●Ye Guilty 「エリスタ、ダメじゃないか……またこんな悪戯ばかりして。神様は何時だって、見ておられるんだよ?」 あれは、そう……私が未だ、あの場所に居た頃に聞いた台詞だ。 私には、生まれつき両親が居なかった。 物心着いた時には、そういう子供を集める施設にいて、そんな私を引き取ってくれたのが街の小さな教会の神父さまだった。 神父さまや、教会を訪れる人達はとてもやさしく私に接してくれたけれど。 けれども私は、それが身寄りのない私への皮肉や、或いはもっと別の何かに感じていた。 だから、私はわざと神父さまや皆を困らせる事を良くやっていたのだ。 もっとも、心身共に子供だった私に出来るようなことなんて、たかが知れていたのだけれど。 そのたびに聞かされたのが、あの言葉だ。 ――神様は見ておられるんだよ? いつか、罰をくだされるかも知れないからやめておきなさい。 くだらない。 神様なんて、居るわけがない。 だって、もし神様が居るのならどうして私には父も母も居ないのか。 どうしてこんなにも神父さまや皆に迷惑をかけ続ける私には、天罰とやらが下らないのか。 神父さまの優しく、温かい私を諭すような言葉が紡がれるたびに私のなかでは、何かどす黒い感情が生まれ始めていたのだ。 私が、人生の中でもっとも取り返しのつかない、もっとも赦されざる悪戯をしてしまうのは、それからほんの少し後の事。 私に優しくしてくれた人達を殺し、無関係な人達を殺し、あげくその生を、死を――侮辱し続けても。 今も、神様は私に罰をお与えには至って、いない。 「さぁ、アンコールよ。私の鎮魂歌(レクイエム)は未だ――」 そう、終わっては居ないとエリスタは愛用のトロンボーン――ユダの嘆きに手をかける。 死者を侮辱し、神を嘲笑う裏切りの鎮魂歌が淡路の島に響き渡った。 ●『追』演、混沌組曲 『序』に始まり、『破』『急』と奏で続けられた混沌組曲。 三度にも及ぶ激闘の末、アークは『楽団』の指揮者たる『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ及びモーゼス・“インスティゲーター”・マカライネンを討ち取る事に成功した。 無論、それは言うまでもない大きな戦果であるし、楽団は事実壊滅に近い状態ではあったがしかし、『楽団』側には未だ『第一バイオリン』バレット・“パフォーマー”・バレンティーノと『歌姫』シアー・“シンガー”・シカリー両名が生存していた。 先の激戦の中で、奏でられたアークの演奏とも呼べる奮闘にシアーやバレットを始めとした生き残りの楽団員達は再戦を誓ったのだ。 彼等にはもはや指揮者は存在しなかったが、即興演奏が止まる事はない。 演奏により死者を操る彼等が目をつけたのは、楽団への恐怖と不安が未だ強く残り続ける近畿、中国、四国、そして沖縄だ。 戦力を増強した彼等は、指揮者の死亡というアクシデントによって中途半端に終わってしまった混沌組曲の一部分を奏で始める。 其の様はまるで、アンコールのよう。 ●混沌渦巻く神の島 「混沌組曲事件は、ひとまずの収束を得たわ。これも貴方達の頑張りのお陰」 ねぎらいの言葉を贈る『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声色は僅かに安堵の色を浮かべている。 「ただ、決戦で逃げ延びたりそもそも決戦に参加せず、隠れ潜んでる楽団員も僅かだけど残ってる」 貴方達には、事後処理とも言うべき楽団員達への追撃をお願いしたいとイヴが言う。 「先の『破』の事件で兵庫県明石市で相見えた『レクイエム』エリスタ・ハウゼンという楽団員。彼女はモーゼスやシアーを始めとした一部の楽団員と共謀して、組曲のアンコールを行おうとしてる」 指揮者の死亡で中途半端に終わってしまった組曲の一部分。 それを指揮者不在のまま、 一曲奏でてやろうというのである。 そう、例え指揮者がいなくなったとしても彼ら楽団員には、自身が操る『楽器』もとい死体や亡霊が多数残されていたのだ。 「兵庫県淡路島――日本の国産み神話の残る場所である近畿地方の一角。そこにエリスタは居るわ」 彼女は無論、多数の死体達を従えているが……それは流石に先の『急』の事件で三高平市を襲ったほどの規模ではない。 むしろ、これは好機でもあるのだ。 彼女たち楽団員が本気になれば、もっと時間をかけて死体を少しずつ増やし勢力を高める事も出来ただろう。 戦力がこれ以上整わないうちに、向こうからわざわざアンコールをかけてくれているのだ。 これを狙わない手は無い。 「彼女が居るのは、淡路市のとある神社。三高平の戦いにも参加しなかった彼女は、そこに潜伏していたみたい。そんな時に他の一部楽団員達同様にアンコールの誘いを受けて参加したみたいね」 これ以上、楽団の勢力圏で好き勝手にさせるわけにはいかないと。 直ぐに現場に急行、彼女を撃破してほしいとイヴはリベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月06日(土)22:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●祈-ねがい- 兵庫県淡路島。 遠い昔、神話の時代。 神の手で創られた逸話の残る島々のひとつである。 この島を創った神は、いまもこの地に建てられた神社を幽宮とし眠っているという。 「やっほー、アークが来たよ。あとは言わなくても解るよね?」 件の逸話の残る神社。 境内で一人、望まれぬアンコールを奏でていた修道女に『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が声をかけた。 少女が奏でていたトロンボーンの手が止まる。 周囲には、彼女に付き従う様に鎮座する無数の亡者たち。 「ほんと、モノ好きよねアーク。こんな場所まで、わざわざ私のアンコールを聴きに来てくれた訳?」 「指揮者は既に我々が討ち取った。だというのに、君の鎮魂歌は終わらないのかね? エリスタ嬢」 それが罪と知りながら、罪を重ね続ける楽団員――エリスタ・ハウゼンに『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が問う。 「ケイオス様が討ち取られたからこそ、かもしれないわね?」 エリスタのトロンボーンが奏でる音色に合わせ、周囲に鎮座していた亡者たちがゆっくりと起き上がる。 光の決してやどらない彼等の目が見据えるものはエリスタに害なすリベリスタ達。 「止めて、欲しいんじゃないのか?」 「面白い事を言うじゃない。あなたは?」 「不動峰 杏樹。シスター・エリスタ。君を見送りにきた」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の言葉にエリスタが鋭い視線を送る。 「君は、親がいないらしいね」 私の親も二度居なくなったよ、と杏樹がつぶやく。 杏樹がわざわざ自分の生い立ちをエリスタに告げたのは、何処か目の前の彼女に感じた親近感からか。 「どこで知ったのか知らないけれどっていうのは、あなた達アークには不適当よね? ええ、私には尊敬すべき父も、愛してくれる母もいない。神様も酷いわよね、本当に居るというのなら私や貴方にそんなひどい仕打ちなんてしないもの」 大っ嫌い、とエリスタは憎悪の感情を隠そうともせずに本来仕えるべき主への罵倒を吐き捨てる。 「自分が不幸なのを神様がいないせいにしたいのか? 甚だしい勘違いだ」 私には理解できないな、と『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)。 「理解なんて求めてないわ」 「そうか、なら理解の代わりに私が貴様を裁いてやる。この――この蜂須賀 朔が」 貴様を裁く、と剣をエリスタに向ける。 「ねぇ。キミは『かみ』が居ないという」 「そうよ。この世界に神様なんていないわ」 『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)の言葉にエリスタが答えた。 「でも、その存在をキミはずっと心に住まわせている」 『かみ』は、エリスタの中にちゃんと居るよとヘンリエッタは言う。 「キミのしてきた事をいつも見ているのは、キミ自身だ」 そして、キミの行動の結果は、キミに返ってくるとヘンリエッタは言葉を続けた。 「私には神様っていうのはよく分からないけれど、悪い事をしたら悪いって罰を与えられるのは、当然だよね」 結局、人に罰を与えられるのは同じ様に地に足をつけて、悪い事を悪いって言える人でしかないんだよ、と『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)がヘンリエッタの言葉に続く。 ボトムチャンネルとは異なるチャンネルで生まれた彼女達にとって、この世界における信仰は知識のひとつでしかない。 否、だからこそ自分達が得たその一つの答えを、躊躇う事なく眼の前のエリスタへとぶつけられるのだ。 「貴女に、私に罰を与える事が出来るかどうかは、分からないけどね」 そうやって嘲笑うように言うエリスタの姿に、何処か嘲笑以外の感情が含まれているように、二人は感じた。 「罰を与えられるかは、私にはわからない。だからエリスタ。私があなたを叱ってあげる」 『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)が神へ祈りを捧げた事は生まれてこの方、一度もなかった。 だから、ヘーベルには神様の気持ちも、神様に祈る人の気持ちもわからない。 エリスタはきっと、今でも神を信じているのだろう。 でなければ、わざわざ口に出して否定したりなんかしない。 「さて、話はこれくらいでいいかしら?」 「そうだな。いい加減、鎮魂歌は終わりにしてお前さんの操ってる仏様を自由にしてもらう」 これ以上、お前等楽団に好き放題はさせないとと『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が発光しながら槍を構えた。 「出来るかしら? さぁ、アンコール再開よ。しっかりと聞いて逝きなさい?」 言葉と共に、彼女の楽器たる亡者達が一斉に動き始める。 「では――任務開始だ」 手はず通りの数、油断なく行こうとウラジミールが任務開始を告げた。 ●罰-のぞみ- 逆十字の刻まれた鎧を身に纏いながらエリスタが、戦場に美しくも物哀しい音色を響かせる。 その音色に合わせるように、楽器たる亡者のソードミラージュが戦場を疾走る。 意思のとだえた瞳、青白い肌でありながらもエリスタの演奏によって再現された業。 光の飛沫が散るような攻撃――アル・シャンパーニュが回復スキルを所持しているヘーベルを狙う。 「あなた達のしぶとさは、ケイオス様を討ち倒すくらいだもの。まずは癒し手から狙うのが妥当よね?」 言葉を発さない亡者の代わり、と言わんばかりにエリスタが妖しく嘲笑う。 「ヘーベル、大丈夫かい」 「大丈夫。このくらい平気!」 その身を裂かれながらも、ヘーベルがヘンリエッタに笑顔で応えた。 「では、私は私のやる事をしよう」 エル・ファストブースト。 ヘンリエッタの周囲に漂う魔的要素が彼女自身に次々と取り込まれていく。 ブーストされた魔力が、ヘンリエッタの力を大きく高める。 ヘーベルを切り裂き、次の獲物を探すようにゆらりと起き上がる亡者を、槍の強烈な一撃が吹き飛ばす。 「何処を見ている。オレの目の黒い内は、二人に近づけると思うなよ」 緋色を基調とした長槍『魔槍深緋』を構え直すフツがヘーベルやヘンリエッタの前に立つ。 「貴方、その槍……面白いものを持ってるじゃない。その子にも、私の演奏聴かせてあげるわね」 「遠慮しておく。鎮魂歌は直ぐに終わる」 「死んだ人々の躰を弄ぶ演奏なんてこれ以上続けさせたりしない!」 革醒者と思しき亡者をブロックするべく前に出た魅零が先ほどフツの攻撃を受けたソードミラージュもろとも数体の亡者へ向けて、暗黒を放つ。 空を覆う夜の闇。 その闇より深く、黒い不吉をもたらす漆黒の闇が濁流と成って亡者たちを呑み込む。 無論、亡者達も只々やられる訳ではない。 彼等は既に死んでしまっている。 故に、死の畏れを知らない彼等は如何な攻撃を受けようとも怯むことはない。 闇から這い出た亡者たちが、手近なリベリスタ達へと襲いかかっていく。 畏れを無くし、感情のないままに生前の力を振るう彼等。 その中には、エリスタの指示で直ぐ様先ほどの暗黒による攻撃への回復を行うホーリーメイガスらしき個体も居る。 「やはり厄介だな。こちらも相応に、手堅く行かせて貰おう」 押し迫る亡者のタックルを、対テロ戦を想定したハンドグローブ『サルダート・ラドーニ』で防いだウラジミールが亡者たちを見据える。 一点の曇りすらない輝き。 神を、生者を弄び冒涜する楽団の演奏を許さぬと破邪の光がウラジミールの武器を鮮烈に彩る。 「――先ずは、そちらを排除させて貰おう」 切る事と突く事。 その双方のデザインを両立させたコンバットナイフ『КАРАТЕЛЬ』の鋭利なブレードが死してなお、仲間を癒し続けるホーリーメイガスを突き、切り裂く。 「シスター・エリスタ。やはり、悔い改めるつもりはないか?」 「当然。シスター・杏樹」 なら、ここで終わりにしようと杏樹が自動拳銃『魔獣バーニー』を革醒者の亡者達へむける。 「神様は居て貰わないと困る。私がぶん殴れないからな」 バーニーから放たれた魔力の矢が、インドラの炎を纏いながら彼女の前に存在する全ての亡者へと降り注いでゆく。 決して、逃れようのない烈火の熱量で神社の境内が赤く光り、染め上がる。 それはまるで、全てを等しく公平に見下ろす神のよう。 その猛火に、亡者の一人を盾にし難を逃れたエリスタが軽く舌打ちを打った。 「私は神がいるかどうかなど、どうでも良い。否、むしろいない方が良い」 亡者の攻撃を避けながら、全身を速度のみに最適化させ、反応速度・身体能力のギアを大きく高めた朔がエリスタに言う。 「それはどうしてかしら」 そんな朔の言葉に、エリスタが疑問を投げかけた。 「この私の人生、運命、その全て。神如きに左右されるのは御免だからだ」 人の世のことは人の手にあるべし、と朔は言う。 そして、神がそれを阻害する存在であるならば、彼女はその神を躊躇う事なく切り捨てる。 その言葉を体現するかの様に、反応速度の上がった身体を動かし、手近な革醒者の亡者をアル・シャンパーニュが襲う。 かの魔女アシュレイが彼女の為にしつらえた魔を斬り、呑み、喰らう妖刀『葬刀魔喰』。 その妖刀を内部に搭載した電磁力によって、最速での抜刀を可能とした鞘『電鞘抜刀』。 殺傷力を極限まで高められた刀と鞘の、光散る舞が亡者の身体を斬り裂く。 「ヘーベルちゃん、良く頑張ったね。今、お姉ちゃんとフィアキィが癒してあげるから」 最初に痛手を負ったヘーベルの傷を癒す様に、ルナが『魔力増幅杖 No.57』を構えながら、フィアキィに命じる。 ヘーベルの周囲をくるりと漂うように周るフィアキィの癒しの力が、瞬く間に彼女に起ち上がる体力や気力を与えていく。 ありがとう、と微笑むヘーベルにルナが頷く。 「今度は私が皆の傷を! マイヒーロー!」 戦場に立ち込める死者の歌を、かき消す様にヘーベルの天使の歌が響き渡る。 清らかで優しい複音の歌。 自分の信じるヒーローの為に歌われた音色は、自分を含めた仲間達の傷を少しずつ癒していく。 「そんな歌。私の鎮魂歌でかき消してあげる」 十字架刑よ、とエリスタがトロンボーンを激しく奏でれば周囲から湧き出た霊魂や這いずる亡者達の飛ばされた手足が、その音色を聞いたリベリスタ達全てに跳びかかり抑えかかる。 彼女の得意とする戦術は、自身の演奏による絡め手からの亡者による一斉攻撃。 曲による呪縛で動きを封じ、立ち上がる力を奪い、数の力にものを言わせ徹底的に、蹂躙する。 身体の自由を奪われたリベリスタ達に次々と、亡者達が襲いかかっていく……だが。 「残念だが、その手の術は私には通じん」 絶対者たる資質を持つウラジミールが自身に纏わり付こうとする霊魂や肉片達を物ともせずに振り払う。 「やるじゃない」 「油断出来る相手ではない事は重々承知していたからな」 ウラジミールが『КАРАТЕЛЬ』を天に向け掲げれば、邪気を退ける神々しい光が疾走り仲間たちの呪縛を消し去っていく。 「キミの思い通りに事は運ばない。何故だか解るかい?」 「何故かしら?」 「キミの行動。その全ての結果が、かえってくる時が来たんだ」 「……」 無言で睨みつけるエリスタに、ヘンリエッタは動じずにエル・バーストブレイクを放つ。 まるで豪雨の様に降り注ぐ火炎の弾が亡者たちに次々と、着弾していく。 炸裂する火炎の嵐に飲み込まれた亡者達がなすすべなく吹き飛ばされ、あるいは燃えつき、腐臭と共に朽ちて地に還っていく。 「ちっ」 降り注ぐ火炎を、演奏を止める事なく躱してみせたエリスタだったが、失った楽器たちの痛手は小さくはない。 何より、当初より狙われ続けたホーリーメイガスを始めとした複数の革醒者の亡者を失った事はリベリスタ達には、大きな戦果だ。 (結果がかえってくる時が来た? 笑わせないで。だったら――) 私のねがいが、叶うというのかしらとエリスタは喉元までのぼってきた言葉を思わず引っ込める。 ほんの一瞬、時間にして一秒にも満たないその僅かな時間。 エリスタの顔に、何処か今迄と違う表情が宿った――そんな気がした。 「よくも縛ってくれたな。コイツはお返しだ」 フツが、素早く印を結ぶ。 東洋の秘術、陰陽術。その中でも四神を従えるまでの域に達したフツが放つ陰陽・極縛陣。 展開された結界がエリスタを含む、結界内に存在する全ての亡者たちの動きをまるで超重力の網にかけるかの如く激しく、鈍化させた。 「エリスタ、殺したことがいけないとは言わないわ」 「何よ、突然。今更、説教でもするつもり?」 「違うわ、私は聞きたいだけ。あなたは過去に大切な人達を手にかけた。それもどうこう言うつもりはない。けれど、譲れないのは『なんのために殺したか』ってとこ」 暗黒で、亡者たちをなぎ払いながら魅零は問う。 大切な人達を殺したのは、何故なのかと。 そこに、いかなる理由があったのかと。 「私は世界のため、リベリスタだから必要なら殺しを行うわ。ね、貴方はなんのために殺すの?」 その、問いに。 「――――楽しいから、殺す。神様が嫌いだから、殺す。命を、弄ぶのが好きだから殺す。これでいいかしら?」 数瞬の間を置いて、殺人者たるに相応しい理由をエリスタが返す。 「嘘だ。君は、そうやって神様の罰を待ってるんだ」 「嘘じゃないわ! 本当よ? というか、そんなのどうでもいいでしょう?」 嘘、と言い切る杏樹に一瞬、エリスタが激高するように声をあげるも直ぐに普段の調子へと戻る。 インドラの矢に焼かれ、亡者たちが灰に還っていく。 気付けば最初は多かった亡者達の数も既に半数以下にまで減っていた。 「神様は全てをみてるよ。理不尽で、不条理なほど公平だからきっと全てを見下ろして受け入れてるんだろうな」 だからこうして、まだお前を止める機会が巡ってきたんだと杏樹が言う。 ●終焉-おわり- エリスタとリベリスタ達の攻防は続く。 決して諦めない心は、如何に亡者達がタフであろうと竦む事はない。 「貴様が幸せでないと感じるならば、それは貴様が戦わなかったからだ」 確かに、誰もが勝利出来るわけではないだろう。 だが、誰もが戦うことが出来ると朔が言う。 「エリスタちゃん。君が罰を欲しているのなら、お姉ちゃんが君に罰を与えてあげる。だから、悪戯も此処でオシマイにしよう?」 ルナのエル・バーストブレイクにあわせて朔がエリスタの懐に飛び込む。 エリスタを含めた亡者達に降り注ぐ火炎の嵐、その中をかき分けるように一筋の風となった朔が刀と鞘の二刀流によるアル・シャンパーニュを放つ。 火炎の嵐によって、不死にも似た力を授ける亡者の鎧は焼け落ち、顕となった修道服を鋭い朔の一撃が引裂いた。 「神父様は神様に嫌な事を任せて、エリスタを叱らなかったんだね」 怒る事はきっと誰かがしてきただろう。 ヘーベルの脳裏に、お母さんとの記憶が蘇る。 自分を叱るお母さんの姿は少し、怖い。でも、必ず最後には許してくれた。 「神様が怒らなくても、ヘーベルは怒るよ! でも」 最後には母の様に赦してあげたい、と気持ちを込めながらヘーベルは仲間の傷を癒すべく歌う。 「まだよ! まだ、私の鎮魂歌は終わっていない」 自身を護る鎧を剥がされたのが意外だったのか、戸惑うエリスタが掌に霧散した霊魂を集中させ、放つ。 「いいや、終わりだ。エリスタ嬢……罪の重さに負けた君に、神に背を向けた者に最早明日はない」 エリスタへの接近を邪魔する亡者を退け、彼女を挟み込むように朔の反対側にウラジミールが立つ。 「お前さんに逃げ場はない」 フツの言うとおりエリスタの主戦力たる革醒者の亡者は最早存在せず、残った亡者達も先のフツの陰陽術によってその動きを抑制されている。 「因果応報。いつか私にも天罰来るのだろう、けれど今日は天罰する日。貴方は少し殺しすぎた」 じり、と後退するエリスタの進路を阻むように魅零が立つ。 退路は作らせない。此処で、逃がすような真似はしないのだ。 「悪い事したら、ごめんなさいだ」 拳骨を作り、エリスタに向けた杏樹が言う。 「さよなら楽団」 「鎮魂歌の続きは、あの世で神父様に聴かせてやれ」 魅零が自らの痛みを、呪いにかえチェーンソー『ラディカル・エンジン』に乗せトロンボーンごと、エリスタの身体を大きく斬り裂く。 砕かれたトロンボーンの破片がバラバラバラと宙を舞う中、魅零に続くように放たれた杏樹のインドラの矢が静かに彼女の胸を貫いた。 「出会ったばかりだというのに、別れなくてはならないのは残念だけど」 さようなら、エリスタとヘンリエッタが呟いた。 ●赦-こたえ- 「寂しかったね」 朦朧とする意識のなか。 エリスタは不意に、そんな声をきいた。 炎の矢に射抜かれた胸の痛みは終わりが近い事をはっきりと示している。 だから、声の主が誰なのかは今のエリスタにはわからなかったけれど。 漸く、漸く祈りが届いたというのに。 漸く、漸く罰が下ったというのに。 どうして、私の髪を撫でる誰かの手のひらの温もりは、こんなのも温かいのだろう。 きっと、私は罰を望んでなどいたのではなかったのだ。 私が本当に望んでいたのは、きっと――。 神を冒涜しつづけた罪深き少女が、最期に得た答えは。 「連れ帰る事は出来なかったけれど、でも」 自分の想いは通じただろうとヘーベルは、もう動かなくなった彼女を抱きしめる。 彼女の罪は重い。 けれども今は、今だけは赦しと安息の鎮魂歌を。Amen。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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