●春の花 丘には一面の菜の花が咲き乱れていた。 太陽の色をそのまま映し出したような鮮やかで明るい黄の花。小さくともめいっぱいに咲いて景色をにぎわせる花が咲き誇る姿は、実に春らしい光景だ。 その丘の中心には大きな桜の樹が一本だけ、凛と立っている。 樹に咲く桜花もまた見頃を迎えており、辺りの景色はとても眩い彩に満ちていた。 其処に舞うのは紋白蝶。真白に薄い灰色の交じる羽を持った蝶々達は優雅に、ひらひらと花畑を飛ぶ。 それもまた春らしい眺めであるはずなのだが――。 その紋白蝶は異形化したモノ。普通では考えられぬ、恐ろしく巨大な存在なのだった。 ●菜の花と桜と蝶々と ブリーフィングルーム内、モニターに映されているのは菜の花と桜の樹の丘。 「春は素晴らしい季節だわ。すべてが新しくて、まるで世界が変わったみたいに思えるのだもの」 その景色を見つめ、『ブライアローズ』ロザリンド・キャロル (nBNE000261)は感嘆の息を吐いた。彼女はこの春から三高平の大学に通う事になった新人リベリスタだ。この景色もとても綺麗だと零した後、少女はきりりと表情を引き締める。 「でもね、ここにはエリューションが出現しているらしいの」 そうして彼女はフォーチュナから伝え聞いてきた依頼の内容を語りはじめた。 菜の花の丘に現れたのは紋白蝶のE・ビースト。 その数は四体。大きさは二メートルもあり、丘の花の蜜を吸い尽くそうと動いているらしい。 「普通に蝶が蜜を採るだけなら良いのよ。だけど彼の蝶々は大地の養分ごと花を吸ってその場を枯れた大地へと変貌させてしまうんですって」 そのうえ、エリューションは存在するだけで崩界を加速させてしまう。 まだフェーズが進んでいない今の内に現場に向かい、彼らを倒すことが今回の任務なのだとロザリンドは告げた。 相手は巨大かつ、吸血のような行為や毒の鱗粉を撒き散らしたりする。 それほど強くはないとはいっても、油断していては押し負けてしまう可能性もあるので戦略はきっちりと立てていかなければならないだろう。だが、ロザリンドは明るい笑みを浮かべて仲間達に微笑みかける。 「心配はしなくても良いわ。私達が皆で力を合わせれば勝てる相手には違いないもの!」 掌を握り、凛と語る少女。その言葉には戦いへの決意が見て取れた。 そして、ロザリンドは後ろ手に隠していたバスケットを机の上に置き、ほんの少し恥ずかしそうに戦闘後の予定についての提案を投げ掛ける。 「その、気が早いって馬鹿にしないでね……! 現場って凄く綺麗な場所でしょう? だから無事に終わったらピクニックをしようと考えたら楽しみになって、色々と準備してきちゃったのよ、ね」 バスケットの中には大量のサンドイッチが包まれていた。 彼女は詳しくは言わなかったが、それはちゃんと人数分の量に足るだけ用意されている。良かったら一緒にどうかしら、と伺いを立てたロザリンドは不意にはっとして言葉を次ぐ。 「べ、別に付き合うのが嫌だったらそのまま帰って貰っても良いわ。うっかり多めに作っちゃっただけだし、私はこう見えてもいっぱい食べる方だものっ」 仲間を誘うのが本格的に恥ずかしくなってしまったのか、照れた様子で少女はふいとそっぽを向いた。 本心では勿論、一緒に遊んで欲しいと思っているのだが――。 こほんと咳払いをしたロザリンドは気を取り直すと、改めて仲間達を見渡して真っ直ぐに告げた。 「とにかく先ずは蝶々を倒さなきゃ。皆で一緒に頑張りましょうね!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月17日(水)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 菜の花に蝶々、一本桜。 見渡した景色が宿す色は春めいた季節が巡りゆく証であり、そのどれもが春の象徴だ。 そよぐ風に揺らめく花々、羽ばたく蝶々は花と遊ぶ――ように見えるが、その場に存在するそれらはエリューションと化したものである。 蝶々は花畑に近付いたリベリスタ達に気付いたらしく、翅を広げて近寄ってくる気配を見せる。 周囲の景色に見惚れる暇もなく、相手は攻撃態勢に入った。 「あれがちょうちょさん、ですか? 倒すのは忍びないですが……。やらなきゃ、いけませんわね」 『陽だまりの小さな花』アガーテ・イェルダール(BNE004397)は古式銃をきゅっと握り締め、仲間の後方へと回る。その際に神秘の力を発現させ、アガーテは『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)に守りの力を施した。 「巨大な蝶々か……小さな物であれば、可愛らしく思うのだが。早々に終わらせるぞ」 フィリスも魔陣を展開し、花畑を踏み荒らしてしまう前に片を付けようと決める。 「しっかり退治して、ピクニックを楽しもうなっ!」 気合を込め、『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)は蝶々を見据えた。彼が前に向けて駆けていく様を見つめながら、フィリスも呼吸を整えた。同様に巴 とよ(BNE004221)と『ブライアローズ』ロザリンド・キャロル (nBNE000261)も己の魔力を高める。 「皆で力を合わせれば勝てるですよ」 目配せで頷き合ったとよ達は標的を捉え、戦いへの思いを強くした。 『自爆娘』シィン・アーパーウィル(BNE004479)もボトムに来て初めての戦いに気を引き締め、同じく初めての出撃となる少女へと声をかける。 「初依頼なのは自分もです! 一緒に頑張りましょう、ロザリンドさん!」 「ええ、足を引っ張らないように頑張らなきゃね!」 シィンはフィアキィを舞い踊る氷精と化し、一気に冷気を放出した。己の速さを高めた『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)はその機に合わせ、向かい来る蝶々へと肉薄する。 「りん、頑張っちゃいますよー。それにしても大きさ2mの蝶々……うへへへ♪」 嬉しげな笑みを湛えた輪は虫好きの血が騒いでならない様子。そのうえ、菜の花にも蝶々にも縁があるため、この場は輪自身にとっての楽園にも見えた。そして、輪はナイフを振り上げて蝶へと斬撃を見舞う。 其処へ別の個体をブロックするべく『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)が駆け、複数を巻き込むようにして刃を振り上げた。 「きっちり倒してピクニックも楽しもうぜ。そのためにもぶっ倒してやらないとな」 言葉と共に下ろされた刃は蝶の翅を裂き、鱗粉が辺りに散る。 しかし、蝶々も対抗しようと攻撃へと動いた。『ストレンジ』八文字・スケキヨ(BNE001515)は久方ぶりになる通常の戦場の空気を肌で感じ、仮面の下で遠い目をした。 「そうですね。無事に終わらせてゆっくり休もう!」 仲間の言葉に頷いたスケキヨは極限の集中を重ね、動体視力を強化する。ゆっくりと流れていくすべての光景をしっかりと見つめ、スケキヨは戦いの後の楽しみを思った。 羽ばたく蝶に春風に揺れる菜の花と桜。これほど美しい場所にはきっと、平穏が似合う。 ● 襲い来る巨大な敵は四体。だが、リベリスタ達は怯んだりなどしなかった。 毒の鱗粉が周囲に舞う中、敵の前に立ち塞がったフィリスは魔力の矢を生み出す魔法陣を指先で紡ぐ。毒が身体を蝕んだが、負けてなどいられない。 「魔力よ、その形を変え、我が前に立ち塞がし敵を貫く力となれ!」 解き放たれた一矢は蝶の翅を貫き、羽ばたきを揺らがせる。琥珀は自らの相手を塞ぎながらフィリスに心配交じりの注意を投げ掛けた。 「危なくなったらすぐ下がれよ?」 彼の言葉を聞いたフィリスは未だ大丈夫だと頷いて毒を堪える。体力は他の仲間と比べて低い方が、その分だけ仲間達がフィリスの相手取る敵を集中攻撃していた。その間にシィンも狙いを付け、再び妖精の氷を以てして敵を一気に巻き込もうと動く。 「早く倒せば楽しい時間も増えるのですよね!」 ぐっと拳を握ったシィンの意志に合わせるようにしてフィアキィが宙を舞い、冷たい衝撃を加える。それを好機とみたとよはロザリンドに呼び掛け、合わせて攻撃を仕掛けることを提案した。 「今がチャンスです。行くですよっ」 「分かったわ!」 応えたロザリンドが詠唱から魔力の弾丸を放ち、とよが呪いの刻まれた黒魔の大鎌を召喚する。見る間に敵へと差し向けられた黒鎌は見事に蝶を切り裂き、一体目を地に落とした。琥珀がほっと息を吐き、とよとシィン達も新たな敵へと狙いを定め直す。 その合間、アガーテは傷付いた仲間を癒すべくフィアキィを遣わせた。 「あの綺麗なお花を枯らすわけには、いきませんよね……」 一面の黄色。菜の花という名だと知ったばかりのそれに視線を落とし、アガーテは決意を込める。この世界には綺麗なものがたくさんある。ならばそれを護るのが自分の仕事だと感じた。 そして、癒しの力を帯びたフィアキィは攻撃を受け続けていた輪を癒す。 輪は体勢を立て直し、自分の向かう相手に連続攻撃を仕掛けていった。その際、隙を突いた一撃が真っ直ぐに蝶に命中し、その動きをしかと止める。 「くししし♪ これでじっくりねっぷり観察出来ます」 翅の鱗粉に腹の節々、ぷにぷにした虫の形を間近で見つめた輪の気持ちが滾ってゆく。幸せそうな輪は動けぬ蝶々を瞳に映し、実にご満悦だ。スケキヨは流石だと感嘆の息を零し、敵に白銀の弓を向けた。 「お食事中失礼! 倒させて貰うよ」 改めて蝶の大きさを見ると、不思議と捕食される方の虫になった気分になった。だが、スケキヨの中に潜む因子も虫。それも、蝶々にとっては天敵であろう蜘蛛だ。負ける気がしないのはその所為だろうかと口元を薄く緩め、スケキヨは光弾を射ち放った。 三体を同時に包み込んだ弾は鋭い軌跡を生み、輪が相対していた敵を地に伏せさせる。 あーあ、と少しばかり残念な声を漏らす輪だったが、戦いは戦い。すぐに琥珀の狙う標的へと視線を差し向け直した。仲間の攻撃が其方へと移行する中、涼は己の相手に集中する。 「抑えるのが俺の役目だが、倒しちまっても良いよな」 魔力のダイスを宙に漂わせ、涼は狙いを付けた対象を睨み付けた。彼が口許に笑みを湛えた次の瞬間、巻き起こった爆発が花の如く開く。一瞬で衝撃に飲み込まれた蝶々は翅を焼かれ、弱々しく羽ばたいた。 其処に再度の行動の機会を得た涼は一気に踏み込み、もう一度ダイスを具現化した。 刹那、爆花が咲く。 「紋白蝶、てだけなら綺麗だったんだけどな。……少しばかり大きくなり過ぎだぜ」 ひらりと手を振った涼が言葉を紡ぎ終えたとき、蝶々は戦う力をすべて失って舞い落ちた。 ● 「次はあっちですよっ」 とよが残り一体となった蝶々を示し、すぐに魔力の黒鎌を解放した。 戦いの厳しさとは相反して、花畑には柔らかな風が吹き抜けてあたたかな心地を宿す。確かな勝機を感じたスケキヨは最後の蝶々に弓先を向けた。其処に描かれたのは雪の結晶の如く張り巡らされた蜘蛛の巣と雪風に舞う小さな白い花。 「キミたちを捕食するのはボクの方。覚悟をしておいてね」 敵の動きを見切り、魔弾を放ったスケキヨは逃れる暇さえ与えないまま瞬時に射抜いた。 蝶々が傾ぎ掛けたことに気付き、アガーテも攻撃に転じる。指先に小さな光球を作り出したアガーテはしっかりと狙いを付け、一直線に解き放った。 「皆さんにも、ちょうちょさんにも痛い思いはなるべくしていただきたくありませんが……」 アガーテの放った衝撃は紋白蝶にショックを与え、更に体勢を揺るがせる。 その機に合わせてシィンも光の弾を打ち出し、ロザリンドも魔力弾を撃った。輪は戦いが終わる事を名残惜しく感じながらも、風の如き攻撃で最後の蝶の動きを留める。今だと感じた涼が攻撃に加わり、フィリスも魔法陣から矢を解放して仲間へと視線を向けた。 「決めてしまえ、浅葱」 「ああ、これで終わりにしてやる!」 フィリスの声に応えた琥珀は魔力で道化のカードを作り出し、蝶々へと放り投げた。くるくると円を描いて飛翔するカードは紋白蝶の前でぴたりと止まり、破滅を指し示す。 そして――その衝撃で蝶々は動きを止め、戦いは終わった。 穏やかな静けさが満ち、平穏が戻る。仲間達は蝶々が消えゆく様を見送った後、安堵を覚えた。 解け消える最後まで蝶々の腹をぷにぷに触っていた輪が立ち上がり、スケキヨも辺りを見渡してみる。 「戦闘に必死で気づかなかったけど……改めて、綺麗な光景だなぁ」 「本当だな。紋白蝶が巣食う訳も分かるぜ」 涼も倣って周囲の景色を眺めて武器を収める。フィリスと琥珀も穏やかさを覚え、其々に頷いた。 とよは、大丈夫でしたか? と無事を確認しつつ、年頃の少女らしくこの後に続く行事に思いを馳せていた。誰の怪我もなく平気だとシィンやアガーテが答えると、とよは笑みを浮かべる。 「じゃぁ……予定通りピクニック、ですよっ」 辺りを包むのは仄かな花の香に眩く優しい陽の光。少女は桜を指差すと、元気良く駆け出した。 ● ぽかぽか陽気の日差しの中、ピクニックは賑やかにはじまる。 「お花見といえば、日本の由緒正しい敷物ですよね」 シィンが持参した茣蓙を桜の下に敷き、仲間達を誘った。真ん中にはそれぞれが持ち寄った弁当や菓子を並べられ、見た目だけで戦いで疲れた身体を癒してくれそうな彩りに満ちている。 「飲み物も用意してるぜ。お茶にジュースにコーヒーに。ま、好きなモノをね?」 涼がそれぞれにコップを配り、仲間達は軽く乾杯を交わした。 仲良くして頂けるかしら、と心配気味だったアガーテもそっと菓子を並べ、勇気を出して聞いてみる。 「あの。これ、一緒に食べませんか?」 「わぁ、お菓子ですね。りんも甘いお菓子とかジュースとか持ってこれたら良かったんですけど、家にはとっても硬いお煎餅とあつ~いお茶しか無かったんです」 だからおやつのご相伴にあずかりたいです、と輪が答えればアガーテはほっとして微笑む。 それと同時に同じリベリスタとして遠慮することは無いのだと感じ、穏やかな心地が胸に巡った。 「花と青空との対比も素晴らしい。神様は芸術家だね」 コップを掲げたスケキヨはそのまま頭上の花と空を振り仰ぎ、仮面の奥の双眸を細める。写真を撮って恋人にも見せたいと思うほどに景色は清々しく、春の色に染まっている。そんなとき、シィンのお腹が可愛くきゅるる、と鳴った。 顔を見合わせ、思わずくすくすと微笑んだ仲間達は誰はともなく弁当へと手を伸ばしていく。 「これ、ロザリンドの手作りなんだよな? どれも美味いなあ、サンキュ!」 「まぁ、そう言ってくれると嬉しいわ。その、要らなかったらどうしようって心配だったもの」 琥珀が明るい笑みを湛えると、ロザリンドも嬉しげに笑む。続いてフィリスもサンドイッチを口にし、顔を綻ばせて満足そうに頷く。 「うむ……ロザリンドのサンドイッチは中々美味だ。良い嫁になれるのだぞ?」 フィリスからの素直な感想を聞き、少女は照れ臭そうに頬を赤らめた。とても嬉しい、と告げ返すロザリンドの様子に暖かいものを感じながら、とよもサンドイッチに舌鼓を打つ。そして、とよは水筒から自分が淹れてきた紅茶を注ぎ、皆に差し出した。 「どうぞ、です。今日は自信を持って飲んで貰えるものが淹れられたですよ」 薬草学や薬の調合と同じだと思って淹れてみたという紅茶はとよの一押し。本人がそう言うだけあって、仲間達が口にした紅茶の味はとても美味しいものだった。皆が喜んでくれることに、とよは幼い瞳を嬉しさでいっぱいにする。 「女の子の手作りのサンドイッチにお茶。俺得ですな!」 それに菜の花に桜もあるから、と涼も和やかな時間を楽しむ。輪も出される菓子を遠慮なく摘み、ジュースを飲んで幸せ気分。 わいわいと会話が巡る中、シィンは仲間達が話す様々な話へと嬉しそうに耳を傾けていた。 他愛もない話でもただただ、楽しい。 そんな合間、ロザリンドは涼ととよにこっそりと以前の礼を告げた。この前はありがとう。こうして普通の時間を過ごせるのは皆のお陰だと語る彼女に、涼は畏まらなくて良いと首を振る。とよもそうなのです、と少女の手を握ってふわりとした笑顔を見せた。 和気藹々と時間が過ぎてゆく最中、琥珀はふとフィリスの置いた大きな荷物に目を付ける。 「それって弁当だろ? 壊滅的に不味かったとしても、俺全部食うし。勇気持って出しちゃえよ」 さらりと告げる琥珀にフィリスは眉を顰め、ふるふると首を振った。 「ば、馬鹿者。不味いものではない! ひ、人様に弁当を作るなど初めての事だったから緊張しただけだ」 重箱を置いたフィリスは、高鳴る鼓動を押し隠して包みを開く。 わぁ、と女性陣から歓声が上がったのはその中身がとてもお弁当らしいものだったからだ。普通サイズと小さめの物のおにぎりに、とりのからあげや卵焼き、きんぴらごぼうなどの定番品が詰められた重箱はとても魅力的に見えた。 「なんと豪華な。良かったらボクも頂いていいかな?」 スケキヨが問うと、フィリスは勿論だと勧める。シィンやアガーテも卵焼きに箸を伸ばし、美味しいと絶賛した。そして琥珀もきんぴらごぼうを口にし、うんうんと大きく頷く。 「おー……フィリスもやるじゃないか。良い嫁になれるぞ!」 先程のやり取りも思い出して告げた琥珀の言葉に、フィリスは思わず視線をそらしてしまう。 「それは先程ロザリンドに私が言った言葉であろう。ま、まあ、褒められて悪い気はしないがな……」 頬を染めて咳払いをした彼女が照れているのだと気付き、仲間達は微笑ましさを覚えた。 そんな風に交わす会話はとても優しくて、辺りも自然と穏やかな心地に満ちていく。 ● そうして、昼食を終えたリベリスタ達はのどかな春陽の中でのんびりと過ごす。 「こんなに天気がよくてぽかぽかして。本当に気持ちいいですわね」 アガーテは樹に背を預け、揺らめく菜の花を見つめた。ふと思うのはこの花々を好んでいたであろう先程の蝶々のこと。彼等も本当はこんな風にぽかぽか陽気の中で食事をしたいだけだったのだろう。申し訳ないことをしてしまったけれど、それが戦いというもの。 (戦うということは、これからもこうやって、命を切り捨てていくことなのですよね) そっと意思を抱いたアガーテは、思い思いに過ごす仲間を見遣る。これが今護るべきものだったのだと己を律し、アガーテは緩やかな微笑みを湛えた。 菜の花畑で見る桜の時は、とても楽しいひととき。 「そういえば、ロザリンドさんは料理で失敗とか、あるです?」 「ええ、いっぱいあったわ。慣れちゃえば良いのだけど、お菓子作りは特にね――」 とよとロザリンドは食事を終えてお料理談義中。その横でお土産の菜の花を詰んでいた凛はスケッチブックを広げてお絵かきをはじめた。 「一面の菜の花~♪ 桜の木~♪ そして蝶~♪」 「わ、蝶だけものすごくリアルです」 少女らしい幼い絵の中に混ざるリアルタッチの絵に思わずシィンが驚き、目を丸くする。可笑しげに口許を緩めたスケキヨも少女達を見守り、持ち寄った駄菓子を差し出した。遠足には付き物の駄菓子も、昔は三百円を越えないように必死だったかと懐かしくなりながら、スケキヨは花々に目をやった。 「運動の後に、綺麗な丘でリフレッシュ! 明日からも頑張ろうって気持ちになるね」 「シチュエーションも最高だし、偶にはこういうまったりしたのも悪くないよな」 涼も懐かしの駄菓子をひとつ手に取って、雲の流れゆく空を見上げる。また機会があれば皆でこんなふうにのんびりするのも良い。目を瞑って感じる風は快く、髪をそっと撫でていった。 フィリスも春の空気を胸いっぱいに満たして季節の巡りを感じる。とよと花を摘んでいるロザリンドはそんな彼女達を手招き、菜の花畑へと踏み出していった。 その光景を眺めた琥珀はふと思い立ち、仲間達を一番日当たりの良い場所へと呼ぶ。 「おーい、皆。良かったら記念写真を撮ろう。春の陽の思い出に!」 「うむ、悪くはないな。この景色を形に残すのも良い」 フィリスが頷き、仲間達も快く同意した。そして、桜と菜の花が綺麗に映る位置を探した琥珀はセルフタイマーをかけ、皆が並ぶ場所へと駆けていく。 そして彼が振り向いたとき、ちいさな蝶々が羽ばたいて映し出されるフレームの中に収まった。 ――三、二、一。 カウントが零を刻んだ瞬間、世界は写真として切り取られる。 淡い桜と一面の黄の花。そして、愛らしく舞う蝶。春を彩る思い出は今、小さな永遠へと変わった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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