●桂・栄蔵 「そのときワシの持つ名刀『春風』が翻り、R-TYPEに傷を与え――」 「なぁじーさん。アンタ十一年前は香港にある龍の骨でできた城で、ガンマンやってたって言ってたぞ」 「む……! そこはアーティファクト『疾風の足袋』を使って空を駆けたのじゃ!」 「へいへい」 「信じておらぬな『菊に杯』! 良かろう夜桜一刀流の技、その身で味わうがいい!」 「その前にオレの王手を味わうがいい」 「ちょ!? 待った! その銀待ったじゃ!」 「へいへい。これで三度目だぜ」 「ぐぬぬぬ! これほどの苦戦、五年前の『カドゥケウス』との攻防以来じゃ!」 「それって七年前とか言ってなかったか?」 「だまれぃ! ぐぬうううう!」 『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)が桂・栄蔵という人間に関して知っている情報は、そう多くなかった。 三高平の一角にある集会所で将棋を指す老人。あまり強くない。 かつてはリベリスタだったらしい。記憶が曖昧なのか、ホラなのか。話は結構でたらめだが。 そして―― 「『楽団』……まさかもう一度この刀を抜くことになろうとはな。 ばーさん、達者で生きろよ。息子達には、うまく言ってくれ」 後に混沌組曲と呼ばれる戦争があった。 三高平市に攻め入った死霊術士と、三高平市を守るアークのリベリスタの攻防戦。 戦いはアークのリベリスタが勝利する。アークに大きな被害はなく、町は凱旋ムードに包まれる。 しかし、被害は皆無ではない。 「……じーさん」 「おお、『菊に杯』か。敵はどこじゃ」 徹の目の前にいるのは、一体のEフォース。『町を守る』という強い思いをもった老剣士が、幽鬼と化したもの。 「……『楽団』は倒した。もう、敵はいないぜ」 「そうか。じゃがまだ隠れているかもしれん。三高平を守るために、ワシは戦うぞ。 ほれ、わしの夜桜一刀流の技の冴え、とくと見るがいい」 「じーさん……もう、戦わなくていいんだ」 「なんじゃ、泣いておるのか? いかんのぅ。三高平の笑顔を守るため、ワシは戦い続けるぞ」 ●アーク 「そのじーさんは崩れ落ちそうになる戦線を支えるため、孤軍奮闘していた」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちは、徹の話を黙って聞いていた。その老人は仲間を逃がすために殿に立ち、多くの死者を切り、潰し、そして―― 「その結果死んじまって、化けてでたって寸法だ」 徹の口調はどこか無理をしているように見えた。人の死、しかも顔見知りの死だ。気楽に流せるほどに達観はしていない。 「そう難しい話じゃない。Eフォース一体葬るのに手を貸してくれ、って話だ。 場所も時間も分かってる。三高平内だから神秘の秘匿も関係ない。じーさんだって強かったわけじゃない」 エリューション化したとはいえ、ある程度の人数で戦えば確実に勝てるだろう。それは『万華鏡』でも確認した。徹の言うように難しい話じゃない。 「ま、そんな話だ。気が向いたら頼むぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月30日(土)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「また置いて逝かれたな」 ナイトメアダウン以前からの友人だった桂を『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)は遠くから見ていた。年齢相応に年を重ねた桂と、二十代前半の容貌を持つ伊吹。桂はいつまでも若い伊吹の容貌を羨ましがっていたが、伊吹のほうは大家族と一緒に年を重ねた桂が羨ましかった。 「……言えば彼は笑っただろうな」 思えば戦いばかりの絆だった。 方々で互いの戦果を聞きながら、時折同じ事件で肩を並べることもあった。神秘界隈に平穏などなく、唯一の平和な時間はたまに指す将棋ぐらいだ。 桂の将棋は、はっきり言って弱かった。 「全く」 桂の打ち方は定跡から外れていた。伊吹はそんな桂に基本的な定跡を教えたこともあるが、聞く耳を持たなかった。 『いいや、わしには見える。こうするほうがいいんじゃ!』 言ったあとで負けるのが、いつものパターンだった。 よく言えば天衣無縫。悪く言えば我武者羅。組織の長として人を動かすでもなく、英雄として大事件の中心にいるでもなく。しかし常にリベリスタであろうとした、古くからの友人。 「……俺の戦友だった桂栄蔵は、もういない」 目の前にいるのは彷徨えるEフォースだ。そしてエリューションを倒すことのみが、リベリスタの役目だ。何も感じない、とは言わない。だがここで彼を許せば、今まで奪ってきた命たちに失礼だ。 故に友として交わす言葉はない。硬く拳を握り、伊吹は桂だったモノを見ていた。今は、静かに。 ● 「道路に立っているのでしょうか……立ち話もなんでしょうから……座りません?」 桂に声をかけたのは『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)だ。革醒者の気配を消して、ただの子供のふりをして桂に近づく。 (少し前の私なら……何も考えずに斬って捨てていたでしょう……) 敵は切り捨てる。リンシードはそんな感情のない人形だったころを思い出していた。今は――胸のうちにある『何か』がそれを止めていた。それがいかなる感情で、そしていかなるカタチなのか。それを知りたくもあり、 「おお、お嬢ちゃん。ここは危険じゃぞ。危ないからどこかに隠れてなさい。 もっとも『楽団』はわしの刀で一丁両断じゃがな!」 かんらかんらと笑う桂……の姿をしたEフォース。 「お強いんですね……少し、貴方の冒険譚、聞かせてくださいな……」 「おお、いいぞ。あれはたしか三十年前の春、吉野という桜の精霊が――」 リンシードに促されるままに桂は話を始める。リンシードはその話を聞いていた。最初は無表情で、だけど少しずつ楽しそうに。 「……というのがわしとばーさんの出会いの事件だったんじゃ」 「大恋愛、だったんですね……。 桂さん、ここまでの人生……楽しかったですか? 今の内に、やっておきたい事など、ないでしょうか……」 たどたどしいのがリンシードの口調である。だが質問をするときに、いつも以上に言葉が痞えていた。この人はもう死んでいる。そう思うだけで、言葉が詰まってしまう。 「もちろん楽しかったぞ。いやいや、まだまだ人生を楽しむぞ。玄孫の顔を見るまで生きるんじゃ!」 その笑顔に、リンシードは返す言葉が思い浮かばなかった。あなたはもう死んでいる。エリューションだから討たなくてはいけない。……言うべき言葉は確かにあるのに。 言葉は、口から出てこなかった。 「私です、リリです」 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は和菓子を持って桂の元に近づく。その姿に桂は顔を崩して手を上げた。 「おお、元気じゃったか? 痛いところはないか?」 「はい。楽団戦では、助けて頂き有難うございました」 深々と頭を下げるリリ。桂は「気にすることじゃないわい」と手を振った。 「貴方とゆっくりお話してみたくて、参りました。宜しければ、戦ってきた日々の事を教えて下さい。 リベリスタとしての心構え、やり遂げた時の事。辛かった日の事、大切な方のお話……」 リリの真摯な言葉に、桂は瞳を閉じる。 「辛い事は、若いもんは知らずでもええ。仲間を失う痛みは、しらんに越したことはないんじゃ」 その言葉に、胸を詰まらせるリリ。 「私も先日初めてお友達を亡くし……この手で殺しました」 リリはそのときの感触を思い出す。 「身近な方の死……この心の痛み、身を裂かれるような気持ち。先日初めて知りました」 人は一人で生きているのではない。人との繋がり、人との係わり。そういったものも含めて『自分』なのだ。死とはそれを文字通り、『裂かれる』のだ。 「そうか……『楽団』め」 沈痛な思いで桂は拳を握った。このエリューションは人の死を、仲間の心の痛みを感じとり、その理不尽に怒っていた。 (……それでも討たなければいけない。その心が本当にエリューションになる前に) リリは祈る。戦いの中力尽きた英雄のために。 桂栄蔵を天に送るために。 ● 嘘は良くないことだと『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は思う。だがうそで誰かが救われるのなら、それも仕方ないのだとも思う。 悠里は桂を良く知っているわけではない。酒屋で顔を合わせる程度だ。桂の冒険譚をツマミに酒を飲んだことが幾度かある。あれは確かに嘘かもしれないけど、それでもあの話は楽しかった。 バイオリンを手に取り、ローブを羽織る。泣きそうになる顔を仮面で隠し、震えそうになる声を何とか押さえる。何度も練習したセリフを、舌に乗せる。 「よくもケイオス様をやってくれたな。一人でも多く道連れにしてくれる!」 『楽団』の生き残り。それを装う悠里。 (僕は、栄蔵さんが世界の敵となってリベリスタに討たれるっていう最後を迎えるのは嫌なんだ……!) 最後まで三高平を守るために奮闘したリベリスタ。その最後が世界の敵になる。そんな残酷な結果は、あんまりだ。 だから桂には、最後までリベリスタとして死んでもらいたい。そのために嘘をつく。 「油断しないで……今は死者を従えていませんが……私達を殺して、亡者にする気です……」 悠里の行動を知っているリンシードがそっと耳打ちする。 「ここにいたか『楽団』の残党」 タイミングを合わせるように、ヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)が現れる。エストックを抜刀し、悠里に向けた。 「む。おぬしは?」 「わたくしの名前はヒルゲガルド。遠く英国の地より参ったリベリスタだ。義によって『楽団』を打つためにはせ参じた次第」 そしてそのまま儀礼的に剣を縦にして、桂のほうを向いた。 「この地で戦った勇士とお見受けする。参列に加わることをお許し願いたい」 ヒルデガルドの凛とした態度。名家の教育もあるが、真摯に桂に尊敬を抱いていることもある。 仲間を逃がす為に身を犠牲にした桂。その生き様は尊敬に値する。その生き様や精神は、しっかり受け継がなければならない。それがこれから生きていくものの勤め。それゆえに、礼節を尽くさなければならない。 「ふふふ……心強いのぅ」 「どうした。来ないならこっちから行くぞ」 『楽団』の……悠里の言葉に桂は静かに腰を下ろした。そのまま悠里の胸元を指差す。 「恋人さんは元気かの? 悠里や」 「え? あ……」 悠里の胸元にあるのは手巻き式の銀時計。二個一組の片割れは、恋人が持っている。それをこの老人は知っていたのだ。 「何を言っている、僕は――」 「ええんじゃ。わしもうすうす気づいておった。最後までリベリスタであって欲しいと思う悠里の優しさ、痛み入ったぞ。 わしは……もう死んどるんじゃな」 「……はい。あなたはもうリベリスタではなく、Eフォースなのです」 包み隠さず、リリが桂の言葉を肯定した。 ● 「桂様、ただいまです!」 「おお、お帰り」 気配を隠していた『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)は桂おおどかすために突然声をかける。桂は生前と変わらぬ屈託のない笑顔でまおに答えた。 (ああ、いつもの笑顔だ) まおはいつも学校に行く前に桂の家の前を通っていた。そのときに挨拶をされたり、たまたま中をのぞいたら剣道を進められたり。そんな仲だった。 『竹刀をぶんぶん振るのは難しいです』 『ああ、すまんのぅ。もう少し振りやすい竹刀を持ってくるぞ』 そんなやり取りをしたのは、ほんの少し前。……本当に、少し前の話だ。目を閉じれば思い出せそうなほど、鮮明な記憶。 「飲み屋のよ、いつもの席にいねぇから探したぜ、じーさん」 ガスマスクで顔を隠した『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)が頭をかきながら歩いてくる。 「ほら、俺のとっておきの酒飲ませてやるって話してたじゃねぇか」 「言っておったのぅ。おまえさんの田舎の地酒じゃったか」 「限定醸造の貴重な日本酒だ」 隆明は日本酒のビンを手にする。お猪口を二つ用意し、自分の分と桂の分を次いだ。 「俺はよ、じーさんの冒険談聞くの好きだったぜ」 「そうか、嬉しいのぅ」 「ホラだなんて思ってねぇよ、じーさんは最後の最後まで強いリベリスタだった……だけどよ、俺もリベリスタなんだよ」 拳を握る隆明。リベリスタとエリューション。世界を守るものと、世界を壊す因子。相容れぬ関係。隆明はリベリスタとして、桂と相対する。 知人が運命の加護を失い世界の敵になる。隆明も話には聞いていた。ありえることだと理解していた。なのに、いざ目の前にいるといつも以上に拳に力が入ってしまう。 倒すことは簡単だ。この拳を叩き付けるだけでいい。それなのに。 「……そうか、逝ったか」 散歩のときに出会う、よく喋る老人。『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の桂に対する印象はそんな感じだ。嘘か本当か良く分からない話を楽しそうにしてくれた。 (オレの『大事なモンは勝ち取る』って主義から見ても、爺さんの『大事なモノは守る』っつぅ主義はどーも最初から最後までズレて話になりゃせんかったが!) 戦う理由の違うリベリスタ。奪い取るための拳と守るための刀剣。それでもその桂の話は気分の悪いものではなかった。 「オレ等みてぇなんがやりたいようにやれんのは、こういった……気持ちの良い爺さんみてぇな地盤の支えっつぅか……まぁなんだ!」 髪の毛をがしがしと掻きながら火車は口を開く。言わなくちゃいけないことは分かっている。説得なんてガラじゃない。ただ見て欲しかった。 「見ろよ。アンタは望みを……願いをちゃんと勝ち取ったんだぜ」 火車が示す先にはリンシードがいた。リリがいた。悠里がいた。ヒルデガルドがいた。まおがいた。隆明がいた。伊吹がいた。徹がいた。 そしてその後ろには三高平の町があった。『楽団』が攻めてきて傷跡は残っているが、それでも確かに三高平はここにあった。 桂栄蔵が守ろうとしたものが、確かにそこにあった。 「あの、まおは桂様の剣が見たいです。まおは竹刀じゃなくて糸ですけど……お願いします」 まおは糸を細く伸ばして、桂に向けた。それに応じるように桂は刀を構える。 まるで剣道の試合のように一礼して、刀と糸が交差する。 「強いのぅ。一本とられたわぃ」 霧が風に消えるように、桂の姿が掻き消えていった。 ● 「貴方の護りたかったモノ……この町やたくさんの命が……貴方のお陰で護られました……おやすみなさい」 リンシードが桂がいた場所に向けて、言葉を紡ぐ。胸の奥にある『何か』はまだ残っている。苦しいようなもやもやとする感覚。『人形』だったころは感じなかったそれは、桂の顔を思い出すたびに締め付けるように痛くなる。 (……やはり知らない方がよかったのでしょうか……?) 胸中の問いかけに答えるものはいない。リンシードは知らず何度も自問していた。 「まおは今日も桂様にあいさつができて、うれしかったです」 まおは礼の形のまま、口を開く。 「まおも桂様もこの街が大好きだってわかったから、うれしかったです。まおも桂様も頑張ったって知ったから、うれしかったです」 顔を上げて桂の姿がないと知れば、きっと言葉をつむぐことはできないだろう。だからまおは礼のままでいた。 「まおもみんなも明日も元気にちゃんとあいさつできますから。 ありがとうございました」 ぼろぼろと涙を流しながら、まおは感謝の言葉を告げた。明日、三高平の人間に挨拶ができる幸せ。それをかみ締めながら。 「余計なこと、だったかな」 悠里は作り笑いを浮かべる。桂を騙すことができず、彼をエリューションとして死なせてしまった。うまくいかないものだね、と自虐的に笑う。 「だが嬉しそうだったぜ、あのじーさん」 「嬉しそう?」 徹の言葉に悠里が顔を上げる。 「エリューションではなくリベリスタとして逝って欲しい、っていうおまえの思いが伝わったんだろう。 『篭手』は確かにじーさんの心をつかんでいたのさ」 「……そうかな」 悠里は桂がいた場所を見る。問いに答える相手はもういない。いたとしてもホラを吹いてごまかしそうだ。その様を思い出し……もうそれを聞くことができないことを痛感する。 「あの人は……この町を守ったのに……! こんな最後、あんまりだ!」 「そうだな。あんまりだぜ!」 隆明が持ってきた酒を開けて、持ってきたお猪口についで一気に飲む。瞳に浮かぶ涙を拭いとった。 「俺たちは勝ったんだ。あの凄い戦いに。酷い戦いに。勝ったんだ。 なのによ、なんでいつもの席にいねぇんだよじーさん……酒、余っちまうだろう? 俺一人で全部飲んじまうぜ……」 どれだけ酒を飲んでも、この喪失感は埋まらない。そんなことは分かっているのに。隆明の酒のペースは止まらない。 「慣れねぇよな、コレばっかりは」 戦いに身をおけば、これから何度もこういう経験をしていくのだろう。慣れることなんてない。だけど、足を止めることだけはしない。 「俺は先に進ませてもらう。いつか俺が逝ったら……また呑もうぜ、じーさん」 隆明は天に杯を掲げる。そこに桂がいて、杯を合わせるように。誓いと共に酒を嚥下する。五臓六腑に味が染み渡った。 「…………」 火車は静かに消え去った桂を見ていた。 (満足したか、爺さん。あんたは命がけで三高平の笑顔を守ったんだ) 桂が守ったのは、この町の平穏。そしてそこに住むものの笑顔。 だから火車は涙を流さない。 あの爺さんが本当に守りたかったものを分かっているから、泣いて不安になどさせはしない。 唇を笑みの形に変え、歯をむき出しにして笑う。チンピラめいたその笑いのまま、掌に炎を生み出した。鎮魂の炎、線香代わりとばかりにその拳をふるう。 「爺さん……達者でな! あんたの守った笑顔はここにある。だから迷わず成仏しやがれ!」 「あとは我々に任せて……どうか、ゆっくりお休み下さい。今まで有難うございました」 リリは祈りを捧げるように手を組み合わせる。 『Requiem aeternam dona eis, Domine, et lux perpetua luceat eis.』 安息を祈るリリの歌。その後に天に向かって銃口を向ける。 (さあ、『お祈り』を始めましょう。両の手に教義を、この胸に信仰を。強き戦士に安息を) 神秘をこめた弾丸が、号砲をあげる。弔砲は一筋の光となって天に打ち上げられた。幻想纏いのロザリオを手に、リリは桂の安息を祈る。 (仲間の為にその身を礎にした勇士。礼を持って送らねばなるまい) ヒルデガルドは剣を納め、黙祷する。剣士として、人として、礼儀を尽くさなければならない相手だ。その最後に立会うことができたのは僥倖といえよう。もちろん生きて話が聞けるのならそれが最上だったのだが。 騎士道と武士道。ヒルデガルドと桂の心に掲げる旗は、けして同じではない。だがヒルデガルドはその生き様に共感するする部分があった。この出会いと別れを刻み、ヒルデガルドは前に進むと剣に誓う。 (良かったな、栄蔵。ここにはお前の意思を継ぐ者達がいる) 伊吹はサングラスの奥で瞳を閉じ、友の冥福を祈る。 桂の命が尽きても、その意思はこうして伝わっている。その優しさが、勇気が、思いやりが、技術が、意志が。確かに次の世代に伝わっている。 人は死ぬ。それは変えようのない事実だ。 だが残るものもある。脈々と伝わっていく意思と技術。過去を基盤に少しずつ良くあろうとすること。 人はそれを進歩というのだ。 (安心して眠れ、戦友) もしあの世で会えたなら、そのときは一局指そうではないか。 「もっとも、しばらくそちらに行くつもりはないがな」 言って踵を返す伊吹。未来に進むために足を踏み出した。 桂栄蔵の人生は、ここで終わる。 だが彼を知る者は彼のことを心に残しながら、前に進んでいく。 いずれこの悲しみも薄れていき、そして消え去るのだろう。 それでも、あの老人も三高平を守ったリベリスタの一人という事実だけは忘れない。 だから、悠里は静かに口を開いた。 「ありがとう、栄蔵さん。……さようなら」 剣は確かに折れたけど。 その輝きだけは忘れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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