●狂気と凶器 夜道に落ちていたのは小さなナイフだった。それを拾ったのは、1人の男性だった。 会社帰りだろうか? よれよれのスーツに草臥れた表情、溜め息を零しながら缶コーヒー片手に帰路に付いていた。その途中の出来事である。 「なんだこりゃ?」 と、拾ったナイフは刃渡り僅か10センチほどの小さなものだった。しかし、刃は鋭く研ぎ澄まされ柄の部分には細かい装飾が施されている。装飾されているのは、薔薇の模様だろうか? 棘の付いた茎と、大きく広がった花の絵だ。 それを拾った瞬間、男の表情に変化が生じた。 一瞬、眼が虚ろになり、次の瞬間にはその眼は凶暴に吊りあげられた。唇を剥き、歯を食いしばり、呻き声を漏らす。まるで、獣のような有様である。 片手に握ったナイフから伸びた黒い蔦が、男の腕に巻きついていた。刃渡りも、いつの間にか数十センチにまで伸びている。ナイフ、というよりも、鉈や小太刀に近い大きさであった。 刀身は黒く染まり、禍々しいオーラを放っていた。 1目でそのナイフが、危険な代物であることが分かる。 それから……。 いつの間にか、サラリーマンの背後に1人、黒いコートを来た人影が立っていた……。 ●狂気に取りつかれて 「ナイフが媒介となって、他者に影響を及ぼしているみたい。ターゲットはE・フォース(狂気)。フェーズは2。フェーズ1のE・ゴーレム(殺人ナイフ)を指揮している模様」 モニターに映ったのは、とぼとぼと夜道を歩く13人の人影。皆一様に、片手に大きなナイフを持っている。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は自身の目の横に人差指を添えると、それを引っ張り上げ、眼を吊りあげて見せた。 まるで狐のような表情。恐らく、モニターに映っている一般人達の顔を再現しているのだろう。 獣のような、狂気に満ちた顔つきである。 「殺人ナイフは、他者を操り凶行に及ばせる能力を持っている。身体能力も一般人より格段に高くなっているみたいね。いい? 討伐するのはナイフの方であって、一般人ではないから気をつけてね。身体能力が上がっているから、多少のダメージでは死ぬことはないけど、それでも十分、注意してね。一般人に被害者を出さないように」 操られている人からナイフを取り上げてしまえば、あとは簡単。ナイフを破壊するだけである。ナイフはナイフ、自力で動く事はない。 「E・フォース(狂気)にも注意して。バッドステータスを付与するタイプの攻撃を得意としている。また、ナイフを守ろうとする習性があるみたいね。一度、一般人から離れたナイフでも、再度誰かの手に渡ってしまえば、また敵が増えることになるから」 ナイフ事態を破壊しない限り、何度でも一般人が操られることになる。狂気は、ナイフが人の手に渡るよう、行動を繰り返すだろう。 「数十メートルも進めば繁華街だから。一般人が通りかかる可能性は十分にある。それに、狂気によって、ナイフを持ち去られる事も」 全部で13本あるナイフの破壊と、狂気の殲滅。 それが今回の依頼の、達成条件である。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月13日(土)22:58 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●殺人ナイフ 夜道。桜並木。肌寒い風が吹き、すでに花の散ってしまった桜の木の枝を揺らす。カサカサという渇いた音と、引きずるような足音。手に手にナイフを持った男女が13人。不吉な数字だ。夜道を歩いている。その目に正気の色はなく、狂気に満ちていた。 そんな彼らの傍には、黒いコートの男性が1人。何をするでもなくナイフを持った男女を見守っている。異様なのは、その足元である。闇に紛れて良く見えないが、どうやらそいつに足はない……。 狂気に満ちて、不気味な雰囲気。そこへ通りかかる数名の人影。ナイフを持った男が1人、彼らへ向かって、飛びかかった。 ●狂気に満ちて 「わざわざ人のいっぱいいるとこに出てこなくてもいいのにさー。まーぶっ飛ばすのは遺書だからいいけどね!」 男の振り下ろしたナイフを『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が受け止める。薄い羽のような刃が、チリチリと軋んだ音をたてる。 「正気に戻りなさい、貴方達には過ぎた代物よ!」 パン、と渇いた銃声が1つ。『鋼脚のマスケティア』ミュゼ―ヌ・三条寺(BNE000589)の放った弾丸が、男の手にしたナイフを撃ち落とす。がくり、と力が抜けたように倒れる男を比翼子が咄嗟に受け止めた。 「ナイフを壊しちゃえばいいみたいだから気が楽かしら?」 地面に転がるナイフを踏み砕く『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)。比翼子の支えている男性を地面に寝かせ、戦線を押し上げるべく更に前進する。 「数が数だけに、少々面倒だな。だが、この初期段階を何とか遣り遂げねば……」 盾とワンドを両手に構え『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)が小さく溜め息を零す。並木道に散っていた男女が、ナイフを振りあげこちらへ駆けて来る。獲物を発見した、とでも思っているのか、ナイフを振り回しながら走るその姿は、まさに狂気の沙汰である。 「魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 ビシ、っと1つ決めポーズ。『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)がワンドを掲げる。どろり、と滴る血液が、黒い鎖に姿を変えた。濁流の如き大量の黒鎖が並木道を走る。鎖の波に飲み込まれる直前、彼らは人間離れした脚力で飛びあがり、鎖を回避。ナイフを振りあげ、重力に引かれて落下を始める。 「もっと九十九神っぽいのかと思ったら、まるで妖刀ね……」 振り下ろされた殺人ナイフを、大剣で受け止めたのは『薄明』東雲 未明(BNE000340)である。桜並木を封鎖し終え、戻ってきたのだろう。剣を一閃、ナイフを1本弾き飛ばした。 地面に転がったナイフが、カタカタと細かく震える。持ち主を探しているかのように不気味なオーラを振り撒きながら。まるで芋虫かなにかのようだ。 「刃物が動きまわるとかナニソレコワイ……」 顔色を青くして『ガンスリングフュリエ』ミストラル・リム・セルフィーナ(BNE004328)がそう呟いた。めげたい、つらい、帰りたい。そんな想いを胸の奥に仕舞いこんで、彼女は両手で魔力銃を引き抜いた。 「一般人が犠牲になるのは忍びないし頑張らないとなぁ」 撃ち出された光球がナイフを砕く。砕け散った破片が飛び散り、ミストラルはそれを避けるために目を腕で覆う。 と、その瞬間。 『………』 音もなく、物影から迫っていた黒い影がミストラルへと腕を伸ばした。鋭い刃物のように尖った腕だ。E・フォース(狂気)である。 「このっ……!! ボッコボコよ!」 ミストラルを庇うべく、鉄槌振りかぶり飛びだして来たのは芝原・花梨(BNE003998)だ。鉄槌で腕を受け止めるものの、影で作られた矢で撃ち抜かれ、地面に倒れ込んだ。 じわり、とコンクリートの上に血の池が広がる。 芝原を起き上がらせたミストラルは、彼女を連れて後衛へ下がる。追ってくる狂気を阻むのは、双葉の放つ魔弾である。進路を塞がれた狂気は、暗闇に紛れるようにしてその場から姿を隠す。現在、破壊した殺人ナイフは2本。どうやら狂気は、ナイフを守るように動いているようだ。 「それなら……。さぁ、夜桜デートと洒落込みましょう」 押し寄せる数名の男女の頭上を、一足飛びに飛び超える未明。大上段に大剣を振りあげ、狂気を追って樹影へ飛び込む。全身全力で振り降ろされた一撃が、地面を揺らし桜の木をへし折った。吹き飛ぶ木端に混じって、狂気が後退。未明はそれを追っていく。 そんな未明へ迫る赤い刃。血液で作られた刃のようだ。それを放ったのは2人の男女。殺人ナイフの狂気に取りつかれている。 「人間が皆、理性の枷を外した世界など、そんなものは獣と同じだわ」 間に飛びこむ影が1つ。茶色の髪を躍らせるミュゼ―ヌである。血の刃を体で受けて、マスケット銃を彼らに向けた。指先が素早く、僅かに動く。火薬の爆ぜる音。空気を切り裂きナイフを持つ指先へ。指の間をすり抜けて、ナイフの柄を撃ち抜いた。 くるくると宙を舞うナイフ。それを掴もうと腕を伸ばす虚ろな目の男性。ナイフが手から離れても暫くは、その狂気に操られた状態にあるようだ。 しかし、ナイフが彼の手に戻ることはなかった。 「ほぁっ!!」 黄色い矢が宙を舞う。否、両手を広げた比翼子である。足に挟んだ短剣2本が、弧を描くように振り抜かれる。幾重にもダブって見える斬撃が、ナイフを粉々に砕くのだった。 「……う、ぁ!?」 ナイフが消えた事で正気を取り戻したのだろう。男性は頭を押さえ、その場に膝を付いた。 傍らにいた女性の目が、彼を捕らえる。こちらは未だに、ナイフの支配下に置かれているようだ。 「こいつらは見ての通り危ない人達だよ! 怪我したくなかったら逃げちゃいな!」 2人の間に割り込んで、男性を逃がす比翼子。混乱した頭で彼は逃げ出す。追いかけようとする女性を阻む比翼子。けれど、その他数名の男女が男性を追いかけるべく踵を返した。 「怒っているわけじゃないし恨みもないけど、多少痛いのは我慢してもらうわよ」 無数の気糸が巻き付いた。動きを封じられ、もがく女性の後ろには沙希の姿。大鎌片手に糸を繰りナイフを叩き落す。気絶した女性をそのままに、沙希の手がナイフへ伸びた。 ナイフを回収し破壊しようとした沙希であったが、物影から伸びた黒い爪がその腕を切り裂く。腕の痛みに動きが止まったその一瞬をつかれ、ナイフは狂気に回収されてしまう。狂気を追うべく鎌を振りあげた沙希であるが、そこへ3人、ナイフに憑かれた男女が襲いかかる。傷つけるわけにもいかず、沙希はそっと鎌を下げた。 殺人ナイフ、残り10本。支配下に置かれている人数、残り9人。 「この……。待ちなさい」 逃げる狂気を追う未明。沙希の元からナイフを回収した狂気が向かう先には、先ほどナイフから解放されて逃走中の男性の姿。更に男性を追いかける3人の男女。男性を再び、狂気の最中へ引き込むつもりなのだろう。 ナイフ片手に駆ける狂気。と、その眼前に飛び出す人影。火薬の香りを身に纏いミュゼ―ヌが狂気の進路を塞ぐ。マスケット銃から放たれた弾丸が狂気の手からナイフを撃ち落とす。地面を転がるナイフ。狂気が再びそれを拾い上げるその直前、未明の剣がナイフを真っ二つに切り裂いたのだった。 逃げる男性と、それを追う男女。追われる者と、追う者と。その様子は、まるで狩るものと狩られるもののそれである。その上、男は丸腰だ。追う側は大振りなナイフを持っている。 しかし……。 「…さて、暗い夜道にはご用心とはよく言うが。生憎と、夜は嫌いではないのでな──どちらが狩る者か、教えてやろう」 男性を逃がし、追手を阻むのはフィリスである。盾でナイフを受け止めて、魔弾を展開、ナイフに狙いを定め、射出する。1、2発ならナイフであっさりと弾かれてしまう上、残った2人の振り降ろす斬撃がフィリスの腕や肩を切り裂いた。鮮血が飛び散り、傷口には赤い薔薇の花が張り付く。傷の治癒を許さない薔薇の花。殺人ナイフの能力によるものだ。 痛みに顔をしかめながらも、フィリスは薄く笑って見せる。男性はすでに逃げ切って、殺人ナイフはその場で喰い止めている。と、なれば……。 「我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ…いけっ、戒めの鎖!」 詠唱、轟音、不吉なオーラを撒き散らしながら鎖の濁流で迫る。先ほどは回避されてしまったが、隙を付いての攻撃ならば十分に当てることができる。赤い瞳を怪しく光らせ、双葉はぐっと拳を握る。3人の男女は、鎖の濁流に飲み込まれた。意識を奪われた彼女達の手から、ナイフが零れる。 それらを1つ1つ、懇切丁寧に魔弾で打ち砕き、フィリスは髪を掻き上げた。 殺人ナイフ、残り6本。 「一般人の避難が優先じゃな」 殺人ナイフの支配から解放された一般人を、攻撃の中に巻き込まないよう注意を払いつつミストラルは光球を放つ。後衛の彼女が援護するのは、敵2人を相手に立ちまわる花梨である。数度に渡る斬撃を浴びて、彼女の体には無数の薔薇が巻き付いていた。血を流し、傷を癒す事もできないでいる。トドメ、とばかりに放たれた血の刃が花梨の胴を切り裂いた。鉄槌が地面に転がり、次いで花梨もその場に倒れた。意識はすでに、ないようだ。 ターゲットを花梨からミストラルに変更した2人が、ナイフを振りあげ駆けて来る。涙を目尻に溜めて、ミストラルは数歩後退。その背が桜の木にぶつかった。これ以上後ろに下がる事はできない。 「ぬぅ……。怖いけど帰るわけにはいかないしなぁ」 迫ってくる2人に向け、魔力銃を突き出した。引き金を引くと同時、周囲に無数の火球が降り注ぐ。ナイフを持つ手に、その体に、足元に、火球はぶつかり爆ぜる。ナイフが手から離れ、地面を転がる。いくらナイフで強化されているとはいえ、無傷とはいかない。ブスブスと煙を上げる2人に向けて、ミストラルはエル・リブートを使用し、傷を癒した。 「ふふんっ。感謝するのじゃ」 なんて、得意げな顔でミストラルは言う。もちろん、ナイフを破壊することも忘れない。 倒れた花梨に肩を貸し、ナイフから解放された2人共々、木の影へと移動させるのだった。 殺人ナイフ、残り4本。 女性は、正気を失った目で比翼子を捕らえる。両手で握ったナイフを、身体ごと投げるような動きで振り回す。鮮血で作られた刃が飛び交う中、黄色い閃光が駆け抜ける。足に挟んだ短剣を突き出し、ブレイクダンスでも踊るように逆立ち。羽に似た両手で地面を捕らえ、大きく足を旋回させた。 女性と比翼子の体が交差。飛び散る鮮血が地面を濡らす。パタリ、と比翼子が地面に倒れた。 「ナイフがすぐに壊せるものでよかったよー」 直後、女性の体がぐらりと揺れる。手にしたナイフが2つに切れて地面に落ちた。殺人ナイフ、残りは3本。 ●殺人ナイフと渦巻く狂気 ナイフが砕け、鉄の破片が飛び散った。意識を取り戻した青年が1人、沙希に守られる形で桜並木を逃げていく。そんな青年と、それから沙希に襲いかかるのは2人の女性。残り2本となった殺人ナイフに支配されている者たちだ。 「武器に心を奪われちゃう、って感じなのかしら?」 大鎌を突き出し、ナイフの切っ先を逸らす沙希。息のあった連携攻撃と、殺してはいけないという遠慮のせいで、どうにも防戦にまわりがちだ。血で出来た刃が、沙希の頬を掠め、背後の青年へと迫る。 「しまっ……」 慌てて背後を振りかえる沙希。刃を止める為に気糸を伸ばすが、間に合わない。更に、一瞬の隙を突かれ背後からの斬撃が沙希の背を切り裂いた。飛び散る鮮血を浴びながら、女性2人がにたりと笑う。 血の刃が青年を切り裂く。その寸前……。 「魔弾よ、撃ち抜けっ!」 甲高い叫び声。双葉のものだ。ワンドの先端から撃ち出される魔弾が、血の刃を打ち砕く。その余波を浴びて、青年は盛大に地面に倒れ込んだ。打ちどころが悪かったのか、気を失っているようである。これでは逃げる事は不可能だろう。 それならば、と沙希は双葉と協力しつつ女性2人を押し返すべく動き始めた。気絶した青年を巻き込まないよう、戦線を移動させるのである。 「あいたたた……ま、まけないもん!」 ナイフに切り裂かれ、双葉の肩から血が噴き出した。女性がナイフを引き戻す直前、その腕を沙希の気糸が捕らえる。突き出された状態で引き戻すことの出来なくなったナイフを、双葉の魔弾が打ち砕く。女性は意識を失ってその場に倒れた。殺人ナイフ、あと1本である。 劣勢と見て、女性は一気に後ろへ飛んだ。 だが……。 「……魔力よ。その姿を変え、我が目の前に立ち塞がりし障害を撃ち払え!」 真横からの一撃。宙を駆ける魔弾。ピンクの髪を風に踊らせ、フィリスが木影から姿を現す。暗視と熱感知を持つ彼女にとって、暗い場所はなんの障害にもならないのである。 かくして、女性は地面に倒れ込み、殺人ナイフをその手から離す。転がるナイフを足で踏みつけ、沙希は小さく溜め息を吐いた。 「ふぅ、なんとも人騒がせな話ね。誰が悪いってわけでもないけど……」 残る敵は、狂気ただ1体。 殺人ナイフを守る。狂気を伝染させる。それがE・フォース(狂気)の目的であった。しかし、すでに守るべき殺人ナイフは1本もない。たった今、その全てが破壊されてしまった。 何度もナイフの元へと向かおうとした狂気だが、その度に未明やミュゼ―ヌに阻まれてしまい、それは叶わなかったのだ。 桜並木には数名の人間が倒れている。先ほどまで殺人ナイフに支配されていた者たちだ。それら一般人から狂気を遠ざけるべく、ミュゼ―ヌは蜂の群にも似た量の弾丸で、弾幕を張る。狂気もまた、影で作った針を撃ち出してそれを防ぐのだが、一進一退。その場に動きを縫い付けられてしまう。 「私に呪縛は通じないわよ」 影の針がミュゼ―ヌの腕や足に突き刺さる。痛みに顔をしかめながらも、彼女は狂気のブロックを止めない。 『………』 地面に倒れ込むようにして、狂気はミュゼ―ヌの弾幕を回避した。素早く腕を伸ばし、ミュゼ―ヌを襲う。地を這う影の刃。アスファルトを削りながら、影の爪がミュゼ―ヌの胴に突き刺さる。 「………っぐ」 口の端から血が零れる。口と胸元を赤く濡らしながら、彼女はマスケット銃を構えた。引き金を引く。弾丸が射出される。まっすぐ飛んだ弾丸は、しかし難なく回避される。 だが、それでいい。 否、それがいいのだ。 「は、ぁァァァァァァァ!!」 怒号と共に、振り抜かれる大剣。アスファルトごと、狂気の体を切り裂いた。飛び散る瓦礫と、飛び散る影。影で出来たコートが消えて、狂気の体が吹き飛んだ。 『……………………………………!?』 声にならない悲鳴を上げる。影を散らし、消えていく。肩から胴にかけて、大きく断裂しているのは、未明の放った一撃を受けたからか。 その一撃を当てる為に、ミュゼ―ヌは最後の弾丸を撃ったのである。誘導され、剣が直撃。回避することも防御することもできず、こうして狂気は消え去った。 「実を言えばこうして剣を振り斬る事は嫌いじゃない。もしかしたら好ましいのかもしれない。これって狂気の一端なのかしら?」 体中から血を流し、荒い呼吸を繰り返しながら、未明は誰にともなくそう言った。返事はない。その質問の答えを知っているのは、未明自身だけなのだから……。 狂気、及び、殺人ナイフ、討伐完了である。 「やれやれ、やっと事が終わったか。…後はアークの処理班に連絡をすれば一般人もどうにかなるだろう」 地面に寝転んだ比翼子を起こしながら、フィリスはそう呟いた。木の影から、重傷を負った花梨を抱きかかえたミストラルも顔を出す。 桜並木に倒れ伏す人々。砕けたアスファルト。所々に残る血痕。 そしてそれらを、眩しい朝日がぼんやりと照らしだしていた……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|