● 「黄金のヤギか、面白そうだな!」 「高く売れるんじゃねぇか?」 夜の闇に紛れ、1匹のアザーバイドがこの世界へと降り立った。 金色の毛並みを持ち、神々しく輝く羊。鬱蒼と茂る森の中に開いた、木々の生えない平地にその羊はいた。 「……まるで祭壇だな」 その羊を狙うフィクサード達の1人が、そんな事を呟く。 「祭壇?」 「あぁ、ギリシャ神話にそんな逸話があったはずだ。確か神の遣わした黄金の羊を生贄にして、神に返したとかなんとかな」 あまり詳しくは知らないようだが、森の中に都合よく存在した平地を『祭壇』と称したフィクサードからは、その羊は『生贄』に見えているのだろう。 ただし神に返すための方法としての生贄ではない。 彼等がその羊毛を金銭として得るための、欲望のための生贄だ。 「ハッ! 何時からそんなインテリになったんだ?」 「お前が知らないだけだ。そんな事より、とっとと仕留めるぞ」 そんな会話を交わし、羊を狙うフィクサードはこの近くに拠点を構えているらしい。 何か面白い金の話でもないものかと相談している矢先、眩い光が目に付いたところ、来て見ればこの羊がいた――といったところか。 『メ゛ェ……』 しかしこの羊も、ただ黙ってやられる存在ではないのも事実。 輝く黄金の羊毛にありったけの電気を蓄え、放電する準備は既に整っていた。 「どうする? なんかあっちもやる気はあるようだぜ」 「構わん、様子見がてら攻め立てるぞ」 狙うフィクサードの側も、接近しつつその様子にただならぬ気配を感じてもいる。 「そうさ、ヤツは生贄だ。あの電気がどこまで強いかがわかれば、対処法はきっとある」 全ては黄金の羊を己の贄とするために。 欲望に駆られたフィクサードが、敵意なき来訪者を狙う――。 ● 「おひつじ座の時期だから、羊ね」 となると来月はおうし座だから牛が来るのかという話だが、桜花 美咲 (nBNE000239)は「それは来月にならないと……」と言葉を濁した。 ともかく、夜の森の中に現われた羊のアザーバイド『ハマル』を狙い、フィクサード達が攻撃を仕掛けようとしているらしい。 フィクサードの数は10人。 集まったリベリスタの数よりも多いが、その大半はアークの中堅クラスと同等の実力を持ったもので構成されている。 「気をつけるのはリーダー格の2人だけど、その2人もこっちの上位のリベリスタより劣るわね」 編成の問題は孕んでいるものの、それも作戦でどうにかなるだろうと美咲は言う。 だが、まったく問題がないわけでもない。 「このアザーバイド……ハマルっていうらしいんだけど、敵も味方も区別がついてないのよ」 それはそうだろう。この世界に訪れたばかりならば、誰が敵で誰が味方かなど、知るよしもない。 加えてフィクサードが攻撃を仕掛けようと殺気立っているのだから、「自分達は味方だ!」と言ったとして信用されるわけもない。 ゆえにハマルは、その雷撃を全ての者に放つ。 攻撃を受けた時の自衛としてではあるが、その威力はマグメイガスの放つチェインライトニングの如く辺りに奔ることだろう。 「まずはこのハマルをフィクサードから守る事。その後で、近くにある穴からハマルを元の世界に送り返す事。これが今回の仕事よ」 とはいえ、フィクサード達の猛攻を受ければハマルは倒されてしまう。 特に集中攻撃を受ければ、30秒もつかもたないか――といった程度の強さしか持ち合わせてもいないようだ。 「長期戦は不利だから、短期で決着をつける必要があるわね。難しいかもしれないけど、皆ならきっと出来るわ」 それでも、美咲はリベリスタ達が勝つと信じている。 迷い込んだ来訪者に、不幸な生贄という末路を辿らせるかどうか。 ――今、賽は投げられた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月31日(日)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●黄金の羊毛 『メ゛ェ~……』 小さく啼いた羊は、この世界がどこなのか、どのような世界なのかなど知ってはいない。 訪れた矢先に理解した事は、1つだけ。 「とっととあの羊を仕留めるぞ!」 「ヒャハハ! 金だ金だ!」 迫り来る『この世界の住人』が、殺意を持って自身に迫ってくる事だけである。 「金色の羊、確かに神話にそんなお話があったね。ならフィクサード達はさながら金羊毛を略奪に来たアルゴ船の乗組員かな?」 「空飛ぶ黄金の羊、でしたっけ」 少し離れた位置から接近しつつ、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は神話の一説を思い返し、『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が同意するかのように頷く。 フィクサードの目的は全てが金に集約されている。 ならば黄金の羊の存在は、『金の成る木』にしか見えていないのだろう。 「でも神話とは違う。ボク達が決して奪わせたりしないよ!」 「そうですね。神話は余り詳しくないですが、勝手に生贄にされるのは許せません」 しかし現実は違うものだと、この世界に訪れた黄金の羊『ハマル』を無惨な生贄にさせまいと決意を口にする2人。 その守るべきハマルは彼等の向かう先で、フィクサード達を迎え撃つ構えを見せている。 「まずは辿り着かないと話になりませんが……」 自身の役目であるハマルの援護をするためには、目の前にいるフィクサードをまず越えなければならないと街多米 生佐目(BNE004013)は両者を交互に見やる。 数の時点では劣勢であり、かつハマルを守るためにはどうしても戦力を分散する必要があった。 「はーい! 長谷川君に笹川君、アークの御厨夏栖斗だっぜ! ご機嫌麗しゅう」 ならば少しでも注意を引きつけようと名乗りをあげたのは、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)だ。 どれほどの野良フィクサードであっても、アークの中では特に有名な彼の名は轟いている。 「げ! 厄介なのが来たぞ」 「どうするよ?」 口々に『面倒な相手がやってきた』と思わせるほどには、その名乗り十分な効果をもたらしたと言えよう。 「こちらには珍しいフュリエもいるぞ。どうだ、こっちを狙ってみないか?」 続けて自身を囮にしようと動いた『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)ではあったが、 「即金になりそうもないのは、ちょっとな」 「ということで、目の前の羊を一狩りさせてもらうぜ!」 美しいフュリエよりも目の前で輝く黄金の毛並みの方が、彼等にとっては確実な金になると判断されてしまったらしい。 この点については、フィクサードの求めるものが『すぐに金になりそう』なハマルの毛並みに目が眩んだ点が大きかったのだろうか。 『……メ゛ェ!』 あまりにも凄まじい物欲を持って迫る『異世界の住人』の姿に、身の危険を感じたハマルの羊毛に蓄えられた電気が、より一層激しく輝きを放つ。 「金色の羊さん……。怖いよね。こんなわけの分からない所で、わけのわからない生き物に囲まれて。……ちゃんと返してあげるからね? 頑張るからね」 駆けながらそう言った『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の言葉は、ハマルには届いてはいない。 届いてはいないが、その気持ちが少しでも伝わればと、アリステアはハマルに視線を合わせようとじっと羊の目に視線をぶつけていく。 もしここでハマルに気持ちが伝わっていれば楽にはなるものの、伝わらなければフィクサード同様に敵として見られる事となる事は間違いない。 「今回は善性アザーバイドかは分からないけど……でも、守らなきゃいけないんだよね」 後ろから雷を食らう可能性も考慮しながら、『見習い戦闘管理者』虚神 ミレア(BNE004444)はそれでもハマルを守るのだと、任務の成功条件を改めて思い返す。 「何だか~、フィクサードには悲しいお知らせが有りそうな気がしますね~。もっとも~、そのお知らせを分らせない為にも全力で妨害ですよ~」 彼女――ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)の言う『お知らせ』とは、恐らくフィクサードが『お仕置き』される事を指していると考えられる。 ハマルからも、そしてリベリスタからも。 もちろんリベリスタ側もハマルの雷撃を食らうだろう事は想像に難くないが、危険を察知して逃走される可能性を考えれば、全力をもって妨害するという選択は正解でもある。 「笹川、お前等に攻撃は任せた! 俺達は奴等の迎撃に回る」 「わかった、きっちり金の羊毛は頂くぜ! しとめたらジンギスカンにでもしてみるか?」 フィクサード達はこの時、まだ気付いてはいない。 仕留めると決めた以上、アークを放置してでもハマルを狙うべきだった事を。 それが叶わないと判断する理性があったなら、戦わずして逃げる方がマシだったという事を。 ●羊を狩る者、守る者 「邪魔するんじゃねぇよ!」 予想は僅かにしていたとはいえ、それでもアークによる仕事の邪魔はフィクサードにとっては迷惑以外のナニモノでもない。 長谷川と彼の率いる5人が迎撃に出張り、残る笹川の組がハマルを倒す――これは普通に考えれば常道の作戦ではあるだろう。 「ごめんね? 横、通らせてもらうね」 「ボク達は戦う事より、守る事が役目だからね……」 だがその作戦が効果を及ぼすのは、アークが戦力を総動員してハマルを無視し、フィクサード撃破に出てきた場合の話だ。 少しフィクサードから離れる側に突破口を見出し突っ切ったアリステアやアンジェリカが抜ける事など、フィクサード達はほとんど想定してはいなかった。 「抜けられた!? そっちに行ったぞ!」 「お前達雑魚の相手はこちらにいるぞ」 敵がそちらにいったと注意を飛ばす長谷川や周囲の配下に対し、ティエの挑発が怒りを誘う。 「そうそう、君等は弱いんだから一斉にかかってこないと、勝てないぜ?」 さらに夏栖斗も挑発を仕掛け、彼等の注意を一斉に引き付ける事には成功した。 「上等じゃねぇか!」 「やってやんぜ!」 見事に挑発に乗り、怒り心頭のフィクサード達にとってはもうハマルよりもリベリスタの方が殲滅対象だ。 「固まってると~、まとめて斬っちゃいますよ~」 そこを好機と判断したユーフォリアが突っ込み、密集していた敵を纏めて切り刻めば、 「これが、気持ちとして届くと良いんだけど……」 とミレアは効率的な防御動作を仲間だけではなくハマルにまで届けることを考える。 (我々は、貴方に、何一つ害意を抱いてはいません。我々は、貴方に、害意を持つ者と敵対する者です) 同時に生佐目が言葉をテレパスに乗せ、ハマルに敵ではないのだと告げる。 確かに2人の気持ちが届けば、フィクサードだけが敵なのだと認識したことだろう。 しかし――。 『……メ゛ェ……』 言葉が届いたとしても、一度抱いた警戒心が簡単に解けることはない。 肌で感じる殺意に迎撃態勢を取るハマルは、異世界の住人に対して『恐怖心』すらも抱いていた――といったところか。 「行動で示すしかない、ってことですかね」 「示しましょう、私達が敵ではないと――!」 であるなら、信じてもらえるまで行動で示す以外に道はないと、ハマルを守る文字通りの『壁』となるべく走る生佐目とアンジェリカ。 「わたしたちはあなたを傷つけたりしない! だから怖がらないで。怯えないで。ぜったい無事に返してあげるから!」 2人と共に動き、そして警戒心を露にするハマルに心の底からの気持ちを言葉にし、アリステアは確かな決意を胸にフィクサード達へと視線を移す。 「オラァ! 全員ぶちのめせ!」 その視線の先では怒りに駆られた長谷川の一団が、目に映るリベリスタを倒さんと攻撃をかけ始めていた。 「喧嘩上等。さぁ、勝ちに行きましょうッ!」 最も重要である『ハマルの防衛』の第一波が成功した事に、己の戦闘動作を仲間と共有した壱和は勢いに乗れると信じている。 「大振りすぎるぜ、当たってはやれないな!」 否、デュランダルが振り下ろした刃を軽くいなし、直後に後ろに立つマグメイガスもろとも鮮血の花を咲かせた夏栖斗の姿を見れば、勢いに乗っていると言える。 「流石に夏栖斗のようにはいかないか……。だがっ!」 近くでダークナイトと剣戟を交わすティエは、夏栖斗のように軽く受け流す事が出来ずに手傷を負うが、それでもその刃は確かな傷を相手に残していく。 ここまでの作戦は、リベリスタの思うがままの流れだ。 「あっちに躍起になってる間に、こっちはやっちまおう」 「そうだな、あいつ等がボコボコにされてる今がチャンスだ」 そんな中で、笹川の一団は長谷川達を放置してハマルへの攻撃を敢行せんという動きを見せる。 アンジェリカや生佐目、アリステアはこの攻撃の瞬間を目にしながらも、ハマルまではもう少しだけの距離があった。 「く、間に合いませんか……!」 「この距離は、流石にどうしようも……!」 歯噛みするアンジェリカの隣で、この一撃が『不可避』のものだと判断したのは生佐目だ。 そう、距離の問題も考えればハマルが攻撃を全く受けないと言う事は不可能に近い。10人のフィクサードが集中攻撃をかけても30秒はかかる程度の体力をハマルは有しているのだから、今しばらく倒れると言うこともない。 「急ぐしかないよっ、もっと早く、早くだよっ!」 これだけの条件が揃った中ならば、選べる選択肢はアリステアが言ったこの言葉に尽きる。 可能な限りの速度でハマルの傍へと駆け寄り、守る――フィクサード全員を一度に相手取る作戦以外では、これがもう1つの良い選択なのだから。 『……メ゛ェ!』 が、どの選択をとってもハマルは攻撃を受けてしまう。即ち、その黄金の羊毛に蓄えられた電気が一斉に――。 「ハハハ、敵も味方もないのか、こりゃ良いや!」 攻撃をかけた笹川は、邪魔をしにきたリベリスタですらも雷に打たれた現実に笑いが止まらない。 守ろうとする存在から攻撃を受ける光景は、彼等のような悪人からしてみれば面白いと感じるモノ。 「ここから後はそう飛んでこなくなると思いますけどね! 半歩下がってください。撃ち込みますからッ」 怒りに任せて凶刃を振るいながらも笑みを零す長谷川にそう告げ、壱和の手から閃光弾が飛ぶ。 挑発に怒り、リベリスタ達の猛攻を受け、さらにはハマルの雷撃を喰らい、果てには閃光弾で動きを止められる始末。 長谷川も笹川も、見通しが甘かったのかと問われれば、決して甘くはなかったという結論がある。 それ以上にリベリスタ達の動きが迅速であり、役割を上手く分散した点で戦局の天秤が傾いたと考えるのが妥当だろう。 「下手なことは~、考えない方が良かったですね~」 しぶとく耐え、立ち続ける長谷川に何度も鋭く、そして素早く刃を突き刺したユーフォリアの言葉は、倒れていく彼の耳には届いてはいない。 「金儲けにコイツが必要なら殺すわけに行かないっしょ? 少しくらいその空っぽの頭働かせたほうがいいんじゃね?」 そういった夏栖斗に対しては、 「……毛皮はそれでも金になるだろう……」 と、倒れて意識を失う直前のデュランダルが返した。 これにより、長谷川の一団は瓦解。 残るは笹川の率いるソレだけとなったが、 「チクショウ、邪魔だ!」 「あきらめた方がいいと思うよ!」 こちらの攻撃も、身を挺してハマルを庇い続けるアンジェリカが全て受け止め、不必要な攻撃を届かせはしない。 (我々は、貴方を、元の世界に戻る手伝いをする者です。我々の、意志を、肯定していただけるのであれば、ここから下がっていただく事を希望しています) そしてついに、生佐目の言葉が届いた。 「大丈夫、大丈夫だよっ!」 アリステアの元気付ける一言に小さく啼いたハマルが、指示の通りにフィクサード達から離れるように後ろへと下がったのだ。 「好機、弱点が見えた! 押し切るなら今しかないよ!」 下がるハマルが追撃を受けないようにと、仲間達に発見した弱点を教え指示を出したミレアは、そのまま続けてハマルへとテレパスを送り、 (言葉が通じるかわかんないけど……あなたの力が必要なんです。……一緒に戦いましょう? あたしも少しだけだけど手伝ってあげられるから) 異世界からの来訪者との共闘を望み、持ちかけた。 もちろんこの提案が通じるかどうかは、ハマル次第ではある。 『メ゛ェッ!』 だが再び啼いたハマルがフィクサードに向き直る姿を見れば、どうやらその言葉が通じたらしい。 「はは、強力な味方が出来たな!」 後退するアンジェリカ達と入れ替わりに前に出ながら、夏栖斗はこの戦いの勝利を確信していた。 既に長谷川の一団が崩壊した今、残る笹川の一団と相対するリベリスタ達は数の上でも有利となっている。 「ここまで来て引けるかっ!」 守るべき存在を味方に引き入れた状況が、かつ数でも勝った状況が、リベリスタ達にとっては頼もしい追風。 「引かないならば、倒すしかないな!」 先程の戦いでは幾つかの手傷を負ったティエのぐらにーとそーどの刃が、振り下ろされたデュランダルの力強い一撃を受け止め、否、それ以上に押し返して相手の頬に抜き身の刃を突きつける。 「勢いづきやがって!」 「いや、これが仲間と結束して戦うと言うことだろう? お前達も少しは……勉強したらどうだ!」 押し返す勢いのままにデュランダルの刃を弾き飛ばし、突きつけた切っ先を持って降伏を迫るティエ。 「この戦いは高い勉強代になりそうですけどね?」 飛び掛るソードミラージュの強襲をバックステップで回避した壱和が、返す刀で逆に倒したときには、『高い勉強代』はほとんど支払いが完了していたとも言えよう。 閃光弾を投げるか、このまま続いて大胆に敵の弱点を突いた戦いを取るかと考える壱和だが、 「もう決着はついた。そうは思いませんか?」 自身にまだ十分に余裕がある事と、崩壊寸前の相手の状況を見れば、無理に攻め立てる事もないと判断したようだ。 「撤退するなら今が期だよ、お仲間もつれて帰っていいよ。金は命あってのモノダネっていうっしょ?」 さらには夏栖斗からの降伏勧告が、 「ハマルさんも雷でお仕置きしちゃうかもしれませんよ?」 「でも、無理に突っ込んじゃダメだよ、ハマルさん」 ミレアが傍らに立つハマルの攻撃態勢をフィクサード達に見せ、アリステアがそのハマルを気遣うように庇う態勢を見せる。 「そうしたいのは山々だがな……舐められたままじゃ、終われねぇんだよっ!」 そんな降伏勧告に笹川は本心では頷きたかった部分もあったようだが、プライドが決してそれを許しはしない。 「あらあら~、それは残念ですね~」 ならば仕方ないとユーフォリアの刃が的確に抵抗を続ける笹川を貫けば、 「あの時みたいに……ハマルをそんな風にはしない。絶対!」 過去、助けられたアザーバイドを不本意ながら死なせてしまったアンジェリカが、同じ轍を2度と踏むまいと不吉を届ける月を呼び出し、笹川の意識を途切れさせていく。 崩れ落ちたフィクサードに、もう戦う力は残っていない。 『……メ゛ェ』 「ううん、もう良いんだよ」 追撃をかけようとするハマルの鼻先をそっと撫で、アンジェリカは戦いの終わりをハマルに告げる――。 ● 「うわぁ……すっごいもふもふ!」 僅かではあるが傷ついたハマルを癒した後、元の世界へと送り返す前に黄金の毛並みを楽しもうと抱きつく壱和。 やはり電気を蓄えやすい毛であるせいだろう、触れれば少しだけ静電気がバチっと来るのはご愛嬌か。 「わたしも、さわって良い??」 おずおずと尋ねるアリステアに軽く啼いて応えたハマルが、自分からそっと触りやすいようにと頭を下げる。 「すごくふかふかです……♪」 黄金であるせいか少々眩しい部分はあるものの、ふかふかの羊毛の感触はこの世界の羊とほとんど大差はない。 何より、元来このハマルは相当におとなしいアザーバイドだったようだ。 優しく接する相手には敵意もなく懐くことからも、そのおとなしさが現われている。 「ほんと、ふかふかってのは良いよな! 眠たくなってくるぜ」 という夏栖斗は、頭を撫でるだけでも寝れそうなほどにご満悦。 「助けられてくれて有難う」 ぎゅっとハマルを抱きしめるアンジェリカは、過去の辛い記憶を思い返しながらも、今度はそうならなかった事に安堵の息を漏らす。 「そろそろ~、時間ですよ~」 とはいえ、あまりふかふかもこもこを楽しんでいる時でもないと、ユーフォリアがハマルを返すべき、そして破壊するべきゲートを指差した。 「願わくば、三高平にお越しくださいませ。次は、相応の出迎えを用意させていただきますれば」 『メ゛ェ』 見送る生佐目の言葉に、頷いたハマルは果たして三高平に訪れる事はあるのだろうか? そんな未来が訪れる事を生佐目は願う中、通ってきたゲートを帰り道とし異世界からの来訪者が帰っていく。 「救われた側だった私は、救う側になれたのだろうか」 ティエはふとそんな事を思う。現実として救えているのだが、まだ彼女には実感が湧いていないのだろう。 おとなしき異世界の来訪者は、来年の今頃、再びこの世界へと訪れるかもしれない。 その時は、楽しい思い出だけを作る事が出来ますように。 閉じたゲートの先にある世界を思い浮かべながら、リベリスタ達は夜の空を見上げた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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