●この世に存在しない村 千葉県千葉市塩田町。川沿いに存在するとある高等学校には『八不思議』なるものが伝わっている。 主に深夜独りでに鳴るピアノであるとか、階段の段数が増えるだとか、旧校舎に出る幽霊だとかで、乱暴に言えばごく一般的な怪談話である。特徴があるとすればやはり、近年になって加わった『存在しない教室』と呼ばれる八つ目の怪談話だろうか。 この学校には存在しない教室があり、迷い込んだ生徒は死体となり永久に授業を受け続けるという荒唐無稽なお話である。欧米に蔓延るゾンビブームに触発された新手の怪談話であると、誰もがまず一笑に付すが……しかし。 なぜかこの学校の職員たちは、「その話は絶対にするな」「そんなことは起こっていない」と強く感情的に生徒たちを叱るのだった。その取り乱しぶりといったらなく、保護者団から圧力をうけ辞職するという教師が立て続けに現われる程で、生徒たちの間ではトレンドとしてひそやかに語られていた。 彼らはまだ知らない。 存在しない教室など、本来あるべき恐怖のほんのひとひらに過ぎない。 この土地にあったのは……。 『存在しない村』だった。 ●アサーバイド『幽実野(かすみの)村第七自治区』の顕現。 この依頼を、フォーチュナはまず『出現したアザーバイドの返還』と説明した。 つまり、この別チャンネルから現われた異世界の存在を、ある手段によって送り返すことが、この依頼の目的となる。 しかし次に述べた文言に、リベリスタたちは目を見張ることになる。 「『幽実野村第七自治区』一個体……それが、今回出現するアザーバイドです」 村、である。 説明によると。それは人型コミュニティを一個体とする意識空間型アザーバイドであり、とある高校の資料室を起点にして連鎖的に世界へ出現、拡大を始めるものだという。 もし拡大を許せば、付近数キロの民間人をアザーバイドに明け渡すことになってしまう。 幸い、未だ目立った被害は出ていないが……それも時間の問題だろう。 このアザーバイド『幽実野村』が存在している限り、一帯でコミュニティを形成する人間等は幽実野村の支配下に置かれることになる。 今回の場合、外見的特徴変化として黒色の涙を流し、全身の皮膚を薄まだらに変色させるというものがあるが、活動能力自体は一般人のそれをややタフに変えただけのものである。 「乱暴に、かつ安易に説明するならば、一時的にゾンビ映画のような有様が展開されると考えてよいでしょう」 ゾンビ映画のようなもの。 そう聞いて、あなたがリベリスタなら安心するかもしれない。 だってそうだろう。いつものように得意のスキル攻撃で薙ぎ払ってやればよいのだ。スペックも一般人と変わらないなら、いっそ空を飛んで好き勝手に爆撃してやってもいい。 ……と、考えた矢先のこと。 「しかし、この意識空間内ではリベリスタのスキル及び身体能力は機能しません」 フォーチュナは眼鏡を中指でおさえ、当たり前のことのように言った。 「『ただの人間』同然の力で、ゾンビの闊歩する学校から脱出して下さい」 アザーバイド『幽実野村』へのアクセスは、怪談話の舞台にもなっている存在しない教室に入ることで承認される仕組みになっているのだ。 主観的に見れば、裏の世界に入るようなものだと思っていい。 一応、時刻は夜を狙って行なう。 次に、校内をバラバラに見回っている宿直担当と警備員(合計二名)をかいくぐり、校舎外へと脱出。 更に多くの住民がうろちょろする住宅地を二キロほど抜け、小さな神社へと向かう。 神社に設置された祠を破壊(それほど手間ではない)し、この作戦はクリアだ。 その間、様々な障害が発生することになるだろうが……なんとか生き抜いてほしい。 仮に何人かが犠牲になったとしても、最後の一人でも祠を破壊することができたならば、メンバーを生きたまま(最悪でも重傷状態として)こちらの世界に呼び戻すことが可能である。 「アザーバイド『幽実野村』の拡大を、なんとしても止めて下さい」 たとえ、最後の一人になったとしても。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月15日(月)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●幽実浜高校 「今更なことだと思うが、幽実野(かすみの)なんていう地名は今も昔も日本に存在していない。なのにこの類似性は何なんだ?」 教室内。黒板の前。 『フリーのジャーナリスト』リスキー・ブラウン(BNE000746)は懐から煙草を取り出し軽く口にくわえ……次にライターが無いことに気づいて世にも苦々しい顔をした。 世の全てがそうだとは言わないが、モノカキという生き物にとって煙草の煙を吸っている瞬間が最も仕事の能率がいい瞬間なのだ。灰皿を山のようにするのは当然のこと、面倒くさがって水張りバケツに放り込んだ灰柄があふれ出るのは、モノカキ家業にとっては日常的な光景と言ってもいい。 ことリスキーのように低俗なネタを扱う雑誌(一昔前はこれをカストリ雑誌と呼んだ)記者となれば、吸い込むニコチンの量も増えようというものだった。 扉に耳を当て、周囲の気配を探っていた『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が顔を上げる。 「それは、キサも気になってたわ。『こちらと結びつける祠』なんてものがある以上、少なからず関連性があるはずなんだけど……検索してたら『生実野(おゆみの)』って土地が近くにあるみたいだけど?」 「生と幽か、偶然にしてはいやらしい……」 棒きれを握って捻る『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)。 掃除用具入れから手に入れたモップの柄を、使いやすいように引っこ抜く。 「で、同志安西は?」 「移動中に見つかって喰われた。『下書きはしたのに』とか意味の分からないことを言いながらログアウトしたぞ」 「早いな……」 ゴッドスピード、『まごころ宅急便』安西 郷(BNE002360)。プレイングの都合ということで一つご理解頂きたい。 窓の外を眺める『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)。 奇妙な紫色に淀んだ曇り空。 どこまでも紫の薄雲が広がっている。きっと地平線まで続いているだろう。 移動中にも町並みをチラ見していたが、どうやら『自分たちの世界』と建物の位置関係は酷似しているらしい。 とはいえ、身体能力が制限されているので、大きいものや高い塀、もしくは鍵のついたドアを通り抜け出来ないという制限はかかる。道を間違わずに済みそうだというのは、まあ安心した。 「宿直のゾンビに見つかったから、そろそろ警備員もこっちに来る頃だお」 あっちに感知能力がある以上、遅かれ早かれこの状況には陥っていた。焦ることではない。 コツン、と足音がした。 酷く反響していて距離感が分かりづらいが、こちらに近づいているのは確かなようだ。 そっと扉から距離を離す『中二病になりたがる』ヴィオレット トリシェ(BNE004353)。 「……いきなり来たらどうしますの?」 「や、大丈夫じゃないすかね。多分、一回は『引っかかる』筈なんで」 呟く八潮・蓮司(BNE004302)。 途端、ガラリと扉が開く……音がした。 この教室ではない。隣の教室だった。 「両側の扉、ちょっと開けておいたんっす」 こちらの位置が正確に分からないなら、まず近いところから開けるものだ。そして扉を開くだけでなく、机の下や掃除用具入れの中も調べなければならない。 つまり、確実に隙が出来るのだ。 「ナイス機転だ蓮司!」 「どーもっす!」 警備員が教室へ完全に入ったのを確認して全員一斉にダッシュ。 靴を脱いで足音を消す算段もあったが、ゆっくりと『抜き足差し足』してる時間はない。というか感知能力でばれる。 距離が遠ざかったことに気づいた警備員が教室を飛び出してくる。 「次はそちらの教室、はいそこです階段の前!」 『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)がシルクハットを押さえながら教室内へ滑り込む。 最後の一人である蓮司がスライディングした直後に扉を閉めるが、警備員もすぐに追いついて扉を引っ張った。 普通こういうときは内側から誰かが押さえていたりつっかえ棒がされたりするものだが、あっさりとそして勢いよく扉が開かれる。 警備員がつんのめって教室内に踏み込んだその時。 「今です!」 楽が足に組み付き相手を引き倒す。そこへ、モップの柄やら椅子やらで『一回ずつ』殴って逃走。 不安の残る攻撃方法だが、最低五回の連続攻撃である。ゾンビと言えどもすぐさま起き上がるというわけにはいかない。 「皆さん!」 仮面を指でおさえる楽。 現段階で警備員だけしかいないということは、郷を最初に発見した宿直係が『手を離せない何か』をしているということ。 この状況で優先されることといったら……。 「このまま急いで校舎から出て下さい! 知らせをうけたゾンビたちが集まっている筈です!」 幽実野村の人口がいかほどかは分からないが、宿直係がうった知らせとやらは随分広く伝達していたようだ。 学校の正面玄関には軽く数えても三十人以上のゾンビが集まり、閉じられた校門を我先にと乗り越えていた。 きしむ音をたて、玄関の扉が内側から開かれる。 「……ハッハッハ、これはこれは」 校門前まで出てみて、楽は片手で顔を覆った。 「子供たちを笑顔にするのが私の仕事……ええ、ええ、そうですとも……」 撫でるように下がった手から、微笑み混じりの口元が露わになる。 後ろ手に扉を閉め、脱いだ靴下でもってドアノブを縛って固定。 もう一本の靴下へ大量にチョークや小銭を詰め込むと、ブンと振って見せた。 そう。 正面玄関から出てきたのは彼一人。 残りのメンバーはみな、裏口から逃げ出したのだ。 頭を深く垂れる楽。 片手に粉砕したチョークの粉を握りしめ、胸の前に交差して見せる。 「さあ、お立ち会い。種も仕掛けも理由もない、エンジョイ鈴木のイリュージョンショー!」 包丁やらバットやら、凶悪な武器を手に襲い来るゾンビたちを前に、粉をまき散らして叫ぶ。 「ショータイムでございます!」 幽実浜高校、脱出。 残り、6名。 ●幽実野村住宅街 目的の祠を目指すには、川沿いの空き地をいくつか渡って歩くのが安全だ。 「棒っぽいもの持っておいて正解だったお……」 平たいチリトリを器用に使って、ガッツリは茂みを静かにかき分け、身を屈めつつ進んでいく。 大きい三角定規とかそういうのが欲しかったが、あいにく高校には縁遠いアイテムである。 「と、ちょっと待つお。誰かいるお……」 小声で呟き、手を翳すガッツリ。 後続のベルカと蓮司もぴたりと足を止めた。 今更なことだが、彼女たちは最低限の小声で会話をしていた。必要な合図は手のひらの動きだけでシグナルを出していた。こういうものをブロックサインと言う。 ネコ科の動物よろしく茂みの間から様子をうかがうガッツリ。 「五人……いや、七人。徐々に増えてるっぽいお」 「まずいわね。ノロノロ移動してたら囲まれるわよ」 「とはいえ体を出せば即座に見つかりますわ。それに警官が混じってますわ。銃を撃たれたらおしまいに……」 「誤射を狙うのもアリだけど、その前に全員撃たれて終わるわね」 考え込む綺沙羅とヴィオレット。 「ほう、囮の出番か」 「まーまー」 なぜか興奮気味に服をはだけさせるベルカだったが、彼女の眼前で蓮司が手を振って止めた。 「ここは俺がどーにかするんで、いっせーのせでアッチに走る感じで、どっすか?」 「『どーにか』とは大雑把な……」 リスキーはもう少し考えろと言いかけて、やめた。 蓮司がドライな顔をして地面の小石を拾い始めたのだ。その目に、ちょっとした男を見た。 「OKっすね。じゃ、いっせー……のっ!」 『の』の部分で小石を派手に放り投げる。 ゾンビたちが音のする方向に気づき、小石であることに気づき、すぐさま蓮司の位置を特定して振り向いた。囮作戦失敗か!? 蓮司は石を投げたのとは逆の方向へ全力疾走。警官のゾンビが逃がすまいと銃を発砲。蓮司は肩に一発くらうも、気合いでそのままダッシュを続ける。 「一発目から実弾とか、この世界の警察どんだけ!?」 ソンビたちがその手は食うかとばかりに駆け出……したが、その直後に『蓮司とは逆方向』に走り出すガッツリたち。それを見てゾンビの一人がハッとした。 「いやー、男の子はつらいわー。こんなに釣れちゃってもー……ぐっ!?」 背中から腹にかけて弾丸が貫通。 体勢がガクンと崩れ、地面を転がる。 彼を取り押さえようと掴みかかってくる警官ゾンビに、蓮司は最後の力を振り絞って組み付いた。 それも腕。銃を持っている腕を、自らの腹に押しつける形である。 「ほんっと、つらいわー」 三発の銃声が鳴り響く。 民家の間をすり抜けるように走る綺沙羅とヴィオレット。 途中で衣服やら髪の毛やらをその辺に落としたり民家に投げ入れたりということをやってみたが、どうやら振り切れている様子はない。 元々薄着のヴィオレットである。下着寸前の段になって、それに気づき、歯噛みした。 「無駄に衣服を脱いだだけになりましたわ」 「いや、俺はそういうのアリだと思うわ。状況が状況じゃなかったら一枚撮ってんだどなぁ」 構図でも確かめるように両手の二本指で四角形を作り、ヴィオレットを眺めるリスキー。 「薄着の美女とゾンビの群れ。いいねぇ、吊り橋効果ありそうじゃないの」 「ハァ?」 何を言ってるんだこのアホはという顔で振り返るヴィオレット。 彼女のこういう顔は非常にレアである。 が、その後すぐに別の驚きを露わにするようになる。 民家の間を抜けてすぐ、待ち構えていたかの如くゾンビの集団に遭遇。 広がって囲い込もうとする彼らに対し、リスキーは一直線に突っ込んでいったのだ。 モップの柄を水平に構え、三人ほどのゾンビを突き飛ばす。 「俺はフリーのジャーナリスト。ここは任せて先に行け! なぁに、全部倒してしまっても釜湾のだろうが!?」 「知ってますわそれ、死亡フラグ!」 などと言っている場合では無い。リスキーの肩にマイナスドライバーが突き刺さり、顔を強制的に歪めさせる。 「……任せたお!」 ヴィオレットたちの腕を掴んでかけ出すガッツリ。 一部のゾンビが彼女たちを追いかけて走り出すが、その後ろ髪をひっつかんでリスキーは笑った。 引きつるような笑みと共に、口の端から血を吐き漏らす。背中には数本の包丁が突き刺さったままになっていた。 「まあ待て、これガマンすればおにーさんにモテ期が到来すんだよ。三十路男を助けると思ってさぁ……ちょっと付き合えやあああああああ!」 ゾンビを殴り倒し、振り向きつつ別のゾンビへラリアット。 近隣の民家から飛び出してきたゾンビが、徐々に群がっていく。 むらがって、大きくなっていく。 幽実野住宅街、突破。 残り、4名。 ●賽の祠 リスキーがゾンビの群れを引き受けてくれたとはいえ、近隣住民すべてを引きつけるのは難しい。 祠まであと少しという所で、ゾンビの群れに遭遇。 ガッツリたちは歯を食いしばり、土と雑草にまみれた坂を駆け上ることになったのだった。 「もう、もう無理だお……死ぬお……」 大量の汗を流しつつ、フラフラと走るガッツリ。 足首が誰かに掴まれ、びたんと前のめりに転倒した。 「ううっ……こんなことなら、こんなことなら、もっと運動しとけばよかったおぉ!」 寝返りをうち、ゾンビの顔をけりつける。 一緒に手首も蹴りつけて離脱。じたじたと後じさりしつつ立ち上がり、再び走り出した。 だが体力が限界だった。走ろうにも足はもつれ、頭がぐらぐらとする。喉が渇いて、なんだか口の中から血の味がした。 「ギ、ギブ……」 掴まれるでもなく、もつれた足で転び、土にあごをつけるガッツリ。 顔を上げる。 すると。 「囮役の出番だなっ!」 上着を派手に脱ぎ捨てたベルカが土煙をあげながら突っ込んできた。 「ypaaaaaaaaaaaa!!」 ガッツリの頭上を飛び越え、槍のように構えたモップの柄を後方のゾンビに叩き付ける。 ゾンビの一人ともつれ合いながら坂を転がり落ちていくベルカ。 「なんといってもゾンビ映画の見所は、ハラワタ引きずり出しシーンだ! せいぜい派手に散らせてもらうぞ!」 後続のゾンビたちを巻き込んで斜面を滑ると、振り返ること無く叫んだ。 「祠はすぐそこだ。走れ!」 直後、ベルカの腹に枝切りバサミが突っ込まれた。 ひっつかんでくるゾンビを涙目になりながら振り払うガッツリ。 その数メートル先では、綺沙羅とヴィオレットがゾンビともみ合っていた。 彼女たちの目にはしっかりと見えている。 一般的なそれとはやや異なり、二枚の瓦を屋根とした塔のような細長い物体である。 そう、破壊目標の祠とはこれのことだったのだ。 よく見ればそれは平たい石を積み上げただけのものである。なるほど破壊がたやすいのもうなずける。 「宣言した以上……必ず約束は果たす!」 掴まれている服を脱ぎ捨て、祠へと飛びかかる綺沙羅。 「唸れ私の右足!」 同じく最後の服を脱ぎ捨てて飛びかかるヴィオレット。 二人の蹴りが祠へ炸裂し、ぐにゃりと歪むように、石積みの祠は崩れたのだった。 ●幽実野村とは何か 「ん……んん……」 ヴィオレットと綺沙羅は目を覚ましてすぐに仰天した。 無理からぬ。二人はかなりの薄着だったし(ヴィオレットに至ってはほぼ下着姿だったし)、目覚めて最初に感じたのが『土の冷たさ』だったし。 なにより。 「祠が……」 彼女たちの目の前には、崩れた石積みの祠が鎮座していたからだった。 破壊に失敗したのかと思った。 だが空を見上げてみれば、晴天と白い雲がある。 夜に侵入したのにいつのまにか昼になっているというのも嫌な話だが、目覚めた場所が例の教室ではなく祠の前というのも嫌な予感をさせた。 周囲をよく見てみれば、樹木や雑草に囲まれたごく狭い土地のようだった。 とりあえずAFに収納して置いた服を着込み、茂みから外に出てみる。 「…………」 思った通りに、それは彼女たちが駆け込んだ祠の周辺だった。 相違点があるとすれば、人が多く通った跡があったのに対し、こちらは完全に人から忘れられている、もしくは社会から隔絶されているということだ。 綺沙羅とヴィオレットの他には、いない。ガッツリはかなり近くに居た筈だが……。 そう思っていると電話が鳴った。手ぶら通話の状態ででてみる。 『おっおー、ガッツリだおー! 生きてるおー! ラッキーだったおー! ゴッドスピードで死んだ郷ちんもここにいるお。でもなんかキサとトトリが見当たらないんだけど、どこにいるお?』 「「…………」」 顔を見合わせる綺沙羅とヴィオレット。 そんな彼女たちのすぐそばを、二人組の男が通り過ぎた。 会話が漏れ聞こえてくる。 「なんだお前その怪我、誰かに顔面蹴られたのか?」 「いや、女の子の足掴んだら蹴られた……っていう夢を見たんだが」 「うそつけっ、実際足形つきまくってんぞ!」 「いや違うって、俺昨日は仕事から帰って即寝たんだって! 朝起きたら怪我してたんだってば!」 「ふーん。で、その女ってどんなコ? 可愛かった?」 「あんま覚えてないけど……語尾にいちいち『だお』とかつけてたかな」 「なんだそれ」 自分の胸に手を当てるヴィオレット。 小さく息を吐く綺沙羅。 「ねえ」 『なんだお?』 目を瞑り、綺沙羅は言った。 「ゾンビ、ひとりも殺さなくてよかったわね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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