●銃弾と雨 雨粒が地面を打ち、ちいさな雫が跳ねる。 『彼』の目の前では今、歪んだ笑みを湛える男が両手にそれぞれ拳銃を構えて立っていた。向けられる銃口と放たれる殺気に身体が震える。 「ひゃは! イイぜぇ、ワンコ。その怯えた感じ!」 男は二挺拳銃をくるくると回すと相対する『彼』――野良犬であるそれ――へと笑いかけた。 野良犬は本能的に自分が死の危険に晒されていると悟り、逃げ出そうと地を蹴る。 だが、男はそれを逃がさない。構えなおした銃を即座に犬へと向け、銃弾を打ち込んだ。降りしきる雨を突き抜けた弾は拡散し、野良犬の身体を四方から貫く。 「死ぬまで踊れ! 血の色は雨がキレイさっぱり洗い流してくれるぜ!」 一発目で死は齎されたというのに、男は引き金を引き続けた。 何度も何度も。何発も何発も。雨と銃弾に打たれ、犬の体は踊るように跳ねる。その光景を愉しげに見つめる男は堪らずに笑いはじめ、愉悦に満ちた声をあげた。 「なーんて、オレってば超詩人。可笑しくて笑いが止まらねぇ。ひゃはははははっはぁ!」 男は雨に打たれながら笑い続ける。 そうして、満足したらしき男は地に伏して動かぬ犬を無造作に拾い上げた。ぞんざいさが滲みながらも、男が屍を眺める瞳には恍惚が交じっている。そして、彼は不穏な呟きを零した。 「さて、コレでコレクションも十体目か。そろそろ人間も撃ってみてぇなァ」 その合間にも雨は振り続け、血の匂いを薄める。 自らが雨に打たれるのも構わず、ただ歪んだ笑みを浮かべる男には狂気が満ちていた。 ●雨に葬る その日、空は今にも雨が降り出しそうな曇天だった。 「今回、君達にお願いしたいのは銃型のアーティファクトを持ったフィクサード『雨崎』の討伐だよ」 『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)はブリーフィングルームに集ったリベリスタ達へと資料を渡すと、例のフィクサードについての説明を始める。 フィクサードの男が所持しているのは『トリガーハッピー』という二挺拳銃だ。 銃は本人の戦闘力を底上げするという能力に加え、徐々に持ち主の思考を狂わせていく実に厄介な代物だ。また、アーティファクトで殺した相手は所有者を守護する戦闘用配下として変貌させられる為、男が何かを殺す度に死してなお不幸な犠牲が増えていく。 「雨崎は今までに十体の野良犬や猫を殺している。最初は動物で満足していたのだろうけど、アーティファクトの所為でついに人間を撃ち殺すまでに考えが至っているみたいでね。放置はしておけないのさ」 雨崎自身も殺した動物を“コレクション”と呼んでおり、とても常人とは思えぬ程に狂っていた。 元は普通の青年だったのかもしれない。だが、彼は人を撃ち殺す妄執に取り付かれており、もう戻れない段階まで来てしまっている。 そして、タスクは男の趣向と傾向について告げる。 彼が行動するのは必ず、『雨の日』であり『路地裏』であるということ。 今が丁度、雨が降り出しそうな天気だ。男が出没しそうな場所も見繕ってある為、今から現場に向かえば容易に彼と戦うことが出来るだろう。 「ただ、本格的な戦いとなると相手も配下……つまり、犬や猫の死体が戦いに呼び出されるだろうから気をつけて。アーティファクトの力で彼等も相応の能力を得ているみたいだからね」 雨崎の方も人を撃つことに躊躇いはない。 凶行を止めろという説得なども通じないので打ち倒すしかないだろう。雨に打たれながらの戦いとはなるが、皆ならば心配はないはずだ、とタスクは信頼の交じった言葉を送った。 「雨は血を洗い流す為にあるんじゃない。それに、快楽のために何かを殺めるなんて以ての外だよ」 だから頼んだよ、と。 少年は戦場に赴くリベリスタ達へと告げ、その背をしかと見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月08日(月)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雨の始まり 降り続く春の雨は静かに地面を濡らしてゆく。 跳ねる水滴をふと見遣り、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)はふるふると頭を振った。そうしても雫が振り払える訳でもなく、胸の裡で渦巻く怒りも決して払えるものではない。 (弱いものイジメは楽しいかよ。くっだらねェ……) 思うのは、アーティファクトで小動物を殺して狂いはじめた男の事。 周囲は今、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)と蔵守 さざみ(BNE004240)が張った結果の力や、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が置いた行き止まりの柵によって、リベリスタと雨崎以外には誰も居ない状態になっている。後は周りを探して男を探すだけだ。 やがて――狙い通り、さざみ達は必然的に男と出遭うことになる。 「来たわね。待っていたわ」 「お出ましになったね雨崎君、ごきげん麗しゅう」 わざとらしく夏栖斗が挨拶をすれば、相手は怪訝な顔を見せた。何故自分を知っているのかと問う前に、彼はリベリスタから発される殺気を察知する。途端に彼の周囲に犬猫が現れて戦闘態勢を取った。夏栖斗がすかさずそれらを引き付け、戦いは一瞬にして始まる。 互いに狩りに来た者同士。ならば、開戦の言葉は不要だと、さざみも身構えた。 「その子達が貴方が殺した動物ですか」 巴 とよ(BNE004221)は亡骸になっても尚、動かされている配下達を見つめる。殺すのが動物なら良いというわけでは無い。その殺戮衝動が人に向くのならば、必ず彼を止めなければならない。 「色々知ってるみたいだな、テメェら。だが、殺すにゃ面白そうなヤツ等だ」 くく、と歪んだ笑みを湛えた雨崎は銃口を此方に向ける。其処にヘキサが集中を重ね、とよも魔陣を展開させた。来る、と感じた『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は幻想纏いを起動させ、殺戮銃の男を強く見据えた。 「貴様の凶行もここまでだ、変身ッ!」 身構えた疾風が襲いかかってきた犬を抑えながら気を制御する。彼が真の戦いの為の構えが為す中、アンナも掌から閃光を生み出す。 「……ふん。アーティファクトのせいだから、余り強くは言えないけど」 この現状は見ていて気分の良い物じゃないわね、と呟いたアンナが放った裁きの光は犬や猫を巻き込んで迸る。そのとき、雨崎から幾重もの光弾が打ち放たれる。 『LUCKY TRIGGER』ジルベルト・ディ・ヴィスコンティ(BNE003227)は自分にまで飛んできた攻撃に備えて防御を取った。その一撃は鋭く、アーティファクトが与える力は相当なものだと感じられる。だが、ジルベルトは怯んだりなどしない。 「弱い的しか狙わねェやつなんざガンナーとは言わねェ。トリガーの異名をもつヤツァ、一人でいい」 「はん、言いやがる。じゃあテメェと俺、どっちが相応しいかヤりあおうぜ!」 「ンじゃま、あんたと俺様のラッキーでどっちが長くトリガーを引けるか勝負だ。命をかけてなァ!」 雨が降る中、ジルベルトと雨崎の眼差しが交差する。 しかし、辺りを囲むのは見るも無残な姿をした動物達。身体に穴が空いたまま動くそれらは生への冒涜にも思える。其処には狂気と残酷さが滲み出ており、『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は戦慄する。何故に彼は自分より弱い存在に対して、ここまで残酷になれるのだろうか。 だが、恐ろしさに竦む足を確りと踏み締めたリリは凛と告げる。 「さあ、『お祈り』を始めましょう」 両の手に教義を、この胸に信仰を。この外道を撃ち抜く事は、とても良い祈りとなるはずだから。 掌を重ねて祈りを捧げたリリから加護が広がり、仲間達に翼を与えた。 ●水滴の涙 雨は已まず、肌を打つ雫はより強くなってゆく。 夏栖斗は先程引き付けられなかった敵に自分を注視させるべく、更なる挑発を紡いだ。 「こんなに可愛い子達を殺してさ、悪い事したら怒られるってママにきかなかった?」 それは雨崎へも向けられ、多くの配下を巻き込んで怒りと隙を与えることになる。うるせぇ、と不機嫌な言葉を返した敵は狙いを夏栖斗へと定め、二挺拳銃を向けた。 その隙にヘキサが地を蹴り、翼を使って宙高く飛び上がる。疾風と目配せを交わし合い、少年はそのまま敵を飛び越える。挟撃の態勢を取ったヘキサは胸に燻ぶる思いを吐き出すが如く、男へと言い放った。 「狩人気取りってかァ? 今度はテメェが狩られる番だぜ、地獄直行だァ!!」 逃がさないとばかりに陣取ったヘキサは雨崎の背後を取る。 リリも神経を研ぎ澄ませ、自分達に神のご加護と勝利が巡り来るように、と祈った。それと同時に、とよが魔力を紡ぎはじめる。 「夏栖斗さんっ! 行きますっ」 仲間への合図と同時にとよが放ったのは魔炎の奔流。焔は敵を集めていた夏栖斗をも巻き込んで炸裂するが、それも承知の上。青年が果敢に炎に堪える中、其処に合わせてさざみも炎を召喚した。 「貴方は自分より弱いモノのにしか銃口を向けられない人なのかしら。それとも、人は撃てないと、僅かでも良心が残っていた? ……まぁ、どっちでもいいわ」 そして、さざみが解き放った炎は見事に二匹の猫へと終わりを与える。もしかすれば猫は他と比べて体力も少ないのかもしれない。そう感じたジルベルトは其方へと狙いを定めた。 本当ならば雨崎を撃ちたかったが、配下が邪魔をする以上は先に屠らねばならない。 「撃ち抜く。俺様の銃にはそれ以外ねェからな」 狙い打たれた一撃は屍猫を真正面から貫き、地面に伏せさせる。その間にも配下達は容赦なく仲間に襲い掛かり、体力を削り取っていく。疾風や夏栖斗が毒を受けたと気付いたアンナはすぐに意識を集中し、詠唱を紡ぎはじめた。 「気を付けて、向こうの犬が狙っているわよ」 「わかった! ワリィな、チッと眩しいぜッ!」 癒しの風を吹かせたアンナが注意を呼び掛ければ、ヘキサが神秘の閃光弾を投擲して対応する。 その合間にも犬達の攻撃は止まなかった。だが、麻痺の力が仲間を縛ろうとも、その度に癒して見せる。小さな決意を抱いた彼女の癒しは確かな後押しとなって戦場を支えていった。 戦いは幾重にも巡り、それまで己の力を高めていたリリも攻撃に転じる。 狙うのは哀れな動物達。その命を真の意味で終わらせるべくして、リリは魔力で業火の矢を創り出す。 「天より来たれ、浄化の焔よ。哀れな魂に安息の来たらん事を」 其の魂が本来あるべき所へ導かれるように――。 リリの願いと共に放たれた烈火は犬達を巻き込み、雨崎の身をも焦がした。配下がまた一体倒れた事に歯噛みし、男はちらと後ろを塞ぐヘキサを見遣る。逃げようと思ったのか、ただ周りを確認しただけなのか、雨崎は忌々しげに奥歯を噛み締めたようだった。 そんな最中でさざみやとよも魔力を打ち込み、相手の体力を的確に減らしていく。 配下が減った今、回り込む余地があると感じた疾風は男へと駆け、肉薄した。 「この雨が貴様に無残に殺された動物達の涙に私には見える。逃がす気は無い、覚悟しろ」 真っ直ぐに告げた彼は、その名が抱く疾風の如く龍牙の刃を振りかざした。雷撃を纏った武舞は次々と見舞われ、雨崎諸共配下達を斬り裂いてゆく。 その一閃ずつによって犬と猫がそれぞれに倒れ、動きを止めた。 雫が跳ねて疾風の頬を濡らす。重力に従って滴り落ちたそれは宛ら、涙の欠片のようにも思えた。 ●銃声響く刻 戦いの流れは徐々にリベリスタ達が制しはじめていた。 残るは猫が一匹と犬が三匹。幾らかの体力を失った雨崎。彼も不利を感じて来ているのか挙動がおかしくなってきている。しかし人を撃ち殺したい衝動は強いらしく、雨崎は銃をリベリスタ達に向け続けた。 「それにしても、アンタ。血は液体なんだから雨で流れるのはあったりまえでしょう」 詩だと形容した彼の言葉を思い返し、アンナは敢えて挑発を投げ掛ける。 ばっかじゃないの、と告げられた言葉が男の酌に障ったのだろう。途端に雨崎の狙いが後衛やアンナに定められた。とよが張り詰める空気を感じて危ないです、と口にする。同じくして、そのことに気付いたジルベルトがリボルバーを向け、片目を細めて告げた。 「おいおィ、俺様のファミリー取らないでくれよ。ただじゃ済まねェぜ?」 操るのは敵と同じ二挺拳銃。瞬時に迸った早撃ちの銃弾は雨崎へと向かい、その身を鋭く貫く。痛みに耐える男は悔しげにぼやき、それまでの強気な態度を畏怖へと変えてゆく。 「く……何なんだよ、イキがった奴らかと思ったら強いじゃねェか」 「寧ろ何だと思っていたのかしら。私達が普通の人と同じだとでも勘違いしていた?」 さざみが冷ややかな瞳を向けて言い放った。それからさざみは自身の頭上へ召喚した呪刻の黒鎌を掴むが如く操り、一気に解き放つ。そして、夏栖斗も彼に視線を移して黒鋼の得物を構えた。 「アークくらい知ってるっしょ? 神の目のこわーい神秘のセイギノミカタ」 「正義の味方? ふん、馬鹿らしい話だぜ」 端的に自らの所属を告げてみせるも、男の反応からするとアークについては知らなかったようだ。彼のような場合の無知とはどれほど愚かしいことだろう。夏栖斗は一瞬だけ悲しげな瞳を見せると振るった武器を飛翔させ、次々と鮮血の花を咲かせた。 其処で最後の猫が地に伏し、断末魔をあげる。 ごめんな、と小さく呟いた夏栖斗だったが残った犬達が怒りのままに彼を襲った。しかし、こんな痛みなど耐えて見せる。大丈夫か、とヘキサから問い掛けられる言葉に大きく頷き、夏栖斗は堪えた。 今や配下達も動き回る力を殆ど失っている。 「火葬、するです」 そして、とよが放った焔の奔流が一体の犬を葬送するが如く焼き尽くしてゆく。疾風も戦局の動きを察し、配下と雨崎を同時に狙い打てる射線を見出した。 「悪いがこれで終わりにさせて貰うぞ」 放った蹴りは虚空を切り裂き、貫通撃を飛翔させる。疾風は己の一撃によって犬が倒れた事を確認し、その二度目の死を胸の内で密やかに尊んだ。 これで残る配下は一体だけ。ヘキサは好機だと感じ、標的を最後の犬へと変えた。高く跳躍し、哀れな屍へと蹴撃を見舞った少年は見事にそれを打ち倒す。 思えば、男はかの銃でこの場に倒れた十匹の獣達を殺したのだ。ひとたびの行動機会を得たヘキサは雨粒を蹴散らしながら男へと向き直り、湧き上がる衝動を言の葉にして宣言した。 「殺された奴らの分、三倍返しだぜ! テメェを三十回! ズタズタに喰い散らすッ!!」 「うおッ!?」 一瞬で純白の機械脚甲が雨崎を穿ち、激しい衝撃を打ち与えていく。短い悲鳴があがり、男は自分が勝てぬことを悟った。敵が形振り構わずに逃げ出そうとする意志を見咎め、とよは唇を堅く引き結ぶ。 「逃がさないですよっ。リリさん、皆さんっ、今ですよっ」 少女が呼び掛けて目配せを送れば、即座に反応したリリが逃路を取らせまいと動いた。 同様に疾風とジルベルトも其々に移動を行って通り道を塞ぐ。アンナが消耗した仲間に癒しを施す中、夏栖斗も雨崎をしかと見据えて立ち塞がった。 「邪魔だ、退けェ!」 「腕比べといきましょう。人を撃ちたいのでしょう? 私と撃ち合うのはお嫌ですか?」 喚く雨崎を真正面から見据え、リリは銃口を向けた。祈りと審判。彼女が手にする銃もまた二挺で対を成す武器である。男を赦せない気持ちもあるが、撃ち比べてみたい気持ちとて浮かんでいた。リリは双眸を薄く緩めると魔力と意志の弾で敵を撃ち抜く。 銃弾は雨崎の体に穴を穿ち、そこから大量の血が流れ出た。 それでも、男は逃げようとする意志を見せている。さざみは加護の翼を用いて宙をひらりと舞い、自ら体を張って敵を抑えた。それと同じくして四属性の魔術を組み上げた彼女は問い掛ける。 「ねぇ、何処へ行くの? まだ、狩りは終わっていないわよ」 立て続けに放たれた魔光は雨崎の身を包み込み、幾重もの衝撃を散らせた。 いつしか、降り続いていた雨は次第に弱くなっていた。ならば、きっと――この雨が止む時が狩りの終わり。そんな事を頭の隅で考えながら、さざみは視界を濡らす雨を振り払った。 ●雨の終わり 敵が怯んで弱りきった今、後は畳みかけていくだけ。 まだ逃走を諦めない雨崎に対し、夏栖斗は挑発を投げつけてゆく。 「へぇ、コレクターがコレクションできずに逃亡するんだ。やっぱまだ人間をコレクトするのは無理?」 そのトリガーハッピーで頭もイカれてしまったのか。それとも、弱いものにしか力を振るえないだなんてその玩具は飾りだったのか。次々と浴びせかけられる言葉と怒りの魔力に翻弄された男は眉間に皺を寄せ、夏栖斗を睨み付けた。 「黙れ、クソガキが。テメェを撃ち殺してやっても良いんだぜ!」 銃を向けた雨崎が激昂して呪いの弾を打ち放つが、夏栖斗は黒鋼でそれを弾き飛ばす。 男には怒りと同時に隙が生まれており、夏栖斗は仲間達に目配せの合図を送った。それを受けたさざみが再び四重奏を解き放ち、疾風も虚空の力で男を穿つ。 回復に回っていたアンナも攻撃へと転じ、閃光で男を焼いた。仲間が攻撃を加えていく中、素早く敵の後ろに回り込んだヘキサも鋭い蹴撃を次々と見舞う。 「遅ェ遅ェ! 狩られる気分はどォだテメェ!!」 相手から苦しげな声があがるが、ヘキサは攻撃の手を緩めはしない。間もなく訪れる戦いの終わりを感じ取り、少年は紅の瞳に意思を滲ませた。 ジルベルトも男が持つ拳銃にを狙いを定め、銃を向ける。自らの銃が狙い打たれる間際だと云うことも気付かず、雨崎は必死に抵抗しようとしていた。だが、既に終わりは見えている。 「この勝負、俺様の勝ちだな。チェックメイトと行こうぜ」 刹那、放たれた銃弾がアーティファクトの片方を撃ち貫いた。地面に弾き落とされ、割れた銃はもう二度と弾を吐き出すことは無いだろう。 「あぁッ!? お前、なんてことしやがる!」 狼狽する男に哀れさを感じ、ジルベルトはやれやれと首を振った。 その最中、リリは敵へと止めを刺す機会を掴んだ。決して逃がしはせず、撃ち漏らしもしない。そう、私は神の魔弾。目の前の邪悪を滅するまで、決して止まる事はないのだから。 そう己に言い聞かせたリリがひといきに引鉄を引いた。 「――Amen!」 凛と響き渡ったリリの声と銃声が重なり、そして――男は力尽き、その場に崩れ落ちた。 何時の間にか雨は弱まり、曇天には晴れ間が見えてきそうだった。 勝利を確信したとよは徐々に雨が止んでいくことを感じ、倒れた男を見下ろすリリの傍へ寄っていく。 「やりました、ね」 彼女の袖をきゅっと握ったとよの声を聞き、リリもまた小さく頷いた。とよとリリは砕けたアーティファクトの片方を拾い上げ、アンナも弱々しく握られていた銃をむしりとってから問い掛けてみる。 「で、どこでこの性悪を手に入れたの。道に落ちてた訳じゃあないでしょう」 なにせ銃であるからして、その辺に転がってるものではない。何か裏が絡んでいるのかと疑うアンナだったが、息を切らした雨崎から返って来た答えは期待には添わぬものだった。 「誰が、テメェらなんかに……教える、かよ……」 そして、途切れ途切れに言葉を漏らした男はそのまま息絶え、事切れた。おそらくはアーティファクトの影響だろう。実力以上の無理をした激しい戦いの後、彼の体は持たなかったのだ。 「これが力を悪用した物の末路か」 疾風は僅かに瞳を伏せると、未だ形を残している銃を破壊した。残骸を回収した疾風は犠牲となった動物の亡骸へと視線を移すと、ヘキサも倒れた犬や猫へと歩み寄る。 「コイツらだって犠牲者だ……。救えなかった代わりにアークで供養してやらねーと」 「ああ、こいつらは悪くなかったんだもんな。人間のエゴでごめん」 夏栖斗も頷き、疾風達と協力して動物達を丁寧に埋葬してやることに決めた。仲間の様子を見遣り、時折手伝いながらもさざみは肌に張り付いた自分の服から水滴を絞り取る。 「早く着替えたいわね。濡れたままだと気持ち悪いわ」 そんな彼女は最初から最後まで雨崎という男に興味は持たなかった。だって銃は好みじゃないもの、と零したさざみの眼差しは何処までも冷ややかだった。 ジルベルトは地に伏した男を暫し見つめると、銃を掌の中でくるくると回した。 「俺様のラッキーには敵わなかったってこったな。さすが俺様。ま、あんたの来世がラッキーでありますようにって祈っといてやるぜ。それが俺様がしてやれるお前への餞だ」 Ciao、と最後に告げた彼はふと空を見上げる。 雨は完全にあがり、雲は風に乗って遠くへと流されていた。合間から射し込む春の陽射しは仄かにあたたかい。その光はまるで、此処で死闘があった等という事を少しだけ忘れさせてくれるような眩さだ。 こうして、事件の幕は下りる。 雨が降る刻に始まった騒動に終幕を告げるのもまた、雨の終わる刻だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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