●意味を失った者ども 「楽団が壊滅状態に陥ったとはいえ、未だ勢いと矜持を失わぬ者あり……と。ご立派なことですなあ」 ジョージ・バックグラウンド。 別名、『フィンガースナップショット』、もしくは指鳴りジョージ。 手袋型アーティファクトによって自らを半死体化させ、フィクサードとは比べものにならない戦闘力を有する楽団員である。 彼の後ろでは、男が陰鬱な表情でギターを奏でていた。 フラメンコの曲だとは思われるが、和音が所々に混じってどこかどんよりとしたテンポだった。 それもそのはず……というべきだろうか? ギター奏者ホアエル・マルドールは、既に死んでいたのだ。 彼の手にあるギターも、アーティファクトのそれではない。 カコン、とカスタネットの音がした。 ホアエルの背に身を寄せ、どこか憂いを帯びた目で振り向く女。 マヌエル・フラスコ。カスタネット型アーティファクト『死熱舞踏』の所有者である。 知る人ならば知ることだろうが、本来ギター型アーティファクトとセットで運用されるはずの道具である。それゆえか、彼女たちを囲む『舞踏人形』は比較的少ないものだった。 だがそのいずれもが、元フィクサード、もしくは元リベリスタの死体とあれば……強度は以前とは比べものになるまい。 それだけの暴力。 それだけの戦力。 それだけの破壊力をもって、彼らが向かう先は……それは小さな、住宅街だった。 「私たちのような流れ者に意味があるとは思えません。どうですマヌエルさん、ひとつ『憂さ晴らし』といこうではありませんか」 「憂さ晴らし、ね……」 夜のとばりが下りた後。 どこかひんやりとした空気の中、マヌエルは靴をアスファルトの地面で鳴らした。 どこまでも響くような足音。 そして、左右にずらりと並ぶ住宅に、反響し始める。 今から訪れる恐怖の、前触れとして。 今から訪れる、『意味の無い死』の前触れとして。 ●楽団、再戦。 指揮者ケイオス、木琴長モーゼス、そして多くの楽団員を失った『楽団』は壊滅状態に陥った。 しかしそれは『全滅』とは少々意味が異なる。そう、未だ生き残った楽団員たちが各の理由で立ち上がり、今再びの恐怖を呼び起こそうとしているのだ。 「今回担当して頂く地域は四国のとある住宅街です。集合式住宅として建設されており、大きく蛇行した道にそって左右あわせて9軒の家が並んでいます」 ネット上の衛星写真を用いた地図を、ウィンドウに表示する。 蛇行は大きく、直線ルートをとるのは難しくないにしても、お互いからの遮蔽物は多そうな様子だった。 反対側を陣取って弾幕を張った程度では、あまり効率的な排除は行なえないだろう。つまるところ、突っ込むしか無さそうだ。 「楽団員ジョージ、及びマヌエル。この二名の目的は住宅街に住む全一般人の殺害と回収です。逆に言えば、一般市民をある程度保護し切れればこちらの作戦は成功ということになります」 敵の詳細な戦力に関しては別紙の資料を参考にしてもらうとして……。 「今回の詳細な作戦内容を説明いたします」 前提。 楽団員は既に住宅街へと到着、行動を開始しており、被害をゼロにするのはほぼ不可能な状態にある。 メイン戦力であるジョージ、マヌエルはそれぞれ住宅街の両端から挟み込むように進軍し、徐々に中央までを制圧するよう動いている。 今回は部隊を『先行救出班A』『先行救出班B』『進軍迎撃班A』『進軍迎撃班B』の四つに分けて行動する。 「救出班は住宅へ真っ先に突入し、死体兵に襲われそうになっている一般市民を救出。そのまま保護します。 勿論、その場に放置しておけばこれ幸いと殺されるので、何らかの方法を用いて避難誘導をかけなければならないでしょう。有効な非戦スキルを持っている場合、ペースアップが図れます。 次に迎撃班ですが、こちらはAジョージ側、Bマヌエル側に分かれて迎撃を行ないます。 意地でも立ち止まって通さない……とするには人員が足らなすぎるので、徐々に下がりながら戦闘をするほかありません。ここでどれだけ敵の数を減らせるかによって進軍の速度が変わります。 たとえ救出班の行動が遅くなってしまっても、こっちでフォローできていれば問題が生じない仕組みになっています」 そこまでを語り終え、一同には詳細な資料が手渡された。 「作戦目標は住民20%以上の生存です……どうか、よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月08日(月)22:51 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●なにものでもない死闘 夜闇を踏みつぶし来たる、歩く使者の群れがあるとするならば、恐らくゆっくりと、そして静かな行軍を思い浮かべるものだろう。 ゾンビはゆっくり歩くもの。ゾンビは愚かで無能なもの。古いB級ホラー映画が、どのような意図でそんな風に描いたのかは定かでは無いが、少なくとも古典的に『そう』とイメージが決まっているものだ。 しかし今日、手に手に武器を取り、ある者は翼を羽ばたかせ、ある者は馬より速く走り、ある者は壁を駆け上り、ある者はブロック塀を障子紙のように破壊して、縦横無尽に、縦横無慈悲に、ただの殺戮と食いつぶしを目的として現われる。 彼らを人は、『楽団』と呼ぶ。 「胸くそ悪い連中だ。スナッフムービーにすらならん」 車のアクセルを踏み込む『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)。彼はヘッドライト操作レバーをあえて消灯側にねじると、素早くシートベルトと運転席レバーを操作。ハンドルの片側を握ったまま、『大型トラック』を突っ込ませた。 誰に? 決まっている。ジョージ・バックグラウンド率いる死体兵団めがけ、真っ正面からである。 強引にねじ曲がった前輪によってまずは付近の外付け郵便ポストを破壊。駐車してあった乗用車に片輪で乗り上げ、斜めに寝転がるような体勢でアスファルトを滑っていく。 禅次郎は上向きになった運転席側ドアより飛び出し、常闇を展開。車体にはねのけられた死体兵に槍状の闇塊を打ち込んでいく。と、その時、禅次郎の肩を貫くものがあった。 「チッ……!」 思わずよろめき、反対側へ転落する禅次郎。 「派手ですなあ。これはきっと通り抜けが出来なくなって、お手上げになりますなあ……ただの人間ならば」 パチン、と指を鳴らすジョージ。 トラックの荷台(何が詰まっているかは分からない)へと死霊の塊を打ち込むと、麻袋に詰まった砂だか土だかが大量に流れ出てきた。そこへ一斉に突撃をかける元フィクサード死体兵。 なんと言っても人外の連中である。 数度の爆発と突撃の末、十秒足らずでトラックの反対側から五箇所近い穴が空くことになる。 だがそこからが問題だった。 特殊カーボン素材の荷台天井部分をぶちこわし、死体兵の一団が飛び出したその瞬間、まるで待ち構えていたかのように『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の飛び込み蹴りが正面で壁を破ったばかりの男の、それも顔面へと炸裂した。 仰向けに倒れた男の頭蓋骨を膝の屈伸で踏み砕き、同時に紫電を纏った腕を地面へと振り下ろす。 稲光。しかる後に閃光(スパーク)。しびれて揺れる死体兵たちを無視して、彩花すっくと立ち上がった。 「もはや蛮行……戦争以下ですね」 他四箇所の穴から飛び出し、駆け出そうとする死体兵団。 彩花は肩に絡みついた長い髪を派手に払った。 「モニカ、一斉掃射」 「私はひとりきりですよ、お嬢様」 言うやいなや、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は抱えていたガトリング砲を右から左へぶん回した。 モーター音。それをかき消す射撃音。それすらかき消す破砕音。 飛び出そうとした死体兵が、周囲のカーボンパネルもろとも一斉に吹き飛んでいく。 勿論それでひるむような連中では無い。そもそも彼らに精神だの心だのと言うものはないのだ。 人間の形を完全に失った味方を踏みつぶし、軽機関銃を持った死体兵団が前面へ飛び出す。 警告も警戒もありはしない。目の前にある全部を標的として、一心不乱にハニーコムガトリングをぶっ放してきた。 「やっぱ撃ってきたか! トラウマなんだよなあ、こいつは!」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は盾を眼前に翳しつつ突撃。射撃手の一人に無理矢理接近すると剣で斜めにたたき切った。 「小夜香、回復頼む!」 「そんなに前へ出て大丈夫なの?」 癒やしよあれと囁く来栖・小夜香(BNE000038)。 彼女の言葉によって、世界は癒やしの存在を肯定せざるを得ない。 そうして回復を仕掛けながらも、翼を羽ばたかせて後退。軽く銃撃をうけそうなエリアから遠ざかった。片眉を上げるツァイン。 「なぁに学習済みだ。こういうのこそごり押しが効くんだよ!」 ピアッシングシュートでブレイクされたガードをあえてかけ直さず、次の射撃手へと剣を叩き込み、首を跳ね飛ばした。 とその時、ツァインは反射的に盾を翳した。がぃんと、装甲を歪ませる勢いで何かが着弾。派手にのけぞるツァインだが、ここで転倒しなかったのは流石の意地であった。 盾の端からのぞき込み、にやりと笑う。 「ジョージか」 「あなたは……誰でしたかな? 様子からして以前の生き残りとお見受けしますが?」 「そんな所だ。アンタ追って四国まで来たんだ、ひとつアンコール頼むわ!」 二発目、三発目のフィンガースナップショットを盾で受けつつ、テンポ良く後退。 丁度小夜香の辺りまで下がってきた。 横並びになったツァインに首をかしげる小夜香。 「ごり押しすんじゃなかったの?」 「引き際も肝心ってな。これも学習済みだ」 「そう」 ロッドを握る傍ら、小夜香は耳に手を当てる。 「こっちは割と粘ってるわ。そちらはどう?」 同時刻。 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は耳に手を当てていた。 「端の二軒はダメだった。もう少し時間を稼いでくれ。今から行く」 一見してそれを福松だと分かる人間は、もしかしたら少ないかも知れない。やたらに焼け焦げ、所々の引きちぎれたパーカー、そしてハーフパンツ。炭火の灰でも塗り込んでいるのか異常に焦げ臭かった。 「こんな格好までしてんだ、手遅れになったら目も当てられん!」 「ですわね」 半壊したブロック塀を跳び越える。その横に『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が並んだ。 二人同時に着地、ほぼ止まらずに玄関前へと移動した。 作戦としては『ヤクサの抗争』だの『火災の発生』だので扉を叩いて避難誘導をする、というものだったが。この期に及んで律儀にドアをノックする福松ではない。 「オラァ!」 無理矢理ドアをぶち破って突入。二階にあると思しき寝室へ直接駆け上がり、扉を無理矢理蹴破った。跳ね起きる家主。 「なっ、何ですか!?」 「消防隊だ!」「救急隊です!」 一瞬目を合わせる福松と神裂。 「どっち?」 「両方です」 そう言って神裂は窓の外を指さした。もくもくと上がる黒煙と、得体の知れない破砕音と銃声が否応なく感じ取れた。 「中央の家まで避難して下さい。ご家族もいるなら全員で、急いで!」 飛び起き、転がるように家から飛び出していく家主。 「よし、次だ!」 福松はわざわざ玄関から出るようなことはせず、二階の窓から隣の家へ直接ダイブ。窓を突き破って他人の寝室へと転がり込んだ。 驚いて跳ね起きる女性。 そんな彼女の前で、福松はガラスまみれの床に転がり、煤まみれの顔で叫んで見せた。 「怖いよぉ! み、みんなっ……いなくなちゃ……にげ、逃げようよぉ!」 目の前に煤まみれの子供が転がり込んで叫びだそうものなら、流石の保守派でも寝間着のまま飛び出すというものだった。 まあ外にさえ出てしまえばあの惨状を目の当たりにするはずなので、死にものぐるいで逃げてくれるだろう。 「……」 後から入ってきた神裂が、乙女座りの福松を見やる。 「……次、行くぞ」 福松はむっくと起き上がり、次の家へと飛び出していった。 場面は変わり、反対側の民家。 小銃を構えた死体兵が階段を駆け上り、寝室にあたる扉を破壊。 跳ね起きた家主に銃口を向けた、その時。 「キャッシュからのっ――てうわヤバい!」 窓から体を丸めて突っ込んできた『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)が斜線上に挟まり、飛来した弾丸を体で受けた。 追って飛び込んでくる『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)。 「悪いねヒナちゃん、SHOGO目立ちたがりでさ。フォローお願いできる?」 「分かりました!」 最低限の返事をして、陽菜は家主を掴んで窓から離脱。 一方で死体兵は階段……を使わずに反対側のドアを破壊。翔護はその背中に数発銃撃を浴びせつつ追いかけた。 隣の部屋には、外の騒音を気にして出たのか誰も居ない。空になったベッドを踏み台にして窓から離脱する死体兵。空中を泳ぐようにして隣の家へと突入しようとするが、その足を翔護がひっつかんだ。 ギリギリの所で軌道をズラして民家の壁に叩き付ける。代わりに翔護だけが民家に突っ込み、少々お年を召した主婦の真上へと跨がるように着地した。 「ヒッ……え?」 「あ、危険物搭載車が事故ったんで、すぐ火来るんで、逃げて」 「あ、はい」 親指で外をしめす翔護に、主婦はこっくりと頷いたのだった。 時は若干遡り、マヌエル側防衛ライン。 髪を風に靡かせて、マヌエルはカスタネットを鳴らした。 「やっぱり来たわね、アークのダンサー」 地面とタイヤが激しくこすれる音。 カーブを曲がった軽トラックが急激に蛇行しながら突進してくる。 「ここから先は通行止めよ」 マヌエルは風の如く駆け出すと、カーブ横転しようとするトラックの正面へと掌底を繰り出した。 べきんとひしゃげるバンパー。それどころか車体そのものがぐにゅりと縮み、四輪全てを宙に浮かせたかと思うと、カートゥーンアニメのように停止した。 むろん運転手はたまったものでは無い。『正常に』動作したエアバックの衝撃によって胸を強打し、ひしゃげた運転席に挟み込まれ、生き残ったとしても半身不随は確実という状態……だったが。 「反復させて貰うぞマヌエル・フラスコ」 車体の天井パネルを無理矢理破壊し、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が飛び出してきた。 「ここから先は通行止め、だ!」 体をコンパクトに丸め、回転しながら襲いかかるアラストール。 剣を逆手に持ち、突き下ろすような姿勢で繰り出された攻撃を、マヌエルはバックステップで回避した。 顔をしかめるアラストール。 本来なら大型トラックでも用意して、禅次郎のように器用に横転、スライドからのサーフィンアタックを仕掛けたかった所だが、それは彼のハイバランサー・マスタードライブのデュアルブート、更に自分の所有物としてトラックをしっかり持ってきたから出来たことなので、このレベルが限界だった。ちなみに先刻スクラップ化した軽トラックはモブリスタの人が一晩で用意したものである。 「で、攻撃はこれでおしまい?」 髪をなでつけるようにして言うマヌエル。その後ろを横切るように別の軽トラックが死体兵団へと突っ込んだ。 目を見開くマヌエル。 数人の死体兵を跳ね飛ばし、挽きつぶし、運転席から『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)が転がり出てくる。 軽トラック一台など神秘戦闘ではたいしたバリケードにならない(というか、たかだかアルミ板の箱ごときに手間取る神秘使いはそれはそれでショボい)のか、死体兵たちはただの段差でも踏み越えるかのようにトラックの上を駆け抜けようとする……が。 「憂さ晴らしで虐殺とかうんざりなのよ。帰ればいいのに」 アスファルトを転がり片膝立ちになる祥子。 大きな洗濯バサミ型のレバーを握り込むと、バチンと電流が流れた。 電流はレバーから伸びた高圧電流用ケーブルを伝って助手席と荷台に流れ、まんべんなく敷き詰められたポリタンク内部へと流れ込んだ。 大爆発。 車を足場にした死体兵も、それに近づこうとした死体兵も、ようやく踏み越えたばかりの死体兵も、もろとも爆破に巻き込まれて吹き飛んだのだった。 瞬間的な風圧にごろごろと転がされる祥子。 「え、何? ガソリンってこんなになるものなの?」 「もしかして、航空燃料とかじゃないでしょうか?」 『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)に抱え起こされる祥子。 このガソリン(ではないと思う)と電流式の導火線もまた、モブリスタの人が一晩で用意したものである。助手席に20Lタンクでも積んで器用にマッチとか投げ込もうと思っていた祥子には意外だったというか、『今回のモブリスタ優秀すぎないか?』と思ったりもした。楽団に対する執念と恨みを感じる。 まあ元フィクサードの死体兵が通常火器の爆発程度でどうにかなってしまうわけがないので、物理的にちょっぴり牽制できたかなという程度なのだが、祥子たちにとってはその牽制が何より重要でもあった。 「マヌエル!」 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)が飛び出し、マヌエルへと躍りかかる。 ブレードの露出したタンバリンを握り込みまずは一発叩き込んだ。 それを片手で掴むようにして受け止めるマヌエル。 「あら、例の踊り子さん。あなたのお友達、ずいぶん死んだそうね」 「そっちのギターの人も死んだそうッスね」 高速でスピンをかけて蹴りつけるリル。マヌエルは逆方向にスピンすると、火花の散る勢いで相殺した。 しかる後に手首を握り込み、脇へと放り投げる。 「今は構ってらんないの。ここの人たち半分くらい『ごちそう』になったら、相手してあげるわ」 「そうは……!」 追いかけようと起き上がったリルに、数人の死体兵が飛びついてくる。襲いかかるならまだいいが、炎を纏った腕で直接足や腰に掴みかかってくるのだ。 無理矢理に押し倒されるリル。 その間も死体兵団はずんずんと進んでいく。 「人形と踊るのは好きじゃ無いんッスよ!」 地面に手をつき、ブレイクダンスの要領で相手を振り払うリル。 はねのけられた死体兵を貫いて飛ぶ光の十字架。ブーメランか何かのように数人の首や腕をぶった切って飛ぶと、最後には祥子の手元へと収まり、勾玉型のプレートに戻った。 「こっちは何とかするから、あのカスタネットを何とかして」 「助かるッス!」 クラウチングスタートでマヌエルへ追いつくリル。 彼女を庇おうと立ち塞がる死体兵を、祥子のジャスティスキャノンが貫通。 マヌエルは振り向きざまに土砕掌を繰り出す……が、横合いから飛び込んだアラストールがこれをガード。体力をごっそり削られるが、歯を食いしばって耐えた。 「指揮者と相方が待っている。冥府に墜ちよフィクサード!」 反撃にとばかりに剣を叩き付ける。防御のために翳したマヌエルの手首が、先端のカスタネットごとぶちりと千切れて飛んでいった。 その横を駆け抜けるリル。 「今日のあんたは、熱が足りないスよ」 ブレーキ。 その直後、マヌエルの首がごろんと地面に転がった。 「おやおや、お早い退場ですなあ」 死体兵を粗方失ったジョージがスナップショットをしながら呟いた。 そんな彼めがけて魔閃光を連射する禅次郎。 ちらりと後ろをみると、最終防衛ラインに定めたエリアに後一歩で踏み込む所だった。 現在、マヌエル側がぐいぐいと押してきたことに対応して、中央に固めていた一般人を若干ジョージ側にズラしている。人員の差や物資の差もあるが、この辺が丁度いいラインだと禅次郎は思っていた。 「神火よ……」 ロッドに向けてぽつりぽつりと呟く小夜香。 放たれた神気閃光でばたばたと倒れていく死体兵。 「重工の、フルファイアで頼むぜ!」 「最初からフルですけどね」 後を追うように放たれたハニーコムガトリングがとどめとなり、死体兵の山が築かれた。 そんな山の上に立つジョージ。 「いつも通りか……行くぜ!」 ツァインの剣がジョージの指を切断。 くるくると宙を舞う指。 それを彩花は首だけでかわし、ジョージに急接近した。 襟首を掴まれ、眉を上げるジョージ。 「ふむ、まあ……こんなものですかな」 彩花は目したまま軸足を蹴り上げ、相手の体を180度高速反転。頭を地面に叩き付けた。 ぐしゃりと、スイカのように砕けるジョージ。 それが、戦いを彩る最後の音となった。 この地域の住民を突如として襲った人災は、大規模な死者を出すこと無く終了した。 家が盛大に破壊されたこともあり、居住区ごとどこかへ移動するという話も聞く。 すくなくとも、死体が動き出すようなことはもう、無いだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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