●楽団の残党 「マカライネン様が倒れ、カントリーオ様もアークに討たれましたか」 三高平を遠くに見ながら、一人の老人が呟いた。刀傷激しく返り血で身を染めたその姿だが、その足取りはしっかりとしている。 「極東の空白と呼ばれたこの地に、二度も使徒を跳ね除けたリベリスタ組織。救いの箱舟の名は伊達ではないということですか」 死霊術士とリベリスタの戦いは、リベリスタに軍配があがった。指揮者が倒れ、もはや組織としての『楽団』は形をなしてはいない。多くの団員はアークに討ち取られ、リベリスタから逃げ延びたとしてもフィクサードなどに暗殺された者もいる。 第一バイオリンのバレット・”パフォーマー”・バレンティーノと歌姫のシアー・“シンガー”・シカリーの行方は知れない。だが彼等がおとなしく投降するわけもなく、そして逃走するとは思えなかった。片方はおどけながら、もう片方は祈りながら。この地で音楽を奏でるのだろう。 死体を囮にして逃げれば、追撃を逃れることができるだろう。お金を引き下ろすことができれば、国外脱出も不可能ではない。 だがそれは老人の選択肢にはなかった。 「私も追加公演といきましょう。場所はそうですね……あそこがいいでしょう」 傷だらけの体にムチを打って、老人は歩き出す。 彼の名前は、マリオ・ジュリアーニ。 生と死を奏でる死霊術士。 ●アーク 「『楽団』の残党が見つかった」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「場所は高知県の廃村」 「何のために……と聞くのは野暮だよな」 『楽団』の最たる特徴は死体さえあれば再起が可能なところである。兵隊の原価が安いということもあるが、兵隊を現地調達できるということは隠密生も高いため、ゲリラ活動にはうってつけなのだ。 「『楽団』はその地に眠る霊魂を操る」 高知県が土佐国と呼ばれていたころ、流刑地として多くの罪人がこの地に送られてきた。地位の高いものから暴力的な犯罪者まで。 「リベリスタやフィクサードの霊魂を蘇らせて、従わせている」 史実に残らなかったとはいえ、当時も革醒者と呼ばれる存在はいたのだろう。英雄と呼ばれる者の一部は、もしかしたら力あるリベリスタだったのかもしれない。 「大先輩というべきなのかね」 「『楽団』の操る死体の数は三高平に攻めてきたときに比べれば少ない。だけどその分操っている霊魂一つ一つは強力。『楽団』のコントロールで連携も取ってくる」 「面倒だな」 ため息をつくリベリスタ。数で攻めてくる『楽団』の戦術とは真逆。個人の戦闘力の高さで構成されている。そして何より、ここで倒されれば死者の参列に加わることになるのだ。油断はできない。 「だけど数が少ない今がチャンス。これを逃せば強力な霊魂を集められてしまう」 それには違いない。時間を与えれば死者の数は増えてくる。せっかく見つけた『楽団』だ。見逃すという選択肢はない。 リベリスタたちは頷きあい、ブリーフィングルームを出た。 ●英霊ヴィヴァーチェ 「歴史に埋もれた豪傑や英雄。なるほど、この国は先祖を敬い死者を神格化する国でしたな。その礼節が死霊術の効果を増すことになるとは、皮肉な話です。 さぁ、奏でましょう。英霊ヴィヴァーチェ(生き生きと)」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月13日(土)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 戦場に近づくに連れ、ビオラの音がはっきり聞こえてくる。その音を聞きながらリベリスタたちは歩を進める。 「メーワクな追加公演だこと。誰もアンコールなんて期待しちゃいないわよ」 『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は刀身に呪術的な紋様が隙間なく彫り込まれた短刀を手のひらで回転させながら、演奏の中心にいる老人に語りかける。その瞳にははっきりとした拒絶の色があった。 「マリオ・ジュリアーニ。もう二度と、あんな悲劇は起こさせない」 『霊刀東雲』を抜刀し、『ルミナスエッジ』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が老人の名を呼ぶ。かの老人によって引き起こされた惨劇。死霊術士による大量の殺人。その悲劇をここで止めるという決意を刃に乗せた。 「いい加減、このマリオのじいさんとの戦いにも決着を付けないとな」 『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)が眠そうな瞳で老人を見る。見た目に反してその戦意は高く、その立ち様に隙はない。その視線はビオラを奏でる老人と、その周りにいる霊に向けられていた。 「二宮さん……」 その霊たちの一体を見て『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は表情が揺れ動いた。自分を助けてくれたリベリスタ。その結果彼女は『楽団』に使役されることになったのだ。知らず、剣を持つ手に力がこもる。 「死霊術士……!」 リンシードが見ている霊と生前係わりがあった『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が怒りの声を上げる。知り合いが道具のように利用される。そのことが許せなかった。 「僕は楽団が嫌いだ」 真っ白に輝く篭手を手にはめながら『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が前に出た。彼もまたリンシードや風斗が見ている霊と係わりがあった。思うことは多い。だけど戦場に立つ以上、拳を握ってその思いを握りつぶす。 「今は西暦2013年。皇紀で表すなら2673年って事になるな、諸先輩方」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)はタバコに火をつけながら、英霊達に語りかける。この地に眠っていた霊魂たち。死霊術に使役されていなければ、敬意を持って接したいところだ。ため息と共に紫煙を吐き出した。 「腐臭のする美辞麗句と空々しい音楽を吐き出す楽器を叩き壊してくれる」 二対の白い腕輪をはめながら『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)が死霊術士に殺気を載せた視線を向ける。死霊術士に使役されている英霊達の位置を確認しながら、冷静に戦略を頭の中で組み立てる。 「マカライネン様が倒れ、カントリーオ様もアークに討たれました」 死霊術士マリオ・ジュリアーニはビオラを奏でながらリベリスタたちに語りかける。 「こちらに油断があったとは思いません。あなた達の力が『楽団』を上回った結果です。 その生命の合唱と死者の演奏。この地に響かせましょう」 ビオラの奏でと共に霊魂たちが動き始める。 リベリスタもそれに応じるように破界器を構え、足を踏み出した。 ● 「どうも、お久しぶりです……あの時は貴方の演奏にお世話になりました」 リンシードがスカートの裾をつかみ、ジュリアーニに一礼する。そのまま剣を持ってふわりと跳躍し、剣を鏡のようにして光を反射して英霊とジュリアーニの興味を引くように動く。光の中で踊るように、少女は舞う。 「貴方は死に近ければ、より生が輝く……それをずっと見続けたいということでしょうか」 「生も死も同じなのですよ、バンビーナ(少女)。死霊術士としてそれを見たく、奏者としてそれを奏でたい」 「貴方は止まる事ができないのでしょうか……ならば尚更、斬らなければいけませんね」 剣を構えてリンシードは足を止める。光により英霊達の視線はリンシードに向いている。そこに、 「マリオ。貴方は逃がしません」 セラフィーナが宙を舞い、刀を振るう。背中の羽で羽ばたきながら、横薙ぎに刀を振るう。低温の霧がリンシードに意識を向けた英霊の何人かを包み込み、冷気と刃がその身を刻む。脳裏に浮かぶは死霊術士に滅ぼされた村。もはや戻らぬ平和な日常。 「殺人の代償は絶対に払って貰います!」 「生も死も死霊術の前では同じ事。殺しても彼らはここに在(いきてい)るのです」 「だから代価は存在しない、とでも言うつもりか」 セラフィーナの剣閃と交差するように翔太が剣を振るう。冷気を帯びた二重の剣戟。四月の空気が冷気により昇華し、きらきらと細かい細氷が舞い散る。命と温度を奪う高速の剣舞。翔太の視線は英霊の一人に向けられた。 「二宮か……あの時助けることが出来なかったけども」 アンタが庇ったから仲間が助かった。その結果が死霊術による使役なら、翔太は死霊術士を認めるつもりはない。 リンシードがひきつけ、セラフィーナと翔太が氷により英霊達の動きを封じる。連携が瓦解した隙を突いてリベリスタはジュリアーニに向かう。 「いい加減、じーさんとのお付き合いも終わらせねーとな」 雅はジュリアーニのほうに視線を向けながら、カードを取り出す。『符』が書かれている カードに念をこめ、英霊の一人に投擲した。袈裟を着たその英霊は防御の為に印を結ぶ。拮抗する二人の力。 「よお、あんた、信仰を貫いて死んだんだってな?」 『……』 死霊術により操られる英霊は、わずかに反応するが言葉を返すことはない。雅は気にせず言葉を続けた。 「相手が何だろうが自分を貫ける奴は好きだぜ」 雅はカードに力をこめる。英霊の防壁を突破し、符は霊を拘束する檻となる。回復とパワーダウンを行う彼の動きを縛れば、リベリスタの殲滅速度は増す。 「まずは、ご挨拶といこう」 烏が『二四式・改』を構える。明治時代に作られた銃を最新技術で一新した銃の引き金を矢次に引く。慣性利用方式で排莢と次弾装填が自動で行われ、絶え間ない弾幕が死霊達に叩き込まれる。乱打に見えて烏は狙いを外すことはない。 「千年近くも前の御仁が相手とはね。全く世の中、判らんもんだな」 ため息と共にタバコの煙を吐き出し、烏は数奇な出会いに笑っていた。彼等に罪はない。だが世界の為には彼等を封じなければならない。 「死者は墓の中に。死者には死者の場所がある」 伊吹は白い腕輪をはずし、効率よく斜線を得るために前に出る。囮をかってでたリンシードに過度な戦力が集中しないように注意を払いながら、ビオラを奏でる老人に向かって腕輪を投げつけた。空を切って腕輪は老人の頭部を穿つ。 「マリオ・ジュリアーニ。お前は死者の無念を利用しているに過ぎない」 「否定はできません。利害関係の一致、と言い分けさせてもらいましょう」 伊吹の言葉をジュリアーニは否定しなかった。 「彼等には彼等の場所がある。お前もその場所に送ってやる」 「生も死も等しく尊いという考え方はわかる。でもそれは生も死もその人のものだからだ」 悠里がリンシードが生んだ隙を突いてジュリアーニに迫る。手のひらに稲妻を携え、決意と共に拳を握った。ジュリアーニの死生論は、確かに理解できなくはない。だからといって『楽団』の所業を許すつもりは毛頭ない。 「だからこそ他人がそれを左右しちゃいけないんだ。お前のこれはそれを穢しているだけだ!」 かつて、悠里はある人の想い人を葬った。その人はアークに想い人を葬られた過去を受け入れながら、身を挺してアークの仲間を庇い命を落した。その死を選んだのは、彼女だ。 「それを、それを弄ぶな!」 「そうだ! 思いを己が力で縛り手駒とする今の貴様に、思いを語る資格は無い!」 風斗は赤く輝く剣を手に、大きく息を吸いそして吐き出す。相手の怒りを消すことなく、その激情を制御する。破壊の力を叩きつけるのではなく、破壊の力を制御する。デュランダルのパワーが風斗の心身を強化する。 「死なせない! 失わせない! そのための『力』なんだ!」 それはナイトメアダウンで家族を失い、我武者羅に力を求めた風斗の得た答え。暴威に絶望せず、目覚めた能力に溺れず、ただまっすぐに。それに応じるように剣は赤く輝き、死霊を繰る楽士に一撃を叩き込む。 「まっすぐで迷いない一撃。悪くありません。カントリーオ様が負けたというのも頷けます。 その生命の音を、奏でましょう!」 霊魂の弾丸がジュリアーニの真正面に立つ悠里と風斗に纏わりつき、その動きを封じる。英霊達も氷像を砕き、リベリスタたちに襲い掛かる。 生も死も、等しくこの場に存在していた。 ● 英霊の持つ日本刀と軍刀、そして拳の攻撃。それを避け、受け止め、逸らしながらリンシードは剣を振るう。攻撃を一手に引き受けているため傷は多く、服には赤い染みが広がっている。運命を燃やし、自らに活を入れた。大丈夫、まだ動ける。少女は自らの意思で戦場に留まった。 「加速……します、よ」 一瞬の隙を突いて、リンシードがギアを上げる。残像を生むほどのその動きに、まともに追いきれる英霊は少ない。 「俺が相手してやる」 翔太がその英霊の一人の前に立ち塞がる。徒手空拳の英霊は長髪に応じるように拳を握った。翔太はその英霊に向かい高速で迫り、流れるように剣を振るう。わずかに腰を落したと思えば刃は逆袈裟に振るわれており、それを認知した瞬間に自らに突き出される切っ先。反応する時間さえ与えぬ高速の武技。 「現代にも戦える奴らが居るってことを教えてやるからよ」 その言葉に笑みを浮かべる英霊。修羅道に堕ちたフィクサードの霊は笑みを浮かべていた。 「死霊術士。貴様の演奏もここまでだ!」 風斗はジュリアーニに全力で剣を叩き込む。自らの筋肉を極限まで引き絞り、矢を放つように剣を振り下ろす。それはペース配分を無視した攻撃。蛇口を全力で開放し、タンクの水を流す短距離的な戦い方。だがそれはジュリアーニを倒せば英霊達のコントロールがなくなる故に、この局面では有効な手段だ。 「貴様に殺された者の無念、その身で味わえ!」 「死霊術ってのも惜しいもんだがなぁ」 烏はジュリアーニの頭蓋に標準を定める。その術を戦闘ではなく、死者の声を聞いて当時の情報や技術を伝えるために使えば、過去の復元も可能だっただろう。もったいない話だ。 「半端な好奇心で死者の声を聞けば、文字通り『死に魅入られ』ますよ」 「なるほど。そいつは勘弁したいところだな」 ジュリアーニの返答に烏は引き金を引く。英霊とリベリスタの間を縫うように弾丸は飛び、ジュリアーニを吹き飛ばした。死者の復活さえ妨げる必殺の弾丸は、そのままジュリアーニを地に伏す。 「やったか!?」 「そう見てもいいだろう。英霊達の統率が失われた」 今まで統率が取れていた霊たちの動きが、千々に乱れてくる。元々暴れたいために死霊術に応じていたものはそのまま闘争を続けるが、そうでない英霊はその動きが止まっていた。死霊術の命令の残滓だろうか、戦いの構えは解かずにリベリスタたちと相対する。 「英霊よ。無念は察するが、その思いは今生きる者達に託してもらえないだろうか」 伊吹は軍服を着ている英霊に語りかける。 「死してなお戦うのが本望ならば相手になってやろう。だが南方、お前はどうなのだ。 見守ることこそそなたらの為すべき仕事であろう」 伊吹の言葉に諭されるように、軍刀が鞘に収められる。そのまま薄れていく英霊。その潔さに伊吹は黙礼する。本来なら自分も若い者に託す側だった。 『かっ! 軟弱な野郎だぜ。おい、相手になるといったな!』 「ああ、殲滅してくれよう」 海賊の英霊が伊吹に迫る。振り下ろされる日本刀を片側の腕輪で受け止め、交差するように拳を叩き込んだ。同時に雅のナイフが印を切り、海賊の英霊に不吉を告げる。 「立信。あんたがどういう経緯で死んで、どういう理由で蘇ったかなんて詳しく知りようがねえがよ」 呪を放ちながら、雅は袈裟を着た英霊に話しかけていた。己の信仰を貫いて死んだ僧侶。時の権力者による宗教弾圧に反して、民衆に救いと安らぎを与えた歴史に埋もれた革醒者。 「今あんたのやらされてる事は、あんたの想いに反しちゃいねえのか」 雅は僧侶の目を見て語りかける。自分を貫き命を落したリベリスタに。 「正しいならそれでいい。相手になるさ! 違うんなら、退いてくれねえか。 こんな所で、あんたの信念を汚す必要もねえだろ!」 雅の言葉には英霊を信念を守りたいという思いがこもっていた。その言葉に我を取り戻すように英霊は手を下ろし、祈るように手を合わせる。 ありがとう。 その唇が確かにそう動いた。そのまま霧が晴れるようにその姿が消えていく。 「日向さん。貴方を操っていた死霊術師は、死体を増やすためなら村一つを滅ぼす悪党でした」 セラフィーナは刀を納め、烏帽子をかぶった英霊に語りかけていた。操られていたことは理解しているのか、その英霊は静かに話を聞いている。 「私達は人々を、この国を、世界を守りたい。貴方もきっと、思いは同じはずです」 『……だが世は魑魅魍魎が跋扈し、そして世界はわたしの時代よりも滅びに向かっているように見える。汝の言う悪党の言葉通りに』 英霊は自分の時代に比べ、崩界に近づいている世界を憂いていた。死霊術士はその事実を告げ、未練を想起させたのだろう。 『守るといったな、異国の同士。その言葉、嘘偽りないと誓えるか?』 「任せてください。守りきってみせます。私達、アークが!」 間髪いれずにセラフィーナは答える。それは自分自身と、そして共に歩んできた仲間を信じているから。その言葉を信用した英霊は、印を切って自らを無に帰す。 「手を出さないで欲しい」 悠里は元覇界闘士の霊の前に一人立つ。思うところは沢山あった。 (仲間を助けてくれた感謝。彼女の想い人を奪った申し訳なさ。……謝ることなんて出来ない) 氷の拳同士で打ち合いながら、悠里は歩を進める。生前かかわりのあった人物。摺り足で間合をつめる無欠の歩法。気がつけば悠里は自分の間合に相手を捕らえ、相手の反応があれば間合をはずす。精神を削るほど集中しなければならないが、歩法の効果は絶大だ。 滅ぼさなければならない。死者は墓の中に。世界を正しくするのがリベリスタの使命だ。それはこの英霊だってわかってるだろう。だから謝らない。手を抜かない。だけど、 「君の抱えている気持ちを聞かせて欲しい」 恨み言でもいい。未来に果たせなかったことでもいい。それを覚えておきたい。悠里は手甲で英霊の腕をそらす。流れるように拳を霊の胸に当てた。これで、最後だ。 『無事を知れたのなら、十分です』 霊――二宮和美の視線は水色の髪をした少女に注がれていた。自らが庇ったリベリスタ。彼女の無事が、和美の未練。悠里の拳を受け入れるように、覇界闘士の英霊は腕をおろした。 「和美ちゃん、リベリスタって辛いね……。 それでも僕はこの足を止めないよ。きっと誰かの幸せを守れるって信じてるから」 言葉と共に足を踏み込む。地面を踏む力が拳に伝達し、衝撃が英霊を震わせた。安らかな笑顔を浮かべ、二宮和美は消えていく。 「さて、残るは……」 「あなた達……です、ね」 『ガキどもが。大先輩の力、見せてやるぜ!』 三体まで数を減らした英霊達は、それでも戦意を収めようとはしなかった。残った英霊達は『暴れたい』という未練で蘇ったものたち。説得は通じないとリベリスタたちは判断し、各々の破界器を向ける。 刃が交わり、殺気がぶつかり合う―― ● 「とっとと逝っちまいな!」 「これで終わりだ」 『……ここまでか、畜生!』 最後の英霊が雅に動きを封じられ、伊吹の腕輪を受けて消え去る。掃討にはそれほど時間はかからなかった。初めから彼等は説得はできないと判断し、ダメージを与えていた結果である。 「リンシードを護ってくれてありがとう。お前のことは忘れない……」 「救って頂いた命……無駄にはしません。必ず、貴方の分まで、生きてみせます……!」 「さよなら。……僕は歩いていけるから」 風斗とリンシードと悠里が和美の消えた場所を見ながら言う。答えは返ってこない。それは未練なくあの世に行ったからだろうか。 「見事な、生命の……演奏でした」 「ジュリアーニ! ……まだ生きてたのね」 「私が憎いのでしょう? 今なら、仇を討てますよ」 セラフィーナは瀕死の死霊術士を前に、刀に手が伸びる。抜刀して振り下ろせば、命を奪える。心臓が一つ、鼓動を伝えた。 刀は――抜かれなかった。 「弱者を守るのが、リベリスタです。今のあなたを斬るのは、リベリスタの行為じゃない」 「なるほど。その決意こそが『楽団』の手を焼いたしぶとさの正体ですか」 合点がいった、とばかりに死霊術士は瞳を閉じる。そのまま二度と目覚めることはなかった。 「眠るべき死者を操る戦いも、これ以降は起こらないことを願うよ」 「先輩方の安らかな眠りを願って」 翔太がビオラを老人の横に置き、烏が英霊達が消えた場所に石を置く。 それが彼等の墓標となった。 死霊術士とリベリスタの演奏。その幕が下りる。 英霊はもう蘇らず、ビオラはもう響かない―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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