●一通の手紙 『拝啓 アークの皆様 暖かさに春が近付いてきましたね。如何お過ごしでしょうか。 皆様はいつも浮世の為に、その強さをもって、奔走されている事でしょう。 皆様が守ってくださったこの地、岡山に梅が咲きました。 桜――ではありませんが、僭越ながら僕がお団子を振る舞おうと思っています。 潮の香りと音を聞きながら、一日ひとやすみでもされませんか。 お団子はまだ―――拙い出来なんですが。 勿論、その日一般の方はお断りしますので、どんな姿でいらしても大丈夫です。 もし動物と暮らしておられる方が居れば、連れて来てあげてください。 動物にお団子はあげられませんが、ちょっとしたおやつなら僕が作ります。 それでは、その日に。 嗚呼そうだ。お団子の委細ですが、―――弱きを助け、悪をくじく、桃太郎印のきび団子です』 ●潮の誘い 「やあ皆。こんな手紙がアークに届いたよ」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達へ向けたのは、『あにまるまいすたー』ハル・U・柳木(nBNE000230)のちょっぴり爽やかな笑顔。 こほん、と咳払いをする。 「あるリベリスタからの招待状だ。アークに何度か助けて貰ったりしてる、アークも神秘も知ってる青年からさ。なんでも団子作りを始めたらしいよ。お世話になったお礼も兼ねて、もし良かったら招待したいってさ」 ハルは話す。 その団子とは、岡山名物吉備団子。 早咲き桜では無く梅が咲く中、海を見渡せる山の中腹に茶屋として場を設けているらしい。 のんびりと一日、気を休めに行ってはどうだろうか。 「梅の花見と団子がメインだろうけど、山頂まで登ってみてもいいし、畑を見たり、厨房を覗いてみても良いってさ。飼い犬、飼い猫達の同伴もオッケーみたいだし、もし動物と暮らしてる人がいたら、一緒に連れて行ってあげたらいいんじゃない?」 看板犬も二匹いるから、もし動物恋しい独り身でもバッチリだよとハルは笑ってから、春の近付く気配にのんびりと欠伸をしたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月27日(水)22:32 |
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●かの地、海の音 場所は山の中腹。 ほんの少しの山道の先で、オンと響く犬の声。そして、迎えるのは一人のリベリスタ。 訪れた、全てのアークのリベリスタ達へ贈る、今日という一日。 ●梅の花、香る 「良かったら、皆で集まって梅見しない?」 そう提案したのは快だった。 お弁当にお菓子、飲み物は持ち寄りで現地集合を掛けたグループの輪は総勢十一。 言い出した快は誰より早く着いて場所を取っていた。 「東風吹かば匂ひをこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ――ってね」 「菅原道真、ですね」 店主である桃田が労い、団子を差し出した。 それを活力に快が広げたのは、新田酒店の自家製梅酒、未成年用には水割りの梅ジュース。砂糖を少なくしているこれはきっと黒糖団子に合う筈で、梅ゼリーを並べる頃には仲間達がやってきた。 「それじゃ、乾杯ー! でござるよー!」 虎鐵がいの一番、音頭を取る。自前で日本酒も傾げ、花より団子。寒いと思っていたらもう暖かく、バレンタインと思っていたらもう梅の季節。 なんて、感傷に浸るのも少しの間。 「さあさあ飲め飲めでござるー! 酒はまだまだあるでござるよ!」 酒を注ぎに身を起こした虎鐵の傷は――今日だけくらいは大丈夫。そう思うのも悪くない。 「あ、ボクは未成年の一にお茶を持ってきたよ」 アンジェリカもつられて立ち上がる。こっちも、あっちもとお茶を注ぎながら、時々座ってどの味も団子を味見。 大勢で食べるのは新鮮で楽しくて。 「味、大丈夫でしたか?」 そう聞いてくれる桃田にアンジェリカは、 「チョコ味のきび団子って無いのかな?」 なんて、困らせる。――つもりだったけれど。 「……広島県のもみじ饅頭はチーズもチョコもありますしね。岡山県も頑張ってみましょうか……」 「え、本気?」 どうやら焚き付けてしまったようだ。一抹の不安は過ぎるけれど、振り返る梅の花はとても綺麗で。 アンジェリカの唇は、知らず歌を奏で出す。楽しい気分になってくれるよう、明るく楽しい、そんな歌。 「もーもたろさん ももたろさーん。おこしにつけたーきりたんぽー♪ ……きりたんぽ?」 合わせて歌ったベルカの歌は、何処か違う。 「きりたんぽは秋田で、きびだんごは岡山だから!」 遠くから快のツッコミが飛んできた。 いつもごっちゃになってしまうのだと豪快に笑いながら、普段猛ダッシュする団子にはまだ行かない。 自分の中にも風雅を感じる心が無い訳では無いから。 古来、「花」と言えば長く梅の事であったと言う事。 はるかな昔、吉備津彦もまたこの様に梅を愛でたのだろうか、と――――考えた所で梅干しに思考が行ってしまったベルカは今度こそ団子タイム。 わっふと聞こえた声に、犬二匹を撫でてやり、ニっとイヌ同士の笑みを向けて。 「うむっ、凛々しい顔つきだな。よくよくご主人をお守りするのだぞ」 わふっと吼えたのは、イヌ同士の誓いの声。 所は少し変わって、厨房前。 「ねーこれ。やってもらえないかしら?」 ニニギアが取り出したのは長ーい串。いっぱい刺して欲しいとの提案に、一瞬ぽかんとしてから、桃田が懸命に取り組んで出来た伝説の一串に、ニニギアはびしっと掲げてみた。 「ごーじゃす超ロングお団子~しあわせー!」 店主はちょっぴり疲れた顔をしていたけれど、一団に戻ったニニギアは梅酒に梅ゼリー、その透き通る色合いに瞳を細める。 此処で見る仲間達の顔は、一刻を争い命を削るような依頼で見る顔とは別人みたいで、楽しそう。 それがニニギアは本当に嬉しくて。 でも、 「虎鐵さん、困ったよっぱらいには微笑んでににちょっぷするからね」 「せ、拙者でござるか!?」 思わずどっと漏れる談笑の渦。 「大丈夫だよ、聖神の息吹ぴゅーぴゅーしてくれるって」 悠里がニニギアの言葉を真似る。皆に酒を配る快と一緒になる事は多いけど、他の人は結構珍しかったり、見慣れなかったり――。よいしょっと悠里は立ち上がる。 他の人に話しかける前に、タロマル、ジロマルを一撫で。もふっと撫でて抱っこして、頭を撫でては鼻面を突き出され。 「あぁ、やっぱり犬はいいなぁ……あ、でもお酒臭いとわんこには迷惑かも?」 タロマル、ジロマルは二匹でくふんと首を傾げてみせた。 「狗って赤白黒の順番でおいしいんだっけ?」 そんな時降りてくる物騒な声は、葬識。 ぶわっと毛を逆立ててワンワン吼えるタロジロに「嫌われちゃったかなあ、わんこすきなんだけどなあ」と口端上げる葬識に、困ったように二匹はウロウロ尻尾を下げる。 「あ……ボクも入れて貰って良いですか?」 そんな二人、二匹に顔を出すのは風。 梅しそとり天をメインに、生めポテトサラダ、豚肉のロール巻き梅ソースに梅おにぎりと梅にちなんだあれこれ、てんこ盛り。 「へえ、凄いな……っと」 「風です。執事をやってます」 これもご縁とぺこりとする二人。 勿論此処に集まったのは誰でもがアークのリベリスタ、誰もが背中を預ける仲間同士。だから。 「お仕事でも今後ご一緒するでしょうし、少しでも皆様の事を知って、仲良くなれたら嬉しいな……」 花も団子も、そして仲間の話も。今日は少しくらい贅沢になっても良い。風は次の人にもお弁当を配りに行く。 ボクも、と控えめに声をかけた三郎太と一緒に、雛乃もぴょこんと飛び出した。 「あ、あたしも混ぜてっ」 「え、どうぞ!」 風はさっとお弁当を開ける。 その手には団子も一通り持ちながら、じぃっと弁当を吟味して。 「食べ過ぎは体重計が怖くなる気がするけど……今は気にせず沢山頂きまーす」 梅の料理もばっちり胃袋へ。 フルーツ味のきび団子も、新しいスイーツと思えば止まらない。 花より団子。けれど傍で咲く花に、風も雛乃もふと向いた。 「梅の花っていうのも良いですよね。なんていうか、奥ゆかしくて可憐な感じが」 「桜よりもお花は少な感じだけど、梅のお花の方が綺麗な形だなぁって感じ」 されど花より団子。 「あー俺様もいーい?」 「ボクももうちょっともらおうかな」 後ろから伸びてきた葬識と悠里に、弁当は更に減っていく。 「きび? きび! きび団子!」 少し行った所もテンション上々。居たのはルナとエフェメラ。 「んー、やっぱり皆と一緒だと楽しいね。ねっ、エフェメラちゃん!」 「美味しいは正義っ!! みんなと一緒に食べるのはもっと楽しいっ♪ こっちにもお酒ちょーだいっ♪」 ルナにエフェメラは大きく手を上げた。とくとく注がれる日本酒にエフェメラはルナに注いでから、ルナもエフェメラに注ぎ返す。 フィアキィ達の前にもお団子を置いてみたり、新作を口に―――その味を、ちょっと桃田にアドバイスしていれば、エフェメラがカップ片手に盛り上がっていた。 「ニホンのしきたりでは一気に飲むんだよねっ! そーれ、一気っ、一気っ♪」 「エフェメラちゃん!」 時、既に遅し。 「あはは……あれ? なんかくらくらしてきた? でもなんかたのしいー……♪」 ばたんきゅう。困ったなぁとルナは笑いながらそっと撫で、このお団子も妹たちの為に持って帰りたいなと包んでおいた。 「日ごろ頑張ってる自分へのご褒美!」 一方で竜一は花も団子も後回し、タロジロもふもふもふもふ、見せつけるその先は―― 「今回も俺の方がもふもふしてるもんねー! ドヤァッ」 「何で君はそんなに張り合うのか!? く、悔しくなんて無いし……!」 もふぁもふもふもふもふ、参加したのはハル。何故か始まるドヤ顔合戦。 ドヤドヤしてていれば、突然、竜一がぽーんとボールを投げた。走るタロマル。次はジロマル。 「二匹ともいい子だなあ、りりしい顔立ちだし、うっほー!」 「うっほーは流石に言わないよ?」 笑いながら二人、もふもふ梅見は幸運のひと時。 後はきなこ団子にお茶で一服。美少女も居ればなんと溢れる充実感。 酒盛りの一角はおっさんくさいけど、こうして騒げること自体がいい事には違いない――。 ●季節作り 「お一人では大変じゃありません?」 桐の声に厨房から出した配膳を持った桃田は、え、と驚いた顔をした。 「だ、大丈夫です。嬉しい事ですし……」 「……」 笑みに滲む遠慮に気付けば、「お手伝いしますよ」と桐は申し出た。すまなさそうに笑いながら「ではこれを」と差し出される特大のきびだんご重ねはわいわいと盛り上がるグループのものだろう。 そんな出来る手伝いをしながら、ふと桐は桃田に寄る。 「家で作ったりできますでしょうか」 「あ、僕も! レシピ聞かせてよ。きびだんごってこんなにうまいもんだったんだな」 黒糖、きなこ、色々な味を試しながら夏栖斗も厨房の暖簾を潜る。 「ええ、案外簡単ですよ。ただ……コツが入りますけど。夏栖斗さん、フルーツ味はどうでした?」 「え!? い、いや、フルーツはいいよ! うん! またの機会で!」 「そう……ですか」 ひっそりと始まるきびだんご教室の講師もまた、きびだんご修行中。かっくりと桃田は項垂れた。 「あ、でも、ペット用のおやつ団子もくれよ……ん?」 くいくいと夏栖斗の裾を引っ張るタロマル、ジロマル。厨房まで入ってきて強請るその犬を、夏栖斗はわしゃわしゃ撫でて、よーしよしと幸せそうなその犬の顔を堪能する。 後で写真も撮っておこう。彼女の為に、――喜んでくれたら良いな、と、思いながら。 ●過ごす、この一時を 「ふわわわわぁぁぁ……ねむい」 それはなんと幸せな光景だろうか。 エーデルワイスは思いっきり食っちゃ寝を堪能していた。花より団子、梅よりきび団子。 「おかわり!」 「はい、どうぞ!」 どんと追加される各種団子にお腹がいっぱいになったらなんと丁度良い所に枕――ではなく、ワン公が。 「キ、キャフッ?」 驚いたタロマルにジロマル、ちょっと太り気味だったのが災いしたか二匹はがっちりエーデルワイスの抱き枕。 「あははははははhhh帰る時はお持ち帰りしてきたいですね、ワン公を――――ダメ?」 「勘弁して下さい!」 エーデルワイスは飼い主に頭を下げられてしまった。 ふふ、とその光景を見ていたのはフィアキィを連れたチャノ。 花咲かす梅の木に寄り添って目を閉じれば、心通える。 見れば同じフュリエのスィンも本を片手に梅の木に寄りかかっていた。それを見ながらチャノは微笑む。 「がんばって冬を越してきたのですね。お疲れ様」 さわさわ、梅が揺れる。 「待ちに待った開花の季節ですよね。とてもきれいですよ」 ざあっと梅が香りを運んだ。 リンクする感覚は春の喜び。うきうきして、楽しくて、そんな気持ちを分かち合えばフィアキィも光が瞬いていた。 「どうぞ」 店主から手渡されたそれが食べ物と気付くには少しかかり、それからチャノはぱっと笑顔を浮かべて。 「あ、食べるの? お菓子なのですか。……面白い形ですね! 色もこんなに豊富なバリエーションが! 芸術的な食べ物で……あっすごい! おいしい!」 「善哉もありますからね」 「おいしいー!」 チャノの楽しい一日はまだ終わりそうに無い。 かと思えば、一角にはどことなく負のオーラが漂っていた。 「ここ暫くの血で血を洗うシリアス展開に俺の精神はなのである。そんな日々の疲れを癒すべく誘いに応じて来てみたのであるが……」 現状をナレーションするレベルで喜平はお疲れだった。しかし、目の前に居たのは犬。 その瞬間、解き放たれるは喜平の衝動! 「あ、あああ……あれ犬じゃない? 何犬、何犬なの!? 触っていいの、もふもふしていいの!? はぁはぁはぁヒャァもうがまんできねぇ、モフルゥ!!」 フルモッフモッフゥッ。二人は四国犬と薩摩犬だと言う隙も無かったと、後に桃田は語る。 「どうぶつめでるとげんきでる せかいへいわばんざーい!」 ばんざぁい。ばんざーい! ――その音は波の音と山に響き渡った。 ●問う、その人へ 「そうか、もう一年経ったんだなぁ……」 ツァインは山の麓に続く町を見る。鬼が現れた事件。今は、全国を死体が闊歩もした。でも、アークのリベリスタ達がきちんと守ったこの町に呼ばれるという事に、ツァインはちょっと嬉しいねと笑う。 直接助けた訳じゃないけどね、と笑うツァインに桃田は言う。 それでも、貴方もまたアークのリベリスタですからと。確執はあった――それでも、護られた事は事実、守られた者は忘れない。 ちょんちょんとツァインをつつくタロジロはちょっと小太りに見えて、ツァインは笑ってしゃがみ込んだ。 「む、お前等お客さんからエサ貰い過ぎてるんじゃないか? しっかり運動もしないとお団子みたいになっちゃうぞっ」 「それは困りますね」 笑いながら、どうぞゆっくりしていってくださいと差し出されたきび団子。 風が吹けば、懐かしい声が桃田を呼ぶ。 「桃田」 「吹雪さん……」 桃田と吹雪が向き合った。 あの時の事を乗り越えて前向いて進めていると良いと、吹雪からその言葉は出なかった。 「元気でやってるみたいでよかったよ」 くすぐったげに綻ぶ桃田の表情は、梅のように満開になれないまでも、ただ照れ臭いのだと吹雪は知る。 にっと笑む吹雪と桃田は、どちらともなく空を見上げた。 「いい店だな、昔は日本中旅して色々な店を見てきた俺が言うんだから間違いねぇよ、……本当にもう心配いらねぇみたいだな」 桃田は言った。 アークの人達が居たからだ、と。手渡したのは未完成の吉備団子―――。 「旅してる時に旨いもんの沢山食ってきたからな、俺の評価は厳しいぜ?」 「……厳しいくらいで、良いですよ」 それでも何処か酷評は心構えが居るのか、少し身を固くする桃田に吹雪はぶはっと笑いかけ、酷いなあと再び桃田は厨房へ帰っていく。 そこに、「ちょっと」とリリィが話しかけた。 「最後の覚悟、問いに行きたかったのだけど。行けなかったのが残念だわ」 その一言で理解して、桃田は緩く頷いた。 「貴女も、覚悟が、剣の理由あるんですね。聞く機会が無かったのは僕も残念ですけど、どうか、貴女も僕もそれを忘れないで――行きましょう」 リベリスタとして。 海風と共に頷いた桃田の肩に、リリィは触れた。貴方ならきっと言いリベリスタになるわ、その言葉に、桃田は笑う。 けれど。 「……それはそうと。お団子の一つもくれない訳?」 「あ、すみません! えっとじゃあ……きなこをどうぞ」 その様子を見ながら笑うリリィは、これくらいで懐柔されないわよと言いながら、美味しいと隠さず言ってしまう。 「これからまた、宜しく頼むわね、桃太郎さん?」 「その名で、在れるように」 遠く離れていても、アークに居らずとも、助けられたリベリスタはアークを応援する。せめて精一杯の恩返しを。 ●あなたといっしょ 「最近はぽかぽかして気持ちいですねえ……」 慧架はぽけぇっと空を見上げていた。その傍には店長付き添いのメイド・モニカ。勿論ペットでは無い。 慧架は魔法瓶に紅茶を入れて、緑茶も用意。モニカはそれに期待して団子を探して来た。 「とりあえず店長はお団子を味わって下さい。お口あーんしてください、あーん」 「食べさせてくれるのですか? では今度は私があーんしてあげますねー」 もぐ。もぐり。美味しいと微笑む慧架は、すっかりその陽気に眠ってしまったけれど、モニカはそっと慧架を支える。 ――これも付き添いの仕事。別に他意はないと、モニカの談。 見渡せばレジャーシートを広げたペアも他に何組も居る。 糾華とリンシードは並んで座り、束の間の休息を楽しんでいた。 二人で作ったお弁当を食べ終われば、ただただ梅を二人で見る。いや、一人だけ。リンシードの視線はほぼ糾華ばかりに向けられていた。 「綺麗ね。桜も好きだけれど、梅もしっとりとした色気があって好きなのよね」 だから糾華がそう言った時に、リンシードはすかさず本心を零す。花より、お姉様のほうが綺麗で、飽きないなって―― 「な、えっ?」 「そうやって、赤くなる所が飽きない理由の一つなのです……」 思わず赤くなった糾華の事を、リンシードは変わらず見つめ続けた。もごもご口籠もりながら、糾華としてはもっと他の物もちゃんと見てあげて欲しいと思うし、でも――― 「あ、で、でも、ありがとう。嬉しい」 はにかむ糾華にリンシードは凭れ込んだ。前の決戦で頑張ったご褒美の膝枕。 「はふ……満足なのです……なんだかすみません、お姉様もがんばったのに、私だけ……」 リンシードの柔らかな髪を糾華は梳かすように撫でる。 「これくらいなら、幾らでも良いわよ? なんてね、ふふ」 でも、私も、と言い掛けた言葉を糾華は先回り。次は私もご褒美戴こうかしらと、うららかに梅の香りが包み込む。 一方、団子の香りに包まれているのはフランシスカとユーヌ、友達二人組。 「さぁて、どんなものかしら?」 「掘り出し物の味が見つかるかもしれないしな?」 目の前の皿の上に並べられたきび団子は、どれがどの味だか巧妙に隠されている。意外と合う物があるかも知れない、とフランシスカが言えば、そういえばこうしてしまっては美味しいの薦めにくいとユーヌも気付く。 「多分……これか?」 示されたそれは―― 「普通のだった……まあまあ、食べていったらその内また見つかるよ」 お茶を入れて、団子を摘まんで、熱さにふーふーしたりして、――たまにはこんなのも良い。はずだったが。 突如フランシスカがごふっと咽せた。 「!? なんか強烈な味……! お茶お茶!」 慌ててお茶で掻き込む個性的な味。尚も口の中に残るそれに、でも良いんじゃ無いかなと肯定するフランシスカと、限度が必要だなと冷静なユーヌ。 派手な珍問屋が去ったからには穏やかさが続くに越したことはないなと、ユーヌと二人、フランシスカも空を見た。 そよぐ花が一層綺麗に見える場所を陣取ったのは、辜月とシェリー。 重箱のお弁当は辜月の作。シェリーの味好みを知りたくて重ねた大きさは、張り切りすぎたかと、それに味も不安にもなるけれど。 「これは美味い、最高じゃ雪待」 その一言で全てが消えてしまう。がっつり食べるシェリーの姿に小さくガッツポーズをしていれば、シェリーがふと箸を止めた。 「雪待、おぬし先程から全く食べていないではないか。妾はおぬしが作ったものなら、何でも美味しく食べるぞ」 そんな言葉に思わず赤面しそうになるものの、美味しそうに食べて貰うのって嬉しいですからと、言葉は確り伝える事が出来た。 その後二人楽しむのはシートの昼寝。 他愛も無い話に満腹感に、何時しか辜月にシェリーは寄り添って、寝息が掛かる程の距離のまま手を繋いでいた。辜月の方は弁当作りに疲れ果て、どぎまぎする事無く自然二人は眠りの中。 「わぁ、梅の花が綺麗ですねー」 この声は慧美。そうだな、と笑いかける守夜はこの日をチャンスにと、慧美に想いを寄せていた。 何をしたら喜んで貰えるだろうか――そう考えながら。 「そういえばモモタロウというのは正義の味方なんですよね。日本の。大先輩なので見習いたいものです! と、いうわけで、きびだんごをいただきます!」 ジャージ姿の慧美が意気込めば、すかさず団子を差し出す守夜。 「慧美さん宜しければ、この味どうですか? はい、アーン♪」 「あーん。 ! 美味しいですよこの団子! 守夜さんもどうぞどうぞ!」 はしゃぐ慧美と団子を半分。気持ちがほんわり暖まれば、二人で犬を撫でて、海の音を聞いて、そんな思い出を。 「桜も良いですが、梅も良いですね」 守夜は慧美とその光景を見続けていた。 「ワウッ!」 と、そこにはしゃぐ子犬の声。 「チョビ、行くぜ!」 重なるのは軽快な声。 小さなシベリアンハスキーの子犬と木蓮が少し離れた場所で遊んでいた。すぐ傍には龍治も居る。 フリスビーを銜えてくるチョビを木蓮は抱き抱えながら、龍治を振り返る。許可してくれたのは龍治だけど、どうもチョビへの態度が固い。だから打ち解けて貰えればと思っているのだが…… さて、当の本人はと言うと、恥ずかしくて名前も呼べない有様だった。更に、呼ぶのは「犬」ときた。 木蓮が用意した茶に、団子に、犬は木蓮任せで今日の梅はなんたる見事な事か―― 「よし、特製モル柄フリスビーを取っ……あっ!!」 「な……うお!?」 「ワウンッ!」 重なった三つの声のその光景は、フリスビーが龍地に飛び、チョビが龍地に飛び、チョビはそのままもっさもっさ尻尾を振っている、そんな一シーン。 どう接すれば良いか解らないと言う龍治に、木蓮は笑顔でその腕を引っ張った。 「一回で良いから龍治もフリスビー投げよ!」 龍治は足下のチョビを見た。舌を出してキラキラ見つめるそのチョビに、 「……慣れるよう、善処する」 そう頷いた。ワンッとチョビの元気な声がまた響く。 その傍を抜けて散策するのは、涼とアリステア。 「もう春だねー」 「そうだな。随分と暖かくなったよな。つい先日までスゲェ寒かったのにな」 並んで歩くアリステアの髪には桜の髪飾りが揺れていた。つけてくれている、それも、思った以上に似合っていて涼がじっと見つめていれば、照れたようにアリステアが小さく笑った。 「プレゼント、ありがとうございました。……似合ってるかな? 私、桜好きって言った事あったかな?」 質問の止まらないアリステアに、涼は短く、「綺麗だよ」なんて付け加えた。 そんな言葉を聞いて、アリステアは思う。 一緒にお話しするのは何度目だろう。いつも丁寧に話を聞いてくれて、知らない事を教えてくれて。 「おにぃちゃん、ってこんな感じかな。いつも優しく見守ってくれるような……いつもありがとうなの」 ぽつりと言った言葉に、 「兄みたいな感じか。自分はそんなことを思った事は一度もないけれども、な」 え、と、顔を上げるアリステアに歩幅を合わせて涼は優しく微笑み返す。君と過ごす時間は楽しいよと言われた言葉に、何故だろう、何故、服を掴みたくなって。 「次、いつ会えるかな?」 つい口にした言葉に、涼は言った。「――いつでも。君が望んだ時に」なんて。 「過ごす時間が楽しい、と言うのには嘘はないよ」 ●犬、春、名前 亘は大きく背を伸ばした。最近忙しかったから休める時に休みたいもの。しかし一人は矢張り物寂しい―― そこで見つけた一人のフォーチュナ。これも運命かと亘は誘う。 「初めまして、そして御機嫌ようハルさん。一緒にお花見でもどうですか?」 「勿論だよ……って、屋根?」 亘が示したのは屋根の上。見上げるハルを亘は満面の笑みでその手を取る。 「ふふ、ちゃんとエスコートしますよ」 「じゃあ任せようかな、しっかり頼むよ、Herr 亘」 演技かかった仕草のハルを笑って流せば、二人の話題は猫、鳥、動物達。 「ノルウェージャンフォレストキャットを知ってるかい? あのもさもさがね」 「良いですね。短毛種も中々」 尽きない話題にハルがその翼に目を奪われ始めたその時、ウォンと下から犬の声が響いた。まだ遠くからのその声はどんどん近付いてくる。 「あ、ハルさん発見なの――!?」 二匹のわんこと、引っ張られているのはひよりの姿。 「あ、ひよりだ。亘、ちょっと降りないかい?」 「帰りは触って良いですよ、羽根」 くすりと提案された許可もハルは忘れない。もふっと触れてから降りれば、二匹の犬がハルに飛びかかる。わぁっと慌てるひよりがリードを引っ張るも、犬は止まらない、ハルも止めない。 「ご、ごめんなさいなの。さっきまで、大人しかったのだけど……おぼえてるみたい。この子達にお名前くれたハルさんのこと」 リベリスタ達に命も犬生も救われた二匹の犬。その口を揉んでから、耳を撫でて、ハルはこつんと額を額に当てた。 「うん、良い顔。ひより、ありがとね。フォルテもドルチェもすっかり幸せ顔だよ」 そのまま飼ってとは――無責任に言えないけど、せめて里親をハルも願う。 「よぉ」 そこにきびだんごを一つ、声をかけたのはヘンリエッタ。 「ハルさんは何を?」 「……もふもふ?」 なんだそりゃ、と笑ってから、ヘンリエッタももふもふ大会に参加した。ハルさんと呼ぶのは何だかおかしな心地だなと呟くその言葉に不思議そうにする三人の前で言ったのは、ヘンリエッタも故郷ではハルと呼ばれたらしい事。 「じゃあ、僕がハルで」 「オレもハルだ」 一呼吸置いてから、二人は同時に「お揃いだね」と噴き出した。仲間に入れてと吼える二匹の犬に振り返り、 「オレ、後で畑のキビを見せ手貰おうと思うんだ。皆で行ってみるか?」 ヘンリエッタは変わり種きびだんごも口に入れながら提案した。 勿論答えは全員共に――木漏れ日のように頷く笑顔。 ●見ゆる風景 梅の花に囲まれて、団子をほおばり仲間と話す一時。 それはとても心惹かれるものだけど、シーザーだけは一人山を登っていた。 桜の花とは違う、梅の花の道を登る。成程、可愛らしい花ですね、と得心を得て進んだ先に見たのは、海、そして遠くには四国が見える潮の町。 静かに広がる緑の森。 「これが、極東の大地……そして、箱舟の守る地か」 美しい――シーザーは呟いていた。目を奪われていた。そしてそれは誓いに変わる。 ――これからは、私もアークの一員として頑張らなければ。そう、此処に気持ちを改める。 重なる潮の音と梅の香りに、―――リベリスタ達の心は空のように澄んでいった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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