●とある植物 -Une- 熱帯植物園。 およそ日本ではまるで見られない様な珍しい植物を鑑賞し、観賞する事を目的とした施設である。 熱帯を冠する施設であるから、やはりに熱帯の気候を再現するかのうように、むわりとした湿度と室温が設定されていて、最新鋭ともなれば、24時間、365日、維持され続ける形である。 植物園とて、警備は要る。 植物を狙おうとする輩は少なかろうが、しかし施設であるのだから、それなりの金銭に書類を処理して然る部屋もある。 ――夜。 警備員が一人、熱帯領域に足を踏み入れた。 懐中電灯一本で異常が無いかを確認する。 警備のプロともなれば高層ビルをエレベータも使わずに、暗きビル。最下層から最上部まで歩く事もままあるのだから。植物園の監視は楽な部類である。慣れた作業である。気になるとすれば、湿度と温度が不愉快になる事くらいであろう。 カツカツと、粛々、石畳ともコンクリートの板ともつかない進路方向を歩んでゆく。 別段、今日も異常はない。 ――がさり 異常は無いと胸裏に走らせたと同時に、警備員は葉がこすれる音を聴いた。 風も無いのに。 音のした方向へライトを向ける。次に何の植物であるかのプレートに懐中電灯を照らす。 ヒスイカズラとある。 写真も載っている。別段おかしな所はないように見える。 懐中電灯を上に、下に、照らす。 ここで、下に照らした時、ふと妙な草が生えている事に気がついた。 のこぎりの様な葉が伸して広がって、中央に握りこぶし大の黄色い珠を擁護している。 一見、たんぽぽを巨大にした様な形である。それがびっしりと、ヒスイカズラの周囲に群れている。 しかし黄色い珠は、黄土色の中間ともつかない。しかし不気味だ。人の静脈の様に青黒い筋が所々に走って、四方に切れ込みのようなものが見える。 どこからか種が飛んできたのか、と周囲のプレートを見るが、それらしき植物は見当たらない。 物音はここからしたのか。警備員とて植物のプロではない。オジギソウの様に、しなったり動いたりするものであれば物音の理由は判然する。 立ち入りを禁ずるロープを乗り越えて、群れのうちの一つの黄色い珠に触れる。 触れた刹那に、群生する黄色い珠四方の切れ込みが開かれた。 警備員の手首から先が消える。次に茎がゴムの様に伸びて、黄色い珠は四足獣の様に躍りかかる。 珠の内側にびっしりと生えた牙が、ぐしゃり、にちゃり、咀嚼音を立て、警備員の悲鳴は即座。別の珠に塞がれる。 くぐもった声。咀嚼音。 懐中電灯が、かつりと甲高く、そしてころころ静かに転がった。 ●踏みつけて気の毒な事をしたと呑気に考える。 -Kusamakura- 「E・ビースト、識別名『ウネ』の群れを撃破する」 フォーチュナが用意した映像が終わる。 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)が言うまでもなく。賢明なリベリスタならば、何をすべきかは瞭然と言えた。 「敵は10体。植物らしい蔓による縛り上げと、肉食獣の様な鋭い噛み付きを得意とする。肉を食うんだ」 終わる刹那、警備員とは別の。何かの人影が見えたような気がした。 「閉鎖の手配が間に合わない。急行となる。警備員が一人、これに接触するまでには間に合うだろう。面倒なのは防犯カメラがある事くらいだ。この際、後からもみ消す事もできるから、人命優先で頼む」 神秘の秘匿も可能なら、と付け加え、救えるのならば救い、そして敵を撃破する事が最良な結果といえるだろう。 ブリーフィングルームに集ったリベリスタ達は、早速に思索を巡らせる。 「ただ……、ふむ。エリューションはこれで全てと聞き及んでいるが、女型のエリューションの影が見えたと聞いている。気をつけろ。何かあるぞ」 デス子が映像を巻き戻す。 警備員とは別の。食人植物達の中から、人影の様なものが確かに存在した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月22日(金)01:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夜の植物園 -Tropical Plant- じっとりとした室温が肌を舐める。 むわりとした湿度が、肺臓に満たされる。 硝子張りの向こう側では、多少に冬の残り香を擁護する肌寒さがあるのか、月明かりが硝子ごしに涼しく冴え冴えと照っていた。 春の夜である。 8人のリベリスタは、外気と断絶された空間に侵入して、現場へと急行した。 急行するにも薄暗い。やがて夜目に慣れてくるだろうが、慣れるまでは時間を要する。3つの携帯照明と1つのランプのか細い光が暫くは目であった。 目が捉えたる草木は何れも、日本国内には無い植物ばかりである。 目が捕捉した警備員の影が、ロープを乗り越えんとして、そして光に気づいてこちらに視線を送って来る。 ――即座。 警備員に肉薄するように石畳を駆ける音と共に、『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)より魔眼が放たれる。 ごろりと転がった警備員を引きずって、"かの敵"が密集する所から引き剥がすように後方へと下がる。 光の目は、次に"かの敵"を照らす。 「食人植物……マンイーターってか、さっさと駆除しちまおーぜ!」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)のボーイソプラノが、しんとした温室に初めて発せられた。 静脈の様に青黒い筋が所々に入った黄色とも黄土色ともつかない珠を擁護して、のこぎりの様な葉が四方に伸している。未来視で見たものが、びっしりと。数える珠の数は十。情報通りであった。 色々気になる所はあったが、一先ず後回しにした。他でもない、女型のエリューションである。 ヘキサは、とんとんと、その場でジャンプをして、増す速度。準備は万全である。 仕掛けるのはこちらから。 警備員は小烏が対応している。 ならば、各々戦闘力を高める時間は十分にあった。 「文字通り目も眩むプレゼントだァ! 遠慮すんなって!」 神秘の閃光弾を真っ直ぐに投げつける。 炸裂する強烈な光が、ウネ達に麻痺を伝える。 ――――ッッッッッ!!!!! 植物達より悲鳴が生じた。 「猛、一気に行くぞ!」 『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は、赤き電光を利き手に擁護する。 「焔。こんな相手に手古摺るんじゃねえぜ?」 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が、青い電光を利き手のスパークさせて右足を大きく引く。右肘を大きく引く。 「そんじゃまぁ、今回も派手に暴れさせて貰いますかねえっ!」 猛が大きく引いた右足で石畳を蹴る。 「壱式――」 大きく引いた右手を突き出す際に、青い電光の軌跡が描かれて。 「――迅雷!」 優希の声が後を追う。 蒼き電光の次に、赤い電光が後を追う。 群れた"かの敵"――ウネを蒼と赤が引き裂いた。 引き裂いくと同時に、金切り声ともつかない不協和音が更に大きく植物園に響き渡る。 明暗は表裏の如く、電光の走ったその光に影が走る。 影から闇へ、闇を全身にどろり纏うように『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が、すらりと刀を抜く。しゃっと西洋剣を抜き放って纏った闇を振り払い、群生したウネへと吶喊する。 胸裏には『何故』が駆け巡っていた。 輸入されてきた熱帯植物に何かついていたのか。自然発生したのか。 「それこそ雑草は根を絶たないとね。植物だけに!」 二本の得物が旋風の如く、激しくウネの黄色い珠を切断する。ごぽりと液体が生じて付着するのも気にせずに。 「――が、雑草という草はないらしいけど!」 植物の液が付着した途端、蔓が飛ぶ。 二本の得物を絡める様に、また、竜一の足を絡めとる様に。引きずる。引きずられる。 「やっぱりこうくるか。シェリーたん! 頼む!」 四方に開いた珠が、竜一の腕に喰らいつく。喰らいつかれながら、『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の名を呼ぶ。 「……たん? ――ふむ、人の味を覚える前に始末しなければな」 竜一を避けるように、フレアバーストを詠唱し、ぶつける。 たった今、竜一に食らいついた個体――"以外"が薙ぎ払われる。圧倒的な火力をもったシェリーの攻撃と、猛の攻撃により引き裂かれた被害の蓄積は、初手で残り6個体という戦果を齎す。 「そういう事か……油断ならんぞ。1匹強くなっておる!」 火炎が、ウネだけでなく、ヒイラカズラを巻き込んで炎上する。 きいきい、と悲鳴の様な音を立てて死にゆく植物の中、びきりびきりと脈動する個体があった。 その個体は、たった今、そう竜一に食らいついた個体である。 幻影の様に『スウィートデス』鳳 黎子が飛び出し、踊るように刃を振るった。 竜一を引きずった蔦も悉く引き裂いて、収穫とばかりに鎌が風を斬る。 「肉を食うと強くなる、と。いや――」 黎子に体液が付着する。 付着した体液を攻撃のサインとしているのか。一斉に黄色い珠が鎌首をもたげる。 もたげた様子を見て、カメリア・アルブス(BNE004402)が耳を澄ます。カメリアは世界樹の子『フュリエ』であった。 植物と簡易な疎通を可能とする能力。 こちらの植物達と話すのは初めて。と陽々気分であったが、この植物園の植物から聞こえる"声"は『ウネ』への怖ればかりであった。 そして当の『ウネ』からの意思はただただ。 "成長したい成長したい成長したい成長したい成長したい成長したい" "成長するために喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う!!" 呪詛めいた悪意ばかりである。 倒さなければならない。 肥大化した個体の周囲をフィアキィが踊れば、冷気が生じてウネが凍りつく。 この束の間。鎌首もたげた3つの珠が、竜一と黎子に襲いかかった。 ●フェーズ進行 -Grow Up- 蔓だけに留めた個体が1。肉を喰らった個体が4。 シェリーが全ての個体を観察する。 肉を喰らった個体がみるみる巨大になっていく。 神秘を内包するリベリスタ自身の肉体が、急成長をもたらしたのか。 茎は太く長く。黄色い珠が人の頭部の位置まで成長し、四方に入った切れ込みから涎のように粘着性の液体が塊でぼとりと垂れる。 この光景。 戦闘中に『肉、いやさ神秘を喰ってフェーズを進める種』であることは明瞭と言えた。 この『ウネ』の行く着く先は。これ以上進むとどうなるのか。 ――――ッッッッッ!!!!! 強化された個体の凄まじき金切り声が、植物園の外壁である強化硝子にヒビを入れる。 「ったく、一番災難なのはこいつだな」 小烏が咄嗟に警備員を庇い、膝を着く。脳を揺さぶる程の金切り声に、全身が痺れる。 攻撃範囲が広がった。もっと遠くまで逃さなければならないのに。…… 「気味悪ィ雑草だぜ」 ヘキサが敵を見据える。脈動するウネ4体。もう1体はまだ貧弱に拳程度の珠といった状況。あえて拳ほどの個体は捨て置く。 「オレの『牙』で纏めて刈り取ってやらァ!」 風の刃が吹き荒ぶ。肉薄して切り裂く蹴りが、四方の切れ込みを八つに増やす。 肥大したウネの珠をきいきいと悲鳴を上げる。、鎌首をもたげるように宙を泳ぐ。 付着する体液。集中攻撃のサインは、ヘキサにもマーキングされる形となる。いやさ、先に竜一と黎子が浴びているから、攻撃が分散されるといえば分散されるのであるが。 「極力捕食をさせぬよう、迅速に叩いていく必要がある」 優希の声に猛が頷く。 「けどな、さっさと一匹でも沈めた方が早いぜ」 鎌首をもたげた様に、人間の頭ほどまで成長した黄色い珠を宙を泳がせる個体は弱っている。 「弐式だな」 「そうこなくちゃな、焔ァ!」 肉薄した猛が、もたげた鎌首を両の手で掴み、地面に叩きつける。 ぶじゅりと半分潰れた黄色い珠を、優希が掴み、盛大に引く。 引けばぶちぶちと太い茎から血管の様なものが千切れて液体を撒き散らし、ゴムのようになった茎を千切りながら。 「――鉄山」 優希が肥大化したウネの一体を潰す。残り3と1。 「よし、殺しにかかろう」 竜一がさらっと言う。言うなり、得物を大きく、大きく上段に構えた。 先に食われた肩口から、痛みと血が伝わる感覚が皮膚に走るが、まあいつものことである。 「シェリーたん、どいつ狙えばいい?」 「妾のフレアバーストと、カメリアがエル・フリーズを食わせておるやつが残っておるぞ」 シェリーの声に注意深く見れば、火炎と氷結された個体がいる。こいつにしよう。 「デッドオアアライブ――」 月光を受けて煌めく二本の軌跡が、次に天地を揺るがす斬撃と化して上から下へ振りぬかれる。 「――三枚おろし!!」 汚い体液と、炎に燃えた茎を綺麗に寸断して。 「『残るは2。小さき個体は1』」 シェリーが詠唱するは、魔の四重奏。奏でるように唇から呪文のリズムを刻み、魔力が収縮してゆく。 「『魔曲』」 四色の奔流が、被害の最も少ない肥大化したウネに注がれる。 ぶじゅりぶじゅりと出血するようにあちこちが弾け飛び、踊っていた鎌首が下へダラリと垂れる。 「さて、ジョーカーを引くのは誰になりますかねえ」 黎子が無数のカードをばら撒く。 ばらまいた刹那にカードは風に踊るように舞い上がって、中から一枚の道化が飛び出した。 道化はピラピラと笑いながら刺す。鎌首を垂らした、そのウネを。 肥大化したウネはげろりと中身を吐き出して動かなくなる。1体と1体。 「ここで当てれば!」 再び緑色のフィアキィが踊り、冷気を放出する。 肥大化したウネの周りを踊れば、瞬時に凍りつく。安堵の息をする。これで勝ったかもしれない。 と、胸裏に過ぎった瞬間に、肥大化したウネの氷が砕けた。 最後まで進化しなかった個体の蔓が伸びて、カメリアの足を掴む。 「きゃあ!?」 引きずられる様に小さきウネが眼前。肥大化したウネが眼前。 竜一が庇いに入る。 肥大化したウネの黄色い珠が、竜一の胴の表面を削るように、ばくんと食らいついた。 第二弾階。いやさ ここで、たった今、竜一に食らいついた肥大化ウネが、最終段階を迎えた。 太くなった茎は既に男性の胴回り程に肥大し、黄色の珠は真っ赤に染まる。 珠は四方に開いたまま、中央の空洞より、げろりと。 大量の体液と共に人間の上半身――女型を登場させる。 戦いの空気は一瞬にして静寂に包まれる。 「これは、空想上の生き物を思い出しますね」 黎子の声が温室に、響く。 「あれはなんといいましたっけ……ああそう――」 ●アルラ・ウネ -Alra_une- 「――アルラウネ」 と、黎子は言った。 女型は、植物のようなグリーンの肌に、人の静脈のような青黒い筋が所々に走っている。 頭部には蕾を鎮座させ、べとべととした体液が糸を引き、次に蕾が真っ赤に花開く。 「言い得て妙な。興味深い名だ。ここからが魔導師の戦いというものよ」 シェリーが再び魔術式を描き、呪文をリズミカルに唱える。 途端、無数の蔓が瞬時に伸びた。 「くっ!」 竜一が引き寄せられる。いやさ前衛が。引き寄せられた全員が。 猛と優希の腕に絡む。 「アルラ、ウネか」 「もう一回、フルスロットルしなきゃならんみたいだな!」 「無論!」 猛と優希が交互に頷く。 「引きずられるまでもねえ! こっちから行ってやる!」 「行くぞ」 そしてアルラウネに向けて駆ける。 カメリアは眼前の小玉のウネから引き離されるように、足に蔓が絡まり引き剥がされる。 ぶちぶちと小玉のウネの蔓が引き切れて。フィアキィを呼んで冷気収束を始める。至近距離外すわけがない。直接叩きこむか。 「鎌は収穫の道具。自ら引き寄せるなんて滑稽ですよう。すぐに刈り取ってあげます」 黎子が二つの三日月が如き鎌を月光に輝かせる。引きずられるまでもない、こちらから刈り取りにいく。 「よーし! ここからが本番だってな」 ヘキサが蔓を回避して足を大きく上げる。振り下ろす踵。 が、待ち構えるように、いくつかの黄色い珠がアルラウネの背中より生じている。 速い。 蔓が伸びただけでない、このまま肉を食うつもりだ。 瞬時に近接していた全員の肉を削がれた。 そして、みるみるに活力を得るように。ウネの頃の蓄積したダメージが完全回復する。 「こっからは、本格的に戦い方を考えにゃならんなあ」 警備員担当をしていた小烏が老成したように、冷静に戦局を眺める。 ここまでで、マトモに受けた攻撃は、麻痺の金切り声だけである。 次の一手を瞬時に思索する。ああ、そうだ。 「ブレイクフィアーかね」 大きく削り取られた肉からの出血流血失血が瞬時に止まる。 「……雑草は踏みつけられても、何度でも起き上がるらしいがこいつはちっと無理だろ?」 猛は口角に垂れた血を拭い、悠然とアルラウネの頭の花を掴んだ。掴んだ次に盛大に地面に叩きつける。 地面叩きつけた後で、もう一撃。優希がアルラウネの花を掴み、地面に叩きつける。 「結城、そろそろ借りを返したい頃だろう? その大火力を叩き付けてやれ」 「興味津々だけどもね! がまんするよ!」 竜一は、既に得物を振り上げていた。 天地を揺さぶるデッドオアアライブが、女型の両腕を引き裂く。 引き裂いた途端、ウネと同質のベトベトした体液と共にじゅるりと腕が生えてくる。生命力が高い。高い上に肉を食って最大限に回復してくる。デッドオアアライブは正解だろう。致命がある。そう安々と回復される訳にはいかない。 「『縛れればそれでよし。ソニックエッジを――』」 「ああ、任せな! 走って、跳んで、蹴ッ飛ばす!」 シェリーの声に、ヘキサが宙返りして、アルラウネの胴を削ぎ返す。衝撃が齎すは麻痺。 続きシェリーは四色の魔を放出して、アルラウネを焼く。 魔とは機知の戦い。封じてしまえば良い。動きを止めてしまえば良い。魔の植物。魔であるならば、魔でもって葬る。 「致命、氷結、頼むぜ!」 「そのつもりですよう」 「はい! 怖がってる植物達の為にも、がんばるよ」 小烏の声に応じる様に、黎子がカードを散らす。カメリアのフィアキィが踊る。 氷結が施され、ぞぎりとジョーカーのカードがアルラウネの額に突き刺さる。 リベリスタ達の一斉攻撃。 通れ。 通らなければ、また肉削ぎ攻撃が生ずる。大きく回復される。 アルラウネが動く。 顔を大きく上に、喉を反らす。 ――――ッッッッッ!!!!! 金切り声、いやさ歌が飛んだ。 キンキンに響き渡る呪歌がリベリスタ達の身体の自由を奪う。 様々なバッドステータスは、一瞬で無に帰したのか。 肉を喰らう攻撃が来なかった事は僥倖であったのか。 しかしこの響き渡る呪歌により、最大火力が減る。次に吸収が来れば、また"ふりだし"だ。 小烏のブレイクフィアーで即座に自由を取り戻す。 「距離を取るしか無い。一気呵成に駆逐してくれる!」 「悪いが、そう簡単にさせる訳にゃいかねえなぁ……! 派手に散りな!」 引き撃ち。と言うべきか。近づいてはいけない事。 優希と猛の機転が働かせる。 地が鳴る。弐式鉄山による――叩きつけて一撃離脱する攻撃。 蔦が来てもいい。蔦と喰う攻撃が二連続で放たれるタイミングはそうはあるまい。 天が鳴る。 「ああ、もう! 想像以上にめんどうなやつだな!!」 竜一は傷口の痛みも構わずにデッドオアアライブを放つ。とことん腕を切断する。一寸でも回復が止まれば僥倖なのだ。 「『止まれ!』」 最大火力であるシェリーの呪文の奔流が四重苦を強いて焼く。 「りゃあああああああああっっ!!!!」 止まらんでも、ヘキサの踵がアルラウネの前面を深くそぎ落として、動きを止める。 カメリアのフィアキィが何度も踊り、この呪歌草を凍りつかせる。 続き黎子のジョーカーを引いたのは、ウネであった。 丁度いい。雑魚を残して成長させるのも面倒だ。小玉はあっけなく沈黙する。 「『後は、アルラウネ一体』」 氷をピキりと砕き、再び動き出すアルラウネ。 「キリがねえ」 小烏が式符を放る。 符は無数の鴉となって、アルラウネに密集し、喰らうように全身を啄む。 無数の鴉が、不吉を占う。占った不吉は、思わぬ効果を発揮する。 アルラウネの蔦が飛び出して、再び引きつけ攻撃が放たれる。 ここで引き寄せられて或いは最悪また連続した肉削ぎがくるか。くるかと思われた蔦は、運良くいやさ"運"悪く。 引き寄せられた者は皆無という結果を齎す。 「よし、殺しにかかろう」 竜一の言葉に、皆が頷く。 ここでぶつけなければ。放たれるリベリスタの一斉攻撃が、次々アルラウネの生命力を砕いていく。 「喰い千切れッ! ウサギの牙ァ!!」 そして決着の時。 大きく横薙いだ蹴りが、アルラウネの首を飛ばす。 蹴りが頭を飛ばしたのか。風が頭を飛ばしたのか。その境界が曖昧になるほどの大きく横薙いだ蹴りが。 アルラウネの頭は転がって、悲鳴が。悲鳴が。悲鳴が盛大に響き渡り。 「『人ではなくゴミでも喰ろうてくれれば良いものを』」 シェリーの今宵最後の四重奏に、草の悲鳴が春に哭く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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