●焦燥 私は悲しい残り物。 嗚呼、今日も皆通り過ぎていく。 あの子もその子も皆持っていかれれるのに。 どうして私はまだここにいるの? 私を見て、私を求めて。 朽ちて消えるなんて我慢できないから……。 ●アレな事を回転寿司の萎びたシメ鯖なんていうらしいです 「せんきょーよほー、するよ!」 元気いっぱいにキメ台詞を口にした『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)と、寡黙にそれを見守る兄、『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)の二人がリベリスタ達を出迎えた。 「きょうはね、みんなでチョコレートをたべてほしいの」 テーブルには三高平で有名な洋菓子店のチョコレートが沢山並んでいる。 しかしながら、何故か種類は少ない。 訝しげな表情を浮かべ始めたリベリスタ達を見やり、今度は紳護が口を開く。 「分かると思うが、そこのチョコレートは全て革醒している。一般人の口に入らないよう、君達で食べ尽くして欲しい」 それなら簡単そうだと笑みが浮かぶ彼等に、紳護は小さく溜息を零す。 「あまり笑えないかもしれないぞ? 何せ場合によっては食べればたちどころに重傷になる可能性もある」 なんですかそれ。 異口同音に返事するリベリスタ達。 「このチョコレートさんたちは、ちょっと怒ってるの。何で食べてくれないの~?って」 食べろというなら食べますが、重傷は止めてください。 のほほんとしたノエルの説明が謎を深めそうなので、紳護が直ぐに口を挟む。 「このチョコレートはバレンタインデーに向けて作られたそうだが、今年は運悪く売れ残ってしまったという事らしい。売れ残りという劣等感からかチョコレートは覚醒し、成功したものを異常に妬み、傷つける力を得た様だ」 売れ残り、この一言がチョコレート達の心を指し示す。 それは歳を重ねても嫁にいけない女性の悲鳴か、はたまた魔法使いとなって孤独を貫く男の嘆きか。 チョコレートから黒いオーラが見えそうになってくるリベリスタ達は息を呑み、冷や汗が頬を伝う。 「自分達と同類には無害だ、しかしまだ未来のある奴に対しては絶望的なイメージを脳に流し込んで精神的に苦しめようとする。既に何かを得た者には胃の中でチョコレートが暴れ、内側から傷つけてくる」 最早爆弾処理に近い。 しかも体を張って処理とは、一般人には真似出来ない。 何股もしているような奴が食べれば……悲惨な結果が待ち受けているだろう。 「ゆっくりでいいから食べ尽くしてくれ」 渋々と頷くリベリスタ達、対照的にノエルはぴょんと跳ねて紳護に飛びつく。 「ノエルも食べていい?」 「……大丈夫そうだし、問題ないだろう。でも何かあったら直ぐ止めてくれ?」 間延びした返事と共に頷くノエル、リベリスタ達の方から心配そうな視線を感じた紳護は苦笑いを浮かべる。 「売れる売れないもまだ分からない年頃、らしいな。実は先にノエルが勝手に食べてしまったんだが……見ての通りなんとも無い」 恐らくあまりにも無邪気すぎると害悪が発生しないのだろう。 それ以外の年頃からすれば、ロシアンルーレットな御茶会。 さぁ地獄(恐らく)の幕開けだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月01日(月)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●宣戦布告 「大量のチョコレートですわ!」 『粉砕者』有栖川 氷花(BNE004287)嬉々としてチョコレートの山を見渡す。 カロリー云々はリベリスタなら消費も多いだろうし、問題ないだろう。 「どうも、リア充です」 『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)のチョコレート達にはなった一言に一同が驚く。 ターゲットは成功した者を妬み恨み、傷つけると紳護から説明があったばかりだ。 (「愛。それが何なのか、子供のボクにはまだわかりません。」) 大人の女性と愛を育み、幸せな毎日を過ごす彼でも愛は分からない。 唯一の手掛かりは今は亡き祖父の言葉、『妬まれてこその、愛』をその身で感じる事だ。 「どうも、リ、ア、充、です」 大切な事なので二度連ねた。 既にチョコレートからは真っ黒な瘴気が浮かび上がりそうである。 しかし、味方に影響を与えていたのは予想外だろう。 机につっぷし、じたじたともがくのは『中二病になりたがる』ヴィオレット トリシェ(BNE004353)。 この世界に来て、ライトノベルにたっぷりと染め上げられた彼女にとって甘美な愛の世界は憧れ。 恋人のいる光介が高貴な存在の様に遠く感じる。 「ふふっ、これもフュリエに生を受けし者の漆黒の業……」 可愛いらしいのにこれでは残念だ。 (「リア充滅ぶべし、慈悲はない」) 八潮・蓮司(BNE004302)は心の中、反射的に恐ろしい念仏を唱える。 ノエルを気に掛け、悪い影響を与えそうな言葉を避けるつもりだったが、光介のリア充発言に反応せずにはいられなかった。 逆に『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)は反応はしても精神的にダメージを受けた様子は無い。 (「この歳までこじらせると、もう開き直っちゃうモンです♪」) ある意味で光介とは反対の極地に至っている。 そして同じ様なところに辿り着いた者がここにも一人。 (「リア充かどうかと言われればノーです。ですが、聖ユルシマス教団として恋愛は認められ、赦されるものです」) ここまでは問題ない。 (「しかしそれは聖域での話までです」) この教団、ルールがおかしい。 聖域内では恋愛を祝福するが、聖域外では撲滅する。 寧ろ1:9で撲滅率の方が多い。 (「そんな私はこのチョコと同志であり、寧ろ一体化しても良いと思うわけです。つまりチョコを身体に塗り付けて『私がプレゼント』であり、あざとさ満載のチョコボディペイント&リボンを実行することもやぶさかでは……」) プレゼントの対象は誰だ、寧ろ聖域外でそれをやれば己が罰せられるのを忘れていないだろうか。 (「……ああ、バレンタインもホワイトデーも過ぎて「売れ残り」とは正にこの事ですね! 痛い! HPより精神が痛い! 誰か! 誰か貰って下さいよ!」) 心の中ではじったんばったんともがいているに違いない。 今にも頭を抱えだしそうだ。 「ふふ……この心の痛み、忘れませんよ」 「大丈夫か?」 俯いたまま物思いに耽り、更に独り言も重ねたレイを見かねて、紳護が確かめるように声を掛ける。 「大丈夫です」 こんなに暴走しきった考えが知られれば、より一層マイナスが増えるばかりだ。 頭の変わりに、ぴょんと伸びた髪の毛の一部が頷くように揺れていた。 ●自滅という名の特攻 「こんな仕事もあるのね」 光介の暴露から始まった仲間達の取り乱し具合を見つつ、『黒渦』サタナチア・ベテルエル(BNE004325)は早速チョコを一つ口へ運ぶ。 「戦うことが主体ではあるが、革醒に対する処理といっても多岐に渡る。役不足な仕事ですまない」 苦笑いを浮かべながら謝る紳護に、サタナチアは微笑む。 「いいのよ、貧乏には嬉し……」 知られたくない事を口走りかけ、ぐっと口を噤む 怪訝そうに言葉の先を問う紳護の視線に、表情は苦笑いへ変わる。 「き、聞かなかったことにしなさい!」 「分かった」 即答で了承する紳護はティーポットにお湯を注ぎ、陶器の冷たさを払う。 追求しなかったのは父の教えだとか。 「リア充云々はボトムに来てあまりたっていない私を含め、姉妹はあまり影響はなさそう、だな」 『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)もチョコを口にし、ダメージが無いのを確かめる。 サタナチアもそうだが、まだ恋愛というものに深く触れていないフュリエの二人は捻じ曲がった殺意の対象外という事だろう。 同じフュリエでも露骨に反応していたヴィオレットはどうなるかは分からないが――。 高級板チョコは王道のミルクチョコの味、そして、濃厚ながら喉に残る様なしつこくない甘みではあるものの、厚く大きめという質量が胃をより圧迫する。 二人はその味より、量による飽きを心配したことだろう。 ティエは口直しのチーズを齧り、甘みを中和しつつ二枚目へと取り掛かっていく。 「ぐはっ!」 早速ビターチョコから口にした光介の胃に激痛が走る。 散々煽り立てたのだから、当たり前だ。 「くっ、でも、素敵!」 止まぬ連続ダメージに総身を震わせるが、この痛みが愛を教えてくれる筈と妄信的に信じながらチョコを放り込み続ける。 「さぁ、チョコさん達! かわいい彼女持ちのボクですよ!」 そしてもう一つ口に放り込んだ瞬間、血を吐き出した。 最早威力は最大級といっても過言ではない。 イメージとしては逃げれない様、壁際に押し付けられたまま土砕掌を腹に連続で叩き込まれるのを想像するといいだろう。 「……料理好きとしては、残り物も等しくおいしいと、思いますよ」 痛みの果てに何を見たのか、光介は床に倒れこむ。 「ホリメ系のヒトきてーはやくきてー!」 どっしりと構えて落ち着いているように見えたティエは慌てふためく。 だが残念ながら倒れたのはホーリーメイガスだ。 「光介お兄ちゃん大丈夫なの?」 「所謂、お約束という奴だ。それに息もあるし問題ない」 紳護はノエルを宥めると光介の傍へ向かい、椅子を並べたベッドの上に横たわらせる。 それを羨む様に眺めながら、氷花はトロピカルチョコを齧る。 人によっては雑多過ぎるというかもしれないが、風味も良い甘みのシンフォニーはとても美味しい。 だが、美味しいだけで終わることが悲しい。 思い起こせば恋愛面は良い思いでが少なく、直情的な性格が災いして思わず暴力で訴えてしまう。 そこを窘められた事もある。嫌な想い出が頭の中をぐるぐると回り、下がった視線へ暖かな紅茶が差し出された。 「有難うございますわ」 早速紅茶を一口飲めば、風味がチョコの甘みをリセットしていく。 チョコレートの山は未だ健在だ。 ●死亡フラグ 「妬むな! 憎むな! 許しましょう!」 鹿毛はチョコレート達へ声を大にして叫ぶ。 何事かとリベリスタ達の視線が集まるも、彼は続ける。 「成功者の足を引っ張るより、同じ境遇の者同士で舐め合いましょうよ! 我が身の不幸を嘆く時間があるなら走りましょうよ!」 完全に開き直った答えは、正に自分を売れ残りと認めた証拠だろう。 チョコレートから感じる黒いオーラも少しだけ落ち着いたように見えるのは、彼に同調したからかもしれない。 「ペダルを漕げよ! 諦めてもいいけど腐るなよ! それは誰の足なんですか」 そしてビシッとチョコレート達に指差す。 「テメェの足でしょう?」 例え敗者でも、倒れたままではいない。 不屈の心を語る鹿毛は同類ではあるものの心構えが違った。 そんな彼が板チョコを貪っても、まったくといって問題は起きない。 甘みが麻痺しかければ、持参した塩昆布でリセットし、この関門も挫けず突き進む。 「ちょっと趣向変えて食べてみないっすかね? 例えば溶かしてチョコフォンデュとか」 そろそろ飽きが来そうな頃合で、蓮司が皆に提案を一つ。 幸い道具類はなんとなく持ち合わせていた者もいたので、丁度いい案だ。 「ではきちんと食べますので、失礼」 早速レイが板チョコを束ねると素手で粉砕。 そこから湯銭で融かし、鍋で生クリームと牛乳を温め、溶けたチョコレートを入れれば完成。 ティエの果物で掬う様に食べればまた違った味わいが待っていた。 「ノエルもどうだ?」 なかなかの出来を確かめた後、ティエは果物を串に刺したものを差し出す。 「食べるー!」 嬉しそうに受け取ると、チョコレートを絡める様に串を動かして楽しむノエル。 味の方も満足な様で頬を緩ませていく。 「いやー、やっぱ可愛い子の手で一手間かけてると何か違うっすねー」 女性陣を褒め称えながら、蓮司はチョコレートフォンデュを楽しむ。 だが、彼にとってこれは作戦の第一歩に過ぎない。 「あー、もしこれでハート形のチョコとか作ってもらえたら、俺超張り切っちゃうんすけどねー」 露骨な言葉、そしてちらりと女性たちへ向けられた視線。 明らかなおねだりではあるが、引くという事はなく、やはり驚きだろうか。 ハート形のチョコなんぞ作ろうものなら、リア充の雰囲気を感じ取ったチョコレートたちが己が破壊力を増し、受け取った輩を殺しにかかるだろう。 「わかりましたわ」 ならば張り切っていただこうと、氷花の返事と共に女性陣が頷いた。 既に板チョコは溶けているので後はこれを型に流し込むだけだ。 「よし私張り切っちゃうわよぉ」 本にお菓子作りセットと、気合の入った準備をしていたヴィオレットは目を輝かせ、トロピカルチョコを丁寧に湯煎に掛けて行く。 「美味しくなーれ、愛情込めて、美味しくなーれ」 氷花とサタナチア、そしてレイにも手伝ってもらいながら、適温に合わせながらゆっくりと溶かしていく。 ここで失敗するとザラっとした感触が残ってしまうので、丁寧にゴムベラでかき回すのがコツだ。 「チョコづくりって面白いですのね、楽しいですわ」 楽しげにおしゃべりをしながらチョコレート作りを進める女子達を蓮司は胸を高鳴らせながら見守る。 生クリームを混ぜ、後は型に流して完成。 出来上がったハート型のチョコは、やはり黒いオーラが立ち込めていた。 「愛情込めて作ったわ、味見してくださる?」 自信満々にヴィオレットがハート型のチョコレートを蓮司へ差し出し。 「ぜ、全部食べてくださいませね?」 氷花が恥らい混じりに同じく蓮司へチョコレートを差し出す。 これにより破壊力は更にプラスされた。 (「俺の目の前にあるのは呪いのチョコ? いや、違うね。こいつは俺に幸せを運んでくれたチョコだ」) 彼等がいたからこそ、ハート型のチョコレート、それも手作り作りたてのものがここにある。 例え出来上がったものに何があろうとも、その夢を食べる代償としては軽いと覚悟を決めた。 (「こいつらの想いも全部受け止めて見せるっすよ!」) 息を呑み、そして明るく笑みを浮かべる。 「いただくっすよ!」 まずは一つ、口の中へと放り込む。 「っ!?」 胃の中で手榴弾でも炸裂したのかと思わせるダメージ、体が大きく震えるが彼の笑みは絶えない。 「おいしいっすね!」 更に一つ。 視野が白黒し、意識を容赦なく奪おうとしているのが分かった。 (「……し、幸せそうな顔で苦しんでる」) 悲しい男の性に、サタナチアの頬に冷や汗が伝う。 (「えっと、バレンタインの流儀に乗るなら」) ふと何かを思い出したヴィオレットがチョコレートを一つ摘み上げると、満面の笑みを浮かべながらそれを彼の口元へ運ぶ。 「はい、あーん……」 先生、死んでしまいます。 黒を通り越して、殺意という色が蓮司には感じれたかもしれない。 「あーん」 据え膳食わぬは男の恥。 何の躊躇も無く蓮司は口を開け、チョコレートを受け止めた。 「っっ!?」 イメージしていただくのに容易い様にいえば、彼は今、無防備な腹にテラークラッシュをクリティカルヒットさせられたと思っていただければよいかと思われる。 口直しとゆっくりと紅茶を飲み、僅かの回復を挟めば再び受け止めた。 「蓮司お兄ちゃん大丈夫? 顔色悪いの」 かすかに震える様子にノエルが気付き、心配そうに覗き込む。 「幸せなのよほら、笑顔でしょ?」 ヴィオレットが微笑み、蓮司に視線を向ける。 「そうっすよっ! ほら、美味くて感動で震えが止まらないんすよ」 背中に嫌な汗びっしょりなのは秘密だ。 「お姉ちゃん達の愛情いっぱいだもんね?」 簡単に信じてしまうノエルも、それならと納得してしまう。 (「あんたが今これを読んでいる時、俺は大変なことになっているだろう。だけど、どうかわかってほしい。男には危険だとわかっていてもやらなきゃいけない時があることを。ここで戦うことが出来て、逃げずに済んで……俺は幸せだったぜ」) 誰に宛てたのか分からない、辞世の句を心の中で読み上げながら最後の一つを食べ終える。 「サイコーに、うまかったっす、よ……ぐふっ」 満面の笑みと共に、鼻血をたらしながら机に突っ伏し、蓮司は倒れた。 「れ、蓮司お兄ちゃん!?」 慌てふためくノエルをみやり、氷花は大丈夫と肩を軽く叩く。 「心配されなくても大丈夫ですわよ、これは名誉の負傷と言いますの、誇らしい事でありますの!」 その言葉の意味が分からず、ノエルは紳護に視線を送る。 自身の隊員達の馬鹿さに慣れている紳護も『大丈夫だ』と一言告げ、更にサタナチアが頷く。 「いざという時は私が治療するから安心よ」 何となく納得したところで、ヴィオレットと氷花が蓮司を横たわらせ、毛布を掛ける。 ここまで可愛らしい少女二人に労わってもらえれば、彼も本望だろう。 ●無意識 蓮司と光介が休む間、ティエと鹿毛の奮闘もあってチョコレートの量は大分減ってきた。 これも大ダメージと引き換えに走り抜けた蓮司の覚悟も合わさっての事だろう。 「紳護は『りあじゅう』だからチョコを食べないのかしら、それとも甘いのが苦手?」 先程から紅茶を淹れては、ノエルの口元をお掃除してとチョコレートに手をつけない紳護へサタナチアが問う。 「確かに甘いのはそれほど好きではないんだが、仲間から食べるなと忠告されたんだ。恐らくノエルを娘か何かと勘違いされ、幸せ者と捉えて矛先を向ける可能性がある、そんな事だろうとは思うが」 ならば妹思いの自分も矛先を向けらる筈と、サタナチアは矛盾を感じる。 だが異性という相違点を考えれば対象外と考えられなくも無いと思い直した。 「よかったら抹茶クッキーをどうぞ。甘さ控えめよ」 一旦手を止めるものの、自身は補佐をすべき存在という堅苦しい考えが、染み付いた紳護は即答しかねてしまう。 「皆と一緒にお菓子を食べれたらノエルもきっと喜ぶわ」 「お兄ちゃんも食べるの~」 二人の笑顔に押される様に、ゆっくりと口角が上がり、小さく頷く。 「……ありがとう、頂くとする」 抹茶の風味とほのかな甘みは、気に入ったようで思わず『美味い』と評価が零れる。 (「妹、かぁ。兄弟姉妹を大事にしてる人に悪い感情は抱かないわ」) 微笑むノエルを優しく撫で、妹を労わる紳護は同じく妹を守る自分と親近感を感じるのだろう。 そんな二人を眺めるだけで、彼女の表情は花咲く様な笑みを浮かべさせる。 「紳護、あなた良い人ね」 屈託の無い気持ち、それだけだった筈なのに腹部に小さな痛みが走った。 「っ!?」 先程まで感じなかったダメージ、受けたか受けなかった分からないぐらいの強さではあるが確かにあった。 「どうかしたか?」 相変わらず朴念仁な紳護は、彼女の異変に気付かない。 「な、なんでもないわ! 大丈夫よ!」 反射的に微笑みを返し、頭を振る。 「そうか、だが無理はしないでくれ?」 紳護はすんなりと頷き返す。 彼女の心に映りこんだ感情は何か、それはいつか分かる事だろう。 「そうそう、さっきのお話には続きがあるんですよ」 残りも僅かとなったころ、鹿毛がぽつりと呟く。 「もし、同志の中に光り輝く明日を見つけた者が出たら。暖かく見守って、送りだしてやったらいいんです『戻って来たって二度と入れてやんねーからな!』と泣き笑いで見送って、でも!」 どん底から脱した同志は、既に同志ではない。 それでも友として見送る心意気を語る鹿毛は、敗者ながらの誇りを感じる。 「もしもそいつが夢破れて戻ってきたなら。何事も無かったかのようにまた迎えてやるんです」 例え結果は負けていたとしても、その心意気は一切の敗北が無い。 そして最後の板チョコの包装を毟る。 「そう、つまり……第二・第三のチョコが現れようと、僕らは負けないのです!」 最後は怒涛の勢いで一気に噛み砕き、食べ尽くす。 ご馳走様でしたと両手を合わせ、彼は同志の弔いを終えた。 きっとチョコレート達も今は幸せを噛み締めながらリベリスタの一部となって消えるのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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