● ある種異様な光景だった。 兎が居て猫が居て象が居て狼が居て。ゲームに出て来そうな鎧だとか、ドラゴンみたいなものだとかも居た。 人っぽいものも一杯いた。勇者みたいなのとか。魔王みたいなのとか。 その中で、『彼』は待っていた。 これを全部倒す様な勇者を。自分と遊んでくれる、挑戦者とも言うべきものを。 ● 「はい、どーも。今日の『運命』なんだけど一言で済む。全部倒せ。以上」 じゃあ帰る。そう言って資料を置き踵を返しかけた『導唄』月隠・響希 (nBNE000225)はけれど、もっと詳しくと言うリベリスタの声に何とも言えない顔で足を止めた。 「……あんまり話す事ないのよ。ええとね……とある、アザーバイドがこっちに来てる。識別名『マーチレス』。フェイトを得た善性アザーバイド。 基本的に無害だし、戦闘力も弱い。でも、ちょっとこう、何て言うの。熱い。喧嘩っ早い。喧嘩したい。みたいな。そう言う子でね。今回ボトムに来たのも、『挑戦者』を探す為なの」 弱いらしいのに挑戦者。不思議そうな顔をするリベリスタを見回して。フォーチュナは遊び相手よ、と告げた。 「相手してくれる人が欲しいの。だからまぁ、行って、敵を倒してほしい。……この子弱いんだけど、ちょっと特殊な力を持っててね。自分の半分程度の実力を持つ敵を、幾らでも作れるのよ。 外見も自由。なんかボトムに来てゲームにはまったらしくてすっごいいろいろいる。でも全部、大したことない。まぁ、舐めてかかると痛い目見るかもしれないけどね。 勝ち負けにはこだわらないみたいだから、まぁとにかく行って、倒して、満足させてあげて。そうしたら勝手に帰ると思う。まぁ、本人に直接お説教もありだけど……見つけるのが難しい。 満足した後は簡単に出てきてくれるだろうけど、それ以外で見つけるなら工夫がいると思うわ。あたしもちょっと、外見まで分からないからごめんね」 こんな所だろうか。資料を確認して、立ち上がったフォーチュナはああそうだ、と呟く。 「ちなみに、相手してあげないと拗ねる。一般人とかに挑戦しに行っちゃうから、とことんまで宜しくね。じゃ、後は宜しく」 行ってらっしゃい、とフォーチュナの手が振られた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月18日(木)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 其処にあるのは痛い程の静寂だった。澄み切り張りつめた空気が伝える遥か遠き神の声。金属の擦れ合う音と共にふわり、開いた二重の鉄扇を翳して『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は抑え切れぬ低い笑いを唇から零した。 その加護の名はGötterdämmerung。数多の魔を駆逐し。須らく異を踏み潰し。己が敵を粉砕し続ける。崇拝されし英雄も、裏を返せば闘争を求め続けるある種の狂人であったのだろうか――目の前に広がる敵の海を見据えて、男は目を細める。 「フ、ハハ――さぁ、」 ――お望みの“英雄譚”の始まりだ。かの英雄の終幕の名に相応しいだけの戦いを。閃く鈍色を、照らし出したのは天より降り注いだ業炎の一矢。止めど無く降り注ぐそれが、戦場を紅蓮に染め上げる。 「ウォシャー! 戦じゃー! 火の海デスマッチと洒落込もうぜ」 「良ぃねぇ! そんじゃ……一発景気つけっかぁ!?」 息を吸うだけで喉の奥がひりつく程の熱気の中で。戦隊宜しくずらりと並んだ隊列ド真ん中『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)が振り翳した拳を下ろせば、右端に立つ『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の両手を覆う鉄扇が燃え上がる。 全力で振り抜かれる腕が吐き出す地獄の業火。熱の籠る手甲に浮かぶ文字は未だ鬼暴のみ。戦場を更に紅く朱く染め上げた拳を合わせた。さあさあ此方に目を向けろ。挑戦者様のお通りだ。 「往くは業炎! 引けど獄炎! 進む先ただ火の花道よぉ!」 ゲーム好きだなんて見所はあるけれど、迷惑をかけるのならば鬱陶しい以外の何者でもない。もしも自分達よりも先にフィクサードが見つけていたならば、どうなっていた事か。巡らせかけた思考はけれど即座に打ち切った。 理由も結果も如何でも良いのだ。我儘勝手好き勝手するのならば、出来なくなるまでぶん殴れば良い話。そんな彼の動きを見詰める伊藤の瞳にあるのは賞賛と憧れ。己より強い仲間の動きを見つめ続けるのは、もっと強さが欲しいから。 「今のもう一回やって!」 負けず嫌いを力に変えて。もっともっと頑張って強くなる。そんな彼の隣、僅かに響く、セロファンの擦れ合う音。日を透かす橙は音も無く『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)の口内に消えて。葉巻の如く咥えられたそれが歪められた口端と共に微かに揺れた。ふわり、と手の中に残ったセロファンが宙を舞う。 「――フッ、まるで映画などで強大な敵に挑む寡兵の様だな」 嫌いじゃない。シニカルな響きを含んだそれを掻き消す様に、重なって鳴り響いた音は恐らく6つ。抜く手さえ見せぬ神速の射撃が舞うセロファンごと敵を撃ち抜くのを視界の端で捉えて、流れる様にスピードローダーを押し込みロード完了。からんからんと響いた薬莢の落ちる音と同時。再び妖しい黄金は鉛玉を吐き出した。 敵を薙ぎ払う為だけの連続掃射。純白閃かせる彼の信条は何処までもハードボイルドかつ、スタイリッシュである事。暗黒街の紳士は常にその矜持を重んじる。嗚呼やはり悪くない。小さく喉の奥で笑った。その横で、微かに耳を擽った弓の軋む音。くらり、と眩暈にも似た感覚と共に抜け落ちる熱。放たれた矢の先、底知れぬ虚空が口を開く。 ざわり、と。流れ込んだ重い風。異界と此方を繋ぐ一瞬のそれが齎すのは怖気さえ覚える程の災厄の種子。転々と浮かび上がる漆黒が敵を蝕み弾け溶かし尽す様子を見ながら『残念な』山田・珍粘(BNE002078)――基、那由他は楽しくて仕方ないとその可憐な面差しに笑みを乗せる。 何時も何時も何時も、折角覚えたこの技を使う機会が巡って来なかったのだ。使い所が難しい事は理解していて、けれどそれでもやはり使えるなら使いたい。それを思う存分振るう機会に胸躍らせていた彼女は、想像以上の充足感を感じていた。 「何処を向いても、敵、敵、敵、素敵です――それに種類がたくさん居るのも素晴らしい」 獣、人、機械。敵は千差万別であり、その多くにこの力が通用する事を試せるのはまたと無い機会だった。もはや影形さえ残らぬ、黒の残滓を見遣って。少女はもう一度酷く満足げに微笑んだ。 ● 物事に置いて最も重要な事は順序である。まずはお友達から、だなんて言葉があるように、ある日突然恋人になりましたなんて事はおかしな話。それは、無論戦いにも言える事である。言わば、動機付け。格好良く言うとモチベーション。これは非常に重要な要素なのだ。全力で戦いたいのなら、挑戦者の為の場の構築は必要不可欠。 「というわけで! 俺の事が大好きな黒髪ロングのクーデレ美少女を用意しろ!」 それ彼女さんですか? 何て問いは置いておくとして。大真面目に語る『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)の要望に応える様に現れた美少女が竜一を見上げる。抱き締めもふもふすりすり。助けて下さい、何て言われればもう気分は歴戦の勇者である。あれさっき恋愛も順序と言っていなかっただろうか。気のせいだったらしい。 ともかく、愛し合う二人はけれど、魔王(つよそう)に引き裂かれるのだ。哀れ美少女、勇者リュウイチは彼女を救う為に旅立つのであった――と言うのがとりあえずプロローグらしい。握った二刀を構える。 さあ染め上げよう、此処が俺の世界<キングダム>――DRAGON(19) 左端と言う名のキングダムに立った竜一の刃が煌めきと共に眼前の敵を幾重にも切り裂く。勇者は常に苦境に陥るものであるが、同時に多くの女性に愛されちゃったりもするのだ。なのでその辺もどうぞ宜しくお願い致します何て言いながら敵を片していく彼の横で、振り上げられる刃が、柄が、軋みを上げる。全力を込めて叩き下ろされる、護る為の漆黒の刃。 「こいつは少し強烈でござるよ!!」 切り裂くよりも叩き潰す様に。眼前に迫る強大なゴーレムごと避けた大地から跳ね上がる礫が頬を裂いて。それを拭いもせずに『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は僅かな笑みを漏らした。喧嘩をしたいと言うのならば、付き合ってやるのもやぶさかではない。全力をぶつけ合うこの状況に覚えるのは懐かしさとも言うべき感情だった。 こんな風に、幾度も拳を交えて喧嘩をし続ける日があった。あの頃冠していたフィクサードの名はある意味触れたくは無いもので、けれど漸くほんの少しだけ、悪くはなかったものの様に思えるようになってきていた。懐古の念が隻眼を過るのは一瞬。再び滲む様に現れた猛獣へと放たれる神速の抜刀術。魂とも言うべき漆黒が美しく光を照り返す。既にリミッターを外した彼の全力は、次の敵を探す様にその牙を前へと向ける。 「もっと来いよ! 行こうぜ、デッドラインを乗り越えて! まだまだ満足してねぇだろ!」 張り上げた声は愉悦に満ちていた。強引な踏み込みと共に大剣を構えてゲットセットレディ。裂帛の呼気と共に間合いを奪われた騎士の胴を叩き潰す程に強烈な一撃が敵を心身ともに圧倒する。其の儘地面に刃を突き立てて、『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)は足りないとばかりに敵を手招いて見せた。 戦いたい。随分と気の合いそうなそれは、幾らでも叶えてやるつもりだった。数なんて足を止める理由にはならない。倒れてしまうなんてつまらない。降りかかる攻撃をかわして、最後まで楽しく戦えるならそれでいい。仲間の様子にも視線を配りながら、何処に居るともしれぬ首謀者へと創太は声をかける。 「折角だ、思いっきり遊んで行けよ。ここなら相手にこまんねーぜ」 それに応える様に敵の動きが活性化したのを見遣って。閉じた鈍色が、爆発的な膂力を乗せられ敵の首をへし折り地面に叩き落す。どんな敵であろうと関係は無い。敵であるのならば撃ち砕き、刃を向けたいと言うのならば存分に。裂けた肩口から零れる鮮血と痛みに、けれどシビリズはその表情を崩さない。寧ろ、心地良くさえあった。 「嗚呼実に素晴らしい。素晴らしき瞬間だ。闘争とは常に蜜の味だな、そう思わんかね!」 紅の其れが流れる程に沸き立つ歓喜。痛みまでも糧にして。謳うのは素晴らしき闘争の刹那。理性などかなぐり捨て、けれど辛苦の敗北を味わわぬ為の冷静さは失わない。そんな彼の背に、僅かに触れる少し小さな背中。音も無く踏み込んで、鋼鉄の腕が強大な獣の身を掴む。そのまま膂力と重力に任せて地面へまっしぐら。鈍い音を立てて折れた歯とひしゃげた顔面にゲオルグの人差し指を向けて、そのまま挑発する様にくいくいと手招いた。 「僕らだって強いぞ負けないぞー! でも痛いのは嫌いだー!」 相変わらずワララ……ワララ……ワララ……かぜがとおりぬけるだけ……な戦場ではあるが闘争心は欠片も折れない。覚悟の象徴とも言うべき、拳を握り直してファイティングポーズ。まだまだ、派手にやる為の余力は残っているのだ。負けやしないと意気込む彼の横から、一歩踏み出した純白。同じ色のストールがはためいて、握り込まれた拳がこの上なく真っ直ぐに目の前に迫りくる大蛇の顎を跳ね飛ばした。 型も何もない、ただ只管に殴るだけの喧嘩殺法。跳ねた鮮血が白いスーツを濡らした。自負心と美学。例え誰が笑おうと譲れぬものを未だ幼い筈の彼は背負い己のものにする。噛み砕いたキャンディの棒を吐き出して、主役になるには余りに堅実な無頼の男は目線で捉え続ける異界の少年へと苛烈な程の笑みを向けた。 「後腐れないケンカがお望みだったな。上等だ、胸焼けするほど喰わせてやる」 この程度では到底物足りないだろうと告げれば大群に混じる少年は楽しくて仕方ないと言わんばかりに幾度も頷く。何処かでまた、新たに表れた竜の方向が耳を劈いた。 ● 肌を裂きそうな程に。全身に張り巡らせる力が増した。外れたリミッターが齎す全力は己の身を傷付ける程で、けれど創太はやはり、楽しくて仕方ないと浮かぶ笑みを崩さない。 「愉悦だよなぁオイ、そんじゃこっからは――全力全開だ!」 どれも同じだと言われても、やはり強そうなものを倒したいのが性。ジャンキーと呼ぶなら呼べばいい、自分が求めるのは常に、蹂躙では無く闘争なのだから。目前の竜の懐へと、自ら飛び込んだ。デッドオアアライブ。生死を別つのは敵だけでは無く己もそうだ。振り上げられた鋭利な爪を見上げる。勢いと、この全力。叩き下ろして負けると言うのならばそれは甘んじて受けよう。けれどそうでないのなら。 大剣が、爪と触れ合う。そのまま勢い任せに叩き下ろした。弾き返すのではなく挽き潰す。爪が折れて、腕が裂けていくのが見えた。そのまま一閃。 「覚悟しときやがれよ……ってもう聞こえねぇか、じゃあ次だ!」 戦いも終盤に差し掛かれば、勇者も強くなっているものである。構えた刀が唸りを上げた。全力を込めて振り抜かれるそれが齎す剣戟の烈風。敵も何も見境無く切り裂き挽き潰すそれを齎した勇者リュウイチは胸に滾る結城の勇気だけを友達に美少女を救う旅路を歩んでいるらしかった。 もう、魔王(つよそう)は目前だ。必ず美少女を救う。その決意の儘に手を伸ばせば、愛しの黒髪クーデレさんは澄ました顔を切なげに歪めた。あっデレ有難う御座います。 「さあ遠慮なく全力で来い! 最後は俺がかっこよく決めてやる!」 此処まで来るのに女剣士やら女僧侶やら自分を愛する女をもう何人喪ったのかもわからないが。最後の希望とも言うべき彼女だけは救ってみせるのだ。そんな彼を横目に、那由他が目前に迫りくる敵へ差し出したのは右手。ダンスにでも誘う様に、少女は笑う。指先から零れ落ちるのは闇より暗く光を吸い込む漆黒。敵を呑み込み食らい尽くすそれを見遣って、首を傾けた。 「暗黒でも黒死でも呑まれて消える事に変わりは……あ、溶けるか消えるかの違いはありましたね、どちらがお好みですか?」 折角だから感想でも。からかい遊ぶ様な声音の奥で、那由他の頭を過ったのはある意味不安、とも言うべき感覚。特に何も考えずに攻撃をしているけれど。弱いらしい異界の少年は生き残れるのだろうか。未だ無事ではあるらしいけれど―― 「でも、命懸けの喧嘩出来て本人も喜んでますよね、きっと」 深く考えるのはやめておこう。彼女の思考を遮るように、不意に響いたのは、何かが爆ぜる激しい音。黒光りする刃を、そして、虎鐵自身を。紫電が覆っていた。己が身さえも傷つける一撃を構えた彼の、伏せられた『両眼』が緩やかに開く。 「ま、少しはこっちを出しても……いいよな……っ」 骨が、筋が、軋みを上げる。それでも躊躇わずに、刃ごと雷撃を叩き落した。地面どころか空気さえ劈く轟音が敵を粉砕する。その音をバックミュージックに、前に踏み込んだのは火車。握り締めた燃える左拳のアッパーカットが、少年の身体を跳ね上げる。けれどその足は止まらない。勢いのままに踏み込んで回転、重心が落ちる。 「大将潰さなきゃあ、そっちが満足でもこっちが満足しねぇんだよ! おら、真っ赤に燃えろォ!」 浮かび上がる火の字。勢いを失わぬ腕が、宙を舞う少年の身体へと叩きこまれる。轟、と、地獄の業火が吹き上がった。くらくらと、眩暈を感じながらも笑う少年へ、次に向けられたのは創太の視線。 「なあマーチレス、こういうのが一番楽しいだろ! 最後は自分達の拳が最高だろうよ!」 こくこくと少年は頷く。向かってきた拳を受け止めて、力一杯殴り返した。減り始めた敵の中、喧嘩の終わりはまだまだ見えなかった。 ● 向かってきた奴を片っ端からぶん投げて叩き潰して。それが自分流だと伊藤は笑った。鼻血が出た。腹部に入った一撃に胃酸を吐いて、でもそれでも不敵に笑う。戦いたいと言うのだから、叶えたかった。折角会えたのだから限界突破するまで全力で。ファイティングポーズを取り直した。喧嘩に言葉なんか必要ない。 邪魔するものは指先一つで。さあもっともっと楽しくやろう。足は止めない。拳も止めない。振り上げた拳が齎す神の炎矢が大地を焼いた。 「さぁ来いよ、今を最高に楽しもうぜ!」 「そうだ、君は楽しいかね? 私は楽しいよ。狂おしい程、な」 金の瞳に流れた紅が、視界を染めていた。嗚呼それさえも愛おしい。闘争は何時だってこの身を焦がし逆境は何時だってこの心を駆り立てる。何もかもを乗り越えてこそ『英雄』を名乗れるのだろうとシビリズは笑った。鉄扇が敵を裂いた。叩き付けられた刃を受け止め払って。 「お望みだろう? さぁここからが私の全力だ、その眼で見逃すなかれよ――」 英雄を。勇者の意味を。崇高でありながらもあまりに愚かで愚かなその言葉の真髄を是非にも感じさせてやろう。端正な顔が凄絶に笑った。その彼の視界の端。裂帛の闘気が爆発した。振り上げられる二振りの刃。勇者リュウイチはついに、勇者としての神髄をてにいれたらしかった。 愛しい愛しい美少女の為に。叩き下ろされた刃が魔王(つよそう)を切り裂く。それを見て、既にぼろぼろの少年は嬉しくて仕方ないと手を叩いて。そのまま、ふらり、と。仰向けに倒れ込む。 それを合図とする様に、敵が全て掻き消える。代わりに響くのは嬉しくて仕方ないと言うような笑い声。とことんまで満足して、ちょっとだけ反省もしたのだろうか。何とか起き上がった少年に、差し出されたのは火車の手だった。 「もー連絡先教えてやっから次から好きなだけこっちゃ来ぉ」 相手をしてやる。その言葉に輝く瞳。ぎこちなく、ごめんなさいと告げられた声に雑に頭を掻き回せば、駆け寄った伊藤が嬉しそうに少年の手を掴む。終わった後はしっかり握手。 「楽しかったねーまたきてね! ッテテ……でも痛いのは勘弁だ~」 今度来た時はご飯を食べよう。笑えばやっぱり切れた口の端が痛くて、また少しだけ笑ってしまった。そんな言葉にも頷く少年を眺めながら、虎鐵は酷く満足げに黒光りする刀身に纏わる汚れを拭い取る。磨き上げられたそれを、そっと収めて。 「いや、いい闘争でござった。偶にはこういう戦いも悪くないでござるな」 感謝以上の何ものでもない。そんな感情を抱いていたのはシビリズも同じで。これ程までに楽しませて貰ったのならば、お説教の類はきっともう必要ないだろう。いや、むしろ。 「よくやった。またいつかやってくれたまえ」 楽しげな高笑い。消えてしまったクーデレ美少女を惜しむ竜一の横では、那由他も満足げに武器を収めていた。日頃溜まりに溜まったストレスはちょっとは解消されたのだろうか。少しでも長く続けと願う時間は本当にあっという間で。終わってしまった事を惜しみながらも、リベリスタは少年に手を振る。 また必ず来る、なんて。嬉しそうに告げて去っていく少年が居なくなった戦場には、もう敵の影一つさえ残っていなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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