●いいから帰ってくれないか 「いやぁ……大変なメに遭いましたわ」 繁華街の片隅で、疲れきった様な声が響く。どうやら残飯などが捨てられている場所から響いているようにも思えるが、そんなスペースに人が入れるとは思えない。 「しっかし殺生ですなぁ。ワシら見るなりあの扱いですもん。いきなり殺しに来るとか野蛮やねぇ」 「ホントホント、図体だけでかくてやること強引やもんねぇ」 「もうちょっとこう、賢く生きなきゃねぇ」 と、笑い声が響く……かと思えば、代わりに響くのはゴムを摺り合わせるような不快な音響。 どう考えても、人間のそれではない。っていうか人間が居るべき場所ではない。 「まあ、次行きましょ次。良く解らんけど、『こっちの』の話だとまだまだ場所はあるみたいですからなァ」 「何か、いくらか頭数減ってんけど、まあええよねぇ」 ……そんな会話、出来れば聞きたくありませんでした。 ●説得すら生ぬるいハードルの依頼 「……などと私達からすれば意味不明な会話をしており、その行動原理は明らかに観光」 うわあ。……うわあ。 リベリスタ達が死んだ魚の目で画面を眺める中、淡々と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げる。 何か重要な部分にスミ入れされて「SOUND ONLY」とかされたって形状とサイズで分かる。あれは視界に入れてはいけないものだ。 「彼らは、過去に敵性アザーバイドとして現れた相手とは別チャンネルの来訪者。七色にも光らないし話も分かるし空気も多少は読む」 虫のくせに話がわかるとは生意気な。そんな空気が流れた気がした。 「今回の依頼はこのアザーバイドの送還。捕獲や殲滅は推奨しない」 いやもう潰そうよ。今までそう言ってたじゃん。 「上位チャンネルの侵食は能動的に防げるものではないけど、ここで友好的に動けば、敵性アザーバイドとして現れる可能性は極減する。逆説的に、無為に殲滅すれば敵性アザーバイドの流入率が増える懸念もある」 ただでさえ七色なんちゃらで被害甚大なのに、これ以上別チャンネルから来てほしくないです。 「探すのはとても困難だし、下位種と見分けがつかないし召喚もするから大変だけど、安全なことを示したり相応の『おもてなし』をすれば分かってくれる。最悪、罠にかけても階層移動の際に消滅するはず」 都合いいですね。 「放流予定のバグホールの情報も併せて通達する。まあ、出来るだけ心象悪くしないようにお願い」 虫ごときのせいで頭を下げる幼女、マジエンジェル。そしてマジ不幸。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月26日(日)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●本質的に間違ってる ――皆さん、私はアザーバイドとの接触が好きです……アザーバイドとの接触が大好きです…… 集合場所に真っ先に到着していた『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は、静かな声色でそんな話を切り出した。といっても、肉声ではなく思考会話の類ではあるが。 半ば恍惚とした表情でつらつらと語る彼女の姿に、他のメンバーの反応は困惑も見られる。まあ、当たり前かもしれない。 アザーバイドの送還の手伝いと聞いてきてみれば、相手の外見は人類の仇敵だという。しかも感情に任せて潰しすぎてはならないという。もしかしたら、潰したほうが楽なんじゃないかと思えてくるくらいである。 「うう……マジやる気が迷子なんだが」 『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)などは最も顕著な例だ。彼は過去、下水で似た様な相手と死闘(精神的な意味でも)を繰り広げた経験があり、友好的な態度で接しよう、等と言われても実行に移せないのは当然かもしれない。誰だってトラウマになりますよね、あんなん。 「おかーさん、あたし頑張る! れっつ異文化交流!」 一方、同じような経験をしていながらノり気に見えるのは『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)。正味な話、彼女のそれは空元気というか結構無理してる雰囲気がないではない。手に持った虫籠がその気合をありありと表現している。 「彼らだけは敵に回してはいけない……絶対に」 舞姫と組んで行動する『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)の決意にも悲壮なものを感じざるをえない……まあ、一緒なのはナリと行動原理だけなんで、そこまで頑強なのかはちょっと分かりませんが。 「好きなものとか色々調べようとしたんですよ? でもあれの画像を見るのは頑張ってもできなかったんですよ……」 いそいそと舞姫の虫籠に餌を放りこんでいく彼女の主張は正しい。その努力は無駄じゃないよ、うん。 「いかに害虫と言われていて途方もないほどに長い歴史を持つ、あの昆虫の姿をしたアザーバイドでも、我々より能力が高いということはまずあり得ないでしょう」 そう言って問題なさ気に振舞う『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)だが、まあ……今回に限ってはその認識は間違いではないので、脇に置くとしよう。溢れんばかりの謎の気配を感じるが気のせいだろう。 「複雑な、気分……でも、穏便に済ませれるなら、それでいいのかも」 過去二回、この手合いとの戦闘を経験している、ある種「経験豊富」な『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)も、やや反応に困っているフシがあった。とは言え、戦闘に多く身を置く彼女が珍しくも「穏便な解決」に身を乗り出すということは、それ相応の理由があってのことなのだろう。……そのベクトルがどちらへ向いているかは兎も角。 「ところで……何か人をもてなす服装に適した服装はありましたでしょうか?」 「丁度良かった。アンリエッタさん、これなんてどうかしら?」 他の六人とはまた違った感情から――主に動物愛護の観点から――参加している『空蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)は、相手がどうあれもてなそうという気概が大きい。それに応じるように、「面白いから」と依頼に参加した『Blue Rose』アニス・シード(BNE002507)が燕尾服を取り出していた。曰く、衣装にさりげなく相手の文化を取り入れるのが定石だそうだ。……いや確かに似てますけどね。ハイセンス過ぎて観光蟲まっしぐらでしょうとも。 そんな、どこか間違った賑わいを見せる彼らに、沙希は改めて語りかける。無論、自身の思念会話で、である。地図を広げた彼女は、万年筆で幾つかポイントを指し示していくと、最期に現在位置を示す。どうやら、それらが彼女の割り出した相手の位置らしい。加えて、天乃が現在地を中心に幾つか放射状に矢印を引いていくが、こちらは彼女の高度な聴覚から割り出された「それ」の動く音であり、確実性は高いとは言えない。……言えないが、全く手探り、というわけにもいかない状況では貴重な情報だったと言える。 全員がそれを確認すると、予め決めていたペアに分かれ、繁華街のネオンを潜っていく。煌々と照らされた街を、しかし闇の権化みたいな存在を探しに行く彼らは、何とも不憫と言うほかはない。 ――漢方でゴキブリは立派な生薬(漢方の素材)ですし、などとは……考えておりませんけれど。 沙希さん、それあいつらじゃなくて頭に「水」が付くゲンゴロウの一種だと思います。 ●それぞれのやり方 「何だか、わらわらして、どれがどれだか……」 ――もし。この中に観光にいらしている方(?)は…… 天乃と沙希は、繁華街の入り口から少し裏に入った辺りで早々に「それ」に遭遇した。飲食店の廃棄バケツの下に群がるそれらの数はかなり多く、どれが目当ての相手かなど一見して判別がつかない。会話はできるだろうが、襲われたことのある集団であったなら、それも困難だったろう。何より、会話とかシュールすぎる。 「ん……なんや、アンタ達は。ワシらに何か用か? 丁度上物が」 「食事中……に、悪いと思う。けど、あなた達を放っておくと、後々、よろしくない、から」 ――『私達』はあなた方のような外見の相手には特に野蛮になってしまいますから、長居をなさると危険かと存じまして……。 天乃の言葉に、沙希が言い添えるように付け加える。彼女たちの切り口は正攻法で、且つ有効なものであった。自分達が「野蛮」であると謙りつつ、長居することの危険性を説くことは彼らの機嫌も損ねないし、道理も通る。 「しかしなァ……『こいつら』の誘い浮けてるし、どうしたモンかなァ……」 「只で、とは言わない……これとか、どう?」 言い渋る相手に対し、天乃は自らの切り札を取り出した。そう、お弁当である。元々、説得の可否に関わらず振舞うつもりであったため、説得材料として持ち出すことを考えた次第である。ダメ押しのように、おかもちを取り出して「観光も、できる」と主張されれば、それ以上の反論が出来ないのもこのアザーバイド達であったりする。 「ン、まあそこまでされてハイ無理ですってのは道理ちゃうわな。よっしゃ、帰ろうか」 ――では、別で動いてる方々の場所などが分かれば……『そちらの』も解散させて頂けますと。 おかもちに入ろうとしている観光蟲のリーダー格に、沙希は更に言添える。事前に天乃と打ち合わせていたとおりの進言であり、それを断る理由も無い。斯くして、周囲の目が少し痛いかもしれないながらも、八匹の観光蟲の確保に成功したのであった。 一方、俊介とベルベットのペアであるが。 「やー、何なんこの美味そうなの! サプライズだねー!」 ……虫がサプライズとか口にするんじゃねえよ。俊介の生気のない目が、そんなことを言っていた気がした。傍らのベルベットはそんなことお構いなし。彼らにとって友好的であることが示せれば、細かくはどうでもいいらしい。 話はほんの少し前に遡る。沙希に指定された場所へ来た二人は、路上を横断するそれらを見て――イラッ☆ ときたベルベットがうっかりを装って攻撃を仕掛けようとしたのを俊介が必死で止めたところで、何とか話し会いの段階に持ち込めたわけだが。 「早くこの世界から逃げるんだ! この世界はキミ等には危ない! 俺はキミ等が死ぬところは見たくないんだ!! だから、俺の言うことを聞いてくれ! 頼む!」 ……何でこんなアツく説得してるんだろうね俺、と俊介は思う。凄く消耗しているから気にしちゃいけないよ。ベルベットも、尊い犠牲ぐらいの扱いできっと分かってくれるはずさ。 「つっても……ホラなんだ、まだ観光し足りなく」 「わかった、これで勘弁してくれ! これ持って帰っていいから! 頼むから!!」 というわけで、ハンバーガーひとつであっさり釣れました。安いなアザーバイド。 「あまり表に出すぎないように。面倒なことになりますから」 「ってちょ、えええええ!? いいよ、俺中華鍋持ってきたからそっち使おうよ! わざわざ素手で持つ必要ないじゃん!」 「いえ、そうなると俊介様が奇異の視線に晒されますので。何なら服の中でも」 「おお、いい感じに暗そうでええなあ……♪」 「そういう問題じゃねええええええ!?」 ……とか何とかそんな感じで、俊介の中華鍋に四匹、ベルベットが一匹を包み込むように囲み、運ぶことになりました。すごいな最近のメイド服。 「ねー、国子さん。猫ってアレを捕まえて食べちゃうそうですけど、美味しいんですか……?」 「猫じゃなくてチーターですよ!! あと食べませんからね!?」 「やー食べられるんかウチ。そこの毛むくじゃらのに似た耳持つコに食べられちゃうんかウチ。怖いわー」 舞姫と汚れ所を必死に探していた国子は、何かもうその一言で心が折れそうになった。しかし、そんな事で挫けてはいけない。彼女ってばチーターのビーストハーフなのでそんなものは食べないのだから。寧ろ彼らはお客様なのだから。 「私たちは観光大使として参りました! お会いできて嬉しいです! ほらほら、国子さんなんかもう、あなた方が大好きだから、全身這い回られてもニコニコ大歓喜してますよ? もう、ラヴですね。愛は階層を救う的なアガペー」 「止めてください、まだ這い回って無いから、誘導だけは勘弁して下さい!」 間髪入れず、舞姫が深々と礼をしつつ虫籠を開く。それに倣い、国子も持っていた虫籠を開く。持っているのは、両者ともに(多少細工はあるが)普通の虫籠だ。しかし、観光蟲にとっては王室にも似た豪奢さを以て迎え入れられているのだろう。現に、オスと思しき個体はよろよろと覚束無い動作で舞姫の籠へと入っていく。 遡ること結構前。舞姫は、『そういうの』をおびき寄せる特性を持ったフェロモンが殊更強力な個体と交戦し、一度そのフェロモンを被っていた。その時の服の端切れを、餌とともに籠に入れていたのだから効果が覿面でないわけもなく。 「……ヤよ。こんな他の雌(オンナ)の匂いが染み付いた部屋なんて」 逆の意味で覿面だったので、その辺は国子にカバーして頂きました。 舞姫・国子ペア、確保数六匹。残り六匹である。 「ナンデスカ、ガサガサウルサイデスネーヤバンデスネー」 「……っぅわひゃぁぁぁぁ喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!?」 ゴミの中から這い出した個体の様子に、先程までのとろんとした目から一変して男性はそそくさと逃げていく。アニスのテンプテーションに惑わされていた彼は、あらぬ妄想を抱きつつゴミ漁りをしていたわけだが……何とも残念な結果である。 「私としては危害を加えるつもりは無いのですが、いかんせんあなた方の姿はこの世界では友好的関係を築くのは難しいでしょう。なので、元のチャンネルにお帰りされの事をお勧め致します……」 「ア、コリャゴテイネイニドーモ。ワルイネ」 そんなやり取りはさておき、アンリエッタは燕尾服に合うように仰々しく挨拶と説明を済ませると、懐から用意していたクッキーなどを差し出した。素早くそれに口……ではなく顎をつけながら、観光蟲の一体はカタコトで会話を返す。 「観光でしたら、私たちがご案内しますし……」 と、アンリエッタが言い切るか否かで、横合いからアニスが携帯電話を取り出す。動画サイトのものと思われるその映像は、海外の要人警護の様子であった。黒塗りの車に多数のSP。どうあっても窮屈に見えるのは常識範囲であろう。 「この世界では要人に自由は無いのよ……見ていくだけでも勘弁してもらえないかしら」 「ハイトハイイタクナイケド、ソレガ『オモテナシ』ナラシカタナイネー」 話早ェなおい。ツッコミ役不在の状況下ではカタコトのアザーバイドも非常に話の分かるいい個体でしかなく、その鶴の一声(?)によって残りの観光蟲もアンリエッタの用意した虫籠で運ばれるのであった。……いや、周囲の視線を逸らす為のアニスの苦労が偲ばれるところではあるが。 そんなわけで、無事に回収は完了したのである。 ●こわくなんてないさ 「ハンバーグ持ってっていいから、もう来ちゃ駄目だぜ?」 「何なのもう、俊介さんてばホントええ人!」 うるせぇよ、と俊介は返しそうになった。やべぇこの個体うぜえ。外見がアレなのに流暢とかマジウゼエ。何しろベルベットとか無表情でバグホールにポイである。しかも喜んでたし。なんなのこれ。なんなの。 「オミヤゲダナンテワルイネー、モチカエレルカワカラナイケド」 「是非またお越しください」 そんな和やかな会話を交わすアンリエッタと観光蟲には、アニスの困惑した視線が注がれている……気がするが、アニスが気にするほどでもない気がするので、見なかったことにした。 「七色の感じのやつ、とか……知らない?」 「んー、ワシらんとこには居らんかったなあそんなん。ただ、アレやね。ここってばこう……何か『来そう』な気はするやね?」 ――何か、ですか……怖いものですか? 「そうやね、ちょっと寒気ェするわ……」 天乃と沙希と会話していた個体は、意味深なことを口にしていた気がするが。 「短い間でしたが、楽しかったですよ?」 「なかなか無い体験だったもんねー、ありがとーねー」 国子が相手にしていた個体もまた、なんか凄く和気あいあい。適応力って素敵である。 とまあ、そんな感じで送還は無事に済ん…… 「怖いもの見たさ、ってやつ?」 「ああ、また向こうに何かがみえるるるるる……」 天乃と舞姫がバグホールの向こうを覗いていたりする。何やってんですかあなた方。 しかし、彼女たちが見たものは七色とかそういうものではなく、ひたすらにわらわらぞろぞろと群がるそれとかそれとかかさかさ音とか、兎に角気力がそがれるものばかりだった。 結果、舞姫に至ってはまた半発狂してしまっていたが……大丈夫だろう、多分。 観光蟲ってば、満足しちゃって、また来るかも知れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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