● 其れは、この世界に迷い込んでしまった不幸な少女の物語。 其れは、心優しい少女の、けれども残酷な物語。 其れは、人の温もりと冷たさをその身に宿してしまった少女の世界の物語。 どうして、どうしてこんな事になってしまったのだろう。 私のことなんて、どうでも良かった。 凍てつく世界の中心で、少女は一人立ち尽くす。 少女の周りにあるのは、全てが凍りつき、静止してしまった静かで残酷な世界。 その景色はまるで、少女の今の心境を表しているかのようだった――。 ● 「あなた達にお願いがあるの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の表情は何処か、哀しい。 「ある小さな村で、アザーバイドが暴走してる」 イヴの話によれば、そのアザーバイドは小さな女の子の姿をしているのだという。 この世界に偶然迷い込んでしまったアザーバイドの少女は身寄りをなくした一人のおじいさんと出逢い、一緒に暮らすようになった。 「おじいさんは、何処から来たのかも、名前もわからない少女をけれど受け入れて」 少女も、おじいさんの事を慕い、まるで本当の家族のように懐いていた。 「すごく素敵な事だと私は思う」 例え生まれた世界が違っても、人は解り合う事が出来る。 お互いを、大切にしあう事が出来る、それは本当に素敵で、かけがえのないもの。 けれども、とイヴは言葉を続けた。 「小さな村だったからかも知れない。何処から来たかも分からない『よそ者』を嫌う人も少なくはなかったのでしょうね」 『よそ者』だった少女は一部の村人から嫌われて。 だけども、少女はそれも仕方ない事だと理解して暮らしていた。 だって、それは本当の事だと少女自身が知っていたから。 それに、例えよそ者だったとしても自分には心の支えになる優しくしてくれる大切な人がいたから。 「でも――」 あるとき、少女は村の人を助けようとただそれだけを想って、ちからを使ってしまった。 少女の気持ちはどうあれ、それは只の人間である彼らからすればバケモノ以外の何物でもなかった。 そうして、少女の静かで、穏やかで、けれど幸せな日常は崩れ去ってしまう。 「一気に不信が爆発したんでしょうね。少女と、少女と暮らすおじいさんのところに押し寄せた村人達は少女を庇おうとするおじいさんを、ころしてしまった」 バケモノを庇うヤツもバケモノだと。 村で唯一の駐在所に務める警官が思わず撃ってしまった銃弾は、たやすくおじいさんの命を奪ってしまった。 あまりにも、愚かで、許せない――けれども仕方のないかも知れない事。 だって、人間は自分と違う存在は怖いものだから。 イヴの話にその場にいたリベリスタ達の表情が曇る。 「そして大切な人を殺されてしまった少女は、本当のバケモノになってしまった」 悲しかったはずだ。 許せなかったはずだ。 きっと少女は、村人に自分が何をされたところでなんとも思わなかっただろう。 けれど、けれど。 「……少女は、氷の化身とも言うべきアザーバイド。雪女のようなものね」 一度目を閉じ、心を切り替えたようにイヴが倒すべきアザーバイドの説明をリベリスタ達に始める。 戦場となる村は既に少女の力によって、一面凍りついてしまっているのだという。 身体を襲う冷気は例えリベリスタであっても、決して無視出来るものではない。 更に、少女は自身の力で創りだした配下とも言うべき氷の騎士を従えている。 「この子を止める事が出来るのは、あなた達しかいない。だから――」 お願い、とイヴは最後にそう言ってリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月24日(日)23:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 決してやむことのない吹雪荒れ狂う一面が銀色の世界。 そこが、ほんのすこし前までは小さくも人々が暮らしていた村だと一体誰が気付けるというのだろうか……。 「――っしゅん!」 まるで、真冬の雪山に迷い込んでしまったかのような凄まじい吹雪と寒さの中。 少し可愛らしい声でくしゃみをしたのは『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)。 「ホントに春なんですか? 寒くてしかたないじゃないですか」 翼の加護。 偽りの翼によって、限定的ではあるがフライエンジェ達のような飛行能力を得ながら冗談めかした口調で言う。 無論、今回の依頼がそういう場所だという事は聞いていたし、厚着だってしているのだが――にしても寒すぎである。 季節はもう三月。 ともすればもう直、満開の桜が咲き誇りお花見で盛り上がる季節だというのに……。 どうして自分はこんな場所に居るのだろうか、と少しだけ溜息をついてみる。 「ホント。風邪ひかないように気をつけなくちゃ」 海依音の隣で同じように、他の仲間とともに彼女から得た翼で低空飛行を続けながら『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)が応える。 「カチコチに凍りついて、時が止まってしまうかも――なんて、ワタシ言い過ぎでしょうか?」 「どうかしら、でも……仮にそうだとしてあの子が全ての時を止めてしまったのなら、誰かがその凍りついた時間を動かさなきゃ」 そう、世界に満ち溢れる悲劇に彩られたあの子、アザーバイドの少女の止まってしまった時間を溶かすのは――他でもない自分達なのだからと焔は思う。 「そうだね。ボク等はただ任務を遂行する――いま考えなきゃいけない事はそれだけだから」 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の言葉は何処か、自身の感情を圧し殺しているよう。 今は、今だけは言葉はすこしでいい。 だって、もしもこの喉の直ぐ傍まで来ている想いを吐き出してしまったら。 或いは、自分自身の意思を揺らがせてしまうかもしれないから――。 「あんまりではないか。少女は何も悪い事をしておらんかった。それなのに――」 なぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのかと歯噛みするのは『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)。 良子には、荒れ狂う吹雪が、肌に伝わる雪の冷たさが少女の怒りではなく、悲しみに思えた。 違う世界からやってきた。 それは確かに、人と異質なものを隔てる絶対的な壁なのかもしれない。 「結局の所、自分達とは違うもの、異分子を排斥するのも平穏無事で暮らす為なのよね」 リベリスタもまた、そうなのだと『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が良子の言葉に応えるように呟いた。 もっとも、排斥するにしても手段を選ぶ必要は当然ある。 「『手段は選びましょう』というのは……もう遅いわね」 誰もが抱えるその願いは、決して最悪の形で成ってしまってはならなかった……のだが。 村人達は、その手段を違えてしまったがために、こんな事になってしまったのだろう。 「……違う。我は見知らぬ誰かを笑顔にする為にリベリスタと、魔女となったのだ」 彩歌に言葉を返す、というよりは自分自身に言い聞かせるように良子が言う。 解っているとも。 だが、解っていたとしても自分もまたそれに従うかどうかは別なのだ。 だからこそ、良子は。 「待っているが良いぞ、少女とやら……我が貴様を笑顔にしてやる」 不幸な少女の物語はこれにて閉幕。 これより始まるは主演アーク、監修は黄昏の魔女の喜劇。 その幕開けは――近い。 ● さむい。 さむい。 おかしいな、だって、この吹雪は、氷の世界は。 どうして――こんなに心が凍えるのだろう。 打ち上げられた照明弾が、凍れる世界を照らす。 明るくなった世界の中心に、その少女はいた。 雪が染み込んだ様な淡い水色の長髪に、病的なほどに真っ白な肌の幼子。 その容姿はたとえるならば日本の昔話、伝承・フォークロアに多く残される雪女の様だ。 ともすれば、運悪く両親とはぐれ吹雪の中に迷い込んでしまった幼子のようにも思えるそれはしかし、強大な力を秘めたアザーバイド。 そんな少女の周囲に存在するのは、渦巻く吹雪と――少女に付き従う時代遅れの西洋甲冑を模した様な、氷細工の騎士。 少女には解る。 騎士達は、暴走し止まる事のないこの力が生み出した力の一つの顕れだ。 彼等はまるで、少女に仇なすものを屠るために、或いは少女を守護するために騎士たちは透き通った水晶の様な美しい剣や槍を手にしている。 少女が一度、号令を発せば――否、そうせずとも。 彼等は少女に迫るもの全てをただひとつの例外もなく殲滅するだろう。 「貴方ですね。この吹雪の原因は」 不意に。 自分に対して、向けられたであろう声に少女と、騎士たちが顔を向ける。 視線の先には、寒さに耐える為に防寒具を着込んだ少年――『親不知』秋月・仁身(BNE004092)。 身を切り裂く様な冷気は、本来であればリベリスタとて防寒具を着込んだところでどうにか出来るものではなかったが。 絶対者たる資質を持つ仁身にとっては、それもさほど気になるレベルのものではない。 仁身は一度、周囲の惨状を改めて見回した後、静かに少女の方へ向き直る。 「……貴方の立場も気持ちも、わからなくはないです」 「……」 少女は、何も応えない。 或いは、応えない事が少女の言葉なのかもしれない。 「例え、貴方がどういう気持ちで今此処に居たとしても、僕達のするべき事は何一つ変わる事はありません」 リベリスタ達がフェイトと呼ぶ、運命は――彼女を愛さなかった。 加護なきよそ者に生きる場所はなく、故にもう詰んでいるのだと仁身は告げる。 「そう。もう、話し合いなんてする気ないし。それとも――」 悲劇のヒロインになれば誰かが救ってくれるとでも思った? なんて、少女に『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)が言葉を投げかける。 その言葉に、僅かに少女の冷たい瞳が反応した、ような気がした。 「甘い。少なくともボクは優しい事言う気もないし、優しくするつもりもない」 そのまま怒り狂って消えた方がいいよ、自分の罪に気付いて懺悔しながらね……と、辛辣な言葉を沙羅が言う。 「さ、処刑人自ら断頭しに来てやったんだから覚悟しろ」 処刑人、その言葉の示す通りに自身が愛用する直死の大鎌を沙羅が少女に向けるや否や、少女を庇う様に五体の騎士たちが前へ出る。 どうやら、沙羅……いや、沙羅だけではない。 この場に現れた招かれざる客人たるアークのリベリスタ達全員を、少女の敵と認識したのだろう。 そしてそれはどうやら少女自身も同じらしい。 彼女の目には、大切なものを奪われ犯した事態を『甘い』と断じた者達への敵意がわずかならず存在している。 その敵意は下手をすれば、もうどうしようもならない今に対する単なる、八つ当たりのようなものなのかもしれないが。 「――――ッ!!!!」 吹雪渦巻く戦場に、狼の遠吠えが響き渡る。 否、狼ではない。 少なくとも、ただの狼はこんな場所では数秒と経たず、凍え息絶えてしまうのだから。 「ルー、オマエタチ、タタカウ!」 銀景色の中で喜色を隠そうともせず、露わにするのはルー・ガルー(BNE003931)だ。 彼女の瞳に映るものはただ一つ、自身がこれから戦う獲物たちの姿だけ。 その姿はまるで、狩りを行う事だけに集中する野生の獣そのもののようだ。 元より、彼女自身余り何かを考えて戦う事はどちらかといえば不得手だと理解しているし、なによりも力任せにぶつかる事自体大好きなのだから。 だから、難しいことを考える事はないのだ。 目の前にいる敵を、頼りになる仲間と共に打ち倒す。 「イクゾ、タタカイダ!」 ルーが、歓喜の色を浮かべた声と共に、吠える。 開戦を告げるラッパのように、気高くもう一度、遠吠えが鳴り響いた。 ● 「例え火の中水の中、吹雪の中でだって!」 やる事はいつもと同じ、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす! 全てが凍りつくというのなら、私の炎で溶かしてあげると焔が飛び出す。 めらめら、めらめらと。 その両の拳に装備された魔力鉄甲――乙女の拳が、身体に纏わりつく冷気など物ともせず、焔の瞳や髪と同じ燃える炎の赤色を宿す。 「あなた達は差し詰め雪のお姫様を守る騎士ってとこかしら」 素早く氷の騎士達の間合いに滑り込んだ焔は勢いを殺すことなく、そのまま薙ぎ払う様に拳を振るう。 その姿、翼の加護によって得た翼も相まりまるで不死鳥のよう。 延焼する不死鳥の炎に騎士たちが次々と、その身を焼かれていく。 「さて、狙いはバッチリ――と行きたいところよね」 続いて、後方から彩歌が動く。 先ずは、騎士の数を最低限に抑える。 「オルガノン!」 彩歌の声に、統合型戦術補助デバイス――論理演算機甲χ式「オルガノン Ver2.0」が稼働し始める。 機械化された眼球及び、神経系へのリンクを強化。 演算補助開始。 制御用SYSTEMを「Mode-A」へ――。 「私の射線に入るのは迂闊ね」 オルガノン Ver2.0を始めとした全身から一斉に伸びた気糸が身を焼く炎を振り払わんとしていた騎士達の最も脆い部分を執拗に狙い撃ってゆく。 その狙いに、寸分の狂いも存在しない。 「ッ――――こないでッ!」 次の獲物は、と再び狙いを彩歌が定めようとした時だった。 小さく、儚い、けれど水晶の様に透き通った声が戦場に響く。 聞き惚れてしまいそうな、その美しい声色にリベリスタ達が一瞬気を取られそうになった刹那。 白。 否、純白。 視界を埋め尽くすほどの純白が世界一杯に少女を中心として巻き起こった。 白いペンキを目の中にぶちまけられてしまったんじゃないかと思えるほどのその純白の世界は、少女の生み出した雪と氷のマリアージュ。 今迄とは比べ物にならないほどの質量と冷気に思わず圧倒されそうになる。 「ぅ……」 少女の攻撃は止んだ。 無論、それだけで倒れるリベリスタ達ではなかったが……全員が全員無事とは言い難い。 もとより、戦場を襲う冷気をすら、ものともしない者達はともかく――アンジェリカを始めとした数名にとっては身を氷結させるほどの少女の一撃は、確実に応えるものがあった。 (動かなきゃ……今、動かなきゃいけないのに!) 氷結し、思うように動かない身体にアンジェリカが歯噛みする。 身体の痛みなんて、どうでも良いのだ。 ただ、動けない事が悔しかった。 「このッ! ええい、我の喜劇の邪魔をするでないッ!」 アンジェリカ同様に、身を氷結され思うように身体が動かせなくなった良子もまた、悔しそうに吠える。 彼女もまた、こんなところで黙って凍らされてるだけで終わるつもりはないのだ。 「大丈夫です。あなたたちの分まで、戦いますから」 「お願いします」 「すまぬ……。この氷がとければ直ぐに我らも続く!」 少女の攻撃に圧倒されつつも、氷をものともしない仁身がアンジェリカや良子をフォローするように呟いた。 仁身の言う通り。 少なくともいまは動けない仲間たちの分は、動ける者が補わなければならない。 「最初からこうしておけば良かったんじゃないですか?」 投擲に適した小槍、ジャベリンを手に取りながら仁身は言う。 騎士達を創り出すような力があるのならば。 人形遊びで我慢していれば誰も――貴女も傷つくことなんてなかったでしょうに、と。 狙いを定めたジャベリンは、手近な騎士の兜の部分、頭部と思しき場所へと放たれる。 ジャベリンが騎士の頭部を貫くと同時、ガクリと力なく膝をついた騎士は煌めく氷の粒となって周囲を吹き荒れる吹雪のなかへと還って行く。 「これで、一体ですね」 神秘の力によって手元に戻ってきたジャベリンを手早く仁身はキャッチする。 「ルー、オマエ、カチコチスル!」 遠吠えと共に、野生の獣を彷彿とさせる俊敏な動きでルーが騎士の一体の間合いに瞬く間に潜り込んだ。 更に、そのまま一閃。 彼女の指先に嵌められた小型のクロ―、アイスネイルが騎士を形取る氷とは異質な、魔氷を纏い騎士の身体を引き裂いた。 よくよく見れば、アイスネイルの爪自身も特殊なアーティファクト化された氷に覆われている。 その身を襲う氷狼の容赦無い猛襲に、騎士が崩れ落ち雪に消える。 残る騎士は三体。 仲間の騎士をやられ残された騎士たちが、剣や斧、槍を模した氷の武器を手にリベリスタ達へと襲い掛かる。 「ほらほら、ボクはこっちだって」 「はいはい、ワタシここにいますよ❤」 「ガウ! オマエ、オソイッ!」 次々と放たれる騎士達の攻撃を、互いに声を掛けあいながら沙羅、海依音やルーが躱す。 単純な軌道の近接攻撃ならば、彼等リベリスタにとってはさほど脅威にはなりはしないのだ。 ● 少女を守る騎士達は一体、二体と倒れ確実にその数を減らしていた。 「沙羅さん、攻撃を少女のほうへ切り替えていきましょう」 自身は、アンジェリカや良子同様に氷結してしまっているため思うように動けない海依音が沙羅に言葉を贈る。 フォーチュナの話によれば、騎士達は少女を倒せば消滅する。 無理に、全ての騎士に手を割き続けるよりはそろそろ少女狙いに切り替えたほうが色々と都合が良いだろう。 「ボクも今そう思っていたところ」 海依音に笑顔で応えると、沙羅が少女へ向き直った。 「君さ、おじーさんが殺されるのが悲しくて村人を皆殺ししたんだよね」 少女は、応えない。 「可哀そうに。どんなに苦しかろうが辛かろうが村人と同じ殺しをしてしまったのは間違いだったね」 どんな過程があろうと、人殺しをしたらそれまでだと沙羅は言う。 「さ、今日が君の命日だ死んだら良い事あるよ? おじーさんに会えるかもしれない。ほら、死んだほうが良い、死ねよ、死になよ、ボクが――」 きれいに殺してあげるからね。それでハッピーエンドだ、と。 直視の大鎌が、無常とも思える言葉と共に少女へ向かって振りかぶられる。 振りかぶられ、少女を斬りつけた大鎌が少女の身体に流れる冷たい血を吸い上げ、赤く染まる。 血を吸われる感じた事のない痛みに、少女が声にならない叫びを上げる。 「この、人殺しの冷血女……おじーさんが最期になにしたか思い出せよ」 先ほどまでのお調子者な雰囲気とは一線を画す怒りを含んだ口調で沙羅がふと呟いた。 おじーさんが最期にした事。 その言葉に、少女の記憶の中の大切な人の最期の行動が蘇る。 ああ。 ああ。 わかってしまった。気付いてしまった。 どうしてこの人がこんなに怒っているのか。 どうして私が、こんな事になってしまったのか。 「御免なさいね。私たちが弱いばかりに」 もしかしたら、それは本当にもしかしたらの話だったけれど。 手を取り合う事が出来たかもしれない未来。 でも、この場所にいた人達も含めて自分たちはいつも臆病だから。 今もこうして私たちの都合を貴女に押し付けようとしていると、両の拳に宿した炎を少女にぶつけながら言うのは焔の最大限の我儘だ。 その言葉にううん、と少女は首を横に振った。 「でも、選んだ手段を後悔なんてしません。だから」 せめて、楽に終わらせようと彩歌がハイパーピンポイントで残った騎士ごと少女を刺し貫いていく。 (ボクは、ボクらは卑怯だ) ボクにとっての全て。その人を傷つけられたら、命を奪われたら、ボクもきっと同じ事をするとアンジェリカは思う。 彼女と自分は何処か似ている。 そんな彼女を否定し、戦う自分は卑怯者だと感じながらも、アンジェリカは少女を傷つける。 言葉は喉元にとどめられても、瞳の色までは誤魔化せないのだろうか。 そんなアンジェリカに。 いいの、という少女の声が風に乗って僅かに届いた。 「この世界に来なければ爺さんと会う事もなく、悲痛な別れも見ずにすんだはずだ」 良子の言うそれは、真実だろう。 「ただ我はこうも思うのだ。爺さんは自分の命をかけてまで守りたいと思う者が出来て幸せだったのだろうと」 「もう戦わなくたっていいんですよ、もう終わりにしましょう」 ふわり、と少女の前に降りた海依音が抱きしめた少女の身体は冷たい雪の感触がした。 力をほんの少しでも入れれば、粉雪になって消えてしまいそうな儚さ。 少し震えた気がしたのは、怖かったから? それとも、寂しかったから? 「大丈夫ですよ」 こんな少女を寄ってたかって怯えさせるなんて、この村の人達はほんと時代遅れの異端審問だったのかと海依音は思う。 優しい、ぬくもりを秘めた海依音の言葉に頷いた少女の身体を、小さな、本当に小さな光が貫いた。 崩れ落ちそうになる少女の身体を海依音が抱き支える。 「エイメン、かくあれかし」 亡くなった村人やおじいさん、少女に向けた鎮魂歌をアンジェリカが歌うなか。 光に導かれるように、きらきらと少女の身体が淡雪の様に還って行く。 (運命は彼女を愛さなかった、それなのにカミサマを信じて裏切られたワタシが運命に愛されるなんて) とんだ皮肉ですね、と誰にも聞こえないような顔で海依音は呟いた。 「せめてアッチでお爺さんと仲良くね?」 消えていった少女が、せめて幸せで居られるように。そんな願いとともに、焔が言った。 吹雪のやんだ氷の世界。 全てが凍結していたその悲劇は。 今はただ、静かなやすらぎの時に――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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