●カレー スパイスの香りが鼻孔をくすぐった。 甘辛い味わいが口中にイメージされて、空腹を刺激する。 とろけた脂の甘みと、ピリッとした辛さ。 目を瞑れば、凝縮された旨味が"とろり"と白飯に絡むシーン。 嗚呼、辛抱たまらない! ●カレー食おうぜ 切っ掛けは、些細な事であった。 日本全土を巻き込んだかの楽団戦。 リベリスタもフィクサードも一丸となって背中を預けて共闘した経緯の中で。 『係長がカレー奢ってくれると聞いて』 『俺にもカレー奢ってくれ』 リベリスタ側からの口約束。 そんな些細な一言が齎した、一応の祝勝会とも言えるべき一応の労いが、今日ここに、本当に実現されたというだけの話である。 「チィ……」 スーツ姿の三十代半ば。『係長』というフィクサードが舌を打つ。 彼は恐山の暴力担当の一角を纏める立場である。その二つ名の通り、中間管理職『係長』なのである。 主流七派の一角、謀略の恐山。 彼らはインテリヤクザという分類であり、ルールや駆引で一大勢力を築いた一派である。 謀略とは、外交カードを駆使して行われるポーカーの様なものである。 ワンペア、ツーペア、フルハウス。 恐山のエージェントである『バランス感覚の男』千堂 遼一を接点に、アークともこれ迄に何度か接触がある。 この本来は敵対関係にあるリベリスタの本拠地にも、構わず乗り込んでくる図太い神経に、『役』作りの巧みさが、謀略の恐山たる由縁である。 その性質上『暴力』という外交カードは滅多に切られないのだが、楽団戦では渋々ながらも"切られ"、アーク側のリベリスタとの口約束が先の諸々である。 トラックで運ばれてくる給食用めいた、大きな鍋。これが次々並ぶ。 トラックには、三尋木運輸とか書かれている。 ああ、先の楽団戦で恐山と三尋木は同盟を組んでいた覚えがある。そのツテか。 ●早く食べないとエリューション化するおまけつき 「楽団よろしく、三高平を狙ったテロか?」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は首を傾げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月07日(日)23:50 |
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■メイン参加者 29人■ | |||||
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●\カレーライス/ 「カツ!」「カレー!」 のぞみが左腕を高らかにやっほ~する。エーデルワイスが右腕を上げてヒャッホーする。 のぞみは、三尋木派フィクサード『地獄カレー』横須賀 麗華に接点があり、腕前は良く存じていた。 「また横須賀 麗華さんのカツカレー食べられると聞いてきました~♪」 「あはは、お久しぶりです。有難うございます」 はにかむ様に応答する麗華からカレーを受け取り、のぞみは言葉を続ける。 「放っておくとまた、奴が出るらしいです。いや~、あなたのカレーはまさにレボリューションですね!」 「え、そうなんですか?」 「え?」 「「え?」」 三尋木派のフィクサードAさん,Bさんも驚愕する。 放っておくとエリューション化するという情報は、アークのみが知る。そういう事だった。 急ぎ殲滅せねばならん。食する事で! 「具とルーとのバランスが非常に調和されているな」 竜一は丹念にカレーを食していた。やがて動くのならばと武器も携行し、今はただひたすらにカレーを楽しむ。 「加えて調合されたスパイスが玄妙複雑な奥深さを生み出しており、カレーであることを強調しながらも飽きずに食べ続けることが出来る!」 嗚呼、カツもまたのびのびと運動させた豚にラードを使った油であげた、しっかりとした肉質と味わいをもつものに仕上がっている。カレーの味に負けていない。 「うん、旨い」 竜一のカレー評を耳に、義衛郎も舌鼓を打つ。 特にトッピング等はせず、潤濃とした味わいを純に楽しむ。 「カレーって一人分だけ作るのが難しいんで、何食か続けてカレにな為りません? 晩御飯をカレーにすると、翌日三食カレーは当たり前。更に次の日の朝食もカレーとか」 義衛郎の一人暮らしの知恵に、対面の涼が頷く。 「っていうかアレだよな。カレーって大量に作ったら妙に美味しくなるんだよなあ」 語らねばならない心持ち。良い味わいのカレーである。カツカレー。 カツを前歯で千切った瞬間、旨みをたっぷり含んだ汁が飛び出して、口中に広がる。 パリパリの衣と、ほかほかのご飯にルウが良く絡み、良く染みる。頬に沁みる。 最高級豚と最高級オークの脂身を考慮したのか、さっぱりとサラりとしたルゥは重厚な豚の味と良く合った。 「カレー南蛮とかでも美味しそうだな、これ。カレー素晴らしいね! カレー最高!」 「全く同意。おかわりを頂きますか」 義衛郎は席を立って、次は大盛りでとゆるゆる麗華の前の列に並んだ。 コーポ【なのはな荘】の面々が座る卓では、もりもり皿が積み上がっていた。 いやさ、むしろ【なのはな荘専用】とばかりに、給食用の食缶と炊飯ジャーがテーブルの中央に鎮座している。 「よく噛みしめてゆっくり味わって食べよう、一皿12秒」 小梢は一皿12秒、以前は一皿15秒だったから。その速度は更に上がっている。 以前、華麗魔神を食した時も美味しかった。今回も期待通り、いやさカツカレーが期待以上。これがたまらない。 「かれはな荘最強カレーチームで参加です! これで勝てる!」 香夏子も表情筋乏しくも、目をキラキラさせておかわりをもりもりする。 「無心で頂きます」 ルーメリアは二人の様子に驚愕を禁じえなかった。 普段はだらだらだらーんであるのに、カレーを目の前にしたらこの速度。驚愕の速さである。 「まぁ、カレーは好きだし、普通に食べるけどね! 頂きますなの」 ちまちまスプーンを進め出す頃には、一層皿がもりもり増え続ける。そろそろ食缶の一つが尽きる。 ルーメリアが3口食べる間に1皿消滅している。カレーを体中のどこからでも吸収できるようにできてるのか。 「……だから、なのはな荘=カレー、みたいな風評被害を受けているのよ!」 「ほらほらルメ子さん! もう小梢お姉さんは一皿12秒のペースで20皿目ですよ! ちなみに香夏子は小食なので、まだ18皿です」 「たぶん、3皿が限界……だから香夏子ちゃんもうカレーを盛るのはやめて!」 食缶が尽きる。 小梢が即座に次の食缶を貰いに行く。貰いに行けば、鷲祐も食缶を抱えている。 双方、何たる速さ。 最近モチベの落ちた鷲祐は、動くのも億劫になり食事をしない日々が続いているという。 「木から降りるとダメなんだ……」 鷲祐は木に住んでいる。 インドカレーも用意して欲しかったと呟きながら鷲祐の手には、食缶だけでなくウスターソース。 味のバランスが良すぎて口にあわぬ、悪食を自負する。 「オーダーッ! カツサンド10! オークカツサンド30!」 ピッと人差し指と中指を立てて翳す。カツサンドとオークカツサンドをオーダーして颯爽! テーブルに着し、神速の速さで盛り付ける。盛り付けると同時にウスターソース、そしてかっこむ。次! 「どういうやり取りがあったのか知らないけど……律儀にアークまでカレーを作りに来る恐山フィクサードって……」 悠里が苦笑いを浮かべながら現状を鑑見る。 恐山だけではない。三尋木までいるのだ。どういうことだろうか。 「気にするな設楽 悠里。なんだか知らんがタダ飯だぞ」 悠里は、次々神速で皿を積み上げる鷲祐を一瞥し、自身の手元にあるホカホカのカレーに視線を動かす。 「袋叩きにされるかも知れないとか考えなかったのかな? 基本的にフィクサードって悪人が多いから好きじゃないんだけど、流石にカレー作りに来た人を倒すのねぇ……」 ふと遠くの席を見れば、『係長』、それから凍イ出アイビスというフィクサードの卓があり、粋狂堂も座っている。 「係長さん? には感謝しないとね。これポケットマネーなのかな? ……――頂きます」 悠里は自炊をしている為、カレーは比較的よく作る。しかし流石にここまで豪華なものは作らない。 最高級豚のカツカレーを辛口で。頬に染みる味わいは、何ともバランスが良い。デザートに苺まである。 「……恐山壱子ちゃん用?」 悠里は首を傾げた。 虎鐵は主夫である。息子と娘達を抱える主夫である。 カツカレーを平らげて、流石の最高級でござる。と嘆息しながらも、無念の念にも嘆息する。 「うぐぐ……これを冷凍してタッパーで持って変えれれば食費の軽減になるのでござるのに!」 カレーは手軽にできて保存もできる。主夫の味方。しかしエリューション化するのであれば持って帰る訳にも行かない。 「――!?」 そして閃く。早速にカレーをせっせと装っている三尋木の麗華の所にダッシュ、そして交渉。 「良いですよ。いっぱいあるので持って帰ってくださっても」 麗華が金属の入れ物から、タッパーにどっさりとカツを詰め込み、綺麗に包んで虎鐵に渡す。 「ありがたいでござる! 家計の節約になるでござる!」 「お早めにお召し上がりくださいね」 \かれー/\いただきます/ ルナとエフェメラの元気の良い声が唱和する。 世界樹の子『フュリエ』である二人は、カレーの旨さに舌鼓を打つ。 エフェメラにとってカレーライスは、最初に覚えたボトムの料理であり、衝撃でもあった。 「これを作り出したボトムの人はホントに天才っ!」 「うんうん、コッチに来てカレーを食べさせてもらった事はあるけど、こんなに美味しいカレーを食べさせて貰ったのは始めてだよ!」 なんとも言えない複雑に絡み合った味。そして辛さ! 「あの感動を再び味わえるなんて……!」 エフェメラは大きく嘆息する。 ルナもエフェメラと同じく感動しながら、スプーンを進める。ルナはカツノセである。 カツノセを見て、エフェメラは。 「あ、なんかトッピングもあるんだねっ! いろいろ試してみようかなっ!」 福神漬、ラッキョウ、そしてカツ。 特にカツは味が微妙に異なった専用のルウである。何杯でもいけそうだ。 \美味しい/ 「どうやったらこんな美味しいカレーが作れるのかな」 「聞いてみよう!」 二人はひらひらと麗華の所へとおかわり&秘訣を聞きに行くと、ここで丁度、タッパーを抱えた虎鐵とすれ違う。 「ねっねっ、麗華ちゃん。どうやったらこんなに美味しいカレーを作れるの?」 きょとんと麗華は表情を浮かべ、次ににっこりとして。 「愛情と、ちょっぴりの工夫ですね。甘口にはチョコとかヨーグルト入れたりとか」 \へー!/\おかわり/ エフェメラの元気の良いおかわりに、麗華はにっこりと頷いて次の皿へとカレーを装った。 「ドーモ、横須賀=サン。お久しぶりですー。ヒッサツ特掃、ただいま参上♪」 ロウがひらりと現れて横須賀 麗華達に挨拶をした。 ロウは、かつて最高級オークが現れた事件で、彼女達と接触していたのである。 「あら、お久しぶりです」 「……!?」 「あ、三尋木派カレー好きフィクサードのお2人もいらっしゃる♪ あの折、可愛がって頂いたのはどちらのかたでしょう?」 割烹着姿の三尋木フィクサードBがお玉を構える様に警戒する。 「ああ、そう構えなくても。今は敵味方もないでしょう。もしよろしければ、お名前を聞きたいですね」 ロウの目的は、かつて切り結んだフィクサードBが目当てだったりもするのであった。 「ヒッサツ特掃、お前のお陰でカレーを食い損ねた……忘れ――って、名前!?」 三尋木フィクサードBは頓狂に語尾を上げる。 「――『華麗忍者』羽柴 京子だ」 「僕は鹿毛と申します。お掃除屋さんです♪ 次会うときは、お手柔らかにお願いしますねえ、京子さん」 飄然と目的を達成したロウは笑顔でカレーを受け取る。 「さて! まずは目の前の脅威を叩きましょうか!」 ロウは、さながら居合い抜きのごとき所作でスプーンを構え。 「――たべることで!」 日本をインドに! してくされ! 「……本当は一人で行こうと思っていたんだが。けど、助かった」 「姫に一人飯なんてさせられねーだろカレーかぁ、楽しみだなぁ!」 フィリスが琥珀を伴って訪れた。 入った瞬間に、食欲をそそられる、スパイスの良い香りが立ち込めている。空腹を何とも刺激する為、早速並んでカレーを吟味する。 「浅葱はどれにする? 私も同じ物にしようかな」 彼の様子を伺い、フィリスは小首を傾げてジッと相方を見上げる。 琥珀の胸裏に走る稲妻。お、同じものにするだと!? 「じゃあ撃甘苺カ……いや、普通に中辛でいっとこーか!」 「そうか。では私が準備してやるぞ、何かと世話になって居るからな」 にこやかな笑みを浮かべるフィリスに、琥珀は精一杯スマイルを浮かべる。 しかし、血の気は引いていた。 後戻りはできん。辛い物が天敵だなんてバレるわけにはいかないという男の矜持である。 受け取り、仲良く卓へと着く。 早速スプーンを動かす。 「ん、美味しいぞ! 浅葱はどうだ?」 「ん、ッ、う、うま…美味い、よ……」 一口食べて水で流し込む。汗が玉となってテーブルにぽつぽつ落ち始める。 「あ、浅葱、汗が凄いが大丈夫か?」 琥珀は辛うじて返答をし、顔を背けながら親指を立てる。 「辛い物を食べると汗が出ると言うが……」 機械的に食べ進め、改めて親指を立てて見せる。彼女の笑顔の為。 「そうか、なら良いんだ。無理に来て貰って、美味しくないなら浅葱に申し訳なかったからな」 フィリスはカレーを完食し、一息つく。 一方で琥珀は、最後の一口を食べきると同時に全気力を使い果たし頭から机に突っ伏した。 「あ、浅葱?!」 フィリスが反対側の席で朽ち果てた琥珀をゆする。反応がない。 介抱し膝枕をする。嗚呼、男の浪漫である。 陽菜は、悪戯を企てていた。 白雪陽菜の悪戯全開3分クッキングである。 「まずは、皆が食べて半分くらいに減った辛口用の鍋に入ったカレーと秘密のスパイス・最高級カツ・ラッキョウ・福神漬け・ご飯・苺を用意します」 発言を即座に実行に移す。 「最初に鍋に火を入れ、火の通りにくい最高級カツを投入、一分煮立たせます。その間に苺をすり潰しておきましょう」 油断無く実行に移す。 「その後ご飯とラッキョウと福神漬けを鍋に投入。さらに一分煮立たせます」 微塵も躊躇なく実行に移す! 「そうしたら、すり潰した苺を入れてかき混ぜ、最後に秘密のスパイスをふりかけてからお皿に盛って『カレーごっちゃ煮ライス』の完成です」 完璧に出来上がってしまう。 「作ったからには食べるよ……一皿くらいは」 ●とある確執 「お前の顔を見ると殴りたくなってくるな。『係長』」 デス子は、アークに来る以前。係長――『恐山の暴力担当』と傭兵&仲介業者の関係であった。 変な依頼を渡されて。変な兵器を渡されて。挙句はアークと交戦し、今日に至っている。 「オフィサー候補だったのにな。アークに寝返るなんて」 「損得勘定しか無いお前達には分からんだろうな」 ここへ、亘がひょっこり顔を出した。 「いきなりのご無礼申し訳ございません。初めまして粋狂堂さん」 優雅な所作で、亘は一礼を粋狂堂にする。 「確か、天風 亘だったな。良くやってくれているそうじゃないか」 粋狂堂はカレーの手を止め、亘の顔を見上げる。交差する視線。亘はぎゅっと下唇を噛み締めて。 「えー、会ってすぐこんなお願いをするのはどうかと思うんですが……」 束の間の空白が長く感じられる程に、告白が如く亘は渾身、口から言葉を紡ぎ出す。 「エイプリルフールの心の準備の為に、予め自分を蔑んどいてください!」 『意味がわからんぞ、この変態め!』 鮮烈な声が響いた。 『係長』と凍イ出へのヘイトも上乗せされた渾身の『変態め』が放たれる。 その間。実に0.5秒にして、粋狂堂からの反応。頭痛が痛いと言わんばかりに、粋狂堂は頭を押さえる。 「有難うございました。ちゃんとカレーを食べます」 キチンと優雅に一礼。亘は複雑な胸裏を抱え、カレーを貰いに列へと並んだ。 シェリーが粋狂堂の横に皿を置き、着席する。 「『このテロなら妾は毎日歓迎じゃの』」 山の様な盛り付けであった。 「凄まじいな、シェリー……」 みるみるうちに山は消えていく。 粋狂堂とは依頼で何度か顔を合わせていた。いたが、大食いだとは思わなかった様な顔をする。 どこにそんな容量があるのか。 「『おぬしは食べぬのか?』」 ガッツリ。ガッツリ。 美味いか不味いか食べたあとに感じれば良いという理念が、伸縮自在の胃を持つという自負心が、今まで食い倒れた事はないという魔道的神秘パワーが即座、次のおかわりを齎す。凄まじき速さである。 「お前ほどガッツリ食えんよ……私は」 「『ではおぬしの分もくろうてやろう』」 ニヒルな笑みを浮かべて、次の皿をドンを置く。 「ぬううっ! 何と言うスパイシィかつデンジャラスなアトモスフィア。これは挨拶もそこそこにアンブッシュイーティング已む無し!」 ベルカである。 良く分からない日本語を発しながらのたうつ。イタダキマス! 「くっ、ご飯が進む……白米を何よりも好むこの私にこの美味さはもはや兵器! ええい、辛さ増幅スパイスもっと持ってこーい!」 キャバァーン! と謎の音と共に叩き込まれる激辛スパイス。 かっくらえば血中カレーとなって全身を駆け巡る。はふはふもぐもぐ! 「もう汗だか涎だか…ぐふふ、だがこの燃える展開(主に口内が)」 ベルカが色々ヤバイ状態となる。何たるカトン=ジツ! 「アーイイ……効くわー。同志デス子! 私の体温を測ってくれ! オカワリ!」 「あ、ああ……熱いな、頭が、若干」 グネグネ悶絶するベルカの額に、粋狂堂は手を置くと、静かにぽつりと言った。 のたうつベルカをチラ見して、ヘンリエッタが、先ず挨拶をとやってきた。係長にである。 「こんにちは、オレはヘンリエッタと言うよ。係長さん……で良いのかな。役職名だそうだけど、名前を聞いても?」 「『係長』で良いぜ、お嬢さん。フィクサード業界でも、係長つったら俺くれーなものだしな」 「では、係長さん。かれーというものを振舞ってくれて有難う」 「気にすんな。礼なら楽団戦――久里浜基地で俺達に加勢した連中に言うんだな」 ビジネスマンめいた作り笑いを返されたものの、礼を言われる事も満更ではない様子に、ヘンリエッタは改めてありがとうと微笑み返し、カレーを受け取りに行った。 ぐるぐは、係長の前でお子様ランチの旗がささったカレーを食べていた。 特に何かを言うでもなくただじーっと係長を見ている。 ちょっと辛さが足りなかったのでスパイスを足しに行ってもどり。 またもぐもぐしながらじーっと見る。 スパイス辛かったのでカレーちょっと増やしに行ってもどり、そしてまたもぐもぐしながら。…… 「ん? お前、前となんかちがくねーか?」 係長の声にぐるぐはよちよちと係長の横に行って、またじーっと見る。 何か思い出せそーで思い出せなさそーで、びみょーに何かがでかかってるようでそうでもないような感じである。 一通り見終えたら思い出したように。 「あいるびーばっく」 「つか、口拭け」 ぐるぐは布巾で口をふきふきすると、お子様ランチの旗を係長のカレーに挿して去って行った。 「なんだ、あいつ?」 係長は、ぐるぐが刺していった旗とを交互に見ながら呟いた。 「カレーライスとは分かってるじゃねーか係長」 ラヴィアンの元気な声が飛んで、係長の背中をぱしぱし叩いた。 「横須賀が戦場だったのと、カレー芸人が知り合いで居ただけだっつーの」 カレー芸人とは他ならぬ横須賀麗華である。三尋木なのに芸人枠とはこれ如何に。 「リベリスタの間ではカレーがブームなんだぜ。あと一部でから揚げか。次はから揚げも頼むぜ、係長!」 「わーったわーった。機会があったらな。とっとと食えよ。人参残ってるぞ」 「残す」 「食え」 この応酬の最中、エーデルワイスが係長卓にぴらぴらやってくる。 絡みに訪れる。係長の横(もう片方の席には凍イ出がいる)に当たり前の様に着席する。 「係長ったらもぉ、素直じゃないんだからぁ。リクエスト通りに麗華さんまで呼んでくれちゃってぇ」 「ま、た、お、ま、え、か、! クソアマ!」 『係長』がエーデルワイスに苦虫を噛み潰した様な顔する。 「アハHahh! 私には褒め言葉です。係長を接待しますね~」 「よせ、おま」 エーデルワイスはデス子の顛末どころか、『係長』関係の依頼にも頻繁に顔出し、何度も交戦し、そして先日の楽団戦でも共闘している。何とも因縁が深い。 デス子の顛末――交戦した当事者故に知る上に、楽団戦で共闘した烏も、早速にちょっかいを出し行く。 「よう、係長がカレー奢ってくれたと聞いて。流石男前、で、経費で落ちた?」 「落ちなきゃバランス芸人側で落ちないかタカりにいくさ」 日頃の苦労をでろりと吐き出すように『係長』は深い溜め息をつく。 察して「違いない」と烏は含み笑い気味に相槌をうつ。 「流石、係長。有言実行は信頼の基礎だね。交渉でも、暴力でも。久里浜では助かったよ」 快も同じく楽団戦で共闘している。 キンキンに冷えた缶ビールをビニールから取り出してテーブルに次々置いていく。 「合うかは議論が分かれるけど、俺は好きなんだ」 タブを押しこめばプシュっとガスが抜ける音。 「明日はまた敵同士かもしれないけど、今日はお近づきの印ってことで。乾杯しよう」 「ま、良いだろう」 乾杯の音頭が唱和される。 「うっす! 係長、久しぶり! 元気だった?」 「御厨 夏栖斗……。麗華のカレー屋で喧嘩売られて以来だな」 夏栖斗は、にへらと笑い、拳で語った後の様にさっぱりと挨拶をする。 「ん、あれ? あの三尋木派の人ってあの時のお姉さん?」 「あのカレー事件でフェイトを得て、晴れてフィクサードらしい」 「えー!」 横須賀 麗華が一般人だった時に、カレーを食べに行ったことがあった。 「あ、そうそう、今日は『シッポウ』もってきてるん? 大丈夫大丈夫、今回は喧嘩売らないし!」 「もう中身が完全に燃え尽きたから、あそこまでパワーが出ねえんだよな。今は他よりちと強い程度の武器だから、携行面で出すのがめんどくせえ」 「えー、やりあいたいなら僕もやりあう気まんまんだっぜ! だしてよ! 変態武器!」 そこへ、凍イ出(と粋狂堂も)が静かに咳払いをした。 「係長んとこの相方は怖いね。僕の彼女もあんなクールビューティなんだぜ」 しょぼんとした夏栖斗は、テーブルにカレーライス(辛口)を卓に置き、激辛スパイスを振りかけてむしゃむしゃする。 「辛ー! やっぱカレーは辛口がいいな」 係長は、夏栖斗を見る。 次にビールを片手にカレーをむしゃむしゃしている快を見る。 そして周囲を見る。アークの精鋭が集まっている。 「何で俺はこんなに呪われてる訳?」 『係長』が大きく溜め息をつくと、粋狂堂から自業自得という言葉が飛び、凍イ出は肩をすくめる。 「あ、そうだ、係長。呪いと言えば――」 烏は思い出したかのように、ある案件の話を切り出す。 「件の如月大先生の変態兵器な、あの核って巡君が拵えた呪詛たっぷりの箱だった訳だが」 烏がさる事件についての事を、まるで呑気に今日の天気を尋ねる如くに確認する。 「――お前"あんなもの"まで調べたのかよ。その通りだよ!」 あんなもの、とは――『秘密兵器請負人』という変態科学者フィクサードが創りだした変態アーティファクトの事である。 粋狂堂 デス子がアークに来た事件の首謀者であり、『係長』もその仕事を仲介した経緯がある。 「係長とか粋狂堂君は体調とか大丈夫なわけ?」 「あの六道ジジイは、ヤバイモノに指向性持たせたりする研究しているからな。漏らさないとかは基本的な事なんだろう」 「大先生、崖っぷちぽいから横死しないと良いがなぁ、と追い込んでいる立場だが」 「あのジジイ、黄泉ヶ辻行ってから、うちを介さなくなっちまったがな」 烏とのやり取りで『係長』は肩をすくめる。 「御厨君とのやり取りの『中身が完全に燃え尽きた』は、"換え"が無い訳か?」 「鋭いな。その通りだ」 烏と『係長』の話を聞きながらカレーを食べていた快も「そういう事か」と呟く。 「Wシリーズが得体のしれない兵器を持っていた事があったな。一度交戦した事がある」 「W00とやらを補助している一味が、巡とジジイだな」 快は一瞬、片眉を動かして話を黙って聞く。 「ま、係長。おじさん、アークの仕事はビジネスだからねぇ。命を取り合う間柄じゃあるが仕事以外じゃ緩く行きたいもんだな」 「そりゃ俺もだぜ。恐山の仕事はビジネスだ」 どちらもビジネスと断じる二人を見て、快はビールを呷りながら、ほろ酔いの声色で後をつなぐ。 「あるのか無いのか判らないこの壁の正体は何なんだろうな、係長」 係長は「さあな」と快が持ってきたビールの二本目をプシュっと空けて、一気に呷った。 ●華麗魔神・春と捕食者達 ヘンリエッタがカレーを貰っている間に、係長卓には人が集まっていた。 快の「久里浜では助かった」の一言にヘンリエッタは納得する。 「なるほど。くりはまきちって」 中辛を――ただし白米にバランス良く苺やらカツやらを乗せて、ショートケーキの様に飾りつけたカレーを卓に置き呟く。 「……うん。美味しい」 舌がちりっとするのが心地良い(カレー+かつ)。口の中がさっぱり(らっきょう、ふくじんづけ) 甘酸っぱくて、からくて複雑なおもしろい味(カレー+苺) 「ボトムの食文化はおもしろいね。ほんとうにいろんな食べ物があ――!?」 ――ごっぼ――ごっぼッ! 異変は音からだった。 くつくつ、という音が、まるで沼地で弾ける水球の様に重くなる。 ――ごっぼ――ごっぼッ! やがて、マグマの様に重厚となり、終いにはうめき声とも産声ともつかない。 宴会の様な空気と喧騒が、その兆候をかき消していた。 「きゃああああ!」 横須賀 麗華の悲鳴が最初だった。 「げ、また出た!?」「む! エリューション!?」 三尋木派のフィクサード達が得物を取るや、瞬息の内にカレーが球体となって躍り出る。 『華麗魔神・春』達である。 食缶ごと持っていった卓からも、ほぼ同時に一斉に出現する。 「出たか『華麗魔神・春』。貴様に問おう!」 竜一が抜剣して、ピンと切っ先を球体に向ける。 「貴様自身がカレーであるというのならば、本物のカレーとはなにかね? カレーがカレーと呼ばれるためには何が必要なのだ? 辛ければカレーか?スパイスを使っていればカレーなのか? カレーだというのならば答えてもらおう」 球体――『華麗魔神・春(辛口)』からの返事はない。 「ふっ……答えられねば貴様はカレーではな――ごふあ!」 『華麗魔神・春(辛口)』から勢い良くカレーの球体が放たれ、竜一の顔面に叩きつけられた。目が痛い。顔が熱い。 「加勢した方がいいのか?」 義衛郎が竜一の様子を見て、アクセス・ファンタズムを手にする。 「目の前の奴を片付けてからにしよう」 涼の声に、手元にあるカレーライスを見れば、ルウが何やらぴくぴく動いている。 驚きの新食感である。 「それもそうか」 義衛郎は、なのはな荘の片割れが華麗魔神(辛口)に躍りかかるのを見て着席する。 「美味いなあ。このカレー」 「ああ」 もがき苦しむ竜一の横。 壮絶なる捕食者の戦いを横目に、義衛郎と涼はしみじみ新食感カレーを味わった。 美虎はぐるぐの尻尾をもふもふしていた。 ぐるぐは「かかりちょ」と呟いてぼんやりと見ているので、美虎は手をぐるぐの前に振っていたりもしていた。 そして始まる喧騒。 「な、なんの騒ぎ!? え、カレーが革醒してEフォースになった?! よーし、わたしも戦うぞ!!」 銀のスプーンを構え、戦闘態勢。圧倒的に近い食物連鎖! 華麗魔神(甘口)へと突っ込んでいく。 「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ…んぐ…もぐもぐもぐもぐもぐもぐ…うぷ…もぐもぐもぐもぐもぐもぐ…減らない…」 自慢のアッパーもぐにょりと衝撃が吸収される。このままではカレーに飲まれて窒息してしまう! 「待たせたな!」 苦しむ美虎の窮地を掬った、否、救ったのは、今来たばかりの優希である。 「助かった。にゃろう!」 美虎と優希、双方がスプーンを握り改めて構える。 「カレーを放――いや覚醒したエリューションを放っておくわけにはいくまい。完膚なきまでに撃破してくれる!」 いやさ激辛スパイスを左手にも携え、胸前で交差させる。 「バランスの良いカレーが覚醒? フ、物足りん」 地面を蹴ってスパイスの蓋を開け、ぶっかける。甘口なのに更に烈火の如くに赤くなり、マグマの様に沸騰する。 「逃がさん」 弐式鉄山式の応用で、フォークを無数。投げつけて華麗魔神を縫い付け、そして―― 「むしろ甘いカレーはカレーではない! ほろびよ!」 「とらぁ! でぃすとらくちょん! 食い!」 うねうね動く華麗魔神に、寛容無く、無慈悲にご飯を添える。 「カレーは人類の生み出した宝である カレーの素体を生み出したインドを崇め奉ろう カレーの進化を担ったイギリスに敬意を示そう カレーを日本に持ち込んだ勇者は神として信仰してくれる」 そして、優希は、美味しく"捕食"する! のぞみは軽やかに銀匙を輝かせ、スタイリッシュに捕食する。 戦術を。圧倒的戦術を。ここで、影が躍り出る。華麗魔神(中辛)を捕食する。 「何だと!?」 「『フードファイターDとは妾のことよ』」 シェリーがおかわりとばかりに、獲物を横取る。 「『美味いものを食べた時の感動が妾の食を促すのだ。時間を掛けて味わっては慣れてきてその感動が薄れてしまう、それを妾は嫌うのじゃ』」 故に、時間などかけぬ。 これはカレーに食われるか、カレーを食うかの戦いに非ず。 捕食者同士の苛烈な奪い合いである。獲物の奪いへと戦いは昇華する! 「さぁて…トンデモない展開になってきました」 喜平は今迄、ひっそり粛々と温野菜を拵えていた。何故ならば―― 「俺はゴロゴロとした野菜入りのカレーが好きなんだよ!」 温野菜を特に濃厚そうな華麗魔神(中辛)へと叩きつける。 「御前は如何だ!?どんなカレーだ!! ゴロゴロしたカレはーイイカレー! ゴロゴロしてないカレーはソレハソレデイイカレー!!」 呪文の如く唱え、スプーンを片手、刻みチーズと共にフラッシュバンを叩きつける。 「頂きます!」 オフィサーデバイスで温野菜華麗魔神の一挙一動に対する戦術を練り、飯を添える。 ボールドコンバット的な、無駄にテクイ動きでカレーをかっこむ! 「カツも!」 カレー道は地獄と見たり。 渾身の『変態め』を喰らった亘も、銀匙を片手に華麗魔神と相対する。 銀匙アルシャンで掬い食べる、そして距離をとる。本気かつ無駄にスタイリッシュに食べ続ける。 その胸裏は『変態め』がじわじわ木霊する。嗚呼。形容しがたき胸裏。じわじわくる。 「奥ゆかしくも味わい深いカレー終えたら最後はその恵みに感謝し――」 一体を捕食。 「ごちそうさまでした」 陽菜が作った物体Xがヤバイ事になった。 実は華麗魔神は粗末に扱うとフェーズを上げるのだ。ラスボスである。 ごっぼごっぼと沸騰するかのように爆裂四散へのパワーを溜める。 折角のカレー大会が台無しになってしまいかねない最悪の危機―― 「なんだか知らんが――」 ここで、スプーンを煌めかせる男がいた。 「食えばいいのだろう!」 鷲祐――悪食の真骨頂が最大の危機を神速、突破した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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