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ブライアローズの放課後

●夕暮れの放課後
 遠くに海が見える公園に、夕陽の影が射す。
 学校の帰り道。少し遠回りして、揺れるブランコの上で他愛もないことを二人で話す。
 お喋りするのは気になる人のことだとか、勉強の悩みだとか、面白かった本や物語の話だとか。
 夕陽が海に沈むくらいまで傾いて、カラスの鳴く声が聞こえて、もう帰らなきゃって立ち上がる。
「じゃあ、また明日」
 そう笑いあって、手を振って別れる。明日も明後日も、同じ毎日が来ることを疑いもせずに。
 それが私と美紗の毎日。
 
 でも、私は知っている。『また明日』なんて絶対に来ないこと。
 だけど――明日なんて、もう来なくて良い。

●眠り姫と茨
 アーティファクト、『夢茨』。
 それは使用者の身体に絡み付き、望んだままの世界を夢の中に作り出すという代物である。
 今、かのアーティファクトを使って夢の中に逃避している少女が居る。彼女を救って欲しい、というのが今回の依頼であり、解決すべき問題だ。
「呪いの眠りについたお姫様……なんて表すと、とてもおとぎ話めいているね」
 『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は語る。
 アーティファクトの使用者は、ロザリンド・キャロルという英国出身の高校生。少女は現在、病院に収容されており、昏睡状態に陥っている。本来ならば夢に満足するか、アーティファクトの力を拒否すれば抜け出せるものなのだが、彼女は敢えて自ら夢に閉じ籠っていた。
「ロザリンドは海外からの移住者だった。最初は日本に馴染めないでいた彼女だったけれど、いつしか学校で美紗という親友が出来たらしい。ロザリンドは美紗のことが本当に大好きだった。けれど……美紗は先日、交通事故で亡くなってしまったみたいでね」
 親友の死。
 それを受け入れられなかった彼女は故に夢に閉じ籠もり、繰り返す。何でもない一日を。友達が生きていた最後の放課後を、何度も、何度も――。
 
 夢は一時間に一回、一日で二十四回も巡る。
 一ヶ月も昏睡状態の少女はもう何百回も同じ日を過ごしていることになる。現在は点滴によって生が繋がれているが、ロザリンドの身体は日に日に衰弱している。
「つまり、このままだとその娘の命が危ないってことだよな」
 隣で話を聞いていた『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)が口を挟む。
「そういうこと。元は薔薇の首飾り型だったアーティファクトはもう彼女と一体化して取れなくなっている。けれど彼女が死ねば、また誰かの手に渡るかもしれない。そうすれば新たな犠牲者が出るだろうね」
 そうさせない為にも、リベリスタが彼女を救い出す必要があるとタスクは告げた。
 幸いにも持ち主が夢から脱すればアーティファクトも分離する。その為には先ず、ロザリンドの夢の世界に赴かねばならない。
「でも、夢の世界になんて入れるのか?」
「心配はないよ。アーティファクトには“夢を共有する”力もある。というよりも、元々は使用者が作った世界に別の人間を呼ぶ為のものだった、という方が正しいかな」
 だが、すべて思い通りに作られた世界は現実より心地良い。それゆえに其のアーティファクトは人を緩慢な死へと誘うのだ。

 そうして、タスクは少女の夢に侵入する方法を説明する。
「病院のベッドにいるロザリンドの傍でキーワードを囁けば、彼女の世界に入り込める」
 キーワードは、『また明日』。
 夢の世界でもリベリスタとしての能力は現実と同じように使用できる。しかし、夢の中に予期せぬ侵入者が現れたとなれば、ロザリンドは全力で此方を排除しようとするだろう。
 また、少女は覚醒しているらしくマグメイガスの力を行使する。しかし、アーティファクトの力もあって夢の世界での彼女は実力以上の力を手にしているようだ。おそらく戦闘になると配下に当たるモノも創造されるので注意が必要だ。
「夢の世界の公園に居る彼女と接触。それから戦いに勝って、夢の中のロザリンドの胸に下げられているペンダントを壊せば任務は完了。あとは夢が壊れて、君達も少女も無事に現実に帰還できる」
 やることは単純明快だと告げたタスクだったが、その表情は曇ったまま。
 何故なら、ただ戦いに勝つだけではロザリンドの心は救われないままだからだ。心地良い夢から引き剥がされ、親友との時間を奪われたと知ったら少女は嘆き、悲しむだろう。
「だけど夢は夢じゃん。確かに悲しいけどさっ……! 俺、このままじゃ駄目だと思う!」
 耕太郎は拳を握り、タスクも小さく頷く。
「……そうだね。ロザリンドに何か言葉を掛けてあげられれば、少しは変わるかもしれない」
 本当の意味で彼女を救い出せるかどうか。
 それはすべて、夢の茨の奥へと赴くリベリスタ達の力と言の葉に繋っている――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月24日(日)23:43
●概要&戦場
リプレイは夢の中に入ったところから始まります。
戦闘に勝利すれば成功。問答無用で少女を倒せば目的だけは果たせます。
しかし、それ以上のことを望むならば相応の言葉や思い、それに準じる行動が必要となります。(説得の難易度はそれなりに高めです)

戦場は夕陽の公園。
ブランコにロザリンドと美紗が乗っており、楽しそうにお喋りしています。
皆様が訪れると少女達は敵意を剥き出しにし、侵入者を排除しようとします。その際、少女二人を守るような形で人型の影が現れるようです。
夢の中でも皆様の能力は現実と同じように使用できます。弱体化されることもないので、いつも通りにして頂いて大丈夫です。

●敵詳細
ロザリンド・キャロル
 マグメイガスの能力を持った高校生。フェイトは得ています。
 美紗を庇い、強力な遠距離攻撃で皆様を排除しようと動きます。胸に薔薇のペンダント(アーティファクト)を下げていますが、服の中に隠されているので戦闘後に破壊するのが良いでしょう。
(夢の中なので、戦闘不能にしてもロザリンドの命に関わる事はありません)

美紗
 夢の中に作り出された親友の幻影。黒髪の高校生。
 戦闘では回復担当。美紗には戦って欲しくないという思いの表れなのか、攻撃に転じることはありません。ロザリンドが戦闘不能になると彼女も動きを止めます。倒す倒さないかは皆様のご自由に。

人型の影×5
 人間のような形をした黒い影。皆様をブロックし、ロザリンド達を守ります。
 『暗黒』『奪命剣』に似た力を扱います。

●NPC
 犬塚 耕太郎(nBNE000012)が同行します。
 彼なりに頑張ります。何かして欲しい事などありましたら、気軽にお申し付けください。
参加NPC
犬塚 耕太郎 (nBNE000012)
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
スターサジタリー
★MVP
天城・櫻霞(BNE000469)
ナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
プロアデプト
アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
ダークナイト
館伝・永遠(BNE003920)
マグメイガス
巴 とよ(BNE004221)
ミステラン
アフロディーテ・ファレノプシス(BNE004354)

●茨の夢と少女の世界
 ――また明日。
 これが明日を望まぬ少女の夢へと繋がる言葉だという事実は何という皮肉だろうか。
 その言の葉を静かに口にし、『ファッジコラージュ』館伝・永遠(BNE003920)は瞳を閉じた。刹那にアーティファクトが作動し、リベリスタは一瞬のうちに少女――ロザリンド・キャロルの夢へと転移する。
 先程までは病院の一室だった周囲は、いつしか夕陽の射す公園に変わっていた。
 高台になっている場所から遠くを見遣れば遥か向こうに海が見えた。ブランコの軋む音が聞こえ、何やら少女達の話し声もする。視線を公園内に戻した巴 とよ(BNE004221)は、蜂蜜色の長い髪の少女こそが夢の主なのだと察した。
(明日を、その先を否定しているロザリンドさん。本当に救えるのかな)
 彼女の心を思い、とよは胸中で呟く。まだ此方に気付かぬ二人へと近付くべく、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は一歩を踏み出した。
 眠り姫、あるいは茨姫とでも言うべきか。しかし、現実に夢物語の様な都合の良い配役は存在しない。眠れる少女を起こすのは王子などではなく、現実を生きる自分達の言葉。自分を律した櫻霞は少女達との距離を詰めた。
「お前がロザリンド・キャロルだな」
「こんにちは。貴女を目覚めさせるためにやってきたものです」
 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)も彼女に静かな挨拶を告げる。
「……っ、何!? 貴方達、一体何処から来たのよ!」
 見知らぬ人間が居ることに少女が驚き、強気な眼差しを向けた。『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は驚かせたことに謝ると真剣な瞳を向け返した。
「ごめんなさい、危害を加えに来たんじゃないんです……ロザリンドさんを助けたくて!」
「助ける? 何のことよ」
 だから話を聞いて、とアーリィが呼び掛けるが、相手は警戒を強めるばかり。少女が自然と後ろに美紗を庇っていることに気付き、『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)は胸中で独り言ちた。
 ――親友がいなくなる。
 その事実に絶望するのも仕方がない事なのかもしれない。しかし、夢に逃避してしまうのはきっと誰も幸せにならない。逃避を続けることはロザリンドの為にも死んでしまった美紗の為にもならないだろう。
(綺麗事かもしれないけどな。でも、どうにかしてやる……!)
 涼が密かに拳を握り、仲間達もどうにか穏便にロザリンドへと言葉を掛けようと近付く。しかし、背後の美紗は少女の背に隠れると不穏な言葉を口にした。
「ロザりん……あの人達、怖い」
「大丈夫よ美紗、私が守ってあげる。どんなことからも、どんなものからだって!」
 愛称で呼ばれた少女は即座に人型の影を呼び出し、リベリスタがそれ以上近付かないように布陣させた。おそらく、怖いと思うのはロザリンドの方であり、美紗が代弁したに過ぎないのだろう。『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)はそう感じながら、蠢く影を見据える。
「夢の中って、幸せだよね。でも、いつかは目覚めなきゃいけないの」
 アリステアは自分の夢を思い返して呟き、視線を少女達に向け直した。『胡蝶蘭』アフロディーテ・ファレノプシス(BNE004354)は影に警戒しながら身構え、『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)も、それに倣う。相手は今にも攻撃を行ってきそうだが、リベリスタ達は暫しの間はこちらから攻撃をしないと決めていた。
 だが、次の瞬間。影が此方に向けて闇黒の力を放つ。
 アフロディーテはぐっと堪え、反応しそうになる身体を抑えた。一撃は凛子へと命中するが、彼女もまた戦う気配すら見せずに耐えてみせる。
 夢の中でしか会えない人。それが唯一の友達なら、この場所は尚のこと手放せぬ幻想だろう。
「それでも、人は明日に向って歩まなければならない。なぜなら貴女には明日があるのだから」
 凛子はロザリンドを見つめ、真っ直ぐに言い放った。
 巡り廻り、繰り返す世界。それは酷く心地良く――そして、死に繋がる世界なのだ。

●想いと言の葉
「今すぐに此処から出て行って!」
 リベリスタ達を睨み付けたロザリンドが魔炎を炸裂させ、辺りに熱焔が散った。同時に他の影も動き、腕を黒い刃に変えて櫻霞や涼、達へと襲い掛かる。
 鋭い痛みが身体に走ったが、櫻霞は少女から視線を逸らさなかった。
「十全は尽くそう。その上で与えた言葉をどう取り、どう解釈するのかは……お前次第だ」
 説得の前置きを彼が告げた後、とよとアーリィも呼びかける。
「わたしたちは貴女を起こしに来ました。それを貴女が望んでいなくても、助けます」
「ここは夢の世界……幻なんです。このままじゃ本当のロザリンドさんの体は長く持ちません」
 だから薔薇のペンダントを渡してください、とアーリィがかけた言葉は彼女に事実を教える為のものだ。しかし、相手は「知っているわ」と返し、胸元を押さえて敵意を見せた。
 永遠は、この先の死を知っている上で閉じこもっている少女を真剣に見据える。
「僕は永遠と書いてトワと読みます。皮肉にも永遠が無いと僕は知りました。貴女も知ったのでせう、『永遠』はこの世界の何処にも無いのでせう」
 尚も別の影から攻撃が続けられる中、永遠は自分が両親を喪ったことを語った。両親は永遠自身の心で生き続けているが、自分も二人を夢に見たいと願う。夢に見れる貴女は幸運ですね、と言葉が掛けられると、ロザリンドは複雑な表情を浮かべた。
「だから何が言いたいのよ、貴女」
 アリステアはその隙に少女の背後に隠れたままの美紗へと呼びかける。
「ねぇ、美紗ちゃん。……あなたはどうしたいの? ロザリンドちゃん、このままだったら危ないの。あなたは、大切なお友達を死なせてしまってもいいの?」
「……」
 だが、美紗は何も答えない。それは夢の主たる少女が作り出した幻影であり、都合の良い受け答えしかしないのだろう。ロザリンドは親友を強く思っているのだと感じ、アフロディーテも己の思いを口にする。
「貴女が彼女のことを忘れないということは非常に良い事だと思います。ただ、彼女は、貴女がその思いに縛られ、自身の歩みを止めてしまうことを望んでいるのでしょうか」
 私は違うと思います、とアフロディーテがはっきり告げた。
 その間に凛子が仲間に翼の加護を授け、激しくなりつつある敵からの攻撃に備える。決めた時間の分だけ無抵抗を貫くにしても、戦況は厳しく傾いでいくのみだ。耕太郎もじっと尻尾を伏せたまま繰り出される攻撃に耐えていた。
 凛子はこのままでは危ないと感じながらも、ロザリンドに問い掛ける。
「ここは美紗さんと良く通っていた場所ですよね。貴女は彼女の夢が何であったかはご存じですか?」
「夢……? そんなの知らないわ。知る前に美紗は逝ってしまったもの!!」
 問うた凛子は将来への希望から説得しようとしたが、故人の心に秘められていた感情までは調べてくることが出来なかった。逆に怒りを買ってしまったらしく、ロザリンドは再び炎を撒き散らす。
 アフロディーテにまで被害が回りそうになり、とっさにアリステアが仲間を庇う。影も動き回り、武器すら持たぬ櫻霞をひたすら痛めつけた。戦闘の形勢は徐々にロザリンド側に傾いている。
「でも、この夢の中なら美紗と一緒。現実なんて辛いだけだもの……!」
 少女が叫んだ思いごと火の一撃を受け止め、涼は奥歯を噛み締めた。きっと彼女は美紗がいなくなった世界に価値はないと思っているのだろう。
「確かに……望む未来が絶対に手に入るとは限らないのは事実だ。けれども、」
 言葉を紡ぐ途中、影の暗黒とロザリンドが放った魔力が涼の体力を一気に削り取った。倒れそうになる身体を支え、運命を己に引き寄せた彼は傷の痛みを堪え、高らかに告げる。
「望む未来へ進むために俺達が力を貸してやる……!」
 その瞬間、ロザリンドの表情が揺らいだ。
 それと同時にとよは刻限を感じ取り、すぐさま戦闘態勢を整える。皆の言葉が届いたかは分からないが、今は戦わなければ決着をつけられないだろう。
 とよは魔陣を展開させ、少女を見つめ――そして、凛と言い放った。
「『また明日』は別れの挨拶だけど、明日の、次への約束です」

●影との戦い
 此方が戦う姿勢を見せたことで、敵は更なる攻撃に打って出ようと動く。
 間際まで耐えていたとはいえ、無抵抗だった間のツケは大きかった。影の攻撃を受け止めた永遠は一瞬、意識を失いそうになる。だが、痛覚を遮断して気力を揮った彼女は立ち上がった。
「人は二度死ぬのです。肉体の死と忘却、誰かの心から居なくなる死。もし貴女が死んだら美紗さんは二度目の死を味わうのです。それって、辛いでせう」
 呼び掛けを止めないまま影へと暗黒を放ち返した永遠。其処に続いてアフロディーテが呪いの弾を打ち出し、アーリィが極細の気糸を放つ。連続で打ち込まれた攻撃によって影が一体伏す。
「わたしの友達にも……居るんです。大切な友達を失っちゃった子が……その子はいつも辛そうで寂しそうだった。……でも、変われたんです!」
「それは辛い昨日を乗り越えて、明日を生きたからです」
 友人の言葉に合わせてとよも語りかけた。この幻影の世界を否定するため、必死に語るとよ達。その際に彼女らを含むリベリスタ達は決してロザリンドを攻撃せず、人型の影だけに狙いを定めていた。
 攻防が続く中、涼は魔力のダイスで爆花を起こし、影をまた一体葬る。
「自分は一人と思っているかもしれないけど、そんなことはない。――だから、一歩踏み出して欲しい。君を縛る物からは解き放ってやる」
 涼の懸命な呼び掛けは影の向こうに立つ少女へと届けられた。
「嫌よ、嫌……! だって私が此処を出たら美紗が消えちゃう。一緒に居られなくなっちゃう……!」
 しかし、ロザリンドは否定する。彼女から放たれた一条の雷が拡散し、激しく荒れ狂った。
 狭い公園の中、全員へと広がった衝撃は元の少女が持つ力よりかなり増幅されている。アリステアやアーリィ、凛子、アフロディーテと耕太郎も雷に力を奪い取られ、一度は膝を付く。
「ちっくしょー、まだ負けたりなんてしねぇ! そうだよな、皆!」
 耕太郎が気合を振り絞って叫び、リベリスタ達もは負けはしまいと運命を引き寄せた。
 何とか雷に耐えた櫻霞にも、残る影が襲い掛かり体力が尽きる。
 それでも、櫻霞は立ち上がった。アリステアがすかさず聖神の息吹を発動させ、仲間を支える。
「ロザリンドちゃん、ここは居心地がいいよね。大好きな人と一緒って幸せだよね? でも、貴方を心配している人がいるよ。目覚めることを祈っている人が。だから、私たちと一緒にこの夢を終わらせよう?」
「駄目よ、美紗との時間を終わらせたくはないもの……」
 アリステアの想いに首を振ったロザリンドは涙を浮かべていた。その間に凛子も聖神の息吹で以って仲間を癒してゆく。
「友達の将来の夢が分からずとも予想は出来ませんか? 貴女はその夢の続きを叶えることができる……。本当に彼女を思うならそろそろ目覚めましょう」
 呼びかけは徐々に効いてきているようにも見えた。それでもロザリンドは親友の存在に固執しており、説得はまだ完全に届いていない。そして、凛子の癒しによって櫻霞も体勢を立て直す。
 櫻霞は魔力銃から幾度目かの連続射撃を打ち出すと、一気に二体の影を屠った。
 彼には少女の逃避が甘えだと決め付けるつもりは無い。何もかもを失った時、自分も似たようなものだったことを思い返した櫻霞は敢えて今、此処で聞くべきことを口にした。
「お前自身が親友を再び殺すことになっても、夢に居続けるのか?」
「美紗を再び殺す……?」
「身体が死ねば精神も死ぬ、そして逆もまた然りだ。同時に心に残っていたことも消え失せることになる」
 思い出。記憶。交わした言葉も、何もかもがロザリンドの死と共に消失する。
 そう櫻霞が語ると、アフロディーテも言葉を続ける。美紗という少女にとっても、ロザリンドとの出会いはとても素晴らしかったと予想できた。
「だから、彼女もすばらしい経験をくれた貴女には、立ち上がり、前を向いて、歩みを進めてほしいと思っているに違いありません」
 魔力と意志を込めた弾を撃ち、アフロディーテは影や少女に眼差しを向ける。
 残る人影は一体だが、ロザリンドは無傷のまま。美紗は夢の主を回復する必要がない為、ただじっと黙ったまま控えているだけだ。かくなる上は彼女達ごと夢を壊すことを決意し、アフロディーテは次への魔力を紡ぎはじめた。

●夢の終わりと続き
「わたしの友達もいろんな人と出会って変われた! だからロザリンドさんにも前に進んで欲しいです。美紗さんだって、きっとそう思うはずです!」
 アーリィは呼び掛けを止めず、尽きはじめた仲間の力の回復に努める。その合間に此方を拒むロザリンドから炎が解き放たれ、永遠の身体を貫いた。運命嫌いの永遠だが、自分は倒れるわけにはいかない。二度倒れたが、尚も立ち上がった永遠は真っ直ぐに告げる。
「一人が嫌なら傍に居ます。約束します。だから、美紗さんを心から殺さないで欲しい」
 こうして出逢ったから、貴女には生きて欲しい。
 永遠が魔閃光を最後の影へと放ち、涼も爆花を迸らせて強く言い放った。
「お前は二人を護っているんじゃない。縛り付けているだけだ」
 次の瞬間、人影が形を失って崩れ落ちる。
 これで相対する相手はロザリンドと美紗だけとなった。櫻霞は二人を倒すのも止むを得ないかと頭を振り、少女達を視界に入れる。しかし、言葉を掛け続ける事は止めない。
「真に友を想うのなら、その悲哀を受け止めて尚前を向け。決して忘れるな」
 少女が死ねば、友も共に死ぬのだという事を――。
 櫻霞の告げた一言を聞き、ロザリンドは俯いた。
「私は……私、は……」
 自問自答を繰り返す少女の姿に気付いたとよは、その心が折れるまで訴えかけようと意志を強く持つ。
 そして、とよが口を開きかけたとき――ロザリンドが力なく膝を付いた。どうしたのかと、とよが首を傾げて少女の名を呼ぶ。
「ロザリンドさん?」
「……そうよね。私が美紗を殺すというのなら……もう此処には居られない。居ちゃいけないのよ」
 呟いた少女の声は震えていた。とよが一瞬だけ耳を疑ったが、説得が届いたのだと気付く。凛子も彼女が『夢から出たい』と願えるようになったのだと直観し、ロザリンドの元へと駆けた。
「大丈夫、貴女が望むなら一人であることなんてすぐにも終わりにできる」
 そっと少女を抱き締めた凛子は優しく語る。
 もうこの場に戦いの気配はなく、安堵したアフロディーテもロザリンド達の元へと歩み寄った。
「目を瞑ってごらんなさい。あなたの心の中で、いつでも彼女が見守ってくれていますよ」
 そういってアフロディーテは大人しく後ろに控えている美紗へと視線を向ける。この夢の世界は少女のもの。ならば、この場に美紗がしっかりと存在していることこそが、常に彼女が心の中に在るということを示しているはずだ。
 アリステアも小さく頷き、私でよかったら悲しい時や辛い時はいつでも話を聞くと告げる。
 顔を上げたロザリンドはリベリスタ達と親友をゆっくりと見渡した。やがて、周囲の景色が滲むように薄くなっていき、徐々に消えていく。それは美紗の姿も同じであり、ロザリンドは涙を零しながら消えゆく少女を見つめた。
「お別れじゃないわよね、美紗。この人達がそう教えてくれたもの」
 美紗は何も言わず、静かに消えていく。
「夢が壊れて……ううん、思い出に変わっていくんだね」
 アーリィは悲しい気持ちを押し込め、耕太郎も夢は悪い意味で終わらないのだと感じた。この場のすべては元から夢の主の想像の産物だ。しかし、消える瞬間に見えた美紗の笑顔は確かに“本物”だったと、アリステアには思えてならなかった。
 そして、夢が覚めてゆく中――アリステアは少女へと手を差し出した。
「夢から覚めよう、『また明日』のために」

 世界が暗転し、周囲の景色は一瞬で元の病院に戻る。
 ベッドに横たわる少女の胸元のアーティファクトを破壊したとよは溢れ出す涙を拭い、微笑んだ。
 もう大丈夫。そう感じたとき、ロザリンド自身も目を覚ます。櫻霞はベッドを覗き込み、現実に帰還した娘に問い掛けた。
「久しぶりに現実に帰った気分はどうだ?」
「不思議な気分よ。……ごめんなさい。私、貴方達にとても迷惑をかけたわ」
 申し訳無さそうに、それでいてどこか強い返答が返ってくる。せめて今からでも向き合ってやれ、と彼女の親友について告げた櫻霞はモノクルの奥の双眸を緩めた。アーリィとアフロディーテがほっと息を吐き、凛子も目覚めた少女に笑顔を向ける。
「良ければ新しいお友達になりましょう」
 そう告げられたロザリンドはきょとんとした後、少しおかしそうに笑った。
「ええ、貴方達となら良い関係が築けそう。きっと……ううん、絶対に」
「大した自身だな。だが、嬉しい限りだ」
 涼も明るい笑みを返し、この先を思う。確かに人生は山あり谷ありであり、良いことばかりではない。
 けれども、明けない夜もなければ、止まない雨もない。
 終わらない夢もないけれど、それでも――描いた夢の続きは現実という本当の世界で紡いで行ける。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
少女は絡みつく茨の夢から開放され、自分から歩み始めました。
これも皆様が言葉と思いを投げ掛けてくださった故です。反面、無抵抗に徹した分だけ、言葉が届かなかったら押し負けていた可能性もあった危うい作戦でした。しかし、結果は良い方向へと進みました!

ご参加とお気持ち、どうもありがとうございました。