● 今日は卒業式。 「ふう、疲れた……」 今井・絵里香は在校生代表、そして生徒会長として、卒業式の準備、運営に携わっていた。忙しない教師の補佐を彼女は行っていたのである。 卒業式が終わると、前生徒会の先輩方との挨拶。部活での先輩たちとの思い出話。絵里香にとって、今日1日は目まぐるしくも楽しいものだった。気づけば終わっていた。そんな感じだ。 「さて、帰ろっかな……。えっ……!?」 帰宅すべく、廊下を歩いていた彼女に見えたのは……たくさんの顔。ガス状のようになっているそれは、いくつもの顔を持っていた。それが、何か言葉を発している。 「苦シい……きつイ……辛い……妬マシい……」 それらは口々に負の感情を吹き出す。呻くような声を上げるそれは、絵里香の姿を捉えた。たくさんの瞳が彼女を凝視する。彼女はあまりに奇妙なその姿に恐怖した。 「きゃあああっ!」 たくさんの顔が集まる姿に不快なものを覚え、絵里香は叫び声を上げてしまう。人外のものによる恐れからか、逃げたくても両足が震えて動かない。 「おオオ、こノ苦しミヲ、辛サヲ、お前ニも……」 「いやあっ、来ないで!」 ガス状のそれを拒絶する絵里香。しかしながら、それは徐々に絵里香へと迫ってくる。そして――。 「いやああああああっ!!」 次の瞬間。校内に彼女の叫び声が響き渡ったのだった。 ● 「フェスターレ・アルウォンと申します。フェスタと呼んでいただけると嬉しいですわ」 リベリスタとしての活動を始めた『ラ・ル・カーナより流れる風』フェスターレ・アルウォン(nBNE000258)。リベリスタ達に初めて依頼内容の説明を行う彼女の表情は堅い。アークでの初仕事に緊張しているのだろう。 「それでは、依頼の説明を致しますわね……」 フェスターレの話によると。 とある県立中学校に、E・フォースが現れる。その中学校の生徒会長が、E・フォースによって殺されてしまうのだという。 「被害者は……今井・絵里香様……でよろしいのでしょうか」 諜報部が作成した見慣れない資料に少し苦労しながら、フェスターレはたどたどしい言葉でリベリスタ達へと伝える。 被害者は中学2年生の今井・絵里香。彼女は卒業式の日、遅くまで生徒会の仕事に追われていた。 「ほとんどの人が帰った学校で、絵里香様は卒業生が残した負の感情が集まったもの……E・フォースに襲われてしまうのですわ」 絵里香が襲われた後、E・フォースは学校に少数残っている教師、生徒をも殺してしまう。消えることなく周囲を漂うこのE・フォース。リベリスタの手で完全に倒す必要があるだろう。 E・フォースは、どうやら1体ではない。別に小さな思念体が2体存在している。それらは、大きな思念体の意志に従っているようである。ちなみに、絵里香を襲った大きい思念体がフェーズ2。小さな思念体がフェーズ1と確認されている。 「わたくしはここから皆様の身を案じておりますわ。くれぐれもお気をつけてくださいませ」 任務へ赴くリベリスタ達へ、フェスターレは丁寧に頭を下げるのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月26日(火)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●卒業式の後で…… 桜が咲く中、行われた卒業式。そして、門出の時とばかりに巣立っていく卒業生達。 春からは新天地へと旅立つ彼らではあるが、名残惜しくもあるのか、クラスメイト、後輩、先生達と思い出話に浸っている。 「学生諸君も色々とあるんだろうなぁ……」 『足らずの』晦 烏(BNE002858) は、保護者に紛れて自分の車を駐車場に停めていた。集音装置で周囲の人々の会話に耳を傾けつつ、煙草を吹かす。その車のそばでは、『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364) が何をするでもなく佇んでいる。特にやることもない彼はぼんやりと周囲の風景を眺めていた。 その頃、校内では――。 「この辺りかしらね」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609) は情報を頼りに、事件現場となる廊下を確認する。今日は卒業式当日。OGも多く出入りしている学校への侵入は容易だった。エリューション能力を使っていたこともあり、彩花を気に留める者もほぼいない。彼女はそのまま校内を歩き始めながら、アクセス・ファンタズムを開く。 「そちらはどうかしら?」 「今、校内へと入ったよ」 その話し相手は、結界を張る『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330) だ。彼女は耳当てつきニットキャップで耳隠している。そして、カジュアルな服で見事に男性用の服を着こなしていた。 「さて、絵里香を探すか」 彼女は、被害者となる今井・絵里香を探すべく、校内を歩いていく。 校内の別の場所では、制服を着て学校へと潜入するリベリスタ達の姿があった。 「学校!! 学校!!! これが学校か!!!」 中学校の制服に身を包む『悪芽の狩り手』メッシュ・フローネル(BNE004331) 。フュリエの彼女には、学校が新鮮なのだろう。卒業式なのにはしゃいでいる彼女は、まるで新入生のようだ。 それを見ていた『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652) 。彼女は黒髪のウイッグに、黒いカラーコンタクトをつけて変装をしていた。見た目が中学生に見えてしまうのは、17歳の彼女にとって複雑なところである。 「アタシ達は生徒達を帰宅させないとね」 「そうだな、あっちに早速生徒がいるぞ!」 陽菜がはしゃいでいるメッシュへと声をかけると、彼女は早速その生徒達へと駆け出していった。 「今日の夜は雨風すごいらしい。早く帰った方がいいぞ」 話しかけられた中学生達は、「天気予報そんなこと言っていたっけ?」と、顔を見合わせる。 そこで、『風紀委員』と書かれた腕章をした陽菜も続けた。 「あんまり長いこと話していないで、早く帰るんだよ」 この学校に風紀委員っていただろうか、いやいや、この人は中学生なのかと生徒達は首を傾げる。実は、『三高平大学中等部風紀委員』とあったのだが、意外にも生徒達は気づかない。しかしながら、彼らは遊びに行くことに決めたようで、そのまま下校していく。 (まだまだ下校する生徒が多いね) 『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360) は喫茶店の窓際の席に座りながら、そんな生徒達の下校風景を眺めていた。シロップを入れて甘くしたカフェオレを飲みながら、彼女は時間を潰すのである。 時間が経つのも忘れ、生徒達は懐かしい話に花を咲かせる。彼らは日が落ちるまで語り合っていた。 そんな生徒達に、リベリスタ達が声をかけていくと、さすがに、時間が過ぎていたことに気づいた生徒達は、学校を後にしていく。一行は連絡を取り合いつつ、生徒達へと帰宅を促していった。 「今井絵里香はまだ生徒会室とかかしらね……?」 制服を着た『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436) が、頃合を見計らって学校へと入っていく。彼女は体格的にも年齢的にも新入生といった感じである。闇紅はふらふらと校内の探索を行っていた。 そこで、彼女のアクセス・ファンタズムが鳴る。彩花からだ。 「今、一段落して生徒会室に戻るようよ。そっちで待っていて」 彼女はすでに絵里香を捕捉していたようだ。闇紅は言われた通り、生徒会室へと向かう。 そこには、校内ほとんどの生徒を帰宅させたリベリスタ達が揃っていた。 「今井絵里香はいる?」 「ええ、今、書類整理しているようだよ」 その付近が事件現場であることも確認していた一行。結界を使って周囲に人が立ち入らないようにしていたヘンリエッタは、待機組へと連絡を入れた。 外の駐車場では――。 コンコン 烏の車をノックするのは、ウェスティアだ。彼女は校門から人の流れがほぼ途絶えたことを確認した上で、仲間に連絡を取り、校内に人が残っていないことを確認していた。 「潜入組に連絡入れたわ。避難は終わったそうよ」 「――行くか」 ウェスティアの連絡を受け、烏が車から降りる。そして、煙草を吹かした後でその火を消した。 「ゆっくりと過ごすのも悪くは無いがね。やはり闘いが無くば駄目だな私は」 座り込んでいたシビリズはゆっくりと身を起こす。そして、彼は呟いた。 「さぁ――それでは闘争の時間だ」 ●襲い掛かる思念体達 校内には、事務員や数人の教員は残っていたようだったが、生徒達はほとんど帰っていたようだ。 絵里香もようやく生徒会室から鞄を持って帰ろうとする。廊下を足早に歩く彼女のそばに、それは現れた。 「苦シい……きつイ……辛い……妬マシい……」 いくつもの顔が蠢く思念体。絵里香はあまりの不気味さに悲鳴を上げた。 「きゃあああっ!」 彼女は恐れのあまり、へたり込んでしまう。その目の前の絵里香へ、思念体は迷わずのしかかってきた! その時、思念体へと絵里香の間へ、彩花が飛び込んでくる。 「全く……、全てを背負い込んでこんな時間まで頑張っているからですよ」 思念体は構わずに彩花にのしかかり、残留思念の一部を彼女へと植えつけた。 「大丈夫だぞ」 何が起こっているのか分かっていない絵里香の頭を、メッシュが優しく撫でる。その間に、闇紅は速度についていけるように全身の能力を高めていた。 「さっさとその邪魔な子連れてってちょうだいな……その程度の時間くらいは稼いであげるから……」 「ああ……この場を頼む」 絵里香は恐ろしさのあまりに気絶してしまったようだ。その絵里香の身体を、烏がお姫様だっこのように抱きかかえ、その場から絵里香を抱えて去っていった。 思念体はいつの間にか、小さなものが2体、最初からいた大きな思念体を守るように現れていた。 「フィアキィ、力を貸してくれ」 「シシィ、キミもだ」 メッシュの呼びかけに応えたフィアキィが、一瞬、その姿を現す。ほぼ同時にヘンリエッタも相棒のフィアキィを呼び出していた。フィアキィ達は空から降り注ぐ火炎弾として具現化する。それらは一挙に思念体へと降り注いだ! 「く、苦……、シい……」 火炎弾を浴びた思念体の呻き声が一際大きくなり、その身体が揺らぎ始める。エリューションとしての力が弱まってきているのだろう。 「最後に学校に残したものがこれなんて悲しいよ?」 ウェスティアは、苦しみの声を上げる思念体を見て思う。こんなものを残してしまったまま、卒業生達は学校を後にしてしまうのか……? ウェスティアは首を横に振る。 「最後に残っちゃった悪い思いはしっかりぶっ飛ばさないとね!」 彼女は自身の血液を鎖と化し、それを蠢く大小の思念体へ放つ。濁流のように幾本もの鎖が思念体達を飲み込んでいく。 「潰れよ、残留せし思念」 自身の強化を完了させたシビリズが思念体に迫る。そして、彼は全身の筋力を使い、双鉄扇を叩きつけた! 「おおォぉォオおぉぉォオ!」 その攻撃に思念体達はさらなる苦しみを受けて悶える。そして、近くにいた陽菜へと纏わりついてきた。思念体の残滓が彼女の身体へと入り込んでくる。 「うっ……」 しかし、陽菜はなんとかそれを振り払い、魔弾を射る。それは見事に小思念体を貫いた。 「おオォぉぉ……」 小思念体の存在が霞んでいく。やがて、それは視認できなくなり、廊下の空気と同化するようになくなってしまった。 「やったね!」 飛び跳ねた陽菜は、思わず取れそうになったウイッグを押さえてしまうのである。 ●立つ鳥跡を濁さず 思念体は、周囲の者へと攻撃を仕掛けてくる。絵里香を追う様子も、逃げ出すそぶりも見せない。 ただ、思念体はよほど苦しいのだろう。その苦しみを擦り付けてくるかのようにリベリスタ達へと与えてくるのだ。 「オおおぉォォオおぉォ」 大思念体が闇紅へとその身体をのしかけると、彼女はその一撃で顔色を悪くする。思念体の一部が身体へと入り込んだのだろう。 「ふん、この程度……。恨みだのなんだのつまんないことしか考えてない輩だしね……」 彼女は悪態づきながら、大思念体へと切りかかり始める。しかし、そいつはひらりと避けて見せた。闇紅はそれにも表情を変えず、さらに攻撃を仕掛けていくのである。 小思念体を相手にしていたシビリズもまた、負の怨念とでもいうべきガスを再度その身へと受ける。それは彼の身に呪いをも降りかからせた。しかし――。 「痛みが足りんな。あぁ駄目だ。この程度では闘争の空気を感じることなど出来ん」 小思念体へと呼びかける彼の後ろから、仲間達の攻撃が飛ぶ。陽菜が幾度目かの魔弾を発すれば、ヘンリエッタは援護を行うべく弓を射る。 リベリスタ達の攻撃を立て続けに受け、追い込まれた小思念体は負の感情を膨れ上がらせる。そして、目の前のシビリズにのしかかってきた。 「オオおぉぉォオオぉぉッ!」 「諸君らの“負”。更にぶつけるが良い。私は須らく受け止めよう。フ、ハハハハ。ハハハハハッ!」 その身に浴びてなお、シビリズは笑ってみせた。 「さぁ、さぁここからだ。ここからが真なる闘争だ。楽しませろ思念体――ッ!」 再度飛び交う仲間達の援護。その合間を縫って、シビリズは思念体へと迫る。彼は荒い息をしながら、その思念体へと双鉄扇を大きく振りかぶった。 「お前達は残るべきモノではないのだ。果てろ」 もやのようにうつろう思念体だが、彼の振り下ろした一撃は思念体の中心を捉えて真っ二つにしてしまう。 「オオ、ひかりガ……」 思念体は、少しだけ安らいだ表情をして夜闇の中へと姿を消していく。 1体を倒したシビリズだが、そのダメージは重い。仲間達が傷を負っているのを見たウェスティアは、詠唱を行う。それに応えた清らかなる存在の福音が、仲間達の傷を癒していく。 「さあ、後はあの思念体だけだよ」 ウェスティアが見据えた先には、今もなお苦しみながら彷徨う大思念体がいた。 「すまない、遅くなったようだな」 そこへ、烏が戻ってくる。烏は早速とばかりに手にする散弾銃を放つと、その銃弾は思念体の顔を撃ち抜く。 それを皮切りに、リベリスタ達は大思念体へと攻撃を集中させていく。彩花はその拳で大思念体を殴りつける。実体を持たないはずの思念体は地面へと叩き付けられた。 「く、くるシイ、きツい……オオぉぉおオ」 苦悶の声を上げ続ける大思念体。 「どうか、フォースよ、気を鎮めて欲しい。先立つものの誇りとして、せめて後輩の子を手にかけることは許さないぜ!」 メッシュが呼びかけながら、魔弓を手にして思念体を射抜く。しかし、悶え苦しむ声は途切れることがない。かなりのダメージを思念体に与えているはずだったが……。残されたその想いはあまりにも強いのだろうか。 「辛いこともあっただろうけど、楽しいこともいっぱいあったはずだよ」 ウェスティアは思念体へと呼びかけながら高位魔方陣を展開すると、膨大な魔力がそこへと集まっていく。 「だから、貴方達もちゃんと卒業しよう……?」 そして、彼女はそこから魔力の弾丸を撃ち出した。それは大思念体を丸ごと飲み込む。眩い光が止んだ後、魔力を受けた大思念体はその存在を消しかけていた。 「オォぉぉ……」 しかし、その存在はまだ消えておらず、負の思念を闇紅に飛ばす。確かに、その一撃は決して弱いものではなかった。彼女の残っていた体力を削り取る。 しかし、闇紅はすでに勝利を確信していた。 「なんか手ごたえ無いし、つまんない相手ね……」 彼女は弱った大思念体へと颯爽と迫る。そして……。 「さっさと潰してあげるわ……」 手にする小太刀を、目にも留まらぬ速さで振り続ける闇紅。彼女がその手を止めたとき。大思念体は細切れになって宙を漂っていた。 「おぉォ……苦しミから、カイ……ほう……」 そうして、細切れになった部分も掻き消えるように、大きな思念体は姿をなくしていった。 ●残される者へ、そして、去り行く者へ 思念体はその全てが霧散するようにいなくなる。リベリスタ一行は被害者を出すことなく、無事に思念体を倒すことが出来たのだ。 「つまらんな、こんなものか……?」 シビリズは物足りなさを覚えていたが、彼のダメージは深い。仲間達が彼の傷の手当てを行っていった。 さて、近場の廊下に寝かせたままの絵里香。彼女を保健室へ運ぶ案もあったが、保健室に鍵がかかっていた為に生徒会室へと運ぶことに決めた。一行はそっと生徒会室にある会長の机へと寝かせる。 「どれだけ完璧であっても人間一人にやれる事は限られているんですから、他人に頼る事も時には大切ですよ?」 眠っている絵里香へ、彩花が囁く。陽菜が先輩であるそんな彼女を見てにこにこと微笑むと、彩花はちょっとだけ照れくさそうにしながら部屋を後にしていった。 「エリカに声をかけたかったのだ」 折角友達が出来るかもと、メッシュが残念がる。しかしながら、不用意な接触は彼女を巻き込みかねない。神秘秘匿を考えると、仕方のないことと言えた。 「ん…………?」 絵里香は目覚めると、生徒会室の机に突っ伏していた。先ほど見たものは一体なんだったのかと考える。 「夢……? ハッ、いけない」 彼女は時計を見る。小一時間ほど眠っていたようだ。彼女は急いで鞄を手に、生徒会室を出ていく。 絵里香が無事に帰宅するのを確認したリベリスタ一行は学校を後にする。 「玉磨かざれば光無し。光無きを石瓦とす。人学ばざれば智なし。智無きを愚人とす」 学校を振り返り、烏がそう呟いた。その言葉に、闇紅が反応する。 「何、それ……?」 「卒業に辺り、おじさんからの送辞だな」 烏は煙草を吹かしながら笑って言った。そして、彼は再び校舎を省みる。 「鬱憤は溜めず発散しろな、少年少女諸君」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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