● いつまで、一緒に居られるのだろうか。 そう考えながらも、僕らは毎日を楽しんでいた。段々と疎遠になっていく彼に、不思議と悲しさは無かった。 もう子供じゃないんだから、とお母さんに怒られながらも部屋に置いてくれた彼――ジュン君が、とても好きだった。 ● ある日目を開けると、其処には見慣れた天井は無かった。代わりに広がっていたのは突き抜ける様な晴天。何処に向かっているんだろう。 暫くして、僕達を乗せた軽トラックは大きな建物の前で止まった。知らないおじさんが、荷台へと乗ってくる。 嫌な予感がした。予感が現実となるのにも、時間は要らなかった。 次々に、おじさんは荷台の上の物を建物の中に投げ込んでいく。建物の中は、深い深い穴になっていた。 一緒に乗っていた壊れたテレビも、自転車も、机も、ぐしゃりと音を立てて見えなくなった。そして次は、僕達が入った大きな段ボール箱の番。 ふわりと、持ち上がる。何をするんですか。そういいたくても、言葉は出なかった。 やめて! ――伸ばそうとした手が、突如届いた。 否、届いた気がしたけれど、次の瞬間には男の人は居なかった。 代わりに、地面に鮮やかな赤い絵の具がぶちまけられていただけ。あんまり、好きな色ではなかった。 そういえばここ、どこだろうな。ぐるりと周りを見渡してみる。見渡すことが、出来る。さっきまで乗っていたトラックも、心なしか小さくて。 少し身体は重たいけれど、歩くことだって出来た。 これまで如何して気付かなかったんだろう、僕らは動けるみたいだ。それなら、ジュン君を探しにいこう。ジュン君のとこに、帰らなきゃ。 行こうよ、みんな。 ● 「……誰しもいつか、好きな物からも離れていかなきゃならないのかな」 膝に乗せた兎の人形を弄りながら、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタ達に質問とも独り言とも取れる調子で告げる。 何でもないわ、という様に溜め息をひとつ。それから皆に資料を配り、普段の調子で始めた。 「今回、皆に対応して欲しいのはEゴーレムの群れの掃討」 小気味良く叩いたキーボード。壁に下がったスクリーンに、禍々しい化物が列を成して歩く姿が映し出される。百鬼夜行の縮小版、といったところか。イヴは補足情報について語り始める。 「全部Eゴーレムで、数は二十弱。フェーズは1ね。強さも大きさもまばらだけど、それほど脅威って程ではないと思う。 けど、玩具の持ち主――綿貫淳悟は暫くしたらこの子達を迎えに来る。運良く……ううん、運悪くばったりと会ってしまうの。 変わり果てた彼らの姿を見て、何も知らない淳悟はどう思うかな」 彼はきっと、驚くだろう。目の前の化物が、自分の大好きな玩具達が変わった姿なんて、解るはずもない。 そして、逃げるように駆け出した彼に玩具達は手を伸ばす。持ち主の彼は、間違いなく壊れてしまうだろう。丁度子供が玩具を壊すみたいに呆気なく、簡単に。 「そうなる前に、必ずどうにかして」 一息吸ってから、凛と言い放つ。年相応ではない落ち着いた口調の中に、願望の様な感情が見え隠れする。 「革醒してしまった以上、私達は見逃す訳にはいかない。 ……でも、此方からの言葉は届くみたいなの。どんな結末にするのかは皆の自由。後は宜しくね」 背に掛かる言葉に『了解』と親指を立てて見せ、リベリスタは部屋を後にした。 ● 「何で勝手に捨てたんだって言ってるんだよ!」 「大学に入る迄にはどうにかするって言ってたじゃない、この部屋だって利香に渡すんだから片付けなくちゃいけないでしょう」 「そんなの……っ、もういい。少し出てくるから」 「あっ、淳悟! 話はまだ……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ぐれん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月15日(月)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 人の都合で生み出され 人の都合で捨てられて 人の都合で壊される 「――だというのに彼らは尚、人を好いてくれるのデスネ」 現場へ急行する最中、『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)は囁く様に零した。 大切にされていた玩具が、離れ離れとなった持ち主の処へ帰る。そこには只純粋な想いしか無く、これが童話なら丁度素敵なハッピーエンドへ進む筈なのに。 けれど事態は、彼らが自らの手で愛する持ち主を殺める方向へと確かに傾いてしまっている。どうにかしなければ、その最悪の出来事は『起こるらしい』のだ。 ぎりり、と武具を握る手に力が籠る。応える様に輝く刃は、望む未来へ切り進む為に。今日の出来事を、悲劇になどさせはしない。 「別れって……悲しいよね」 それが大切なものとの別れなら尚更。遠く海を越えた先へ想いを馳せながら、ミルト・レーヴェ(BNE004277)は一人呟いた。 加えて、お互いに憎しみ合って別れるのではなく、他人から強いられた物。辛くあって然りなのだ。此の儘で、終わらせていい筈も無い。 彼の、淳悟君の想い、そして玩具達の思いをきちんと伝えなければ。 「捨てられないモンかぁ……」 彼らに少し遅れた位置。胸糞悪い程に晴れ渡る空を見上げて、『眼鏡置き』小崎・史(BNE004227)は呟く。 自分の部屋に溢れかえるゲームや本の数々。それらは未だかつて、捨てたことが無い故の結果だった。足の踏み場が無い事など、もう慣れてしまっていた。 捨てたくないし捨てる気もない。それが叶えられている自分は、少しだけ恵まれているのかも知れないなと、史は思う。 もし今後万が一それらと別れる事になったとして、オレは捨てられるだろうか。どっちにしても、大切な物の行く末を他人に決められるなんざ、オレは御免だな。 仕方ない、一肌脱いでやるかぁ。 史は幾らか優しいため息を零して、此れから待ち受ける戦へと備えた。 最後の角を曲がった先。リベリスタ達が見据える先で、既に目標の業者の男は回収した物品を扉の奥へと放り込んでいた。つまりは、その瞬間が目前だということ。 残された時間は少ないのだと心構えていた『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)は、彼らの列の先頭を担っていた。最初に飛び込む役割は。彼女に一任されていたのだ。 「勝手に捨てちゃうなんて、……ホントに酷いよね」 むむ、と眉間へ皺を寄せて、真独楽は言う。大好きな父や親友に買ってもらったぬいぐるみ。その全てが大切で大好きで、絶対になくしたくない物だ。 それを勝手に捨てるなんて許せないし、捨てられるなんて哀しい事、もっと許せない。けれど。それでも起こってはいけない事がある。其れを止める為に、私たちは此処にきたのだ、と。 「――でもね、大切にされてた玩具が、誰かを傷つけるなんて……もっとダメ!」 言葉と共に一挙に加速。身に宿る猛獣の因子を体現する様に、真独楽はこれから『起こるとわかっている』悲劇へと飛び込んだ。 駆ける彼を支援せんと躍り出たのは、新世界よりの移住者、フュリエの『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)だった。 「一旦離れて貰うよ! キィ、全力・全開……っ!!」 言葉が終わるか終らないかのその瞬間。辺りを飛んでいた蒼い妖精は煌々と輝き、エフェメラへと魔力を供給する。 体現された魔力は火炎へ。空気を焦がす程に練り上げられた業火は、一挙に革醒する玩具達へと放たれると刹那。大爆発。 その爆発を皮切りに、戦いは始まった。 ● 本当に、訳が解らなかった。 いつもと同じ様に、街を回って。 いつもと同じ様に、集めた廃品を放り込むだけ。今日もそうやって終わる筈だったのに。 目の前に大きな腕が現れて、私を押しつぶそうとしていた。 けれど小さな女の子が現れて、私を守ってくれた。 そして今は、別の女の子に保護されている。何故か真っ直ぐに見つめられている。 今起こって居る事は幻。疲れているんだよと彼女は言う。夢なのかと聞くと、夢なのだという。 帰って、猫のみーこと今日は休暇にしよう。そうしよう。私は、疲れているのだから。 それにいい天気だ。久しぶりにお布団でも干すのが、良さそうだ。 「――よし」 既に始まった戦闘の最中、廃品業者の避難を終えた四条・理央(BNE000319)は一息漏らす。 彼女の眼は今、人を惑わし我が物とする魔眼に成り代わっている。一般人に暗示を掛ける事等造作もないのだ。 よし次、と自分を鼓舞する様呟きながら人払いの結界を放つと、彼女は思う。 物に憑いた想いが暴走した今回の件、呪符や式神を用いる理央にとっては他人事とも言えない。 悪意等何処にもないのだ。荒れなければいいが、と夢想した処で事態は変わることは無かった。既に戦の火蓋は切られていたのだから。ならば、することは一つ。 「何が出来るか、だよね」 癒し手の居ない此の戦場。僅かな力かも知れないけれど、崩させやしない。 唇を凛と結ぶと、理央は皆の待つ戦場へ踵を返していた。 ● ――交わる火線。戦場の真只中、小さな体を躍らせ跳ねるのは、『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)。 よっしゃあ、と高らかに叫ぶその口元には、複雑な感情が見え隠れしていた。 大人っつーのは、如何して俺達の大切な物を――趣味や、趣向や、時に夢でさえも――理解してくれねえんだ。 子供と大人、息子と母親、娘と父親。何処かで切り替わる時が来るのだろうか、何処かで、『理解してくれねえ』側に変わってしまう時が、来るのだろうか。 年齢に不相応なようで、一番身近で、複雑な感情。でも今は、悩んでる暇なんかない。なんとか、してやらねーと。 「いっくぜお前ら! ブラックチェインストーム!」 掛け声と共に彼女が放ったのは、自らの血で成す黒鎖の大嵐。迫る玩具の群れを容赦なく飲み込み、呪い、砕いていく。 一挙に多数の敵を凪ぐ魔法に続いて、追い討ちと振るわれるのは真独楽の速度に乗った斬撃。ととん、と軽快に地を蹴ると跳躍。弱ったエリューションの肩口を深々と抉り、その身を地に伏せる。 しかし、崩れ落ちる巨体の影から飛び出す新手。数は圧倒的に敵の方が上なのだ。 「――其処、一人相手に何人掛かりだ」 冷静沈着。まさにその一言を体現した様な声と共に鋭い一撃を放つのは、天宮 総一郎(BNE004263)。 携えた魔弓から放たれた光弾は各々に拡散。真独楽へ群がる対象を尽く打ち抜いていく。 戦場を見渡せる中空を維持しながら、ふうと涼しく漏らした溜め息には、何処か憂いが含まれていた。 大切な思い出。本来ならば成長と共に捨て置く筈の物。それを捨て去るにも抱え続けるにも、金銭や労力が伴うことは必然である筈だった。 それでも彼はまだ、持っていたかったのだろう。もう少しだけと思い出を抱え続ける彼は大人にはなれていなくて、けれど子供でもないのだ。いずれ訪れるであろう『この日』を、考える事も出来ていただろう。本当に大切な思い出ならば、相応の備えも出来ただろうに。それは、ほんの小さな偶然とすれ違いで狂ってしまった。 大切にしてくれていたと言う優しい思い出は、運命の女神の目に止まったのに。付喪神とも言うべき彼らの存在は、けれどこのままではあまりに報われなかった。 「嫌になるね……年を食うと素直に同情してもやれない」 まぁ最後には、行く末を選択させてやりたくはある。どの道、出来る事は砕くだけさ。 総一郎は独りぽつりと零すと、携えた魔弓へ次の魔力を番えた。 立て続けの大火力の応酬。敵方に与える損壊に比例して、大きく高く砂埃が巻き上がっていた。視界を邪魔する煙に紛れ、進軍するのは玩具達。じりじりと戦線はリベリスタの側に食い込み、戦闘する距離は縮まっていく。 突如、砂煙を割って振るわれる大腕。アンドレイは咄嗟に鍔競り合いの形で受け止める、が、既に何体かは斬り伏せた身体は、動き回る事を余儀なくされる最前線の常と合間って、確かに体力を食い潰されていた。がくりと、膝が折れる。 しかし、その口元には笑顔さえ浮かんでいた。これは戦闘。此処は戦場。血沸き肉躍る、死ぬか生きるかの大演場。攻めて、攻めて攻めて、大胆不敵痛快素敵超常識的且つ超衝撃的に勝利するのみ。 「ураааааа!」 膝をついた体勢から、鬨の声と共に上方に打ち上げ、一閃。振るわれた一撃は、敵をバターの様に容易く叩き斬っていた。 崩れる敵のその向こう。未だ数多く蠢く敵戦力。相手にとって不足はないと、アンドレイは再び地を蹴った。 「援護するよ、それっ!!」 駆けるアンドレイを援護する様に放たれるのは、エフェメラの正確な射撃の弾幕。予め自身に施した付与魔術により、文字通り『ブースト』された彼女の魔力は、多々迫る目標を残らず足止めする程の制圧能力を得ていた。 ある者は足を撃ち抜かれ機動力を失い、またある者は腕を貫かれ火力を削られていく。彼女の攻撃は、アンドレイを最前線のその奥へと導いて。 「数ばっか多くてよぉ、大人しくしてやがれっ!」 更にその隣。エフェメラの弾幕に耐え迫る目標を、史の魔術が捉える。手にした魔術本より導かれるのは、かつてソロモン王が従えた72柱を数える悪魔の因果。 込めた魔力で体現するは、彼の王の破滅の力か、彼の侯爵の大太刀か。撃ち貫いた対象を縛り、抉り、確かにその生気を喰い奪う。 「逃さないよ、ボクはその為に此処に居るんだ」 戦線に舞い戻った理央は前線で戦線を牽引。頭数で劣るリベリスタ達の危険を減らすべく、支援に火力に柔軟に対応していた。 攻撃面は現在強化の真最中。それでもこの大群戦では遺憾なくその力を発揮することが出来ていた。彼女の指先から迸る光の弾丸が、敵の集まる箇所を狙い炸裂する。 その爆発を抜ける敵の姿が一つ。取りこぼしか、と数歩下がる理央の脇を、今度は交代だとミルトが駆け抜けていった。 「君達がどれだけ、淳悟君を好きだったかは解るよ」 左右に握った刃を、陽光に輝かせて。ミルトは弱った敵方に一挙に接近、速度を殺さぬ儘に一撃を見舞う。どしゃり、と地に臥す化物と化した玩具に唇を噛んで。 「けれど、君達を今、淳悟君に会わせる訳にはいかない」 彼女も皆と同じ様に、前線を守り続けていたのだ。消費した体力に比例し荒れる呼吸を整えながら、彼女は言う。 貴方達が愛する淳悟君が愛した人形たち。それは此処に居るのに、何処にも居ないのだ。運命の女神は、彼らに歩む足を、抱き締める手を与えても、それを操る術を与えなかった。 本能の儘に、心の儘に歩む足は確かに彼らを運ぶのに、淳悟君の前で歩みを止めてはくれない。求める儘に、愛する儘に、彼を壊すまでその歩みを止める事は無いだろう。 そんな悲しい路の上を、貴方達には歩んで欲しくはないのだと、ミルトは懸命に伝える。彼らからの声が無くとも、此方からの声は届くのだと信じて、言葉の形で謳い続けた。 ● 前衛、後衛に明確に分かれたリベリスタの布陣は、完璧に近い物だった。前線で掻き回し、大きな被害を与えた敵を、後衛が狙い撃ち、処理していく。 戦線の維持に奔走する理央の働きで、最前線で戦う皆の傷も大した事はなく、確かに敵方の数は減っていっていた。誰もが勝ちを確信し始めたそんな時、その瞬間は、突如やってきた。 残る敵戦力の全てが、ほぼ同時に一点へと雪崩れ込む。向かう先には、ミルトの華奢な身体があった。 先程迄敵方が波状に迫っていた故に、各人への負担は分散していたのだ。一つに束ねた矢の様に、一挙に迫る玩具の壁。小さな悲鳴は地響きと共に掻き消え、其の儘後衛の列までも呑みこまんと迫る。 綺麗に分担された戦線は壊れ、乱戦へと発展していった。 「寄られた程度で乱れるような、甘い鍛え方はしていないよ」 ふう、と総一郎はもう一度溜め息を零す。しかしそれは、先程の様な上の空の物ではなく、集中を高める類の呼吸。 小気味良く後ろに跳躍、纏まってくれて寧ろやりやすいね、とばかりに敵方に再度光弾を放ち、打ち抜いていく。前衛の連中が戻るまで繋げれば上出来。焦る事は無いのだ。 「や、やりやがったなてめぇら、俺のターンだ!」 総一郎の考え通り、間髪入れず前線から逸早く駆け戻ったのは、高い速度を携えるラヴィアンだった。再び放たれる黒鎖の奔流。纏まって駆ける彼らへ更に甚大な威力を発揮する。未だ動く敵方は、たったの二体。 急いで駆け出したからだろう、ぜえぜえと揺れる肩は其の儘に、ラヴィアンは深く深く息を吸って。 「……てめーらがこのまま淳悟に会いに行ったってな、昔の様にはあそべねーんだよ!」 どうして解らねえんだ。そんな風に響く、切な叫びに“玩具であったもの”達は顔を上げ、その動きを止める。 「前に進もうって気持ち、淳悟の処に帰がりたいって気持ち、凄く伝わってるきてるよ」 その隣。ラヴィアンに並ぶようにして真独楽は言葉を放つ。大好きな物が、大事な物が失われるなんて絶対に嫌だよね、と付け加えて。まだまだ遊びたい盛り。二人には淳悟と玩具の気持ちが痛い程に解っていた。それでも。 「けどね、淳悟も大人にならなきゃ、前に進まなきゃならないの。そして今、進もうとしてるの」 自然と声が、震える。辛い事を、厳しい事を迫っている事は解っていた。彼らに選択等許されてはいなかった。淳悟がそうされた様に。それでも、彼が受け入れようとしている努力を無駄にしたくも無かった。 昂る感情に任せ告げた後、小さく小さく息を吸って。手に携える大爪に、力を込める。 「だから、ごめ―――」 もう一言、告げようとした真独楽と玩具の間を、アンドレイがすう、と遮る。そして、柔らかに。 「これは、全部夢、悪い夢でゴザイマス」 大好きな淳悟のお母さんに捨てられて、潰されそうになって、訳が分からないうちに戦って、誰かを傷つけて、傷つけられて。 そんな悪い悪い夢を、貴方達は見ていたのだと、彼は言う。玩具の兵隊みたいに背筋をぴんと伸ばしたままで、続けて。 「さぁ、目を閉じて。目を開けたら、きっと淳悟君に会えマスカラ」 嫌な夢は、終幕にシマショウ。言葉と共に、至極ゆっくりとした動きで、大きな斧を振り上げて。それは、何処までも優しく響いて。 ――Спокойной ночи(おやすみなさい) ● 「なあー、これで全部揃ったと思うか?」 「嗚呼まあ、此ンなもんで良いとは思うぜ」 「それよりほら、そろそろ来るんじゃないかな」 「ジュンゴさん、接近ーっ!!」 「っべ、急げ急げ!」 戦いを終えたリベリスタ達は、散らばった玩具を懸命に集めていた。史が廃品の中から見繕った段ボールに、ぽいぽいとそれらを集めていく。 エリューション化、という不思議が生み出した化物達は、その存在感とは裏腹に呆気なく消え去り、後には何の変哲もない玩具達が残って居た。 いそいそと集める玩具はどれも、懐かしく皆の眼に映り、ちょっとした懐古話に盛り上がる事になった。一人の男を除いて。 その男――総一郎は自慢の鑑定眼で、玩具を集めながら物色していた。 とても、売り物にはならないな。とため息を零しながらも、飽きずに手にした玩具を見つめていた。 長い長い年月を共にしたのだろう。所々、塗装も剥がれているし、破損を不器用に直した跡だってある。 「……まぁ、子供なりに大切にしていたという事か」 懐かしい様な、切ないような言葉を残してから、足早にその場所を後にする。 あとは皆に任せて、オレは少年に見つかる前に退散するとしよう。 あれから、どれくらい歩いただろう、いい加減落ち着いてきた怒りと、徐々に湧き出す悲しみ。 深々と溜め息を漏らして項垂れる淳悟が角を曲がると、其処には小さな少女が二人、佇んでいた。 なんだろう、とぼんやり見詰めていると、目があった一人が駆け寄ってくる。そして。 「ねぇ、しょんぼりして、どうかした?」 「オレたちよぉ、大事な玩具を捨てられちまってさ。さがしてんだ」 「え? ああ、実は俺も……」 ――今日の空は、胸糞悪い位に、青く澄んでいた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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