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桜の花びら、またひとつ

●咲いて散り、散って咲く花
 花は、散る為に咲くのか?
 それとも、咲くためには散る事も厭わないのか?
 そんな事を考えた。

 桜は花が咲いて散らないと芽が出ないのだと、誰かから聞いたような気もする。
 なら、桜は芽吹くために花を散らすのだろうか?
 考えれば考えるほど、なにか理屈っぽくて訳が分からなくなっていくような気持ちになる。
 無理矢理すべてに理由を付けようとする自分が、嫌になる。

 一息ついて、空を見上げた。
 桃色をした空のすきまから、青と白のまざりあった空が見えた。
 そのなかを、幾つものの花びらが通り過ぎて。
 気が付くと……何かが滲んでいた。


●桜の咲く処
「静かで、人気のあまりない公園があるんです」
 この季節だと桜が咲いていて、綺麗で落ち着けるところですとマルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)は説明した。
 潮騒が微かに聞こえるその公園は、海の近くにある。
 広場から幾つもの散策路が伸びており、木々に囲まれた道もあれば、海を見下ろせる高台もあるのだそうだ。
 広場にはたくさんの桜が咲き、散策路にも所々さくらが植えられているが……人気のないのも手伝って、静かで落ち着いた雰囲気を漂わせているらしい。
「何か特別なものがあるって訳じゃないんですけど、落ち着けて……考え事とかするのに向いているっていうか、不思議な気持ちになるんです」
 言ってからちょっと恥ずかしそうにしつつ、フォーチュナの少女はリベリスタ達に言葉を紡いだ。
「よかったら、いかがでしょうか?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:メロス  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年04月06日(土)22:17
●このシナリオはイベントシナリオになります。
イベントシナリオについては本部利用マニュアルなどを御参照下さい。

オープニングを読んで頂きありがとうございます。
メロスと申します。
こちらは個人や少人数で桜を眺めつつ物想いに耽ったり、語り合ったりしませんかというお誘いになります。
賑やかに、楽しく過ごしたいという方は『桜祭』の方をおすすめ致します。
また、場所や雰囲気が気になる方は、宜しければ自分のシナリオ『桜の花びら、散るたびに』を御参照下さい。
(舞台の方は同じ公園となります)


●公園
海の近くの人気のない公園。
広場のような場所から幾つもの散策路が伸びており、所々に木製のベンチやテーブル等があります。
桜は広場にはたくさん植えられており、散策路の方は少なめで落ち着いた雰囲気になっています。
高台のような海を見下ろせる場所などもあります。

●備考
・多数の方が参加された場合、内容を絞ったプレイングをかける事をお勧めします。
・特定の誰かと絡みたい場合は『時村沙織 (nBNE000500)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。
・グループでの参加の場合(絡みたい場合)は参加者全員【グループ名】というタグをプレイングに用意するようにして下さい。
(タグで括っている場合は個別のフルネームをIDつきで書く必要はありません)
・マルガレーテは桜を見て考え事をしながら散策していますが、特に何事もなければ登場しません。
(NPCに話しかける場合、ID等は必要ありません)


それでは、興味を持って頂けましたら。
どうぞ宜しくお願いします。

参加NPC
マルガレーテ・マクスウェル (nBNE000216)
 


■メイン参加者 30人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
スターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
レイザータクト
富永・喜平(BNE000939)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
ナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)

ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
プロアデプト
プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)
クロスイージス
日野原 M 祥子(BNE003389)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
マグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
ソードミラージュ
七月・風(BNE004135)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)
ミステラン
ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)
ミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)

エフェメラ・ノイン(BNE004345)
マグメイガス
フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)

●未来と、過去と
 手をつないで、この道を歩きたかった。
 些細なことで笑い合って、そんな未来があるって信じていたんだ。
「でも、それは叶わなかった」
 桜の舞う光景を眺めながら。
 ベンチに一人、腰を降ろして。
 雷音は、隣に居るはずだった彼女へと……想いを馳せた。
 楽団が三高平に残した爪跡は、今なお……じくじくと痛み続けている。
「ボクは護られてばっかりだ」
 雷音は呟いた。
 死は隣り合わせという覚悟をもって、ボクはアークのリベリスタになったというのに。
 どうして涙が溢れるんだろうか?
「冴……富子……」
 涙を拭って、無理矢理笑みを浮かべて。
「ボクは生きている、ちゃんと笑えてるかな?」
 もう、返事はもらえない。
 それでも……
(貴方達に護られた命は無駄にはしない)
「ありがとうございます……」
 届けたい言葉を、少女は彼方へと紡ぐ。

 人目につかぬ場で、ベンチに座って。
 虎鐵は本を読んでいた。
 前に読んだのは推理小説だったので、今回は恋愛小説という感じである。
 孤児の少女を引き取るおじさんの物語に、どこか親近感に似たものを感じつつ虎鐵はページをめくっていった。
 引き取られた少女は、やがて病で床につく。
 そして結局は……
「…………」
 読み終えると、虎鐵は静かに本を閉じた。
「もし『俺』が実際そうなったらどうなるのだろうか」
 誰にも聞こえぬくらい小さく呟いた瞬間、彼の発する空気は一瞬だけ……変わった。
(悪魔に魂を売るのかそれともまた……)
 発したものは一瞬で消える。
「いけねぇな……最近思考が暗くなりがちだな……」
(元から明るいって訳でもねぇけどな)
 自虐的な雰囲気を漂わせつつ、男は軽くかぶりを振った。
 俺に光を、家族を、温かさを。
(そして何より……殺しや闘争以外の生き方をくれた、あの少女を)
 俺は、生涯をかけて守りたい。
 静かに、誓うように。男は口にした。
「たとえ、何に代えてもな」

●遠去かる風景
「報告書をひと通りは見ましたけど、あくまで報告書ですから」
「花見の思い出ねぇ」
「宮部乃宮さんがどんな風に感じたかを知りたいんです」
 ベンチに腰掛けた2人が言葉を交わす。
「言う義理もねぇんだが……」
 そう言いながらも黎子に向かって。
(丁度一年前か)
 火車は振り返るように話し始めた。
 行った場所はココと違う、河原並木。
「こう……チャリ回してって、朱子と二人乗りでな?」
 身振りを交えて語る火車の話に、黎子は耳を傾ける。
 朱子の話をする火車は、少し嬉しそうで……寂しそうで。
「コレがまた愛らしくてな? スゲェ素敵な一時でよ……生涯忘れる事ぁねぇ」
 何とも……言い様のない気持ちになる。
「弁当持ってって一緒に食ったりしてな。いやぁまぁー言う話じゃねぇわ」
 オレの不手際からコンビニ弁当だったしと気不味そうに言う彼に、黎子は苦笑いを浮かべてみせた。
「ふふ、結構少年っぽいところあるんですねえ」
「うっせぇな も少しで成人だっての」
「宮部乃宮さんから朱子の話が聞けるのは、嬉しいですよ」
 バツの悪そうな顔をする火車に、黎子は言った。
「機会があれば、これからも是非そういう話してください」
 二人の間の事は、知らないことばかりだ。
「ここに宮部乃宮さんがいて朱子がいた事が、私が戦っている理由でもありますから」
「……オレとしちゃ人の戦う理由になんかなりたかねぇんだが」
(コイツも立場上色々あんのかね……)
 黎子の表情からは、何も読み取れない。
(まぁ朱子の話は嫌じゃない)
「……機会がありゃあな」
 短く答え、話を締め括ろうとして……火車は何となしに、残念に思った事を口にした。
「……朱子の作る弁当 食いそびれっちまったなぁ……」
「朱子、自分で料理もできるようになってたんですねえ」
 呟いて、黎子も口を閉じた。
 唯、静かに感じたのだ。

(……もうすぐ一年ですか)


●さがすもの
「ふふ、御機嫌ようマルさん。寒暖の差が激しいですが体調を崩してませんか?」
 無性に話をしたくなって。
 マルガレーテに声を掛けてから、亘はその顔に陰のようなものを感じ取った。
 少女の言葉を受け、自分なりの形にして言葉を送る。
「終わりでなく休憩じゃないかなって思ってます」
 亘はそう、結論付けた。
「頑張りすぎて倒れちゃったら大変ですからね」
 頬をかきながら、照れたように笑みをこぼす。
 それに、散るというのは……他の命だけではなく、自分の為でもあるように思うのだ。
「何にせよ、答えを探し続けるのは良いと思います」
 もし出ても疑問を感じたら探し直せばいい。
 少し後ろに下がっても、また前を見て進み続けようと頑張れば。
「マルさんが求めてる答えも見つかるかもしれませんよ」
 そう言って、亘は少女に微笑んでみせる。

「何か考え事? 良かったら一緒に歩かないかい?」
 さくらの舞う並木道で。
 ヘンリエッタはマルガレーテに声を掛けた。
 可憐な乙女に難しい顔は似合わない。
「植物の生はとてもシンプルだね」
 気分転換になれば。
 そう思う。
 図鑑で見た、きれいな花を咲かせる木。
 さくら。
(華やかに花開くことも、いきいきと葉を茂らせる事も、枝を晒す事もあるんだろう)
 生きている限り、生者は移ろっていく。
(ボトムでは儚いと言われているのだと書いてあった)
「……確かに花咲く時期は短いようだね」
 散る花びらを、受け止めて。
 でも、と……少女は続けた
「さくらは木だよね」
 何十年、何百年……千年を越える木もあるそうだ。
「逞しいと、オレは思うんだ」
 ねえ、とさくらに語りかけ、その声に耳を傾けて。
 ヘンリエッタはフォーチュナの少女に問いかけた。
「あなたはどう、思う?」


●繋がる記憶
「やっほー熾竜さん」
「ん、羽柴も1人か」
「依頼で初めて顔を合わせてから、ゆっくり話すのは初めてだね」
 互いに一人で散策に訪れた壱也と伊吹は、桜の下で挨拶を交わした。
「ヴィンセントさんの記憶があるってどんな感じ? わたしのこと、わかる?」
「他者の記憶か……ちと説明しにくいな。うむ、羽柴のことはわかるぞ」
 問い掛けに考え込みつつ、まずハッキリとしている事を伊吹は答えた。
(元気で朗らかな良い子だ)
 素直にそんな感想を抱く。
 初めて会った時に受けたその印象は『記憶』と寸分違わないもので……
(一層好ましく思ったものだ)
「ってことはこれもわかるー?」
 そう言って壱也が掲げたビデオカメラを見て、伊吹は苦笑した。
「ああ、それもわかるぞ」
 あの、無愛想なフォーチュナに妙な悪戯を仕掛けた時の……
「これがわたしの持ってる物の中で唯一ヴィンセントさんの記憶があるんだよね」
「あの時は楽しかったな」
 伊吹は言った。
 自分の経験ではない。
 それでも、『楽しい』と感じる気持ちは、自分のものだ。
(『繋がる』とはこういうことだろうか?)
 彼女といると気持ちが明るくなる。
(あいつとの思い出を大事にしてもらえるのも嬉しい)
「今年の桜と熾竜を撮影だー」
 壱也も同じような気持ちを抱きながら、ビデオカメラを構えた。
(ヴィンセントさんにも届けばいいな)
 これから熾竜さんともいっぱい思い出も作って、色んな戦場も戦い抜いて、記憶を繋げていこう。
「これからよろしくね、えーと、伊吹さん!」
 壱也の言葉に、伊吹は頷きながら笑みを返した。
「うむ、よろしくな。『壱也』」

●共に往く時間
 青空に桜のピンクがとっても綺麗。
「晴れてよかったよね」
 涼の言葉に、アリステアは笑顔で頷いた。
 のんびりと桜を眺めながら、ふたりは公園を散策する。
「桜の花びらが舞うのに、否応無く春だな。て感じさせられるよね」
 言いながら涼は、そっとアリステアに歩調を合わせる。
(「遅い」とかそういう事、一言も言わないの)
「優しいなぁ」
 聞こえないように呟きながら、アリステアはこの前の事を考えた。
『妹とは思ってない』
 そう言われて、考えた。
 自分もきっと『妹さんですか?』と聞かれたら面白くない。
 だから、ちょっとだけ勇気を出して。
「『おにぃちゃん』じゃないのなら、何て呼んだらいい? ……妹じゃないのなら」
 少女の問いに少年は、不思議そうに首を捻って。
「いや、まあ、好きに呼んでくれればいいけどな。お兄ちゃん、て取ってみる? 涼で良いよ」
 予想外の返事に驚いた少女に、笑顔で応えて。
 何事もなかったかのように、涼は歩を進める。
「えっと……り、涼……?」
 妹以外で呼び捨てにするのは、初めてで。
 ちょっと特別に感じながら口にすれば。
 そう言えば、と頷きながら……少年は傍らの少女に尋ねた。
「俺は君の兄じゃないからって言ったけど。キミは俺に何かリクエストでもあったりする?」
「リクエスト? ……ん……」
 問い掛けに少し考え込んで。
 アリステアは服の裾を、きゅっと掴む。
「ここ、掴んでてもいい?」
 その言葉に笑って頷いて。
 もうちょっとゆっくり歩を進めながら……
 涼は、共に過ごす時を……噛み締めた。

●此処にある、ひだまり
「前と違って今年はこんな感じだから、去年よりも美味くできた気がする、なんてな」
 おかずは和風洋風バランスよく、ピリ辛タコスは得意メニュー。
「あと、桜のカップケーキな。去年の菓子も気に入ってくれてたし……」
 プレインフェザーが弁当を広げ、喜平はフェザー用のジュース、自分用の酒等を用意する。
「ありがと。乾杯する?」
 少女の笑みに応えるように、喜平も満たされた器を差し出して。
(早く一緒に飲めるようになりたいなあ……)
 弁当に手を伸ばす喜平を見守りながら、少女は想う。
 喜平の方はというと、弁当と菓子を美味い美味いと食うのに夢中だった。
 花を愛でないのかと問われれば、フェザーが用意してくれた諸々と比べたらなぁと彼は答えた事だろう。
 食が進めば酒も進む。
「さぁ遠慮せずにちこうよれ、ちこうよれ」
 ほろ酔い加減で喜平は、唐突に自身の膝を叩いた。
「え、あたしなの?」
 膝枕をするという彼に戸惑いながらも、少女は素直に言葉に甘える。
(もお……こんな事されたら眠くなるじゃん)
 身体を預け、髪を撫でる手を引き寄せて。
 唇同士が、そっとふれ合う。
 心地好いのは……日差しが暖かいから、だけじゃない。
「……出来ればずっとこうさせててよ」
 お互い年取っても、ずーっと……な。
 少女は呟きながら、まどろみに引き込まれて。
 起こさぬよう、指で優しく髪をすきながら。
 寝顔を見守りながら。
 喜平は器を傾けた。

 我が愛しき華は此処に在り。


●続き、繰り返さぬ日々
 散る桜を見るたびに、失くした命を思い返す。
 救えなかった命を。
(散っていく桜のように儚い命だったのだろうか?)
「……それを考える資格は俺にはない」
 竜一は静かに呟いた。
(結局、俺は犠牲を許容し、受け止めているのだから)
 だけど、こうして、ふと立ち止まった時に……思い浮かぶ。
(俺と交差した数多くの縁と命)
 良かれ悪しかれ、そこの命に差などあったのだろうか?
 思考が沈む、この感覚。
(それがイヤで、俺はひたすらに走り続けてきたわけで……)
「思えば遠くへきたもんだ」
 自然とそんな言葉が、口から零れた。
(数年前まではただの一般人だったのにな)
「今や、アークの結城竜一か」
(それが、本当の俺なのかね?)
「……ま、いいや!」
(マルガレーテたんを可愛がりに行こう!)
「マルたんかわいいから寂しくないもん!」
 そう言って青年は走り出す。

「どうです? マルちゃん2Pカラーver!!」
 怪盗を使用してマルガレーテそっくり(色は白っぽい感じ)に変身したハガルはご機嫌だった。
「さぁってと、この格好でマルちゃんと一緒に散策しましょうかねぇ」
 質問にウフフふふふーと笑みで答えたハガルは、そのまま少女と共に桜の間を歩き始める。
「私も考え事はいろいろあるんですよー、最近は再就職先について……とか」
 何時までもアークにいるとは限りませんしねぇと言いながら色々と話すハガルに、マルガレーテは何とも言い難い表情を浮かべてみせる。
「マルちゃんは将来どうするか考えてる?」
「私は目の前だけで一杯一杯ですよ」
 首を振る少女に、上手くいかないね~と。
 ハガルは笑いかけ、話を続けた。

●ひとつの風景
「何か言いたそうですね……断っておきますが私は一応『こっち』が本業ですよ」
 それなりに使いなれた箒を手に、モニカは説明した。
(メイドといえばやはりコレですよね)
 行っているのは見た目通り、掃除である。
 待ち合わせでも、カモフラージュでもない。
 普段、箒の代わりに重火器振り回しているのは上にそういう仕事を命じられているからであって、趣味では……
(まぁ多少の趣味も兼ねているのは否定しませんが)
「……まあ戦争屋じみた仕事しておいて言うのも何ですが、こうして平和な感じで戦争なんて起きない方がいいに決まってますよね」
 世界の情勢など、正直興味はない。
「私みたいな凡人は、こうして自身の周辺の平穏を手にするだけで精一杯ですよ」
 そう言って、彼女は再び箒を動かし始める。

「桜が……咲き……そして……散る」
 レジャーシートを敷いて、のんびりと桜の花を眺めながら。
 エリスは呟いた。
 バスケットには、サンドイッチと桜餅。
 ステンレスの水筒には温かい紅茶が入っている。
「季節は……巡る」
 時折吹く風に散る花弁に目を細めながら、その風景を瞳に移しながら。
「また……来年も……これを……眺められるように」
 少女は言葉を紡ぐ。

「せっかくだからな」
 公園から、海を臨む高台に向けて。
 ベルカは桜の咲く道を、ゆっくりと流していた。
「なんだか永遠に歩き続けて居られるような、不思議な気持ちになるな」
 そんな言葉が、自然と口からこぼれる。
(眠たいような、眼が冴えるような……?)
 気持ちが良いのだが、どこか妖しい心地でもある。
(桜の色には、そこはかとなく狂気があると思うのだ)
「しかし、まったく……」
 歩きながら、ふと……思った。
(来年も同じ桜を見られるかどうか?)
 答えを探す代わりに、自分に言い聞かせるように。
「しっかり目に焼き付けておくとしようか」
 ベルカはそう、呟いた。


●桜華と微笑み
「これが日本の桜か。話には聞いて居たが、綺麗だな……」
 吹く風に長い髪を抑えながら、フィリスが呟く。
「舞う桜の花弁に、棚引く桃色の髪か。フィリスは絵になるね」
 ゆっくりと手を引きながら、琥珀は素直な感想を口にした。
(初めて見た時も、異国の姫が舞い降りたように見えたんだよな)
 同時にドジ属性の事も思い出せば、急に笑みがこみ上げてくる。
「な、なんだ今更。お世辞を言っても私は騙されないぞ、こらっ、何を笑っている!」
 言いながらフィリスもあの時の事だろうと推測した時。
 ……繋いだ手に少し、力が込められた。
「また迷子になったら道案内でもしてやるからさ」
 琥珀が言葉を紡ぐ。
 気付いたら全部無くして天涯孤独の身だったから。
 誰かが傍に居るって事が、安心できる。
(結局人助けしてるつもりで、自分が寂しがりなんだよな)
 そんな思いは、内に隠して。
「フラフラどこかへ消えたりするなよ?」
 満面の笑顔を、少女に向ける。
 少し驚きを同じように隠して。
「……馬鹿者。私は犬か何かか? 全く心外だな」
 少し間を空けて。
 フィリスは笑顔の彼の頬を、引っ張った。
 装った表情が崩されるようにして、琥珀がさっきとは違う笑みを浮かべる。
 フィリスを負かしてしまう、何かが滲むような……笑顔。
(これでは……)
 頬を赤くした少女は、繕うように咳払いを一つしてみせた。
「ほら、今日はエスコートしてくれるのだろう? 存分に私を楽しませると良いのだぞ」
 それに応えるように、少し気障に。
 琥珀は少女の手を取った。
「お任せを。桜の姫君」

●傍らの歩み
 華やかな桜見物もいいが、春の陽と風を感じながらゆっくりと過ごすのも楽しいものだ。
(ひろさんと一緒に歩くと、いつも早歩きになっちゃうから)
「今日はゆーっくり歩いてね?」
 桜が穏やかに咲く散策路を、義弘と祥子はのんびりと歩く。
 手をつないで、他愛ない会話を楽しみながら。
「こうしていると、ちょっと前まで地獄のような戦いが自分達の住んでいる街で起きていたなんて信じられないな」
 だからこそ、共に過ごせる今を大事にしたい。
 義弘は思う。
 冷たい風に凍えぬように、傍らを歩む彼女を抱きよせて。
「こうすりゃ、暖かいだろ。二人で一緒ならな」
 ほんの少し周りは気になるけれど、それより大切なものがある。
 暖かさを感じながら、祥子はひらひらと舞う花びらに目を向けた。
 風が吹けば吹雪のように舞う様は、キレイだけどなんだかもったいない感じもする。
(こんな風に桜をみられるなんて、街を守れたご褒美かな)
「また来年も一緒に桜見に行きたいね」
 そう言えば、青年は静かに頷いて。
 視線が交わされ、彼の顔が近付いて。
 祥子は少し、背伸びをして。
 唇と唇が、そっとふれあった。

●双櫻
「またこの季節が来たな」
 嫌でも一年が経ったんだと思い知らされる。
(……ま、今回は恋人も居るし暗くなるのは無しだ)
「大好きな桜の花を見られるので嬉しいですにゃ」
 そう言って微笑む櫻子を見て、櫻霞は目を細めた。
「桜の花は素敵ですね、散り際も潔くて……櫻子は大好きですわ」
「桜が散るのは早いからな、のんびり見れるのも今日だけだろう」
 並んで二人は散策路を往く。
「それに……櫻霞様には桜の花が良く似合いますから」
 そう言って櫻子が微笑んだ。
「それを言うならお前もだろうに……なあ、櫻子?」
 髪に着いた桜の花弁を取ってやりながら、櫻霞は微笑と共に頭を撫でる。
「あ、この花弁で櫻霞様に栞を作って差し上げますぅ」
 嬉しそうにハンカチを広げると、櫻子は桜の花弁を集め始めた。
 それを見守りながら、櫻霞は木に寄りかかる。
 ひと時、静謐が流れ……
 ふと手を止めた櫻子が、櫻霞の袖を軽く引いた。
「にゃ……あの、その……櫻霞様にぎゅぅしてもいいですか……?」
「俺がお前の願いを断ったことがあったか? 早く来い……」
 じっと見つめ言葉を紡いだ櫻子の額に口付けを落としつつ、櫻霞も言葉を紡ぐ。
「また、来年も一緒に桜を見に来ましょうね」
 頬を赤らめつつも、穏やかな笑みを櫻子が零して。
 櫻霞は静かに、誓うように口にした。
「そうだな、必ず……二人で此処に来るとしよう」


●桜
 夢を見ていた。
 丁度5歳になろうかという時、初めて桜を見たときの……夢。
(あの時の“私”は、たかが植物に興味などなかったのだが……出会ってすぐに、心奪われた)
 その桜はとても大きく、祖父がとても気に入っていた桜だった。
 既に私の何十倍もの年月を生きているのだと聞いた。
 圧巻だった。
 満開に咲き誇る花、天へと力強く伸びる枝。
 大地を奪わんとする根。
 決してぶれることのない幹。
 恐らく、普通の桜ではないのだろう。
 ひと目で悟った。
(祖父が亡くなった今もあの桜は在り続けているだろう)
 もう、思い出すことはできない。
(私の遠き古里のどこかで……)

「ん、なんだ“妾”は眠っておったのか」
 シェリーはそこで目を覚ました。
 天気のお陰で陽気よく、心地好い。
「ぐっすり眠れたのか良い気分だ」
 何かを感じつつも、そう呟く。

 散る為に咲く潔さがあって、咲く為に散る事も厭わない懸命さがあって。
 或いはその両方で。
「だから桜は綺麗なんでしょうね」
 散策路を歩きながら、風はそんな事を考えた。
(綺麗なものはそれだけで価値があって、それが何故綺麗なのかには、こんな風に理由があるんでしょう)
 綺麗なものに憧れて。
 舞い落ちる花びらに手を伸ばして、掴み損ねて……何故か悲しくなって―
「あれ、おかしいな?」
(こんな気持ち、ボクにはもう無いと思ってたのに)
「……無駄な事は嫌いです」
 言い聞かせるように口にする。
(休んでリフレッシュするのも大事ですが、あまり立ち止まり過ぎると余計な事まで考えてしまいますね)
「……程々にしましょうか」
 次のお仕事に行きましょう。
「改めて、ギアを上げていきますよ!」
 風は自分を奮い立たせるように、口にした。


●アークと、リベリスタ
(コッチに来てまだあんまり時間が経ってないのに、思った以上に色んな事が起こっているな)
 そんな事考えつつ、ルナは海の見える高台で過ごしていた。
 見かけた知り合いに軽く手を振って挨拶する。
 それからまた、考え込む。
 戦うことが沢山あって、苦しいって思うこともあった。
(ソレでも私は、戦う事をもう躊躇わない)
 そう思う。
 もう、何もせずに失うことは……嫌だから。
「その事を、戦うことで教えてもらったから」
 楽しいことが、沢山あって。
 皆との出会い、絆を一つ一つ深めて。
 私たちの世界に無かった、様々なモノに触れて。
 変わると言うことを、実感する。
(ソレは時に更なる痛みを招くかもしれないけど、ソレでも)
「―私は皆と過ごしていたい」
 ルナは静かに……心を言葉に、形にする。

 楽団の騒ぎで少なくない仲間が、この世を去った。
 死はすぐ側にあるのは、判ってる。
「でも、失った悲しみは鈍らせちゃいけない」
 夏栖斗は誓を立てるかのように、口にした。
 どんなに辛くても、悲しいって気持ちは忘れない。
「……僕だっていつこの世を去るかわかったもんじゃない」
 だけど、先に逝った奴らの為にも。
 楽団は、バロックナイツは倒さないといけない。
 そう思う。
(これすらアシュレイちゃんの思惑どおりなんだろうな)
「わかっていても、倒すしかないんだろうけどさ」
 呟いた処で見覚えのあるフォーチュナの姿を見かけ、夏栖斗は声を掛けた。

 挨拶の後、言葉を交わす。
「僕にはやるべきことや守るべきものがあるからね」
 そう簡単に死なないよ。
 表情に、何かを感じて言葉を選ぶ。
「だから、君たちフォーチュナは僕らに情報をくれたら助かる」
 気持ち良い物じゃないとおもうけど、いつも感謝してる。
 そう口にすると、少女は首を振った。
「目を背けない事で、誰かの力に為れるなら……何だって見据えます」
 フォーチュナの先輩方も、きっと同じだと思います。

「……私たちも、戦いたいんです」
 自分たちなりに、でしか……なかったとしても。

 すべてを、費やして。

「美しく散る、か」
 散り始めた桜を眺めながら、快は一人の漢を偲んだ。
 楽団との戦いで、勝利のためにその運命を燃やし果たした男。
 宵咲美散。
 ジャック・ザ・リッパーを穿った、真紅の槍の騎士。
(誰よりも修羅に、闘神に近い男だった)
 それでも彼は、守るためにその槍を振るっていた。
「自分は攻めることでしか護る術を知らない」
 そう言っていた。
 以前、敗北の瀬戸際で助けられたことがある。
 命を賭し、まるで命そのものを刃として振るうように。
 穂先と化して、穿つように。
「俺は……彼のように戦うことはできない」
 それでも。
 見せてくれた覚悟を、いつか……自分なりの形で示さなければならない。
「あっちで、せいぜい戦いを楽しんでくれ。世界は、こっちで守るから」
 そう言って、クロスイージスの青年は杯を掲げた。

――献杯

 一枚の桜の花びらが。
 静かに杯に、舞い降りた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼の方、お疲れさまでした。
執筆しながら、一年というものを、時の流れというものを。
感じさせられると言いますか、思い知らされると言いますか……
暖かさと寂しさを同時に感じるような、不思議な心地にさせられました。
それはきっと……参加して下さった、みなさまのお陰だと思います。

御参加、ありがとうございました。
願わくは再び桜の許で、皆さまの物語を綴れますように。
それでは、また。
御縁ありましたら、よろしくお願いします。