●道化師の涙 彼は、生まれつき言葉を発することが出来なかった。馬鹿にされ、厄介者と扱われ、それでもこれが自分の人生であると納得していきてきた。少年の頃に道化師の仕事を始め、依頼十数年、彼はサーカスの道化として生きて来た。 しかし、ある日突然、彼の所属していたサーカスが解散してしまった。帰る所を失くした彼は、あちこちの国を放浪した。行く先々で、身に付けた芸で日銭を稼ぐ毎日。笑顔の下に悲しみを隠し、道化を演じ続ける。 そして、この国へとやって来た。 けれど、その頃には彼の心はすっかり摩耗しきっていたのだ。楽しい、悲しい、嬉しい、それらの感情がどんなものだったのか、思い出せない。いつの間にか、彼の表情は笑顔のまま固まっていた。 言葉を話さず、笑顔で居続ける彼を、人々は気味悪がった。 だから、彼はおどけてみせた。また、笑って欲しかった。 笑って欲しい、笑って欲しい、そう思い続け……。 そして彼は、人間を止めた。 「…………」 ただただ笑顔を浮かべたまま、彼は道化師としての芸を披露する。けれど、球乗りの球も、ジャグリングのボールやピンも、帽子に仕込んだ大量の花も、全て人を傷つける何かへと変わっていた。 それに気付かず、彼は芸を披露し続ける。 もう一度、笑顔を見せて欲しいから。 しかし、彼の芸を見た者は皆、涙を流し、悲鳴を上げる。満面の笑みを浮かべた彼の目尻から、ぽろりと一粒、涙が零れた。 ●悲しい道化 「不運、としか言いようがない。ノーフェイス(クラウン)は、現在、街の多目的ホールで芸を披露しているみたい。本来は別のイベントが開かれていたようで、まだ現場には幾らかの一般人が避難できずに残っているわ。自力で避難できないみたい」 現状を解説をするのは、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)だ。白い髪を僅かに揺らし、モニターの画像を切りかえる。 モニターに映ったのは、明るいホール。ステージ上では、顔を白く塗った道化師がボールをジャグリングしている。 「クラウンの思考回路はほとんど麻痺してしまっている。笑わせたい、という感情に突き動かされて芸を披露しているのね。ただし、その結果は悲惨なもの」 球乗りの球からは、大量の電気をばら撒いて。 投げるボールとピンからは、炎が噴き出す。 頭や服に隠した鳩と花からは、大量の冷気を撒き散らし。 彼の存在事態が、まるで災害のような有様だった。 「クラウンは、自分の分身のようなものを作り出すことができる。主にブロック目的で動くように命令されているみたい。現在ホール内にいる一般人は、クラウン分身体に阻まれて脱出できないでいるから」 彼らを皆、救出してきて。 そう告げて、イヴはモニターを切り替えた。 そこには、ホールの出入り口を塞ぐ半透明の道化師たちの姿があった。 「悲しい青年。最後の芸を、見届けて来て」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月30日(土)23:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ステージの上に1人 凍りついた笑顔を浮かべ、次々と器用に曲芸を披露する道化師が1人。誰も見ていないステージの上に立っている。観客席には意識を十数名の観客が居るものの、誰も彼を見ていない。意識を失っている者、怯えた表情を浮かべ縮こまっている者、錯乱して暴れ出しそうになっている者など、様々だ。 ノーフェイス(クラウン)。それが、道化師の名前である。彼の乗っている大きな球から、大量の電気を放つ。その矛先が客席へ向いた、その時……。 「かなしーとかゆるさんのだ!」 白い翼に小さな体躯。そう叫びながら、ステージ裏から飛び出してきたのは『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)である。抱きつくようにクラウン分身体を押えこみ、ステージを転がる。そんな彼女の追い越すように、7人のリベリスタがステージへと躍り出た。 ●新たな観客 「そこはステージの上よ? プロの芸人なんだから、お客さんを喜ばせてみせなさいよ」 ステージを駆けおりながら『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)はクラウンに向けてそう言った。しかし、クラウンは笑顔のまま言葉もリアクションも返しては来ない。感情の大半を既に失ってしまっているのである。 「チッ……哀れすぎて、言葉もねぇよ」 六花が抑え込んだ分身体へ向け鋭い蹴りを一閃。『デンジャラスラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)がステージへと飛び込んだ。蝋燭の火を吹き消すように消えていく分身体を尻目に、クラウンの前へ躍り出た。 「さぁ、どンな芸で楽しませてくれンだ?」 ヘキサの背後を仲間達が駆け抜けていく。先ほどまで分身体を押えていた六風も、ステージを降りて別の分身体の相手をするため移動中である。異変に気付いた分身体が数体、ステージへと移動を開始する。 「最近、ノーフェイスの討伐ばっかで嫌になってくるわね……こればかりはどうしようもならないのかしら……」 鉄槌を振りあげ、芝原・花梨(BNE003998)が分身体へと飛びかかる。鉄槌は力一杯分身体へと叩き降ろされる。それを回避して分身体が客席を滑るように移動。花梨はそれを追いかけていく。 「ノーフェイス……フェイトを得られなかった覚醒者か。俺も運が悪けりゃなってたかもな」 クラウンを一瞥して、鷲峰 クロト(BNE004319)もまたナイフを両手に客席へ。出入り口を封鎖していた分身体に襲いかかる。閃く刃が分身体の体に傷をつける。全部で5体居た分身体のうち4体は客席に散っている。まずはこれを退けないことには、観客を避難させることは出来ない。 「かわいそうなピエロさん……。どうしてこうなっちゃったんだろうね」 溜め息を1つ。『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)は弓に矢を番え、客席の端へ。すぐにでも仲間のサポートへ回る事が出来る位置である。 『……………』 暫くの間、じっと事態を傍観していたクラウンだったが、やがてボールを宙へと放り投げた。宙を跳ねるボールへ火が灯り、それを見たヘキサがにやりと笑う。 「さて……。そこのお前、立てるか?」 仲間達が、クラウン及び分身体を押えている間『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガ―(BNE003922)は客席に取り残された観客へと目を向ける。仮面の下の瞳が僅かに赤く染まっているのは魔眼を発動させているからだろうか。熱に浮かされたように、客の1人がふらりと立ち上がり、傍で気絶していた他の客に肩を貸してその場を移動していく。 「さて、今日のオーダーは……っと。まずは避難誘導ですね。動ける人は怪我人を担いで来て下さい。ご協力お願いします」 客席を駆けまわりながら『Anemone』七月・風(BNE004135)はそう声を駆けて回る。動けない者には肩を貸し、視線を巡らせる。逃がすまいと襲い掛かる分身体は、風やエルヴィンが庇う、或いはエフェメラや祥子のサポートによって客へ届かせないようにしている。だが、客を逃がさないように作られた分身体は、流石と言うべきか、上手く動いてこちらの進路を妨害に掛かる。それに加え、更に1体の分身体がクラウンから生まれ祥子へ飛びかかった。 「きゃっ……!!」 悲鳴を上げ、床に押しつけられる祥子。クラウン分身体は、仮面のような笑顔で祥子をじっと見つめていた……。 冷気を撒き散らしながら鳩や花弁がクラウンの周囲を旋回する。それを回避するようにヘキサはステージ上を飛び跳ねる。時折牽制のように放つ彼の蹴りも、クラウンのボールジャグリングに邪魔されて本体へは届かない。そうこうしているうちに生まれた分身体が、祥子を押さえつけている。それを見てヘキサは、ちっ、と小さく舌打ちを漏らした。 「増えてる暇は与えねぇ……。オレの牙で、一気に食い千切るっ!」 床に手をつけ、身体を回転。クラウンの足元にあるボールを、力一杯蹴り飛ばした。 「なんか、こー、なんつーか、せつめーできねーけど、笑わせるヤツも楽しくなくちゃ嫌なのだ! ふこーなままで終わらせねー! アタイはひーろーだからな!!」 分身体に向けて、六風が光弾を撃ち出す。眩い閃光が、一瞬だけ暗い客席を明るく照らす。光弾が炸裂し、分身体の右肩を吹き飛ばした。だが……。 「……うきゃぁ!」 右半身を打ち消されながらも、分身体は身体ごと六風に突っ込んでくる。まるで砲弾のような勢いだ。吹き飛ばされた六風が客席の椅子を巻き込んで床に転がる。出入り口を塞ぐべく移動する分身体の前に、エフェメラが立ちはだかった。彼女の背後を、数名の観客が逃げていく。そのまま出口を潜ってホールから出ていく。 「出来るだけ多く巻き込みたいところだけどね……」 今はまだ、避難を続ける観客が無数に存在している。万が一巻き込んでしまっては事だ。そう判断し、エフェメラは小さな光球を撃ち出し分身体を牽制する。 「突撃するのだー!」 その隙に、六風が戦線に復帰。エフェメラと並んで、出入り口を守るのであった。 「このっ……」 振り抜かれた祥子の盾が、彼女を押さえつけていた分身体を弾き飛ばす。分身体が体勢を立て直した頃には、祥子もまた攻撃の用意は出来ていた。左右の手で持った盾を大上段へ振りあげる。砲弾のように突っ込んでくる分身体目がけ、祥子はそれを振り下ろした。 「できるだけ回避したいのだけどね……」 背後では、ヘキサとクラウンが交戦中である。このまま祥子が避けてしまえば、彼らの邪魔になってしまう。それが分かっているからこそ、今の彼女には避けるという選択肢はなかった。 振りあげた盾が僅かに光る。分身体と盾が衝突し、衝撃波と共に客席の一部が吹き飛んだ。 『……』 床から起き上がったボロボロの分身体が、その場を離脱すべく方向転換。その眼前に、祥子は素早く回り込んだ。 「まだ演目は終わっていないわ。ステージを投げ出すの?」 そう訊ねる彼女もまた、額から一筋の血を流していた。 一方その頃、花梨は鉄槌を振りあげ客席を駆けまわっていた。笑顔を張りつけ、おどけるように客席を逃げ回る分身体を相手に、少々苛立ちを感じているようだ。とはいえ、放置して観客に被害が及んでしまっては大問題。 「面倒ね……」 なんて、花梨が呟いたその時、逃げ回っていた急に分身体が急に反転。弾丸のような勢いで、頭から突っ込んでくる。咄嗟に鉄槌でそれを防いだものの、勢いに負け、花梨は背後へ弾き飛ばされた。 「ぅッグ……」 呻き声をあげる花梨。彼女を見降ろす分身体の笑顔は、まるで仮面のようだ。 徐々に石化していく体を必死に動かしながら、花梨は鉄槌を振りかぶる。すでに体のほとんどは石化しているためそれを振り下ろす事は出来ないが、それでも戦う意思を捨ててはいない。 「あぁ、もう……。もうちょっと楽しそうに芸を出来ないの? 貴方が笑えないと、観客だって笑う事はできないのよ?」 なんて、いくら言葉を尽くしても分身体は所詮、分身体。心を持たない。それでも、花梨はそう言わずにはいられなかった。最後にふっと、寂しげな笑みを浮かべ、彼女の体は石と化す……。 風とエルヴィンを守るように駆けまわるのは、クロトであった。両手に握ったナイフを閃かせ、分身体を切り裂いていく。 「あんたなりに頑張ってたんだろうな……だったら、俺なりに受け止めてやるよ」 突撃してくる分身体を交叉法、つまりはカウンターで斬り捨てる。それが彼なりの、受け止め方だった。真っ二つに切断され、消えていく最中であっても分身体はずっと仮面のような悲しい笑顔を浮かべていた。それを見て、僅かに溜め息を吐くクロト。そんな彼の背後から現れた、1体の分身体が弾丸のような体当たりで、クロトを吹き飛ばした。 「うぐ……。このっ!」 クロトは素早く体勢を立て直し、分身体へと飛びかかる。避難を終えていない観客は残り数名ほどである。それを避難させ終わるまで、彼は倒れる訳にはいかない。 球乗り用のボールを蹴ってクラウンが跳ねる。ボールを中心に雷が周囲へ撒き散らされた。それを受け、ヘキサはステージから客席へ落下。ヘキサへ襲いかかろうとした分身体が1体居たのだが、祥子の盾に叩きつぶされ、消えていった。 周囲に飛び散る雷が、照明を砕き、椅子を焼き、ステージを削りながら観客に迫る。逃げ遅れてい観客のほとんどは、自力で動けない者ばかり。それを庇うために、エルヴィンは両手を広げて雷の前に躍り出た。 「……お前は、俺と似ているな。仮面の下に想いを隠し、何かの為に自分の心を殺して……。待っていろ、今、解放してやるからな!」 銃から放たれた弾丸が、球乗りのボールを撃ち抜き、弾き飛ばす。雷は止んで、一瞬の静寂が訪れた。その隙に、ヘキサが戦線へ復帰。祥子は、状態異常を受けた者を治療するためブレイクイービルを発動させる。 「悲しいなんて気持ち、ボクはもう忘れちゃったなぁ……。っと、これで完璧、です」 最後に残っていた観客を出口から送り出し、風は小さく溜め息を漏らした。コサージュに仕込んでいた小刀を手に、クラウンへと視線を向ける。 満面の笑み。しかし、ぽろぽろと涙を零しながら、クラウンはボールをジャグリングしている。 悲しい道化師、最後の演目が始まった。 ●最後の芸と最後の観客 「い、たた……」 頭を抑えて花梨が呻く。石化から解放され、戦況を確認。観客の避難は終わり、残す仕事は分身体と本体のクラウンの撃破のみである。それなら、と鉄槌を握り直す花梨。駆け出そうとした彼女の肩を、背後から祥子が叩いた。 「なに?」 と、首を傾げる花梨。祥子は無言で、ある1点を指さして見せる。そこに居たのは、六花とエフェメラだ。観客が出ていった出入り口を背に真剣な眼差しでホール内を見つめている。 「嬉しがらせて、笑わしてやるのだー。アタイの芸もみるのだー」 大きく広げた六花の両手に雷が発生。バチバチと音を鳴らしながら、その規模を広げていく。その隣では、エフェメラが両手を高く頭上に上げている。 「出来るだけ多く巻き込んで、蹴散らすよっ!」 エフェメラが叫ぶ。そんな2人に何かを感じたのだろう。新たに生まれた1体の分身体と、その他ホール内に散っていた数体の分身体が2人目がけて突撃していった。 しかし、飛び込んできたクロト、エルヴィン、風の3人がそれを阻む。クロトのナイフが、エルヴィンの銃が、風の小刀が閃いて分身体の突撃を喰い止める。 「その泣き顔をうれし泣きにしてやるのだー。覚悟するのだー。なぜならアタイは、ヒーローだからな!!」 閃光が瞬いて、ホール内を紫電が駆ける。轟音、振動、縦横無尽に電気が弾け分身体を貫いた。更に、エフェメラの放った無数の火球が降り注ぐ。椅子を砕き、ステージを削り、床に穴を開けながら、火球は数秒の間、振り続けた。 視界が眩く点滅を繰り返す。雷が止んで、火球も消える。埃と煙が舞う中、立っている敵はクラウンのみとなっていた。 「オレばっかり楽しんでちゃ不公平だろ? オレの『牙』も楽しンでけよっ!」 ステージの木端を蹴飛ばして、ヘキサはそう告げ、笑うのだった……。 『……』 ジャグリング。ボールやピンが宙を舞う度、炎の弾が適当な方向へと跳ねていく。それを掻い潜り、ヘキサはクラウンへ接近。鋭い蹴りを、その胴へと叩き込んだ。ミシ、と骨の軋む音。クラウンは笑顔のまま、表情を変えることは無い。ただ彼は、自分の芸を繰り出し続けるだけだ。目の前に、笑顔のヘキサが居るから。 誰かが笑ってくれるなら、彼は芸を続けるしかない。例えその芸が、誰かを傷つけるものだとしても、彼はそのことをすでに理解できないのだ。 「楽しンでこうぜぇ」 ヘキサの赤い瞳が、一瞬、輝いてみえた。鋭く旋回させた足刀がジャグリングのボールを弾き飛ばす。飛び散る火の子に混じって、鮮血が飛び散る。顔をしかめ、下がるヘキサ。彼の足首からは大量の血が流れ出していた。いつの間に、だろうか、クラウンの周囲を花弁と鳩が飛びまわっている。 『……』 ずるり、とまるで分裂でもするようにクラウンの体から分身体が現れる。クラウンを守るように前へ出る分身体。姿勢を低くすると、弾丸のような勢いでヘキサへ突っ込む。 しかし……。 「……ブラボー!!」 なんて、満面の笑みと歓喜の叫び。両手で盾を掲げた祥子が、分身体を受け止めた。ガン、と硬質な音が響く。衝撃、静寂、一瞬の間。直後、勢いに負け祥子の体が後ろへ弾き飛ばされる。 「うっ……。ぐ。やるじゃない」 苦痛に歪みそうになる表情を、祥子は必死に笑顔の形に保つ。盾と衝突し、分身体の動きが止まった。それでも分身体は両手を広げ、クラウン本体を守っている。 そこへ駆けこむ影が1つ。花梨である。大上段に鉄槌を掲げ、身体ごと、ぶつかるような速度と勢いで飛び込んできた。 「笑ってみせてよ。作り物の笑顔じゃなくて心の底から喜びを表現してみせて!」 床を削り、振り抜かれた鉄槌が分身体を吹き飛ばす。笑顔のまま、消えていく分身体。吹き飛び、空いた空間にヘキサが駆けこんで行った。 「誰かを笑顔にしてぇなら……」 血の滴を撒き散らしながら、ヘキサは足を振りあげた。鋭い蹴りが、クラウンの体を切り裂く。血が飛び散って、ジャグリングのボールが床に落ちた。ヘキサの動きは止まらない。体を反転、逆の足で蹴りを叩きこむ。何度も何度も、飛び跳ね、流れるような動きで放たれる無数の蹴り。 「まずはテメェが笑顔を思い出しやがれっ!」 最後に放った一撃が、クラウンの首筋に叩きこまれる。ぽろぽろと涙を零しながら、クラウンは笑う。急速に力が失われていくのを感じながら、クラウンは、パチパチと拍手する。 『…………』 満面の笑顔。何かを言うように口を動かす。言葉を話せないクラウンだが、間近で見ていたヘキサは、彼が何と言ったか理解した。 目を閉じ、笑顔のまま動かなくなるクラウン。そんな彼を見降ろして、ヘキサは笑う。 おそらくクラウンは、『ありがとう』と、そう言ったのだ。 「なかなか面白い芸だったぜ」 「えぇ、笑顔が一番、そうでしょう?」 ボールやピン、花弁を拾い集めるクロトと風。クラウン愛用の品だったそれらを、彼の遺体の傍に置く。クラウン共々、人に笑顔を与えて来た道具達だ。 せめて、最後まで一緒に弔ってやりたい、とそう思ったのである。 「俺もいつかお前のように、誰かに笑顔を与えられる存在に、なれるだろうか?」 息を引き取ったクラウンを見つめ、エルヴィンは訊ねる。 しかし、何処からも答えは返ってこない。彼がどのような存在になって、どのような最後を迎える事になるのか、それは誰にも分からない。 舞台の幕は、今、完全に降り切ったのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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