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恋のキューピッド大作戦!

●それは、恋の季節
 いつからだっただろう……隣の家の、弟みたいだった男の子を、こんなふうに見上げて話すようになったのは。
 大人しくて目立たなかった子が、中学に入って身長がにょきにょき伸び始めた頃から「クール♪」「かっこいい♪」なんて言われちゃって、モテだして(慣れてる人にはよく喋るんだよ、クールだとかじゃなくて、ただの人見知りなのに)。
 いつのまにか、あたしの呼び方も「はるなちゃん」から「はるな」に、学校では「佐枝」なんて名字で呼び捨てされるようになって(そういうあたし自身も、なんか照れくさくて、学校では名字で呼ぶんだけど)。
 他の女の子が秋人と話してると、胸のところが、ちくちくする。
 ふたりきりでいると、時々へんに緊張して、顔が見られなくなる。
 こんなふうになっちゃったのは、いつからだっただろう……。



 芽吹きの季節を告げる、暖かな日差し。気持ちが浮き立つような、春の訪れの気配。
 公園のあちこちに咲き出した梅や白木蓮の花がそよと揺れて、沈丁花のいい香りが、風に乗って漂ってくる。空は優しい水色で、池の水面はキラキラして、こんなにいいお天気……それなのに。

 池のほとりで微睡んでいた野良猫たちが、急に立ち上がって、一目散に逃げ出した。
 好きな人と一緒に見つけることが出来たら結ばれるって噂の、ハート模様の猫がいる公園。見つけられたらいいなと思って、なんだかんだと理由を付けて通った遊歩道。
 秋人とあたしがそこへ差しかかった途端、何かに追い立てられるように全速力で逃げ去って、猫は1匹もいなくなった。まるで、あたしの恋が叶うことなんかないって、告げるみたいに。
「なんだ? 変な猫だな」
「うん、どうしたんだろうね……(涙目)」
 へろへろとベンチに座ると、秋人も隣に腰掛ける。
 うつむいたら、買ったばかりの花柄ワンピースの、マカロン色。今日のこと、とってもとっても楽しみで、気合いを入れて買った春の新作。なんであたしってこう、空回りしちゃうのかなあ。
「……紅茶の良し悪しなんて、素人には理解できないもんなのかな。俺にはこれとの違いが分からなかった」
 さっき行った、カフェのこと。ペットボトルの無糖紅茶を飲んで、秋人が言う。
「うん……ごめん、たぶん、お店まちがえた……」
 新鋭パティシエールの作るケーキ……のわりには普通だったし、イケメン店長さんって聞いてたけどモヒカンのこわいひとだったし、お店の奥から電子レンジの「チン♪」って音がしてたし……たぶんというか、確実に、まちがえた。
「……そういうことは早く言えよ、全く。はるなは方向音痴だから、俺に店名教えろって行っただろ。今から正しい店、行くか?」
「ううん、いいの、もうおなかいっぱい」
 自分がおばかすぎて胸が苦しい……むしろ、おなかがいたい……。

 バレンタインのお返しに、ホワイトデーには食べたいものを何でもおごる。それがここ数年の、秋人とあたしの定番だった。
 秋人は小さい頃から甘いものが大の苦手で、おかきとかお煎餅ばかり食べる爺くさい子供だったから、今年はパンを焼いたんだけど……何回も練習して、ラッピングも(秋人はラッピングの事なんて全く気に留めないだろうとわかってはいたけど)わざわざ専門店まで行ってこだわって……そのくせ、当日は緊張して「はるなお姉ちゃんがついでのおまけにバレンタインのプレゼントを恵んであげるから、ありがたく受けとりなさい! さあ、おがみたてまつれー!」とか言っちゃって。
 絶対義理チョコ……いや、義理パンとしか思われてない。
 あたしと同い年でも、百戦錬磨の手練手管で恋愛の猛者な女の子はいっぱいいるのに。臆病でこどもっぽくて弱虫なあたし。こんなじゃ、うまくいくはず、ないよね。
 あたしが知ってるかぎり、秋人は今年、4人の女の子に告白された。
 なんて答えたの? 付き合ったりするの?
 すごくすっごく気になってるくせに、返事が怖くて、未だに聞けないなんて。
 ああ、それにしてもほんとに、おなかいたい……。でもこんな日に、こんなときに、トイレ行きたいなんて言いたくないよーー!

「はるな、顔青い。 ……具合悪いのか?」
「ヘ イ キ ダ ヨ !?」
 そんなとき、遊歩道を一人の女の人が歩いてきた。長い黒髪のすっごい美人、スタイルもよくて、女優さんみたい。その美人さんが、あたしたちの前でふらりとよろめく。秋人が咄嗟に立ち上がって、倒れかけた彼女を支えた。
「ごめんなさぁい……持病のしゃくと動悸息切れとインフルエンザがぁ……」
「……大丈夫ですか? 頭でも打ったんですか」
 女の人は、秋人にしな垂れかかって、ばいんばいんのお胸をおしつけてる……ように見える。
「あぁん、もうダメ、これ以上歩けそうにないわぁ……ねぇ可愛いボク、タクシー乗り場まで連れて行ってくれないかしらぁ?」
 長い睫毛に縁取られた瞳が秋人を見つめて。ううっ、やだなあ……って、だめだめ、この人は急病なのに何嫉妬してるのよ、あたし!
「いや、俺の連れも今体調が優れないんで、悪いですけど」
「う、ううん! あたしは大丈夫だから、ついていってあげて! (それに、トイレにこもるチャンス!!!)」
「そうよ、この子なら大丈夫よぉ~。う゛っ、ぐるじい、死んじゃう゛~~~」
「……」
 秋人が心配そうな顔であたしを見るから、ぐいっとその背中を押しやった。
「いいから、行ってきて! ここで待ってる」
「わかった……ごめん、はるな。タクシーつかまえたら、すぐ帰ってくるから」



「……っくしゅん!」
 何組ものカップルが、あたしの前を通り過ぎていった。みんな、ギクシャクしてたり、どっちかが落ちこんでたり、喧嘩していたり。今日は全部の星座の恋愛運が、最悪の日なのかなあ。
 秋人はまだ帰ってこない。携帯鳴らしても、出ない。
 美人さんの病状が悪化して、病院についていったとか? まさか、事件や事故に巻きこまれたんじゃないよね? 心配になって二人が向かった公園出口のほうへ小走りする。
「そこのお嬢さん」
 並木道の途中で、あたしを呼び止めたのは易者のおじいさんだった。
「はい?」
「貴女は今、美しい女性と消えた、幼なじみの男の子を探しとる。事件や事故に巻きこまれたんじゃなかろうかと、心配しとる。 ……違うかな?」
「な、なんでわかるんですかっ!? まるで心を読まれたみたい……」
 心の中をじろじろ見られているような、なんだかいやなかんじ。ぼったくられちゃったら困るし、はやく立ち去らなきゃと思うのに、足がすくんで動けない。
「なになに、金を取ったりはせんよ。貴女のような、可哀相な運命のお嬢さんからはの」
「え……?」
 おじいさんの濁った眼が、あたしを見据える。やだ、こわい……!
「お嬢さんはその男の子に懸想しとるようじゃが……その想いが叶うことは無いのう。金輪際何があろうとずぇったいに無い!! かわいそーにのう、ひょひょひょ」
「……っ」
 占いなんて、100%当たるわけじゃないって、知ってるのに。おじいさんの言葉は正しいんだって、そんな確信が、こころのなかにべっとりと貼りついていく。
 人前で泣いたりなんかしたくないのに。涙が零れて止まらなくて、ベンチまで走って戻った。マカロン色のお花模様の上に、ぼたぼた涙の染みができていく。
 秋人、ちゃんと戻ってくるよね。易者のおじいさんが言ったこと、本当だと思いたくないよ……。
「ひっく……ふえーーん……」

●キューピッド出動!
「このあと、はるなは日が落ちるまで3時間待ち続け……風邪をひいて1週間寝込むことになる。秋人からは何度も謝罪があったが、関係はそれからぎこちなくなってな」
 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、モニターを背に語る。
「で、はるなの風邪が治った頃。秋人は一夜のアバンなチュールの責任を取って件の黒髪美人と付き合うことになり……はるなはショックを受けてさらにもう1週間寝込むというわけだ」
「…………ひでえ」

 アーク本部、ブリーフィングルーム。集まったリベリスタたちに向けて、伸暁はニッと笑んだ。
「だが、これは未来の出来事だ。如何様にも変えることの出来る、未来。――これをどうにかするのが、今回の依頼だ」
 モニターの映像が切り替わり、4人の男女がぼんやりと映し出される。ショッキングピンクのモヒカン男、映像には現れなかった悪童じみた少年、黒髪美人に、易者の老人。
「察しのいい奴は気付いたかと思うが、これはフィクサードの仕業だ。『恋愛フラグへし折り隊』と称する4人組でな。クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーと言ったカップルが増えるイベントの時期に、E能力を使って恋愛フラグをへし折ろうとする連中だ」
 出現場所を説明するから、資料を見てくれ。そう言われて、リベリスタたちは渡された資料のページをめくる。

◆恋愛フラグへし折りPOINT1
◇出現フィクサード:隊員1号(モヒカン)

 空き店舗を使い、『Secret Garben』という人気店と紛らわしい名前のカフェを開設。
 辺りに店のチラシを貼りまくり、人気店へ行こうとする客を勘違いさせ、カップルの片方に緩やかに効く下剤入りケーキを食べさせている。
 (※秋人は甘いものが食べられないため、100%はるなが下剤入りを食べるはめになる)
 来店後に間違いに気付いた客も、【幻影】で扉を消す・脅す等して食べ終わるまで帰らせない。

 はるなたちが本来行きたかった店は『Secret Garden』。
 あまり混み合うとお客様が寛げないという理由で、マスコミ取材は全て断っている隠れ家的カフェ。
 ウェブサイトも目立つ看板も無いが、探せば『Secret Garben』と少し離れた場所に見つけることは可能。

◆恋愛フラグへし折りPOINT2
◇出現フィクサード:隊員2号(悪ガキ少年)

 「ハート模様の野良猫を、好きな人と一緒に見ることが出来たら結ばれる」というジンクスで、周辺に住む女子中高生にとても有名な池。
 【ファミリアー】を使い、池のほとりで暮らす数匹の野良猫を支配。カップルから全力で逃げさせて、ジンクス成立を妨害している。
 本人はカップルたちの反応が見られる場所に潜伏。親にまだ早いと言われ、携帯は持っていない。
 リベリスタにお仕置きされると知れば、操った猫たちを盾にしてくる可能性もあり。
 (※出来るだけ猫は傷つけないでくれよな。 by黒猫)

◆恋愛フラグへし折りPOINT3
◇出現フィクサード:隊員3号(黒髪美人)

 公園周辺を徘徊し、いい男を物色。
 カップルの男性を【魔眼】で誘惑・催眠状態にし、彼女から奪い、取って喰おうと目論んでいる。
 万華鏡で見た未来では秋人が狙われたが、もっといい男が先に現れれば、その限りでは無い。
 E能力者はじっと見ることで相手をE能力者と識別するので注意。
 しかし、隊員3号は一度に一つのことにしか集中できない鶏頭なので、ある程度までは気付かないかもしれない。

◆恋愛フラグへし折りPOINT4
◇出現フィクサード:隊長(易者老人)

 公園出口へと続く並木道に占い師セットを一式設置。
 【魔眼】と【ハイリーディング】を悪用し、カップルに絶望的な未来を宣言してショックを与えている。
 E能力者なので一般人のお年寄りよりは頑丈だが、腰痛持ちで杖使用のため、逃げ足は遅い。
 機械操作と細かい文字が苦手で、携帯は持っていない。

 ――――資料から目線を上げたリベリスタの表情は様々だった。
「なんというか、手が込んでいる上に悪質なあほだな……」
 伸暁は苦笑すると、改めてリベリスタたちに向き直る。
「命までは取ることもないだろうが、昔から『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてDead or Alive』って言うしな。奴らの悪巧みを、なんとか阻止してほしい。……ついでに、恋のキューピッド役をしてやってもいいんじゃないか?」
 よろしく頼むぜ。
 伸暁に見送られ、リベリスタたちはうららかな春の町へと向かう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:鳥栖 京子  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月26日(火)23:09
 オープニングが長い病をこじらせました……鳥栖京子です。
 フィクサード『恋愛フラグへし折り隊』の企みを阻止し、一般人のホワイトデーデートを成功させてください。

●成功条件
 フィクサードによる恋愛フラグへし折りを阻止する
 (阻止に成功すれば、フィクサードを逃がしてしまったとしても成功です)
 一般人に死傷者を出さない

●フィクサード『恋愛フラグへし折り隊』詳細
 全員ジーニアスでLV10前後。
 一般人に対しては無敵ですが、戦闘には不慣れなため、皆様の敵ではないでしょう。
 (戦闘プレはごく薄くてOKです)
 周囲に人がいる時間帯になって動き出すため、なんらかの手段によっておびき出す・一般人を遠ざける・小芝居でごまかす等、一般人の目を考慮することが必要です。

◇隊員1号(ホーリーメイガス・32歳・男)
【幻影】【威風】
 お菓子作りが趣味のモヒカン。
 ケーキはお手製、紅茶はペットボトル飲料をカップに空けて、レンジでチンしてます。

◇隊員2号(スターサジタリー・10歳・男)
【ファミリアー】
 「恋愛」や「カップル」はやたら茶化したくなっちゃうお年頃。
 言葉遣いが悪く反抗的だが、小動物が好きな優しい面もある。

◇隊員3号(ナイトクリーク・23歳・女)
【魔眼】【センスフラグ】
 ちきんへっど&腹黒の残念美人。
 一人で歩いているいい男は狙わず、カップルのいい男を狙います。他人のオトコは蜜の味♪らしい。

◇隊長(マグメイガス・71歳・男)
【魔眼】【ハイリーディング】
 還暦越えてから覚醒したフィクサード。
 腰痛持ちなのでお手柔らかに。

●一般人詳細
 特に誘導をしなければ、へし折りPOINT1~4の順に進みます。

◇佐枝 はるな(さえぐさ・-)
 高校一年生。
 背が低く、ショートボブでつるぺたー。
 明るく元気で男女共に友達も多いが、ものすごく照れ屋で奥手。注意力散漫。
 幼い頃から毎年、バレンタインには幼なじみの秋人に煎餅やらパンやらプレゼントしているものの、
 恥ずかしさから冗談めかしてしまい、全く本気と思われていない。

◇葉山 秋人(はやま・あきと)
 高校一年生。
 乙女心の機微に疎い、ツンツン系眼鏡男子。
 周囲にはクールな性格と思われているが、実は人付き合いに不器用なだけ。
 慎重で疑り深く、考え方は合理的。
 しかし、はるなが絡むと冷静な判断力を失いがち。
 ちなみに、はるなは知らないことですが、告白は全て丁重にお断りしています。

●その他
 へし折りPOINTが4箇所あるので、お二人ずつ分担するのが一応の推奨ですが、
 他の方法を取っても勿論構いません。

 フィクサードの妨害を阻止するだけでなく、恋愛フラグの立つようなイベントを起こす、ロマンティックな
 シチュエーションを用意する、恋のアドバイスをする等、出来ることは色々あるかと思います。

 高校生の恋愛を応援するためにアークに予算100万円請求……とかは怒られますので、
 皆様の出来る範囲のことで、恋のキューピッド役をしてあげていただければと。
 ややこしい依頼ですが、よろしくお願いいたします!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
ホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
覇界闘士
遊佐・司朗(BNE004072)
クロスイージス
浅雛・淑子(BNE004204)
ナイトクリーク
平木・叶(BNE004295)
クロスイージス
★MVP
ティエ・アルギュロス(BNE004380)
ミステラン
シュシェ・リクルキエ(BNE004406)
ミステラン
シェラザード・ミストール(BNE004427)
■サポート参加者 2人■
ナイトクリーク
月杜・とら(BNE002285)
ミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)

●POINT1
 心に浮かぶは故郷の森。
 翠の天蓋からきらきら零れる金色の木漏れ日が、体中に満ちていくように……爽やかな若葉を思わせる素晴らしい香り、そして広がるほのかな渋みと甘みが、体中を癒やし浄化していく。
「はあ、お茶が美味しい……」
 『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)は、ティーカップ片手に呟いた。長身の店主曰く、異国から直接仕入れたばかりだとかいう春摘みの紅茶が、陽光をうけて黄金色に煌めく。
 坂道の途中にあるこのカフェは、建物の2階にあるにも関わらず庭を持ち、店内やテラスで多くの客がケーキと紅茶を楽しんでいた。とろけそうな顔でケーキを頬張っていた少女――佐枝 はるなが、ルナと目が合って嬉しそうに手を振る。
 フィクサード開設の紛らわしいカフェ『Secret Garben』に入ろうとしていた彼女たちを、ルナはここ『Secret Garden』に誘導したのだが(間違いに気づけたと感激され、折角だから一緒にお茶しませんかと誘われて、流石にそれは断った)……どうやら、デートはうまくいっているようだ。
 若い男性店員にテイクアウトの用意ができたと告げられて、ルナは慌ててお茶を飲み干す。
「(お仕事の後には美味しいケーキ! みんな待ってて、お姉ちゃんが持って行くからねっ!)」

 ――同じ頃。
 ガンガンと響くデスメタル。
「オウイェー オウイェ~♪ ヒャッハー!」
 合わせて歌うモヒカン店主の声。
 晴れた昼でも電気が必須の、日の射さぬ店内。放棄されていた品をそのまま使っているのか、ビニール製の椅子からは綿が飛び出し、空気には仄かに埃の饐えた臭いがする。
「(これは……入店したときに気付こうヨはるなサン!?)」
 『然にあらず』平木・叶(BNE004295)は心の中で、リベリスタが介入しなかった場合のはるなにツッコミを入れた。
 『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が展開した強結界も効いているのだろう、店内に客は、カップルを装った叶ととらの二人だけ。帽子やウィッグ、洋服で種族特徴を完璧に隠し、全く怪しまれてはいないようだ。
 隊員1号が他所を向いている隙に――手筈どおり、とらが盛大にお茶を零す。
 ガチャン!!
「ごめんなさーい、お茶零しちゃったぁ~!」
「ああん? なにやってくれちゃってンだよネーチャン!」
 1号がふきんを取りに、奥へと引っ込む。
 その機会を逃さず、叶は二つのケーキに細工を施した。食べたと見せかけるために一口分ずつ切って、ティッシュに包み素早く隠蔽。粉状の下剤を振りかける。
 悪質なフィクサードを懲らしめるために、彼らが取ったのは『因果応報・ゴロゴロピーにはゴロゴロピーを』作戦。二つとも下剤入りになったケーキを指し、叶は1号を呼ぶ。
「うぇ~、このケーキ辛いヨ! 塩と砂糖、間違ったんじゃねー?」
「あんだとコラ! ンなはずあるか!!」
 ふきんを床に叩きつけ、大声でがなる1号を、叶はへらりとかわす。
「嘘だと思うなら食べてみてヨー。 オレのでも彼女のでも、どっちでもいいからサ」
「……ちっ」
 少しの逡巡のあと、とらの前にあったケーキを手づかみで自らの口に放り込んだ1号は、うっとり瞳を輝かせる。
「最っ高にスイートじゃねえか……さすが俺様! 俺様のお手製おケーキにいちゃもんつけやがって、アンチャン覚悟はできてンだろうな!?」
 叶の襟首に掴みかかろうとした1号を、とらの全身から放たれた気糸が縛り付けた。テーブルをひっくり返し、床にどう、と倒れるフィクサードの体。
「ナイス、とらサン」
「なっ……まさかテメェらリベリスタか!?」
「あったり~☆」
 きゅうううん。1号のおなかが不穏に鳴る。

 扉の外で見張りをしていた『ハティ・フローズヴィトニルソン』遊佐・司朗(BNE004072)は、静かになった店内を覗いた。
 厄介事に関わるのは御免だが、恋愛に関することは――それも、幼なじみ同士の恋愛とあっては、放っておける筈もない。普段は面倒くさがりな司朗も、今回ばかりはむしろ全員、殴りたい。
 薄暗い店内では、叶ととらが、正座させられた1号にお説教していた。
「まずは、人を騙すような看板は下ろして、二度とケーキを汚さないって誓ってくれるかナァ?」
 飄々と語る叶に、1号は全力で頷く。
「はいそれはもう仰せの通りに! ウ゛ッ! (きゅるきゅる)」
「大丈夫、可哀相な非リアの命までは取らないよー」
 と、とら。
「あの、リベリスタのニイさんネエさん、そろそろトイレに行かせて頂きたいンすけど……」
 顔色を蛍光ブルーにした1号が訴えるも、二人はマイペースに続ける。
「ケーキが好きなら、それを食べる人の気持ちも判るダロ?」
「トイレ(こくこく)」
「アンタが……人を苦しめる為じゃなくて、喜ばせる為に作ったケーキ、オレ一度食べてみたいヨ」
「……トイレ……」
 心を打たれたか、もしくはいよいよ限界が近いのか、フィクサードの目に涙が浮かぶ。
「それにしても、最近は本当に陽気がいいよナァ」
「トイレトイレ!?」
「……さて、ここで小咄をひとつ」
「トイレェ!!!」
 叶に体を支えられ、よろよろとトイレに向かう1号を「ざまぁ!」と嘲笑し……司朗は駆け出す。公園を目指して。

●POINT2
《はるだよ はるがきたよ》
《すてき すてき》
《みんなが わたしたちをみて えがおになる》
《うれしい うれしい》

 さわさわ。さわさわ。
 優しい春の風に撫でられて、公園の植物たちが楽しげに謳う。
 何処の世界でも、植物は彼女らの友人。隊員2号を探し歩いていた3人のフュリエは、綻ぶ花々や芽吹く若葉の喜びを、我が事のように嬉しく感じる。
「翠の羽の、私たちの大切なお友達。教えてください、この辺りに、隠れている男の子はいませんか?」
 白地に茶ぶちのモルぐるみを着込んだ『着ぐるみすと』シュシェ・リクルキエ(BNE004406)が尋ねると、植物の小さな声が囁く。
《どこ? どこ》
《こっちだよ わたしたちの ともだち》
《おいで おいで》
 植物に導かれるように進んだ先。五感に優れたシェラザード・ミストール(BNE004427)が、獣の匂いと息遣いをいち早く察知する。
 日溜まりの中、気持ちよさそうに昼寝をし、互いに耳を舐め合っている小動物たち。殆どは痩せぎすの汚れた体をしているが、1匹だけ際立って大きな体をしたものがいる。白い背中には……黒い大きなハートの模様。
「これが、猫なる動物ですか」
 シェラザードが傍に屈み、興味深そうにそっと指を伸ばすと――
「ねーちゃんたちも、そいつが目当てなのかよ?」
 木の上から、子供の声が降ってきた。見上げれば、目つきの鋭い少年が枝に腰掛け、こちらを睨んでいる。おそらく彼が2号だろう。
 『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)が歩み出て、無機質な声で告げる。
「お前が恋愛ぷらぐとかいうものをへし折るフィクサードか。私たちはアークから来た者だが」
「げっ! リベリスタ!?」
 慌てた少年はファミリアーを使い、猫を盾にしようとしたのだろう。猫と五感を共有した途端、くらくらと目を回し……枝からずるりと滑って灌木の茂みに落下する。
「ってーー! なんだよこれ……って、ああーー!!」
 小さな葉を顔中にくっつけた少年が見たのは、ぐでんぐでんに酔っ払い、だらりと伸びる猫たちの姿。
「私、最終兵器を持ってきました! マタタビどーん! です!」
 えへんと胸を張るシュシェ。ティエがフィクサードをじっと見据え、淡々と語る。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られるという格言を知らないのか? この“馬”はおそらく、故郷にいた巨大な鱗がある獣のことだろう。牙を生やした筋骨隆々の戦士も騎乗している……お前、たぶん死ぬぞ?」
「ち、ちげーよ! 馬ってのは、府中や船橋にいるんだぜ!? 普通に暮らしてれば会わねえし、蹴られることなんかねーもん!」
 反論しつつも、10歳の少年は明らかに動揺している。
 シュシェは酔いから醒めてきた猫たちに持参した猫缶を開けてやりながら、静かに言葉を紡ぐ。
「ジンクス目当ての人も、可愛がってごはんくれて、この子たちの為になる人です。責任もっておうちで飼えないなら、それを邪魔するのはダメです」
「……」
 うつむいて、黙り込む少年。
 そのとき、シェラザードの耳がぴくりと動いた。
「件の二人組が、こちらへ近付いてきています」
「お前、協力してくれないか」
「はあ? なんで俺が? ばっかじゃねーの」
 ティエの依頼に、ぷいとそっぽを向く2号。シェラザードは彼に歩み寄ると、ふいに、その額に口づけを落とした。
「~~!!?」
 瞬時に真っ赤に染まる、少年の顔。
「ね、姉様、子供の顔色がバイデンになってしまいました」
「ほんとにバイデンです、何をなさったのですか、姉様!?」
 慌てる妹たちに問われ、シェラザードは、はてと小首を傾げる。
「この方法が“男の子”なる存在を説得するのに有効と、この世界の友人に聞いたのですが……」
「な、なんかさっきみたいに、ふわふわくらくらするぜ…… あーもーくそっ、やってやらあ!!」

 どどどどど。
 おなかの肉をたゆんたゆんさせながら、ハート模様のでぶ猫が、小柄な少女に突進する。その後を追いかけて、他の野良猫たちも走った。おそらく、ジンクス猫の傍にいれば、餌にありつけるということを学習しているのだろう。
「えっ、なに!? きゃっ!」
 少女の胸に飛び込み、がしっと抱きつくでぶ猫。その重さによろめきながらも、背中のハート模様を見て、少女の目にじわりと涙が溢れる。
「う、うそ……信じられない、まるで、魔法みたい……!」
 ぽろぽろ泣きながら、ありがとね、ありがとね、とでぶ猫を、他の野良猫たちを撫でる少女。
「はるな、泣くほど猫が好きだったのか?」
「うん、好き。大好きなの……!」
 その様子を、3人のフュリエと1人のフィクサードが、薮の中から覗いていた。
「姉様、たった一人を選んで、その人にも選ばれたいって気持ちは、よく分かりませんけど……なんだか二人とも、幸せそうですね♪」
 交感能力で気持ちを分かち、微笑みあう3人。その様子に、少年は怪訝そうな顔をする。
「本当にあんたら変わってるな。ゲームに出てくるエルフのコスプレしてるし……」

●POINT3
 レースの日傘が優しく影を落とし、陶器人形のような少女の、肌の白さを際立たせる。傘を持つ青年の陽の光を凝らしたような金の髪が、そよ風に靡いた。
「ねえ、あっちにも行ってみましょう?」
「ああ、喜んで。散歩には良い季節だね、穏やかな時間だ」
 青年の腕に軽く腕を絡め、ひらひらと舞う蝶のような足取りで歩む少女。思わず溜め息の零れるような麗しい恋人たちの姿に、公園にいた一般人の視線も集まる。

 彼らは、超幻視で覚醒前の髪と瞳の色を装った『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)と、幻視で翼を隠し、オッドアイの双眸を薄茶に見せた『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の偽カップルであり……心の声は、
「(佐枝さんたちが来るまでに、片付けてしまいましょう)」
「(乙女の淡い恋心を応援する前に、無粋な輩を全力でシメなくては……くすくす……)」
 と、こんな具合なのだが……端から見ている衆人には、そのような気配は微塵も伝わらなかった。物陰からいい男を物色していた、隊員3号も同様である。
「あらぁ、いい男♪ それに女の方は、アタシの嫌いな清純系だわねぇ。うふふ、奪い甲斐があるわぁ」
 物陰でおしろいパフパフ、速やかに化粧直しをすると、3号は悩ましげな表情を作って遊歩道へと歩み出る。
「(アタシの恋した男……保育園のマー君も、小学校のゴロちゃんも、中学校のタゴサク君も、みんな清純派女子に奪われた……この恨み、はらさでおくべきかぁ!)」
 完全なる八つ当たりの怒りに燃え、色気を迸らせるのに必死だった3号は気付かなかった。罠にかかった獲物に、恋人たちが瞳を鋭く光らせたことに。
「……今日はわたしだけ見ててくれなきゃ嫌よ」
 淑子は嫉妬深い恋人を演じ、遥紀の翼を隠すように3号の視線を遮る。
「オウフッ……ごめんなさぁい、持病の頭痛肩こりと疳の虫がぁ……」
 想定通り、遥紀にしな垂れかかる3号。
「――大丈夫かい? 美しいお嬢さん」
「ねぇ素敵な貴男、タクシー乗り場まで連れて行ってくれないかしらぁ?」
 黒く濡れた瞳が彼を見つめる。E能力者である遥紀に魔眼は通用しないが、人目につかない場所へ誘導するためにも、誘惑されたふりをしなくてはならない。
「君のような翼を傷めた天使を、一人にしておける訳がないだろう?」
「あらぁん、お上手ねぇ♪」
 遥紀の甘い微笑みに、3号は益々ぴったりと密着した。
「(……後で綾兎には土下座だな)」
「そんな、あんまりだわ……」
 打ちのめされた恋人を演じ、フィクサードに企みの成功を信じさせつつ。淑子は、3号に気付かれぬように二人の後を追う。

「っぎゃーーーー!!!」
 響き渡る叫び声に、驚いた小鳥たちが一斉に飛び立った。
「恋路を邪魔する人は馬に蹴られてしまうもの」
 少女の白い手に握られた巨大な斧が、ぎらりと光り、振り下ろされる。
「女の子は優雅に、足蹴になんてしないけれど――ふふ、お馬さんでなくてよかったわね?」
 追い詰められ、カサカサ地面を這って逃げる先には男の靴先。
「むしろ素直に馬に蹴られておけば良かったと、後悔させてあげるよ」
 魔力で作り出された矢が、標的を逃さずに貫く。
「最近のキューピッドの矢は物理なので、覚えておくようにね」
 涙だばだば化粧もはげはげの3号が命の危機を感じたとき、近付いてくる複数の足音と、仲間の声が聞こえた。飛来した弾丸が、リベリスタに降りそそぐ。
「3号ーー!」
「に、2号ちゃん!」
 駆け寄ると、女を庇うように立ち塞がる少年。
「3号は確かに手癖も性格も頭も悪いけど、命まで取ることねーだろ!」
「2号ちゃん……(いつかコロス!)」
 よれよれぼろ雑巾の3号をだいぶ身長が足りないながらも支え、逃げていく2号。追いついたフュリエたちがその後ろ姿に声をかける。
「私はティエ・アルギュロス。お前の名は?」
「……子迫 虎鉄(こざこ・こてつ)。覚えてろよリベリスタ! ばーーーか!!」
「私はシュシェです、またねー!」

●POINT1・2……1・2・3・4!
 一番Guiltyなのは誰だ
 それは全てを画策するCaptain
 DespairなFutureなんかNo thank you

「えーっと……何これ? いつからミュージカル?」
 駆け付けた司朗の動揺もお構いなしに、『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)はいつも通りぼんやりと答える。
「なんかNOBU様が降りてきました……あ、いた、おじいちゃん」

 素敵なLoversを守るため
 振り下ろせよJudgment
 それが俺達のJustice

「そこゆく若人、二人の運命を占って進ぜよう」
 にたりと笑んで手招いた易者の顔が、ひたと強ばる。幻視があろうともE能力者には見える、近付いてくる少年の白い獣耳。――そして、少女の長くたなびくあの尻尾は、一体なんの動物か?
 突然現れたビーストハーフ二人の意図を知るべく、小梢の思考を読みとる隊長。視えたのは、つやつやごはんにお肉たっぷり黄金色のルウ……
「ら、ライスカリー!? ……おぬしら、何者じゃ!!」
「馬ですよ」
 平然と答える小梢。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてDead or Alive」
 逃げようと杖を手に立ち上がる隊長を、司朗が遮った。冷たく見下ろす、氷色の瞳。
「さあ、懺悔の時間だよ」
「――Are you ready?」

 疾駆するNightmare
 舞い上がるDouble Ponytail
 繰り出される蹴撃はDead or Alive

 先手を取ったのは司朗だった。圧倒的速さで蹴り飛ばし、感電した隊長が立ちすくむ。そこへ近付く、髪と尻尾のWポニーテール。
「大丈夫、本気は出さないから。……ぎっくり腰になる位は、仕方ないよね」
 炸裂する馬ビスハのローリングソバット。
 ごきゅっ。
「ぁあ゛!!?」
 おじいちゃんの腰から、嫌な音がした。

「今後一切しないっていうなら、許してやらないことも無いけどさ。いい年こいて何してんの?」
「儂だって……儂だって可愛い婆さんとゲートボールしたりしたかっぁあ゛ーっ!? 嬢ちゃんもっと優しく擦らんかいっ!!」
「は~だるだる」
 ぎっくり腰で動けなくなった隊長に誓いを立てさせ。
 こうして、『恋愛フラグへし折り隊』は解散の運びとなったのであった。



 ――『ブラックキャット』のNOBU様ファンになると、きっと良い事がありましたよ――

 さっき会った不思議な易者さんの言葉を思い出していたら、
「……どこ見て歩いてるんだよ」
 すれ違った人に、ぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「すみません、連れがぼけっとしてて」
 尚も絡んでくる男の子との間に割って入りながら、秋人があたしの手を掴んだ。
「(逃げるぞ)」
「(えええ!?)」
 手を引かれて、公園の出口へ走る。びっくりしたのと10年ぶり位に手を繋いだドキドキに、なんだか笑いがこみ上げてきちゃう。
「初々しい恋人同士ね」
「ふふ、青春だね」
 手を繋いで走ってるあたしたちに、日傘を差したカップルが微笑んだ。
「……ねえ、今度は一緒にブラックキャットのライブ行こうか? またデートしよっ」
「は?」
 秋人が顔を赤くして手を離そうとするから、ハート模様の猫さんからもらった勇気を出して、あたしはその手をぎゅっと握る。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
LOVEにはじまりNOBUにおわる……そんな依頼でした、キューピッド役お疲れさまでした!
皆様の活躍のお陰で、はるなと秋人の関係も少しだけ前進したようです。
ルナさんが全員に買ってきてくれたケーキは、とっても美味しかったみたいですよ(も、文字数が)!

シュシェさんのプレイングも非常に良くて迷ったのですが……
MVPは、2号を脅すでも騙すでもなく、協力を仰ぐという発想が意表をついたティエさんに!
今回出てきた場所や人物が、また皆様と接点を持つことがあるかもしれません。

ご参加、誠にありがとうございました!