● ――閉じ込めた。 市中でたまたま見かけた彼女の瞳がとても綺麗だったのだ。其れが淡い恋情や穏やかな感情であれば良かったのだろう。そんなものよりももっと尊くもっと汚らしい感情であったのが彼女の運のつきだ。 捕まえて、一つ一つの部品を保存した。本の中に閉じ込めたのだ。写真に撮ってアルバムに貼り付ける。 腐っていく体は必要なかった。綺麗な侭が良いのだから。アーティファクトで保存しておくこともできる、と友人が笑った事を想いだして、直ぐに其の侭保存した。 自分と彼女は知り合いではない。ただ、市中で彼女が綺麗な黒い瞳を細めて笑ったのがいけないのだ。 綺麗だ、と思ってしまったのだから。 少女は、特に、未だあどけなさを残した年代の彼女たちの瞳は曇らない。鮮やかな黒色、何処か霞んだ灰色に艶やかな紅、晴れ渡る蒼だって、新緑を想わせる緑だってどれだって良い。 瞳が好きなだけでは無い。どのパーツをとってもその年代であれば良いと思えたのだ。だから、閉じ込めた。その中に閉じ込めたら彼女らは其の侭の姿をとどめてられるのだから。 ● 「世恋さんは、24歳です。関係ない話だけど」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタを見回して最初に発したのが自分の年齢だと言う所にリベリスタは首を傾げると同時に、『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)だったら仕方ないのかと頷いた。 「――と言う訳で、食中りよ。黄泉ヶ辻のフィクサード。ご趣味は少女を保存すること」 「保存、する?」 「ええ。綺麗なままで留めて置きたい――まあ良くある考えではあるんだけど、其れを実行しているフィクサードが居るわ。本名不詳。フロランタンと呼ばれている事だけは確認されているわ」 世恋が提示した資料の表紙には「黄泉ヶ辻」の文字が書かれている。閉鎖的な集団である黄泉ヶ辻は中々に相いれない部分も多い。気色悪い事件が多い派閥を世恋が食中りと称するのは仕方が無いだろう。 「フロランタンはアーティファクトを持っているわ。『少女図鑑』と名付けられたソレは分厚いグリモアールの形をしている。彼の戦闘の補佐をすると同時に、一つ効果を持っているの。……その中に写真を貼られた死者はその姿を永遠に留める事になるわ」 良いことなのかもしれないけれどね、と世恋は小さく呟いた。 白骨化する事も腐る事無い。自然に背いた行いであれど、喪わないと言うならばソレはどれ程幸せなことなのだろうか。だが、フロランタンは『死んだ少女』を想いアーティファクトを使用した訳ではないのだ。 「フロランタンは街中で少女を誘拐し、彼女を殺して写真を撮っている。好みの女の子を永遠に己の手の内に置きたいの。白骨化せず、腐らず、ただ、彼を見続ける死者」 「――で、お願い事って言うのは」 「ええ。フロランタンによる事件被害者をこれ以上増やさない様にして欲しい。『少女図鑑』を此方が奪うか破壊すれば彼だって、これ以上の事件は行えないと思う。 私からのお願いはアーティファクトの確保、又は破壊よ。其れから、応戦してくるであろう黄泉ヶ辻のフィクサードの撃退もお願いするわ」 本に閉じ込め、彼女らを何時までも見続けられる。『少女図鑑』とは何とも短絡的な名前ではないか。 それでもフロランタンは其処に幸福を見出したのだろう。自分だけの幸福を。 「『自分だけの物にしたい』――そんな感情、抱いた事はないかしら?」 其処まで紡いでから、『邪魔』も多いと思う、と予見者は紡ぐ。けれど、よろしくね、と予見者は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月09日(火)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 街の喧騒から離れた外観は普通の一軒家であった。室内の電灯がちかちか、と小さく鳴った。扉を開け放ち室内を確認した『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の赤く色付く唇が歪められた。手にしたラディカル・エンジンがぎゅんと音を立てる。 「マガネ君にマトウちゃん。いつか殺すって宣言したけど……今日もまた無理そうね」 くすくすと浮かべた狂気は上辺だけでは無い。全てに侵食する様に、緩やかに手招く死の気配に室内に居た黄泉ヶ辻のフィクサードが楽しげに笑った。 壁などが取り払われた広いフロア。その中にぽつんと存在する三人のフィクサード。 似た背格好の少年少女の姿を眼鏡越しに捉えた『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)のMuemosyune Breakが照準を合わせようと狙いを定めている。彼女にとって二度目の逢瀬になった纏と鉄という双子のフィクサードが彼女の新緑を想わせる瞳に浮かんだ感情に笑みを深くしていくのが見て取れた。 ブリーフィングで得た情報を思い出し、狐の耳を揺らした『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の色違いの瞳が細められる。黒い狐の耳。ゆらゆら揺れるソレは双子が使う特異な技の名を思い出すたびに逆立てられた。 「お前ラ、『究狐遊び』ッテ妙に起因ある名前ダヨナ。色んな意味デ」 「使って欲しいの?」「だ・い・た・ん」 くすくす笑う双子を見据えて、リュミエールの目付きが鋭くなっていく。整ったかんばせに浮かんだ嫌悪感。遊ビジャネーヨとやや曖昧な発音を淡々と呟いた彼女の目の前で一人の男が笑った。 その視線は学生服姿の木蓮やリュミエールとこのパーティの中で一番若い『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)へと注がれている。 長いみつあみに眼鏡の奥で細められる四条・理央(BNE000319)から感じる呆れの表情でさえも男の心を擽るには事足りた。無論、殺意に満ち溢れる魅零なども男――黄泉ヶ辻のフィクサード、フロランタンからすれば未だ『少女』の域で在るのだが。 男は少女を愛する。この場に現れたリベリスタの半数は彼の視線を釘付けにしていた。男の視線を受けて理央が眼鏡の奥で青い瞳を細めて見せる。 「身勝手な欲望の為だけに殺人を犯す。自分の意志でやってるなら余計に性質が悪いね」 「そう思うのがアークと言う場所であり、そう思わないのが黄泉ヶ辻――人の思想は人の数だけだ」 違うかね、と笑う瞳に『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)が示す嫌悪感はこの場の誰よりも強いものだった。百叢薙剣の切っ先は男に真っ直ぐに向けられていた。苛立ちは其の侭に、男に狙いを定めたソレ。 「大切なものをずっと自分だけのモノに、か。それは人間の素直な気持ちだろうな」 「おお、なんと! 判って頂けるかね、少年」 「ああ、それを好ましいと思う者もいるだろう。大切な人の命を喪っても、せめて躯だけは――だが、それが他者の命を、人生を犠牲にしたものでなければな」 すぅ、と細められる瞳。フロランタンが漏らす声は彼から向けられるあからさまとも言える嫌悪に対する一種の感嘆であったのかもしれない。雪佳からすればフロランタンの行いなど『幼稚な嗜虐』だった。其れが恋愛感情やその他、ある種の親愛の類からくる行為であればまだしも、一方通行なない物ねだりを幼稚でないとは称せないだろう。人は常に一方通行な想いを抱くものであるが、これはその往き過ぎた果てだ。 「えーと、黄泉ヶ辻? 黄泉ヶ辻と言うのはこんな奴等ばかりなのか?」 おぞましい、と鮮やかな金色の瞳を細めた『吹き荒ぶ砂塵』スィン・アル・アサド(BNE004367)の近くでフィアキィがふわりと舞う。その声音にフロランタンが反応する。見たことが無い様な長い耳。その外見は実年齢のそれよりも随分と幼く見える『少女』その物だ。 「君――素敵だね」 「仲間を褒めて頂きそりゃ、どうも。けど黄泉ヶ辻のフィクサードってのはヤバイな。生理的に受け付けないわ」 さらりと悪態をついた『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)が地面をけり上げる。フロランタンと彼等の前に現れた少女の瞳には生気が籠ってはいなかった。 ● 虚ろな少女の瞳は生前の明るさ等を孕まなかった。その眸に射られながら体内のギアを加速させるリュミエールが握りしめたミラージュエッジ。彼女の瞳は最初から少女を捉えてはいなかった。その視線はフロランタンを捉えたまま離さない。 「アレダ、ウン、テメェハモウ駄目ダ」 或る意味の褒め言葉を吐き出した彼女の隣、一気に剣を突き出した雪佳の一撃は男へは届かない。その往く手を遮る少女達に雪佳は小さく舌打ちを漏らす他なかった。 「仲間はお前のお眼鏡に叶ったか?」 「ああ、特にあの長耳の子が気になるね――珍しい」 男は少女を好む。神秘界隈では年齢や性別に関係なく『少女』の姿をした人間も多かった。その一例としてフュリエという異世界の種族は年齢と比べて年若い少女の姿をしたものが大半であったのだから――そんな事、実年齢なフロランタンが知る由も無い。 木蓮の弾丸が周囲全てを巻き込んでいく。少女を含め、撃ちこまれるソレ。木蓮の瞳は真っ直ぐに双子を見つめていた。彼女にとっての纏や鉄という存在がそれほどまでに影響を示したのか、其れは当人である双子でも知る所では無い。くすくす、と笑みを漏らす。嗚呼、楽しいね、と視線を交わした。 「相変わらず趣味の悪い事をしてるのか……どうも気にくわないんだ、お前らが」 「一度、会ったっけね」「うん、会ったよね」 それは誰かを呑みこんでしまいそうになるまでの噎せ返る香りの中での物語だっただろうか。団地で行われた家族ごっこ。木蓮の銃口は双子を捉えたままに離さない。 「俺様はお前らの顔を忘れたことはなかったぜ。今回も邪魔させてもらうぞ!」 「わあ、怖い怖い」 くす、と微笑む纏の横顔に魅零の赤い瞳が細められる。いつか殺すと決めた。それは木蓮と同じ、彼等の家族ごっこに鉢合わせた時だった。殺したいとそう思うけれど――嗚呼、今はその手が届かないと魅零は実感している。 「残念ね、また今度殺してあげる。それよりね、フロランタンが許せないの」 少女から掛けられる声に男がおや、と小さく笑う。彼女の暗闇が男と少女達を包み込んでいく。魅零の生み出す暗闇はまるで彼女の心の闇その物ではないか。 「私が貴方を駆逐するわ。これから貴方に殺される子が出ない様にね」 「お嬢さんに殺されるなんて何て行幸だろうね。幸せだ」 命を弄ぶ所業を罪だと思うか否か。その点ではフロランタンは正直であった。リベリスタ達が称する様に、彼は己の欲望がままにその行為を続けていた。それを魅零は肌で感じたのだ。何か言葉を以って彼を説得すること等元から不可能なのだ、と。 ちかちかと点滅し続ける電灯の下で、自身を抱きしめる様に立っていた淑子の大きな桃色の瞳が嫌悪一色に染まり出す。彼女は『女の子』だった。優しさを孕んだその眸は今は拒絶の意志しか示さない。 ――気持ち悪い、気持ち悪い……!! かたかた、と大戦斧を握りしめる指先が震える。形の良い唇を噛み締めて淑子は絞り出す様に声を出す。男の視線がふい、と彼女を捉えて、笑った。 「っ……女の子は貴方の欲求を満たす為の『もの』なんかじゃないのよ。そういうの、わたし、だいっきらいなの」 怯えの色は灯ったまま。前線に繰り出した彼女が振るう斧が少女の体を切り裂いた。物言わぬ死体の肉を切り裂いて、溢れる血にも気を止めず震える指先が少女を解放しようと懸命に傷をつけ続ける。 (気持ち悪い……! はやくっ、はやく殺さなきゃ……っ!) その嫌悪に満ちた表情に男は興奮を覚えずには居られなかった。古今東西、異常性癖と言うものは何処にでも存在しているのだろうが淑子にとってのフロランタンと言う男はそれこそ心の底から拒絶したい対象だったのだろう。 淑子の隣、何かの歌が禅次郎の頭の中でループする。あれは何の歌だっただろう。少女に見て欲しいと願う男の事を想って禅次郎は笑みを漏らす。 「おい、良く聞けよ焼き菓子野郎。好きの反対を知ってるか?」 闇よりも深い、畏怖を乗せたソレは少女やフロランタンを包み込む。楽しげに遊ぶ双子は禅次郎を真似る様に暗闇を弾きだす。痛みを捉えるソレに理央が戸惑いながら歌った。続く攻防の中、禅次郎の問いにフロランタンは何がだい、と応えながら繰り出されたゲヘナの火がスィンを包む。彼女が体内に取り込んだ魔的要素を自身の力に変えている間にも男は彼女に狙いを定めていたのだろう。 燃えるようにこのパーティの中で一番に弱い少女の体が火に炙られる。痛みを堪え、ハイ・グリモアールから魔力を取り出し、火を灯すスィンはその知識欲を持ってしても全く持ってフロランタンを理解できないと視線を落とした。 「こんな風に好き勝手に穢されるくらいなら、いっそ腐り落ちてしまった方がずっと、ずぅっと良いわ。 ねえ、あなたもそう思わない?」 応える声が無いと知っていても、続ける淑子の言葉にスィンは小さく頷き返す。スィンの貪欲なまでの知識欲を以ってカヴァー出来るのは淑子の様な普通の少女の思考だけだろう。変質者として捉えられるフロランタンの事は解らない。 「度し難いものだね」 零す言葉に、誰も応えやしなかった。彼女を狙う攻撃から理央が癒し続けていく。その体力がすり減ることと理央の癒しが与えられること。範囲攻撃を扱う敵陣の中では、近くに布陣する事は危険である他なかったが、理央の癒しは的確且つ些細な傷でさえも癒して続けていた為、戦闘の継続は容易なことであった。 少女に灯される炎。彼女等を穿つ弾丸が次第に無力化していく中でも、ひとえに狙われるスィンの傷は深い。癒し続ける理央とてその魔力が永遠に保たれ続ける訳ではないのだ。次第に起こる『ガス欠』状態は癒す事さえも間に合わない。 「……負ける訳には、ゆきません」 リミットを感じながらも癒し続ける理央の隣。災厄を打ち払う淑子が前線へと押し上げる。 前衛で楽しげに笑う双子へ向けてラディカル・エンジンを真っ直ぐに向けた魅零が声を張り上げる。その咽喉から飛び出す様な叫びに双子が身体を捻り攻撃を避ける、と同時、鉄の腹を掠めるチェーンソーが肉を抉る。 「邪魔だ、どけ!! マガネ、マトウ!!」 魅零の視線には彼等は含まれない。遊びの時間は終わりなのだから。少女達が無力化したその場所で、残るはフロランタンと黄泉ヶ辻の双子だけだった。弾丸が彼等を捉える。その瞬時、身体を捻り避ける彼等に木蓮は弾丸を鋭く浴びせる。それが纏の腿を撃ち抜いた時、少女の視線が彼女と交わった。 「今日こそ逃がさないぜ? 大人しくその首おいてけよ!」 「本気で遊んでっていってるの?」「お姉さんと――それからそっちのお兄さん?」 殺すつもりで掛からなければ勝利など掴めない。それが禅次郎の考えだ。にい、と歪められた彼の唇が好戦的な色を灯して、黒き瘴気を――己の畏怖を乗せて飛ばされた。 ● 黄泉ヶ辻を狂人と称するとしたらそれを正す事は果たしてできるのだろうか。 「おい、焼き菓子野郎。好きの反対は『無関心』だ。お前は見て欲しかったんだろ? その『少女図鑑』とやらは、死ぬ直前の状態を保存するのだろう。少女達は何を想ってお前を見ていたんだろうな。いや、果たしてお前を見ていたのか。多分、何の感情も無かったと思うぞ」 彼の言葉にフロランタンが目をむいた。彼の体を引き裂く様に痛みを与える畏怖の闇。夜の帳を落とす様に絶えず与える攻撃に、苛む様に与えられる痛みを淑子が祈る様に癒し続ける。 前線で癒し続けた理央の歌が途切れがちになる中、長引く戦闘の中に、リュミエールが傷つく足で真っ直ぐ進む。 「無関心。しかし、彼女らは声を掛けた時にこちらを――」 「私が見てやろう。敵い悪意殺意好意ンナモノは何もない。見て欲しいって欲求だけは果たしてヤルヨ」 切り裂く様に、光の飛沫があがる。フロランタンの魔力が引き裂く様に痛みを与える中で、一歩後ずさり、それででも声を張り上げるリュミエールの目の前が赤く染まる。 小さな舌打ち。大業物を振り切り裂いていく禅次郎は逃すことなくフロランタンを闇に捉えた。 「結局お前は良い歳して人形遊びをしているだけだ。つまり、誰もお前の事なんて見ていないんだよ!」 「――だがっ!」 吐き出す言葉。その言葉を魅零は紡がせない。痛みを内包したスケフィントンの娘。近接位置。赤い瞳がにたりと笑って別れを告げる。 「ねえ、人の命は人の物。其れを勝手に壊すのはいけない事。――嗚呼、理解しなくてもいいわ。どっちみち殺すし」 それじゃ、さようなら、と手を振った。 魅零はフィクサードを殺す事を決めていた。フィクサードに弄ばれた哀れな自分。嗚呼、殺戮が慰めに為る訳じゃないけれど、許せないと拳を振るう事は悪くないだろう。 雪佳が振るう切っ先がフロランタンの膚を切り裂いた。児戯にはもう付き合っては要られない。 「お前が彼女等を愛しいと思うならその想いも断ち切ってやろう」 その言葉に続き振り下ろされた剣が男の膚を裂く。彼の手から落ちていく『少女図鑑』。逃さぬ様に撃ち抜いた木蓮に続き、荒い息を吐きながらも真っ直ぐに撃ち抜いた理央が眼鏡の奥で笑った。 「これで終わりにしましょうか」 続く攻防の中で、楽しげに支援する様に攻撃を繰り返していたフィクサードの双子へと向き直った数人のリベリスタ。彼等の実力が高い事はブリーフィングで聞き及んでいた。だが、禅次郎は彼等諸共殺す意思が無ければ倒せないとそう言ったのだ。 決意と言うのはどんな局面においても大切になる。そのうちの一つが、彼らへの対応だったのだろう。彼等を殺す勢いで傷つけなければ絶対に勝てない。フロランタンに寄り過ぎた戦力がエリューションと化した少女達に手間取るキーになったのは確かではあったが、それでも黄泉ヶ辻の双子へと対応を怠らなかった事はある意味で被害の軽減に繋がっていたのだろう。 「お片づけは此方に任せてそろそろお家にお帰りなさい」 「詰まらないね」「詰まんないよ」 鉄と纏に対して零される淑子の言葉に彼女は浅い息を吐く。自分でも驚く位に怯えを浮かべていたのだと淑子は自覚した。 「……次は殺してあげるから。そういうのが望みなら、叶えてあげられるわ」 じぃ、と見詰める双子はただ、遊んでいるだけ。これこそが児戯のうちでは無いのだろうか。雪佳の切っ先は未だフロランタンへ向いている。子供騙しな遊びを禅次郎は厭う。未だ息のあるフロランタンのゲヘナの火がリベリスタ達を包み込む。 「ねえ、そういえば嫌なんだっけ」「僕らの技が」 くすくすと笑った纏と鉄が二人で繰り出す狐を模した技がリュミエールを捉える。彼女の速度はそれを避ける事には発揮されない。痛みに驚き、目を見開くリュミエールを癒す理央が名前を呼んだ。 続き、放たれる木蓮の弾丸が双子の腕を貫いて、再度合わされた照準が足を狙い撃つ。 「じゃあね、お姉さん」 腿を撃ち抜いた木蓮の弾丸に痛みを堪える様に引き摺って走る纏の背中。細めた瞳で魅零の唇が紡ぐまた今度は優しい音色を灯さない。次に会ったら殺してやる。殺意を込めた言葉はまるで深い愛情の様に突き刺さっていった。 鉄と纏が逃げる背中を木蓮が狙い撃つ。傷を負い、痛みを笑いながら消える双子の瞳が彼女を捉えて、唇や楽しげに微笑んだ。 「「また、ね?」」 浅い息の音がする。笑みを漏らすフロランタンは双子の攻撃の間に体勢を立て直し一気に攻撃を仕掛けようと淑子へと迫った。 ぞわり、と淑子の背筋に走る悪寒は嫌悪であろうか。彼女を見据える男の瞳が緩やかに微笑む。 「――ッ」 男の――少女を愛した変質的な愛情を持っていた男の唇が静かに動かされる。呪詛の様にも聞こえる愛情を吐き出したそれに大戦斧を握りしめた淑子が体勢を立て直すが、間に合わない。 「近づけさせないと言っただろう」 目の前に滑り込んだ雪佳の剣が男の胸へと突き刺さる。ついで、飛びこんだ魅零のラディカル・エンジンが肉を――その内側にある骨さえも断ち切る様に鈍い音を立ててその身を抉りこんだ。 囁かれる言葉が少女の鼓膜に静かに反響し、男の体が紅に落ちていく。 「……大丈夫だったか」 「え、ええ……だ、大丈夫」 かた、と肩が揺れる。驚きに見開いた桃色の瞳は赤い海に沈む遺体を見回した。膝元に倒れた死体を見詰めた淑子の瞳は逸らされる。 前に歩み寄り、膝をついた魅零が少女の首を抱いた。死体はアークに任せようという意見の中、ソックスが血に汚れる事も厭わずに魅零は傷だらけで何も映さない少女の死体を抱きしめた。 転がった少女図鑑に突き立てられた百叢薙剣。雪佳の紺色の瞳が伏せられる。刀身に乗せた信念が揺らぐ時が来るのだろうか。例えば、そう、誰かを喪って、その姿を留めて置きたいと思う時が――。 嗚呼、愚問だと自身を嘲笑して見せる。歩むたびにぴちゃり、と血溜まりを踏んだ。 「帰りたいよね。大丈夫、絶対に帰してあげるから」 大丈夫だよ、と静かに囁かた声音が室内に響き渡る。 プツン、切れた明りの下に全てを隠してしまえれば、と唯、静かに魅零は死体を抱きしめた。 じじ、と蛍光灯が静かに音を立てた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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