●英雄 君が望んだヒーローは変わってた。 だけど、すっごくカッコいいから気に入ったよ。 君の夢は、今走り出す。 僕を友達と差し伸べた手は、とても小さかった。 夢は一度しか見せられないけど大丈夫。 僕が見てきた中で、君は最高のヒーローだから。 ●峠のカーチェイス けたたましい音を響かせ、オンロードバイクがヘアピンカーブを滑り、焼け焦げた黒いラインを描く。 「しっかり摑まってろ!」 「おわぁっ!?」 バイクを操る人影は異様な姿をしていた。 細身の鎧を纏った様な格好に、腕にはブレスレットらしきものが嵌っている。 後ろに跨る中年男性は青ざめ、今にも気を失いそうだ。 ハンドルを回し、クラッチで軽快に速度調整を行い、忙しなくアクセルとブレーキを繰り返す。 その背後を追いかける車両が数台、黒塗りの乗用車が迫り、箱乗り状態で身を乗り出した男達が数名。 男達から放たれる銃弾と魔力の光がバイクを追いかけるが、機敏なハンドル捌きでこれを避ける。 ピンポイントにタイヤを狙ったそれはアスファルトを抉り、ぽっかりと穴を開けてしまうほどだ。 後はストレートな上り坂を抜ければ後半戦、下りながらの曲がりくねった峠道である。 一気に切り抜けようと加速した瞬間、動きが単調になるそこを狙って黒塗りの車から弾丸が放たれた。 まっすぐに伸びるそれはとうとうタイヤを穿つ。 「しまったっ!?」 「うわぁぁぁっ!?」 制御を欠いたバイクは右に左にくねり、崖から落ちぬ様にどうにかブレーキを掛ける。 『目標の足を止めました』 車の助手席に座る男が、携帯電話を介し報告を行う。 『ご苦労様です、逃がさない様に頼みますよ。流石に二つ目も逃げられたとあっては……ね?』 ゆっくりとした口調の返事は、突き刺さるような冷たさを放っていた。 失敗は許されないと、男は仲間に声をかけるとそそくさと車から飛び出す。 「……っ」 目が回る中、鎧姿の目に映るのは、こちらを囲みにじり寄る男達の姿であった。 ●七番目のお子様 「せんきょーよほー、するよっ!」 今日も元気いっぱい、『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)と微動だにせず仏頂面の兄、紳護・S・アテニャン(nBNE000246)の二人がリベリスタ達を出迎える。 「あのね、今日のおねがいなんだけど……もぉ~っ、このおにいちゃん達はぁぁぁっ!!」 いきなりノエルが憤慨し、バンッ! と、スケッチブックをブッ立てる。 そこには落書きで綴られた人物画、そしてクレヨンで書かれた崩れた文字。 『おそれやま』、『ななちゃん』、『ひろとくん』と書かれた二人が今回の重要点らしい。 「とおるくんのお友達ね、いま病院にいるの。ななちゃんは、とおるくんのお願いで鎧になったんだよ?」 『ななちゃん』と書かれて線が引いてある人物画は、『ひろとくん』と書かれた姿でもある。 しかし、何故鎧なのだろうか? 「ひろとくんは、あぶなくなったとき、きっと正義のみかたで、カッコいいヒーローが助けにきてくれるって、ずっと思ってたの。ななちゃんは、そんな変わったことが好きで、ひろとくんを助けて、おともだちになったんだよ」 何となく分かるけど、今一つ理解しきれない。 彼らの顔色を見れば紳護が苦笑いを零し、口を挟む。 「ななちゃんというのは、SN7と言われるアーティファクトだ。SNはある程度の意思を持ち、自分の使い手となる者を選ぶ。今回は一般人を選んだらしい」 コンソールを叩こうとする紳護に、手伝うとぴょんぴょん跳ねるノエル。 困った様に笑うと軽く頭をひと撫でしてから、次に出すデータの操作を任せた。 「辺見 宏人(へんみ ひろと)、彼が現時点でのSN7の所有者……と言うよりは、ノエルの言った通り、友人に近い。彼が望んだ正義のヒーローの姿、それを気に入ったSN7がそれを模した姿に彼が変われる様に契約し、大きな事故に巻き込まれたところを助けた」 画面には事故の映像が映し出される、大型トラックとバスが衝突事故を起こす中、彼は生き延びた。 不自然に動く車両や残骸の映像、変身した姿が映らなかったのは運がいい。 「友人とバスで旅行に出かけている時に事故が起きたんだが……その友人が酷い重傷を負ってしまった。治療できる医師が急いで病院に向かおうとしているのだが、SN7を探っていた恐山に嗅ぎつけられてしまった」 続けてノエルが準備した映像が浮かび、その医師の自宅から病院までのルートが表示される。 家からバイクで病院に向かうという何の変哲も無いものだが。 「人気の無いトンネルに入ったところで医師を拉致しようと恐山が動く予想だが、ここは問題ない。辺見が不意を着いて医師を連れて逃げ出す事になっている、問題はそこからだ。本来のルートを逸れた状態、更に最短で病院に辿り着くには山を越えるしかない。そこでこの峠道に入る予測だが……ここで捕まるのが予知の結果だ」 そこでリベリスタ達は違和感を覚えるだろう、ヒーローになっているなら戦ってしまえばよいのではないかと。 勿論多勢に無勢では勝てはせずとも逃がす事ぐらいは……と。 訝しげな表情を見せ始めたところで紳護は言葉を続けた。 「SN7はあくまでアーティファクトだ、使用主の力の度合いに影響される。何の力も無い少年が所有者では能力者に太刀打ちするには限界があるようだ」 分かりやすく言うであれば、変形しても駆け出しのリベリスタ程度の性能しか出ないらしい。 予測された数値の画面にスクリーンが変わり、それを目にした一同も納得と頷く。 「だが、逆に言うのであれば……高い力を持つ悪党に渡れば、面倒な事になる」 再び画面は変わり、以前、SN1という別タイプの敵と戦った報告データが並べられていく。 命を捨てた契約の元、回避力に特化した使い主の動きは一度はリベリスタ達を退けてしまった程だ。 まったくといって被弾しない狂った性能を目にし、リベリスタ達は嫌でも理解した事だろう。 「主要素は理解してもらえたところで、作戦説明に移りたいと思う。カーチェイス中に医師の引渡しを頼むのも難しいだろう、そこを狙い撃ちされても面倒だ。そこで辺見が医師を乗せたまま峠を突破するまで、全力で援護してもらう」 峠の道筋が映し出され、曲がりくねった道のりは普通に走るだけでも大変そうだ。 「考えられる予想速度で駆け抜ければ……大体3分程度で抜けられるはずだ、その後は大通りに接続される。向こうもおいそれと手は出せないだろう」 つまり、それまでの間バイクへの被弾を防ぐ必要がある。 勿論医師に被弾しようものなら即刻アウトだ。 曲がりくねった道のりは相手の狙いをずらしてくれる事だろう、だが万が一の直撃コースへ盾として割り込むのも大変という事だ。 「恐山は以前SN1の回収に失敗している事もあり、全力で追い込んでくる筈だ。守るのも大切だが、迎撃し追い払わなければ押し切られる。大変だとは思うが守りと反撃を両方こなしてもらう必要がある」 誰が盾になるのか、誰が状況把握に努めるのか、誰が攻撃するのか、回復するのか。 全員の判断全てが大切だ、求められるは連携力だろう。 「一応こちらでも車両は2台準備してある、ドライバーが必要ならば準備するが……反射神経や連携しやすさは君達の誰かがハンドルを握った方が上だろう」 手数を確保するか、確実な足回りを確保するかも考え様だ。 勿論の事だが別に車両を準備できるのであれば、使っても構わないと紳護は補足を加える。 「それと……飛行は使いどころを考えてくれ、足が離れて暫くすれば慣性が弱まって取り残されるからな」 一瞬であれば影響は無いが、浮かび上がるとすれば毎秒ごとに体に乗っていた速度は失われる。 最悪取り残される可能性もあるわけだ。 「一応、スカイウォーカーが援護に入り、後ろから追跡するが、基本的には車両から落下したり、飛行で減速しておいていかれたメンバーを再度前線に送る為の追跡だ。戦力としては数えないでくれ」 裏方役の彼等では力が弱い、出来るだけの援護というではあるも送り返すにも時間は掛かるだろう。 なるべくお世話にならないほうが良いのは、彼の口から言うまでもない。 「倒し方は任せる、面倒な戦いだがよろしく頼む。それと彼との契約はあくまで限定的なものだ、友人の治療が成功する事が彼の望みと同義になるらしく、医師を病院に連れて行けば契約は終わる。秘匿に関してだが……今回の事と彼の過去の経歴を見るに、言いふらしたりはしないだろう。口外しないようにだけ伝えておいて欲しい、その後の経過はこちらで引き継いで観察する」 無理矢理引き剥がすことにはならないが、情がある以上、涙無くして別れられるものでもない。 後味が悪くならない様、何か言葉を考えておけば最適だろう。 「ななちゃんはね、変わったことがすきなの。じぶんらしいって思うことを大事にするの。だからね、ななちゃんの言う、じぶんだけのモノがあったら、お友達になれるかも」 自分らしさ、それは人それぞれだ。 儚い望みを壊そうとする恐山にそんなものがあってなるものかと思いつつも、リベリスタ達は準備に取り掛かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月23日(火)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 峠道を駆け抜ける一台のバイク。 その後を追いかける車の窓からは、男達が身を乗り出し銃口を向ける。 宏人がアクセルをさらに吹かそうとした瞬間、激しいスリップ音と共に3台の車が分岐路から突入した。 「やれやれ、春の交通安全運動真っ最中だと言うのに……こんなモンスターマシンで峠を攻めてるだなんて、昔の同僚が聞いたら泣きますねえ」 元警察官の『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)は苦笑いを浮かべながらハンドルを回す。 更にもう1台、『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)も同じく軍用の車両で間に割り入る。 そして2台の前方に『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が自前の軽トラックでバイクのほぼ真後ろにつく。 新手か? と、バイクのハンドルを握る辺見 宏人は焦りそうになるが。 『辺見宏人、SN7、どちらでもいい、聞こえるな? オレはフツ。リベリスタだ。お前さん達を手伝いにきた』 『てるてる坊主』焦燥院 "Buddha" フツ(BNE001054)が彼にテレパシーで語りかける。 『今、お前のすぐ後ろにいて、魔法で話しかけてる。軽トラの荷台に乗ってる坊主がオレだ』 辺見はバイクのサイドミラーを覗き、フツの姿を確かめる。 『SN7は自由に形を変えられるんだろ。医者を守るような形に変形できないか。無理なら、医者が落ちにくくなるようにしてくれ! 辺見と医者を繋ぐベルトみたいになるとかさ!』 提案にSN7がフツへ同じくテレパスの様なもので答えた。 形は変わるが、それは望まれ、適合させる為の変化。 常々好きに変われない為、どうにかするのは難しい。 断片的な返答を受信したフツは、自分達の壁がより重要になった事を感じる。 代わりにと、医者がより強く辺見にしがみつくのが見えた。 『わかった。後ろの悪人どもはオレ達がなんとかするから、お前さんは背中の医者を必ず送り届けてくれ。頼むぜ、ヒーロー!』 「二人とも無事に送り届けたらんと!!」 守の車両、助手席に搭乗する『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)は窓から身を乗り出す。 狙うは運転席、まっすぐ進む弾丸はフロントガラスに遮られるも大きく皹割れた。 (「少年を守れずに何が父親でござるか……少年を守れずに娘を守れるはずがないでござる」) 『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は迫る追っ手を前に己が覚悟を決める。 斬りつけるにはまだ遠いが届かぬことはない。 「故に拙者は……何かを守る為におぬし達を滅ぼす! アーク参上でござる!」 ぐっと身を屈め、だが体には力が入り過ぎない。 タイミングを合わせ抜刀、黒光りの一線から放たれた風は真空の刃の如く駆け抜け、真後ろにいた車両のタイヤを切り裂く。 「全く子供相手に、大人が武器を持って寄ってたかって……少しは恥を知ると良いですぞ」 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が虎鐵の攻撃に続き、魔力の篭った銃を構える。 見た目こそまさに怪人ではあるも、実は子供好きと意外と思えそうな一面があり、ともすればこの状況は許しがたい。 極限の集中を持ってすれば、後方を走る車の動きは止まって見える。 その証拠に吐き出された弾丸は、虎鐵の攻撃でより脆くなった部分を撃ち抜き、早速タイヤが一つ破裂した。 ● 虎鐵の攻撃力を恐れた故か、反撃に移るフィクサード達の弾丸は一挙に守の車両に集中した。 「そう簡単には崩されませんよ!」 ハンドルを力で押さえ込み、装甲板に、タイヤに、悲鳴が聞こえても真っ直ぐに走らせていく。 だが伝わる衝撃やガラスを突き破った弾丸は車体の攻撃に巻き込まれる様に乗り込んだリベリスタ達をも襲い、体力を削る。 だが、安定した走行で再び虎鐵の風の刃がタイヤを掠めさせ、椿の射撃がフロントガラスを砕く。 虎鐵が傷つけたタイヤを再び撃ち抜き、二台目の車両も今にも破裂しそうだ。 しかし1つ失っただけでリタイアさせるには難しい、しかし安定しての加速は難しく、回避行動を取らせるのもブレやすくなる。 「不吉(ハードラック)とダンスっちまうといいぜ」 フツが解除されようとも重ねなおす極縛陣の力も合わさり、じわりじわりと優位性が後押しするだろう。 次の反撃が集中したのは剛毅の車だ。 破壊力の高い虎鐵も厄介ではあるが、的確な射撃で確実に潰しにくる九十九の方が厄介と考えが変わったようだ。 「疾風怒濤フルメタルセイヴァー、簡単にはやられないぜ!」 なるべく急所となるタイヤへの被弾を抑えようと機敏にハンドルを調整し、ダメージをコントロールしつつも、なるべく車両が揺れすぎない様にと絶妙なハンドル捌きを見せる。 コーナーに差し掛かると椿が呪印が篭った弾丸を放ち、運転手へと直撃させた。 幾重にも広がった呪いは鎖の如く運転手を縛りつけ、ハンドル捌きを封じ込める。 「多少丈夫な位では、そのまま貫きますぞ?」 コーナー直前で九十九が再びタイヤを貫き、最悪のタイミングでハンドル調整を狂わせる。 結果二台の車は斜面に激突するわ、味方の車両とぶつかるわとダメージを重ねてしまう。 反撃の雨霰から急カーブを抜け直線に入ると、フィクサード達は一斉にアクセルを吹かす。 左右から同時に端を抜けようと加速する車、させじと迫れば中央を抜けられ、無理に維持すれば抉じ開けられる可能性もある。 (「……ここまで近づけばいけるか?」) 荷台で構えたまま、意識を研ぎ澄ましていた朔は迫る車へ狙いを併せようとしていた。 あと少しで射程、そこへ助手席から飛び出したフィクサードが大剣を振りかぶり、彼女へと迫る。 「『閃刃斬魔』、推して参る」 一閃、一度の抜刀から放たれた無数の刃は視認するのも難しい。 何度も斬りつけた証拠に、敵への直撃音は連続した金属音が物語る。 叩ききられながらも敵は刃を叩きつけ、半身に反って避ける朔の肩へ強引に当てて来たのだ。 「っ……!」 サシでの勝負、朔は再び構え、二撃目の応酬が始まる。 その間も状況は進む、九十九と剛毅の飛び道具が車のタイヤを傷つけ、身を乗り出したフィクサードを瘴気で汚染する。 進路を塞ぎ、どうにかこれを防ぐもまだ2台あるのだ。 守の車両の背後から迫るフィクサード達の車は、強引に端からの突破を狙う。 迎撃に虎鐵が音速の刃を放つが狙いは反れて、斜面に吸い込まれてしまった。 「これならどうやろな!」 今度は青い魔力を纏った弾丸が吐き出され、砕けた弾は雨粒の散弾となって敵車両へ降り注ぐ。 濡れたところから忽ち氷で包み込むのだが、勿論これだけでは破壊する事はできない。 だが、冷えればエンジンの出力は一時的に下がる。最高速度の限界を下げて時間稼ぎを試みたのだ。 あとは1台、残った手は一つ。 「皆さん、しっかり摑まっててください!」 守はギュンとハンドルを回して車体を敵へと叩きつけようとするが、敵もそれをよんでいた様だ。 それに合わせて、否、それより一歩早く車体を叩きつけに入り、守の車が最大限の体当たりを出す前に叩きつける。 全力を出す前に潰されたレイジングボアが、つんのめる様に反対方向へふらつく。 その間に中央突破した車両が軽トラへと迫っていった。 ● 突破した車両からはバイクに向けて一斉発射が始まる。 「くるぞ、新田!」 「どんな攻撃だって、絶対に彼らには通さない!」 ぴったりとバイクの背後を維持し、時にはサイドブレーキで滑りながら射線を塞ぐ。 嵐の中に放り込まれたフツは身を屈め、なるべく被弾しない様に身を守るが所々にかすってしまう。 他の敵も手近なリベリスタ達の車へ攻撃を仕掛け、足止めを試みる。 「遅いっ!」 朔の刃が二回煌いたと思いきや、フィクサードは先程の倍以上の手数で切り刻まれる。 「ならこれでどうだ!」 今度は横薙ぎの一撃、威力ではなく排除する事を狙ったメガクラッシュだ。 これに当たるわけにはいかないと身を屈めて避けようとするが、追尾する様に刃は彼女を逃さず捉え、道路へと吹き飛ばす。 今度は強烈なヘアピンカーブ、どうにか入る前に引き離そうとリベリスタ達も必死の応戦を試みる。 フツが槍で切り裂き、九十九の銃弾がタイヤを傷つけるがまだ足りない。 椿は再び呪いで運転手を縛りつけ、コントロールを乱し、車体を斜面へ擦らせ火花を散らす。 落下した朔は準備していたバイクをAFから呼び出すと、地面に激突する前に乗り込み追いすがる。 確実に一人潰そうと競り合いをする敵二台から狙い済ました狙撃が飛び交い、痛みにグリップを握る手が震える。 「釣はいらんぞ、受け取っておけ!」 渾身の力を込めた連続斬り、フィクサードから鮮血の花が散り、意識を失った体は後ろへ倒れ、あっという間に見えなくなっていった。 「これでどうだ!」 もう一度タイヤを狙い、フツが槍を突き出す。 突き刺さったところから凍りつき弾け、タイヤのゴムが消し飛ぶ。 これで前輪のタイヤを二つ失った敵車両は、ホイールでアスファルトを削りながら減速していく。 しかしただでは下がらんと、助手席のフィクサードが飛び出し、軽トラに乗り移ろうとしていた。 「飛び込み乗車はお断りだ!」 快はクンッとハンドルを強めに切り、一瞬だけ車両の後部を振る。 乗ろうとした足場は荷台のフレームへとずれ込み、踏み外したフィクサードが頭から転げ落ち、消えていく。 苦し紛れに軽トラックへ弾丸を浴びせてくるが、無駄な事。 僅かなダメージで止まる事も無く走り続けていたが、ダメージに悩まされていたのは別の者だ。 (「やばくなってきたかもしれないな」) 剛毅のレイジングボアはかなりの被弾をしている。 ハンドルの異常な跳ね上がり、シートを伝う血の量と痛み。 既に異常が置き始めているのは、併走する守にも見て取れた。 ● 「どうしましたか? こっちは放置ですか!?」 攻撃の手が緩んだところで守は挑発の言葉を浴びせつつ、クラクションを鳴らす。 派手な誘いだが、相手の感情を煽る力が篭った言葉に乗せられ、ターゲットは一気に守の方へと傾く。 その隙に椿が三度目の呪印で運転手の動きを封じたところへ、虎鐵が狙いを定めた。 「拙者にとってはそよ風でござるが、おぬし等には強風でござろう!」 シートごと吹き飛ばしそうな渦風が走り、ドライバーを貫く。 回避も許されぬ、直撃コースで虎鐵の刃はさぞ効いた事だろう。 再び車は蛇行運転を繰り返し、車体はベコベコ、うっすらと煙らしきものすら見える。 「……この坂を上がった先に、いますね」 九十九の勘が何かの気配を告げる。 上り坂に差し掛かったこの向こう、大体の居場所を感じ取れた。 速度を維持できなくなり、軽トラから離れていく敵車両から二人が左右にいた仲間の車両に飛び移る。 間もなくして坂を上りきった後、待避所で挟み撃ちを狙っていた最後の一台が姿を現す。 完全に射線が取れてしまう前方を塞ぐべく、新田酒店の看板を掲げ、快のトラックが壁として割り込む。 遠慮の無い弾幕がけたたましくトラックのフレームを叩き、ガラスに皹を刻む。 ギリギリまで接近したところでフツが再びタイヤを狙った一撃を放つ。 命中、凍りついたタイヤからガクリと体勢を崩す敵車両だが、その攻撃の隙を狙ってデュランダルのフィクサードが軽トラに乗り移っていた。 『フッさん、敵が乗り込んできた!』 「遅い!」 気付いた時には斧を振り下ろし、彼に切りかかっている真っ最中。 槍で刃をいなし、直撃は防ぐが反れた刃は胸元を切り裂き、荷台に鮮血が散る。 現状、数は互角だが手負いの車両の数はリベリスタ側が多くなっている。 挟撃の状態で戦う今は、ポジションから離れようものなら一気に潰されかねない。 後ろの激しい攻防に目をやる暇も無い、フィクサードの攻撃を掻い潜りながらフツは只管にタイヤを狙う。 今目の前の相手を倒すのに気をとられれば、手数で負ける。 速度を下げ、追いつけない様にとすり抜ける彼を嘲笑う様に渾身の一振りが彼を宙へ追いやった。 「ぐっ!?」 紐を掴み、車体と繋がったそれに引っ張られる様に浮かび上がる。 紐を切ろうとするフィクサードへ、猛スピードで近づく黒い影があった。 ● 少し遡り、後方の攻防は激しさを増していた。 朔がバイクで取り付き、攻撃している間にも九十九は着々とタイヤに弾丸を撃ち込むも脆い部分に中々当たらず、ペースが下がってきていた。 続いての難関、S字カーブ。 虎鐵の疾風がドライバーの体力を抉り、視野が赤く染まる。 「ついでに受け取ってな!」 追い討ちに椿が呪印を撃ち込み、激しく車体をぶつけ、蛇行し、走れているのが奇跡の様にも見えた。 朔もコーナーへ入る直前で、傍にいた車両のフロントガラスへペイントボールを投げつけて妨害を試みる。 強引にガードレールに車体を滑らせながら曲がる敵車両、効力は十分だ。 だが敵もやられてばかりではない。 「うわぁっ!?」 フィクサード側の反撃に、とうとう守の車両のタイヤが弾けた。 ガクリと車体が傾き、耳障りな摩擦音が車内にまで届く。 「ここは譲りません……っ!!」 額に血が伝う中、潰れた方へ持っていかれそうなハンドルを必死に引っ張りよせ安定させる。 それだけでは足りない、凹凸により過敏な反応を起こすタイヤをハンドルで庇いながらスピード調整も必要だ。 交通課の応援でパトカーを走らせていたあの頃、昔取った杵柄は伊達ではない。 ラインを崩す事無く守の腕前が支えていた。 剛毅の車もここまでで虫の息といったところまで弱っている。 敵も最後のチャンスとアクセル全開で迫り、バンパーを叩きつけ、二人を車内のフレームへぶつけさせた。 「これで終わりですよ!」 二つ目の前輪へ九十九がトリガーを絞る。 バシュン! と破裂音が響けば車は一気に勢いを失うが、その前に一斉射撃が車両を包む。 爆発が終わりを告げる。巻き込まれた二人の運命の力砕け、再起が始まる。 「まだだ……っ疾れ! セイバリアン! 蜂須賀、こっちに乗れ!」 それと共に剛毅は愛車をAFから呼び出すと、炎に包まれた車両から飛び移る。 朔もバイクは生きていたが、足場を持って戦ったほうがやりやすいと頷き側車へ。 「無事に送るまでは……倒れられませんぞ」 火の海から九十九のバイクが呼び出し、消し炭のフレームを足場に飛び乗る。 加速し、マントからボロボロと炎が崩れ落ちていった。 一気に加速し近づいた剛毅が瘴気の幕を浴びせ、フィクサードの動きを制し、その間にフツが車両へとよじ登る。 後は二台、こちらも戦力が下がったが手数が減っていない分有利だ。 敵にも焦りが生まれ、残った後方の一台は強引に斜面側から守の車両を突破しようと最後の賭けに出た。 「ここは絶対死守ですっ!」 コントロールが難しくなった車を操作し、今度は強引な体当たりが崖と車体で押さえ込む。 椿の断罪の弾丸が運転手にトドメを刺すも、アクセルは緩まず、助手席の敵がハンドルへ手を伸ばす。 「これ以上通しはしないでござるよ? 少年を守れずして……何を守れというのでござるか!!」 真打・獅子護兼久からの抜刀術は今日一番の冴えを見せた。 乗っている車体が僅かに揺れるほどの勢い、放たれた斬撃は度重なる攻撃で柔らかくなったフロントを拉げ、切り裂き、勢いは留まらない。 斜面へタイヤが流され、そのまま乗り上げた車は横転。 この流れはもう変わらない。 ● 残った一台もリベリスタ達の一斉攻撃に成す術なくタイヤを潰され、道路に取り残される。 無事、送り届ける事に成功した宏人が鎧を解く、その姿はありふれた少年の姿。 そんな彼の肩を剛毅がぽんと叩く。 「頑張ったな。しかし変身ヒーロー、共感を覚えるぜ! 俺はこんな感じになっちまったがな、がっはっはっは!」 緊張の解けた笑顔は歳相応の顔であった。 「無事で何よりでござる。して……SN7、おぬしを回収しにきたでござる」 宏人の腕にはまっていたブレスレットが外れ、今度は宏人の手に収まる。 この時、自身を望んだ者たちの心の言葉をSN7は感じ取っていた。 娘の為、暖かな怪人である為、己が信じる技の為、己が技量の為、他が為にある事、それは誰にも負けない個性とも言える。 『皆楽しかった、でも、こんなにいると選べないなぁ』 悪戯な子供の声が、また遊ぼうねと告げるとそれはもう聞えない。 寂しげな顔をする宏人に朔がうっすらと微笑む。 「離れたとて縁が無くなるものではない。君は何よりも大切なモノを彼から貰っただろう」 心の中のヒーローは、きっと永遠に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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