●恋文専用なんですってば 突然、恋がしたい、と思った。 近頃めっきり受け取るものが味気ない。請求書やら督促状やら、商品広告やら、それに景品応募の類ばかり。 昔は季節ごとにすてきな言葉で飾られたハガキがたくさん入れられたものだ。 いまではすっかり数を減らしている。 悲しいことだ。 だから思った。 これだけ長い間まじめに勤めてきたのだし、ここらで自己主張してもいいんじゃないだろうかと。 いま、わたしが求めているのはラブレター。 文字に込められた思いでこの身を真っ赤に焦がしてくれるほど情熱な恋文。 それなのに、目の前のこの男ときたら―― 「あぁ!? てめーポストの分際でフィクサードのこの俺さまにケンカ売ってんのか、コラ!」 話し言葉も下品なら、はがきの内容もまた下品。 『コロす』だの『しばく』だの『かくゴせいよ』だの、やたら物騒で下品な文字が判読に苦労する字(というよりもまるで絵のよう)で書かれている。 しかもこのハガキ、漢字がまったく使われていない。ただの1文字も。相手の名前や住所ですらひらがな。 郵便番号なんて当然のごとく記入されていない。ハガキの上にある赤く四角い箱は、ただの飾りだと思っているのだろうか? 一応、切手は貼られているが所定の位置から外れている上、斜めに歪んでいた。 「オラッ! 今度はちゃんと食いやがれ」 懲りない男だ。 当然のごとくわたしはそれを受け取りを拒否した。 咀嚼する必要すらない。 ぺっ、と吐き出し、地面に落とす。 「て、てめぇ……。マジ、ぶっ殺す!」 ●春ですから とある町のとある郵便ポストが覚醒した。 ハガキを口に入れると咀嚼して、それが気に入らない内容や切手が貼られていないなどの不備があれば吐き出しているという。 「ポストはもともと赤い、というツッコミはなしで」 ざっと事件のあらましを伝えると、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタたちと向き合った。 どや顔ウサギのポーチにポインターをしまう。 「覚醒したのはこの日の朝。幸いにして封書が多く、吐き出されたはがきの数は少ない。このフィクサード――真田琢磨の分を含めてたったの3枚。はがきに限定されるのは、郵便ポストが中身を読み取ることが出来ないから」 問題は、フィクサードとの戦闘で郵便ポストのフェーズがあがってしまったということだった。 「足が生えて動けるようになってしまった。フィクサード・新町琢磨の顔面をひと蹴りして気絶させた後、そのまま逃走した」 そのうち手が生えるかもね、と珍しくイヴが冗談を口にする。 だが、覚醒したイリューションが町を徘徊しているとなれば笑い事ではない。 「そう……実はこのあと、人を襲いだす。ハガキを書いて出せって」 書かなければ蹴り殺し、書いても内容が気に入らなければ蹴り殺す、というのが万華鏡で見た未来だとイヴはため息をついた。 「郵便ポストのお腹には封筒が30通入っている。撃退後、これを回収して近くの郵便局へ、または覚醒していない普通のポストに投函して欲しい」 覚醒ポストは郵便物の回収ルートからは出ていないらしい。 もっとも出現の確率が高いと予想される場所は2箇所。水の広場公園内かショッピングセンター前のどちらか。 まだまだ人通りの多い時間帯だが、幸いにして2箇所ともポストがある場所は死角になっている。 リベリスタたちが椅子から立ち上がると、イヴは片手をあげて待ったをかけた。 「コケにされたと怒り狂った新町が、ハガキを片手にやはりボストを探している。何が何でもこのポストに投函するつもりらしいわ。町のあちらこちらでポストを破壊して回っているから、これも見つけたらついでに成敗しておいて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月20日(土)00:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夕暮れの街中を英語でもカタカナでもなく“ひらがな”のエンジン音が轟く。 チンピラフィクサード、真田琢磨は郵便ポストを探していた。ただの郵便ポストではない。一晩かけてかきあげた最高にしびれる、読んだ奴が恐怖のあまりにびびること間違いなしのハガキを、あろうことか吐き出した“クソ”ポストだ。そのポストは現在、生意気にも足を生やして逃走中である。しかも―― 「ピザ!」 琢磨は途中、郵便局員を捕まえて街のポスト位置を聞きだしていた。が、愛機のエンジン音が“ひらがな”の男である。一度聞いただけで覚えられるわけがない。 「おい、テメー、ふざけてんのか? さっきから嘘ばっか教えやがって。今度はピザじゃねーか!」 「う、うう嘘なんて……こ、これはポストですよ。さっきから言っているじゃないですか、誰かがポストに悪戯をしているって」 ピザ化したポストの前で、誰かって誰じゃ、と後ろの郵便局員が知るはずのないことを問う。 「し、知りません」 「……腕を離せ」 郵便局員がガチガチになった腕をなんとか解くと、琢磨はいきなり肘を振った。 どさっと重いものが地面に落ちる。 「降りろ」 もう降りている、とツッコミを入れてはいけない。 「お前はここで仕事しとけ。賢い俺はもう犯人の目星をつけた。これは俺を恐れたアイツの……あの“クソ”ポストのしわざだ」 琢磨は、代わりに制裁してやるから感謝しろ、と言い捨ててバイクを発信させた。 ● 「全てのポストを守るには、ポストをポストでなくしてしまえばいい」 色とりどりの包装紙を足元に、手にダンボールとノリを持って、うんうんと自分の言葉にうなずくのはモルぐるみを着た『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)だ 。こやつがポストをピザにした犯人である。現在はポストをソーセージに見立てたホットドックを作成中だ。 琢磨の推理はみごとに外れていた。覚醒ポストには足はあっても手はなかったのだから、ちょっと考えれば、いや、ちょっと考えなくても街中のポストこれほど凝った装飾を施せるわけがないと気づくだろうに。 「街の可愛いオブジェだと……真田ならきっと思いこんでくれる!」 モル琥珀は四角くてやたらソーセージのでかいアメリカンドックから一歩はなれ、腰に手をあてて満足げにうなずいた。 「よし、おわった。完璧!」 ところで、なぜ“食べ物”なのか? 特に意味はないらしい。強いてあげればお腹がすいていたとか―― 「キミ」、と後ろから声をかけられた。 ぽんとモルの右の肩に手が置かれる。 「ちょっとそこの交番まできてくれるかな?」 え、と思うまもなく、モル琥珀はお巡りさんたちに左右の脇をがっちり固められてしまった。 ● 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680) はレジの横で注文の品を受け取ると、ビニール袋を手に下げたマダムたちの視線を四方から集めつつ、トレーに珈琲が入ったカップを二つ載せて『小さき梟』ステラ・ムゲット(BNE004112) の待つテラス席へ向かった。軍装を解き、ダークグレーのダブルスーツに中折れハット、肩にコートを羽織ったダンディーな姿は、ただ歩くだけで年季の入った地元お嬢さまたちのハートをがっちり鷲づかみである。 「書けたかな?」 ステラに向けた青い目を優しげに細め、老紳士は白く丸いテーブルにカップを置いた。そばを通りがかった店員にトレーをさりげなく手渡す。その動作があまりにも自然でなおかつエレガントであったので、店員も至極当然のようにトレーを受け取ってカウンターへもどっていった。 熱いカップを手にしてステラが小さく笑う。 「うん?」 「いいえ、さすが様になっている、と」 ウラジミールはなんのことか分からないといった様子で椅子に腰かけた。 ステラは姉のルーナに宛てて書き出したハガキの上でペンを遊ばせた。感謝の気持ちは伝えきれないほど持っている。それなのに、もどかしいほど文字になってくれない。 迷いに迷って、最後の言葉を文字にしないままペンを置いた。 「なかなか難しいものだ」 「ああ。だからこそ、もらったときは嬉しい」 ワイン色に染まるカフェテラスで視界の隅にポストを捕らえつつ、ふたりは静かにカップを傾けた。 『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)は広いショッピングセンターの回りを、音楽を聞きながら歩いていた。学校帰りを装いながらも、能力の1つである千里眼を活性させて油断なくあたりを見回す。 ポストの前で若いカップルとすれ違ったとき、恵梨香はふと、ターゲットの真田琢磨のことを思った。 (それにしても、Eメールの時代に葉書とは古風ね。ラブレターを送りたい相手でもいるのかしら?) 自分は、と零してポストの前で立ち止まる。四角い箱の上に手を置いた。 愛だとか恋だとか、ふあふあとしたものを胸の真ん中に広げてみても、いつの間にか影に覆われてしまう。そう、あの日を境に―― 悲鳴とバイクの音が恵梨香の物思いを破った。 はっとして顔をあげると、買い物帰りの客を蹴散らしてバイクが突進してくるではないか。 「ラブレターを出す前にいろいろと学ぶことがありそうだね、彼は」 正面にバイクに乗ったバカを捕らえると、恵梨香はAFから魔道書を呼び出した。ぱらぱらとページをめくる。 「目立たないように、というのは難しいけど」 この状況、やらなきゃやられちゃう。 恵梨香は魔道書を左腕に抱えて斜に構えると、すっと右腕を上げた。銃の形にした指の先から、琢磨の額を狙って魔弾を撃ち出す。 「うおっ!? アブネェな!!」 琢磨は車体を大きく倒して飛んできた閃光をよけた。 そのままバイクを横滑りさせて恵梨香に体当たりを仕掛ける。 恵梨香は後ろへジャンプして攻撃を避けた。 「ちっ。ハズレかよ。んじゃ、ここに用はねぇ。あばよ、どブス!」 「なん――!」 赤い目を危険なほど大きく見開いて、屈辱に体を震わせる恵梨香。 火花を散らしてにらみ合うふたりの間にウラジミールが飛び込んだ。 「無礼者め!」 一喝。 怒りを込めて繰り出したウラジミールの拳が琢磨の顔面を叩く。 「な、なにしやがるジジィ!」 言い放つと同時にちんぴらフィクサードは素早く拳を二発繰り出した。 一発はウラジミールが被っていた中折れ帽を吹き飛ばすに留まり、もう一発は顔の前で合わされた腕に阻まれてしまった。 それでも格上のウラジミールをよろめかせ、すぐうしろにいた恵梨香を巻き添えにして倒れさせたのだから十分だろう。 琢磨は生じた隙を逃さず、バイクを起こすとすぐさま逃走を図った。 スラムがすぐ横を猛スピードで抜けていくバイクに思念をぶつけた。バイクはよろめいて尻をふったが、倒れることなくショッピングセンターから遠ざかって行った。 「本当に失礼な人ですね、真田さん」 恵梨香を助け起こしながらスラムが憤慨する。 「もう一切の慈悲はかけないよ」 「うむ。AFであちらに連絡を。我々もすぐに向かおう」 ● 「いた」 水の広場公園のすみに郵便ポストと覚醒ポストが仲良く並んで立っているのを見つけて、『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)は仲間を呼び寄せた。 「恋文専用ポストなんて可愛らしい……と、生足にょーんを見るまで思っていたワタシが悲しい」 せめて無駄毛のお手入れぐらいはして欲しかった、と大きな胸の前で十字を切ったのは『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)だ。 「ボトム世界って、ほんとうに面白いところですね!」 覚醒ポストに興味津々。金色の瞳を輝かせる『自爆娘』シィン・アーパーウィル(BNE004479)の横では、キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)が頬を引きつらせていた。 「あれにヤミーブラック様へのファンレターを入れるのですか……ううん、ちょっと複雑」 「たしかに。あれに入れるとオレたちのハガキが何か違うものに変化しそうだな」 桜花の押し花を貼り付けた手作りのハガキを顔の横でひらひらと振りながら、ヘンリエッタも顔をしかめた。 「あ、気づかれた!?」 シィンが叫ぶと同時に覚醒ポストががに股を動かしてリベリスタたちに近づいてきた。 股の間に見える黒いものはもともとついていた支柱が短くなったものだろうか。なんいうか、その……。 「ストップ! 違う意味で危ないので貴方の姿を一般の方々には晒せません。もう少しお下がりください」 リベリスタたちがそれぞれハガキを手にしているのを見て気をよくしたのか、覚醒ポストは海依音に言われるまま後ろへさがった。 ひとりで頬を赤らめている海依音にヘンリエッタが首をかしげつつ、 「仲間が着たら一時解くとして、結界を張るけどいいか?」 「いいですよ」とキンバレイ。 シィンと海依音のうなずきをもって、ヘンリエッタは公園の隅に結界を張った。 ● 一方、そのころモル琥珀は―― 交番を経て警察署にいた。 モルぐるみを着たままの姿で椅子に座らされ、まわりを怖い顔に囲まれている。いま、ようやく警官を説得して、アークに連絡を取ってもらっているところだ。神秘秘匿の必要性から直接事情を説明できないのがもどかしい。 琥珀は壁にかかった時計を見た。 「あの、まだ?」 「そんなにすぐ確認が取れるわけじゃないよ。時村沙織って、あの時村財閥の御曹司だろ? 彼のような天上人と愉快犯のキミが知り合いとは思えないがなぁ」 まあ、その嘘もじきにばれる、と正面に座る警官がいった。 「いいから、名前と住所を教えて。初犯みたいだし、もうやりませんと反省文を書いたら帰してあげるから」 「あの……」 「なんだい?」 「カツ丼、頼んでもいいですか?」 ● 「一番! シィンいきます!」 覚醒ポストの横で3枚のハガキを高々と頭上に掲げ、シィンが名乗りを上げた。パチパチパチと拍手が起こる。 拍手がおさるのを待って、シィンは覚醒ポストと向き合った。 礼。 「ポスト!ポスト!ポスト!ポストぉぉうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!」 え゛? 「あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ポストポストポストぉううぅわぁああああ!!!」 ヘンリエッタ、海依音、キンバレイ、3人の目が点になる。 抜群の破壊力で結界内の時を止めて、シィンはいきなり覚醒ポストに抱きついた。 「あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん」 赤いてっぺんに頬を押し付け、くんくんと鼻をならしながら1枚目を投函。続けて2枚目。 「んはぁっ!ポストたんの赤色ペンキのボディをクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!」 シィンに抱きつかれていた覚醒ポストが小刻みに揺れだした。 ――ク……カ、クンカクンカ、クンカァー! 「わっ!?」、と胸のあたりを押さえながらシィンがポストから離れる。 覚醒ポストを見た3人が同時に叫び声をあげた。 「『鼻っ!』」 投函口の下、〒マークの上に大きくて赤い天狗鼻が生えていた。にょーん。怪しさ倍増である。 「フェーズあげてどうする!」 ヘンリエッタが叫ぶ。 「ダ、ダメージを受けたようにも見えませんが、強くなっているような感じもしませんよ」 キンバレイの提案でとりあえず3枚目の投函は保留ということになり、シィンは渋々ポストから離れた。 2番手を志願したのはヘンリエッタだ。 こほん、と咳払いして場に残る怪しげな雰囲気をはらうと、ヘンリエッタは故郷、 ラ・ル・カーナの姉妹たちに宛てたハガキを読み上げた。 「……オレは随分変わったけど、絶対に変わらない事もある。皆が大好きだよ」 「おお! 春の日差しのような暖かさが腹に広がる、素敵なラブレターでございます!」 覚醒ポストがくるくると回り、フュリエたちが肩を寄せ合って微笑む。 いい雰囲気になったところで、今度はキンバレイが日曜朝8時半のヒロイン・ヤミーブラックへのファンレターを投函した。 「むむむ、ヤミーブラックさんへの愛。確かに受け取りました。奴は容赦なくリテイクという必殺技を出すとか、奴には数多の作戦(OP)を藻屑にされたとか、どこからともなく嘆きの声が聞こえてきましたが……」 一体だれの声なんでせうね、と覚醒ポスト。 「気のせいでございましょう。屑STは勝手に泣いてりゃいいのです。では、次はワタクシが」 キスはパス、と胸のうちでひとりごちて、海依音は手にハガキを持った。 綺麗な桜モチーフの記念切手に乱れ飛ぶハートマーク。綺麗な文字で書かれたハガキは、ただいまハートブレイク中の凪のプリンスへ宛てたものだ。ちなみに凪のプリンスとは、高名なる三高平のラブテロリストが“夫”にすべく虎視眈々と狙う最新の標的である。 ――とヘンリエッタのAFにスラムから連絡が入った。 「フィクサードがこっちへ向かっているそうだ。結界をといて、オレたちは琢磨を……」 いい終わらぬうちにバイクの轟音が公園に近づいてきた。 「迎撃する」 タイヤが垣根を割って琢磨を載せたバイクが飛び出してきた。 「うぉりゃああああ!」 かけ声とともに一枚のハガキが空を飛び、リベリスタたちの間を抜けて覚醒ポストの投函口へ入った。 すぐさまぺっと吐き出されるハガキ。 額に青筋を浮かせて琢磨が拳を固める。 「て……」 「バカもんガー!」 覚醒ポストが片脚を前に突き出し、高速で回転ジャンプしながら琢磨に迫った。軌道上にいたリベリスタたちは、攻撃力の増した蹴りの巻き添えをくらう形になった。バタバタと倒れていく。おかげで狙われたはずの琢磨は覚醒ポストの攻撃を軽々とかわし、落ちたハガキの回収へ向うことができた。 「次はちゃんと食いやがれ、クソポスト!」 琢磨が拾い上げたハガキを手に振りかぶる。 「そこまで!」 腕を振り下ろそうとしたところへ、スラムが放った気糸が絡みついた。 はらり、と琢磨の手から落ちたハガキを恵梨香が拾い上げる。 「え、なにこれ。予想以上に……きたない字」 読めない、と眉をひそめる恵梨香に琢磨が「うるせー、ドブス」と悪態をついた。 恵梨香が魔道書の背で琢磨の額を叩き割る。身を起こした海依音が杖で琢磨の股間に鋭い突きをくれる。 夕暮れに絶叫が響いた。 ウラジミールが顔をしかめた。 敵とはいえ、ちょっと酷い。 投球ホームのまま悶絶する琢磨をとりあえずうっちゃって、ウラジミールはハガキを取り出した。 そのハガキを後ろから顔を血まみれにした琢磨が取り上げた。 「あぁん!? なんじゃ、この象形文字は?」 「象形文字ではない、キリル文字だ!」 ウラジミールが今は亡き妻に宛てた恋文を取り返すべく、背後に振りかえると琢磨の姿が消えていた。 「上っ!」 スラムから癒しを受けていたキンバレイが、空に琢磨を見つけて叫んだ。 「俺のがダメなら、ジジィのもダメだろ。なあ、クソポスト!」 琢磨は落下しながらポストを攻撃、同時にウラジミールのハガキを投げた。 ダメージを受けてよろめく覚醒ポストの口にハガキがすとん、と入った。恐るべきコントロールである。 「さあ、吐き出せ!」 しーん。 「くそっ、麻痺させちまったか!?」 「自分の都合のいいように解釈してはいかんな、真田殿」 たとえロシア語で書かれていても、気持ちのこもった正しいハガキであれば覚醒ポストは受け入れてくれるのだ。 「愛だよ、愛」 「なにぬかす! もういい。てめーらまとめてくたばりやがれ!」 琢磨の体が揺らぎ、霞む。残像を残して飛ぶナイフの刃がリベリスタたちを襲った。 「――といったが気が変わった。麻痺しているうちに俺のハガキを食え、おらっ!」 琢磨はナイフでポストの鼻を切り落とすと、自分のハガキを投函口に押し込んだ。 文字にならない怒号がボストからほとばしる。 全身から怒りを発散させて赤いポストが空を舞う。 琢磨をぶちのめし、だが勢いは衰えず、そのままリベリスタたちへ突っ込んでくる。 「いかん!」 前に出て盾になろうとしたウラジミールをステラが手で制した。 怒り狂うポストを前にして、臆することなくハガキにつづった姉への気持ちをせつせつと語る。 「どうか、このハガキを届けて欲しい。大好きな姉さんに」 覚醒ポストが動きを止めた。 小さな体に脚が叩きつけられる直前だった。 ステラは手を伸ばしてポストにハガキを投函した。 「みんな、おそくなってすまない」 ようやく警察から解放されて、琥珀が公園に走ってやってきた。 状況をひと目で見て取ると、琥珀は仲間たちからまだ投函されていないハガキを急いで集めて回った。束ねたハガキの一番上に、覚醒ポスト――いや、全国の郵便ポストに宛てた自分のハガキを乗せる。 「真っ赤でシャイなポストさんへ」 台風の日も大雪の日も、いつもそこに居てくれる その頑丈な体で、人々の想いを守ってくれているんだね 家族の絆や人の縁を繋いでくれて有難う 琥珀がハガキを投函すると覚醒ポストの体が淡く光って四散した。 ● 後日。 ウラジミールの元にロシアから一通の手紙が届いた。差出人は妻の墓がある町の郵便局一同。封を切って中身を改めると、懐かしい故郷の絵葉書とともに、春の花が添えられた妻の墓の写真が出てきた。裏をめくると天国の妻に代筆を頼まれた旨が。 「わが祖国のポストマンたちもなかなか粋であるな」 光るものを指で拭ってウラジミールは微笑んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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