●打ち上げに本気出すタイプ 「あのねぶんひっつぁん」 「なんだいあーちゃん」 「オイラね~普通ってのもねーある意味キチってると思うんだ」 「そうだねぇ、キチから見れば普通はどうしようもなくヘンでおかしくってキチだね」 「だら? だからこの世にはキチしかいないっていうオイラの理論……論理? りろんろろんりりりりり……なんだよ!」 「僕常々思うんだが」 「ふん?」 「あーちゃんマジ天才だな! 抱いて!」 「だろ! だが抱かない! なぁこれ終わったらメシ食いに行こうずオイラ天津飯食べたいねん」 「は~い。まぁ糾未お嬢にあだしのっちにならっくんにトムヤムっくんなら何とかなるだろー」 「オイラ達も頑張らないとにゃ~~」 「『舞台』が素敵なほど、後の打ち上げが涙涙の感激最高ってなるワケさ!」 「理解痛快チンゲンサーイ!」 楽団とかオトナノジジョウとかそんなものとかなんか知らんけど知った事か。クソ笑って、彼等は陽気にチークダンス。 可愛いお嬢のお手伝い、楽しい今日を生きて逝く。 ●幸せの権利は誰にでもあるらしい 「さて皆々様――主流七派『黄泉ヶ辻』首領黄泉ヶ辻京介の妹、黄泉ヶ辻糾未が動き出しましたぞ」 事務椅子をくるんと回し、集った一同に『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が言い放った。 その背後モニターに映し出されていたのは、マル。大きな大きなマル。その真ん中には小さなマル。 「彼女達が度々事件を起こしていた事はご存知でしょうか。それで今回は『大規模儀式の準備』を行うそうです」 曰く、ノーフェイスの血を糧にした狂気に落ちる儀式。 それはこの真ん中で行われるのだ、とメルクリィが先の『真ん中のマル』を機械の指で示した。 「糾未様の対応は響希様が、彼女の近くにいる仇野縁破様の対応は世恋様が担当しております。 私が担当致しますのは彼女のお手伝いをしている黄泉ヶ辻フィクサードの対応。彼等の撃破乃至撤退、そして彼等が引き連れるノーフェイスの殲滅が今回のオーダーでございますぞ」 ここですね、と機械の指がマルの外側を指した。 「任務としては望月様のそれと同様となります。もう一段階先、マルの内側は数史様が対応して頂きますぞ。 さて、先に申しました『お手伝い』の内容ですが」 モニターが切り替わる。映し出されたそこは市街地だった。 ――人が歩いている。虚ろな、幸福な顔を浮かべ、白目を剥いて涎を垂らした人間が。ちらほら。浮ついた足取りで、同じ方向へ。 明らかに異様な光景。 「彼等一般人は件の『マルの真ん中』へと向かっております。勿論自らの意思ではなく、ノーフェイスに洗脳されてね」 曰く件の『儀式』に使う為。そして、その洗脳したノーフェイスがモニターに映った――最早人間離れしたその様相。嫌悪感を抱きたくなる程に幸福な笑顔。 「ノーフェイスフェーズ3『ヘブンズドール』。この能力によって非E生物は洗脳状態となってしまい、御覧の有様となっている訳です。これを倒せば、こいつが施した洗脳は解除されます。 御油断なく、これはフェーズ3相応の強さを持ちます。これに加えてフェーズ2のノーフェイスが3体と、黄泉ヶ辻のフィクサードが二人現場に居りますぞ」 危険度は高い。だが看過も出来ない。 メルクリィは心配を押し殺した眼差しで皆を見る。 「狂気だろうが何だろうが、抱くのは勝手ってモンです。でもそれで誰かに迷惑をかけちゃあ、いけませんな。 ……舞台に相応しいのは狂気ではなくハッピーエンドなのです。皆々様、御武運を!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月24日(日)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●某街 そこには露骨なまでに異様な雰囲気が横たわっていた。 夜の中。街灯の列。斑な灯りの下を歩くのもまた人の列。その周囲には黒い蝶。揺蕩う黒羽。 そこが通常ではない事を、何故通常でないかも、駆け付けたリベリスタ達は知っていた。 「あぁ、また儀式とやらを行なおうとしているのですねぇ……やること成すこと全てが癇に障る」 流石はフィクサード。次から次へと厄介事ばかり。『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)が端整な顔にハッキリ示すのは明確な嫌悪感。その視線の先には、リベリスタの来訪にニヤ付いた笑みを浮かべる黄泉ヶ辻のフィクサードが二人。 「悪事はお手の物でしょうが、貴方達の邪魔をするのが私の仕事。さぁ、お遊戯の時間ですわ――参りましょうか」 「まあなんだか知らんが幸せそうだし、そのまま天に上ってくれ、物理的に。そうすればこちらも少しは幸せだ。」 杏子が展開させるは数多の魔法陣、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が呼び出すのは意思を持つ影。戦いに備える。 「細かいことはともかく。なんで一般の人を巻き込むかな……」 呟けど『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)には理解できない。嗚呼見よ、あれが、蹌踉めき歩く人々の顔が、『幸せそう』だなんて。 「幸せって、与えられるものじゃなくて、自分で『これが幸せなんだ』って掴み取るものじゃないの? こんなの認めない……こんなの歪んでるもの!」 「あちらに行かれたら、連れて行ったら、まおは嫌なのです。だから止めたいとまおは思います」 罪無き人に厄が振るのであれば捨て置く事などとても出来ぬ。それがリベリスタの宿命であり運命。もぞりとマスクの下で蜘蛛顎を蠢かせた『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)もまた変幻自在の影を纏った。 全く、全く、彼女達の言う通りだと『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)は冷たい息を一つ。機械のフォーチュナも言っていた。狂うのは勝手だが人に迷惑かけるのは頂けない。銀の鋼糸を垂らしながら――黄泉ヶ辻糾未達を見ていると、どうも脳裏にとある教会と昔の妹が掠め過ぎる。 幸福感染。黄泉ヶ辻。信仰と狂気と逸脱。 だから、吐き捨てた。安易な幸福も救いも、全部纏めて糞喰らえだと。 「……さあ、いい加減懺悔しなよ。言い残す事はあるかな?」 「見てこれでっけぇハナクソ取れた」 「ゲェーッあーちゃんエンガチョー!」 神父の問いに阿国・シュタールとブンヒツは相変わらずの体たらくだった。いっそ清々しい程に。 「ま~た変なことしてるのねこの鶏頭! 前は返り討ちだったけど今度こそぶっ倒してやるのだわ!」 そんな彼に、水の構えを取った『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)はゴキリゴキリと拳を鳴らす。凛然と見澄ますその眼差しにハナクソを指で弾き捨てた阿国が気が付いた。あぁ、あの時の。陽気に手を振れば少女は舌打ちを返事にした。 そこへ一歩、前に出るのは『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)。視線を隠す黒いサングラスと、手首に鎮座する白い腕輪が鈍く光って睨み据えた。 「楽しそうなパーティーだな狂人ども。俺には全くもって理解不能だ」 狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり――ここにいないあの小娘はとうに狂っているのだろう。或いは、端からこの世に『常人』など存在しないか。どちらにしてもこれだけは事実。今、ここに、理解し合えない人間同士がいるという事。 「崇拝は理解に最も遠い感情か」。言いながら手に持つ、伝承の宝具を模した破界器。 「片っ端から消してやろう。往け、乾坤圏!」 先手必勝。手を振るい二対の腕輪を投擲すれば、物凄い速度を以て白い色が唸りを上げた。まるで意思を持つかの様に、それも全く同時、リベリスタ達へと吶喊を始めていたハッピードールとメラメラ達を纏めて強く打ち据える。燃え盛る火は煙草の火にはちと多い。そして自分はリベリスタ、消防士ではない。 宙で弧を描いた宝具が伊吹の手に戻る――その同刻、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は不敵に笑んで『敵』を見澄ましていた。 「うっすアークだぜ、ごきげん麗しゅう」 「ゲェーッ あ、あいつは!」 「知っているのか阿国」 「おんずなつすと」 「……御厨・夏栖斗(みくりやかずと)じゃね?」 「あーはいはい、取り敢えずこの先行き止まり、通行料はお高くなってます」 馬鹿に付き合う暇はない。普通だろうが気狂いだろうがそういう事も関係ない。 しかし、樂落奏者はこの分かり合えない演目を邪魔する事すらもが美徳と思うのだろうか。夏栖斗はそう思いながら声を張り上げた。 「おぉーい! なんて顔してるんだ、こっち来いよ!」 それは一般人に向けられた声。ただの声ではない、気を引き付ける魔力を持った言霊。だが、しかし。幸福の顔を浮かべた彼等が振り向く事はない。ブレイクフィアー等ですら効かない手合いだ、精神を支配する事は不可能か。 ならば致し方ない。 「痛いけどごめんね! じっとしてて!」 ノーフェイスにされてしまうよりは。魔法杖黒を掲げたアリステアが厳然たる閃光を放てば、その射程内を歩いていた一般人達はまとめてバタバタ倒れ伏す。されどそれも一部、他は変わらぬ足取りで。 ごめんね、と少女は再度言う。痛い事をしてしまった侘びと、これ以上彼等に手を裂く事が出来ない事と。 「おっと邪魔はさっせねぇぜ~!」 フィクサード達も動き出す。阿国が指を突き付ければ一直線の炎がリベリスタ達を飲みこまんと牙を剥き、ブンヒツが腕を振るえば大量の文字の弾丸が撃ち出される。それらと並走してハッピードールが奇怪な笑い声を発し、走り出したリベリスタ達に襲い掛かった。 火蓋は切って落とされた。 佇み笑うヘブンズドールが凄まじい衝撃波を撃ち放つ。それは襲い来る猛撃を構えた無明と纏う影で凌ぎながら前進していた鉅の身体を強く打ち据える。が、構わず前へ。 「散々楽団とやりあった後だとこの程度はむしろ可愛げがあるように見えてくるのが困りものだな。十分タチが悪いんだが」 ふらつく意識で放つは不吉を告げる赤い月光。今度はリベリスタ側の全体攻撃。だが直後にヘブンズドールが微笑みながら放った衝撃に勢い良くブッ飛ばされてしまう。 うぐ、と噛み締めた歯の隙間から悲鳴。 まおはメラメラが放った炎に肌を焼かれ顔を顰めながらも、面接着の力を用いて素早く電柱に着地すると指先から気糸を繰り出した。獲物を捕らえる蜘蛛の如く、それは彼女の近くに居たハッピードールを強烈に縛り上げる。肉を裂く。 「厄介なモノは即排除が鉄則、お手伝いしますね……」 嫌いなモノは嫌いだから致し方なし。杏子は超速で呪文を唱え魔術式を組み立てる。浮かび上がる魔法陣は彼の血を代償に怖ろしき破壊の鎖を吐き出し、ハッピードールやメラメラを飲み込み溺れさせた。 幾つか消える炎。されど残った炎と阿国が放つ火柱が後衛のリベリスタ達を襲った。鬱陶しいブロッカーも居らず手隙で暇なら面倒な後衛陣から潰すに限る。特に回復手は。 だが、仲間へ神聖魔法を施すアリステアに暴力が届く事はない。ロアンがその背に護っているから。 襲い来る火、容赦なく肌を焼く灼熱に男が怯む事はない。回復手は生命線。やらせない。 「それに、小さな女の子が傷付くのも嫌だしね」 「ありがとう、ごめんなさい……すぐに治すからっ」 「謝る必要なんかないさ」 大丈夫。その声を聴きながら、アリステアは懸命に詠唱を紡いだ。 フィクサード達が何をするかなんて知ろうと思わないし知りたくもない。少女の願いは一般人の生還と、仲間の痛みを少しでも減らす事。それだけ。 「絶対みんなで、アークに帰ろうね!」 鼓舞する声と、戦場を吹き抜ける奇跡の御業と。色々考えるのは良くない、動けなくなってしまうから。だからこそアリステアは『願い』続ける。いつだって、それだけを。 「誰も邪魔しないで。うぅん、邪魔なんか、絶対にさせない!」 純粋だからこそ強き想い。 伊吹の心にも静かに激しく烈火が揺らぐ。 「俺の名も炎の熾の字を冠するが――燃やすは内なる炎だ」 誇りを胸に仁義上等。運命ならば共に征こう。 勝利の為に、前へ。 「焼き尽くしてやるのだわ!」 夏栖斗がアッパーユアハートで誘き寄せた3体のハッピードール。襲い来るそれらを纏めて焼き払ったのは、ミリーが繰り出した焔腕。紅蓮の絨毯が敷き詰められ、ハッピードールの一体が焼け落ちる。 と――その炎を掻き分け、駆けて来る人影。 嗚呼。ミリーには察しがついた。振り返ると同時、女子力・改で武装した拳を搗ち合わせる。視線の先。飛び掛かってきた阿国。ゲラゲラ。炎を纏わせたソードブレイカーが少女の身体を打ち据える。 が、ミリーは倒れない。踏み止まり、拳に火を纏い、阿国の体内にあるという『プロメテウスの不腐骨』を狙ってパンチでグー。されど『体内』というアバウトな情報に、彼の肉に阻まれ見えない物体。特定は困難極まりない上に、破壊となれば殺して摘出するかそのレベルの話になってくるか。だとしても、だ。 「なんかむかつくのよ! アンタを絶対焼き伏せてやる! アンタを絶対はったおしてやる! それが今一番の狙いよ!」 倒す為の手段。ただのやっかみかもしれないが。それが何だ。咆哮。火力MAX。嗤う男が呪縛の炎で対抗した。 灼熱紅蓮。戦場を舞う焔華。 夏栖斗に躍り掛かってきたハッピードール達が脳波を放つ。意識を揺さぶる。少年はそれを唇を噛み裂いて堪えると、目にも止まらぬ刹那の速度で√666を轟と振るった。飛翔する武技。一体のハッピードールの体が弛緩したかと思いきや、その首が切り裂かれてゴロンと落ちた。吹き上がる鮮血。少年の身体を赤く染める。 「人形遊びに蝶遊びにオイタが過ぎるよね。そのあたりどう思う?」 返り血が目に入らぬよう細めながら。見る先には阿国と同じく前に出てきたブンヒツが。 「ん? ゴメンって言って欲しいの?」 「アークは今忙しいんだよ! 余計なことで邪魔すんなや! 黄泉ヶ辻のお姫様も酔狂だぜ、僕から見たら十分キチってるよ」 「楽しけりゃよくね?」 プッと笑い、ハッピードールのブインバインドを振り解いたまおへブンヒツは間合いを詰める。至近距離、ペンを握り締めた拳が少女の腹を強く捉える。げほっ。咳き込む声。地面に転がる小さな体。 「う、う」 痛い。痛い。噎せて血を吐いて、それでもまおは先を焼き捨て立ち上がる。 「ごめんなさい。まおは止めなくてはいけないのです。絶対アークが止めるてみせるのです」 止まって下さい。言葉と、繰り出す糸。 一方で―― 「……此方には近寄らないで頂けます?」 凍て付く脳波に凍り付きかけた心臓、それを杏子は運命を燃やして拒絶すると鋭い眼光で正面を睨ね付けた。同時に繰り出す絡めの糸。その先にいたのは――後衛陣へ攻め入ろうと立ちはだかるヘブンズドールだった。鉅を倒し、襲い掛かってきたのだ。 ヘブンズドールは幸せな顔を浮かべて気糸を振り払う。フェーズ3、それに見合う強敵。 「悪趣味な人形風情が」 その行く手を阻む伊吹が吐き捨てる。揺らぐ意識は奥歯を噛み砕いた痛みで強く堪え、口内に溜まった血をペッと吐き捨てた。じんじんと脳に響く痛み。ふやけた意識を刺し殺す。 喰らえ。砕け散れ。 伊吹が放つ乾坤圏はヘブンズドールの肩を打ち据え、そのままその奥にて夏栖斗と交戦していたハッピードールの頭部を穿つ。ふらついたノーフェイス。それを見逃さず、夏栖斗は繰り出す虚ロ仇花にて切り裂いた。 ふぅっと息を吐き整える。アリステアの神気閃光で倒れていた一般人を後ろに放り投げるなど、救う為の行動をしていた夏栖斗はハッピードールから手痛い一撃を受けていたが、まだまだ。倒れない。そして今やフェーズ2は全て頽れ肉となった。 あと少し。 もうひと踏ん張り。 リベリスタの標的は、後衛陣を強烈に追い詰めているヘブンズドールへと移る。アリステアの詠唱に背中を押され、リベリスタ達は地面を踏み締めた。 負けられない。負けていられない。 げほげほ。焼かれた咽で咳き込んで、ミリーは相対する阿国を睨ね付ける。 まだ立てる。まだ己の炎は消えてない。 「燻ってるのは性にあわないのだわ……!」 握り締める拳。阿国が繰り出す炎の中。ならばそれを喰い千切ろう。吶喊の声。ミリーが繰り出す拳から唸りを上げて放たれたのは、炎でできた赤い龍。荒れ狂うそれは暴れ回り、阿国の炎を彼諸共飲み込んだ。 最高だね。フィクサードの笑い声。炎を掻き分け、ぐんと。前。顔を突き出せば、丁度前へと踏み出したミリーと額同士が搗ち合った。それでも互いは一歩も引かず。 「ハートブレイクショットってやつよ!」 ミリーが繰り出す焔腕と、阿国がプロメテウスの不腐骨より放つ炎が、赤く赤く交わり溶ける。 一方、荒い息を吐くまおはブンヒツを相手にまだ倒れてはいなかった。何度目かの繰り出す気糸。それは遂に文字の弾丸を飛ばしていた男を捉え、哀れなマリオネットの如く吊るし上げる。絞まった呼吸音。睨みつけられたって、怖くない。 再度、ヘブンズドールが幸せに満ちた衝撃波を放った。 激しい攻防の展開。流れる時間。ここまできたら、殺すか殺されるかの根性論。 「来るよ!」 ロアンが叫んだ直後、凍て付く脳波が炸裂する。ロアンが回避できたのは後ろからじっと敵の挙動を眺めていた賜物か。 ヘブンズドールへ踏み込み、振るう銀糸で死を刻む。懺悔の時間。されど望みなど叶えてやるものか。至近距離から衝撃波を放たれ、目と鼻と耳と口から血を噴き出しながらも攻撃を止めない。不愉快な幸福感染に口角を歪めつつ。 「さもなくば死ね……それはこっちの台詞だよ!」 文字通り、牙を剥いて『噛み付いて』でも。 そんな彼に護られ続けたアリステアの傷はほとんど無しに等しかった。そのお陰で今も尚、癒しの詠唱は戦場に響き続けている。皆で無事に帰る為と少女は祈る。直向きに祈る。 されど――その視界の無効。映ったのは阿国とブンヒツ。奮戦し縋りついていたミリーとまおを遂に撃ち倒し、リベリスタ達へ襲い掛かったのだ。奔る紅蓮と文字の弾丸。しかし、しかしだ。糾未の部下で実力者である彼等がここまで足止めさせられたのはフィクサードにとって想定外だった。 フィクサードの加勢、傷付きながらも活動を止めぬヘブンズドール。いよいよもって追い詰められるリベリスタ。あと一人、それがボーダー。半数を持って行かれた時点で退く他にない。 だからこそ、今。この瞬間が正念場。 衝撃波に吹っ飛ばされ地面に叩きつけられ、それでもリベリスタ達は立ち上がった。 英雄じゃないけれど、この手は汚れているけれど、それでも救えるものがあるのなら。夏栖斗は立つ。手に構えるは√666。その数字は獣で有りニンゲン。荒ぶる獣が如く、咆哮を上げながら華麗に苛烈に武技を繰り出す。 飛翔する一撃がヘブンズドールの肉を切り裂き血華が散った。飛び散る赤、それを顔面に浴びながら踏み込むロアンはクレッセントを冷たく振るう。刻み付けるは無慈悲な死。立て続けの攻撃にヘブンズドールが遂に半歩、蹌踉めいた。 あと少しだ。直感する。あと少し。 「がんばって……!」 アリステアは我知らず呟く。斯くしてその声は、伊吹の耳に届いていた。衝撃波に半分割れたサングラス、その奥にある双眸で強くノーフェイスを見澄まして。 だが、刹那に灼熱がリベリスタ達を苛む――肌が焼ける激痛と、阿国の笑い声。屈するものか。フィクサードに。思い通りになってやるものか。 踏み止まった伊吹は乾坤圏を振るった。それは真っ直ぐ、真っ直ぐ、猛スピードでヘブンズドールの胸部を穿った。ノーフェイスの上体が揺らぐ。――倒れない。足りない。 「なら、もう一発……!」 ダブルアクション。運命の微笑み。或いは偶然、もしくは奇跡。彼の手に戻る筈だった白い腕輪はもう一度弧を描き、神速の速さを以てノヘブンズドールの頭部を強かに打ち据えた。肉を骨を砕き、爆ぜる中身。無くなる頭部。ぐらぐら。ふらつき蹌踉めき、そして―― どさり。 倒れた。遂に。フェーズ3のノーフェイス。どくどくじわじわ、倒れたそれの無い首から大量の血潮。 「くそー、しやーねぇ撤退だー」 「合点だー」 ヘブンズドールが倒されるや否や、阿国とブンヒツは飛び下がって一目散に撤退を開始する。深追いするリベリスタはいない。既に激しい消耗状態。フィクサードとて無傷ではない。ノーフェイスを殲滅出来ただけでも僥倖か。 「ヨリハちゃんに伝えといてよ、今日はデート出来なくって残念だってさ」 夏栖斗の声は走り去る彼らへ。黄泉ヶ辻二人振り返ってアカンベェ。足を決して止める事なく。 「無事か?」 それらを見届け、伊吹は他のメンバーに幻想纏いから声をかける。返って来るのはノイズ、まだ戦っているのか、はたまた―― 傷付いたロアンを支えながらアリステアは空を仰いだ。暗い空。不吉な蝶が舞う、暗い、空だった。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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