● 「まったく……なんとふがいない事でしょうか」 薄明かりに照らされる部屋の中で、その少女――桜木・詩織は小さくため息をついた。 彼女はこれまでの戦いにおける、仲間達のふがいない結果を憂う。嘆く。 アーティファクト『未来視の乙女』と『闇の御使』を巡る戦いの中で、神薙・蘇芳が敗北。 そして『霊刀ブリ』を巡る戦いでは風祭・翔が敗北し、逃走。 フィクサード七派のひとつ『逆凪』の中で、彼女をリーダーとする自己鍛錬とアーティファクトの回収を名目とした未成年だけで構成された部隊『アルティメットバトラーズ』は、半ば壊滅状態にあった。 「箱舟……面倒な存在ですね」 その直接の原因を作った存在はアークであり、詩織がアークに対して怒りを覚えるのは当然の話ではある。 だが間接的には、詩織自身も壊滅に一役買ってしまっているのだが、その事に彼女は気付いていない。 「あ……あの」 「……なんですか?」 何やら話があるらしい少年フィクサードを迎え入れた詩織は優しい笑顔を浮かべるが、当の少年の方は完全に詩織を恐れている様子が垣間見えた。 ――桜木・詩織は変わってしまった。 元は強さを求め、強者と切磋琢磨することを望み、仲間を大切にし――行いが一般的に言われる『犯罪』でさえなければ、好人物の類に入っていた少女のはずだ。 しかし今は違う。 僅か先の未来を予測するアーティファクト『未来視の乙女』を装着し強さを得た代償に、少女はその優しさと甘さを失ってしまった。 代わりに得たものは、味方ですら斬り捨てる冷徹な心と残虐性。 「あ、新しいアーティファクトの情報が、入ったんですがっ……」 優しい笑みの裏に隠れた狂気を知っているからこそ、少年は詩織に恐れを抱く。 「わかりました。――行きましょうか」 この時、少年は出来るなら1人で行ってくれと願ったことだろう。 使用者の力を増幅させるアーティファクト『闇の御使』は、確かに発動すれば詩織に強い力をもたらすアーティファクトではある。 代償として周囲の味方を『斬る』事が前提であるだけに、詩織に追随して任務に参加する事は即ち『詩織に斬られる』可能性を考えなければならないからだ。 「……やっぱり、俺もいかなくちゃならない、ですか?」 それでも少年は問う。自分が参戦しなくても良いか――と。 「何を言ってるんです。作戦って、1人じゃどうにもならないものですよ?」 答えた詩織は、そのアーティファクトのおかげで孤立し、自身の発言に矛盾が生じている事を理解していない。 作戦は1人では完遂できるものではない。 しかし『闇の御使』を所持する限り、詩織に仲間は存在しない。今の彼女にとっての仲間とは『闇の御使』を発動するための生贄であり、最終的には彼女1人だけが残る事だろう。 多くの仲間を連れ、詩織は情報のあったアーティファクトを入手するべく動き始めた。 ――否、その出鼻を挫くように、立ちはだかる少年がいた。 「やめておけ。……そのアーティファクトを置いていくなら、話は別だが」 その少年、神薙・蘇芳は2つのアーティファクトの危険性を知った上で、出撃する前に手放せと詩織に告げる。 「お断りしますわ♪」 もちろん、詩織がそれを聞き入れるはずもない。 彼女が引き連れるフィクサード達も、詩織の存在を恐れるせいか離れる事が出来ずにいた。もしも戦意をなくして離れようとすれば、その瞬間に後ろから撃たれる事も容易に想像できるからだ。 「……仕方ない、実力行使をさせてもらう。そのアーティファクトは、逆凪にとってマイナスの存在でしかない」 静かに息をつき、蘇芳は詩織に対して攻撃する構えを見せた。 狂気をもたらす代わりに未来を見せる『未来視の乙女』はともかく、味方を糧として力を得る『闇の御使』は、使用すればするほどに逆凪が痛手を被る。 止めなければならないと、作戦を阻害してまでも立ちはだかる蘇芳の行動は、大局的に見れば組織への反乱では決してない。 「……破壊で留めたいところだが。……最悪もありえるか」 蘇芳にとって、詩織は想い人である。故に、止める仕事を担うのは自身だとも理解していた。 「……うふふ、お仕置きが必要なようですね」 詩織にとっても、蘇芳は想い人ではある。だが、邪魔をするならば殺しても構わないと彼女は考えていた。 未来視の乙女と闇の御使。 2つのアーティファクトを巡り、想いは交錯する――。 ● 「アーティファクトっていうのは、怖い部分もあるわね」 と桜花 美咲 (nBNE000239)が考えるのも当然だろう。 強力な威力を持つ反面、デメリットも凄まじいアーティファクトは半ば『呪われている』存在とも考えられるからだ。 「でも、この2つを奪うか破壊するかで考えると、チャンスとも言えるのかしら」 傍から見ればフィクサード同士の内紛でしかないものの、美咲の言うとおりこれはチャンスである。 戦う両者がどちらもフィクサードであるが故に、誰かを、何かを守る必要はない。 単純に戦って奪い取るだけならば、苦戦はすれどもどうにかなるはずだ。 「ただし敵の数にだけは気をつけてね。多ければ多いほど、闇の御使の効果は強力になるから」 リベリスタ達は、蘇芳がある程度フィクサードを消耗させる事を狙って見捨てても良いし、共闘しても構わない。 目的が最終的に『破壊』か『奪取』かで同じであるこの時は、援護を申し出れば彼の協力は得られるだろう。 とはいえ、戦場はフィクサード達の拠点のひとつだ。 桜木・詩織は不利を悟れば迷わず撤退を決める上に、すぐには発見されないような隠れた通路がいくつも存在している事だろう。 邪魔をする蘇芳と、チームを壊滅に追い込んだリベリスタが戦場で肩を並べれば、或いは冷静さを欠くかもしれないが。 「と言う事で、この2つのアーティファクトを破壊するか、奪うか……皆に任せたわよ」 2つのアーティファクトを手に入れた事が、彼等の内紛に繋がった。 この内紛をどう利用するか――任務成功の鍵は、ここにある。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月31日(日)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●狂気の乙女 「結局は……こうなったのですね。自由の翼の懸念は間違い無かったという事ですか」 既に扉の向こうでは戦いが始まっているのだろう、蘇芳と詩織を含め22人のフィクサードが戦う音を扉越しに聞きながら、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)は過去の戦いで懸念されていた事が現実となったことにため息をつく。 内紛の原因をもたらした『未来視の乙女』と『闇の御使』は、『自由の翼』を名乗るリベリスタ集団から彼等が強引に奪い去ったモノ。 「勝手に仲間同士で削りあってくれる、というだけならむしろ歓迎なんだがな」 「逆凪が損するだけですので、ほっといていい気もするんですが」 そう『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)と『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)が言うように、その2つの効果による内紛で彼等が自滅するだけなら問題はないが、「厄介な攻撃が来るのは勘弁だ」と続ける鉅や他のリベリスタにとって、『闇の御使』の効果はあまり見過ごせたものでもない。 「では行きましょうか、蘇芳が倒される前に。あぁそうそう、フィクサードが一息に襲いかかる挙動を表すかもしれないけど、それは脱出へのフリですから」 詩織がそのような味方殺しのアーティファクトを使用する以上、相対するフィクサードの大半の士気は低い。ならばそこを突いて彼等を逃がす算段があるのだと、『おでんぱな』街多米 生佐目(BNE004013)は扉を開く直前に仲間達に告げた。 「あなたをやらなきゃ、俺達がやられるんです!」 「……気にするな。お前達もしばらくの辛抱だ」 後ろから仲間であるはずの存在に斬られる。その可能性はフィクサードにとっては恐怖政治と同じであり、逆らえばどうなるかなど明白だ。 「強さを求めた果てが仲間殺しかよ……洒落が効き過ぎてるぜ」 敵対する存在ではあるが、その戦う理由には共感している『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)にとって、詩織の堕落は落胆するものであり、怒りを覚えるものでしかない。 全ては『未来視の乙女』が力を与えた後の代償が原因ではある。 「心変わり、ってあることだと思うけれど、その理由がアーティファクトだなんて。それを壊せば元に戻るのかな? まだ間に合うのかな?」 考える『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)への答は『YES』だ。 全ての元凶はアーティファクトによるものであるため、『未来視の乙女』さえ破壊すれば詩織の狂気は収まりを見せる。 さらに言えば『闇の御使』を使用しても心が全く痛まない事もそれに起因しているのだから、端的に言ってしまえば『未来視の乙女』を破壊すれば全ては済む。 「取込み中失礼。アルティメットバトラーズへの臨時入会を希望するぜ」 「あらあら、お客様がいらしてしまいました。これは激しくお持て成ししなければいけませんね!」 姿を見せた影継や他のリベリスタを見てすらも、詩織はなんら臆する事も慌てる素振りも見せず、その笑顔を崩さない。 今、まさに配下に襲わせている相手が恋人である蘇芳であっても、殺しても構わない存在としか見えてはいない。 「未来視を得て失うのが心。でもね桜木君、今の貴方のほうが幾分も輝いて見えるのは気のせいでしょうか?」 そんな姿に、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は輝きを見た。 彼女にしてみれば、刃を交える詩織と蘇芳の姿は、我侭な彼女に振り回される彼氏と言ったところだろうか。 「そうですか? それはありがたいですね……。でも、あなた達には敗北というお持て成しを受けてもらいますよ♪」 笑みを絶やさぬまま、詩織は言い、リベリスタ達も敵だ、倒せと配下に指示を出す。 「幸運や偶然で拙者に勝てると思わないほうがいいでござるよ……。と言いたい所でござるが、今回は相手が悪そうでござるな……」 当然ながらリベリスタの側は素直に負けるつもりはなく、『女好き』李 腕鍛(BNE002775)も強気に言葉を返してはみたが、彼にとっては今回は少々相手が厄介だった。 (相手が女性……。ついてるというかついてないというか……複雑でござる) 女の子大好きな腕鍛にしてみれば、倒すべき相手が詩織であることが残念でならないらしい。 (――仲間20人、救う気はありますか?) リベリスタの乱入によって一時的にではあるが戦いが止まった中、悠月は今ならば可能だと蘇芳にハイテレパスでの会話を試みる。 (……可能ならばそうしたいところだが) 単なるテレパスではなく、望めば相手との会話も可能なハイテレパスであるからこそ、蘇芳の言葉も悠月に届く。 (利害は一致していると思います。協力する事はできませんか?) 彼女の持ちかける内容は、もちろん協力の打診である。 詩織は蘇芳を殺すことを厭わない。 そのためならば、『闇の御使』を発動して味方を傷つける、或いは殺すことも厭わない。 自分達の目的はその2つのアーティファクトの奪取、もしくは破壊なのだから――と。 (良いだろう、確かに利害は一致している) 彼女の打診に、二つ返事で答える蘇芳。 「神薙君。この恋物語、素敵に彩りましょう」 1つのアーティファクトによってすれ違う2人の恋物語は、果たして海依音の望む形で彩る事は出来るだろうか――? ●戦場の支配者 「敵の数が多いですね」 相対する敵が蘇芳だけならともかく、リベリスタまで乱入すれば9人にまで詩織にとっての『敵』の数は膨れ上がる。 25m四方の部屋は30人もの人間が戦うにはかなり狭いが、逆に言えば『闇の御使』の効果範囲に全ての仲間を収めている事にも繋がっていた。 加えて僅かに先の未来が垣間見える今、詩織はこの戦場を支配出来うる存在だ。 「他の皆には痛い思いさせるけど……ごめんね」 「届かぬ恋のものがたり。ワタシそういうの好きですよ、神薙君」 標的に詩織を定めぬままに輝くアリステアの裁きの光も、蘇芳にそんな言葉をかけながら放たれた海依音の聖なる光も、予想しえた『未来』として詩織は既に知っている。 (まずは数を減らしに来るのですね。そして私に対しては――) 踊るように、その場で軽くステップを踏む詩織。 「未来視の乙女……動きが読めるようになるのでしたか」 そのステップによって軽々と織り成された四色の魔光をかわされた悠月は、これが『未来視の乙女』の効果なのだと実感したようだ。 次に何が起こるのかがわかっていれば、体が付いていく限りは対処する事は十分に可能だろう。 それが詩織の強さへの追い風であり、リベリスタの策をも打ち砕く可能性すらも秘める存在。 「決まるまで手数で押し込むしかないだろう……!」 気糸を詩織に放った鉅は手数の多さで勝負しようとしたが、やはり未来を知られていては当てる事自体が中々に難しい。 「それにな」 ふと、前へと進もうとしていた影継の口が開く。 「どれほど弱き存在であっても、何時かは強くなって再び戦う事もあるだろう──。だから殺しは御法度、それがアンタらだろうが!」 少人数では広さを感じる部屋の中、多すぎる人数が入り乱れる戦場において最も奥に立つ詩織に近づく事は、影継程の実力者であっても無理がある。 故に彼は壁となり、彼女への道を阻むフィクサード達に言った。 「おおおおっ!!」 しかし斬りこんで来るソードミラージュは、答えようとはしない。否、答えてはいけないことを理解している。 刃を受けた影継は、その攻撃に込められた『どうしようもない』という気持ちを感じ、生佐目の方を一度だけ見る事で説得のバトンを彼女に渡す。 (どうかお聞きください。このままお互い闘っても、双方無事に済む事はないでしょう) 求めるのは、厄介なアーティファクトの発動を未然に防ぐ事。 それを果たすためには、フィクサード達がこの場を離れる必要がある。 (『闇の御使』は、貴方達の命を消費して威力を為すものです。貴方達の命を使い潰してでも、その力を使うでしょう) 生佐目のテレパス越しの言葉にフィクサード達は頷きはしないが、言わんとしている事はわかっている。 確かにこの場から逃げる事が出来れば、詩織の生贄とされる事はない。 リベリスタ達や蘇芳にとっては、それが被害を抑える最善の手であり、この部分では利害が一致してもいる。 (まずは我々を一息に襲うフリをして、この場から脱出願います。信頼の証として、我々は貴方達の後を追いませんし、手を出す事もありません) 恐怖心から詩織に従うフィクサード達にとって、この提案は願ってもない話だ。 (後はどう動くか、ですねぇ) 口には出さずとも表情の変化で生佐目がテレパスによる説得をかけたと感じた黎子は、この後にどう動くか様子を見ようとしながらも、動きを止めないクロスイージスを気糸で絡め、縛り付けていく。 しかしリベリスタ達は気付いていない。 この説得によりフィクサード達がどう動くかを、説得した事を知らずとも『未来視の乙女』が教えてくれる事を。 そして『闇の御使』が最も効果を発揮する瞬間は、自陣営に最も余裕のある序盤である事を。 「逃げますか? 逃げたいですか? アハハハハハハハ!! そんな事を考える子には、お仕置きしないといけませんね!」 配下が逃げ出す瞬間ですらも、『未来視の乙女』があれば垣間見える未来だ。 「ひぃっ!?」 狂気にまみれた笑みと共に、『闇の御使』から伸びた黒き刃に恐れ戦くフィクサード達。 何とかその発動を抑える事が出来ないかと『爆炎の妖精』を駆使して注意を引こうとする蘇芳だが、発動した『闇の御使』は決して止まりはしない。 黒き刃が猛威を振るい、部屋のそこかしこから悲鳴が響く。 「力が湧いてきますわ。 あなた達を倒せと!」 詩織の手にした杖が、黒いオーラを纏い輝いた姿は、仲間を傷つけて力を得た証。 この未来を止めようとするならば、「逃げろ」ではなく、「詩織を倒そう」と持ちかけるべきだったのだろう。 とはいえその選択を採ると、詩織の生命は決して保証されない。 「次の攻撃は危ないよ、気をつけて!」 詩織を生かす事を選んだ結果に、周囲の魔力を取り込みながらアリステアからの注意が飛ぶ。 次にどう来るのかがわかってさえいれば、防御を固める事で少しでも被害を減らす事が出来ると考えた上での言葉だ。 「あ、そうそう詩織殿、拙者に攻撃はダメでござるよ。地味に痛い目にあうでござるからな……」 注意を促し蘇芳を庇おうと前に立つ腕鍛には、その攻撃を僅かでも跳ね返す防御戦術がある。 「何故、俺を守る?」 「最悪の事態は避けたいでござるからな……。好きあってる同士での殺し合いはいかんでござるし?」 軽い笑みを浮かべ蘇芳に腕鍛がそう答えた時、 「でもあまり関係ないと思いますよ」 会話を遮った詩織は自身が傷つこうとも、早いうちに敵を仕留めてしまえば問題はないと考えていた。それは自身の能力を理解した上での理想的な戦略ではある。 「それは、こちらとて同じだ」 もしも対応策があるとするならば、蘇芳の考える『それより先に詩織を仕留める』方法以外にはないだろう。 「速攻で諦めてんな。惚れた女なら取り戻してみせろよ。アルティメットバトラーズの思想は、アーティファクト如きに負けるのか?」 とはいえ、その方法は詩織の生存を考えるリベリスタの望むところではなく、影継がその選択に待ったをかけた。 「ね、神薙君。気持ちは伝えたんですか? 彼女を殺さないようには、心がけておきます」 自分達は詩織を殺さない。だから諦めるなと、海依音がその背中を押す。 「あなたの言葉なら、逃げたくても逃げられないあの人達にも届く……そうは思いませんか?」 同時に再び四色の魔力を織って放つ悠月が、恐怖に支配されたフィクサードを解き放つ事が出来るのも蘇芳自身だと説いた。 この場において、詩織が単騎で戦場を支配しうる存在であるならば、蘇芳は仲間を動かして戦局を支配出来る存在なのだと。 「その闇の御使、『味方』を切って強くなるらしいが……お前さんに味方はいるのか?」 一方で、外れても構わないと気糸を放ち続ける鉅が詩織に問うた。 「桜木 詩織! 仲間すら殺すアーティファクトを握っておいて、いつまでリーダー気取ってんだ!」 お前はリーダーではないと、詩織の立場に『NO』を影継が突きつけた。 「引け、お前達もここで倒れたくはあるまい」 そんなリベリスタ達の姿に、ついに蘇芳が配下達への撤退指示を出す。 「逃がしませんってば!」 息はあるものの、数人は倒れた配下を見やった後、詩織の手から放たれた雷が輝き奔る。 支配している配下が直後に逃げる素振りを見せる事はわかっていたが、ここで制裁と称して自身のチェインライトニングで全滅させてしまっては元も子もない。 あくまでも『闇の御使』を発動させるブースター程度にしか配下を考えていない詩織は、未来を知ってはいても『対処した結果』がどうなるかまではわかっていなかったのだ。 「くっ……、凄まじい威力ですが……!」 威力を増大化させた雷は、蘇芳やリベリスタ達に甚大な被害を与える強力な一撃。その一撃にふらつきながらも、生佐目は自分達が入ってきた扉をバンと勢いよく広げ、言う。 「逃げ道はここにあります。さぁ、逃げるなら今ですよ……!」 すぐに思わず膝を突く生佐目だが、運命の力を借りなければ立ち上がれないほどの傷でもない。 「早く逃げると良いのですよ」 「殺しやしねぇよ。さっさと連れてけ」 今がチャンスだと、フィクサード達に逃げ道を作った黎子と影継の脇をすり抜け、フィクサード達は一目散に逃げ出していく。 逃げろと指示を出したのは詩織と同格に近い蘇芳なのだから、指示に従っただけの話だ。 「だから、逃がさないと……」 「未来が見えても、体がついていかなかったら意味はないよね」 逃がすまいと追撃をかける詩織を、黎子の気糸が縛り付けて動きを止めた事が、その判断を下させた大きな要因となった。 「詩織殿、そろそろ気付くべきでござるよ。そのアーティファクトは害悪にしかならないでござる」 静けさを取り戻した戦場の中で、腕鍛は詩織に言う。その力は、仲間を失ってまで得るものなのかと。 「やっと思いっきりやれますねえ」 全ての配下が逃げ去った事を確認し、入り口の扉を閉めた黎子が構える。 既に詩織を縛り付ける気糸は切れていたが、未来の選択を間違えた詩織は『未来視の乙女』によって理性を失っている事もあり、逃げるという選択肢を捨ててしまっているらしい。 「後はアレを壊すだけだね」 「そういう事です。気持ちもちゃんと伝えてみたらどうですか?」 詩織に引く気がなくなった今、後はアーティファクトを破壊するか奪取するかのために攻撃をかけるだけだと、アリステアは感じていた。 そして蘇芳に対しては、気持ちを告げるチャンスだと海依音が告げる。 「出来れば早めに終わらせたいでござる。……あんまり女性を攻撃するのは得意じゃないんでござるよなぁ」 早期の決着を望む腕鍛にしてみれば、詩織を攻撃する事はやはり躊躇する行動だったのだろう。故に彼は、蘇芳の手による決着を望む。 「……行かせてもらう」 「行け。俺達も援護しよう」 決意を固めた蘇芳の背中を、鉅がポンと押した。 「何故、何故なの、敗北する未来が見えるなんて!」 そんな未来はありえない。あってはならない。 自身のアーティファクトによって見せられた結果に納得がいかないと、詩織は苛烈にリベリスタ達を攻め立てていく。 それがどこまで矛盾した考えであるか、それすらも気付かないままに。 ●崩れた未来視 どれほど『未来視の乙女』で未来を知ろうとも、戦う詩織自身が劇的に強くなったわけではない。 どれほど『闇の御使』を駆使しようとも、贄となる存在がなければ意味はない。 猛攻をかける詩織の攻撃は確かに苛烈だったが、『闇の御使』を封じてしまえば、ただのフィクサード1人を相手にしているようなもの。 「余力を失ったようですね」 「これで破壊できる……かな?」 詩織の次の攻撃が飛んで来ない事から、悠月は彼女の精神力が尽きたのだと判断した。 これまでの猛攻から仲間達を癒し続けたアリステアは、それが機会だと感じていた。 「全く実に私に対しては……無意味なアーティファクトでしたね!」 外したくなくても攻撃を外すと自負する黎子ではあったが、要所ではきっちりと当てただけに、良い意味で『未来視の乙女』は無意味なアーティファクトだったと言える。 「では、いってくださいな。王子様は、お姫様を救い出さないといけませんよ」 一気に距離を詰めた影継が『闇の御使』の破壊を試み成功する中、海依音が再び蘇芳の背中を押す。 「……詩織。あの時のお前に戻れ。仲間を大切にしていたあの頃のお前が、俺は好きなんだ」 ほんの小さな爆発を起こすように注意を払いながら、蘇芳が『爆炎の妖精』を掲げる。 「詩織おねぇちゃんが得たものはあったんだろうけど、失ったものもあるよね。蘇芳おにいちゃんと一緒に、また取り戻せば良いよ……」 アリステアが、リベリスタ達が見守る中、ソレは発動し――。 パン! 銃声のような乾いた音と共に、少女を狂気に堕とす鎖は今、断ち切られた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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