●某日先勝 ある春先の出来事。 「ここは一つ、あたしの顔を立ててくれねぇかい?」 春先の雨が軒下を濡らしていた。 灰色に霞む景色の中にあって、庭に散り落ちた桜の薄紅色が物悲しい。 ふちの割れた湯のみを手繰り寄せた。 「先のない人生です。いや、もはや人生と呼べるかどうか」 「それをいうならあたしのも、だよ」 どうしても? どうしても。 断りきれなかった。 話を持ち込んだ相手は、これまでにあれこれと世話をやいてくれた人だ。 この廃寺も世話になった。 人目を忍ぶ暮らしながら、おかげできょうまで生きながらえた。 世の中にはリベリスタだかフィクサードだか、わたしたちのような不幸な境遇の者を狩るものがいるという。 死ぬのは怖い。 死ぬのは嫌だ。 怖いこわい、嫌だいやだと思っていたからこうなってしまったのか。今となっては考えても仕方のないこと……。 「それで? 見合いの日取りと場所は?」 世話人は手をぱん、と叩いて打ち鳴らした。 ねじれた首から返ってきた声は弾んでいた。 「やあ、うれし。受けてくれるかい。時間と場所はまた後日改めて。おっと、みてごらんなさい。お天道さまも喜んでるよ」 みるみるうちに雨が上がって、雑草の生えた庭に日が差した。 ●某日大安 「お見合いをブレイクしてきてくれ」 それだけ聞くとろくでなしになってこい、と言われているようでブリーフィングルームに集ったリベリスタたちは素直にうなずけなかった。 「He! どうしたんだ、みんな。簡単な話だろ? いつも通りリミッターオフしたら、魂の叫びに導かれるままアクションを起こせばいい」 白い歯をきらりと光らせ、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は親指を突き立てた。 「グットラックだ、トゥギャザー」 グットラックだ、じゃねーよ。まだ肝心なことを何一つとして説明してないじゃないか。 リベリスタのひとりが顔を引きつらせながら手を上げ、伸暁にことの詳細説明を求めた。 「難しいことは考えなくていい。行く、ぶち壊す、戻る。ふっ、シンプルだろ」 だれかが小声でぼそりと、シンプルなのはお前の頭だろ、と残念な男前に突っ込みを入れた。 「細かいことは全部資料にまとめてあるから読んでくれ」 もちろん、資料をまとめたのは伸暁ではない。アークの職員たちだ。 「それじゃあ、こんどこそグットラック♪」 ●某日?? 「絵にかいたように上手くことが運ぶものでしょうか?」 「それはわからないね」 「…………」 「だけど、やってみる価値はあるんじゃない? ダメもとだし」 闇に笑い声が滲む。 「愛は時に奇跡を起すもの、てね。運命を引き寄せられなくても……違う何かになれるかもしれないし、違う何かを生み出せるかもしれない」 ノーフェイス――長い長い時を経て人に妖怪と呼ばれる者は、長い首をもたげた。 話を持ちかけて来た、若い白衣の男を半目で見据える。 「……まあ、こっちは失うものなんて、端からありゃしませんからね。あなたの実験とやらにつき合わせてもらいましょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月06日(土)22:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 暗く、息が詰まるほど狭い空間に明かりを放つ複数のモニター。その前に男がひとり、革張りのチェアに深々と腰かけて道具が揃うのを待ちわびていた。左手にはめた牛のパペットの口をぱかぱかと開いて遊びながら12台あるモニターを眺めている。 ノーフェイスたちの見合いは始まっていた。鼻なしと耳なしのふたり――ふたり? ここは2体というべきか――はみやげ屋を出て園内を西へ歩き出している。白黒モニターのふたりは見合いの当人同士というよりも、非行少女とそれを補導する警官。生前の生業そのままだ。まだふたりの間はぎこちない。 彼らがうちとけあうために必要な “きっかけ”がまだ来なかった。 男がしびれを切らして立ち上がりかけたそのとき、遊園地ゲートを監視するモニターにようやくリベリスタたちの姿が映った。 「『やあ、流。やっと来たね。もう、来ないんじゃないかって思ったよ』」 「それはないんじゃないかな、モーモーさん。アークのリベスタといえば、ゴキブリのようなものだからね。神秘事件の起こるところ、必ず湧いて出るのさ」 くつくつくつと、ぎらつく光を受けた口元が歪む。 「さあ、実験を始めようか」 ● 「……なんだ、この場所は」 雑草を踏み分けて、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)は寂れたテーマパークの中を見渡した。乾いた中に生臭さの混じる風が、鷲祐の柔らかな髪を横へ流す。すっと引き寄せられるように足元へ目を落とせば、ネズミと思しき死骸ががらんどうの腹を空に向けて転がっていた。 (いくら廃止されたとはいえ、死体まで転がっているものか。……根深くなりそうだ) 経営の行き詰まりからテーマパークが廃止されて10年。野良犬の類がここへやってきて死ぬことはあるにしても、この匂いの強さは異常だった。最近死んだものが多数運び込まれているに違いない。 「きょだいな建造物がいくつもあるようですが……これはいったい?」 何でしょう、と言葉をつないで『エクスィスの魔』シャルティア・メディスクス(BNE004378)が口もとを押さえた。白金の鎧がメリーゴーランドの毒々しさをも感じさせる電飾を映して鈍く光っている。 首の腐り落ちた木馬に狂気を感じとったのか、シャルティアの肩にとまったフィアキィがおびえたように羽をしきりに震わせていた。 「うーん。本当はとっても楽しい乗り物なんですけどね、あれは」、といって『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)はメリーゴーランドを指差した。 「メリーゴーランドといってですね、謎のフィクサードが何も仕掛けていなければ、とくに怖いものではありませんよ。機会があればちゃんと動くやつに乗ってみるといい」 「ほう。そうなのか? では、いつか辜月を誘って行ってみるかのぅ」 試験管ベビーであった『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は親に連れられて遊園地へ行ったことはない。胸の奥で脈打つこの心臓の主にはあるのだろうが、あいにく引き継いだ記憶は断片的なものだった。 にもかかわらず、目の前の光景がB級ホラー映画のそれですらあるにもかかわらず、強く心が惹かれるのはなぜなのだろう。 「真夜中なのに動いている遊園地。これが素敵な殿方とのデートなら佳かったのですが」 シェリーの横で『天邪鬼』芝谷 佳乃(BNE004299)が、くす、と笑った。 「とはいえ、お仕事も捨てたものではないです」 敵と戦えるのですから、とつややかな黒髪を夜風に遊ばせて一歩前に出る。 「ところで柚木や、さっきから浮かぬ顔をしておるが……やはり?」 『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)は、振り返ったシェリーの視線を受けて重々しくうなずいた。 「園内のネットワークは生きている。いま監視カメラの画像を静止画に書き換えようとしているところだが……なかなか手ごわいな」 「別行動中も続けてくれるか?」、と鷲祐。 「もちろん」 「よし、ではここで2班に分かれよう」 「ふふふ、楽しみですわ。今宵の敵はどんなドラマを見せてくださるのかしらね」 ● 「『ありゃゃ。流、やばいんじゃなーい?』」 牛のパペットは既に男の左手にはなかった。どこにあるかといえば、床の上でぐったりとしている。ひとり芝居は男――高原 流の癖で、手にパペットを嵌めていようといまいと関係なく、とまることはない。 12台のうち9台がすでに静止画像に置き換えられていた。次々と書き換えられるプログラムを、さらに書き換えるために両手でキーを叩いているが追いつかない。この電子戦に敗れつつあるのは明らかだった。 「柚木って呼ばれていたっけ、あの帽子?」 流は舌打ちすると椅子から立ち上がり、牛柄パーカーの上に白衣をはおった。 「『帽子より、ちょうちょうを連れた子のほうが気になるよ』」 「うん、あのこ、かわいいよね。知ってる、モーモーさん? フュリエってメスしかいないそうだよ。捕まえてじっくりと解剖したいねぇ」 真っ赤な唇を卑猥に歪ませると、流は床から牛のパペットを拾い上げてポケットに押し込んだ。壁から双眼鏡を外して首に下げる。 「だけどくやしいなぁ。あの帽子……」 ま、いいかと小さく肩をすくめる。 流はドアを開けるとトレーラーを出て、観覧車を目指した。 ● 「お見合いをぶち壊すのは気が引けるなあ。謎の白衣野郎の実験って何なんだろな」 半ば独り言を呟きながら、『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)は園内で茂る草木たちから情報を集めていた。冷たい風にマントを前でかき合わせる。 「この、死骸やら骨やらも実験とやらに関係があるんですかのぅ」 九十九が蹴って転がした骨はどう見ても動物のものには見えなかった。 小ぶりな割には大きく開いたその形から、女性の骨盤ではないかと鷲祐はあたりをつけた。 「うわっ! 人の骨まで混じっているのか?」 琥珀は骨盤に向かって手を合わせた。 「連中の仕業か? ゴミのように扱いおって、許せぬ」 「そうだね。ところで司馬氏。このあたりにはノーフェイスはいないみたいだぜ」 ≪私の超直感にも触れるものがありません≫ 鷲祐の頭の中に『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)の声が響いた。手を伸ばせば届く距離でなにもハイテレパスを使う必要はあるまいに。沙希の発声嫌にも困ったものだ、とため息をつく。 鷲祐は外灯の真下にすえつけられた石のテーブルの上に、事前にインターネットで手に入れておいた園内のマップを広げた。手招きでみんなをテーブルの周りに集める。 「見合いをした二人が散歩に出たなら、後見人は出くわすのを避けるため動かないのが普通だ。ならば閉鎖環境に近い場所が臭うか」 例えば両人の顔合わせをしたというみやげ屋、とその場所に指を置いた。 「俺たちはいまここだな」 木々から得た情報で、琥珀が現在地を指差す。 「すぐ、そこですな。ちょうど目の前に建つこれの……後ろでしょうか?」 「浅葱よ、草木にそちらの様子を探らせることは可能か?」 「ここから透視してみるよ。みやげ屋のなかまでは無理かもだけど、その前の道の様子ぐらいなら探れるぜ」 琥珀と同時に沙希も顔をみやげ屋へ向けた。 とたん、あ、と小さく声を零す。 「白骨とろくろ首が外に出た」 「走れ! バラバラになられると手間だ」 言うやいなや、真っ先に駆け出したのは『神速』の二つ名を持つ鷲祐だった。 鷲祐はあっという間に建物の角を回り込むと、ろくろ首たちの前に躍り出た。 「なんだいあんたたち!?」 ろくろ首の問いかけを無視して、鷲祐は高い位置から無慈悲な蹴りを繰り出した。 藍染の着物が派手に吹っ飛んで、みやげ屋のガラスドアを粉々にした。高く硬質な音が夜の静寂を破る。 死体が鷲祐の着地を狙って骨を投げ飛ばした。 鷲祐はかわしきれず、脛に骨を受けてバランスを崩した。 そこへ2体が左右から挟みこむように毒の霧を吐きかける。 「くそっ」 振り下ろされた骨をかろうじてかわした。頭への直撃は避けられたものの、代わりに鎖骨を折られてしまった。骨が砕ける鈍い音。激痛が走る。 よろめきながら場を離れ、体制を立て直そうとしたところへ、もう一体が殴りかかってきた。 ガードが間に合わない――。 覚悟を決めたとき、風切りの音をあとに引いたカードが半ば腐り落ちた顔の横に突き刺さった。 腐乱死体の手から骨が落ちる。 「呪われろ!」 怒気を含んだ声で琥珀が叫ぶ。 さらにもう一枚。今度は半回転した敵の心臓の上につき刺さった。 「この手合いは火葬が一番じゃ」 赤く浮かぶ魔方陣を背負ったシェリーが魔炎を召喚し、死体を焼き払った。 残り一体を、沙希に癒しの術を受けて回復した鷲祐が鞘から抜き放ったナイフで突き崩す。 「とくと味わえ、神速斬断『竜鱗細工』ッ!」 死体は、光と血の飛沫にその姿を変えて散った。 「鷲祐さーん、頭を下げて」 闇の中から螺旋を描いて飛んでくるろくろ首の頭を、極限にまで集中を高めた九十九が魔弾で撃ち抜いた。 ぎゃっ、と悲鳴が上がって、首が奥へ引っ込んでいく。 「む、額のど真ん中に当てたんですがのぅ……さすがにしぶとい」 「ちょうどいい。聞き出したいことがある。俺と琥珀のふたりで裏に回る。あんたとシェリー、それに沙希はこっちから奴を追い込んでくれ」 「了解」 ● 「ノーフェイスのお見合い、ねぇ。ったく、研究者ってのは何を考えてんのか解ったもんじゃねえな」 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)はぱしっと手のひらに拳を打ちつけた。 「だけどよ、流石に放置しておく、ってのも悪手が過ぎるよな?」 「お見合いの邪魔なんて、そんな野暮なこと普通ならしたくないけど……」 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)はノーフェイスたちの余りに人間的な行いに胸を衝かれる思いだった。倒さなければならないとわかっていても、そこは乙女。鼻なしと耳なしの終わりを思えば、ぐっと胸が苦く切なくなる。 「まーなー、ニニギアの気持ちも解るぜ。不条理っちゃ不条理だよな」 「でも彼らは普通じゃないんですもの。ただあるだけで世界の崩壊を加速させる、この世にあってはならない存在。結ばれて子供でもなされたら、と思うと恐ろしいですわ」 佳乃が静かにいい放つ。 「案外、それが目的なのかもな」 「ずいぶんと気の長い実験だ」 帽子のツバを指で押し上げ、キリエは三日月を背景に建つオバケ屋敷を見上げた。ドラキュラの城を模したというそれは、大部分が影に埋もれていた。 シャルティアは仲間たちのやり取りに耳をそばだてながら、心の中で首を捻っていた。 (お見合いがなにか、よくわからないですが……逢引でしょうか?) この世界で覚えた言葉を出すが、イマイチ意味が分かっていない。 ラ・ル・カーナにはもともとフュリエとフィアキィという単一性しかいなかった。それはこの世界でいうところの“女”で、狂った世界樹がバイデンを生み出すまでは“男”はいなかったのだ。そのバイデンも憎むべき相手でしかなかった。ゆえにシャルティアは未だに男女の“愛”というものがわからない。逢引とやらも仲のよい相手との待ち合わせとなにが違うのか、やっぱりぴんと来なかった。 「よう、シャルティア。どうした、ぼうっとして?」 はっとして頭を上げたときにはもう猛の顔が目の前にあった。 近い。 心臓がトクンと小さく胸のうちで跳ねる。 「べつに」、と苦笑いでごまかしてシャルティアは猛の傍を離れた。 「そうか? ならいいんだけどよ。最後まで気を抜かずに行こうぜ」 東の方角でガラスの割れる大きな音がした。 ニニギアを除いて全員が顔を東へ振り向けた。 「ちぇ、あっちに先を越されちまったか」 「猛さん、あれ!」 猛の袖を引きながら、ニニギアが小声でささやく。 走り去る二つの影を確認して、佳乃が薄く笑った。 「参りましょうか。おふたりが仲良く城の中で待っていますわ」 「おばけがオバケ屋敷に、か。厄介なことになったな」 「関係ねぇ。人形も本物も片っ端からぶっ飛ばす! 行くぜ、シャルティア!」 猛はシャルティアの腕を取ると駆け出した。 佳乃とニニギアが目を合わせて笑いあう。 「行くよ」といってキリエが走り、佳乃とニニギアも後に続いた。 オバケ屋敷の中は電気がついていなかった。非常灯すらついていないところを見ると、ここだけブレーカーが落ちたままになっているようだ。 「手間を惜しんだのか、オバケ屋敷だからいいや、と思ったのかどっちなんだ?」 「ブレーカーってなんですか、猛さん。って、それより手をはなし――いや、やっぱりはなさないで」 中は伸ばした手の先さえ見えない暗闇だった。夜目の利かないシャルティアは、猛の暗視がなければ感に頼って動くしかない。 「ダメ! やっぱり離して!」 「どっちなん…――!?」 いい終えぬうちに猛はシャルティアに突き飛ばされた。 瞬きひとつ分遅れて乾いた銃声が響く。 「猛様、後ろっ!」 佳乃が手にした懐中電灯の光が闇を貫き、カッターナイフを手にした耳なしの目をくらました。 猛が振り向きざまに、硬く凍った拳を耳なしに叩き込む。 ビキッと音をてたた割れたのは人形だった。 「逃がさねぇ!」 セーラーの襟に向かって伸ばされた猛の腕に鼻なしが霊弾を撃ち込んだ。 「あうぐっ」 腕を押さえて崩れた猛に佳乃が駆け寄り、懐中電灯で傷口を照らす。 猛の腕からはおびただしい量の血が流れ出ていた。ただの弾傷ではない。佳乃の見ているうちにもじわりじわりと口を広げていく。 「これは……いけません。佳乃さま、そこを譲ってください。すぐに手当てをしなければ!」 ニニギアは猛の回復を天に祈り、癒しの息吹をその腕に吹きかけた。 その間にもキリエの援護を得たシャルティアが鼻なしに大太刀を振るっていた。 刃の先が鼻なしの体を掠め、手ごたえを感じて再度刀を振り上げようとした矢先、シャルティアの腕に警棒が叩きつけられた。体が下がったところへ、頬に肘うちをくらった。目の前に星が散って、シャルティアは意識を失った。 鼻なしがシャルティアの腕をとり、手首に手錠をかけた。 佳乃が冬椿を闇に泳がせて、もう片方の環を鉄パイプに嵌めようとしている鼻なしの首を狙った。 刹那――どんと、重い何かが横手からぶつかってきて体が押し倒された。 床に転がった懐中電灯のわずかな明かりがカッターナイフの刃を煌かせ、佳乃は自分を倒したものが耳なしであることを知った。うっとりと目を細め、「あらあら、まぁまぁ」と呟く。 「なかなかやりますわね」 カッターナイフで佳乃の顔を切りつけようとする耳なしをキリエが生糸で威嚇する。 隙が出来たところへ佳乃が太刀で耳なしの腹を突いた。膝を落として崩れる耳なしを鼻なしが抱きとめ抱え上げる。鼻なしは起き上がろうとした佳乃の体に立て続けに2発の銃弾を撃ち放つと、耳なしを肩に抱いたまま非常口のドアを蹴りあけた。ひらりと闇に飛び込むと、階段を駆け上がっていく。 「ニニギア、佳乃を頼む!!」 猛は二段飛ばしで半ば腐り落ちた階段を駆け上がり城の屋上へ出た。鼻なしを屋根の端に追い詰める。 「よぉ、邪魔させて貰うぜ? 最も、馬に蹴られて死んじまうのは、御免蒙るがなぁっ!」 猛が繰り出した拳が、空に乱れ雷を呼んだ。 いかづちに打たれた鼻なしの肩から耳なしが滑り落ちた。既に動かぬ躯は屋根の上を滑り、地面へ落ちていった。 天の月をも揺るがすかのような絶叫が鼻なしの口からあがる。 「お前たちになんの権利がある? なぜ、わたしたちを殺して回る? わたしやこの子がなにをした!」 どくり、と猛の視界がぶれた。 月が、三日月が丸く……赤く染まっていく? 地に伏せていた命亡き者たちが、ひとつ、またひとつとその身を起こし始め―――― 「ここはもう貴方たちのいるべき世界ではないのです!」 いつの間に上がってきていたのか。猛の後ろでニニギアが白い翼を広げ、赤く満ちゆく月にむけて高々と手をあげていた。 「灰は灰に、塵は塵に。お帰りなさい、まだ人としての思いがあるうちに!」 聖なる光が魔の赤を払い清め、鼻なしを然るべき世界へ送った。ニニギアの涙とともに。 ● 「おしい! 強制による増殖覚醒現象の誘発、もう少しだったのにねぇ、モーモーさん」 「『いや~、初めてにしては上結果じゃないのぉ?』」 流は観覧車のてっぺんに陣取って、双眼鏡で遠くから園内の動きを観察していた。 モニターが潰されたのは痛かった。ちょうどオバケ屋敷の屋根の上にもひとつ取りつけてあったのに、と悔しがる。 「もう少し、細かいやりとりを拾いたかったねぇ。次の実験のためにも……。まあ、いとこ殿たちが首尾よく楽器を手に入れたなら、もっと面白いことをしようね、モーモーさん」 くすくす笑いをその場に残し、流は観覧車から飛び去った。 ● 「高みの見物ご苦労さーん!」 小さくなっていくフィクサードの背を見送る者がいた。 琥珀だ。 不愉快な気持ちを抑え、と方頬を引きつらせた笑顔で手を振る。 結局、謎のフィクサードに関しては解らずじまいに終わった。リベリスタに対する意趣返しか、謎のフィクサードに対する義理立てか。ろくろ首は最後まで口を割らなかった。 「悪さするならいつか倒してやるからな」 「まあ、また出てくるよ。迷惑だけどねぇ」、と九十九のため息でノーフェイスの見合い騒動は幕を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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