● かららと、渇いた戸の音がした。 店の外からも漂っていた起きた炭の匂いが、僅かに強さを増す。 「ども」 青年はのれんをくぐり、曖昧な挨拶のまま足を進める。 「おひさしぶり! 空いてるよ」 大将に促されるまま、奥のカウンターへ座る。 「とりあえず生と――」 メニューには目を通さない。 「――焼き盛り、ニンニク、皮サラダで」 すかさず大将が返事する。 「いつもの三点セットだね」 「うっす」 その通りだ。青年はかならずこの三品を注文している。覚えられてしまっていた。 それから季節のメニューは、これだ。 「コシアブラ入ってます?」 「あるよ」 大将はそれも注文表に書き加え、串を裏返す。 じゅわりと、脂が炭に落ちる音がした。 「最近どう? 忙しい?」 Tシャツ姿の背中をむけたまま、大将が声をかけてくる。背負われているのは『たなべ』の文字。それが店の名だ。 「やー、ぼちぼちです」 大将の言葉に青年は曖昧な笑みを浮かべる。 「でもこんな時間じゃん」 時刻は七時半過ぎ。たいした時間ではないと感じられるが―― ああ、田舎ではそんなものだったかと、青年は再び頷いた。この辺りの年寄り達は二時間も前には仕事を終えるのだ。彼のような普通のサラリーマンは少ないから。 おしぼりで指をぬぐい、生中をゴクゴクと大きく三口。一気に喉を駆け下りたビールが腹に染み渡る。 もう一度おしぼりで額と目元を拭う。これでやっと目が覚めてくる。 仕事に疲弊した背や肩の痛みを思い出すが、飲んでいればじきに消えるだろう。 胸元の重みにタバコを放る。まだ吸わない。こいつは全部終えてからだ。 それから箸を割り、お通しを口へと運んだ。 今日はにがうりとトマトか。さっぱりした苦味が舌に心地よい。 次は日本酒か、それとも焼酎か。ハイボールもいい。そういえば麦を一本キープしていた。 ああ、山形の純米にしようと青年は頬杖をついた。あれならこんな季節に、いい名前じゃないか、と。 決してお高いお店ではない。 地産地消、野菜と地鶏の素材は良いが、派手さはなかった。 流行り物だって何もない。地域に根ざして近隣の客を迎え入れる、小さなお店だ。 それでもその店には、客足を途切れさせない魅力があった。 大将の人柄、住宅地の静かな佇まい、それから――運ばれてきたねぎまを一口頬張る――優しいこの味だ。 ぎゅっと詰まった肉をかみ締めると、肉汁が口の中に溢れる。当然ながら良く焼けている。 目を閉じる。ビールを、もう一口―――― その時だった。突如ししとうが革醒し、青年と大将を惨殺してしまった。 ●ぐぅ…… おなかの音が鳴った。 「え、と」 『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)の頬が、その髪と同じ色に染まる。 「とりあえず。ししとうを、倒せと?」 「はい」 今度の仕事は簡単だ。青年が入店する一時間前に、アーク本部は店を貸しきったのだと言う。 だからリベリスタ達はとりあえずししとうを一本注文し、食べてしまえば革醒は起こらない。 「なるほど……」 万華鏡がそのように未来を観測したのである。惨劇は未然に防げるのだ。 リベリスタが頷く。 「任務はあくまで、ししとうを処分することです」 神秘を秘匿し、剣を抜かずに事件は解決出来る。戦わずして勝利するのが兵法の基礎だ。良い作戦だろう。 だがそれは、ただ勝つだけならばの話だ。 本当に守られるべきは、人々の日常であるならば―― 「たとえば、事件解決を確実に遂行する為に店を貸しきったとする」 「はい」 ここでの懸念は一つ。 単にししとうを撃破して、店を出たのであれば、本当の意味で日常を守ったことには、ならないのではないか。 つまり、その。ぶっちゃけてしまえば店の売り上げが可哀想ではないかということだ。 「はい……」 リベリスタの言葉に、エスターテはもう一枚の資料を示す。 アークのリサーチによれば、もともと顧客の出入りにはばらつきがあり、この日は七名だったと言う。 「少ないほうか?」 「少ないほうです」 だから六名の編成だということか。だがそれでは一名分ほど…… 「私も出撃します」 静謐を湛えたエメラルドの瞳を上げ、エスターテは決意の表情を固めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月11日(木)00:26 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 慣れた手付きで片引き戸を開けると、炭が起きた香りをふわりと感じる。 初めて訪れた店ではあるが、なんだか馴染み深い感じがする。 「いらっしゃい!」 大将の快活な声に促され、のれんをくぐる『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)が先導だ。 それにしても、と。後に続く『人妻スナイパー』安西 篠(BNE002807)がため息一つ。結婚して以来、すっかりこういう店に来ることもなくなってしまっていた。実家に住んでいた頃は――食事を作るのを手伝っていたから。 食べてもらうのは組の人々。組とは、その組だ。父はその組の若頭であったのだ。 ともあれ思い出話は後ほどに、まずは続々と入店だ。 「ふむふむ、これが居酒屋というものなのですね」 普段は明るい時間ばかり出歩いていた『胡蝶蘭』アフロディーテ・ファレノプシス(BNE004354)にとって、夜の街はものめずらしいもので、興味津々の様相だ。 なにせ彼女はかの『完全世界』からやってきた異邦人なのである。そのカルチャーショックたるや外国人のソレの比ではなかったであろう。だがこの世界の常識にも少しづつなれつつある昨今、その髪の鮮やかな銀色の色彩と、尖った耳を幻覚で覆うことだけは忘れなかった。 期待と不安を入り混じらせた表情のアフロディーテの横で、雅な煙管を片手に鋼・節(BNE004459)は落ち着いた物腰でカウンター席に腰掛ける。 続々と着席するリベリスタ達に見えている姿こそぴちぴちな若い娘(ょぅι゛ょ)の様であるが、これでも七十路を越える身の上なのだ。こういう場で世間様に見せる顔は歳相応の幻覚を纏わせてある。 ここ最近のこと、折角若返ったというのに勿体無い話ではあるが、それはそれ、これはこれ。 早速の一声に答えて、お通しと共に次々と運ばれてくるビールを手に取るのに、この技はちょうどいいのである。 なにはともあれ今日は一杯やりにきたのだから、飲みたいものは飲みたいのだ。これがなければ始まらない。 アークに入って良かったことの一つに、定期的な『ただ飯』を上げる者は少なくないだろう。 他ならぬ蔵守 さざみ(BNE004240)もその一人だ。 求道を旨とする蔵守の一族に生まれながらも、その家に見切りをつけて三高平にやってきたのはつい最近のこと。 いっぱしと呼ばれる程度を瞬く間に潜り抜け、最近は漸く新しい生活も軌道に乗りつつある。とはいえ未だ余裕も少ないのは事実だ。 今回の任務――ししとうの撃破などという言葉は方便のようなものであろう。つまるところ、これとてある種、福利厚生の一つなのだ。だから彼女にとって、こうした催しは素直に有り難いと思えた。 さざみは僅かに椅子を退き、カウンターに置かれたメモ帳に手を伸ばす。どうやらこの店の注文は、このメモ帳に書き込むという方式らしい。 「焼き鳥を食べるの!」 じゃなかった。ししとうをやっつけるのだった。 どこかしっとりとした空気の中で、隣の『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は頬を綻ばせずにはいられない。 ブリーフィングルームに足を踏み入れた時から、親友『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)と食べる焼き鳥のことで頭が一杯だった。 二人の少女は顔をつき合わせて微笑み合う。以心伝心。きっと同じようなことを考えていたのだろう。 ルアは親友が受けている評判と違い、別段食いしん坊という訳ではない。焼き鳥というよりは親友との食事が、食事というよりは親友と緩やかな時間を刻むことが嬉しかったのだ。 互いに多忙な身の上、余り顔を合わせる機会も少なかったから、おのずとテンションも上がろうというものである。 同じことは、やはり多忙な彼女の恋人にも言えて―― それでも、寂しくとも、彼女がめげることはない。それぞれの心は確かに通じ合っているのだから。 そんなこんなで先ずはししとうを人数分だけ書き込む。 何せこの『飲み会』本来の目的は、いまから一時間後に革醒するであろう『ししとう』を事前に食べてしまい、戦わずして撃破することなのだから。 「いらない人は、いるかな?」 与作が一応確認する。 全員が食べるようだ。直接戦闘の現場には出てこないフォーチュナであるエスターテさえも、神妙な顔で首を振る。 結果として今回は特に居なかったが、無理矢理食べさせる訳にもいかない。それは大人の配慮であり、なにより誰に本命が行っても安心して無事に完食できるだろうという作戦でもある。 それから大事な事がもう一つ。前提は革醒するのは最初の一本に含まれる一つだけという事だ。その一つを誰かが食べてしまえば実際に問題自体はないのだが、折角の機会なのだから話の種にも余興ぐらいはあったほうがいい。 つまり、ロシアンルーレットだ。 ● こうして最初の注文はししとう七本となった。 珍しい注文だが大将は何も尋ねずに焼き始める。 それから各々面々は注文の為に用意されたメモ帳に、全員分の好みを書いてゆく。 思えば揃ったメンバーも奇妙な組み合わせであろう。 おじさん一人に、年齢も絵格好もそれぞれ華やかな女性達なのである。 そういえば一昔前のこと。ししとうと言えば十個に一個程は、ひどくからいものが混じっていた。 焼き鳥の香りが漂い始める中で、ふと節は首を傾げる。最近は品種改良が進み、そういったものは少なくなった気もしていたのだが。 想う。撃破目標である革醒しようという固体は、ひょっとしたらその稀有な『当たり』なのではないかと。 革醒などしよう固体であるならば、そんな事とてさもありなん。存外そいつは元からはみ出し者だったのかも知れないのだ。 そういえば、市場モノではなく自家栽培された手合いに限って軒並み辛いといった事があるのはなぜなのか。 この店のものは、どうなのだろう―― そうこうしているうちに、全員分の飲み物が揃った。 「それじゃ、折角だから」 かんぱ~い! 人懐こい笑みを浮かべる与作の合図に従って、各々がジョッキやグラスを軽く掲げる。 ぐいっと。喉を流れるこの一杯。 「……染みるなあ、うん」 ムードメーカータイプのような彼とて、本来オンはオン、オフはオフ。きっちりと切り替えるのが出田与作一流の仕事術である。身体にアルコールを入れたといっても、一応は勤務中の身の上であることは忘れていない。 彼が今日この日に限って、勤務中に帯びている慇懃な丁寧語さえもあえて崩しているのも、ある意味で速やかな依頼解決の為とも言える。 仕事は真面目に、ともすれば神経質とも言える程の注意を払いながら完遂する主義だ。 けれどこんな場面であるならば、ほんの少々『薬味』があってもいい。 指先で玩ぶのは自家製と想われる七味唐辛子の小缶だ。 ししとうを待ちながら、お通しを一口。フルーツトマトと苦瓜と。うん、なるほど。それは爽やかな良い苦味。 さて。ビールジョッキを置き、節は小さく嘆息する。やはりビール。何は無くともまずはビールだ。この喉越しがたまらない。 そんな中でも、節は思わずにはいられない。 この『たなべ』の店主。下の名は矢張りmasahik――それ以上いけない>< 「おまちどうさま~」 程なく、良く焼けた香りと共にししとうが運ばれる。 息を呑む七人。最近は品種改良が進み、からい個体の数は減っているとも聞くが、果たして―― 「それじゃあ」 誰かが息を呑む。 「「「いただきます!」」」 七名が順番にししとうをかみ締める。 はじめは与作。ししとうの辛味はむしろ好む所ではあるが。これはセーフ。 それでもこの為に、脂の多いかしら、ぼんじり、つくね、せせりと頼んだつもりだったが、ししとうだけが先に来てしまった。女性人の、なんだかそういうノリを察知した大将が気を利かせたのだろう。 次に篠、それからさざみ―― ししとうは旬とは程遠いが、流石は田舎で食べる野菜だ。取れたてで味が濃い。 青い新鮮な香りが口いっぱいに広がって―― ここまでもセーフ。 こうしてリベリスタ達は次々に口へ運んで行き。残りはルアとエスターテになってしまった。 心臓が高鳴る。別に辛いものがあると決まった訳ではない。滅多にお目にかかれない筈だ。 「次は私の番ね……」 愛らしい顔を飾る眉をきりりと引き締めて、ルアがししとうに挑む。 ごくり。息を呑む。 だが、僅かに眉を潜めたエスターテの横で―― !!! ひぎゃー!! 一口に頬張ったししとうが火を吹いた。 声にならない。涙で明日が見えない。 辛い。辛い。辛い。 ばったーん! と、あわや椅子ごとひっくり返りそうになるルア。 「大丈夫ですか!?」 後ろから抱きかかえるように親友がそれを止める。いけない、ルアの瞳からハイライトが消えかかっている。 「ルアさん!?」 エスターテはそのままルアの肩を揺さぶり、必死に声をかけるが、これではかえって口の中のししとうが踊る。 『やめろぉ! ルアのHPはもう0だ!!』 どこかから双子の弟の声が聞こえたような…… それでも―― (うん、がんばれ……) 与作ははらはらと、食べ終えた串を握り締める。 この激闘を、死闘を、なのに応援する以外に何も出来ないではないか。 慌てて水を取るエスターテの横から現れたのはさざみだ。 自分も含め、酒飲みに当たっていたなら、それを肴にお酒を進めてもらえば良かったけれど。 彼女が手に持つのは、こんな事もあろうかと注文しておいた牛乳である。 「未成年に、特別よ」 「あいがほうらの」 これでからさも多少は和らぐ筈だ。 涙目のルアだが、すっと炎が鎮火するかのように辛さが消えて行く。 ナイスアシスト。戦闘不能は免れた。 「ごめんねぇ、辛いのあった?」 「大丈夫なの!」 眉尻を下げた大将がそっと何かを差し出す。 「わ!」 それは一杯の桃のジュース。 「ありがとうなの!」 今、リベリスタ達には小さな確信があった。 たぶん例の革醒しそうだった固体とかいうヤツは、絶対コレであったと。 理屈の上では最初の一本の選定は何だったのか。スローモーションでごらん頂きたい。ここである。決め手は串を手にした時の速度判定だったのだ。 こうして死闘は終焉を告げた。 あとは。 謂わば『打ち上げ』にお付き合い頂きたい。 ● やっと仕事も終わったのだから、これで好き勝手に注文が出来るというものだ。 続々と運ばれる料理を前に、さざみはカシスパインを飲む。甘みと酸味と共にカシスの芳醇な香りが鼻腔を擽り、その勢いのまま一つ注文を。 「親父さん、今日のお奨めは?」 「今日はねえ。山菜のテンプラがいけるならー、コシアブラが入ってるよ」 焼き鳥を聞いたつもりだったが、意外なところから来たものだ。ここは一つ、それを頼んでみる。 節はまずオーソドックスな所を。ねぎま、皮、レバーと頂いて行くつもりだ。 一本目のねぎまは。行ける。地鶏特有の歯ごたえと濃厚な旨みが広がり――なるほどこの大将、なかなかやるようだ。鶏特有の臭みも感じさせず、脂身がねぎの爽やかさと相まって、これは美味い。 「エスターテちゃん!」 ルアはエスターテと焼き盛りをシェアする。こちらもねぎまが最初の一本だ。 促されるまま、ルアは鶏肉を一口。串を手渡そうとしてふと気づく。 「ねぎまを順番に食べていくと、一人がねぎばっかりになるよね……」 「ルアさん、え。と」 避難がましい視線を向けるでもなく、エスターテは串をねぎと、その次の鶏肉を頬張った。 「ねぎとお肉をセットで食べればいいのね!」 なるほど! 与作もいよいよ焼けた肉に取り掛かる。パッパと。 「俺は七味を少しかけるのが好きなんだよね」 豊かな風味が、程よいアクセントになっている。 そしてかしら、ぼんじりと、多目の脂に合うのは、やっぱりビールだ。 次は少しさっぱりと軟骨。けれどやっぱり皮も。恐らく大将おすすめであろうお任せの『焼き盛り』も注文だ。被ってもそれはそれ。長芋焼きに皮サラダ。それから。 「日本酒を一合徳利で」 燗はつけず銘柄はお任せだ。 「こういうのが入ってますよ!」 この店が構えられている山梨の地酒。春の純米吟醸だ。 己と洒落た桃色の瓶に向けられた女性陣の好奇の視線がどことなく気恥ずかしいが、ともかくそれを頂こう。 さてグルメと噂の親友だが、普段は菓子パンを細々と食べているのをルアは知っている。 ついつい、あれもこれも食べてほしくなってしまうのだ。 「えっとね、つくねおいしいよ!」 肉団子みたいなヤツだ。 「そう、黄身をつけるのよ」 「はい……」 頬が少し綻んだのを見逃さない。 「ね? 美味しいでしょ?」 うんうん! 親友が美味しそうに食べている姿を見ると、ついつい嬉しくなってしまうのだが。 そんな風に喜んでいる姿を見るのだって嬉しいということは、お互いに知っている事でもあった。 「美味しいわね」 出来たものからマイペースに手、箸、口を動かすさざみであったが、思い出されるのは家を飛び出してからしばらくのことだった。 あの頃は、それはもう大変なものだった。奇しくも運ばれてきたのは、今度はカシス林檎に、先ほど注文したコシアブラ。山菜の女王。旬の食材だ。これにお塩をつけて頂く。パリパリと、中もやわらかく上品で、見目も美しい。 「ええ、美味しいわ――」 こうして月日、品を選び、こうやって調理すればこんなにも美味しいものになるのだ。それはこんなにも幸せなのだと感じる。 なにせ、あの頃の彼女は野草すら食べなければ生きていけなかったのだから。 次は鮭おにぎり、漬物、サラダに軟骨揚げ。日常の風景。平穏な夜。世間の人は、ありきたりな食べ物だと言うかもしれない。けれどその御馳走に彼女は感謝を込めて。何一つとして残すつもりは無かった。 ● 食が進めば酒も進む。 今日は金曜。時刻もそろそろ第二ラウンドである。 こんな時は紫蘇焼酎の水割りだ。そろそろ串以外にも手を出してみたい。 並ぶのは丸々一個を油で揚げたニンニク焼き(なぜ焼きなのか)にポテチー。それにワカサギだ。 どれもこれも美味い。そして湧き出る老婆心ならぬ悪戯心。 「エスターテは納豆食えるのかえ?」 「え、と」 イカ納豆をねばねばさせながら尋ねてみる。 食べたことは無かった。独特な香りに気おされたエスターテは息を止め、そのままパクリ。 味のほうは、意外といけるようだ。そんな様子に節が笑う。眼前の小娘、素質があるのだろうか。 驚きに丸くなったエスターテの瞳、その視線はそのまま空になった節の食器に注がれる。 「なんとなく燃費が悪くてのう」 どこかばつが悪そうに、そして煙は未成年にあびせぬよう、節は慎重に煙管を嗜む。 思えば革醒してからだろうか。沢山食べなければ腹が減って仕方が無い。 とはいえ、いくら食べてもプロポーション(ドラム缶)は変わらないのだけれど―― 与作は長芋焼きを箸で摘む。 なるほど。この店は摩り下ろしを焼いてあるのか。予想外のふわふわな食感も悪くない。 後は冷酒に良く合う鶏刺しと、冷奴も頂きたい。ちびちび飲もう。 長い夜に、取り留めない話でもしながら、さ。 こうしていると篠は過去を思い出す。こっそり家を抜け出して、そんな時は大抵夜も遅くて、こういう居酒屋のような店には良く来たものだ。懐かしい。 (箱入り娘だったアタシが、良くまあやってたわ) 瞳を閉じる。恋人だった。父にばれた時はどうなることかと思ったものだったが、その時は母と組の者達が味方になってくれて―― グラスを一口。冷酒が喉を駆け下り。 (でも、彼には中々言い出せなかったわね――) ――私、ヤクザの娘なんです、などとは。 それでも月日は流れ、結婚を意識するようになれば、いつまでも隠しきれるものでもない。 そこはやはり物事には道理、親の家業のような言葉を使えば筋というものがあるのか、話を切り出したのは彼女からだった。 その時、彼はずいぶん戸惑っていた。当然である。普通の人には怖がられる世界なのだから。 僅かに熱を帯びた目元を彩るのは、僅かな自嘲か。 『考える時間が欲しい』 そう言われた。音沙汰のないまま一週間待ち続けた。こうなる覚悟はしていた。 ただただ、やっぱりダメなんだなと思った。 そんな時に彼から再び連絡があったのだ。 腹をくくった、と。 父の前に通された時こそ、さすがに震えてはいたが、それでも彼は言ってくれたのだ。 『お嬢さんを僕にください!』 「アタシにほれた所、つらつらといい続けて」 聞いてる彼女が恥ずかしくなってしまうほど、熱烈に。熱心に。真摯に。 最初は不機嫌だった父親g「全然違うの!」「……はい」 ノリノリの語りに容赦なくかぶせてくる少女達。 「ふ、ふるっぱって……!」 ふるふるしてる葉っぱ。山菜か何かだと思っていたのに。 どきどきしながらルア達が頼み、出てきたものはまるでローストチキンのような。 親友と笑い合う、楽しくて、あっと言う間の時間―― 「ねぇ、聞いてんの!?」 姐さん、じゃなくて、えっと篠ねえさん。 そろそろ程ほどに…… 「もっとしっかり反応しろや? あ?」 宴もたけなわ。締めはお茶漬けがいいだろうか。 デザートはなさそうである。と思いきや、大将が新鮮なイチゴを用意してくれた。 それも全部すっきりと食べ終えて―― 「親父さん!」 御馳走様!!! 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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