたものじゃなかったわね」 それは勇人や真希がそう礼を述べるように、彼等高山三兄妹の無事も意味している。 「うん、ありがとうだね、お兄ちゃん達!」 「アア、気ニスンナ――」 そしてふと最年少の美希に頭を下げられた時、リュミエールの視線は倒れているパトリシアの方へと向いた。 もしもパトリシアが生きて今を過ごしていたならば、こんな表情を見せたのだろうか? 自我を失った少女の本来の姿を、リベリスタ達は誰も知らない。知りもしない。 「……スマネーナ」 ぽつりと漏らしたその一言が、彼女のパトリシアへの手向けの言葉。 「弔ってやろう」 優希が少女の遺体をそっと抱き上げ、やってきたアークの職員に委ね、言った。 如何に楽団員ではあっても、少女が不幸な生を歩んだ事は大半のリベリスタが知っている。 (コイツの未来ハドンナ感じダッタンダロウナ。お前の知らない世界を私が見セテヤル――) 故にリュミエールは、パトリシアの分まで彼女の知らない世界を見てやろうと心に誓う。 大地に転がったトライアングルは、もうその音色を鳴らす事は無い。 蘇った死者の行軍のアンコールの終わりによって、少女を操る糸を切り裂かれたのだから――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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