下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






花喰鳥と匂桜

●桜の神社
 小高い山の上、百段ほどの石階段を登った先に其の神社はあった。
 寂れてはいないものの、普段は無人である境内は少し古びた様子。しかし、その場所は桜の咲く季節になれば多くの花見客の人々で賑わう。
 今は未だ蕾も多く、咲く時を待つ桜。
 春の風が吹き抜ければ、淡色に満ちる景色はきっと今年も温かな心地を運んでくれるだろう。

 だが、神社の一角には次元の穴が空いていた。
 異世界より姿を現したそれは金の翼を広げ、見知らぬ世界を見渡す。奇妙な声で鳴き、何処か満足そうにそれら――鳳凰のような異界の鳥達――が見据えたのは綻ぶ前の桜。
 奇しくも、樹は彼らの好物だった。
 欲望のままに桜へと近付いた異界鳥は鋭い嘴で蕾を啄み、樹を食い破り――そして。
 終にはその場が荒れ地となるまで、花樹を喰らい尽くしたのだった。

●花を喰らう鳳凰
「匂桜という名前通り、その花が咲くとすごく良い香りがするんだ」
 毎年、実に素晴らしい桜が咲く密かな名所のことを語り、『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は其処にアザーバイドによる悲惨な未来が視得たのだと告げた。
「花喰鳥って知ってる? よく吉祥紋様として描かれるアレさ。それに良く似ているかな」
 騒動の主は異世界から来た存在。
 それは花と樹を主食にする鳥であり、その容貌は美しくない鳳凰のような姿だと云う。行動からもアザーバイドを『花喰鳥』とでも呼んだ方が良いだろうと判断し、タスクは異界鳥の討伐をリベリスタ達に願った。
「このままだと桜の名所が荒らされて、放置すれば他の場所にも被害が行くだろうからね。その前にどうにかして欲しいんだ」
 アザーバイドの数は三体。
 此方の世界の言葉は理解しておらず知能もそれほど高くはない。しかし、それなりの戦闘能力も有しており油断は出来ない相手だ。彼等は戦うことよりも桜を喰うことを優先する。此方から攻撃を仕掛けなければ襲われる事もないが、ただ黙って見ている訳にもいかない。
 そのうえ、花喰鳥は樹を食べることで自らの体力を回復する。
「体力が満タンでも喰おうとするようだから、その食欲に完敗というか……兎に角厄介なのさ」
 無論、此方が攻撃をし続ければ相手も反撃も行う。
 それでも長期戦は覚悟しなければならないので、押し負けぬように此方も戦略を調整する必要があるだろう。回復を許せば樹も相当なダメージを受け、桜も咲かぬことになるので、被害を出したくないのならば何としても止めなければならない。
「うまく倒せたらそれで仕事は完了。花喰鳥そのまま滅しても良いし、バグホールもまだ開いているから倒した後に異世界に還しても良い。その辺りは君達に任せるよ」
 そうして、説明を終えたタスクはふと思い立つ。
 桜はまだ咲いていないので花見に洒落込むというわけにはいかないが、無事に終わったら神社にお参りしてきたらどうだい、と。
「神社は恋の宮とも呼ばれているんだって。御利益があるかどうかは分からないけど、ね」
 そういって少年は少し悪戯っぽく笑み、双眸を緩めた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月29日(金)23:09
●成功条件
 アザーバイド三体すべてを倒すor送還すること

●戦場
 小山の上にある神社の一角。
 石階段の先に境内があり、敷地内には桜の樹がたくさん並んでいます。
 無人神社のうえ、今はまだ桜が咲いていないので花見客や一般人はいません。蕾が綻びはじめているものが多いですが、桜はまだ綺麗に咲いた状態ではありません。

●花喰鳥
 数は三体。大きさは羽を広げた状態で1.5メートルほど。
 鳳凰と始祖鳥を合わせたような姿をしたアザーバイドです。
 言葉は通じません。それぞれ敷地内バラバラの樹へと向かい、桜の蕾を喰うことを目的に動きます。すべての桜の樹を喰い尽くすまで逃げ出したりはしません。
『舞羽翼』:物近範/混乱
『鳴き声』:神遠単/麻痺/ショック
『花喰い』:実際に桜を食べる事で自分回復。使用頻度大。体力が減っていなくても喰いまくります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ホーリーメイガス
神谷 小夜(BNE001462)
ホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
インヤンマスター
岩境 小烏(BNE002782)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
インヤンマスター
赤司・侠治(BNE004282)
覇界闘士
テュルク・プロメース(BNE004356)


 やわらかな春の風が小高い山の上を吹き抜けてゆく。
 ほんの少しの寒さは感じられても、周囲を包む空気はすっかり新たな季節の装いだ。『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は神社の境内を見渡し、瞳を輝かせる。
「桜の樹、沢山ある……! 蕾もちらほら! 満開になったら、きっと、すっごく綺麗なんだろうね」
 だが、この場には匂桜の香に誘われて花喰鳥が訪れていた。
 翼を広げた大きな鳥が現れていることに気を引き締め、あひるは身構える。『凡夫』赤司・侠治(BNE004282)も敵を見据え、緩く首を振った。
「花を喰らう鳥か。食べなければ生きていられないのだろうが……」
 生憎、こちらとしても花を愛でる前に食べられては敵わない。そのうえ、かの異界の存在は容赦なく花を食い荒らす故に放っておくわけにはいかなかった。『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)も翼の加護を仲間へと授け、戦いの準備を整える。
「悪気があるわけじゃないんでしょうけど、何とも困った鳥ですね。さて、出来るだけ急いで倒しましょう」
 花喰鳥は小夜達の存在には気付いているようだが、襲い掛かってくる様子は見えない。
 寧ろ宮の桜木へと向かって飛んで行っており、今にも嘴を伸ばして蕾を食い荒らす勢いだ。
「テュルク、行くぞ。お前は私より優秀だから心配はしていないが、気を付けろよ」
 まずい、と感じた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は弟の『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)に呼び掛け、鳥が向かった場所へと急ぐ。
「百体以上のゾンビと比べると、幾分か気は楽でしょうか。しかし、手を抜ける相手ではありませんね」
 テュルクも己を律し、姉に続いて敵へと駆けた。
 三体の花喰鳥はフォーチュナが言っていた通り、別々の木に狙いを定めて三方へと広がった。
「花を食い尽くすなんて、イナゴのようだな?」
 ユーヌがすかさず戦場を広げまいと挑発の力を紡ぎ、敵に自分を注視させようとした。だが、反応したのは一体のみ。テュルクも同様に鋭い蹴撃でかまいたちを作り出して攻撃を向けるも、残りの鳥達はバラバラな方向へと飛び立っていく。
 おそらく、別々に花蕾を喰らった方が効率が良いという考えなのだろう。
 一体に全員が集中してしまえば、他の木が見る間に喰い荒らされてしまう。そう感じた『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)は仲間が攻撃を加えた個体とは別の花喰鳥へと向かい、『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)も残り一体の鳥が向かう木の前に立ち塞がった。
「よもや花と団子が一緒にされる日が来ようとはな」
 もし満開の花の中ならば啄ばむ姿すらも美しかっただろうが、相手は本能のままに喰らう鳥獣だ。
「害獣ということになるのでしょうけど……私たちも生きないといけないのです」
 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)も咄嗟に小烏の側へと陣取り、戦いの機を窺って待機した。戦場の位置取りは今、結果的に三ヶ所に広がっている。
 ユーヌとテュルクが相手取る一体。小烏と凛子が向かった一体。そして、黎子をはじめとした残る四人が狙いを定めた一体。それぞれに分かれることとなっても、戦いへの意志は揺るがない。
「恨みっこなしって事で。切り刻ませてもらいますよ!」
 影をその身に纏わせた黎子は指先を敵へと突きつけ、カードの嵐を解き放った。宛ら桜吹雪にも似たそれはひらひらと周囲を飛翔し、運命を刻むかのように舞ってゆく。


 しかし蕾は花喰鳥によって啄ばまれ、一本の枝が折れる。
 咲く前の花の命が喰らわれたことに眉を顰め、侠治は符術で式神の鴉を作り出して遣わせた。
「此方としてはやっと大きな戦が終わったのだ、大人しくして貰うぞ」
 式符が羽ばたき、黒い翼が花鳥へと襲い掛かる。見事に命中した一撃は相手に毒と怒りを付与し、こちらに気を引き付けることに成功した。その隙に黎子が桜の樹側へと回り込み、これ以上の枝を喰らわせまいと再ブロックに付く。
 あひるも魔方陣を展開し、仲間と同じ敵へと狙いを定めた。
「喰い荒らされたら、皆困っちゃうから……ごめんね。倒させて、もらうね」
 小さな魔力の矢があひるの周囲に浮かび上がり、ひといきに解き放たれる。翼を貫かれた花喰鳥は一瞬苦しげな声をあげるが、続けて羽の舞いが黎子達へと向けられた。
「……!」
 途端に黎子と侠治の思考が混乱に満ちて揺らぐ。だが、すぐさま小夜が神光を生み出して対応した。
「大丈夫です、全力でサポートします!」
 邪気は光によって祓われ、二人は正気を取り戻して事無きを得る。その間に小夜はちらと他の仲間の方を見遣った。こちらは四人で相対しているが、他の個体に向かったユーヌやテュルクは二人で対峙することになっている。しかし、自分達も目の前の相手を放置してゆく訳にはいかない。
 皆も頑張って、と胸中で願ったあひるは更なる魔矢を紡ぎ、指先を敵に向けた。
 一方、小烏と凛子も果敢に花喰鳥を抑えていた。
 鳥と木との間に割り込んだ小烏は己の周囲に道力の満ちる剣を浮遊させ、刀儀の陣を展開する。
「邪魔して悪いが、食わせるわけにはいかんのよ」
 その際、瞳を眇めた小烏はその双眸にしかと鳥の姿を映した。喰いたい桜への進路を塞がれた花喰鳥は奇妙な鳴き声をあげて敵を排除しようと襲い掛かる。それでも、小烏は怯んだりなどしない。
 しばらくお相手願おうか、と攻撃を受け止めて耐える。
 そんな小烏の姿をしかと見守る凛子は仲間の体力が削られている事を察し、詠唱で大いなる存在に呼びかけた。
「支えますからお願い致します」
 凛子によって生み出された清らかな微風は小烏の身体を包み込む。そして、彼女は用意して来た早咲き桜の枝を取り出して敵の注意を引こうと動いた。すると、途端に花喰鳥が興味を示す。
「やはり花の方が好みのようですね。こちらに……このまま皆さんの元に引き付けます」
 凛子が呼び掛けると、小烏も頷いて答えた。
 そのようにして工房が繰り広げられる中、ユーヌとテュルクも二人きりで敵を相手取っている。
 先程、ユーヌが怒りを与えたことによって花喰鳥は彼女に集中していた。蕾の方に向かわないのは好都合だが、その攻撃は激しく巡る。だが、ユーヌは敢えて攻撃を受け止め続け、徐々に花鳥を誘導する。
「桜ばかり、同じ味だけでは飽きるだろう? ふむ、一品だけで良いとしたら……単細胞は得だな」
 挑発し続ける姉の言動を聞き、テュルクは斬風脚を見舞ってゆく。
 まるで舞踊の如く、華麗に解き放たれた真空の刃は敵の羽を散らす。時折避けられもしたが、その度にテュルクは集中を重ねて的確に花喰鳥を貫いていった。
「身内の目もすぐ傍にありますしね。真面目にやるのが勝利への鍵です」
 ねぇ、と視線を寄越した弟の言動にユーヌも静かに同意する。
 その合間にも怒る敵からの攻撃は見舞われ続け、一度はユーヌの体力が尽きた。しかし、彼女は己の運命を引き寄せて立ち上がり、黒の瞳で相手を見据え返す。
「お前の外見は優美なものだ。花の間を飛べば絵にはなるはずだが、中身が残念すぎるな」
 薄く双眸を細めたユーヌはテュルクと眼差しを交わし合い、二人は後方の仲間を見遣った。
 三体全てが戦闘範囲に入るまで、あと少し。侠治達も彼らが敵を引き付けて来ている事を感じ、強く気を引き締めた。


 やがて、誘き寄せられた花喰鳥達はひとつの戦場に集中した。
 途中、ユーヌ達が引き連れてきた一体の怒りが解けたが、このまま集中攻撃を行われるよりは好都合だ。
「行きますよ、一気に落としてしまいましょう!」
 黎子は今まで自分達が相手取っていた敵を倒すべく、双頭の大鎌を振り上げた。集った花喰鳥達が鳴き声で彼女の動きを縛ろうと動いたが、麻痺の力は通じない。そして、間合いを奪った黎子はかざした刃で以て死の刻印を刻み付けた。
 揺らぐ花鳥は桜を喰って己を回復しようと嘴を伸ばす。だが、それも致命によって無駄な行為となる。
 その隙に侠治が式鴉を遣わせ、弱った対象の体を射抜く。
「鳥には鳥を……と言った所か?」
 やや冗談めかした言葉を零した侠治は、そこに生まれた刹那の瞬間に再度の機を見出した。ふたたび生み出された式符は宙を舞う。そして、ユーヌが続けて星儀の力を解き放った。
「悪いな、命までは取りはしないが静かにしていてくれ」
 ユーヌが零した言葉に次ぎ、花喰鳥が地に落ちて戦う力を失う。そして侠治とユーヌは倒れた鳥から視線を外すと、次なる敵に狙いを定めた。
 目を回したらしき鳥を見遣り、あひるも「やったね!」と口元に笑みを湛える。しかし、まだ二体の敵がこの戦場に残っている。怒りを振り払い、近くの花を喰らおうとした彼等に気付き、あひるは声をあげる。
「まだ咲かない桜、その生命を啄むこと……あひる、許さないよ……!」
 確かに、彼らは食事をしているだけかもしれない。けれど、この場所に桜が無ければ悲しむ人がいっぱい増えるはずだ。啄まれた蕾が千切られた事に心を痛め、あひるは絶対に被害を抑えると決めた。
 仲間を支える為、あひるは癒しの息吹として聖なる力を具現化させる。
 春風にも似た柔らかな風を背で感じ、小烏は符を周囲に回せた。
「そら、鳥同士仲良くしようじゃなぇか」
 自身が抱く腕の羽を敵へと見せ、放った無数の鳥符は標的を包み込んで一瞬の闇を作り出す。鳥が鳥を襲う様はまるで可笑しな鳥葬の如く。襲撃された花喰鳥は苦しげに翼を震わせるが、桜を喰っていたことでまだ体力にも余力があるようだ。厄介だと小烏は首を振り、更なる攻撃の機を狙う。
 同様に小夜も様子を窺い、仲間が麻痺や混乱を受ければすぐに回復してゆく。
 その最中、小夜はふと周囲に気を向けた。実は彼女にとって、桜がきれいな神社というのは少し憧れだったのだ。
「普段、お仕事をしている神社はあまり花は咲かないのですよね。羨ましいですが、だからこそ綺麗な場所は守らなきゃいけません」
 小夜が待機し、回復に徹していることで仲間の戦線が崩れることはない。
 幾らかの桜の蕾が喰われてしまったが、被害も甚大というほどではなかった。テュルクは僅かな安堵を覚え、斬風脚を繰り出し続ける。
「折角倒しても、桜が咲かないのでは名所も泣くというものですから」
 舞羽の翼に巻き込まれぬ位置取りを心掛けるテュルクもまた、この場所に桜が咲いた時のことを思った。
 これほどにまで枝が伸び、蕾が付いているならば満開の宮はとても美しいものになるだろう。弟の思いを肌で感じ取ったユーヌも密やかに想像を巡らせ、陰陽の儀を展開させた。
 途端に不吉な影が敵を覆い尽くし、纏わり付く。
「食い過ぎか? 悪食祟ってふらつくとは情けない」
 挑発の言葉は止めないまま、ユーヌは星儀の力で花喰鳥の動きを鈍くさせた。
 仲間の頼もしさを感じ、凛子も攻撃に転じる。敵を引き付けた桜の枝を放り投げた凛子は魔方陣から魔力の矢を解き放った。
「桜を簡単に散らせる訳にはいきませんから」
 生きる為に喰らうことに善悪はないが、此処は彼等にとっての異世界。
 矢は真っ直ぐに飛翔し、花喰鳥を貫く。その強力な一撃に回復する暇すら与えられず、標的は力を奪い取られて気を失った。樹の枝に引っかかった鳥にはもう、戦う力は残っていないだろう。
 これで後は一体だけ。
 リベリスタは確りと頷き合うと、最後まで気を抜くまいと決意した。
 重なる攻撃、施される加護と癒しの力。
 花鳥も蕾を喰らって倒されまいと粘るが、追い詰められた状態では確実に分が悪い。もしこの鳥達を放っておけば、今この視界に見える枝全部が折られていたのか。あひるは浮かんでしまった想像を頭を振って振り払うと、花喰鳥に向けて大きく言い放つ。
「もう! それ以上食べちゃ、ダメだよッ!」
 長く続く戦いの中、押し負けてはいないとはいえど皆も疲弊している。あひるは侠治と意識を同調させ、自身の力を分け与えた。侠治が礼を返す最中、黎子も最後に向けて攻撃を続ける。
 邪魔な自分達に向け、敵が羽を舞わせて来る予兆を感じた黎子は確りと身構えた。
「来るみたいですね。ですが、二度も同じ手は受けません!」
 襲い来る羽を華麗に避け、彼女は反撃とばかりに札の嵐を放ち返す。敵は一体故にカードは見る間に標的を包み込み、一気に体力を奪った。
 その合間に切れかけた翼の加護を小夜が施し、仲間達を懸命に支援する。
「皆さん、お願いします。相手はかなり弱っているみたいです」
 呼び掛けた小夜と同じくして、侠治も最後になるであろう攻撃の機会を見出した。敵は弱りながらも翼をはためかせ、何とかして桜の蕾を口にしようと動こうとしている。
「それ程になってまで蕾を喰おうとするはな……些か意地汚いぞ?」
 侠治は散華という名を冠した術具を握り締めると、式符の鴉を解放した。
 花というのは散るからこそ美しい。だが、咲く前の花を喰い散らかすのは風流とは呼べない。広がった鴉の舞は見る間に標的を貫く。
 そして――次の瞬間、最後の花喰鳥が力無く崩れ落ちた。


 戦いは終わり、仲間達は自然と顔を見合わせる。
 はじめと同じように吹き抜けた春風は、まるで平穏が戻ってきたことを祝しているかのようにも思えた。
 そうして、テュルク達はバグホールを閉じるべく、倒れている花喰鳥達を回収して穴の元へと向かう。
「野生動物のようなものでしょうし、縄張り争いに負けたことくらいはわかるでしょう」
 鳥達は気を失ったままであるが、テュルクはそれが好都合だと考えた。凛子も最低限の手当てを施すと、眠ったままの鳥へとそっと呼び掛ける。
「あちらの世界でどう扱われているかは解りませんが、こちらにはもう来てはいけませんよ」
 鳥達は送還され、あひるもさようならと告げて快く見送った。
 そして、小烏は彼等が折った桜の枝を手にしてバグホールの中へと投げ込む。戦いで散ってしまった分であるそれは鳥達への餞別だ。
「詫び賃代わりだ。しかし、これに味を占めてまた来るとかはナシだぞ?」
 小烏は冗談めいた言葉で最後の見送りを告げ、踵を返す。
 そして、すべてが送還されたことを見届けたユーヌは次元の穴を破壊した。
「これで仕事も終わりだな。無益な殺生にならず良かったのか」
 ぽつりと呟いたユーヌもまた、境内の中心へと向かう仲間の後に続いてその場から去る。誰も居なくなった神社の片隅は最初から何も無かったかのような静けさが戻って来ていた。
 そして、桜の元へと向かった凛子は傷付いた樹を看て、折れた箇所を撫ぜる。
「樹木の治療方法も多少は心得がありますので……」
 折れた枝も多かったが、被害と呼べる被害は無い。きっと、花咲く頃にはそれも気にならなくなるだろう。小夜もまた未だ蕾の多い樹を見上げて思いを馳せる。
「せっかくなのでお花見できると良かったんですけどね~。後日また来てみましょうか」
 小夜の言葉に黎子も頷き、無事に桜を守りきれたことを実感した。
 そうして彼女達は参拝の出来る宮の中心へと歩みを寄せた。恋の宮と呼ばれる神社の御利益はどんなものなのかは、やはり気になる所だ。
(恋には今の所縁がないですが、とりあえず。怪我なく病気なくできるだけ平和に過ごせますように)
 黎子が目を閉じて願うと、あひるも意気揚々と参拝場所に立つ。
(ずっとずっと、一緒にいられますように……)
 一生懸命にお願いした思いはきっと、彼女が抱く彼への想いの分だけ叶う。えへへ、と彼を思い出して口元を幸せそうに緩めたあひる。そんな仲間に倣い、テュルクとユーヌも参拝をしてみることにした。
 とはいってもテュルク自身はそういった願掛けなどとは縁遠い身。
「そうですね、願うのであれば……『今年も素敵に桜が咲きますように』でしょうか」
「良い願掛けだな。絶対に叶う願いだ」
 侠治はテュルクの言葉を聞き、咲く時を待つ木々を振り仰いだ。二人のやりとりに笑みを零し、あひると黎子もこの視界いっぱいに広がる花の景色に想像を巡らせる。
「今度は、皆で守った桜、見に来たいなぁ……綺麗なお花、いっぱい咲かせてね!」
「満開になったらぜひ花見に来たいものですねえ」
 少女達が喜ぶ様を見守り、小烏も春の空気をゆるりと吸い込んだ。
「自分は惚れた腫れたにゃ縁もなし。けれど、花咲く景色には焦がれるねぇ」
 きっといい酒が飲めるから、と。
 花と人々であふれ、心地好く賑わう神社を思った小烏は不意に顔をあげる。そして小烏は視線の先にあるものを見つけて片目を眇めた。
 緩やかな陽射しと穏やかな風に揺られる枝の先。
 そこには――とても小さくて淡い桜の花が確かな彩を宿して咲いていた。
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
アザーバイドは無事に送還完了。
桜の樹も多少のダメージは受けましたが、ほぼ荒らされることなく済みました。
これで今年もかの神社には毎年通りの賑わいと美しい花の景色が広がるはずです。
ご参加、どうもありがとうございました!