●自縄自縛 何が悪かったのだろう。逃走を続けながら少年は考え続けた。全てが万全、盤石だった。揺るぎようのない確かな勝利は彼等の演奏が鳴り響く場所、必ずもたらされる果実であった。それなのに……何故、今、こんな惨めな敗走を続けている。しかも、楽団員同士も散り散りになっているのか、連絡を取り合える者もいない。もっとも、個人的に親交のある楽団員など誰1人としていないから頼れる者もなく、現状を好転させる材料は今のところ皆無であった。 それでも……少年は走る。あれほどいた死人達はもう共に走る10人しかいない。どれも長く少年の側にいた力のある死人達だが、激戦をくぐり抜けあるじを守った名誉の負傷をその命のない身体のあちこちに刻んでいる。 「どこかで回復させないと。これじゃあ僕の盾さえならない」 自分も疲労困憊のへとへと状態であったが、少年は部下達の為にと言い訳を口にしながら休息を取る。とっさに山に入ったがミゲル――それは生き残りの楽団員ミゲルであった。三高平大学構内での壮絶な混戦から僅かな死人達と共に離脱していたが、敗因の多くは将であるミゲルが責めを負うべきものであった。リベリスタ達の挑発に乗り、アーク本部へ進軍するよりも彼等と戦う事選んだミゲルの失策であった。常勝の『楽団員』だからこその慢心だったのかもしれない。 「このままじゃ帰れないよ、僕。だって、僕は、星の名前を持つきら星なんだから! 絶対、絶対にこのままじゃ終わらない!」 戦場を這いずり廻るこそ泥の様な卑しい目をキョロキョロさせながら、ミゲルは必死に浅ましい考えを巡らせ始めた。 ●一念発起 「ちょっとした後処理だ」 いつも通りの軽装でブリーフィングルームに現れた『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は開口一番、そう言った。 「三高平から尻尾を巻いて逃げたガキがろくでもねぇ事を考えやがった。何もそんなに急いで動く事ぁねぇと思うんだが、あっちはあっちで事情があるんだろう。こっちも休む間もねぇって事になるが被害が出る前に食い止めてくれ」 あまり感情を込めずあっさりと伸暁は言う。リベリスタ達を慰めたり癒したり、愚痴を聴いたりするのは誰かもっと違う別の者の役目だと思っているのだろうか。それとも何も考えていないのか? 「場所は箱根の芦ノ湖畔、日時は3月25日16時誤差10分前後。ターゲットは学生服の女子、多分JCの社会科見学な。ひとけのない少し広い場所でガキの手下が騒ぎを起こす。で、ダチとはぐれたJCがガキに捕まってる……って未来だ」 先ほどよりも少しばかり言葉に熱がこもっているのは、未来の被害者がJC――女子中学生だからなのだろうか。 「もしかしたら俺の大事な未来のファンになるかもしれないJCだ。くれぐれも無事に助けてやってくれ……ちなみに名前と容姿は絞れなかった。この3人から決めてくれ!」 「えええぇぇぇ!」 「なんだって!」 「判らなかったんですか?」 「その通り!」 リベリスタ達の声にもめげず、伸暁はキッパリと言い切った。 未来の被害者候補リスト ・船尾・孔雀(ともお・くじゃく)中学1年生・有名な声楽家の両親を持つ 当該時刻の所在地:箱根旧街道、峠の茶屋付近 ・白鳥・乙女(しらとり・おとめ)中学2年生・父はバイオリニスト 当該時刻の所在地:箱根神社の外れ、九頭竜神社付近 ・源氏・真珠(げんじ・まみ)中学3年生・3年間吹奏楽部在籍 当該時刻の所在地:仙石原、まだ花のないミズバショウをめぐる順路 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月06日(土)22:19 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●3つの輝き 星は夜空を美しく飾り、音楽は人生を豊かに彩る。人の心に感動を呼ぶ筈の星も音楽も、心卑しき者どもに掛かれば、その存在意義さえも薄汚れ地に堕ちる。希代の指揮者を失った楽団員達の末路はいかなるモノと相成るのか。徒党を組むか地に潜るか……それとも非力な己を省みずに高みを目指すのか。 「僕は空を目指すよ」 明けてゆく空を見上げ、小柄な楽団員は笑う。太陽を目指して失速した神話のエピソードは、その脳裏に浮かばない様であった。 「本当にこの道なのだろうな」 周囲の雑草がともすれば石畳の坂道を覆い尽くしてしまいそうになる。そんな鬱蒼とした狭い下り坂を『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)と『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)は歩いていた。 「また下りかぁ? さっき登っただろ?」 俊介がぼやくのも無理はない。今、箱根を越える道は舗装された車道とその両側に設けられた歩道が主流……というかほぼそれ1択であり、旧街道を歩くのはよほどの物好きか山歩きの会が主催するイベントぐらいのものであった。行楽シーズンでもないこの時期、ほとんど利用する者を視認しない。 「山道だからねぃ。こう、登ったり下ったり起伏のある道しか作れなかっただよぅ」 もう一人の同行者である『灯色』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)が穏やかな口調で言う。吹き渡る風はまだ冷たいが、どこか春の兆しが感じられてアナスタシアの口元は仄かに微笑みを浮かべている。 「船尾とやらとその友等は存外酔狂な者どもであったようだ」 「そうだな。女の子の足ではそれほど……シッ」 俊介は唇の前で人差し指を立て、シェリーへと振り向き身を伏せる。 「疲れたよぉ。峠の茶屋ってまだぁ?」 「まだ! さっき休憩したばっかじゃん」 「もうギブしてバスに乗らない?」 「くーちゃん! マジ?」 「だめだめ! もうちょっとだよ」 楽しそうな少女達の声が近づいてくる。 「ようやく見つけたねぃ」 ホッとした様にアナスシアが言う。けれど、目指す敵の姿はまだない。 「あたしはミゲルを探し続けるよぅ」 「承知している。彼の娘達はわたしたちに任せるといい」 「……頼むぞ」 アナスタシアは器用に音を消して草むらへと身を躍らせ、シェリーと俊介は周囲を警戒しつつ、音もなく今来た道をゆっくりと引き返し始めた。 箱根神社の一角、芦ノ湖を望む場所に九頭竜神社はある。 「さて、行くか」 同じ竜として参拝を終えた『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は同行者へと声を掛ける。 「そうだな。出来れば見晴らしの良い場所から探索したいものだが……」 「頼めば手配してくれそうだぞ」 「違いない」 竜一の軽口を『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は笑って受け流す。実際、フツの容姿は寺社仏閣にいて少しの違和感もなく、関係者的雰囲気を醸し出す。実際、この場所に来るまでに神職達に親しみのこもった会釈を何度も受けているのだ。とはいえ、社務所は平屋の建物ばかりで高いといえば、杉の巨木ぐらいしかない。 「人命救助の為だ。後でちゃんと掃除すればご神木もわかってくださろう」 「……違いない」 今度はフツと同じ台詞を竜一が言い、2人は索敵に丁度よさそうな木を探し始めた。 「思ってたより早く出てきたか……全く、ガキは斬りたくねぇんだよな」 鷲峰 クロト(BNE004319)のつぶやくを聴くモノはない。なぜならそこは翼を持つ者達の領域――空であったからだ。空から見る箱根はまだ桜色には染まっていなかったが、早春の美しい緑が地上を席巻し始めようとしている。 「見えにくいなぁ」 それでも遠目の効くクロトの広い視野には雑多な視覚情報が雪崩の様に押し寄せてくる。その中から目指すのは敵と、そして狙われた女子中学生の姿だ。 「あ!」 その時、確かにクロトは見た。 「人呼んで超カッコイイSHOGO班……略してC班参上」 お約束の様なボケをかましながら『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)はポーズをエアカメラに向かって決め、止まる。彼の脳裏には絶妙なアングルで映像に収まる自分がハッキリと見えていることだろう。ただ、彼以外の誰にも見えていない。 「期待しているわよ、王子様」 どこまで本気で正気でどこからが冗談なのか、ごく自然に当然の事であるかのように『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は言う。どちらにしろ、今この仙石原にはSHOGOとハガルの2人しかいない。もし、ミゲルの狙いが源氏真珠なら、豚が木に登りきる程におだてあげてでもSHOGOに活躍してもらわなくてはならない。さっそく苦もなく保護対象である真珠を見つけた2人は躊躇なく接近した。 「やぁ、オレSHOGO! 一人でこんな所にいると危ないぜ。死体とか来るし」 「やだ、何コレ」 「アリエナイ!」 「変質者?」 一斉に真珠の周囲にいたJC達が『やば~いやば~い』と言葉の刃を突き付けて来る。勿論、それぐらいで傷つくヤワなSHOGOではないのだが、リアクションするよりも先にハガルが前に出た。 「ごめ~ん。この人の事よりも今はちょっと危険なのね。だから避難してもらえないかしら? ほら!」 「来た!」 ハガルとSHOGOがまだ花の咲いていないミズバショウの湿地を指す。 ●流れゆく星々 ミゲル現るの報は上空から地上へと滑空するクロトの繋ぎっぱなしのアクセス・ファンタズムから第一報がもたらされ、その後すぐにハガルから続報が響く。そしてその地上では女の子達が悲鳴を歓声でもあるかのように、死人達の中央からミゲルが姿を現していた。 「僕と同じ星の名前を持つ演奏家、真珠。ほんと、探すのに苦労したんだよ。でも、今はネットがあるから便利だよね」 ミゲルが持つ小型のタブレット画面には真珠達の吹奏楽部が市の演奏会に参加した事を伝える地方紙の記事が写真と一緒に映っている。 「残念ながら真珠ちゃんたち、聞いてないぜ。その、こ・く・は・く☆」 相変わらず決めポーズを連続で繰り出しながらSHOGOがミゲルに駄目出しする。 「なっ……!」 ミゲルの周囲で派手な爆竹の様に派手で大量の着弾が大地を揺する。 「派手にぶっ潰すわ。ミゲル君! 君もついでにバキューン!」 「寂しそうな顔してる君に突如!キャッシュからの――パニッシュ☆」 ハガルとSHOGOの攻撃は分厚い弾幕となってミゲルや死人の接近を完璧に妨害する。 「早く! こっちだ」 その隙にと、地上に降り立ったクロトがパニック状態になって悲鳴をあげる女子中学生達を避難させようと声を張るが、なかなか指示が通らない。 「クロちゃん、真珠ちゃんは髪の色明るくするともっと好みです。なんで、青山のカリスマ美容師に予約いれたから連れていってよ」 「あら、エスコート役は王子様の役目じゃなかったの?」 「ええい! 面倒くさい!」 少女達5人の悲鳴とSHOGOとハガルに軽口を叩かれ、クロトのどこかがブチリと何かが音を立ててキレた。思わず白くてガサガサ鳴る袋をミゲルへと投げつけ指さした。 「説教は後でする! とりあえず喰ってろ! 施しとか思わず腹に入れとけよ」 それだけ言うと、クロトは返事も聞かずに少女2人を小脇に抱え、残る3人を追い立てるようにミゲル達から遠ざかる。 「……なんだ、これは?」 ミゲルの手の中にすっぽりと収まった袋の中には、セール中でお買い得となったおにぎりが数個入っていた。 その頃、箱根神社と峠の茶屋付近にいた別動のリベリスタ達は必死に仙石原へと移動していた。同じ箱根とはいえ徒歩で移動出来る距離ではない。 「もう一度聞くが……それに乗っていくのか、結城」 「愛馬の白王号だ。馬力も速度もインテリジェンスも何の問題もない」 朱塗りの建物が林立する神社の境内を背に白馬にまたがる竜一の姿に、一瞬言葉を失ったフツであったが、慌てて首を左右に振り意識をしっかりさせてから車に乗り込んだ。 「どっちが先乗りしても恨みっこなしだ」 「望むところだ」 2人はそれぞれの移動手段に相応しい道を選び出動する。 峠の茶屋にほど近い箱根旧街道から出た俊介とシェリーは俊介の車に乗り、単独でミゲル捜索をしていたアナスタシアはもっと小田原に近い地点から車に乗り込んだ。ミゲルの目的が源氏真珠なら、この場を離れても乙女達一行が危険にさらされる事はない筈だ。 「なるほど、アタリは源氏真珠であったか」 運転している俊介に代わってシェリーはGPS機能を使いミゲルと接触したC班の元へと急行する。 「ミゲル! 今度は逃したりしない……絶対に足洗わせて更正させるんだ」 ステアリングを器用に繰りながら曲がりくねった一車線の山道を登る。死でしか止められない災厄がある。けれど、今はその時ではないと俊介は思っていた。生きて償う道こそがミゲルが選ぶべき未来な筈だ。 「飛ばすぜ! しっかり捕まってくれ」 「承知した」 タイヤの音を高く響かせながら俊介は急ぐ。 アナスタシアはまだ前方に俊介とシェリーが乗る車は見えない。のんびり走行しているわけではないが、やはりくねくねした上り坂は走りにくい。更にここはバス通りでもあるので、運が悪いと流れが滞るのだ。 「あのミカエル坊ちゃんだって、ケイオスがアークが倒された事を知ったらぁ、ちょっとは考えるんじゃないかねぃ。いわば逃亡兵だし、こっちにすぐ馴染めそうだしねぃ」 アナスタシアはその時のミゲルを想像し、思わずクスッと笑ってしまった。 ●輝きは失われるのか 「追いつめた!」 10体の死人を5体に減らしたSHOGOとハガルであったが、当の2人は満身創痍であった。今、ミゲルの遠隔攻撃の直撃を喰らった2人は湿地に転がり泥だらけになりながらも立ち上がろうとする。その胸を小柄な少年の足が踏みつけ、2人を次々に泥に押し戻す。 「Fine」 華麗な発音と共にミゲル以下死人達の集中攻撃が泥に沈んだ2人を撃つ。けれど、運命と世界に愛された者達に死の終焉はまだ訪れない。 「いい加減にしろよ!」 泥で真っ黒に塗れた手がミゲルの細い腕を掴む。 「スタァはみんなを喜ばすのが仕事で、女の子苛めたりしないんだよ」 「絶対に逃がしてあーげない♪ うふふっふふ……」 振り解けないSHOGOの腕にのけぞった瞬間、耳元でささやくハガルの声、そして憎悪の鎖がミゲルを捕らえて絡め取る。 「お前等……本当に死んでないのか!」 既に死人ならば、ミゲルにも倒されても立ち上がる姿は理解出来る。けれど、過日の戦いでもリベリスタ達は立ち上がり、今また死の淵から呼び戻されている。カウンター気味に深い傷を負ったミゲルは真っ青な顔色でSHOGOとハガルへと残る死人達をけしかけた。 「今度こそ死ねぇええ!」 けれど次々と出現した神速の斬撃が破損の激しい死人達の身体を切り刻む。 「遅いぞ、クロちゃん!」 「おかげでもう泥だらけよ」 「……悪い」 少しも悪びれる様子なく、倒れた死人達の泥の飛沫の届かない場所にクロトが降り立った。 「あの子達は無事だ。なぜなら……」 「オレの陣地の中だからな、ここ」 「その通り。お前達に退路はない!」 何時の間にか細い立木を背にフツがいた。愛馬と別れ、ただ1人戦場にやってきた竜一が向き直る。 「あっ……」 言われて初めてミゲルはフツの『陣地』に囚われている事に気が付いた。三高平大学構内では感じなかった焦燥感が胸を焼く。 「い、何時の間に……!」 「我らは諦めぬ。貴様らがどこへ失せようとも、その逃げ去る大地ごと破壊してやろう」 別方向からの声は白銀の長い髪をなびかせたシェリーのものだ。その横の大木からひょこっと俊介が顔を出す。 「ミゲル、やっと見つけたぞ! 俺の事覚えているか? あ、やっぱりふっちゃんのが早かったね」 緊迫する雰囲気をぶちこわしそうな台詞だが、血色に染まる瞳と表情はそれだけではなく、周囲の力を集約しているのだとぼんやり判る。 「形勢逆転――からの、パニッシュ☆」 リベリスタ達とフツが創る『陣地形成』、その二重の包囲に動きを止めたミゲルだが好機とばかりにSHOGOが動く。呼応するハガルとのいつ果てるともなく続く銃撃にミゲルの最後との盾である死人達が穿たれてゆく。 「うふふっふふ……ねぇねぇ今どんな気持ち? 狩る側だった貴方が狩られる側になるのってどんな気持ち? うふふっ」 さんざん守勢に廻ってきた反動なのか、堪えきれずに零れ出すハガルの哄笑が響く。 「他人を傷つけて、何が楽しいんだよ? お前にとって楽団は居心地のいいとこなのか? お前がいなくなって悲しむヤツはいねぇのかよ? 改めていうぜ、足を洗えよ!」 クロトの幻影の刃が残る死人の腕を、そして足を斬る。 「ひぃぃいいっ」 頭を抱えてしゃがみこむミゲル。小さな主を護る様に立ちはだかる崩れかけの死人が凍る。フツが喚んだ魔の雨だ。 「この後、野暮用があってだな。早く決着をつけちまいたいんだよ」 「ご神木への詫びなら俺もつきあうぞ。さぁフツの歌を聞けえええーーー!」 鋭い切れ味を誇る日本刀が高速回転し、竜巻の様な激しい突風がかろうじて倒れずにいたミゲルもろとも死人達を切り裂いてゆく。 「てめえがキラ星なら、うちのフッさんは人を照らす太陽なのさ! それを前に輝けると思うなよ! 「俺の歌を兵器扱いするんじゃない」 「はははっ、さぁ相棒! シャウトの時間だ!」 「するか!」 結城の言葉責めはフツにもダメージが入っているかのようだ。 「いやだ!」 とうとう最後となった死人の盾に、ミゲルがぬかるむ地面に飛び込んだ。 「どんなに護衛を盾にしようと妾の矛は防げぬよ」 シェリーの詠唱は周囲に高位魔方陣を描き出し、そこからの生じる魔術の弾丸が死人もろともミゲルの足を撃ち抜いた。悲鳴をあげ小さな楽団員は泥の中へと転がっていく。すかさず追った俊介の足がミゲルの手から離れた楽器を蹴り上げ遠ざけ、腕を掴んで引き上げた。 「きら星なんだろ!? 星ってのは闇を照らすもんだろ!!? 闇の中、燃え尽きるとか許さんかんなあ!」 朽ちかけた最後の死人が主を助けようと俊介へと襲いかかる。だが、その腐臭漂う不浄の腕が迫るよりも先に、泥の地面に叩きつけられぐしゃりと潰れる。 「どうやらお姉さんも最後の最後で間に合ったみたいだよねぃ?」 腕や足を泥で汚しながらも、アナスタシアはニコッと笑った。 殺される事もなく楽団員ミゲルは捕獲され、アークに移送された。フツが陣地を解くと、周囲の様子も随分と元々ののどかな湿地風景へと戻ってゆく。 「ミゲルの身柄はそっちは頼む」 「じゃ行こうか、相棒」 フツと白馬にまたがった竜一は再び箱根神社の方へと戻り、 「明るい髪色の方が似合っちゃう真珠ちゃんご一行は無事かな?」 SHOGOが尋ねるとクロトはうなずく。 「土産物屋に連れていった」 「行くぜ、クロちゃん! 案内だ!」 SHOGOとクロトが離れ、ハガルが楽しげに意識のないミゲルへと近寄って顔を覗く。 「じゃ、ご褒美に楽しい拷問タイムかしら? 死ななければ何してもOKだよね?」 「だめだめだめだめ!」 車を取りに行こうとした俊介が慌てて戻ってきた。 「安心してねぃ。あたしが見てるしぃ」 アナスタシアがニコニコしながら手を振るが、俊介の心配は解消しない。 「ホントにいぢめない? ノー拷問?」 「請け合うと言っている。ごちゃごちゃ言わずに行くが良い」 「きっとだからね!」 シェリーに術杖で追い払われながら、俊介が走ってゆく。 「やっぱさー何にもないじゃん」 SHOGOやクロトと落ち合うことなく戻ってきた少女達は恐ろしい怪物達の痕跡が全くない事にとまどう。ところどころ湿地の中に足跡があるが、死人は勿論生きている者もいない。 「やっぱりドッキリだったんじゃない?」 「そっか。そうだね。やだ、どうしよう。テレビに映ったら恥ずいよ」 「大丈夫だよ。許可? とかないと放送しないんだよ」 「そっかぁ。じゃもう帰ろうか」 「……うん」 最後に振り返った真珠はもう一度静まりかえった湿地を見る。どこからか物悲しい音楽が聞こえた聞こえた様な気がしたが、やはり気のせいだったようだ。 「真珠~行くよ~」 「は~い!」 少女達はなんの屈託もなさそうに笑いさざめきながら、ほんの少し前まで死闘が繰り広げられた場所を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|