●アンコールへの前奏曲 -End of Night- 『楽団』戦。 遡る事、最後の決戦。三高平。 終わらぬ夜となるはずだった決戦都市の、空が白む時分。薄暗い夜明けに。 一人の男が、三高平を歩いていた。 「よもやコンダクター様とインスティゲーター様が討たれるとは。――これは我々の敗北か」 戦況を見守っていただけの楽団員。死体を一体として連れる事なく。 スマートな体型をスマートな燕尾服に身を包んで、謝肉祭で用いられるヴェネツィア仮面をつけた男は、三高平のリベリスタの死体と楽団員が集めた死体達の死屍累々の間を歩みを続ける。 ざり、ざり、と捲れて砕けたコンクリートの間に、土と砂利。乾いた音を静かに響かせて。 「パフォーマー様に、シンガー様が健在とて。悲しきかな。私の演目が生じる事実に深い悲しみが胸裏を塗り潰す」 両手の白い手袋に、両手の中指に嵌る指輪がきらりと光る。 青白い炎に包まれた鍵盤が、ぼんやりと浮かび上がって、薄暗い夜明けに魔性を演出する。 鍵盤は幽霊――Fantasmaめいていて、現実味のない半透明。 「Amore e morte! ――嗚呼、汝、愛しき死よ!」 ピアノの音色が滑走すれば、肉片となった死体が次々に中空。一箇所に固まっていく。 固まった肉団子は、人型の巨人の様にぐにゃりと変形して、ずんと地面に降り立った。 「悲しき幕引きの音色を奏でよう。公演の終は速やかに去るべし」 利用できなくなった肉片すら再利用する者。指揮者直々に隠蔽魔術の手解きを受けし者。 二つ名を『幽霊鍵盤』。 名をシルヴェストロ・“ピアニシャン”・コスタ。 肉片すら練って、肉巨人に変えてしまう、撤退戦に優れし力。 およそ長い楽団の歴史の中で、撤退戦などという汚名を被ったことなど無いのであるが、優れた指揮者は必ず、幕引きの所作を心得ているものである。例え自身が死するとも。 「ここは去る。去るが――指揮者不在のアンコールが残っている! Amore e morte!」 ――嗚呼、汝。愛しき死よ! ●追加公演 -Encore- かくして未完の組曲が再び奏でられる。 「出撃だ。ケイオス・″コンダクター"・カントーリオ配下。『楽団』の軍勢を撃破する」 粋狂堂 デス子(nBNE000240)は目的を告げて、ブリーフィングルームに8人のリベリスタに資料を差し出した。 曲を演奏するように事件を起こす『楽団』。先日に三高平での決戦において、その“指揮者”を討ち取り、めでたくアークの勝利に終わっている。 では、今回の事件は敗残兵というべきか、再戦の意志を燃やしている者がいる事の証左に他ならない。 そもそも『第一バイオリン』バレット・“パフォーマー”・バレンティーノと『歌姫』シアー・“シンガー”・シカリーの二人は、生存しているのだから。 「全国に展開された楽団の攻勢により、一部の地域――近畿、中国、四国、沖縄は未だ楽団の勢力圏にある。楽団員は指揮者がおらずとも、即興演奏は止まる事が無い」 彼等にとっての戦力は、素材は『死者』である。 先日の決戦で失われた戦力は膨大であれど、日本中に蔓延っていた恐怖と社会不安がより強い『楽団勢力圏』が、粋狂堂の挙げた四地方である。戦力を固めて、もう一曲とあいなったのだろうか。 「敵は、複数の死体の肉を固めて作ったような、肉巨人を操る楽団員だ。私はこれを使う楽団員と一度相対している。シルヴェストロ・“ピアニシャン”・コスタ。おそらく奴だろう」 注意すべき点として、粋狂堂がいくつか告げる。 他の楽団員と異なり、死体を固めて肉巨人を作る事。そして隠蔽魔術を使うという事だった。 「指揮者程の隠蔽魔術の使い手では無さそうだが、フォーチュナからは位置特定に骨が折れると聞いている。乱入する気配だけは無いらしく、死体の群れと肉巨人の撃破を専念してくれればいい」 粋狂堂が一呼吸置く。 「いずれ時間が解決するだろうが、猶予を与えればまた奴等は増長する。アテにしているぞ」 ●山口県下関市 海上自衛隊、下関基地隊。 嗚呼、海に。嗚呼、海に霧がたちこめて、ピアノの音色が滑走して魔性を演出する。 音色と共に、巨大な肉巨人が海中から現れる。 血管内臓筋繊維が混沌とした肉の巨人。指先は人の足で出来ている程にデタラメな屍肉の人形。とかくその顔は最もおぞましく禍々しい。 死体の眼球を、全て頭部に集中させたかのように、無数の眼球がびっしりとはりついている。 口にあたる部分にも口を開けばそこにも眼球がびっしり生じている。 同時に水死体の群れが、ざばりざばりと躍り出す。 嗚呼なんとおぞましい。 銃声に銃声。悲鳴に悲鳴。 銃声と悲鳴のコーラスに包まれて、尚もピアノの音色は塗りつぶされず、魔性の向こう。幽霊鍵盤が青白く揺らぐ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月09日(火)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『幽霊鍵盤』Ⅰ -Fantasma Piano 1- リベリスタ達は各々、肩で息をしていた。 ラグナロクの加護が終わりを迎え、疲労の圧し掛かる重き身体。 散らばる死体。潰れたドロドロの巨人―― 「Buona sera――こんばんは」 仄明るい青白い幽霊鍵盤を従えたる"その男"は、官舎より現れた。 謝肉祭の仮面を被った燕尾服姿。その肩から木の葉がヒラりと舞う。 森の中に潜伏し、官舎を通って来たのか。 甲高い足音が、先ほどまで鳴り響いてたピアノの音色の様に、喧騒に塗りつぶされない魔性を演出する。 市街戦迷彩の白と紺を所々に赤色で汚した一般人が、銃火器を携え、よろよろと男の後ろに列を為す。 「……守りきれへんかったんか」 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)の口から燻った"二本目のタバコ"がぽろりと落ちる。重き無念が胸裏に生ずる。 「……五月蠅い口を、良く動く手を、心の臓腑を粉々にしてやる」 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は毒づきながら、得物を握り直す。 「……兵隊作るのに兵隊使ってるのはアーティストとして安直過ぎませんか?」 『親不知』秋月・仁身(BNE004092)も、槍を構える。自衛官を守れなかった無念を切り替え、狙うは心の臓。 「アレンジが欲しいと? よろしい。今宵、集った愛しき君。私の右手を貫きし愛憎のアークに、謝意を示そう」 ――――♪ 幽霊鍵盤の音色が滑走する。 「承知かと思うがね。――私が“ピアニシャン”だ」 『幽霊鍵盤』シルヴェストロ・“ピアニシャン”・コスタ。今回の事件の首謀者である。 「自衛官への冒涜は気に食わんが、――良いぞ、至極良い。闘争の再開だ。よくぞ戻ってきた! “ピアニシャン”!」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が、血反吐をペッと吐き出し、謝肉祭仮面に笑みを浮かべる。 ――――♪ 「情熱的で、素晴らしい観客だ」 転調。自衛官だったもの達が組み合わさり、肉の巨人へと――ぐじゅり、変わっていく。 ●謝肉祭Ⅰ -Carnival 1- 時刻は少し遡る―― 到着したリベリスタ達の眼前には、映画のワンシーンの如き魔性が在った。 漂う霧。 自衛官と巨人の交戦。 銃の音。地面に落ちる薬莢が、りんと音を鳴らし。肉巨人の後ろ――海中から、ざばりざばりと飛沫を上げて死体が踊る。 塗りつぶされぬピアノの音が、ただ朗々と響き渡り。 「はいはいどうもぉ、援軍到着やよー」 椿が、ぴらぴらと紫煙をくゆらせながら、巨人と自衛官の間に割り込んだ。肉巨人の足へと弾丸を放つ。 「横須賀の件って聞いとるやろか? 自分らにアレの相手は危険やから……悪いこと言わへん、此処から逃げや!」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)も椿に並び、散弾銃を右手。左手から気糸の罠を放出し、肉巨人を絡めとる。 「横須賀基地で起きた事件と同類だ」 椿も烏――いやさ、かの楽団員に関連した経験がある者の大半がこの場に在る。在るからこそ、自衛官の攻撃が逆に不味い。あの肉団子は攻撃を反射する性質あるのである。 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)が、身を呈して自衛官を守るような動きを見せる。 「お願いなのですぅ、下がって欲しいのですぅ」 リベリスタ達の突然の乱入に狼狽する自衛官達は、しかし逆に「君たちが危険だ」と言葉を飛ばす。 と、同時。 仁身が放った槍が空気で螺旋を描き、肉人形へと突き刺さる。 「この敵の相手は僕達の領分です、下がっていて下さい」 仁身は胸中で楽団員に毒づく。自衛隊狙い――本物のテロリストではないか、と。 『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)が、神聖なる光で全体を癒す。自衛官も含めである。 「ほら、私達は魔法が使えるんです。ああいう化け物の相手がお仕事ですから、できれば私達に任せて貰えませんか?」 自衛官達から頓狂な声が聞こえれば、小夜は更に続けて。 「見ての通り、敵は死体を操れるんです。あなた方がここで命を落としてしまうと、敵が強化されちゃって余計に一般人の被害が拡大しちゃうんですよ?」 その証左―― 肉巨人の体内に蓄積された銃弾その他の異物が、全身から放射状に放たれる。 放射状であるならば。 シビリズとあばたが咄嗟に肉巨人へ近接し庇いに入る。 椿、烏、マリル、シビリズ、仁身、あばたが身を呈する事で、自衛官が全滅するという危機は逃れる。 が、自衛官の一人の頭部が、一瞬で吹き飛んだ。 口角に血を滴らせながらもあばたは、声を張り上げる。 「久里浜駐屯地に連絡を入れてください! ゾンビが出たと言えばわかります!」 傷を受けた烏が、絞りだす様に懇願し、タバコを咥えて火をつける。 「頼む。隊員さんらの力は化け物を倒す為では無く、国民を護る為にある。ここは退いてくれ」 続きシビリズが鉄扇をシャっと構える。振り下ろされる肉巨人の豪腕を受け止めて。 「適材適所という言葉がある。我々には抗える力がある。細かい事情は後回しだ。官舎に退き、負傷者や死者に対応したまえ」 シビリズの言葉で、ようやく自衛官は撤退に動き出した。 負傷者や遺体を引き込み、官舎へと撤退していく。 「あのごたごたの中で亡くなったと思ったら生きておったのじゃな――ピアニシャン様」 『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は、端の官舎を背にして、遠きギリギリの射程で、"巨大な的"へ弓を引き絞る。そして放つ。 与市も、かの楽団員と因縁があった。久里浜基地。社会混乱を狙った襲撃を水際で食い止めた。 その首謀者――“ピアニシャン”は、かの三高平での決戦で“指揮者”と共に死んだのだと考えていた。 「……自衛隊の遺体…確かに武器も扱える手ごろな駒と言った感じなんじゃろうか」 肉巨人に刺さった矢が、再び踵を返して舞い戻る。肉巨人から噴出され、与市の肩口に突き刺さる。 「――っ!」 与市が苦悶の声を発して、視線を傷口に、そして肉巨人へと戻す。 ざばりざばりと死体が海中から次々に湧き出て、肉人形に続いて列を為す。 喧騒雑踏に塗りつぶされずに響くピアノの音色。霧。 遠目から、Carnivalさながらの光景であった。 「聞こえているか! “ピアニシャン”」 眼前に肉巨人を据えながら、シビリズは頬肉を釣り上げ、声を張り上げた。 「アンコールなど、一体どこの誰が望んだと言うのかね! アレは観衆の拍手あってのものだろう! 一度舞台から降りた奏者が、己から再び舞台へと駆け上がるなど滑稽だぞ!」 鳴り響くピアノ音色は、応ずる様に―― 「だがあえて言おう――よく戻って来た!」 ――――♪ 刻まれる音色の速度が更に増して滑走する。 シビリズが発する光。――ラグナロクが、転調と共にリベリスタ達を奮い立たせる。 ●謝肉祭Ⅱ -Carnival 2- 魔性の音色にリベリスタの砲火が加わり、程なくして、戦況が傾いた。 「死体には超必殺技が使えないのは残念なのですがぁ……行くのですぅ!」 マリルがちょこちょこと動きながら、星の力を宿した鉛球を死体に叩きこむ。 「……どっちみちわしの矢は当らんのじゃがな」 遠方。弓を引いた与市が、矢から手を放せば、マリルと同じくして降り注ぐ星の力を宿した矢尻達。 音色に誘われるかの様に、次々海中から現れる死体は、与市とまりるが射抜き続ける。 ブチリ、ブチリと、気糸の網を引きちぎり、肉巨人が動き出し、豪腕がシビリズと仁身を薙ぎ払う。 「良いぞ。さぁ闘争を寄こせ。血を寄こせ」 シビリズは鉄扇に、存分遠心力を効かせて、肉巨人の腕を打ち据える様に防御する。堅牢なる守りは安々崩させやない。 「戦闘間隊員一般の心得……第一『使命観に徹し、あくまで任務を遂行せよ。』」 仁身は薙ぎ払われる前から自傷でもって傷ついていた。薙ぎ払われ、傷口が大きく開くが。 「心得、第三『常に士気旺盛にして靭強不屈かつ勇猛果敢に行動せよ。』」 反撃とばかりに、薙ぎ払ってきた豪腕を断罪の槍で貫く。 「また動いたか」 タバコに着火した烏がやれやれと、気糸の網を掌で作り出す。 烏は集音装置も並行して用いていた。 滑走したピアノの音色は、まるでホールにいるかのように反響して、亡霊の様に位置を掴ませない。 「――が、"音色が近づいている"か。近づいている」 乱入する兆候と見て、散弾銃を即座に撃てる様に椿に警戒を促す。 「……気ぃ張らんとやね」 椿が呪いの弾丸を撃ち、肉巨人に呪詛を加える。 弾丸が跳ね返ってくるが、ラグナロクがある。そして呪詛は確実に入っている。 「トラップネスト、ってな。――鳩目君。こっちは良い」 烏が再び巨人を絡めとる。そしてあばたはトラップネストを中断。射撃で死体の四肢を射抜く。 「ぴょんぴょん跳ねて、めんどくせえ死体どもめ」 あばたは、久里浜基地で戦った時と同じ方法で、スーパーボールの様に飛び跳ねてくる死体を沈黙させる。 再殺依頼はこれで何度目か。しかし、素早いタイプの死体を持ち出す楽団員にはうんざりする。 ここで、小夜の癒しの光が降り注ぐ。 「もう少しで死体は終わりです」 シビリズと仁身の傷を癒し。死体から受けた細かい傷も悉く。 この――ラグナロクを伴った小夜の回復が、度々『回復が火力を上回る』という状況を発生させる。 戦況は確実にリベリスタの勝利へと傾いていた。 「結論から言えば、もう一芸が欲しい所だな」 烏は散弾銃を嵐の様に連射する。一本目のタバコから灰が大きく溢れ、二本目を咥える。 弾丸は精密に計算されたかのように、味方を避け、跳弾するように次々死体の群れを穿つ、いやさミンチへと変えていく。 「――後はゴーレムやな!」 椿は携帯灰皿に一本目のタバコをねじ込み、二本目に着火する。烏にも火を渡す。 「行くのですぅ!」 今まで死体を狙っていた火力――マリルが、肉巨人へと加勢する。マリルが放つ弾丸。 そして音色を響かせた鏑矢が肉人形の頭部に突き刺さる。 「次も上手く当たるとは限らぬが……」 与市も死体対応であったため、加勢に加わる。 「フッ……この程度ではな。全くもって痛みとは言えんよ」 力任せの豪腕も、反射も。そろそろ見飽きた頃合い。 シビリズが攻勢に出る。 鉄扇で目玉だらけの頭部を打ち据える。ぐしゃりと凹む。 「心得、第九『戦闘間負傷しても、自ら手段を尽くして戦闘を継続せよ。』」 口角から血を滴らせた仁身が、断罪の力を最大限にした槍を放つ。 肉人形の胸部が抉れ、デタラメに肉片を撒き散らす。腐臭が周囲に広がって。 「あすこらへんやったかな」 椿は弾倉シャっと回して、呪いの弾丸を込める。 狙うは――久里浜基地でマリルが穿った、肉巨人の決定的な箇所。 「これで終いやな!」 カースブリット。肉巨人の決定的な所――音楽を受信する蝸牛に相当する箇所を貫く。 肉人形は混沌とした全身からばらばらと肉を撒き散らして、ドロドロに蕩けた液状の山になった。 「ふう……」 小夜が安堵の息をつく。 「まだや! 油断ならんで!」 演奏が止んだ。 「にゅ!?」 止んだ刹那。マリルの胸――肋骨が突き出し、皮膚を突き破って飛び出した。 「お見事」 リベリスタの誰の声でもない。 「だが、君達は勘違いしている。君達は『死体を"倒した"のではない』よ」 集音装置で烏が肉声の位置を突き止める。 「後方、官舎からか!」 「――『私がコントロールを止めた』だけだ。私は肉片すら練る事ができる。『練った後の肉』は使えないがね」 ●『幽霊鍵盤』Ⅱ -Fantasma Piano 2- ――かくして、時間は冒頭に舞い戻る。 “ピアニシャン”が従えたる新たな肉巨人は、全身のあちこちから銃口を見せて、発砲と硝煙を撒き散らしながら悠然と歩む。『自衛官から成る肉人形』――官舎に退避した自衛官は全滅だろうか。 「っく!」 飛び交う弾丸を受けながら、小夜が搾り出すように癒しの光を放ち、連戦で蓄積された疲労を立て直す。 「どうして……三高平襲撃に失敗したから終わりです! 終わりなんです!」 立て直した刹那。ぞぎりと自身の骨――肋骨が伸びて内側から肉を突き破って胸部に生じる。 「君が、ホーリーメイガスだな。定石だろう?」 小夜は喉の奥から湧き上がる血を飲み下し、謝肉祭面の男を睨む。そして守れなかった自衛官の肉巨人を交互に。 「いい加減……もう……帰ってくださいというか……リーダー居なくなったんだから解散……」 この威力。そして回復を受け付けぬ致命の付与。穿孔した肺から息が漏れ出て苦しい。 「それから、君は――『覚えている』」 続いて、幽霊鍵盤から放たれるは、苦悶の表情を浮かべた亡霊の塊。 呪いの弾丸を込めたばかりの椿を束縛する。 「ちぃ……!」 交戦経験があるという事は相手も同じ――崩し方を心得ている。 「ふむ。アンコールの前座――ソロ演奏で出しゃばり過ぎても良くはない」 ひたすらに弾丸をばら撒きながら歩む肉巨人にリベリスタの被害は増大してゆく。 “パフォーマー”“シンガー”“インスティゲーター”とは別に、こんな楽団員(やつ)が残っていたのか、と評しても良い。 「主役はさて。やはり“シンガー”様、“パフォーマー”様に譲るとしよう」 かの“指揮者”が幕引きの為に残したる奏者は、森の中へ踵を返さんとする。 「自衛官を殺っておいて――もう一芸くらい披露していくんだな」 烏の静かな怒りを伴った連射が、肉巨人の四肢を削ぎ“ピアニシャン”の全身を穿つ。 「二度も逃がす訳ねーだろ! "一枚"だと思ったか!」 あばたが獣の様に咆哮し、気糸の罠で“ピアニシャン”を絡めとる。 シビリズが鉄扇をシャっと広げ、付着した血味噌を払う。 「この程度では満足できんなッ! ハハハハハッ! まだだ、まだまだまだまだまだまだァ! 肉人形は私が引き受けた!」 再びラグナロクの光がシビリズより放出される。 弾丸を発射しながら歩む肉巨人からの被害と、シビリズのラグナロクが拮抗する。 「心得、第八『常に警戒を怠るな。』」 仁身が心身骨髄に叩きこまれし心得を唱え、槍に力を集束する。この痛みも全て好都合と口角を上げ。 「心得、第七『常に情報資料を収集し、速やかに報告せよ。』――いい加減にしろ!」 ギルティドライブ、即座再動し、更にもう一発、肉巨人に叩きこむ。 ここで、ピアノの音色を打ち消す様に、甲高い音色が飛来した。 それは与市の放った鏑矢。 音を奏でる為に作られた歪な矢尻は、“ピアニシャン”の右指――人差し指を切り落とす。 「……ほう! 彼女もいるらしい! 私の手を穿った素晴らしき射手!」 痛みを物ともしないかのように、気糸を千切って演奏を続ける。 指が一本無いのにもかかわらず。止める気配も、衰える気配も無い。迸る狂気。 「ヒュー、ヒュー――……ブレイクイービル!」 小夜の破邪の光が自身の致命を。悪霊に束縛された椿を解き放つ。 「"次"が無いよう、きっちり仕留めよか……!」 怒り混じりに、呪印封縛を“ピアニシャン”に放つ。 「――素晴らしい! 『Amore e morte』!」 呪縛を引き千切り転調。 「なんて奴」 青白い鍵盤を包む、ぼやけた光がぷくぷくと人面を浮かべ、コーラスの様に曲にエッセンスを加える。 「……おじさんが悪かったよ。もう芸はいらんから。退場してくれ」 烏が“ピアニシャン”の頭部を散弾で吹き飛ばす。 壊れ落ちる仮面。 見れば、ケロイドの様になった素顔が生じる。 鼻は削げ、唇は無く、むき出しとなった歯と歯茎は髑髏のよう。 散弾で頭部は砕け、脳と脳漿を垂れ流し、しかし――死なない。演奏は止まない。 「――ちぃ……依代君、ブレイクを頼む」 「ゾンビそのものやな!」 悪霊の加護に守られている。 これを砕かねば不死身の様に立ち上がる。 「こいつは人間を舐めている。人の知恵や勇気や修練に全く敬意も畏敬もない。挙句――」 あばたは自衛官から成る肉人形を見て、次に“ピアニシャン”を見た。 糞野郎が。 「彼の不敬な輩に無残な終止符をくれてやれ!! ――」 『嗚呼、汝。愛しき死よ!』 あばたの声と“ピアニシャン”の声が唱和する。 途端に、自衛官から成る肉巨人が爆散し、亡霊達の悲鳴が嵐のように渦巻いた。 “ピアニシャン”自身も巻き込んで。様々な異物を巻き込んだ嵐は、重力を無視するようにひび割れたコンクリートをめくり上げて天へと昇る。 「それでいい! 余力が無いのならば死力を尽くせ。数少ない死者を使って足掻くが良い」 シビリズは全身を切り裂かれながら笑い上げる。 「貴様らの目的。砕いてやろうではないか楽団ッ――!」 ピアノの音色は鳴っている。 「――気に食わないアレンジだったよ!」 仁身が、嵐に逆らう様に、ピアニシャンの居た位置へ、槍を盲射する。 ピアノの音色は鳴っている。 「自衛官を守ることは叶わなかった……。もう一本。どこでもよいか」 与市は矢を番えた。嵐を縫うように“ピアニシャン”が居た位置に、射る。 ピアノの音色は静かに終曲の様にか細くなり――途絶えた所で、嵐は静まった。 静まった嵐。小夜の癒しの光が施される。 「終わり……ですか?」 “ピアニシャン”が奏でていた位置には――槍と矢が十字に突き刺さった“ピアニシャン”の頭部と指が落ちていた。 胴は――消えていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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