●春風に乗って 桜の花が咲き誇る。今年の桜前線は、どうにも少し足が速いらしい。まだまだ僅かに残る寒さに耐えながら、花見だ酒宴だと盛り上がる老若男女。 桜の香りに混じって漂う、仄かな甘い香り。それを嗅ぐなり、次々と倒れていく花見客。異変を察知するものも多いが、しかしその者も、次の瞬間には地面に倒れ伏す。ものの数分もしないうちに、花見会場に起きているものは誰1人として居なくなっていた。 そんな中、優雅な足取りで進む女性が1人。薄桃色のドレスを纏い、鍔の広い帽子を被った淑女風の女性だ。桃色の髪が風になびく。その度に、きらきらとした粒子と、甘い香りが舞う。公園にいた者たちを眠らせたのは、どうやら彼女のようだ。 「あぁ、綺麗な桜。でもどうしてかしら? 何故、何もしゃべってはくれないの?」 なんて、不思議そうに女性は訊ねる。無論、桜の樹はピクリとも動かなければ言葉を発することもない。 「わたくしの世界の桜とは、違うのかしら?」 なんて言いながら、ふわふわのファーが撒き付いた扇子を広げて見せる。どうやら彼女、この世界の住人ではないらしい。アザ―バイド、と呼ばれる異世界からの来訪者である。 「わたくしの世界の桜なら、これでも十分、彼らを養分として捕らえられるのに」 手間がかかるわ、と溜め息を1つ。彼女は髪を掻き上げた。と、同時に白い粒子が周囲に飛び散る。それを吸い込んだ花見客の一部が、むくりと起き上がった。白目を剥いているのを見る限り、どうやら自我は残っていないらしい。のろのろとした動作で桜の木の真下へと移動していく客達。 「それでは、自害していただけるかしら?」 淑女がそう言うと同時に、桜の樹の真下で男性の1人が自分で自分の首を締め始めた。 桃色の淑女は、それを見ながらくすくすと笑う。どうやら彼女、この公園に植えられている桜の樹に養分を与えに来たつもりらしい……。 ●桃色のレディー 「アザ―バイド(パルフェ)が花見客を襲っている。どうやら善意のつもりらしいけど、危険極りないから止めて来て」 モニターに映る20人ほどの男女と、それらを満足そうな視線で見回す桃色の淑女が1人。、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、やれやれと小さく溜め息を吐いた。 「公園のどこかにDホールが開いている。それの破壊も忘れないでね。パルフェについては討伐、送還、どちらでも構わないから」 そう言ってイヴはモニターの画像を切り替えた。淑女・パルフェの顔がアップで映される。にやにやとした嫌な笑顔を浮かべた、綺麗な女性の顔だ。 「見て分かる通り、性格が悪い。また、人の形をしているけど人ではなくどちらかと言うと植物の仲間。だから人間のことを肥料程度にしか思っていないのね」 このままじゃ死者が出てしまう、とイヴは大きく溜め息を吐いた。モニターの中には、自身の首を絞める男女の姿。パルフェに操られているのだろう。皆、意識はないようだ。 「パルフェのばら撒く香りには、様々な効果のものがある。中には、爆発するものも……。死者が出る前に、パルフェを止めて来てね」 それじゃあ、行ってらっしゃい。 そう言ってイヴは、リベリスタ達を送り出す。 「桜の香りは、嫌いじゃないけどね」 なんて、誰も居なくなった部屋で1人、イヴはぽつりと呟いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月09日(火)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●桜の樹の話 桜の樹の下には死体が埋まっている、なんて話を聞いた事もあるかと思う。根も葉もない噂、と言い捨てるのは簡単だが、しかし、根元に死体の埋まっている桜は美しく咲く、と言われると、その噂も少しだけ真実味が増してくるというもの。 今回現れたアザ―バイド(パルフェ)の目的は、まさにそれである。彼女の居た世界では、桜の樹は恐らく自主的に人を襲い、それを養分に変えるようなものであったのだろう。 だから……。 花見客を捕らえようとしない桜の樹を見て、パルフェは行動を開始した。桜の樹が、自力で餌を捕れないほどに弱っている、とでも思ったのかもしれない。 なにはともあれ、傍迷惑な話だ。 それを防ぐために現場へ急行したのは、アーク所属のリベリスタ達であった。薄く煙るほどに花粉の舞い散る公園で、8人が目にしたのはまるで夢遊病患者かなにかのように樹の下で呆然としている20人ほどの花見客の姿であった。 ●春の日差しに咲き誇る 「たいぎいわね……」 やれやれ、と言わんばかりの渋面で『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は公園を進む。舞い散る桜の花弁や吹き荒れる花粉の中を突っ切って歩いていく。パルフェの視線が彼女を、否、彼女達を捕らえる。釣られるように、虚ろな表情の花見客達も。 「なんとも……傍迷惑な来訪者ですね」 杏に続き『不屈』神谷 要(BNE002861)もまたコートを翻し溜め息を零す。盾を下げ、剣を隠しているのは無駄に敵を刺激しないための配慮だろうか。パルフェは訝しげな表情を浮かべてリベリスタ達を見ていた。現在、この場には大量の花粉が舞っている。これは、パルフェが他者を操るのに使っているものだ。 そんな中を、平気な顔をして歩いてくる者達がいる。そのことがパルフェに、警戒心を抱かせていた。弱肉強食のルールの元に生きるパルフェにとって、生き残る=警戒すること、である。 「桜の美しさに迷い出たんですかね?」 なんて問いかけるのは『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)であった。それに対しパルフェは、僅かに後退しつつも返事を返す。 「美しいものを更に美しく……。なにか問題があるの? 弱肉強食、基本でしょう? 人の犠牲なんて、私のいた世界では当然のことだったもの」 「ふん、桜の精ゆえ、其の善意は桜のほうへと向けられるという訳か、だが、生憎、斯の世界は貴様の様な輩が来ていい所ではない、元来た場所へとお帰り願おう」 くぐもった声の主はアディ・アーカーシャ(BNE004320)である。白い鎧に白い仮面。本来なら人目を引いてしまうような、ある種異様なその外見も、この場に限っては気にするものなどいなかった。唯一パルフェだけが、不思議な物を見るような目をアディに向けていただけだ。 「私たちと同じアザ―バイドでも本当に沢山の子が居るんだね。以前出会った杉の木ちゃんは良い子だったんだけど、パルフェちゃんは悪い子、なのかな?」 どうなの? とでも問いかけるように首を傾げる『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)。木や植物とは馴染みが深い種族であるだけに、パルフェの所業が残念でならないようだ。 「戦うのは本能的に気が進まないが……」 ルナと同様、今一浮かない顔をしているのは『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)である。全身を重厚な鎧で包んだ彼女は、すぐにでも動けるように僅かに姿勢を低くする。 「厄介な事をしてくれているみたいだな。早々にこの場から立ち去って貰おうか」 桜の花弁と同色の髪を風になびかせ『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)がそう告げた。こちらの世界の桜は鑑賞用。一方、パルフェの居た世界の桜は食人花であるらしい。そも、常識が違うのだ。このまま言葉を交わしても、どこまで行っても平行線。パルフェの自由にさせるわけにはいかないし、向こうが諦める気配もない。 一陣、肌寒い風がその場を吹き抜けた。 次の瞬間『上弦の月』高藤 奈々子(BNE003304)が矢のような速度で飛びだした。僅かな隙を突いて、群れる人並みの間を突っ切る。パルフェが行動するより早く、奈々子はパルフェの傍にあった桜の木の1本へと肉薄していた。 「初めましてパルフェさん。この世界の理は知らないようね」 狼の顔で笑って見せる奈々子。口の端から、僅かに牙が覗いていた。 「まずはその花粉を止めなさい。従わぬようなら、貴女を手折るわ、こんな風に」 警告の意味を込めて、奈々子は桜の木に触れた手に力を込める。パルフェの注目を引く為の演技である。しかし……。 「弱肉強食。動物も植物も、一緒なのですわ」 と、呟くパルフェ。余裕の表情。 思わず奈々子の動きが止まった。否、思わず、ではない。奈々子の意識がパルフェに向いたその一瞬。その一瞬で奈々子の指先は石化していた。濃い桜の香りに混じって、薔薇に似た香りが漂っていることに気付いたのは、まさにその時。 その時にはすでに、奈々子はパルフェの技の影響下にいた。奈々子の表情が凍りつく。それを見て、パルフェはにたりと、嫌な笑みを浮かべたのだった。 「腹の探り合いなんてする暇もなかったわね。ま、いいわ。帰んないならいつも通り消し飛ばすだけよ!」 自身のパラメーターを高めながら杏が駆け出す。パルフェと一般人を遠ざける策を用意してきていたのだが、どうやら使う暇はなさそうだ。と、いうのもパルフェは恐らく、こちらの話しなどまともに聞いてはくれないだろう、とそう思ったからだ。人の形をして、淑女のようなドレスを纏っているとはいえ、相手はアザ―バイド。おまけに植物の仲間だ。 パルフェを突き動かす最たるものは生存本能なのである。 魔方陣を組み上げ、4色の魔光を撃ち出そうとする杏。しかし、パルフェと杏の間に割り込む一般人達。一般人保護を最優先にしている彼女からしてみれば、これはまずい。攻勢に回ることができず、動きを止めてしまう。数名の一般人が杏に組み付いて動きを妨げる。 一瞬、視界が白く煙る。パルフェが花粉の量を増やしたのだろう。操られた一般人達が公園に散る。桜の木を、特にパルフェを守るように。 しかし、そんな混戦状態を抜けてパルフェに接近する影が2つ。要とティエだ。盾を振りあげ、パルフェへ飛びかかる要。その隙に、ティエが石化した奈々子の体を回収する。 「ブロックさせてもらいます……」 パルフェの視線を遮るように盾を構える。大きくよろけるパルフェを、押し込むようにして前へ。一方、ティエは奈々子に対してブレイクフィアーを発動。状態異常の解除に掛かる。そんなティエへ襲い掛かる一般人達。流石に20人ほどもいると、1人当たりが対応する人数もそれなりのものになる。奈々子の石化を解いたティエは、周囲の一般人達へとアッパーユアハートを使用。前線から後退する。 「ワタシ、こっち何とかしますから、よろしくお願しますよ!」 真紅の修道女、海依音が自身に迫ってくる一般人達を杖で殴りつけた。1度や2度では意識を刈り取ることはできない。それならば、と海依音は周囲に眩い閃光を撒き散らした。 「痛いのは最初だけといいますし」 意識を失った一般人を後ろへと放り投げる。荒っぽい方法ではあるが、一々丁寧に対応していては埒が開かない。 海依音やティエ、杏らが操られている一般人と相対しているその間、ルナはアディを伴って公園の外周沿いに駆けていた。感情探査で人のいない位置を探し、一般人との遭遇を避けて移動する。少々時間がかかってしまったが、やっとのことでパルフェの背後に辿り着いた。 「あの子のやろうとしている事は、私達で止めてみせるよ!」 ルナが両手を空へと向ける。瞬間、周囲に降り注ぐ無数の火球。それに気付いた要がパルフェの動きを止めるべく盾を掲げ、進路を塞ぐ。 「火っ!? ぁ、ぁ!!」 火球に焼かれ、パルフェが悲鳴をあげた。どうやら炎は嫌いらしい。 「あっちへ飛ばして!」 と、ルナは自分達の来た方向をアディへ指し示す。それを受け、アディは前へと駆け出した。刀を大上段に構え、パルフェへと駆ける。 「おぉぉぉ! 吹き飛ばす!」 大上段から振り下ろす刀の一閃。オーラによって爆発的に威力を増したそれが、パルフェを捕らえる。轟音、衝撃、吹き荒れる空気。花粉とドレスの破片が舞った。その時、ふわりとしたラベンダーの香りが周囲に漂う。アディ、ルナ、要がその香りに気付いたその瞬間、3人の体中が切り裂かれ、血が飛び散った。パルフェの放った花粉の刃だ。 「甘くみるからですわ」 十数メートル先で、よろよろと起き上がるパルフェがそんなことを呟いた。桃色の髪が風に煽られ、薔薇の香りの花粉を撒き散らす。広域範囲攻撃で誰から構わず攻撃するつもりなのだろう。 と、その時。 数発の魔弾が、パルフェの体を背後から捕らえる。胴を撃ち抜かれたパルフェが、踏鞴を踏んでその場に倒れた。パルフェの背後から魔弾を放ったのは、花粉に紛れ姿を隠していたフィリスであった。 「花は人を魅入らせるが、お前もその枠組みからは外れまい。ふふ、大層など毒婦だよ、お前は。故に……間引かせて貰うとしよう」 酷薄な笑みを浮かべるフィリス。小さく舌打ちしたパルフェは、懐に仕舞っていた大きな扇子を取り出して見せる。扇子を一振り、バニラの香りの花粉が舞った。 花粉を吸い込んだフィリスの瞳が僅かに揺れる。魅了の効果とダメージによって、フィリスは口端から血の筋を流す。ふらりと揺れるフィリスに迫るパルフェ。 扇子を握った手を伸ばした。その瞬間、何処からか飛んできた弾丸が、パルフェの腕を撃ち抜いた。木端が散って、扇子が地面に落下する。 「貴女の世界では当然のことでも、こちらの世界では違うの。ここの桜達の気持ちは考えた? 茨のような御嬢様」 現れたのは、拳銃を構えた奈々子である。銃口をパルフェに向けたまま、彼女はそっとフィリスに歩み寄る。ブレイクイービル。状態異常を癒す光が、フィリスを包む。 「桜の気持ち? 考えるまでもないのよ。私達はただ、生きるだけ。生きて、美しい花を咲かせるだけなのですわ。邪魔、しないでくださる?」 破れた服を摘まんで、パルフェは顔をしかめてみせた。 「アタシとしては疲れることなんかせずに解決して帰りたいのよね。さっさと帰ってくれないかしら」 ハープに似た武器を手に、杏は押し寄せる人並みを突っ切って飛びだした。一般人は皆、花粉に侵されパルフェの影響下にあるため杏を止めようと追いかける。と、そこに割り込んできたのはティエである。アッパーユアハートを使用して、一般人の注意を自身に集める。鎧を着込んでいるし、剣も盾も持っている。しかし、相手が一般人ではそれの機能を十全に使用するわけにもいかない。力任せに振り下ろされる拳を、なんとか防ぐ程度。 「人間を餌だなんて気持ち悪いにも程があります。はーい、ごめんなさいね」 ティエの加勢に現れたのは海依音だ。杖で殴りつけ、気を失った一般人を公園の端へと放り投げる。アザ―バイドが嫌いなのだろう。視界の端に映るパルフェを見て、苦虫噛みつぶしたような表情を浮かべた。 「しなびた花は美しいとはいえませんものね。貴女のエゴには飽々なんですよ」 吐き捨てるようにそう言って、海依音はティエと共に一般人の対応へと回るのだった。 「皆怒ってる。これ以上、誰かが傷つかないようにしたいんだけどね」 ルナが感情探査で感じ取ったのは、渦巻く怒りの感情だった。白く煙る公園内は、けたたましい悲鳴と怒号、戦闘の音で埋め尽くされている。騒乱の最中を駆け抜けるのは、ルナ、アディ、要の3人。パルフェを公園の端へ吹き飛ばした事により、幾分かは一般人を巻き込む可能性も減っている。一重に彼女達の活躍によるものだ。 「邪魔だ」 足元に倒れていた一般人を掴みあげると、アディはそれを後方へと放り投げた。 「………なんとも、心苦しくはあるんですけどね」 襲いかかって来た一般人を盾で弾き、気絶させる要。戦闘の邪魔になるのでぐったりしているその体を、公園の隅へと押しやった。ティエと海依音が一般人の相手をしているのだが、それでもパルフェに呼ばれてそちらへ向かおうとする者も若干名存在する。 パルフェの傍へ、一般人を近寄らせるわけにはいかない。要は盾を構えてその場に立ち止まった。パルフェの元へ一般人を行かせないように、また、公園の方へパルフェが戻れないように、要はその中間に立って、両者をブロックする役割に回る。 「護ってみせます……」 要はそっと、そう呟いた。 周囲に飛び散った花粉が爆ぜる。爆、熱気、そして桜の香り。広範囲に巻き起こる爆発にリベリスタ達が巻き込まれる。飛び散る炎を切り裂いて、アディとルナが飛びだした。炎に巻かれたルナは肌を赤く腫らしている。アディにしても、恐らく鎧の中は灼熱地獄と化しているだろう。 「貴様、何故斯の世界へとやって来た。此処は貴様らの遊び場ではないぞ、遊びに来るのならば、保護者同伴の元、然るべき態度へやって来るべきだったな」 大上段に構えた刀から、雷が迸る。それを見て、パルフェの顔に恐怖が浮かぶ。 「パルフェちゃんの世界の桜と、この世界の桜は別物なんだよ。だからお姉ちゃん、早くお家に帰ってくれると嬉しいんだけど、ダメかな?」 首を傾げ、そう問いかけるルナ。 「……それは嫌ですわ」 パチン、とパルフェが指を鳴らす。同時に、周囲に舞っていた花粉が再度、大爆発を巻き起こした。 ●花粉舞い散る 「う……げほっ」 血混じりの咳を零すルナ。土煙りと熱風の吹き荒れる彼女に前に、倒れ込む影が1つ。刀を手にした白い鎧。焦げて煙を上げているが、それはアディであった。恐らく、ルナを庇って傷を負ったのだろう。死んではいないようだが、戦闘不能、と言ったところか。身じろぎする度、軋んだ音をたてている。 しかしアディは、刀を支えによろよろと起き上がった。ルナはそっと、その背に手を置くと目を閉じた。 「アディちゃん……。お仕事が終わったら皆でお花見をして帰るんだから……ね?」 アディの傷を癒すルナ。爆風と大量の花粉に覆われ、視界は悪い。頬に汗を浮かべ、内心焦りを感じながらも、彼女はアディの傷を癒すことに専念するのであった。 花粉に紛れ、様子を窺うパルフェ。場合によっては、一旦退却するのも仕方ないか、とそう考えていた。けれど、それでは彼女の気が済まない。徹底的に嫌がらせをしてやろう、とバニラの香りのする花粉をばら撒く。 と、その時。 「剪定は危険そうな所から斬るのが基本よね」 銃声が1つ。前に伸ばしたパルフェの右腕が撃ち抜かれ、木端が散る。腕が折れて、地面に落ちた。腕の形は人のそれと大差ないが、断面から覗くのは筋肉や骨ではなく木材のそれである。 「く……。また」 呻き声をあげるパルフェ。残った左腕を前へ。ラベンダーの香りと、花粉の刃が奈々子を襲う。刃に押されて後退する奈々子。しかし、その背後から飛び出す人影。ピンクの髪を舞い踊らせるフィリスである。 「お前の美しさには敬意を払おう。故に、加減など出来ぬぞ?」 展開される無数の魔弾。一斉に放たれたそれが、花粉を打ち消し、パルフェを襲う。花粉と土煙りで、視界が一瞬、真白く染まった。 着地し、パルフェに接近するフィリスと奈々子だが、そこにパルフェの姿はない。花粉に紛れ、どこかへ逃げていったようだ。 逃げようとした先には、要の姿があった。視線を巡らせるとティエや海依音もパルフェを探しているようだ。奈々子とフィリスから逃げても公園内は敵だらけ。このまま逃走してしまうと、パルフェの目的は果たせない。 リベリスタの存在を知らなかったことを、彼女は後悔していた。 と、同時に気付く。彼女達は、一般人の相手をする際、細心の注意を払っていることに。いくら雑に扱ってみたところで、手加減していれば分かるのだ。 それならば、とパルフェは体を花粉に変える。風に紛れて要の傍へ。狙うは、地面に倒れた一般人だ。パルフェは一般人へと手を伸ばす。 その時。 「まったく、桜に血を吸わせようなんてとんでもないやつだわね」 なんて呆れた声と共に、4色の魔光がパルフェを襲う。人質を捕らえることに失敗し、パルフェは後退。魔光が飛んできた方向を見ると、そこにはハープを構えた杏の姿。パルフェの接近に気付いた要も、こちらに視線を向ける。 それならば……と、桜の花粉を撒き散らす。巻きこめるだけ巻き込んで、敵を爆発させる気だ。リベリスタは無理でも、一般人ならばこれで十分殺傷できる。 にやり、とパルフェは意地の悪い笑みを浮かべた。 しかし、次の瞬間。 「如何様な理由があろうと、貴様らのような存在を許すわけにはいかぬ」 花粉の壁を突き破り、アディが飛び出して来た。振りあげた刀が、雷を迸らせる。背後からの1撃。肩から胴へ、袈裟がけに切り裂かれ、パルフェはその場に倒れ伏した。 「消え去るがいい」 雷に打たれ、パルフェの体が黒く焦げる。 一瞬の出来事だった。パルフェの体が燃え尽きて、花粉が消える。 後に残ったのは、僅かな桜の香りだけだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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