●夜空鉄道 機関車という存在は小さな頃からの憧れだった。 家の近くには、かつて実際に鉄道を走っていたという蒸気機関車が飾られていた公園がある。 鉄道が特別好きだったわけではないけれど、今はもう撤去されてしまったあの機関車だけは特別だった。苛められた日や悲しいことがあった日は必ず公園に寄って、黒鉄色の機体の影で泣いていた。 もしかしたら、機関車が何処か別の世界に連れて行ってくれるかもしれない。 いつか読んだ物語のように、銀河を走る鉄道に乗って何処までも遠くへ――。そんな空想を描いて僕は悲しみを紛らわせてきた。 だからあの機関車は憧れであり、拠り所でもあったのだ。 もちろん、現実と物語が違う事はよく知っていた。 けれど今夜は違った。兄さんが死んだという悲しみに耐え切れず、僕はいつものように夜の公園に足を運んだ。機関車はないけれど殆ど癖のようなものだった。 其処で僕は見たのだ。 公園にある機関車と似た姿をしたそれが、動くはずの無いそれが夜空を飛んでいる姿を。 (――ああ、きっと兄さんのところに連れて行ってくれるんだ) 何故だかそう感じた僕は迷いなく踏み出す。 こんな悲しい事ばかりの世界を抜け出せるなら。兄さんにまた逢えるなら、戸惑いなんてなかった。 ●鐡の幻影 「銀河を走る汽車。物語めいていて悪くないね」 『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は手にしていた文庫本を机に置くと、今回の仕事について話し始めた。敵はエリューション化した思念体、E・フォース。しかもその姿はよくある人型の幽霊などではなく、蒸気機関車の形をしていた。 「だけど、それは物語のような世界に連れて行ってくれるようなものじゃない。……ううん、或る意味では連れて行くのかな。――死の世界に、ね」 しかも運悪く、E・フォースが具現化した夜に一人の少年がそれに出遭ってしまう。 個人的な感情があって汽車に近付いてしまった彼は、襲われて命を落とす。死んだ兄の所へ連れてくれるという考えも間違いではないのかもしれない。だが、ひとつの命が奪われることが分かっていて、見過ごすわけにはいかないのだ。 「今から向かえば少年が公園に来る少し前に敵と接触できる。とはいっても猶予はあまりないから、どう頑張っても途中で少年が公園に訪れてしまうけれど……君達ならどうにか、守ることも出来るよね?」 少しの心配も抱いてはいない様子で、タスクは問う。 勿論、質問の返答は最初から求めていない。言葉にはしないが少年はリベリスタ達に確かな信頼を向けているようだった。そして、タスクは仲間を見送る。 「あの幻影はこの世に存在してはいけないモノだ。頼んだよ、皆」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月21日(木)10:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●星空を走る汽車 亡くなった人に会える機関車だなんて、まるで銀河鉄道の物語のよう。 真夜中の公園にて夜空を見上げた『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)は胸中で独り言ちる。あの物語では、機関車に乗った主人公は友達と思い出を作って帰って来れたと記憶していた。 だが、頭上を舞うかの機体は何処にも連れて行ってはくれないし、家に帰しても貰えない。 「……来たみたいね」 祥子達が公園に居ることを察知したのか、宙を走っていたE・フォースが公園へと舞い降りてきた。その巨体を見据え、『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)は無邪気めいた笑みを湛えた。 「でっかいの倒すの、ボク好きだな」 それが辿り着く終着駅は彼岸。それはそれで楽しいかもしれないと考えた沙羅は大鎌を指先で撫ぜ、尤もボクはお断りだけど、と胸中で付け加える。『緋剣姫』衣通姫・霧音(BNE004298)も、まるで戦闘態勢を整えるかのような様子の列車を見遣り、ぽつりと零した。 「冥府に連れて行く列車、ね。尤も本当に連れて行く訳じゃなくて、単に殺すだけなのでしょうけど」 結果的には同じことなのかと霧音が呟き、意志を持つ影を具現化させる。その最中、『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は身構え、聖なる力を仲間全体に施す。 「死んだ先に何があるのかは知らんがね、死の路線には誘い込ませんよ」 神の声による加護が広がりを見せる中、機関車も魔法的な蒸気を噴き出して威嚇の如き動きを見せる。『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)も半透明で幻想的にも映る鐡汽車を見遣り、己の思いを零す。 「夜空を行く汽車だなんてロマンチックだね。ただの汽車なら是非乗ってみたかったよ」 「ええ、本当ですわね。けれど暴走は美しくありませんわ。ここで止めて差し上げますの」 『粉砕者』有栖川 氷花(BNE004287)も頷き、鉄の車体へと斧を向けた。次の瞬間、鐡汽車が進行方向に向かって突撃を見舞おうと動いた。それより一瞬先んじて瑞樹が車輪を絡め取るようにして気糸を放って対応する。突進する敵を真正面から捉え、氷花は車体を抑えきるべく地面を踏み締めた。 激しい衝撃が彼女を襲い、土煙が上がる。 怯まず祥子が動き、氷花の癒しを担う為に天使の歌を紡いだ。後方で己の集中領域を高めていた『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)は敵の勢いに驚いてしまったが、ぐっと堪えて両手を握る。 「これがヘーベル達のお仕事だもん。機関車を止めるよー!」 幼い声で紡がれた気合いを耳にし、巴 とよ(BNE004221)も公園の入口付近で戦場を見つめた。周囲に複数の魔方陣を展開させた彼女が気にするのは、この後に訪れるという少年のこと。結界を張り巡らせてあるとはいえ、心配は尽きない。 「不安になっていても駄目ですね、鐡汽車を止めることの方が大事です」 思いを言葉にしたとよは指先で魔陣を書き終えると、しかと口許を引き結んで決意を露わにした。 ●少年と機関車 汽笛を鳴らし、暴走する鐡汽車はリベリスタ達を襲い続ける。 沙羅は耳を劈く音に眉を顰め、身体に走る痛みに耐えた。街灯を反射して鈍く光るそれに狙いを定め、彼は地面を蹴り上げる。 「なんの亡霊か知らないけど、人身事故は嫌われるって仮にも電車なら知ってんでしょ?」 動く車体に振り飛ばされそうにもなるが、そのまま敵に駆け上った沙羅はその体力を奪い取った。これに轢かれたら相当な衝撃を受けるだろう。そう予想しながらも、彼は例え撥ねられたとしても己は折れないと静かに闘争を燃やす。 「そっち向いたよ。ほら、気を付けて!」 車体が自分以外の方向を向こうと動き出す様を察知し、沙羅は仲間に呼びかけた。その声を聞いた瑞樹とヘーベルが身構える中、氷花はふたたび機関車の正面を目指して駆ける。 「抜かりはありませんわ!」 雷気を紡ぎ、自ら放電した彼女は真っ直ぐに斧を振り上げ、電撃を纏う一撃をくらわせた。その合間にシビリズが光輝の力で己の身体を覆い、堅牢な守りを固める。彼は時折振り向き、公園の外を確かめた。 「未だ少年は訪れてはいないようだな。しかし、自ら死に近付こうとするのは感心出来ん」 私の様なロクデナシでも無いのに、と零したシビリズは細心の注意を払って周囲を見遣る。彼の一言を聞き付けた霧音も敵と相対すべく、巨体へと肉薄した。 「ま、死後の世界で一緒になれるなんて迷信よ。ともかく、見過ごすのは寝覚めが悪いもの」 この機関車も、少年も――。 破壊のオーラを纏った霧音は刀を振り被り、雪崩の如き斬撃を繰り出す。斬り裂いたE・フォースの車体は霞のように散り、まるで削れたかのような傷が増えていく。その様子を見た祥子はこれが本物だったらもっと凄いのだろうと想像しつつ、敵の反撃に備えた。 刹那、鐡汽車が猛烈な突撃を行う。 通常の機関車では有り得ない動きを見せ、前に出ていた者を巻き込みながら突進する敵は氷花や沙羅を圧倒させた。すかさず祥子が掌をかざし、邪気を寄せ付けぬ神光を解き放つ。 「思いきり行って。大丈夫よ、どんなときだって支えてみせるわ」 祥子の言葉と共に淡い彩が仲間を包み込んだ。 そのとき、とよは背後に何者かの気配を感じてはたと振り返る。其処には未来視で訪れることが分かっていた少年の姿があり、信じられないものを見るような瞳で公園の光景を見つめていた。 「あれは……機関車?」 繰り広げられる戦いよりも、少年は撤去されたはずの汽車と似た姿をしたそれに釘付けだった。彼は今にも戦場に踏み出してしまいそうな危うさを持っている。とよは即座に仲間に呼び掛け、少年の到来を報せた。其処にへーベルが踏み出し、少年の手を取った。 「いっちゃダメ。お兄ちゃんはあの列車に乗れないよ。危ないから離れてよ。ね?」 きっと轢かれちゃうから、とへーベルは彼を車体に近付けまいと引っ張る。だが、少年はぼんやりとしたままリベリスタと鐡汽車の様子を見ていた。 「轢かれても良い。あれはきっと僕を迎えに来たんだから」 その瞬間、けたたましい汽笛が辺りに響き渡る。びくりと身体を震わせた少年だったが、へーベルの手を振り払って公園に歩み出そうとした。すぐにとよが背を向けながら少年の行く手を遮り、黒魔の大鎌を生成して機関車を切り裂く。 「貴方が行く所はそっちじゃないです、お兄さんのところへは行けません」 「そっちにいっちゃだーめー!」 とよがしっかりと告げ、へーベルも縋り付いて少年の動きを止める。どうして兄さんの事を知っているのかと少年が驚くが、予知で聞いた故に彼の気持ちも大まかな事情も知っていた。戸惑いを見せる少年を止めながらも、少女達は懸命な声を掛け続ける。 一方、瑞樹は背後の様子を気に掛けつつ、果敢にブロックに動いていた。 「やっぱり真正面からっていうのは大迫力で怖いね。でも、後ろには行かせないよ!」 少年達を守る為に動く瑞樹は竦みそうになる足を叱咤し、破滅を予告するカードを生み出す。ひらりと宙を舞った魔札は機関車に不吉を与え、僅かに相手の車体を揺らがせた。 ●死と生 魔力の蒸気が撒き散らされ、視界を塞ぐ。 しかし、リベリスタ達も果敢に立ち向かった。少年を守り、何としてでも機関車を通さぬというリベリスタ達の気概は確かな力となって戦場に巡る。シビリズの施した加護により、戦線は未だ崩されていない。少年もとよ達が相手をしている故に、急に飛び出してくるような危険もないだろう。 「少年よ、死に迷いが無いか」 比較的、少年と距離の近いシビリズはラグナロクを掛け直し、不意に問い掛けてみる。ヘーベルが見守る中、少年がはっきりと答えた。 「兄さんのところにいけるなら、何だって良い!」 シビリズはそれを聞き、彼は“死に至る過程”を創造していないのだと悟った。死は過ぎてしまえば無になる。機関車に轢かれ、肉を寸断され、骨を砕かれるのが経過だ。そのような死への過程を受け入れる覚悟があるのとシビリズが問い直すと、少年は怯えた瞳を向けた。 その合間にも鐡汽車はリベリスタ達へと突進してくる。 突撃した機関車の攻撃を受け止め、沙羅は後方の少年に意識を向けた。 「まぁ、たまには救ってやるのも悪くないよね」 自分より強い奴は嫌いだけど、弱い奴は嫌いじゃない。倒れそうなる身体を自ら支え、沙羅は己の運命を引き寄せた。巨体が此方を押し潰そうと力を増し、踏み締めた地面ごと沙羅を激しく押す。衝撃と更なる重圧を受けて尚、彼は笑っていた。 「勘違いしないでよ、鐡のキミ。相手はあくまでもボク達だからね!」 掲げた大鎌に全身の力を集中させ、光球を生み出した少年はひといきに敵を一閃した。渾身の一撃は巨体を押し返し、後方に吹き飛ばす。 そこへとよの呪刻の鎌が舞い、ヘーベルが意識を同調する事で自身の力を分け与えた。祥子も体力を消耗した沙羅を支援しようと詠唱を紡ぎ、少年に呼び掛けようと口を開く。 「あれに乗って会いに行っても、お兄さんは喜ばないと思うわ」 「本当に行けるなら私達は――少なくとも私は止めません。辛くて逃げ出したい気持ちなら、どこへ行くのも構わないとも思います。だけど他の場所にして下さい」 あの汽車だけには乗せるわけにはいかない、と同時にとよも言葉を重ねて思いを告げた。 祥子による清らかなる福音が響き、仲間の傷を見る間に癒してゆく。氷花も優しい歌を聴き、まだ負けられないと斧を握る手に力を込めた。敵は更に距離を詰めようと動いてくるが、彼女が解き放った戦斧の一閃がふたたび巨体を押し戻す。 「お兄様を亡くされた悲しみは辛いもの。でも、どうか逃げないで」 氷花が少年に向けた言葉に続き、霧音も思いを口にしながら巨体を斬り放った。 「貴方はこれに乗って、何処へ逝くつもりなのかしら?」 「……僕は」 少年は口篭り、俯く。死んだ兄に会いに行く心算でも、死者には会えない。それが自然の摂理というもの。少年はきっと悲しい事ばかりの世界が辛くて、逃げ出したいだけなのだと霧音は悟る。 逃げたいならそれでも良い。だが、それで良いのだろうか。 悲しみによる行為は更なる誰かに悲しみを齎す。その連鎖を此処で繋げるべきではない、と彼女達は語った。鐡汽車が汽笛を鳴らす最中もシビリズが少年を庇い、被害が及ばぬように動く。 瑞樹も気糸で敵を縛り付け、終には片側の車輪を壊すまでに至った。 「今生の別れって辛いよね。でもさ、それで世界に対して悲観を抱いて死んじゃって、お兄さんにまた会った時……僕の人生は悲しい事しかなかったんだよ、って報告するの?」 ――ねぇ、考えてみて。 瑞樹がそう疑問を投げ掛けた後、ヘーベルも再び少年の手を強く握って思いの丈を告げた。 「今は幸せじゃないかもしれないけど、そこだってきっと幸せじゃないよ。身体ばらばらになって幸せってなんかへんだもん! お兄ちゃんに会いにいくつもりなら尚更だよ!」 ぷんすかと少女らしい怒りを見せたヘーベルは少年の眼を真っ直ぐに見つめる。 交差する視線と視線。怯えと迷いと戸惑い。少年はただ、鐡汽車を見遣り――悲しげに首を振った。 ●星空の下 戦いは巡り、やがて鐡の車体にも傷が目立つようになってきた。 あともう一押しだと感じた霧音は銘無之刀を斬り返し、破壊の力を全力で叩き込む。 「巨体だろうと関係無いわ。ただ、斬るだけよ」 空気を裂く刃音が鳴り、弱った車体の前方部を両断する。それでも未だ鐡汽車は唸りをあげ、あろうことか少年が居る方向へと突撃しようと迫った。霧音が咄嗟に危機を報せ、シビリズも少年を庇う為に身を挺する。彼として本音を言えば積極的に前に出る事が出来ないことは残念だったが、今ある目の前の命を護る事に不満は無かった。 「さぁ、最後まで防ぎ続けようではないか!」 その身で以って衝撃を肩代わりしたシビリズは倒れる間際まで堪え、倒れまいと運命を消費する。 手痛い一手ではあったが、敵も既にかなりの力を消費しているのだ。祥子はもう少しだと仲間に呼び掛け、最後の最後まで回復を担い続けた。氷花と沙羅も自然と眼差しを交し合うと、最後になるであろう一撃を見舞う為にそれぞれ機関車の左右から回り込む。 「私の誇りに懸けて! ここで止めますわ!」 斧を思いきり振り被り、全身の力を振り絞った氷花が高く跳躍する。それと同時に沙羅も雷気を己の身に纏わせ、実に楽しげな笑みを浮かべた。 「覚悟しておきなよ、今からバラバラに壊してあげるからさ!」 左右両方からの電撃斬が鐡汽車を襲う。そして、完全に形を無くすほどに破壊されたそれはすべての力を失った。崩れ落ちる幻影はゆっくりと霧散し、最初から何もなかったかのように消え去った。 リベリスタ達は戦いの終わりを感じ、その場を見つめる。 後方で一部始終を見ていた少年も何処か呆然として、何も無い空間を暫し眺めていた。 「機関車が……消えた……」 その呟きを聞いて祥子が振り返り、瑞樹が少年へと歩み寄る。 「世界は悲しい事や辛い事で溢れてるけどさ、楽しい事だって一杯あるよ」 静かに語りかけた言葉は優しく、宥めるように紡がれる。お兄さんが体験できなかったことをを貴方が体験して、いつか寿命を迎えた時、僕の人生はこんなにも素敵だったんだ、と。胸を張って報告できる方が素敵だから。瑞樹の言葉に少年が複雑な表情を浮かべると、霧音も声を掛ける。 「逃げちゃ駄目。悲しみに沈んじゃ駄目。前を向きなさい」 告げたことは厳しいかもしれない、けれど、生きる事を諦めた少年を兄が見たらどう思うだろうか。 「どうしても死にたいなら、そうね。私の刀の錆にしてあげる」 「ねぇ君、望むならボクもその首を落としてあげるよ。でも、死んだ所で兄に会える保障は無いけどね」 沙羅も少年を覗き込み、悪戯っぽく笑む。 すると顔を上げた少年は首を横にぶんぶんと振って答えた。 「ううん、死にたくない。死のうなんて思っちゃいけなかったんだ……!」 「あはは、残念。でも仮にボクが兄なら、君に自分の分まで生きて欲しいけどな。そう思わない?」 死ぬということは全てを捨てること。 ボクはこの面白すぎる世界を捨てることなんてしたくない、と話す沙羅も、頑張って生きなさいと告げた霧音も、どうやら最初から少年の答えを予想していたようだった。 とよも返答に満足そうに目を細め、少年と目線を合わせる。 「辛いことから抜け出せたらきっと、きっと楽しいことが待ってますよ」 「そうです、貴方がお兄様を思うようにお兄様だって貴方の事を大切に思っていたはず。きっと私達がこの場に間に合ったのは、きっとお兄様のご加護によるものですわ」 氷花も微笑みを向け、少年にお兄様の分まで生きて欲しいと願った。少年が潤んだ瞳でリベリスタ達を見渡すと、シビリズは目を閉じて薄く笑むと、その頭をくしゃくしゃと撫でてやる。 「痛みを忘れたなら過去を振り返れ。己の心が、体が痛んだ時の事を。それが生の証だ」 ヘーベルも何かを伝えたいと感じ、両手を広げて主張してみた。 「そうそう、もうちょっと探してみよう? 何探したらいいのかわからないけど! なんか、こう!」 うまく言葉が出てこないと悔しがるヘーベルだったが、その懸命さは確かに少年に届いている。目尻の涙を拭いた彼はぎこちなくもおかしそうに笑い、ただ一言「ありがとう」と口にした。 祥子も昔を思い出し、そっと告げる。 「大切な人が死んでしまうのは悲しいけど、あなたがその人の事を忘れないで。時々楽しかった事とか思い出してあげれば、あなたの心の中にずっといきつづけるのよ……って、あたしも昔言われたわ」 その時は悲しすぎて少しも心に響かなかったけれど、最近になって分かるようになった。 祥子は少し恥ずかしそうに、それでいて大切な言葉を噛み締めるように少年へと微笑みを向ける。瑞樹もまた、先程までの少年の危うさがなくなっていることに安堵を覚えて笑顔を見せた。 「もう一度、顔を上げてみたらそこがスタート。頑張れ、男の子!」 「今はお兄さんの事をたくさん思い出して、たくさん泣けばいいと思う。そのうち涙が出てこなくなるから」 ね、と祥子が少年の肩を叩く。 優しさと思いやりに満ちたその言葉に、少年の瞳から再び涙が幾粒も零れ落ちた。それでも、彼は笑っていた。泣き笑いのくしゃくしゃの顔で、しっかりと。 星が瞬く夜空の下。今宵、夜空を駆ける幻影の脅威は去り――そして、ひとつの命が護られた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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