●Foolish at hell 繁華街のネオンは誘蛾灯のようだ、などという文言は十数年来、手垢が付く程に使い古された文言のひとつである。 だが、事実として未だ誘蛾灯(ゆうわく)に飛び込んで燃え落ちる虫達(ぐず)は後を絶たないのを見れば、その表現は成程、的を射ていたということになろう。 「……っ、ふぅ……いや本当、実際ボロい商売だぜ。ヤクも使わず脅しもナシで芋蔓式に網にかかりやがる。少しは他人を疑えってんだ、なァオイ」 「美味い話にゃウラがあるって言いやすがアニキ、うますぎたら現実感見失うってのは何処の世でも変わらねぇんですぜ。おまけに寄せ餌がこの上ない上玉ときてる」 ぴちゃ、ぴちゃ、ずる、ずるる。 間断なく続く水音は蠱惑的な響きを通路いっぱいに吐き出しながら、饐えた空気を一層噎せ返るものへと変えつつあった。 そこは、何処にでも在る『風俗店』の外観をしていた。中身も、実際のそれと大きく変わらない。 ひとつ例外があるとすれば――破格にも程がある料金と、不釣り合いな美貌を持つ者達の存在といったところか。 それでも、その店が爆発的に流行るということはなかった。誘蛾灯ばかりの場にあってその店は、酷く寂れた外観であったこともあるが……『敢えてそう仕向けていた』のだ。 こじんまりした事務机に腰掛けた男は、上機嫌に背後に立つ男へと話しているが……ややあって、その足元に跪いていた女に目を向けた。 その女は、薄汚れた裸身とそれに不釣り合いに過ぎる美貌を持っていた。今までの人生で、そんな顔をしたことがない、というような。 虚無で塗りつぶされた瞳に男の表情が映り込み、やがて黒い筒が見え隠れ。 「……ああ駄目だ、『進行』されちまっても俺が困る」 タン、タンタン。 先程まで傅いていたことなど歯牙にもかけず、男は数度引鉄を引き、その女を肉塊に変えた。 「あーあーあー……どうすんスかこれ。数合わせったって」 「気にすんな。この間の男のツレ、そろそろ来ンだろ?」 「本当、計画的っすね……」 もうちょっと、計画性を別ベクトルに使えねえもんだろうか、と。 欠伸を噛み殺して出て行く『エンバーマー』に苦々しい視線を向けるばかりであった。 ●死美人 「今回の依頼を語るにあたり、女性諸氏には些か不快感が勝る可能性があります。ジェンダー論に憤りを持つ方は一度退室をお勧めします。作戦内容だけ知っていれば、別に」 さあ、とひらひらと手を振って数名に退室を促す『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の様子に、リベリスタはジト目を向ける。 「そんな表情しないでくださいよ……今回の依頼は『恐山配下の経営する風俗店の壊滅』、風俗店はE・アンデッドの巣窟、加えて今までの手口が妻帯者を狙っての芋蔓式財産簒奪……ここまで揃っているのに、その仔細を! うら若き少女諸氏に! 伝えろっていうんですか!?」 「分かった。わかったから声のトーンを下げろ。一体どんなトラウマを背負ってるんだお前」 何故か目に涙を湛える勢いで説明した夜倉にこそリベリスタはドン引きである。 「……順を追って説明します」 「最初からそうしろ」 ややあって、溜息混じりにディスプレイを切り替える。そこに次々と表示されるのは、女性の写真。左が一見して冴えない顔の女性、右に目を瞠るほどの美貌。そんな対比図がスライド式に表示されていく。 「以上、全ての写真が左右が同一人物でした。……驚きでしょう? 人間ここまで変わるものなんですねえ」 「変わりすぎだ馬鹿……何だ、これ」 「そうですね。エンバーミング……死化粧、こと神秘に傾いた行為による状況が生んだもの、とでも呼んでおきましょうか。 恐山フィクサード、『エンバーマー』三辻 里仁(みつつじ りひと)。彼の持つアーティファクト『エンバーミング・クロック』による効果で、彼女達……といってもE・アンデッドなのですが。全てが美貌を手に入れています。 手口は単純明快。常識的に考えられない低金額・厚遇による風俗店を開業することにより、世の男性の多くを魅了します。『エンバーミング』を受けたアンデッドが持つ美貌に魅了された者は程なくして破滅に足を突っ込むわけですが、その過程で妻帯者、もしくは恋人が居る人間をピックアップ。つがいが『失踪』した後にその情報を餌に相手を釣り上げ……まあ、その繰り返しです。これによって『接待者』は増え、接収した家庭から根こそぎ財を奪うことで恐山の財を潤す。三辻が制御に窮する前に、順次破棄を辞さずとも問題なく……いやあ、効率的ですねえ」 吐き気がします、と。予見者は吐き捨てた。 「で、壊滅ったってどうすんだ。タイミングは?」 「そりゃぁ、まあ。『営業時間』のうちに向かうのがベストですが、中は薄暗いですし一般人が居る可能性も捨て切れません。人質にされる可能性だってある。……壊滅以上は求めませんが、被害は少ないほうが助かります」 中々に無茶を言う、とリベリスタ達が首を振ったのは、言うまでもなし。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月07日(日)23:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Legion-2 たった一人の兵団は、孤高と孤独に蝕まれた雑言だ。 計画性と効率性は違うものだということは理解しており、目の前に垂らされた糸の細さも知っていた。 ああ、その誘いの甘美さたるや――甘美すぎて反吐が出る、と舌打ちする。 「私はその男よりは信頼出来る人間だよ」 「信頼出来る、なんて自称する馬鹿に何度騙されたと思ってんだよ、分からねえ? ……分からねえか。『正しい』を生業にするアークには、俺達なんて」 気糸で貫かれた手首をぷらぷらと掲げた『ワンストップレギオン』駒上 狛子とそれを放つ側に立った『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)との会話は、どう解釈しても平行線をたどっていた。 キリエからすれば交渉のつもりで掛けた言葉なのだろうが、しかし狛子には十分に届いたとは言えない。伸び上がった影が新たな人型を作り上げ、次手を示そうと構える女性の眼光は見えない。鼻先まで覆った髪と三つ編みにされたそれは、意思を湛えることなく揺れるだけだ。 「今だったら見逃してやってもいいんだぜ?」 「ほうほうの体で言うんじゃないよ三下ドチンピラが。立てないんなら座ってな。俺は『エンバーマー』サマが逃げりゃそれでいい。『目的』は達成したんだろうアーク? 退けよ。でないと」 もう少し強引に『圧し潰す』ぞ、と。 『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)の手を鋭く蹴り飛ばし、GANGSTERの片割れ……Warriorを弾いて窓に足を掛ける。 Hustlerの銃身は既に細い針――『エンバーミング・クロック』により床に縫い付けられ、無力化されていた。当然ながら、狛子の所業ではない。既にここには居ないフィクサードのそれである。 階下から聞こえる騒乱が収まりつつあるのを知覚し、包囲を狭めたリベリスタに向け、狛子は笑う。床を蹴ったその表情に刻まれた笑みは、如何様に写ったものか―― ●into nightmare 『やっと静かになってきたようですね……長かった……』 幻想纏い越しに、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の声を聞きながら『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は苦い顔で視界の端に入るビルに視線を向けた。 「長かった」とは文字通りの意味だ。リベリスタの面々が当該地区……恐山傘下の特殊ビル付近、繁華街に足を向けたタイミングは折悪く、『客』の到来とほぼ同時だったのだ。 当初は舞姫のトラウマになってしまいそうな映像が延々と……という予測により、メンバー全員が息を呑んだものだが、なんという事はない、被害者が一人増えた結末を実況されただけだった。 ある意味では健全だったというべきか、また別に捉えれば最悪の事態だったと憂うべきか。どちらにせよ、現時点で『懸念すべき対象』はあのビルには居ないのだ。 『相変わらず気分の悪くなるシノギが得意だね、恐山の連中は』 「ええ、吐き気がするとは正にこの事だわ」 そんな遥紀の声を聞き届け、再度手元の構造図に目を落とした『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)の声は固い。 ビルの構造をひと通り頭に叩き込んだとはいえ、それは飽くまで一般的なフロア構造を成した場合のデータである。対象は……言ってしまえば風俗店。常識的なフロア構造であるかすらも怪しい状態で、手元の情報が十全に機能する訳ではない。 尤も、前進あるのみである彼女がどこまでそれに対して正しく懸念を抱いているかは別としよう。 『なんか良くわからないけど、よくないことだって言うのは分かった!』 通信を通して聞こえてくるのは、『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)のものだ。店内を広いものと当たりをつけ、ある程度の対応を考えては居るものの、異世界の住人にその方面のビルの構造がどう、というのを求めるのも難しい話ではあるのだ。 じりじりと包囲を詰める傍ら、更に響く声が哀しいほどにボトムの知識からかけ離れているのは、フュリエの常というべきか……。 「自分の顔を変えるとか体系云々の為に露骨に怪しいのに、参加してしまった人間も愚かとか言えぬと思うのじゃが……」 『……? 兎も角、必ず止めよう。これだけは』 通信機の向こうに僅かな疑問符を覗かせる『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)の疑念は、しかしその状況を生み出した『ガンスリングフュリエ』ミストラル・リム・セルフィーナ(BNE004328)には理解出来なかった。 繰り言となるが、彼女らは異邦人である。男女の別のない(女性しかいない)彼女らに、この事件の全容を把握させることは困難を極めるといっていい。 男性に対する意思を持つ女性、というのは彼女らには未だ理解の外にあるのだろう。……何にせよ、事情など知らずとも世界は動くし彼らは戦うということ。 「まったく酒が不味くなる、さくっとぶち殺して飲みなおさねぇとなぁ……」 『まさかですけど、今飲んでませんよね?』 「ばっ、そんなわけねーだろ!」 隆明の言葉に、さもジト目を向けていそうな舞姫の声が飛ぶ。着慣れぬ服を着てまでこの場に足を向けた彼女としては、『そうなっていたら』とんでもない話だと思うところで。 「俺の事はどうでもいいんだよ、ほっといたらまた客が来るぞ!」 『そうですね。そうなったら……うう、考えたくもありません。皆さん、準備はいいですね?』 思い出したのか。 舞姫の震え声に、リベリスタ達の苦笑とも気遣いともとれぬ声が漏れたが、今更と言えば今更なのだろう。 三辻が、下階に降りる気配はない。……タイミングを図る以前に、彼らは完全に『上』と『下』を切り離しているようにも思えた。 踵を返した狛子が階下に足を踏み出すと同時に、リベリスタ達は動き出した。 戦場は静かに開かれる。 そう、本当に静かに。 ●Legion-1 「こっちを向きなさい……ッ!」 引きぬいた脇差、黒曜と呼ぶそれを軽く振るい、舞姫は周囲の視線を引きつけようと構えた。 彼らの突入を『敵意あるもの』として理解することは、自意識に乏しいエリューションにとっては本来容易くはない。が、相手方が武装していれば話は別だ。 体を引きずるようにして次々と現れたのは、受付に回されていた分も含め五体のノーフェイス。……フィクサードの姿は無い。 「其処を、退きなさい?」 低い姿勢から拳に炎を灯し、焔はそれを開放せず叩きこむ。曲がりなりにも風俗系のビルの狭さは調査と舞姫の情報から把握していたが、乱戦同然の状態で開放すれば、それこそ大惨事も免れなかっただろう。 「二階で逃げる準備……だったら、ちょっと困るね」 キリエの焦りを含んだ声が、気糸を伴って吐き出される。一階に居ないことは舞姫の情報で理解してはいたが、よもや殴りこみに来てそれを放置してまで当の本人が上階に残るだろうと誰が想像しただろうか。少なくとも、リベリスタ達は『尋常な』フィクサードを想定していた以上、若干の予想外に晒された事となる。 状況の理解が追いつかないフュリエ達についてはなおのこと。一瞬なりたじろいだエフェメラに向け、背筋を凍らせる様な美貌が覗き込む。ざらりとした感触が頬を舐めるような感触は、次の瞬間、彼女が魔力を暴発させるに足る錯乱を呼び起こした。 「…………!」 「……いやあ、馬鹿正直に真正面から突っ込んで大技だなんて景気がいいねえアーク。お前ら、もしかしなくても力馬鹿なんじゃねえの?」 エフェメラの魔力が乱舞し、狭いながらほうぼうに吹き飛ばされた状態で、ずるりと融ける影の背後から声がする。ハスキーだが、男の声としては高い。女性か、と。次いで狛子であることを、それがいかにして回避されたのかを理解した次の瞬間、弓を引いて対峙したのはヘンリエッタだ。奇しくも、全員が等しく吹き飛ばされた状況下で射線は通っている。何ら問題なく、それは狛子を狙い穿とうと機能するだろう。 「オレ達の目的は彼と『あれ』なんだ。手放してはくれないかな」 「それをこっちに向けていうかい? 言うなら直接、交渉しな。『出来るもんなら』、だけど」 暗に交渉をちらつかせたヘンリエッタに、しかし狛子は動じない。彼女の言葉はある種、駆け引きというものを捨てていると言ってもよかった。 吹き飛ばされながらも、未だ戦う意思を見せるグーラ、そして無傷の狛子。それらを強引に突破しようとして、出来るのは限られている。――真っ向勝負で挑めばいいだろう、ということだろうが、しかしこれは余りにも、重々しい余裕に満ちている。 「上等だ、今すぐにでも行ってやるぜ……!」 「――好きに、すればいい。木っ端を通す事は何も言わないだろうからな」 壁を蹴り、隆明が一直線に彼女の背後にある階段へと特攻する。常識的に考えればグーラが止めに入るのだろうが、一顧だにしない狛子に触発されたか、妨害する様子を見せることはない。 ……ただ、続こうとするものがいれば決断的にそれを止める、という意志は、全身から吹き出す敵意に見て取れたのだが。 「自業自得ともいえるがやり方がアレなのじゃ妾は嫌いじゃ。お主はどう思っとるのじゃ?」 「……はァ? あぁ、何かアレか、手前はどこぞのアレか。分かるかなあ、わかんねえよなぁ? ネジ外れた様な見当はずれな事言ってる時点でその魂胆が透けて見える。ぶら下げられた餌に食いついてそれが毒入りと気づかないクチだろう、手前ェ。笑わせんな」 笑い話だ、とケタケタと笑いながら、しかし影人を生み出す彼女にどうしようもなく愚弄されて、ミストラルが苛立ちを覚えぬ訳もない。だが、何に対しての愚弄なのか、何に対して怒ればいいか。彼女には判断できないでいた。 「――哀れなる死者に魂の救済を、咎人に傷みを刻めよ」 斯様な状況下に置かれ、しかし遥紀は冷静だった。確かに、数の面で言えば突破は容易ではない。だが、舞姫がグーラを惹きつける以上、包囲に僅かなり孔が空く可能性はかなり高い。 ならば、自分は。先行してしまった隆明を追うことを考えるならば、目の前のフィクサードを沈黙させることを優先するのは当然であろう。 それすらも手間であると判断すれば? ……語るまでもない。自らの手で葬る事ができるなら、それ以上はあるまい。 襲い来るグーラの攻撃を、表情を変えもせず舞姫は捌き、避け、受け止める。彼女に当てるなど相応の労力が要ろうが、幾度か続けられれば確率は上がらぬワケがない。 加えて、今の彼女の精神状態は静謐の極みに在る。目の前に居るグーラは全て殲滅する意思があり、その先を見据えた上での戦略に偽りはない。 「……任せたわよ!」 数体のグーラが崩れ落ちる中、焔が隆明の後を追う様に床を蹴る。 舞姫が引きつけ続けられるなら、その状況は決して悪くはないが……イレギュラーを対処することを考えれば、更に数十秒、彼女を除く何名かが階下に残る必要がある。 僅かな逡巡。それをどう捉えたかは判然としないが、狛子は階段へと足をかけ、それを追う様にして何名かが駆け上がる。……寸暇を置かず、上階から響いたのは窓が砕ける音であった。 ●Embalmer 数十秒ほど、時間を遡る。 「ずいぶん儲けたみたいだなぁ、ええ?」 「そりゃぁお前、人件費ねーんだから儲かる以外の道理がねえ……ってマジ誰だお前。花粉症かなんかか?」 事務室の扉を蹴破って入った隆明に、しかし里仁は窓際に背を預け、悠然と応じた。煙草をふかす程度の余裕は、信頼が故といったところか。 「……血ヘド吐いて死ねやオラァアアア!!」 「おーこわ。質問したら拳で返ってくるとかアークの連中は強引だわ……」 ガスマスクを愚弄されるのは兎も角としても、殺気をやすやすと流され、更に意思を抉りに来る相手など生かしておく道理もない。全力疾走からの真っ直ぐに突き出された拳で、その優顔をぶち抜こうと思っていた。だが 「強引すぎて軌道が透けて見えるってのは、どうなのよ?」 怨嗟の音を巻き上げながら尽きこまれたアーティファクトは、逆に隆明の鼻柱に深々と叩き込まれる。物理的に貫かれこそしないものの、まとったオーラは確実に彼の能力を汚した筈だ。 ゆらりと立ち上がり、更に正面から突き込む隆明に呆れたような表情を返す里仁は、二発で仕留める決意で構える。 「――御機嫌よう、三辻里仁」 割り込むように放たれたのは、風。焔の不意打ちが寸暇の猶予を作り、隆明に数歩退くタイミングを促しつつ間合いへ踏み込む。 「イイからさっさとその顔を私に殴らせてくれないかしら?」 「……本当、アークってこんな拳馬鹿ばっかなのか?」 振りぬかれる拳を眼前に掲げた手のひらで受け、しかしその顔ごと弾き飛ばされ、里仁はたたらを踏んだ。 狙いが誤っているわけではなく、圧倒的なわけではなく、三辻里仁という人間は『リベリスタが御せる』のだ。 それは何より確実な自信と意欲を生むに足る事実だ。勝てない相手に空虚に足掻く必要など無いのだ。 ならば拳を握る。 「俺にもちぃっとばかし分けてくれよ、そのアーティファクトとてめぇの命」 「……手前ェは調子のんなクズが」 カン、と硬質なものがリノリウムを蹴る音がした。 ねじ伏せるように闇が覆う。 叩き潰すように檻が吐き出す。 楔を打つように銃を針が突き徹す。 「狛子ォ!」 「……いや、ちょっとソレ酷くねェすか!?」 床を蹴って窓へ特攻した里仁をギリギリ視界の隅に収めた焔は、背後から響いた『もう一人』と、続けざまに上がってきたリベリスタ――ミストラル、エフェメラ、キリエの三名へ視線を向け、嫌な予感に喉を詰まらせる。 叫んだ瞬間、既に狛子に覚悟は完了していたと見える。数十秒を制圧するため『だけ』にそうあっても、彼女は命令通りに印を切ったろう。 「縛――と、往け」 天井が降ってきたかのような重圧を鼻先でかわし、或いは被った彼らの間合いに飛び込んだのは、人型の影。 倒すに易く、応ずに面倒な影が、フュリエ達へ指を伸ばす。 ●Legion-3 既に数名が地に伏せていた。 少なくとも、狛子一人ができうる行為には限界があり、リベリスタ側には強力な神聖術師である遥紀が控えている。 故に、彼女が目指したのは徹底的な『嫌がらせ』であった。 階下に控えていた彼が戦列に加わる前に、徹底して集中攻撃を組み込むことで瞬間火力を上げる算段であったことは明らかだ。 その証拠に、包囲されたと見るやあっさりと両手を上げ投降に応じ、足元の『エンバーミング・クロック』には一顧だにせず踵を返す始末だ。 ……こればかりは、リベリスタも面食らった可能性は高い。忠誠心が高そうな彼女が、その実あっさりと手のひらを返した格好になるからだ。 だが、彼女に言わせればそれは全くの逆。命を粗末にすることは立場の重要性からすればバランスが悪い――そんなことを、嘲るように言ってのけたとのことだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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