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夜露の春霞

●春の桜は雨時雨
「今週の日曜は雨ですね。そう予知しました」
 突然そんなことを言い出したのは『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)である。
「万華鏡が予知したのか?」
 呆れ気味にリベリスタの誰かが問うた内容に四郎は肩をすくめ、答える。
「まさか。天気予報に万華鏡使ったら怒られますよ? 自前です、自前」
 当然の話であった。そもそもフォーチュナは別に万華鏡がなくてもある程度の予知ぐらい出来る。四郎の場合、その予知を行った所をみた者がいないだけである。
 で、ここからが彼の本題であった。
「なので、日曜花見をしましょう」
 雨である。彼が自ら言ったとおり、雨である。わざわざそんな日に花見をするやつは余りいない。
 そもそも今は花見シーズン真っ盛りである。あっちでもこっちでも花見が行われているのだ。過剰供給と言ってもいい。
「いいじゃないですか、宴会はいくらやっても困らないでしょう」
 ごもっともである。
「いや、わざわざ雨の日に花見をするのにはちゃんと理由があるのですよ? その理由は三つです」
 そのまま四郎は理由、というものを説明する。
「まず一つ。夜桜は美しい。次に一つ。雨に濡れた桜もまた違う美しさがある。そして最後の一つは……」
 少しの溜めの後に四郎が告げた理由。それは。
「桜の下には死体が埋まってるといいますが、先日の楽団の一件で多分埋まってる死体はないんじゃないかと思いまして。これで安心して霊を見ないで花見が出来ます」
 申し訳程度の霊能者設定であった。
「というわけで花見をしましょう。たまには雨夜の中見る桜も乙なものですよ。それに雨は小雨、そこまで深刻に濡れるものではないですし」
 その後に続けた言葉は、またアレであったが。
「花見酒に雨見酒も乙なものですしねえ」
 ……確かに彼は宴会と言っていたのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年04月26日(金)22:51
●イベント案内
 
■会場
 三高平近辺、桜が咲き誇る公園です。
 今回はアークが場所取りをしている上に、雨も降っているため非常に空いています。
 また、時間は夜。小雨と夜桜のコントラストをお楽しみ下さい。
 雨を避ける為の屋根としてテント、傘、公園の休憩所などがあります。

■指針
 宴会です。飲酒あり。好きにやりましょう。
 反社会的にならない程度に。
 参加NPCに絡むのはご随意に。
 最低限の飲食物は御座いますが、持ち込まれたほうがより愉快な宴席となるでしょう。

■参加NPC
 馳辺 四郎
 深春・クェーサー ←巻き込まれ

●イベントシナリオのルール
 参加料金は50LPです。
 予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
 イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。
 獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
 特定の誰かと絡みたい場合は『時村沙織(nBNE000500)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合(絡みたい場合)は参加者全員【グループ名】というタグをプレイングに用意するようにして下さい。(このタグでくくっている場合は個別のフルネームをIDつきで書く必要はありません)

●備考
 著者の趣味によって酒の描写が濃い目になる可能性が高いです。未成年は注意しましょう。
 お酒は二十歳になってから。
 なお銘柄はぼかします。

●マスターコメント
 ぼくが花見したいわコンチクショウ。
参加NPC
馳辺 四郎 (nBNE000206)
 
参加NPC
深春・クェーサー (nBNE000021)


■メイン参加者 32人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
デュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
マグメイガス
土器 朋彦(BNE002029)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
レイザータクト
伊呂波 壱和(BNE003773)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
マグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
クロスイージス
リリウム ヘリックス(BNE004137)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
ミステラン
ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)
ミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)

エフェメラ・ノイン(BNE004345)
クリミナルスタア
ケイティー・アルバーディーナ(BNE004388)

音羽 征一郎(BNE004471)
ソードミラージュ
各務塚・思乃(BNE004472)

●春霞。
 春は桜。
 薄桃色のその花が咲き誇れば人は春の訪れを感じ、その可憐さ、美しさに見とれ、それを眺めつつ宴に興じる。日本においてそれらの光景は長く続けられてきた習慣であり、花見という行為である。
 だが、今この時はいささか花見をするには不向きな環境であった。
 薄く肌を濡らすように、柔らかく雨が降る。『しとしと』と表現されるその降り方は、肌寒さを感じさせつつも、酷く濡れるでもなく湿り気を浴びるものに与えていく。
 程度の差はあるとはいえども悪天候。それ故に道を行く人も少なく、満開の桜があろうとも足を止める人もなし。
 夜は更け、働く者も学ぶ者も、等しく家路につき。雨の洗礼を受けた屋外にわざわざ出ようとする者もおらず。

 ――そのような夜更けの公園に一団が存在していた。
「それじゃ、夜桜もお酒も楽しもう! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
 雨に晒される公園には複数のテント、野点などが設営され、浸水せぬよう気をつけて敷かれたビニールシートに座り、一団はそれぞれ手にした飲み物を掲げ、乾杯を行った。
 誰が頼んだわけでもなく、乾杯の音頭を取ったのは快。彼は自ら持ち込んだ多数の酒を並べ、参加者達へと振舞っていく。
 普通、純米、うすにごり春霞、そして大吟醸雫酒。多数のラインナップの日本酒を持参した彼は、誰が呼んだか新田酒店。その振舞われた酒達も販促を含めた試飲的な演出に違いない。恐ろしい子!
 ともあれ乾杯の音頭と共に、それぞれの集団に別れ、または集団の間を歩き渡り呑み、食べる宴席が始まった。
 騒がしくもあり、また静かでもある不思議な空気を持った宴席。冷んやりと濡らす雨も相まって独特な雰囲気の場であった。
 特に大きな一団は『春霞』と呼ぶに相応しいこの風景の中ではやや騒がしい一団であった。だが、一般的な宴会に比べるとよほど静かである。単に周りの空気が静謐すぎるだけなのだ。
「というわけでキノコを」
「沢山!」
「採ってきたぞッ!!!」
 ドンッ! と効果音が響きそうな勢いで鷲祐が叫ぶ。野宿のプロ(結果的に)である彼が持ち込んだ鉄板、コンロ、謎のキノコ。最後なんだよ。
 ともあれ持ち込まれた黒味の強い地ビール――戦火的なアレ――を煽りながら鷲祐は鉄板で次々と酒の肴、あるいはただの飯、を炒めていく。
 ある意味持ち込み前提のこの宴席、内容はそれぞれに任されてはいるが現地調理はなかなか豪快である。幸い雨脚のおかげで火事の心配だけはない。会場に香ばしい焼き物の匂いが広がっていく。
 それを集まった人達は勝手につまみ、または勧められて腹に収めていく。
「いやはや、小雨と夜桜って斯様に綺麗な物なのでござるな」
 今宵は家族の世話に気を回すこともなく、ゆっくりと持参したとっておきの日本酒を傾ける虎鐵。決して一人で呑むわけではなく、他人にも勧めながらスルメを齧り、杯を傾ける。
 噛み締めると口内に広がるスルメの磯の味を、辛口の日本酒で流し込む。口と鼻をアルコールが満たし、雨に濡れた桜が目を満たしていく。
「え、サケってコメから出来てるんっすか?」
 マジっすか、としきりに感心しながら勧められた日本酒を呑むのはケイティー。異世界の種族フュリエである彼女には、あらゆるものが馴染みがない。ましてや日本酒など縁がないことだろう。
 良く言えば広がりのある、悪く言えば癖のある日本酒を、ちびちび彼女は呑む。一気に呑むには少々きついらしい。
「うん、流石は快ちゃんのお勧め。とっても美味しい」
 一方同じフュリエでも随分と馴染んだ風に日本酒を傾けるのはルナである。
 随分と素早くボトムワールドの文化に馴染んだ……いや、この状態は染まった、というべきだろうか。そんな彼女は味と香りを楽しむように、ゆっくりと口の中に広げ、味わって呑む。
 味わうだけではなく、他の面子へと酒も注ぐ。仲間と共に騒ぎつつ呑む、いかにも人間的なその楽しみ方は染まったものか、それとも彼女の得た本質か。
「まあなんだ。桜も艶やかだが」
 伊吹がふと口を開く。彼は最初から結構なペースで勧められるままに呑んでいる。持ち込んだ怪しげなどぶろくも合わさり、いい感じに全身にアルコールが回っていく。
「女性の酔い姿も実に良いものだな。なあ、設楽もそう思わないか?」
「杏樹さんが魅力的だって事に異論はないけど……なんかちょっとセクハラチックだよ?」
 回ったアルコールは彼の口の潤滑性を上げ、眼福とばかりの言葉を滑り出させる。一方話を振られた設楽悠里は眉を顰め、やや咎めるような声で酔ってる? と伊吹に問う。
「あまり酔っても変わらないと思うけどな。少し頬が熱いぐらいだ」
 そのセクハラチックな会話と目線を振られた当人である杏樹は桜の幹へ雨を避けるように寄りかかり、グラスを傾けている。
「桜が綺麗なのは同意する、けれど華ならルナがいるだろうに」
 素っ気無く自分への話を流し――しかも他人へ――杏樹はそっと目を閉じる。アルコールと共に訪れるささやかな微睡みと共に、周りの喧騒をその耳で楽しむ。目は桜を、耳には友を。心地よい喧騒と幽雅な桜は、彼女の心を酒と共に暖める。
「綺麗な桜の下には死体が埋まっている、とか言ってたわね」
 そんな皆の様子を眺めながらエレオノーラはふと、四郎が言っていたポピュラーな都市伝説を思い出す。思い出しながら次々とグラスを空けていく。どこがセーブして呑んでるのか。うわばみか。
「もし埋まっていたら酒でもかけたら出てくるんじゃないかしら?」
「う、怖いこと言わないでよ……」
 若干オカルトな事を言いながらちらりと視線を向けてきたエレオノーラに対し、あやしげな害獣谷のどぶろくを傾けていた設楽悠里が非難めいた目線と共に訴えた。おばけこわいんですね。
 視線を向けたのは、何の気なしに発言した後に『おばけがこわい』人がいる事を思い出して思わず向けただけである。
(ま、いいか)
 と、そのような様子の設楽悠里にさらに酒を勧めつつ少女めいた彼女(筆者希望)は思いついたそのオカルトを投げ捨てた。
 ――怯えた設楽悠里にとって幸いだったのは、楽団の一件のおかげでしばらくは迷い出るおばけなんてここには存在しない、という点だったろう。
「――わかるかい、ニッキ」
 場にある酒を思うままに呑む男、SHOGO。沖縄土産の豚の頭部(ミミガーらしい)を傍らに、彼が同席する仲間に力強く主張する事、それは。
「オレは、オレはね……金を持ってないんだ!」
 うん、知ってた。
 彼は失職と貧乏をブースターに、同席する男達に絡む、たかる、パニッシュ☆する。酒と肴を思う存分摂取する彼は何故女性には絡まないのか。友情なのか。あるいはチキンなのか。
 だが、一つだけ解ることがある。それは――
 このペースで呑んだ彼が数刻後地面と吐瀉物を経由して仲良しになった、避けられぬ未来であった。彼は介抱する気満々であったルナのお世話になることになったのである。
「すげえな、これが良い大人の呑み方か……」
 それらの惨事をしっかりとメモしているのは火車であった。もうじき成人を迎えるはずの彼、今日この場をその時訪れる飲酒の為の予習の場にしようとしていたのだ。てかお前未成年だったのかよ。
 様々な呑み方をする者がいた。呑み慣れた者、呑みなれないながらも自分のペースで呑む者、勢い良く底無しのように呑む者。そして最後に訪れた、見事な悪い呑み方の例である。
「……意外とメモ溜まったなぁ」
 しみじみと記述されたメモを眺めながら火車は呟いた。リベリスタ達の酒癖メモ誕生の瞬間である。

●ふたり
 集団で呑み明かす者がいれば、特別な誰かとだけ呑む者もいる。呑まないながらも雨に濡れた桜、その風情を大切な者と共に味わいに来た者も。
 仲間、友……そして恋人。『ふたり』の関係は様々だ。そんな彼ら、彼女らの関係性。

「……この風景もとても好き」
 糾華が呟き……彼女の幻想纏いである蝶がふわり、と舞い上がる。その揚羽は濡れた桜の並木の中を、ふわりふわりと舞い踊る。
「オレ、桜を見るのは久しぶりなのだ」
 隣の五月は東屋の中で、耳と尻尾をゆらりと揺らしつつ蝶に誘われるように視線を移していく。
「雨の中の桜っていうのは始めて見たが素敵だな」
「それぞれ別の顔があって、桜を特別視したくなる気持ちもわかるわ」
 酒盛りをしたくなる連中の気持ちはよくわかる、と五月は言う。とても飲酒を出来る年齢ではない二人ではあるが、風情に対して気分の高揚する気持ちは年齢等関係はない。
 そんな二人の間に交わされる、ささやかな約束。大きくなったら酒盛りをしよう、というどこか滑稽な、またどれほど先かわからない奇妙な未来の話。
 そっと雨露に濡れた桜の花弁を五月がその手に受け止める。
「なあこの花弁を押し花にして思い出に出来ないかな」
「お土産にしても素敵ね。栞にして配りましょう」
 街の外れの館に待つ友達への届け物。そして今日のささやかな約束の証として。
 今日の花は、閉じて挟まれ皆の下へ。

 一方この二人は妙に近しい空気を醸し出す。
「しっかしあんたが来てたとはねぇ……」
 フランシスカが自らによく似た、しかし違う雰囲気を持った少女の顔を見つめる。見つめられる少女は勝気さが前に出たフランシスカとは対照的に、柔らかく微笑み返す。
「クソ親父にでも言われたの?」
「それもありますけれど……姉様がどれだけ強くなられたのか見たくって」
 分家筋へと養子に行った姉と、本家に残った妹。遠い欧州の地に残してきた関係は、今この三高平の地で再開を果たしたのだ。
 フランシスカは目線を桜へと逸らし……仕事の事は忘れようと告げる。
「どういう経緯であれ、折角二人でゆっくり出来るんだし……」
「そうですね、こういう話は無粋でしたね」
 姉の言葉に妹――リリウムは頷く。
 並び、桜を見つめる二人。一度は分かれた姉妹の道は、今合流し同じ道へ。共に並んで歩くその道が、再び分かれぬように。雨に打たれ、じきに散るであろう桜……その姿と重ならぬよう。
「あ、そうそう――二人の再会に乾杯……でいいかな」
「はい。再会出来た事に喜びを。乾杯……です」
 甘い飲み物に満たされた二人のグラスが重なり、澄んだ音を立てた。
 ――そんな姉妹の絆を、濡れた桜は見下ろしていた。

「へへ、お酌も小慣れてきたろ?」
「――ああ」
 張られた天幕の下で、少女は男へ酒を注ぎ、男は勧められるままに酒を煽る。
 いつもの二人、穏やかな空気。だが、穏やかな空気は時に誘うものがある。
 そう――雨音と遠い喧騒、そして血中に回るアルコール。それらがあわさる計算式の答えは、睡魔だった。
「……大丈夫か、眠い?」
「――すまん、すこし横になる」
「んむ、安心して少し寝るといいぜ。俺様はここに居るからな」
 わりと一方的な龍治の様子ではあるが、木蓮は特に意にも介した様子はない。お互いの信頼関係は些細な事で揺らぐような段階ではない。
 横になって間もなく、龍治が寝息を立て始めた。それなりの疲れもあるのだろう、少しとはいえぬ熟睡の様子であった。
 ……やおら、木蓮がそわそわしはじめる。気付いたのだ、今がチャンスだと。
(……怒られるかな)
 などと内心ドキドキしながら、隣で眠る男の頭を膝の上に載せる。普段は嫌がる――いい歳して、いやいい歳だからこそだろう――膝枕をするチャンスだったのだ。それを逃す手はない。
 膝枕されても龍治は起きる様子もない。むしろ気持ちよさそうにそのイヌ科の耳や尻尾をゆら、ぱたと動かしている。その様子に木蓮は……
 ――カシャ、と携帯のシャッター音があたりに響いた。

 静かな空間、ささやかな喧騒。その最中に所在なさげな少女……リンシード。
。そんな様子の彼女に迫る怪しい影。
「そんな所にいないで、おねーさんのお酌お願い出来ますか?」
 怪しい影ではなく、シスターであった。
「こ、こんにちわ?」
「ハァイ、三高平をLOVEテロリストしにきた海依音ちゃんと申します」
 やっぱり怪しい影だった。
「ら、らぶてろ……? あ、ええと……よろしくお願いします」
 困惑しながらも、律儀に相手のグラスにアルコールを注ぐ。尤も海依音も要求するだけではなく、返杯する。その為にわざわざ持参していたのだろう、ジュースを。
「綺麗な青い髪ですね?」
「……いつも手入れには気をつけています、お人形は……髪の毛が綺麗でないと」
 自らのアイデンティティを人形と同一としているリンシードにとって、大事な拘りなのだろう。その髪を許しを受けて三つ編みに結い変えながら、海依音は言葉を繰る。
「男の子が放っておかないくらいの美人さんになれますよ。お酌の仕方も上手」
 海依音の言葉にリンシードは戸惑いながらもはにかんだように笑みを浮かべる。
「私なんてそんな……海依音さんみたいな、美人のお姉さんのほうが……」
「あら、桜も貴方が可愛いと言ってるみたいですわね」
 結い上げられた髪に、雨露に落とされた花びらがひらり、と落ちた。ちょっとした出会いと、好意と。生まれる関係を祝福するように。

 一方こちらの天幕ではやはり二人が寄り添っていた。
「準備の手際が良いな」
 感心したようにユーヌが呟いた。
 この天幕は竜一が早々に用意したものである。シートも敷かれ、花の見やすい構造のものを。
 それもこれも、彼女といちゃいちゃする為に。涙ぐましい努力である。
「まあ落ち着いて見られるのは良いが」
「寒いからね、温まらないと」
 そう主張する竜一の膝に座り、抱きしめられるユーヌ。その手は抱きしめる竜一の手と絡ませあうように、繋がれる。設営に冷えたその手を温めるように。
「高校入学おめでとう、また一歩大人になったね」
「祝辞感謝だな、大して変わらないけどな?」
 少し大人になった少女と、その先を行く少年。犯罪的といわれるその関係ではあるが、どうやら相変わらず良好なようである。
 そっと重ねられた唇が、二人の安泰さを示していた。
 濡れた桜に二人の恋心。地面と天幕を撫でるように降る雨は、二人の空気を後押しするように――
「花よりユーヌ!」
「団子にしておけ、動いて疲れた分は」
 ――暴走する少年の思いは、口に押し込まれた桜餅の甘さによって阻害されていた。

●夜露
 誰かと共に騒ぐ者、寄り添う者がいれば思うままに楽しみ、行きずりで行われるコミュニケーションもある。
 公園に営業車を乗り入れていたのは朋彦である。雨に濡れる桜の公園に焙煎された珈琲の香りを漂わせる彼。その営業車は自らの店であり、酒に疲れた者の為に提供されるスペースでもある。
「うーん、しばれるなぁ」
 何故か方言で寒さを主張する北国の人ベルカは、その営業車の中で身体をさすっていた。
 別に酒が飲めないわけではない。単に宴会が続いているから休肝日を作っただけなのだ。たまにはそういう事もある。
「同志土器、カプチーノを一つ頼みます。ラテアートもやっていると聞きましたが……何かお勧めの絵柄で頼めるでしょうか?」
「そうだね、だったら……」
 たまの休肝、なので珈琲。ついでにお洒落にラテアート。そんな要求に店主朋彦はエスプレッソの表面をキャンパスに仕上げていく。
 そこに咲いたのは桜。雨露に晒される花弁とはまた違う、キャンバスに咲いた一輪……否。一本の桜の木。精緻に描かれた満開の木。
「へえ、凄い」
 それを覗き込んだのは、耳の長い少女。フュリエである彼女、マリアは雨中の桜並木を散歩していたが、ちょっとした雨宿りにここへ流れ着いた。珈琲の香りに誘われて。
「あまり種類は知らないんだけど……苦味と酸味の少ない飲みやすいものをお願い出来るかな?」
「かしこまりました」
 曖昧な少女の要求に、朋彦は自身の知識を動員して最適なブレンドを提供する。そのカップを傾けたマリアはわずかに顔を顰めながらも……一拍の後に、安堵したような表情を浮かべた。
 慣れぬ異界の黒い水。だが、それは不思議と彼女の心を落ち着かせる。……きっと珈琲とは、そういう飲み物なのだろう。

 一方、一人で楽しむ者もいる。
 ……尤も天を仰ぎて寝転がり、見えぬ月と濡れた桜に向かって愚痴を撒き散らすのが楽しみだと言えるのなら、だが。
「まったく……妾が酒を飲めぬとはどういうことじゃ」
 魔女シェリーは愚痴る。法という壁に対し、愚痴る。
「そもそも、車は乗っても良いが酒はダメとは矛盾しているではないか」
 本来車もダメである。が、愚痴を吐くには特に関係ないのだろう。やがてそのような愚痴もなりを顰め、沈黙し……
「……しんみりとしたこの感じが好きだな」
 ぼそりと呟いて、目を閉じた。彼女は確かにこの夜桜を楽しんでいるのだ。

「初めまして、深春さん」
 宴席から少し離れた場所で花を見上げていた深春に声をかけたのは亘だった。
 無理やり連れてこられて気乗りのしていなかった深春ではあるが、別段花見が嫌というわけではない。単に集団を率いるのと違い、集団に混じるのが苦手なので避けていただけだ。それに……
「雨の中で花見など、なんと非効率な……って顔してるな、深春ちん」
 ツァインもまた、そのような深春を見て声をかけてきた。本人の目の前でやる物真似は総じて不評なものだが、ブレイブ溢れる行為である。
「――別に。ただ、時間の浪費が気になるだけだ」
「まぁまぁ、たまにはこういうのもいいんじゃね? ココア飲むか?」
 そう言って手にした魔法瓶からコップに注ぐツァインであったが、亘の手元を見て動きが止まった。その手にもまた、ココア。見事な被りであった。お前ら結婚してしまえ。
 閑話休題。
「わざわざ私になど関わらずに花を見ていればいいだろうに」
 そのように突き放す深春に対し、関わるのは彼らだけではない。
「落ち着いてお話をする機会ですし。歓迎会以来でしたよね?」
「クェーサーさんは卒業でしたか? 進学と、卒業祝いに」
 ミリィと壱和。レイザータクト……深春によって持ち込まれた技術の使い手である二人は、深春にも興味があるのだろう。よく温まった甘酒と、少し大きめの弁当箱を下げた二人もまた、深春の元へやってくる。
「あまり就学していた覚えもないけれど。……一応、ありがとう」
 渡された飲料を受け取り、口に運ぶ。
「自分は仲間がいなかったら戦えないし、今生きているのだって仲間のおかげなんです。だから……」
 だから少しでも皆の力になりたいから、と。亘は深春に思いを告げる。そして教授を乞う。
「――私に伝えられることなどさしてない。技術も違えばスタイルも違う。だが」
 そこで一度区切り、深春は飲み物を一口飲み……
「――同じ戦場に立った時は最大の効率を発揮させることを保障する」
 深春は生き方が不器用である。それはコミュニケーションにおいても同様。……今のが、おそらく彼女にとっての。クェーサーとしての――最大限信頼に応える形、なのだろう。
「まあ軍師たるもの、いや軍師以外でもかもだけどさ。風情を楽しむ余裕も持つべしって偉い軍師の人も言ってた」
 それらのやり取りにツァインが桜を見上げながら言う。俺もこの風情はよくわからんけど、と台無しな一言が続いたが。
「……そうですね。お弁当もつくってきましたのでどうぞ」
「好きなものも聞けずじまいでしたので色々作ってはみたのですが……」
 お口に合えば幸いです、と多少の不安を述べながらミリィが、壱和が持参した弁当を広げた。
「……本当に、物好きな奴らだ」
 突き放した言葉。だがそれでも関わろうとする者達に対し……深春は、少しだけ微笑んだような気がした。

「宴もたけなわ、ですねえ。尤も最初からクライマックス的なしっとり具合。それも目論み通りなのですけどね?」
 桜の木に寄りかかり、持参したウィスキーをビンのままちびちびと煽る四郎。今回の宴会の発起人であり、リベリスタ達に道を指し示すフォーチュナである。
 彼は何時も通り高級なブランドスーツを雑に着崩して身に付け、いつもとは違う雰囲気……気だるげに天を仰ぎ、雨露の桜……そして流れる曇天の雲を見上げていた。
 そんな彼に近づくのは四乃。喧騒の最中に飲み歩き、持参した微炭酸の日本酒を注いで回っていた彼女はまた、四郎にも酒を勧める。
「すてきなお誘い、ありがとう。こんなに沢山の方たちの中で呑むお酒はやっぱり美味しいわよね」
「ああ、これはどうも。ええ、宴席というものは悪くないものですよ? いつまで共に呑めるかわからない。ならばその機会は多く、バリエーションに富んでいてもいいでしょう?」
 四郎の言葉。それが彼が今回多数ある宴席の中にもう一つ、この宴席を足した理由なのだろう。
 四乃は思う。喧騒の中で呑むという行為は、孤独を感じない。そして暗闇と桜、夜露で濡れたコントラスト。それはとても綺麗で、この場を彩っていく。

 ――大きな戦いをまた一つまたぎ、アークは強くなり、結束も固くなった。
 だが、同時に失われたものも多かっただろう。
 それでもまだ、先の戦いはある。今こうやって杯を交わし、同じ桜を眺める者達と肩を並べ、力を合わせ。共に戦い続けていくのだ。
 ……だからこそ。この一瞬を大切に。太陽の光に照らされた鮮やかな桜だけではなく、夜の闇に浮かぶ……そして雨露に塗らされわずかな光を反射させる夜桜。それもまた美しく心を動かし……
 ――同じ気持ちを共有出来る仲間がいることを、思い出させてくれることを。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 大変お待たせいたしました。

 日本人ってわりとあらゆる環境で呑みます。
 新年だ、呑もう。
 節分だ、呑もう。
 新学期だ、呑もう。
 桜が咲いた、呑もう。
 雨が気持ちいい、呑もう。
 雪が綺麗、呑もう。
 呑む、という行為は喜びに直結しています。
 美しいものを見ながら呑む、というのは五感全てを悦ばせる行為です。
 そのような一時があることを、それを楽しむ心を忘れないでいてください。

 まだ先は長いのですから。