●マジでか 「おはようございます、赤嶺先生」 「あら、兵藤ちゃんお久しぶり……でもないわね。先日高等部は卒業したばかりじゃないの。なんでまた?」 「ええ、それがちょっと、夜倉先生に言伝がありまして」 四月某日。 三高平学園では一律に新学期が始まって間も無く、進学・進級問わず空気が浮つく季節である。 この時期は部活やサークル活動の立ち上げ申請や承認作業が極めて多く、生徒会・及び一部の顧問候補の教師などはその多くが拘束時間を大幅に増すこととなるわけだが……そんな時期に高等部職員室に現れたのは、誰あろう『Rainy Dawn』兵藤 宮実(nBNE000255)だった。 この春、大学部に進学した彼女の前で女性のような所作をしているのは現代語担当・赤嶺。れっきとした男性で、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)とは特に懇意であるとも、言われている。 尤も。 夜倉が危なっかしいのを赤嶺がカバーしているだけで、特にそれ以上の何かがあるわけではないのだろうが。 「あらン、もしかして兵藤ちゃんも『アレ』かしら……?」 「……『アレ』?」 「見なさいな、あの様子」 ホラ、と赤嶺が指を向けた先は……おお、おお、何たることか! 死んだ魚の眼で教員机に頭をつけた夜倉と、大量の書類の束が! しかもそれらはすべて『部活動顧問申請書』『部活動承認届』などの部活関係ではないか! しかし見よ、それらには高等部ばかりか中等部、果ては初等部のクラブ活動の申請書すらもある! これは一帯如何なる光景か? 「どうしたんですか、夜倉先生?」 「アレよ、アレ。『夜倉狩り』だったかしら? 月ヶ瀬先生、去年のバレンタイン以来、色々と校内外問わず大変らしいじゃない? まさか部活動に、と言い出す学生は居ないとタカを括っていたらしいけれど……流石に甘かったかしらね? 『やぐらせんせいかんさつクラブ』だったかしら。初等部からも申請が来て、しかも彼、馬鹿正直に丁寧っていうか慇懃じゃない? 拒否理由、いちいちテンプレにしてないらしいのよ。多分寝てないんじゃないかしら。三日ほど」 「……………………へえ」 「あら、どうしたの?」 宮実は、硬直した。 言えない。 これが大学部で出来たばかりの友人たちから放り投げられた大学部最初のミッション、『夜倉狩り部の顧問申請』だったなどと。 それと、数日後に迫った彼の誕生日のための盛大な『夜倉狩り』の事前リサーチであったなどと……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月17日(水)22:56 |
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■メイン参加者 28人■ | |||||
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●やぐらいぢり 『4月8日。たぶん晴れ。 今日は夜倉ちゃんの誕生日。 でもでも相変わらず夜倉ちゃんは皆に狩られて大変そうです。 それでも夜倉ちゃんが楽しそうなのはお姉ちゃんの気のせいでしょうか?』 ――ルナ・グランツの日記より一部抜粋。 欺瞞にもほどがある。 『夜倉狩りに参加します 私の分のお仕事は任せました 書類は私に回さないでください』 「あンの不良教師ィ……!」 夜倉の全身から吹き出す憎悪にも似た黒いオーラは、職員室の教師全員の視線を惹きつけてしかるべきものだった。 というか、この男が口汚い言葉を吐き出す機会が殆どと言っていいほどない。曲がりなりにも学園内なら、なおのこと。 『さーやってまいりました夜倉狩りの季節。実況はわたくしそらせんことソラ・ヴァイスハイトがやらせてもらうわよーホンットウニツライワータイヘンダワー』 「欺瞞じゃねえか?!」 「……月ヶ瀬先生、静粛に」 「あ、はいすみません」 そんな感じで。既に校内には謎の雰囲気が流れ、授業中ですら背後に気をつけなければならなさそうな雰囲気に満ちていた。 というかお前らもうちょっと教師を敬えよ、と誰も言わない。リベリスタにとって夜倉はフォーチュナであり、ことに厄介な話ばかり持ち込むからだ。虫とか。 『まずは夜倉狩り開始にあたって、舞姫さん、どうぞー。勝手にやっちゃってー』 『夜倉狩りが三高平市民の皆様に広く愛されてきたことを、嬉しく思います』 「愛されてねえよ!? ファンハンティングとかやめろよもう!?」 「月ヶ瀬先生、その」 『紳士淑女のスポーツである夜倉狩りのさらなる発展を祈念し、ここに、「三高平猟友会」の発足を宣言致します!』 「ふざけんなコラー!?」 「月ヶ瀬ェ!」 「アッハイ、猟友会の活躍で夜倉狩りの安全性は万全でごあんしんです」 さすがに教頭もキレました。 「大学入学おめでとう。俺は四回生の新田快。大学生活で困ったことがあったら何でも聞いてくれ。よろしくね。それから夜倉先生のリサーチお疲れ様」 快、面倒見の良さは生来のものだった。早々にクミを見かけた彼は手を差し伸べ、白い歯が光りかねない笑顔を彼女へと向ける。そんなニヒルな表情を見たことがないクミは戸惑うばかりだ。 「あ……はい、有難うございます、快さん、その」 「やあクミ、やぐらせんせーどこかで見なかった? ついでにこんど遊びに行かない?」 「いえ、その……私は男性と遊びに行くといろいろと面倒なので……」 あと夏栖斗は呼吸するようにナンパするのやめろよ。いいつけるぞ。 「AF通信はONにしたか、夜倉狩りする心は整ったか! よろしい、ならば狩りを始めようではないか!」 「お、おー……?(AF通信は卑怯じゃないか、とは言っちゃダメかなぁ……)」 ある意味首謀者である翔太は、クミ同様エスカレーター組だ。 快とは別アプローチでの音頭取りに走った彼は、普段のやる気の無さが嘘のように滾っている。普段からこれならどんだけいいものか。 「よっす兵藤、久しぶり! ようこそ三高平学園へ、ようこそARKへ!これから宜しくなっ!」 「あ……ツァイン、さん。お久しぶりです……その、その節は有難うございました……」 「まったく夜倉先生は人気者であるな」 「……人気?」 鬱憤晴らしの間違いではないか、とは言うまい。 そもそもクミと夜倉の関係は浅くはないとはいえ、熟練の(夜倉狩りに特化した)リベリスタ達よりは付き合いが浅いのだ。聞いてはいけない。聞いたらなんかまずい気がする。 ツァイン、翔太、優希の三名は本当に三高平を守りたいのか夜倉狩りたいのか分からない連中になってるのは言ってはいけないだろう。いわない。 「いきなりで申し訳ないですが、初めまして兵藤さん。自分は天風亘と申します」 「あ、えっとその、そこまで丁寧じゃなくても」 周囲の気配に気圧されつつあったクミに追い打ちをかけるように、夜倉狩り初心者の亘が声をかけてくる。初めて同士でよろしくやろう(要約)ということらしい。要約がひどい? 気にしてはいけない。 「ふっ、同志兵藤よ。高校卒業、そして大学への進学おめでとう!」 「……あ、はい」 クミはここでどもった。よもや目の前の豊満(誇張表現なし)が大学生だとは思ってなかったのだ。どっかの軍人さんコスの社会人とばかり。 「三高平大学、文学部史学科2年生のベルカである」 「よ、よろしくお願いします、ベルカ先輩」 あ、ベルカの口元からよだれが。 そんなに先輩呼ばわりが嬉しかったのだろうか。 ところで、この数はいつ見ても圧倒的じゃないだろうか戦力差。 ●競技種目:スポーツハンティング 「ハンティングとか心躍りますよね……!」 生物の本能のままに生きたいリンシードとしては、狩猟本能のままに自分の速度を開放していた。 おい舞姫! こういうの判定的にどうなんだよ! 戦闘スキルじゃないけどアブナイすぎるだろうが! 「別に問題ないと思います」 マジか。 「ひゃっほー♪ ヤグラせんせー! 巻いてるホータイくださーいっ♪」 「それは既に狩りじゃないですよエフェメラ君……ただの異世界交流の域です」 まあいいか。いいよな平和的で。そんなエフェメラの正面突破に夜倉も思わず頬が緩む。見えないけど。 「ヤグラせんせーしつもーん! どうやってご飯食べてるのー?」 「家にいる時は包帯してませんし、包帯は神秘といいますから」 「しつもんそのにー! 目のところどうなってるのー?」 「こうなってるでしょう? ほら、適当に重ね巻きですよ」 「しつもんそのさん! ヤグラせんせーってハゲなの?」 「断じて違います」 「こたえてくれてありがとうっ! ホータイくださいっ♪」 さすがに、ここまでストレートに要求されて渡さない謂れはない。取り敢えず端を切って渡しました。 「櫓か? ……何故? 今そんな物を?」 校庭に櫓を立てる、と言い切った竜一に、さすがの火車も唐突すぎて鼻白む。 何で今櫓なのか、むしろ何に使うのか。 ごくごく一般的なキャンパスライフ(語弊あり)を送っている彼にはビタイチ関係無いイベントについてわかろうはずもない。 取り敢えず言われたとおりに動くことが最善らしい。 「おらっ火車働け!」 「働けってオメェ……」 「お前が焚き火の準備してなくて怒ったから、今日はちゃんと準備してきてやったんだぞ!」 「コレ焚火の準備かよマジか壮大だな」 偉そうにふんぞり返ってるイメージしか無いこの会話であるが、しかし竜一はど真面目にやっているらしいので勘弁してあげて下さい。ちゃんと彼も作業してるんです。ええきっと。 「完成しなきゃ、夜倉を招き入れれないだろ! おらっ!俺が呼んでくるまでにきっちり完成させとけよ!」 全然逆でしたわ。 「なに? 誕生日だと?」 最初の集合にやや遅れつつも連携に加わったなずなは、その話を聞いて即座に目が光った。具体的には狩人の目というやつだ。 常々燃やす燃やす言ってるだけあって、こういう時は気合十分である。今度こそとかコワイわもう。 「月ヶ瀬先生~!お誕生日おめでと~~!」 「何ですかそのケーキ不自然にクリームたっぷりだし何か明らかにスプレーっぽい匂いするしもうなんですかそれ!?」 「ケーキ、食べて下……さぁぁーーーいッ!!」 「分かってても苛立ちますね畜生ァ!」 遠くから聞こえるツァインの声に常とは全く違うトーンで反応する夜倉は、どうやらかなり襲撃を受けていると見えた。気合はいってる。 全力で投擲されたであろうパイケーキ(明らかにコント用だ)を前後開脚姿勢(某パンキ回避動作である)で回避した……その、先には。 「来たか、優しく灰にブゥゥッ!?」 「ああ、なずなが犠牲に!?」 「なずなは犠牲になったんだ。それよりかこめ、スキだらけだぞ!」 「お前ら……!」 ホント仲いいなこいつら。 あ、夜倉はなんか一遍捕まったけどワンダー包帯の秘密(なんだその深夜アニメ)を翔太にバラし、いやない。 「ソードミラージュからは逃げられないっ……!」 「卑、怯、ですよぉぉぉォ!」 リンシードの言葉は割と真実である。というか、革醒者同士のポテンシャルからすれば天地の差なのだから全力でやられたら逃げられるわけがない。 それを織り込み済みで圧倒的な速度差を維持し、且つ夜倉を適度に追い詰め見逃しを決め込む彼女の狩猟本能はどこからきているのだろう。 全力疾走する横あいからタックル気味に突き出された手に、夜倉の胴が弾き飛ばされる。速度が乗ったタイミングは実際、息が詰まる。 「とりあえず、包帯引っ張ってみてもいいですか……?」 「やめて下さい、今日は特にタイトなバランスなので引っ張られたら解けます」 あれ? それってさり気なくヤバ目な事実じゃね? 「仕方がありません、リリースしましょう……」 遠巻きに見ていた舞姫が満足気に頷くのを、夜倉はどす黒い感情を込めた目で見た。助かったような、全然助かってないような。なんだこれ。 「……うん、きっと夜倉ちゃんも狩られる事が嬉しいんだよね」 「気のせいです」 「気のせい? それこそ気のせいじゃないのかな。たぶん」 この81歳児はマジでブレません。純粋です。ありがとうございました。 「Mr.月ヶ瀬、こちらへ」 「うわっ!? ……さ、サー・セッツァーとでも呼べばいいんでしたっけ? まあいいです。何でまたこのタイミングで助けに来たんですか」 「そういう役割も必要かと思ってね」 「うわー凄い良い人だ……」 「夜倉さん、大人しく狩られて下さい……!」 「わ、亘さん速すぎます、月ヶ瀬先生、待っ……!」 そんな背後から亘とクミが来たわけだけど、おい亘お前少しスピード加減してやれ。あとクミは飛ぶな。 ●臨時放送込み・逃げ場なし 『ツライワネー、現状の夜倉の位置を逐一伝えるなんてホントニツライワー、因みに高等部東棟三階あたりをうろついてるって情報があったけどどうかしらね? 確か保健室から一番遠い筈だけど』 「そうですね、全然近くないですが西棟よりは構造が単純なんですよ……!」 放送で逐一とか本当に勘弁して欲しいもんである。というか、休み時間になるたびに逃げ回る夜倉のスタミナは何かブーストでもかかってるのだろうか。スタミナ系ドリンクハーフ(欺瞞はなかった)でも飲んでいるのか。 一方、その東棟の一角。 「アリステアから渡して? 前回ちょっと酷い悪戯をしちゃったから……」 「これを夜倉さんに?」 ショーゼット姉妹が居た。因みに、シュスタイナの前科はなんて言うかそれは酷いものだった。笑顔でやるからなおさら怖かった(夜倉感) で、そんな彼女が押し付けたものは小さい箱。どうやら食べ物であるらしいが、アリステアは取り敢えず深く効かないことにした。 「はぁ……ってシュスタイナく……ああ、アリステア君も一緒ですか」 シュスタイナにびくりと身を竦めたが、傍らのアリステアに気づけば思わず頬も緩むというもの。見えないけど(二度目)。 「こんにちは。お誕生日おめでとうございます」 「それ、私たちで一緒に作ったんです。頑張ったんですよ?」 アリステアに小包を渡され、直後に彼女の口元を抑えるシュスタイナ。何か含むところが在るような気はするが、しかし夜倉はそんなことを気にするタマでもない。素直に受け取り、包みに指を伸ばす。 「……開けても構わないので?」 素直に頷かれたので開けることにする。巧妙に隠されているが、たしかこれは某メーカーの外箱ではなかったか。いや、彼女たちの手作りということなので深く問うまい。 もしかしたら中身が手作り、いえそんなことはありませんでした。どう見ても(かなり巧妙に偽装されてるけど)市販品です、本当にありがとうございました。 「いやぁ、お二人とも若いのに上手ですね。今年のバレンタインはさぞ喜ばれたのでは?」 わずかに頷いて箱を閉じる。疲れた時に食べるとしよう。 「……どういうつもり?」 「……少し気になる方だから、恥ずかしくて」 え、なに双子だからそこも似たの? 「何故夜倉さん……あぁ、学校では『せんせい』だったね。なぜ夜倉せんせいは狩られるんだろう」 ボトムへの興味がつきぬあまり編入を果たしていたヘンリエッタは、夜倉狩りの風習にわずかながらの戸惑いを見せていた。 わからなくはない。というか、そんなものに興味を持たないで下さい頼みますから。 とはいえ、好奇心はおさえきれない。リベリスタ達の行動を後ろから観察しつつ、巧妙に立ち回っていたりもする。 「どうして夜倉せんせいを狩るのかな?」 「学園やアーク本部に出没し、唐突に夜倉さんを追い掛け回す夜倉狩り。それが俺たちだ」 「……そうですね、快君は包帯の下、見なくても良くなりましたものね」 逃走中の夜倉に横合いからクラッカーを鳴らし、倒れこんだ夜倉を覗きこむヘンリエッタに明朗に答える快は輝いていた。 この大学キャンパスの夜倉狩りのラスボスめいた男が、一番やることがおとなしいのはどうなんだろう。 大学部こわい。 「夜倉せんせー誕生日おめっとー……っブゥー!?」 「……あれ、天乃君……ドロップキック、って、え?」 正面から突っ込んできた夏栖斗が、殆ど予備動作なしの天乃のドロップキックに吹き飛ばされる。 余りに唐突なエントリーに、夏栖斗も夜倉もほぼリアクションを返せないままの一撃。業前にも程がある。 というか、対『夜倉狩り』の最終兵器めいて夜倉狩りを狩る彼女の行動は常に(非戦の範囲で)全力だが、ドロップキックはその、大丈夫だったのだろうかと不安になる。なんせはいて 「大丈夫……今日、は、履いてる」 「……そういう問題じゃありません。慎みを持って下さい」 「いい、けど……なんで、スパッツなんて、持って?」 「状況判断です」 ●昼飯くらい食わせろ 「どーした、随分と思いつめた顔して?」 「いえ、その……顧問の申請とか走り疲れとかで、その……大学ってハードだなと……」 そんなこんなで、学食。スペシャルランチを食べに来た非学生のクロトは、殆どへたっていたクミの存在に首を傾げた。 部活申請ってそんなに疲れるか? と思ったら、事情が事情らしい。 「なんだ夜倉さん学校の先生だったんだ。なんなら、俺が代わりにサイン貰ってくるからその申請書貸しな?」 「え、あの、でも今は」 「いいって事よ、困った時はお互い様って俺の恩人も言ってたし……夜倉さーん、仕事終わったらビール奢るからサインちょーだーいっ☆」 「え、居たんですか……?!」 「昼くらい静かに食べさせてくださいよ! それとお断りです!」 空中で切って捨てた。 まおは考えました。 月ヶ瀬先生が忙しくて休んでないなら、まおが捕まえてる間に休んでもらえばいいと。 「……ということなのです」 「はは、そりゃ嬉しい限りです……あ゛っ」 「大丈夫ですか?」 「だ、だだだ、だいじょう……ぶ、デスヨ……?」 職員室に戻り、臥せっていた夜倉のそばに降ってきたのは、肩たたき券を片手に現れたまおであった。 がっしりと彼の肩を掴んだ彼女は、『捕まえている』体をつくりつつ彼を癒そうと試みたのだ。それ自体は喜ばれるべき判断だ。だが。 力加減が、その。つ 「――――!?!?!!!」 ……つよい。 「今年の本はどんなのがいいですかねえ? もちろん夏用ですよ」 「抽選通ったんですか」 「あ、なんかクールビズでちょっと包帯すけすけプレイ的なのとかどうですかね」 「包帯はあんまり透けないと思いますけどなんです、その割と簡単に破れるスクール水着みたいなドリーム素材」 「それかついに半袖解禁!? わたしとしては包帯の中身は気になるけど外して欲しくないのでそこはがっちりガードでお願いしますね」 「すいません、そろそろ首から上は」 「だめ!」 なんだ、この会話。壱也はほんとうにもう。 ●学園編・結 「はぁい、いらっしゃーい」 「……雲雀君、でしたか。授業は?」 「ちゃんと受けてますよー。疲れますから先生は捕まえませんけど」 「はぁ、なら……チッ」 去年のバレンタインでもこんな展開があった気がする。 何故か屋上に招き寄せられたのだ。理由? 一つしかあるまい。 「絶対止めに来てくれると思ってたよー☆」 「畜生壱也テメッコラー! やめろっつってんコラー!」 「かかったな、絶対に夜倉が来ると思ってたんだ!」 「……うわ」 もしかしなくても、夜倉はイディオット(ばか)なのではないだろうか、と皆思い始めていた。 だってこう、この、四面楚歌。 「…………」 「あはは、頑張って先生。おやすみー」 「包帯は剥いだら代わりを巻きましょうね!」 「くっそ、舞姫ェ!」 ……斯くして。 何度狩られてもバレすらしなかった夜倉の素顔は、何か部活申請の(一部)承認と一緒に白日にさらされることとなった、とか何とか。どうなのそれ。 「たまには違う色の包帯とかしねぇの? いやカラー包帯なんていうファンキーな代物あるのかどうかわかんないけどさ」 「探してきてるじゃないですか夏栖斗君それ」 一方、そんなことがあった後(巻き直しました)。 「夜倉のために誕生日プレゼントを用意しました、それはここから見える景色」 「……校庭のド真ん中に何を作ってるんですか」 「火を放てー!」 「オラオラー燃えろ燃えろー!」 「あぶなっ、これ猟友会的にアリなんですか?!」 櫓に誘い込まれた夜倉(面倒)を確認してから、火車が竜一の指示通り火を放つ。 ああ、しかし見よ! 竜一の頭部に燃えカスが落ちているではないか! インガオホー、彼の頭皮はまたしてもダメージを被るのか! ……いや、まったくもうね。 ●市街地戦線異常ばっかり 市街地に逃れた放課後とて、夜倉狩りの脅威は尽きない。 何しろ、三高平はリベリスタの街。そして夜倉狩りに勤しむリベリスタは少なくない。 よって、心やすまるヒマというのがあんまりないのだ。 「危なかったですね」 「……糾華君? 何ですかいきなり。いえ、確かに一呼吸置きたかったですが、その」 そんな夜倉は、糾華に無人テナントに引きこまれていました。こう書くとなんか理想的な展開なんだけど彼女の雰囲気がその冗談を許しそうにない。 普段からいい子ライクな彼女にあんまり不信感を抱かないのは、やはり常々の行動とそのキャラクター性なのだろうか。 「なんて……私が協力者だと思えるほどお人好しじゃないですよね?」 「ハハハ、読めてたけど敢えて引っかかりに行くのも楽じゃないですね……」 夜倉狩り、休まる場なし。 「ござぁー……ござぁー……夜倉狩りでござぁー」 「虎鐵君、何でそんなに興奮してるんですか。いいことあったんですか?」 「虎は! たとえどんな狩りだろうが!! 容赦はしないでござる!!!」 「フォーチュナ相手だからちょっとは加減がほしいなあって、だ、ダメですか……!」 「ダメでござる! あと拙者も夜倉の包帯の内側の顔がみたいでござぁ……」 「そっちが本音かよ!」 虎鐵、やるときはやる(隠語)男なだけに、彼の全力は正直なところ、夜倉にはきつい。 あと、彼の家族の兼ね合いもあるのであんまり強硬策にもでられない。悲しい話である。 「大丈夫でござる。一瞬ですませるでござるから大丈夫でござる! 乱暴はしないでござるよ。なにせ拙者は紳士的でござるからな!」 「別に、学園の皆さんに見せたから中身は吝かではないですが……そのカラー包帯」 「仕掛けがありますよ」、と警告するまもなく引っ張った虎鐵は、静電気でバチっとなりました。夜倉もいたかったです(こなみ 「こんばんは、夜倉……先……生……?」 「よく気付きましたね。念のためにと包帯外してたのに」 その後、某スーパー。偶然居合わせたのはシエルである……が、前にもあったなこんなこと。 「今日は葱が特売らしいですよ?」 「まあ、まだ鍋やっても問題ないですかね……」 「包帯も…隣のドラッグストアで閉店前の特売中のようです」 「チャンスですねえ。でもウチも在庫クソ多いですからね……どうしたものか」 ほのぼのとした雰囲気に飲まれそうになりつつも、夕暮れの街は割と夜倉狩りをやりきった感があるのだった。 「どうもお疲れ様です。誕生日のお祝いに一杯如何ですか? ……というか、年上だったんですか月ヶ瀬さん」 「そうですよ、義衛郎君だってまだ若いじゃないですか」 買い物袋を片手にふらりと歩いていた夜倉に声を掛けたのは、義衛郎。どうやら店のアテはあったらしく、食べに行くことを提案したのである。 「……まあ、今日くらいは付き合いますよ。僕もあんまり酒が強くはないですが」 「お互い様ですよ。二杯呑んだら十分ですし、お互い仕事でしょう」 「公務員は大変でしょうに……まあ、大変なのはこれからかもしれませんよ、戸籍とか」 「虐めないで下さいよ?」 「それは僕の役割じゃないですからね」 世は全てこともなく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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