●梅田地下街 大阪府大阪市、梅田駅の周辺には地下街が広がっている。 日本一とも言われる規模を誇り、ウメチカの通称で親しまれているという。 通勤ラッシュが始まる直前の、朝の一時――待ち合わせ場所としてもよく使われる『泉の広場』には雰囲気にそぐわぬ怪しげな集団が降りてきていた。 1人を除いては顔を隠すためかフードや帽子を目深にかぶっている。 集団の中心で、唯一顔をさらしたままの男が呟いた。 「地下に噴水……か。悪くはないが、奇妙な光景ではあるな」 鉄琴……グロッケンシュピールを抱えたタキシードの男に奇妙呼ばわりされる筋合いはなかろうが、幸いなことに男の言葉を聞きとがめた者はいなかった。 男の名はカントロッレ。 ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが率いる……いや、率いていた『楽団』の一員だ。 「どうせアークは嗅ぎつけてくるのだろうが……かつてここは地元民さえ迷うと評判だったと聞く。アンデッドを散らせば、アークの者たちも容易くは追えまい」 ガイドブックを手にした男の周囲にいる10数名はすべて死者。 ネクロマンサーたるカントロッレの配下であった。 「ケイオス殿やバレットたちに義理立てする理由はないが、他の使徒に尻尾を振るのもつまらん。せいぜい派手な『嫌がらせ』を奏でてやるとしようではないか」 地下街にグロッケンシュピールの調べが響く。 演奏が始まったのを合図に、アンデッドたちは猛然と地下街を駆け出した。 ●アンコール 混沌組曲は序、破、そして急と奏で続けた。 『楽団』は指揮者――ケイオス・“コンダクター”・カントーリオと木管パートのリーダーであるモーゼス・“インスティゲーター”・マカライネンを失った。 『第一バイオリン』バレット・“パフォーマー”・バレンティーノと『歌姫』シアー・“シンガー”・シカリーの二人は生存していたが、多数の団員を失った『楽団』が壊滅状況なのは間違いない。 アークが奏でた演奏――生命の合唱はバレットにアークとの再戦の意思を燃え上がらせた。シアーは『ケイオスが望んだ楽譜』を夢見て、アークへの再戦を決めていた。 動機はバラバラで、指揮者はすでに不在。だが、楽団員たちの即興演奏は止まる事が無い。 彼等にとって戦力の素材は『死者』である。かつて『破』において優勢を得て、恐怖と社会不安がより強まっている『楽団勢力圏』、近畿、中国、四国、沖縄での増強を謀った。 同時に、アークに対して一曲奏でるのだ。指揮者の死亡で中途半端に終わった混沌組曲の一部分を。 望まれざるアンコールが今、始まる。 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE0001)が話し始める。 「『楽団』の残党が動き始めた」 指揮者たるケイオスが不在であるにも関わらず、シアーとバレットの呼びかけに応じた者たちが西日本で戦力……すなわち死者の補充を計るのだという。 シアーとバレット自身の動きはまだ不明であるが、いずれ彼らも事を起こすのは間違いない。 「みんなに倒してきてもらいたいのは、大阪で作戦を展開する敵。名前はカントロッレ」 彼は朝の地下街にアンデッドを放って、通勤・通学ラッシュの人々を惨殺するつもりだという。 結界や強結界を用いても、ラッシュ時の人々をすぐに戦場から排除することは難しい。 残念ながらいくらか犠牲が出るのは前提となる。 もちろん避難活動に人手を割けばそれだけ被害は減るだろう。敵の目的が戦力の増強にある以上、被害を減らすのは敵の排除と同じくらい重要なことだ。 「敵は地下街の端のほうにある『泉の広場』から行動を開始する。広場からしばらくは一本道。けど、その先は迷路みたいに複雑だから、敵を殲滅するのは格段に難しくなる」 当然敵もそれは承知している。リベリスタを突破し、殺戮を繰り返しながらの散会を狙っているはずだ。 カントロッレ自身は、作戦開始時点では泉の広場で状況の確認につとめると予測される。もちろん、リベリスタ側が乱入すれば相応に動くだろうが。 「みんなが到着するタイミングは敵が動き出した直後くらいになるはず。地下街だから、入り口はいくつもある……けど、複雑だそうだから臨機応変に出入りしようとするのはお勧めできない」 敵の数はカントロッレを除いて15体。 カントロッレ自身はグロッケンシュピールという楽器のアーティファクトを装備している。 能力の詳細は不明だが、撥を用いた強力な打撃と、死霊を操って作り出した霊弾を放つ攻撃を行うことが過去に確認されている。 アンデッドたちは主に爪を武器に戦う。突破力を重視しているのか、動きはかなり早いらしい。逆に体力は高くなさそうだ。もっとも一発や二発で撃破できるほどではないだろうが。 3体に1体ほどの割合で拳銃なども装備しているようだ。 「作戦目標としては、なるべく被害を減らしつつ敵を排除すること。カントロッレ自身もできれば撃破するのが望ましい」 逃がせば当然、どこかでまた同じような事件を起こすことは想像に難くないからだ。 「最近のコンサートはアンコールがあるのが当然だそうだけど、要求もしてないアンコールなんていらない。終わらせてきて……お願い」 淡々としたイヴの言葉に、不快感が混ざっていることをリベリスタたちは感じ取った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月11日(木)00:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●もっとも深き迷宮 梅田地下街。かつては梅田地下迷宮とも呼び慣らされた場所をリベリスタたちは訪れていた。 いや、訪れていた、などと悠長な状況ではない。 「花月の近所なんだし、クラシックより新喜劇が良かったかなあ」 もっとも、危急のときにも『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)はチャラかった。 6人のリベリスタは入り口から一気に階段を駆け下りた。 彼らは敵が降りた『泉の広場』から伸びる一本道の先に出るはずだ。 「ああもう、本気で嫌になりますよ楽団」 葉月・綾乃(BNE003850)がぼやいた。 直接戦った経験は1度。しかし、出撃していく仲間たちのことは見ていたし、彼らのせいで同僚が失われたことも聞いている。 「ボスもいなくなったんだから帰ってくれればいいのにね。誰もアンコールなんて望んでないしさ。押し付けられる音楽なんてただの雑音だって気付いて欲しいよ」 一見すると普通に見える少女、『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴双葉(BNE003837)が呟く。 「本当に迷惑極まりねぇな。相手すんのは二度目か……尻尾巻いて逃げてりゃ良かったのによ、もう逃がしてはやれねぇよなぁ?」 『ヤクザの用心棒』藤倉隆明(BNE003933)がガスマスクの下でぼやく。 地上と地下をつなぐ扉を勢いよく開けると、リベリスタたちは先を争うようにして人通りの増え始めた朝の地下街へと飛び出した。 「離れろ! そのフードの奴らは通り魔集団だ! 凶器を持ってるぞ!」 突入と同時に『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は叫んだ。 警告に反応してくれる人がどれだけいるかわからないが、言わないよりはマシだ。 影継の声に反応したか、アンデッドたちの何体かが発砲した。 『泉の広場』付近から悲鳴と、重い物が床に倒れる音が聞こえてきた。 「大した動機も先行きもなく中途半端に動くとかー。戦術は判っても戦略が判る頭は無いんだねー」 通路に飛び出すと同時に、少女は不敵だがどこか愛嬌のある笑顔を見せた。 『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は邪悪に赤く光る瞳を持ったハルバードをアクセス・ファンタズムから抜き放つ。 「そんなヤツにこれ以上被害出すのもやだからねー。サッサとぶち撒けてやろうぜー、アンタレス!」 アンデッドたちが走り出す。 影継もタロットの『力』のカードを模したアクセス・ファンタズムから大戦斧を引き出した。 地下の喧騒もわずかに届くばかりの地上。 皆が侵入した場所から、一区画離れた位置にある別の地下街入り口にもリベリスタがいた。 金髪に茶色の瞳は大阪の街並みに不思議と似合っている。 「楽団の残党か。ま、放っておくわけにもいかんし、今度はお前らが狩られる側、てことだ」 『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)は交差点の向こうにいる仲間に目配せをする。 サングラス越しに『燻る灰』御津代鉅(BNE001657)は視線を返す。 色つきの視線が届いたか確認はできないが、たぶん大丈夫だろう。確認するのも面倒だ。 「楽団員には散々苦労させられて、もう十分なんだがな」 即座に踏み込んでは面倒なことになる。 少しばかり時間をずらし、こちらは『泉の広場』直上から、涼と鉅も地下街へ降りていった。 ●鳴り響く警告 アンデッドたちが走ってくる。 何体かはもうフードが吹き飛んで、腐った顔をさらしていた。 影継の警告を聞いてとっさに逃げ出した人々はどうにか災難を逃れることができている。 しかし、何事かと振り返った者、倒れた者の姿におののき足を止めた者を、アンデッドが襲う。 SHOGOは『パニッツュ』と刻まれた銃を構えた。 まだ敵は射程に入っていない。狙うのは別の場所だ。 「近鉄線乗り換えの人にはごめんだけど、今日はバス使ってね」 普段いかにふざけているように見えてもSHOGOはスターサジタリー。誤射せずに狙ったものだけ撃ち抜くこともたやすい……たぶん。 1$硬貨さえも確実に撃ち抜く集中力で、彼は壁に狙いをつける。 仲間たちは迎え撃つ準備をしているようだ。 放った弾丸は壁に設置されている火災報知機の押しボタンへと向かっていく。 射程内にあったもう1つの報知器をSHOGOは連続で狙った。 片方は銃弾が貫き、壊れた。けれど、もう一方は音高く鳴り始める。 鳴り響く報知機は人々の逃走をいくらか加速させたようだった。 敵が射程内に入る。 そして、その前にもう、敵は少なからぬ人々を銃で撃ち、爪で切り裂いていた。 「本当にもう、ぶん殴りたい気分ですよ」 綾乃は不愉快を隠さずにつぶやいた。 「塵は塵に、灰は灰に。紅蓮の華よ、咲き誇れ!」 双葉が放った炎が地下街で爆発する。敵と一般人の死体が燃える。 「俺にとっての守るってのは、敵をぶっ飛ばすって事なんでな!」 次いで、影継と岬が相次いで得物を振るった。暗黒の気は逃げる一般人の間を縫って、アンデッドたちへと襲いかかっていく。 隆明が闇を追って飛び出していき、先頭にいる敵を巻き込んで暴れまわった。 敵の向こうからグロッケンシュピールの音が響いてくる。 カントロッレは悠然と演奏を続けているようだった。 殺したい、でなはなく殴りたい、と感じるのは気軽に殺せるかどうか自信がないからだ。 (幸か不幸か、まだフィクサードやアザーバイドを殺したことはありませんからね) 楽団の者たちは当然、気軽に人を殺すのに躊躇はないのだろうが……。 神秘の閃光弾を手の中に作り出し、味方を巻き込まないあたりに投げ込む。 爆発の衝撃が、アンデッドたちに衝撃を与える。 「ガス爆発が起きてますよー! 急いで地上に避難してください!」 最後尾にいた1体が早くも倒れる……しかし、まだまだ敵の数は多く残っていた。 「あれー? 引き際を心得てるかと思ったらこんなところで半端に再起かよー。判断誤ったねー黄金の鉄の塊ならもう勝負ついてるからって言ってる流れだぜー」 鉅はカントロッレの注意がそれたタイミングを見逃さなかった。 意思持つ影はすでに足元でうごめいている。 「引き際を心得ているからこそ戻ってきたと思ってもらいたいものだな。勝つにせよ負けるにせよ、幕引きは早いほうがいいだろう?」 「ならばもっと潔く鮮やかな引き方をしてもらいたいものだ! アンコールは要らんし、むしろ演奏中止を要求しておこう!」 無銘の長刀を手に飛び出す。 「今度は俺達が強襲させてもらうってことだ……!」 別の入り口からは涼がしかける。袖口から透明な刃が走った。 ほぼ同時に刃とともに放たれたのは気で作り出した糸。 2本の糸はカントロッレを縛り上げようと襲いかかったが、それはかすめただけで終わった。 「こちらにも来ていたか」 響く鉄琴から霊弾が生み出されて、鉅へと襲いかかってきた。 ゆっくりと飛んでいるように見えるにも関わらず、魔力糸を使用した戦闘服の上から吸い込まれるように直撃する。 「やはり……簡単にはいかんということか……」 くわえた煙草の巻き紙に血がにじんだ。 ただ気糸を放っても当たるとはとても思えない。 鉅も涼も、糸を生み出したままでしっかりと狙いをつける。 その間にも敵が放つ霊弾は着実に2人の体力を削ってくるのだ。 「得意じゃあないがな。……動くなよ……?」 狙いをつけた涼の糸がギリギリのところで外れる。 「邪魔を……!」 「少数で貴様らとやりあうのに、自由に動かれては勝ち目がないからな!」 動いた影が足元からカントロッレに襲いかかった。それをかわした瞬間に、狙いをつけた気糸を鉅は放つ。 ようやく巻きついた糸が撥を持った腕の動きを縛っていた。 当然、永遠に縛っておけるほど甘い相手ではない。 「流れた血を返してもらうぞ!」 鉅はヴァンパイアの牙をむき出しにする。あえて宣言したのは、この場が危険だと一般人たちに知らせるためだった。 アンデッドたちとの戦いも続いている。 隆明は壁を駆け上がる敵の進路を、同じく壁に飛びついてふさいだ。 「まだ残ってる奴らはさっさと逃げろ! 死にたいのか!」 ガスマスクの下から叫ぶ言葉は届いているのかどうか。 「……絵面は考えないぜ、そういう場面じゃねぇしな」 天井から敵を見下ろせば格好いいかもしれないが、それができるほどここの天井は高くない。 同じく天井からぶら下がるようにしてSHOGOが進路をふさいでいる。 「☆ュシッニパ――のらかュシッャキ……もう駄目、頭に血上ってきた」 逆さまのままではリベリスタといえども頭に血が上る。 ……が、それで照準まで簡単にそれることはない。 妙な言葉の刻まれた銃から飛び出した銃弾がアンデッドたちを貫いていく。 反撃の銃がSHOGOや隆明を撃ち抜く。 爪を振り上げて近づいてきている敵に対して、隆明はさらに前進した。 「おら! ここから先は死体通行禁止だぜ!」 ナックルダスターになった銃把を強く握り、見境なくそれを振り回すと2体の死体が天井から床へと落ちていった。 ●アンコールはいらない 爪を振り回しながら、アンデッドたちはリベリスタたちの間をすり抜けようとする。 敵は機動力が高く、数もいる。 いつまでも防ぎきれる状況ではない。 双葉は今回、アンデッドにスピードで圧倒できる数少ないメンバーだった。 速さにはちょっとした自信があるのだ。 天井に張りついたSHOGOのそばを、壁へと駆け下りるようにして2体の敵が通り抜ける。 姉とは別の意味で腐っている敵は、今にも突破しようとしている。 「我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 ワンドを振るうと血の色の輝きが空中に走る。 魔法少女マジカル☆ふたばは自らの血を鎖に変えることができるのだ。 決して腐りではないことには注意しなければならない。 視界から抜けられてしまえば、範囲攻撃でももはや狙えない。 血を失った少女の色白な肌がさらに白くなるが、気にしている状況ではない。 鎖が走り、抜けようとした2体と、さらには別の3体を縛った。 隆明がナックルの引き金を引き、瞬速の狙い撃ちを連発。 さらにSHOGOが追撃を叩き込んで、鎖に捕らわれた敵のうち3体を本来の死体へと戻していた。 まだ半数以上の敵が残っている。それでも…… 「きっと大丈夫って信じてる!」 双葉は気合を入れた。 さすがにもう周囲に一般人は残っていなかった。 残念ながら一般人の死体はいくつか残っているが、多少の被害は防ぎようがないということはフォーチュナからも聞いていたとおりだ。 岬は暗黒の気を放つ。 禍々しいハルバードの目が輝いて、暗黒の気が敵を襲った。 壁を駆け抜けようとした敵2体を気が引き裂いて、引き剥がす。 「ボクのやることは只2つー。アンデッドを後ろに通さずにぶっ殺すことだけだぜー」 そうは言っても、体力を消耗する気を連発しているのはいかに岬といえども厳しい。 いや、厳しいのは岬だけではない。 影継も、双葉も、隆明も、自らの体力を削りながら戦っているのだ。 突破しようと振り回す爪の毒も、着実にリベリスタたちを消耗させている。 そのたびに綾乃が分厚い魔法辞典から光を放って毒を回復してくれる……が、毒で減った体力まで戻るわけではない。 銃声が響く。 今度壁から引き剥がされたのは敵ではなかった。 壁に張り付いていて暴れまくっていた隆明がたたらを踏み、そのまま床へ落ちる。 「意地でもアンデッドどもより先に倒れるかよ!」 メンバーに回復役はいない。体力を削られた状況で頼れるのは運命の加護くらいのもの。 「けど、祈るよりも先に敵を倒せりゃ問題ないしねー」 隆明が落ちた隙をつこうとする敵に向けて、アンタレスを向ける。 信じられないほど禍々しいその刃から放たれた闇は壁を抜けようとした敵と、さらに岬の視界に入った後方の敵1体をまとめて叩き落す。 梅田地下街はただの通路でなく、店舗の並ぶ地下街だ。 闇に、銃撃に、血の鎖に巻き込まれて惨状をさらす店に新たな被害が刻まれる。 「物的被害ー? 時村の人払っといてー」 この場にいないスーツに眼鏡の男へと、岬は声をかけた。 影継は岬と同様に体力を削りながら暗黒の気を放っていた。 この際反動を気にしていられる状況ではない、というのは彼も同意見だ。 残った敵はけして多くはない。 綾乃が放った閃光手榴弾で、2体が麻痺していた。 そして、双葉の血の鎖はまだアンデッドの1体を縛り続けている。 だが残った1体が後衛の横をすり抜けた。 「背中を向けたところで、影から逃れられると思うなよ!」 一目見て、特徴的なフード姿を完全に記憶する。 もっとも人ごみにまぎれられてしまえば見つける手段はないだろう。 これ以上進ませるわけにはいかない。 綾乃の隣を抜けるために一瞬速度が下がった敵に、影継は追いすがる。 「一撃必倒、確実に仕留める!」 アンデッドごとき、斜堂流を使わずとも一撃で倒すことはできるはずだ。 全身の闘気を込めて力任せに振るった戦の一撃は敵に命中するとともに爆発する。 身動きのできなくなっている敵3体を倒すのは、さして時間はかからなかった。 残る敵はカントロッレのみ。 涼は追い込まれていた。 2対1。しかも、敵を捕縛して動けないようにして戦っている……にも関わらず、敵の痛烈な攻撃は鉅と涼を確実に捕らえる。 高音から低音へ落下するような調べが響くと、死霊の呻きが唱和する。 呻きを聞いた2人が膝をつく。 次に耳に届いたのは軽薄そうな一言だった。 「あ、エアバンドのカンちゃんじゃないか。油汚れ取れたかい?」 カントロッレの指が銃撃に弾かれる。 「残ってんのは1人だけだぜー。雑音をそろそろやめさせてやるよー」 岬の疾風の刃が敵を断ち切る。 綾乃が効率よく攻撃できるように指示をしているようだった。 「テメェはすぐに死肉の塊だぁ!! 二度も逃がしゃしねぇぞ!!」 隆明が全力で走ってきていた。 ここからが反撃の機だ。 涼と鉅は全身に力を込めて立ち上がる。 「ふん……アンコールはここまでだな」 「逃がすわけにはいかん」 鼻を鳴らす敵を、鉅の気糸が縛る。 だが、敵はすぐに糸を引きちぎるだろう。涼と鉅にはそれがわかっていた。 けれども仲間たちがたどり着く時間を稼ぐ程度のことはできる。 隆明の拳がかすめただけで、カントロッレがよろけた。 「俺はな! アンタみたいなヤツの思い通りにさせんのが何より嫌いなんだよ!」 全身の力を爆発させて、退路をふさいだ影継が戦斧を振るう。 デュランダルの強烈な一撃は、倒れた敵に再び立つことを許さない。 カントロッレが苦鳴を上げつつもまだ立っていたのは、限界がまだ来ていないことの証明だった。 だが立つことを許さない攻撃ならば涼にもある。 周囲の魔力をダイスに変える。 目の前の敵には、『無罪であれ純粋であれ斬殺する刃』も『無罪であれ潔白であれ鏖殺する爪牙』も似合わない。 「逃げ道があるかどうか、ダイスに聞いてみるといいぜ!」 ダイスが示した『不運』の主は、爆発の中で今度こそ断末魔の叫びを上げる。 それは、身勝手なアンコールが終わったことをリベリスタたちに伝える、最後の音だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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