●夜、街のどこかで よくよくマンガで「ドカッ」という表現がある。そう、人が殴り飛ばされるときの音だ。 実際にはそんなものではなく、肉と肉がこすれあい、なんとも言い難い渇いた音が響く。 「――っ!」 そして少年、早坂・浩はその事実を身を以て体験することとなった。 「何しやがるっ!」 コンクリートの路面に頬と掌を削られ、流血しながらも彼は立ち上がる。 「何をするも、ナニするんだよ、なぁ?」 彼が対峙するのは自身と同年代か、少し上とおぼしき数名の集団。全員がチンピラ崩れのような格好をしているが、放つ雰囲気はあきらかに堅気のものではない。 今、チンピラ達の手には浩の彼女――綾瀬・弓子が捕らえられている。下卑た顔で弓子をみるチンピラ達に、浩の導火線は一瞬で焼き切れた。 「こんのっ、クソ野郎がぁぁぁぁぁ!」 腰を低く、地面を蹴り、拳を握りしめて。 「ハン、遅ぇ」 「ぐぁっ!?」 「ひ、浩くん!」 弓子の手を捕らえるチンピラが無造作に脚を前に出せば、浩はそれに簡単に迎撃される。 「この前からやーけに調子が良くてさぁ――だからこうやって、カップルとか見かけると」 ぎゃはは、と笑うチンピラ達。 「男はフクロにして、女とはちーっと楽しむことにしてるんだわ」 「イヤっ! やめて! ――浩くん! 浩くんっ!」 倒れた浩に、弓子が懸命に呼びかける。 「まぁーた、強く蹴りすぎたんじゃないのぉ? おーいひーろしくーん? 生きてるぅ?」 チンピラの1人が茶化すように話しかける。それに釣られて、また、チンピラ達が爆笑する。 「――る、さ、ねぇ」 「……あぁ?」 ゴゥ、と浩の周囲の空気が震える。 「あ? なに、切れちゃった?」 「さぁ? でも、なんかやばくね?」 ゆらり、と浩が立ち上がる。 鬼気迫る表情、歪む空気。まるで背後に修羅を背負ったような――。 「オマエラ、許サネェ」 「――浩、くん?」 その場で、彼の異変に気付いたのは只1人、弓子だけであった。 ●万華鏡かく語り 「『万華鏡』によりアザーバイドの配下となってしまう少年の存在が予知されました」 ブリーフィング用ディスプレイのスイッチを入れつつ、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は今回の事件を大雑把にまとめたレジュメをリベリスタたちに配布する。 「アザーバイドにより干渉される少年の名前は早坂・浩(はやさか・ひろし)です。彼の過剰な怒りによって触発されたアザーバイド『修羅』が彼に憑依する形で顕現します」 ディスプレイに浩の姿と、彼の背後に浮かぶ鬼面のような姿のアザーバイドが映される。 「今回の事件の焦点となるのはこの『修羅』となります」 ディスプレイ表示が切り替わり、修羅について万華鏡が予測したデータが表示される。 「この『修羅』はまだD・ホールから顕現中で非常に不安定な存在です。100秒、つまり10ターン以内に倒すことにより完全に消滅させることが出来ます。かの存在の消滅とともにD・ホールも消滅するでしょう。全力で撃破してください。また『修羅』は依り代である早坂・浩が傷つけられた場合、その傷を全て肩代わりします。ですので、全力で攻撃しても少年に特に影響はありません」 時間制限の表示がディスプレイに追加される。 「また、10ターン以内に倒せなかった場合『修羅』が完全に早坂・浩に憑依し、彼を殺さなければアザーバイドの撃退は不可能となります。D・ホールが安定すると言うことでもあるので、この事態に陥ったらほぼ最悪と言うことになります。同時に『修羅』によるダメージの肩代わりも無くなるようです」 何の非もない少年を殺さなければならないという可能性に、リベリスタたちの表情が険しくなる。 「なお、一般人は幻視の効果によって『修羅』の姿は見えていません。同様に幻視で隠されていますが、憑依された早坂・浩には鬼のような角が額に生えます。ここは『修羅』にとっての弱点のようで、ここを狙えばかなり有効打を与えることが出来るでしょう」 ディスプレイのなかで、浩の顔、特に額の部分がアップに映った。言われてみれば、確かに角のような盛り上がりがある。 「また、現場には早坂・浩と恋人関係にある綾瀬・弓子と、3名の不良が居ます。放置した場合『修羅』の影響下にある早坂・浩は不良3名を殺害後、勢い余って綾瀬・弓子に半身不随の障害を与えます。ですので、戦闘に巻きこまれないよう、彼らを保護することも任務に含まれます」 一般人の保護、という文字列が表示され、その中に含まれる不良という事実に数名のリベリスタが反応した。 「……不満な点もあると思いますが、一般人への被害を出すことは許容できません。どうか無事『修羅』を撃退し、彼を救ってあげてください」 お願いします、と頭を下げ、和泉は出撃するリベリスタたちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月05日(金)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●舞い降りる力 「にしても……『浩くん!』だってさ、ラブラブだねぇ」 ひゃはは、と下卑た笑い声。浩の異変に気付くことも、それどころか捕らえている弓子が浩を見て目を見開いていることにも気付かず、不良は挑発を続けていた。 ゆらりと立ち上がった浩は目に爛々と殺意を湛えて一歩を踏み出す。 不良は精々、骨のある奴に粉をかけたかと顔をしかめ、弓子は尋常ならざるその雰囲気に呑まれようとしていたそのとき。 ――タンッ。 コンクリートを叩く軽い音と共にリベリスタたちが現場へと到着した。 路地裏にを見下ろすビルから飛び降りながら己の行くべき場所を見据え、作られる陣形は修羅の前、中間、不良達の間近という構え。『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)のもたらした翼の加護が、リベリスタたちの身体能力や万華鏡の予知と合致し、その布陣を可能とする。 「よ、っと。……熱くなるのもそこまでだぜ?」 飛び降りた中で最速をもぎ取ったのは『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)。翼の加護を得ると共に己のリミッターを切っていた創太の一撃が、何よりも早く浩の、ひいては修羅の身体をはじき飛ばす。 「俺が続く!」 それを追いかけるようにして前に出るのは『red fang』レン・カークランド(BNE002194)だ。全身から気で編んだ糸を放ち、鬼面を拘束しようとするその行動は、不良達への対処を他のリベリスタへの信頼と共に任せた証でもある。 「逃げなきゃ死ぬよ、死にたくなきゃさっさと逃げな」 飛び降りた姿勢から一瞬で照準を終えた『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が、力を誇示するように不良達に銃をちらつかせ、放たれた弾丸は浩の顔面を狙う。 弾丸はゆらりと動いた鬼面へと吸い込まれるように命中。万華鏡の予測通りというべきか、浩への被害は気にしなくても良いという文言がリベリスタたちの中で1つの安心材料となっている。 「チャカぶらさげてるぐらいでオレらが怯むとおもったかクソアマァ!」 「突然飛び降りてきて偉そうによぉ、何モンだよオメエら!」 「よく見たらカワイイ子も一杯ジャン! 今夜はツイてるぅ」 「……ギャアギャアと喚くな、有象無象が喧しい」 愛馬共々舞い降りた『百獣百魔の王』降魔・刃紅郎(BNE002093)は吐き捨てながら不良達と相対する。騎乗した姿と相まってその姿はまさに戦場の王。威風漂うその容姿に、不良達が一歩、後ずさる。 リベリスタとしての能力も合わさったその風格に一歩しか退かないというのは、こういう場面でなければ評価できただろうに。 「これ以上の狼藉は許さぬ……失せよ下郎! 今ここで我の怒りに触れたくなくばな!」 腹の底から出された低い響きの声に、びくりと、不良のうちの1人がさらに後ずさる。運悪くというべきか、後ずさった不良の手には弓子の姿があった。 「と、彼女は置いていってもらいましょう」 刃紅郎の言葉にタイミングを併せるようにしてうさぎが不良達――むしろ弓子の眼前に着地。威圧で強張った不良の手を鮮やかに、しかし有無を言わせぬ力で解き、弓子を手繰りよせる。 「火急ですから必要なことだけ。放っておけば早坂さんはそこの馬鹿3人を殺しますし、対処が遅れればあのまま元に戻らなくなります」 こくこくと、急変した事態を飲み込めないなりに弓子が懸命に首肯で応じる。 「荒療治になりますが間に合えば彼に害は残りません。間に合わせるために私たちも来ました。……信じて下さいとしか言えませんが、ともかく巻きこまれないように」 不良を突き飛ばすようにして弓子の安全を確保しつつ続けるうさぎ。 「彼を救いたいのは私達も同じ。傷つけるつもりはない。こちらの指示に従って欲しい」 弓子が救出されたのを見てか、修羅の動きを絡め取る糸を張り巡らしながら『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は言葉を重ねる。 「そして……そっちはさっさと消えろ、殺すぞ」 殺意と目線で殺せるのならば殺している。そう思えるほどの殺気を込め、レイチェルは不良を見た。涼子と併せて2人目、銃器を持つ者の数と、躊躇いなく浩へと攻撃するリベリスタの姿が、刃紅朗の威圧と併せてさらに不良達を萎縮させる。 「逃げてもいいんだぜぇ? 最も、何処へ逃げてもしっかり灸は据えさせてもらうがな?」 追い打ちをかけるように『ヤクザの用心棒』藤倉・隆明(BNE003933)は銃をちらつかせ、他のリベリスタと同じように躊躇いなく浩へと弾丸を叩き込む。幻視を持たない不良達には鬼面がその弾丸を受け止めていることも見えず、その姿はまさに人殺しでしかない。 「なんだよコイツら……」 「に、日本で簡単に銃が手に入るわけねぇ、のに」 「や、ヤクザだ、ヤベぇ、落とし前つけられる……」 いっそ顔面蒼白になり、先ほどまでの勢いはどこへやら、不良達が震え始める。 「逃げるのなら、路地のあちら側へ走って下さいませ」 最後の一押しは『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の言葉。不良達をいつでも庇えるような立ち位置で逃げ道を示すシエルのその言葉が、逃げ出すための理由になる。 腰砕けになりながらも立ち上がる不良達。だが、糸による戒めを脱した浩と鬼面が、逃げの動作を取る不良達へと殺意を向ける。 「ゆる、さねぇ……許さない、ぞっ!」 レンとレイチェルが編んだ糸を強引に断ち切り、ゆらりゆらりと揺れながら浩の脚が一閃、間近にいるレンに蹴りを放つ。レンはギリギリで蹴りを回避するものの、その動作が塞がれていた鬼面の視線を僅かに通した。 「っ!」 鬼面の目が光り、レンが息を呑む。かの鬼が睨むのは、先ほどまで弓子の手を掴んでいた不良と、目に付いた手当たり次第のリベリスタ。 持ち前の直感で鬼面の意図に気付いた隆明が身を翻す。だが、それよりも瞬時早く。 「そうはさせません」 届きかけた鬼面の視線をシエルが遮った。直後、頭が蹴り飛ばされるような目眩と共に、常人であれば廃人と化しかねない軋みが、不良を庇ったシエルに、あるいは睨め付けられたリベリスタを襲う。 もはや視界内に不良達がいないからか、一瞬で精神への暴力を振るった鬼面はがばりと牙を剥きだしにし、やはり手近にいたレンへと噛み付く。 肉が裂け骨の砕ける音。その大きさと牙の鋭さが、一瞬で手ひどい傷をいくつも刻みつける。 「ぐ、ぅ……! 気を確かに持てよ、早坂・浩! お前の彼女は、俺たちが守っている。だから……!」 腕から肩にかけて、牙による貫通痕を作られながらもレンは交錯の合間に言葉を投げる。強い思いを持った少年に届けと。 「許さない……許せ、ないっ!」 だが、まだ届かない。届かせるには、場が整っていない。許さないと呟く浩を前に、リベリスタはその面持ちを厳しくする。 ……残り、90秒。 ●時より早く届け 「ええい、失せろと言って聞かぬなら仕方あるまいっ!」 一瞬とはいえ、鬼面の攻撃に晒した。痴れ者とはいえ彼らもまた己の「臣民」である。その命を守るためならば、と刃紅朗は馬上から手の届いた不良の襟元を掴みあげ、そのまま勢いよく後方へと投げ飛ばす。 着地地点は近くにあったゴミ捨て場。饐えた臭いこそつくだろうが、それで死を免れるなら良しとしよう。 「そして異界より来訪せし怒りの体現者よ……我が民を拐す事は我が怒りを買うぞ! 速やかに立ち去れい!」 傷ついたレンに代わるように突撃し、王を称する彼はその勢いのまま浩と修羅を吹き飛ばす。 「ナイスだ刃紅朗! さぁて、そんじゃ死線を渡ろうぜ! ただしそっちは――修羅、テメエだけだ!」 距離は充分と判断してか。追い立てるように鬼面との距離を詰めた創太が、裂帛の気と共に強烈な一撃を叩き込む。 弓子を救助し前へ出たうさぎの斬撃が、そして涼子、隆明、レイチェルの銃撃が続けざまに鬼面を砕こうと殺到する。十分な距離は取った、故にもはやリベリスタの目標には鬼面への対処が据わっている。 一刻も早く、と重傷一歩手前の身体を動かし、レンの気糸が再度鬼面を締め付けようとする。だが、見切ったとでも言うのか、2度目の縛り付けはその動きを縫い止めるに至らない。 「私が此処にある意義を全うさせていただきましょう」 満身創痍のレンに向けて、シエルの天使の息が発動する。完治とはならないが、重傷を出さぬために、一撃でその命が奪われない域までの回復。 「許せない、許せない、許せないんだ……」 突き出される拳は素人の動き。だがそれも速度が伴えば充分脅威の一撃となる。許せないという言葉と共に放たれた拳は人を吹き飛ばしかねない威力。その間合いにいたうさぎは、一手でも多くと肉薄していたが故に、その一撃をまともに喰らった。 「これは、これは、なるほど」 突き出された拳を受けたのは左肩。ごぎょ、と濁音まみれの異音は、その一撃で関節が砕かれたことを示す。いつも通りの無表情にわずかに脂汗が浮かぶ。 「……しかし、一体何が許せないのです、貴方は」 拳を受けた至近距離、言葉を届かせるのは容易い。だが、問いかけても返るは許さないの一言のみ。 だが、言葉を放つうさぎを鬼面が続けざまに狙い、その突進が意識ごとその身体を刈り取った。 声もない吐息と共に崩れ落ちようとする身体を意志でねじ曲げて、立つ。最良ではなくとも最多を。一手でも多くを放つことが彼を救うことに繋がる、ならば倒れていられないと、うさぎは倒れ伏すという己の運命を否定した。 戦闘開始から20秒。残された時を勘案し、未だ倒れる様子どころか大した傷さえ感じさせない鬼面にリベリスタの表情が険しさを増す。 「死線を渡るとはいえ……さすがにお前まで死線を渡らせられねぇんだよっ! 助けてみせる!」 浩をすり抜けるようにして放たれる修羅への一打。放つは創太。 「ええ、ええ、死なせませんとも、絶対に」 修羅も浩も纏めて、それが最適だと信じて切り刻み続ける。満身創痍を意志の力で動かすうさぎ。 「癒しましょう、手傷を――助けたいと怒った、彼を救うためにも」 仲間へと振りまかれる傷を癒し続ける。修羅を呼び込んだ浩への敬意を示すのはシエル。 「誰1人死なせるわけにはいかぬ……浩とやら、貴様もまた我が民なれば、それは同様のことっ!」 疾風の居合い斬り。狙い定めて切り裂くは鬼面の象徴たる角。民を救わんとする王、刃紅朗。 「そうだ、許せなくてもいい。その思いは、確かに俺が受け止めてやる!」 貫かれた腕を気にかけることなく、只ひたすらに浩と相対するレン。 「……少し、頭を冷やしましょうか」 執拗ともいえるエイミングで角を狙うレイチェル。修羅への打撃を確固たるものにするため、ひたすら冷静な彼女の攻撃が、精密に積み重なる。 「……その怒りも憎しみも、アンタだけのものだ。だったら、頼るなよ、自分で、やってみせな」 僅かに飛び上がり、射線を確保する涼子。狙い撃つのは修羅とリンクする角。呟く言葉は、激励なのだろうか。 「気持ちはわからんでもねぇけどさぁ……それで彼女を悲しませんなよ!」 ガスマスク越しの声はくぐもっているが、確かに届けと隆明は叫ぶ。言葉は届かなくとも、弾丸を鬼面へ届かせ、打ち砕けば、必ず彼は帰ってくると信じて。 刻一刻、一撃一撃ごとに時間は過ぎていく。 投げ飛ばされた不良を担いで逃げた不良達。いつの間にかその姿は消えていた。 物陰からはらはらと見守る弓子。リベリスタを見守るその目には信頼と、戦いを止めようとしない浩を心配する色があり。 刻限まで、十数秒――。 ●リミット 「許せないんだ――」 そう呟いた浩の一撃が。 目を光らせた鬼面の精神攻撃が。 リベリスタの体力を削ぐ。 続けざまの攻撃は満身創痍のレンまでもを一度は倒れさせ、修羅の精神攻撃はシエルの回復が間に合わない速度でリベリスタを襲う。 最後の10秒。もはや満身創痍という言葉が当てはまらない者はいない。 「結局ギリギリか……でもやることはかわらねぇ! 殴りきるだけだっ!」 「一撃でも、多く――まだ、間に合うのですからっ!」 創太とうさぎが叫ぶ。あと一撃。それが限界かもしれない、救えないかもしれない。それでも、この一撃で救える可能性があるのならと。 打撃。斬撃。入り乱れる攻撃は全てが修羅へと向かい、その面を砕こうとする。 ――ピシリ。 盤石に見えた鬼面に、罅が一筋。 勝機が、見えた。 「……面に、ひび割れが」 シエルが目ざとく鬼面の異変を告げる。 「好機と見た! 畳みかけろ!」 刃紅朗の号令が鋭くリベリスタを鼓舞する。 「さぁ――もう、修羅は眠れよ!」 号令を受けて身体を動かすのは、レン。 眠れ、という言葉は文字通りか。己の最高の一打を以て永久の眠りへの手向けとしようとするのはこの100秒の短くて長い戦いがさせるのか。 ぱりんと。 レンの一撃を受けた修羅は、それまでの頑丈さが嘘だったように、軽い音と主に砕けた。 浩が、膝を付く。がくりと倒れ伏そうとするその身体を、最前線にいたリベリスタが支えた。 「目標の撃破を、確認」 「間に合った、んだよな?」 「ああ、たぶんな」 各々の得物を仕舞いつつ、後衛の3人が短く会話する。 その横を、弓子が走って駆け抜けていく。 「浩君!」 どこか穏やかな顔で気絶した浩を見て、弓子の顔から緊張の色が抜け、彼女もまたその場にへたりこむように据わった。 「っと、俺はあの不良ども締めてくるわ。そーいうのも、ヤクザ屋さんのお仕事でしょう」 どこかおどけた口調で、けれど目は笑わず、隆明がいち早く踵を返した。彼には彼なりの、後始末があるらしい。 「綾瀬殿、伝言を頼んでも良いか」 シエルが倒れた浩の救護へと駆け寄る中、刃紅朗は目覚めぬ浩に代わって弓子へと告げる。 はい、と頷いた弓子へ、言い聞かせるようにしてゆっくりと言葉を紡ぐ、 「事情は察するが、力なく向かう蛮勇ほど愚かはない。そして……そうだな、その勇気は認めるに値する。故に、逃げることは負けではないと。あと、夜遊びは程ほどにと」 彼に伝えてくれたまえ、と言った刃紅朗の目は、戦闘時と比べて和らいだどこか慈愛を感じさせるものだ。その思いが通じたのだろう、弓子は言葉少なに、けれど確かに頷いて応える。 「俺からも頼むぜ――力だけじゃなくて、心も強くなれ、ってな?」 創太の言葉にもまた、弓子は頷く。恋人が無事だったことに、今は胸がいっぱいなのだろう。力強い首肯が、最大の返答だった。 「恋人のためにアザーバイドを呼ぶほどに強く怒れる……全く、良い男じゃないですか」 呟いたうさぎに、弓子の顔が朱に染まった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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